●歪められた地で
「予感が的中した、ということでございましょうか」
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)がモザイクの壁を前に独りごちた。何かに引き寄せられるように、ギヨチネはこの地を訪れたのだ。
山奥にひっそりと佇む、地図にもない寺院だった。俗世間から離れ、修行に励むための寺なのだろう。
今、山中の聖域は奇妙なモザイクで隠され、外部から中を窺うことさえできそうにない。
「ここまで来て引き下がるわけにも参りませんな」
意を決して、ギヨチネがモザイクの中に足を踏み入れた。
途端、目の前の景色が歪んだ。同時に、纏わりつくような粘性の液体が空間を満たしていることを感覚し、ギヨチネが眉根を寄せる。
境内と思われるそこは、見る影もない有様だった。
堂宇は傾いて宙を浮かび、バラバラになった石畳が頭上を浮遊している。鳥居や木々も半ば以上、地面に埋まり、見当違いのところから突き出していた。
「……!」
ギヨチネが目を見張ったのはそのためだけではない。
歪曲した二本の角を持つ悪鬼羅刹さながらの巨漢が、ギヨチネの前に立ち現れていたのだ。獣皮にも見える布を腰に巻き、そこから伸びる猛禽類さながらの足は緑に覆われている。隆々とした厚い胸板が上下する度、口から煙にも似た呼気が揺らめく。
「此ノ空間ヲ発見スルトハ……貴様、此の姿ニ因縁ノ有ル者カ」
猛獣の唸りにも似た低い声が重々しく辺りに木霊する。巨漢が拳に力を込めると、肩と腕を覆う植物と鎖が震えた。
「……何者かは存じませぬが、暴かれて不都合な何かが此処にあると。そういうことでございますな」
ギヨチネが言って身構える。
巨漢が額に皺を寄せて低く唸り、重い声を響かせた。
「今、此ノワイルドスペースノ秘密ヲ漏ラス訳ニハ行カヌ。貴様ニハ此処デ死ンデ貰ワネバナラヌ」
圧倒的な威圧感を纏って、異相の巨漢がギヨチネに襲いかかった。
●イントロダクション
「ワイルドハントの調査をしていたギヨチネ・コルベーユさんが危機に陥っています。皆さんの力が必要です」
真剣な面持ちで、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、集まったケルベロス達に言った。
「ギヨチネさんを襲撃したドリームイーターは、自らをワイルドハントと名乗りました。山奥の寺院をモザイクで覆い、何らかの作戦を行っていたらしいのです」
その気配を感じたギヨチネが、モザイクで覆われた土地を発見。調査中に、ワイルドハントに遭遇したのだ。
「このままではギヨチネさんが危険です。急ぎ救援に向かい、ワイルドハントを撃破して下さい」
幸い、救援はまだ間に合う。
セリカは手帳に軽く目を向け、説明を続ける。
「今回の戦場となるモザイクの内部は、山奥の寺院と思われる特殊な空間です。奇妙に歪められている模様ですが、戦闘の邪魔になるものはありません」
境内と思われるその戦場は、纏わりつくような粘性の液体に満たされ、頭上にはバラバラになった石畳が浮遊し、鳥居は地面に埋まり、木々も斜めになって土から突き出しているといった有様だ。とは言え、ケルベロス達にとってみれば戦いの邪魔になるものではない。
「ワイルドハントは、鋼のような肉体と、それに相応しい力を持っているようです。接近して拳による打撃を加えてくる他、身に纏う植物を伸ばして毒とダメージを与えたり、手にした鎖を飛ばして広範囲を斬撃し毒を付与するといった攻撃を仕掛けてくると思われます」
説明を終えると、セリカはメモ帳を閉じて、
「事は一刻を要します。ギヨチネさんを救出するためにも、どうぞ宜しくお願いします」
言葉に力を込め、ケルベロス達に一礼した。
参加者 | |
---|---|
花道・リリ(合成の誤謬・e00200) |
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772) |
オペレッタ・アルマ(オイド・e01617) |
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
菅火野・藤隆(無音・e16808) |
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015) |
ゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246) |
●結集
「神よ……何故、私を斯様な姿に……」
ワイルドハントの豪腕が、惑うギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)を捉える。大楯と小楯を組み込んだガントレットが悲鳴にも似た軋みを挙げた。
「我ガ姿ニ恐怖スルカ。恐レ慄キナガラ貴様ハ此処デ死ヌガイイ」
腹の底にまで響く、その声、その姿は紛い物に過ぎない。
頭では理解している。しかし心は千々に乱れて苦悶の声を挙げていた。
――神域を荒らす斯様に禍々しい姿が、私の姿であるはずがない。
哄笑するワイルドハントが再び拳に力を込める。
絶望的な思いで身構えた、その時だ。
「陽は時が過ぎれば沈み、再び新しき心を持って空へと昇る……これより語るは、とある星の勇者達の物語!」
勇壮な叙事詩を詠うゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)の声に合わせて、歪んだ空間に色とりどりの星が踊り始めた。
背後に気配。
感じると共に、体が押しのけられる。
瞬間、目の前で激しい衝突が起こった。
楯越しに見た光景にギヨチネが刮目する。
「また派手なコスプレ野郎が出たものだな」
鉄拳そのものと呼べる一撃を、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)のパイルバンカーが止めていた。
「呆けた面をするなよ。驚くのはまだ早い」
言った瞬間、飛来する幾つもの光弾と竜砲弾がワイルドハントに着弾する。
「コイツぁヤバそうだ。ギヨチネをキレさせるとこうなるのかね」
振り向いた先には、砲撃形態のドラゴニックハンマーを構えて軽口を叩くハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)と、バスターライフルの銃口を敵に向けたオペレッタ・アルマ(オイド・e01617)の姿。
彼は最初からそうだった――オペレッタは『覚えて』いる。
共に戦場で踊った秋の日。巌のようなその背中を。
「『これ』は、おやくにたちます。……そして」
オペレッタが、疾駆する花道・リリ(合成の誤謬・e00200)を見送る。
(「取り敢えず無事のようね」)
リリがギヨチネを横目で確認すると、更に地を蹴り、エアシューズの力で加速。
不意を突かれたワイルドハントを足先で蹴りつけた。
やっぱりやり難い――呟きながらルースの隣に着地するリリ。
「此奴も屈強そうだな」
背に翼を広げ、蒼き炎にも似た闘気を纏いながら、伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)が鷹揚な口振りで歩いてくる。
歌を口ずさみながら、菅火野・藤隆(無音・e16808)も淡々と敵前に立った。
「流行ってるみたいスね、この悪趣味なやつ」
桃色の濃霧がいつの間にかギヨチネの傷を覆い、癒やしている。
「ま、僕は助けに来た、というわけじゃないし。敵は容赦なくやるけど」
「何はともあれ無事でよかった。これ以上、ワイルドハントの好きにはさせないよ!」
三対の純白の翼をきらめかせて、ゲリンが懐古の念を抱きながら言った。手にした槍と共に、橙水晶の瞳を敵に向ける。
「此ノ『ワイルドスペース』ニ侵入スルトハ……貴様ラハ一体」
「なに、私も先日、似たようなものに遭遇したものでな」
信倖が天銘――石突に蒼の宝玉を飾った、片鎌の長槍を回転させる。
「同じなのは姿のみ。記憶までも連動していなかったのは幸いと言えよう」
そしてぴたりと敵に穂先を向け、言った。
「つまり手加減無用! 推して参る!」
●奮戦
「貴様ラ如キニ此ノ私ヲ倒スコトハ叶ワヌ」
手首に巻いた鎖を力任せに振り回すワイルドハント。
暴風めいたその攻撃に、防ぎに回ったケルベロス達が容易く弾き飛ばされる。
「とんでもねぇ威力だな。前にいないのが残念でならないぜ」
ハンナがドラゴニックハンマーを構えて砲撃を続け、ゲリンが長剣を手に駆け回る。
「どれだけデカくたって怖気づくもんか!」
剣の切っ先で地面に刻まれた守護星座が輝き、毒気さえ飛ばす癒やしの力を放つ。
「援護が最重要と判断。『実行』します」
オペレッタの装甲から光り輝く粒子が溢れ出し、攻め掛かるケルベロス達を包み込んだ。
「コピーは必ず下位互換となるものだ。身を以って思い知るがいい」
「口上はいいからテキパキ動きなさいよ」
リリが言いながらも突貫するルースに合わせて挟撃の形を取っている。斧を振り被るルースを視認するまでもなく、リリが同時に重力を宿した蹴りを繰り出した。回転運動からの痛烈な斧の一撃がワイルドハントに裂傷を刻む。
ぐらつきながらも腕と肩を覆う植物を一斉に解き放つワイルドハント。
引き付けた藤隆が攻性植物を広げて直撃を避けながら、槍の穂先を思わせる葉に切り裂かれる。血と毒にも平然とした顔で黄金の果実を光らせ、前衛を援護。
「何とか優勢に持っていかないと」
ゲリンが回復の手順を組み立てながら藤隆に自らのオーラを送った。
ワイルドハントが放つ攻撃の威力はやはり凄まじく、加えて。
「ほう……巨体に似合わず素早いものだな」
鋭い突きをかわされて信倖が思わず感嘆の言葉を口にする。
(「足を止めないと厄介ね。ボルドの攻撃だって当てなきゃ意味ないし」)
斧で豪腕を弾くルースを支援するように、リリがロッドを振るってオーラの弾丸を放ち、ハンナがワイルドハントの胴に蹴りを叩き込んだ。
「いいガタイしてやがる。効いてんのか分かりゃしねぇ」
舌打ちしてハンナが離脱。信倖が槍を捻って猛然と突きかかる。
「我等ケルベロスの姿を利用して何を企んでいる?」
「知リタケレバ我ヲ倒シテ見セヨ」
愚問だったか――笑った信倖が飛来する葉に貫かれたが、槍の切っ先もまたワイルドハントに喰い込んでいた。
「思いのほかバケモンだなこりゃあ」
ハンナが手の中でナイフを回転させ、間合いを測る。
「『人形劇(マリオネッタ)』を『はじめ』ます」
オペレッタがかたりと左手を掲げて0と1の数列を生成。巨体を縛り、対生体用ハッキングによって『苦痛』を増幅する。
その隙に飛び上がったギヨチネが急降下蹴りを浴びせたが、迷いのある攻撃など効かぬとばかりにワイルドハントが口元を歪めた。
肩と腕の葉が刃となって放たれ、ギヨチネの筋肉の鎧を刺し貫く。
「無理をしちゃ駄目だ!」
自身の気力を分け与えるようにオーラを飛ばして傷を癒やしにかかるゲリン。
「ギヨチネさん、平気?」
口ずさみ、桃色の濃霧を向けた藤隆が訊くが、膝をついたギヨチネは血を滴らせながら荒く息を吐いて応えない。
「……止めなければ……この者は……私がこの手で……」
その声に、オペレッタが小さく頭を振った。
我が身を顧みず味方を守る。それがオペレッタの知る『彼』の戦闘スタイルだ。
しかし今日は違う。まるで敵を打ち倒すことに縛られているようで――。
思考が一瞬の停滞を来したのか、それとも敵が速かったのか。
豪腕が迫り、白い機械の体が拳の直撃を受けて装甲を散らし、宙を舞った。
墜落。
藤隆がゲリンと共に急ぎヒールを掛ける。
重い拳の一撃を代わりに受けて、さしもの信倖も口から血を吐いてよろめいた。
「やめろ……」
ギヨチネが鮮血を滴らせるほどに拳を握りしめる。
「私の姿で……我が仲間を傷付けないでくれ!」
「いいえ……あれはギヨチネでは……ないです」
叫び、傷を吹き飛ばして突っ込もうとした足が、よろよろと立ち上がるオペレッタの声に止まった。
「邪を祓い、其の身清めよ……護剣『祓神ノ風』」
槍を舞うように振るい、毒気を祓って信倖が諭すような目を向ける。
「敵の戯言に耳を貸すな、ギヨチネ殿」
「そう、君は君だ。たとえ暴力の化身が秘められていたとしても!」
その罪さえ肯定する癒やしの力でゲリンが前衛を包み込む。
「我ハ全テヲ破壊スル暴威ソノモノ也。タダ壊シ奪イ取ルノミ」
ルースが振り抜いた凍気を纏うパイルを、ワイルドハントが掴み、止める。
「ハッ。演じるならもう少し上手くやるのだな、紛い物」
轟音が爆ぜ、杭が巨体を貫いた。
ルースが敵の肩越しに視線を向ける。
「そう……惑うこともない話だったわね」
雷を纏わせた二振りのロッドを、リリが敵の背に全力で振り下ろした。
●超克
悪鬼羅刹の如きワイルドハント。その猛攻にも怯まずケルベロス達が戦い続ける。
ギヨチネがガントレットを構え、血に濡れた自身の掌に目を向けた。
(「暴力の権化とも呼べる姿。……それは確かに、我が心の内に在るのでしょう」)
動揺を覚えたのは、否定することができなかったからだ。
それでも――ギヨチネは戦場を共にするケルベロス達を改めて見据える。
「倒れさせはしないよ。皆で帰るんだ!」
ゲリンが勇壮な叙事詩を高らかに歌い上げ、舞い踊る光がケルベロス達の力を励起した。ルースがワイルドハントの連打をルーンアックスで弾き、ハンナが解体ナイフを閃かせて斬撃を重ねる。リリが宙を浮遊する石畳を足場に跳び、足に重力を宿して急速降下。
(「はっきり偽者と認識できたし……思いっきり蹴り飛ばしてやる」)
最早、足先ではない。渾身の蹴りを叩き込まれ、ワイルドハントが叫ぶ。
飛ばされた鋭利な葉を、身構えた藤隆が切り裂かれながらも防ぎ切った。
「大したことないよ。こんなもの」
藤隆が詠うように口ずさみ、自身の傷を濃霧で包む。そして表情を崩さずに言った。
「……ギヨチネさん、もっと強いから」
「敵も相当な痛手を負っていると見た。ここが攻め時だ」
信倖が槍を捻って目にも留まらぬ速度で刺突を繰り返す。貫かれながら叫び、両腕を振るって暴れ狂うワイルドハント。
「ようやく効いてきやがったな」
薙ぎ払う拳をハンナがスウェーで避け、解体ナイフを閃かせて滅多斬りに傷を拡げた。
「ホレ、お膳立ては十分だろ。お得意の力押しで片付けてくれや」
発破をかけるハンナ。
「……許サン……此ノ手デ一人残ラズ捻リ潰シテクレル!」
ワイルドハントが怒声を挙げ、豪腕を振り被る。
「貴方は慥かに強大だが、貴方にはないものが私にはある」
――たとえ己が身に悪鬼が宿っていようとも。
ギヨチネがガントレットを振り抜き、拳にぶち当てる。
――共に戦う仲間の存在が、湧き上がる恐れさえ打ち払う。
もう片方の拳を見舞ってワイルドハントをのけぞらせた。
「この世の何より優しい夢を」
水音が歪んだ神域を包み込む。
降り注ぐ霊雨が美しい水精の形を取り、たじろいだワイルドハントに縋りついて悲鳴を挙げさせる。
「聞こえるか。オヤスミの時間だ、偽物」
ルースが湧き上がらせた呪詛の念が、ワイルドハントの悲鳴を途切れさせた。甘やかな溺死を誘うように内側から巨躯を侵食する。抗うワイルドハントが口から泡を吹きながらも豪腕を振るって暴れ狂う。
「急速な機能低下を確認。追撃を推奨します」
「ああ、折角だ。あたしにも少しは楽しませてくれよ」
間合いを詰めたハンナが拳に力を込め、鍛え抜かれた重い連打を叩き込む。
大口径の銃弾にでも撃ち抜かれた、否、それ以上の衝撃を受けて無様なダンスでも踊るように後ずさるワイルドハント。
「ごっこ遊びはもうお仕舞いよ。まだ殴り足りないけど」
リリがロッドを両手に駆け、ルースが容赦なく斧を振り被った。
「オリジナルに刃を向けたコピーの末路を痴れ」
斬撃に電撃が重なる。
「さあ――」
オペレッタが両手を広げ、戦場を舞台に軽やかなステップを踏む。
ふわりと舞い上がる光は白く、白く。
はらはら降り注ぐ花は、まるでジャスミンのよう。
「――どうぞ『踊り』を」
オペレッタは『覚えて』いる。
優雅に一礼して促す言葉は、庇われたあの日、貰ったコトノハそのままで。
「頼もしき仲間たち、これこそが神の恵みであろう」
ガントレットを構えたギヨチネが自身と共にワイルドハントを結界に封印。
死刑台(ガローテ)の名の通り、死の瞬間を再現する幻覚がワイルドハントを死の淵に叩き落とす。虚像ではなく、本物の死の実感を伴って。
断末魔の声を挙げて消滅するワイルドハント。
満身から血を流しながら歪められた空を仰ぎ、ギヨチネが祈るように目を閉じた。
「感謝を――神と、かけがえのない仲間へ」
●帰還
景色が歪んで塗り替えられたかと思うと、辺りは閑寂とした寺院に戻っていた。
まるで夢から覚めたようだと、ぱちぱち瞬くオペレッタ。
「ギヨチネは……よし、生きてるな」
満足そうに頷き、一服でもするかと懐を探るハンナ。
「『これ』は、帰還を推奨します」
「帰りましょう。何かできることもないだろうし」
「長居は無用か。回復が済んだらさっさと行くぞ」
気味の悪い空間からようやく解放された、そんなリリの心境を察してルースも同意した。
手がかりもないのでは、どのみち大した収穫も得られそうにない。
「無事に救け出せて良かった……本当に」
ゲリンが言いながらヒールをかけてギヨチネの傷を癒やし、懐旧談を語る。
「いや思った以上に屈強だったな」
信倖がカラカラと笑って、ギヨチネを横目で見た。
藤隆も周囲を眺めながら鼻歌交じりに回復を手伝っていた。
「皆様の助けがなければどうなっていたことか……心より感謝を申し上げまする」
「まあ、世話になってるんで」
そっけなく応じて、藤隆がまた視線を辺りに投げる。そしてぽつりと続けた。
「負けるとは思ってなかったし」
ふと唐突に、お腹に手を当てながらリリが咳払いをした。
「ほら、誰かを助ける為にたくさん動いたからお腹が空いてしまったわ」
言いながらギヨチネにチラッチラッと目を配るリリ。
「持ち合わせはあるのか」
ルースが敢えて訊いてみる。確認するまでもないのだが、敢えて。
「財布? 持ってきてない」
案の定、さらっと言ってのけた。
その言葉が意味することは明白で、ギヨチネが微笑する。
「何かご馳走を致しましょうか。ファミレスでしたら、喜んで」
ファミレスと聞くと、オペレッタがことりと首を傾げ、思考を巡らせた。
「……オムライスも、ありますか?」
信倖が愉快そうな笑いを挟む。
「え? ファミレス? ギヨチネくんがごちそうしてくれるの? 楽しみだー!」
コーヒーやチョコケーキを思い浮かべてゲリンが目を輝かせた。
「折角だ、今日は一緒に行こうかね」
ハンナが言い、ルースが堂宇に背を向けて歩き出す。
「決まりだな。さっさと慰労に行くぞ呑んだくれ共」
「呑んだれくれっつーのにあたしは入っていないと思いたいが……」
ルースの言葉に眉根を寄せるハンナ。
わいわいと言い合いながら山奥の寺院を後にする。
少し後ろを歩いてその様子を眺めるギヨチネに、信倖が言葉を向けた。
「己と向き合ったということだな、ギヨチネ殿」
大変な戦いだったが、だからこそ気付けたことがある。
頷いたギヨチネが、我が身の幸運に浸りながら言った。
「何処へなりとも参りましょう、我が友、我が同胞達よ」
作者:飛角龍馬 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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