秋桜は甘く薫る

作者:菖蒲


 甘い香りを持つその花は、その薫りの通り甘い菓子の名を冠していた。
 秋風に混ざり込んだ柔らかなチョコレイトの香。キャラメル色の花弁を風に揺らすその花を見つめていた少年は「きれい」と声を弾ませた。
 移ろう季節の中で、少年がその花を見つけたのは学校の裏山を探検している最中だった。
 甘い香りに誘われて――まるで、食虫花に誘われる蜜蜂の様に――少年がその場所に辿り着いたのは彼にとっての偶然だった。手にした自由帳には様々な草花のスケッチが描き込まれている。
「きれいだなあ」
 確かめる様に言った少年の背に降ったのはこの場所に居るはずのない少女のソプラノボイス。
「とってもきれいなお花さんなんですよー」
 にへらと笑った少女の背には深緑の翼。三つ編みを風に揺らし、緑色の如雨露を手にした様子は『普通の人間』の様子とは違っているかのようだった。
「だ、だれ」
「姫ちゃんです」
 その笑顔は警戒心さえも解き解してしまうかのようなもので――少年はじり、と後退する。「えへへ」と笑ったその儘に、何かを振りかけた少女と少年の視線が克ち合う。
「ほら、立派な攻性植物になりましたー♪」
 巨大化したチョコレイトコスモスに少年の肢体は飲み込まれていく。残された彼女――鬼胡桃の姫ちゃんは何処か楽し気にステップを踏んだ。


 ある人気のない裏山に人型の攻性植物が現れたのだとイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は告げた。
「最近動きを観測されている人型の攻性植物でしょう。植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばら撒き、その場にいた一般人を宿主としてしまうそうです」
 イマジネイターは冷静に状況を分析した。
 攻性植物――チョコレイトコスモスが存在する裏山は滅多な事では人は訪れないのだそうだ。宿主となった少年はそれ故に残されている自然を観察するべく自由帳を手に野山を駆け上がった……そういう話だ。
 避難誘導の必要性や、必要以上に周囲に気を配る必要が無いと言葉を続けイマジネイターはケルベロスへと向き直った。
「攻性植物は1体のみ。チョコレイトコスモスです。その名前の通り甘い香りがする……そうです」
 想像はつかないと肩を竦めるイマジネイター。陽のいろの瞳を細め首を傾げた彼女は手袋で包まれた指先で資料を捲り「不思議な花ですね」と呟いた。
「この花を見ていた少年が攻性植物と一体化してしまっています。
 救う方法は――……攻性植物にヒールをかけながら戦う事、です。勿論、ヒールをかけながら戦う事で戦闘時間は長くなります。工夫が必要だと思われます」
 イマジネイターはそこまでつづけ、攻性植物に取り込まれた人間を救出する難しさを思い浮かべる。
「私は」
 イマジネイターは言う。
 戦闘中に敵にヒールをかけ、長引く戦闘の中で少年を救う事を是としてくれるならば。
「救って欲しいと思っています」
 少年を救うためにはしっかりと作戦を練る必要がある。長引く戦闘をどのように戦いきるか――その工夫も大切だとイマジネイターは告げた。
「攻性植物に寄生されてしまった人間を救うのは、難しいと思います。けれど、皆さんならば」
 大丈夫だと思う、とイマジネイターはゆっくりと目を伏せた。


参加者
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
伊吹・紫杏(オドラタス・e07001)
ラズリア・クレイン(天穹のラケシス・e19050)
楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)
クラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)

■リプレイ


 木々の彩は遷り往く。爽やかな秋風に乗って鼻先を擽るチョコレイトの薫りは蝶々が花々を求める様に――蠱惑的な気配を感じさせた。柔らかな土を踏み締め、夏の瑞々しさを少し忘れつつある草木をちらりと見遣った黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)は猫の様に目を細めて、小さく息を吐き出した。穏やかな秋の色をその瞳に乗せ、感情のいろを見せぬカルナは帽子の鍔に指先触れた。
「んん」
 眩暈にも似た感覚を感じヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)は小さな咳ばらいを一つ。その傍らで擦り寄る様に主人を見上げたアネリーは主人と同じ悪魔の尻尾を思わせる尾をゆらりと揺らしていた。
「凄いチョコレイトの匂い。クラクラしちゃう」
「ふふ、まるでバレンタインディのようだ。チョコレイトコスモスという花も興味があるが……」
 優しく金木犀の香を纏いながら、伊吹・紫杏(オドラタス・e07001)は細剣を抜いた。チョコレイトの彩にも似た相棒竜は警戒するようにその身を低くする。
「可愛い花を愛でるにもこれ程までに大きくなっては愛でようもないというもの。B級映画かっつーの」
 毒吐き、周囲の警戒を怠らず見遣った白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)は可憐な花の見せた残虐性に柘榴の瞳を細める。くらりと脳の中まで混ぜ返してしまいそうな甘味の香――キャラメル色の花びらは秋風で僅かに煽られてる。グロテスクだとも感じる攻性植物と相対し、ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)はヒュウと息を吐いた。
「これはこれは、結構なお手前で」
 冗談めかして告げたダレンは、この地に野花の観察に訪れた少年を見遣って「好奇心は猫をも殺す、ってか?」と僅かに汗ばんだ肌を拭った。
 夏と秋の狭間に、この場所に咲いたチョコレイトコスモスは甘い香りをさせながら少年を誘ったのだろう。ブルーサファイアの瞳を細め、ラズリア・クレイン(天穹のラケシス・e19050)はふわりと香った甘い風を肺の奥深くまで吸い込んで見せた。
「ただ、花を愛でるだけで終わればどれだけよかったか」
「うつくしい花には棘がある。俗説ではそう謂うが、」
 つめたい指先は汗を掻くことなく。クラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)は番犬の矜持を示す様に攻性植物へと向き直った。
「ただのかれんな植物に人のいのちを食わせるのはあまりにも惜しい」
「花はうつくしく在らねばなりません。それでは、あまりにも」
 幻想郷には相応しくない。不安げに柔らかな緑の瞳を細めた楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)は謳う様に告げた。純白のチュール布が風で揺れる。
「秋桜……昔はよく、手にした花です」
 嗚呼、でもその姿は今の貴方とは似ても似つかないけれど――……。


 甘い香りに誘われた蝶々の如く、前線へと飛び込んだラズリアは蒼の軌跡を残して鎌を振るう。星々の煌めきを閉じ込めた蒼星は淡いキャラメル色と混ざり合う。
「その薫り……散らせましょうか」
 風を切り裂くが如く、穏やかな少女は凛と背を伸ばす。ヒールの踵が柔らかな土を抉る感覚を覚え、地面を緩く踏みしめた。
「ふふ、良いかおり。でも、本物はもっと良いかおりなんだからね……!」
 転がっていた自由帳と鉛筆を拾い上げ、秋桜の放つ一撃をその身を挺して受け止めたのはヴィヴィアン。アネリーは続く二撃目を受け止めて主人の意図を組んだように顔を上げた。
 花の中、寄生という言葉を使えばどれ程に惨い事か。少年の身を案じるヴィヴィアンは彼の自由帳や鉛筆も護らねばと草の影へと品々を退避させる。
 花のいのちは少年とひとつ。傷付ければくぐもった呻きが聞こえ佐楡葉は表情を曇らせる。
「植物の治療というのもピンと来ませんが……とりあえず、切開ならばチェーンソーでいいですよね」
 荒療治も荒療治。澄ました佐楡葉はふん、と鼻を鳴らす。捻くれ少女は己を護るが為に茨を纏う――綺麗な花には棘がある、その言葉をその身そのもので表す彼女はチョコレイトコスモスを一瞥し「遊び相手にはまあ、十分か」と呟いた。
「可憐な花は立派な遊び相手だぜ。少年がささやかな探検も楽しめねー……なんて世の中になっちまったらケルベロスの名折れだよな」
 頑張る理由は二つある。喉を鳴らしくつくつと笑ったダンテの澄んだ蒼は楽し気な色を燈した。纏う香はチョコレイトコスモスとはまた違う、柑橘のそれがふわりと薫る。
「待ってろよ、翔ねん。サクっと助けてやるから安心してな」
「その命、返して頂きましょう」
 双眸は只、直向きに。秋桜を見遣ったカルナは黒髪揺らし、踊る様に黒猫の幻影とステップ踏んだ。
(「元機会の身とは対極な、自然の花々の愛らしさには憧れがあって――嗚呼それが、私と逆の存在に歪められるなんて」)
 唇に浮かべたのは不満。揺らぐ瞳は美しい花の惨たらしい変化を映す。
 嗚呼、花とはこんなにも醜くなれるのか――ネモフィラの花を揺らしたノーレはその花を見て首傾げる。
「ノーレ」
 呼び声に、少女は嗤う様に一撃を。カルナの表情をちらりと見やりクラレットは目を伏せる。
「いきるかたちを捻じ曲げて他を取り込んでしか生きていけないとなれば」
「どうして、生きていけるでしょう」
 それは恋に魘された女の様に。ここのかは踊るように癒しを贈る。嗚呼、あれは到底、美しいとは呼べないけれど。
「昔よく花占いに使ったものです」
「花占い」
「恋の行方を占うのです――私が求める結果はいつも『好き』でした」
 ぱちり、と瞬くカルナにここのかは小さく笑う。
 それ以外の答えなんかいらなかった。だって、『好き』じゃないなんて知ったなら、このいのち、捨ててしまうかもしれないから。
「恋占い。素敵な話だ。ボクもそれは楽しいと思うよ。……かわいいしね」
 可愛いものが好きだと笑った紫杏は珈琲の色を持つ相棒を呼び、ゾディアックソードを握りなおす。
 その一撃を追い掛けるように、ヴェールを揺らしてラズリアは小さく笑った。
「すてきなお話をたくさん聞かせて差し上げますよ。怖いのはもうおしまいにしましょうか」


 くるり、くるり。ここのかは舞う。決して桜には出会えない秋桜――どれだけ恋焦がれても秋に残すちいさないのち。けれど少年は違う。
「甘い香りに酔いしれて、恋に落ちてしまいそう。けれど、占いは残酷でした、ね」
 ひらりと掌から花弁がおちる。好きと嫌いで足りなかった一枚を悲しむ様にバールを振り上げたテレビウムが応戦した。
(「私の幻想が、彼の未来を照らしますように――」)
 作り物の幻想でも、誰かの力になれる様に。トゥシューズの爪先が僅かに土を蹴る。くるり、ひらひら、踊る妖精は花の蜜に焦がれる様に癒しの音色を奏でる。
「私と一緒に踊りましょう?」
 ――幻想郷の七色の輝く森を。
 そのリズムに楽し気に日本刀を手にしたダレンが一気に肉薄する。一手、溢れる気を少年へと分け与え後退した彼の背後より紫杏の一撃が躍動する。
(「女子回唯一の男の出番。これでテンション上がんないって嘘だろ?」)
 攻勢に転じ、「さァ!」と声を上げたダレンが甘い香りの阻害を振り払う。絡まる蔦や蔓を切り裂いてゆく。
「面白いじゃないか」
 獅子座を模したゾディアックソードを振り上げて紫杏の口元には小さく笑み浮かぶ。
 ブーツの爪先に力を込めて、『妹分を心配するような』カルネロの視線に小さく笑う。
「花が此方を阻害して永らえる気なら、僕らが頑張る理由になる」
 退屈なんて彼女には似合わない。獅子座は掌で踊っている。
 海が好きだ、星空が好きだ、綺麗なものが好きだ、可愛いものが好きだ――だから、醜い花の姿は耐えられぬ。
 紫杏の一撃に花が僅かに怯みを見せる。ちら、と視線をやってラズリアは星矢を放たせた。
「始原の楽園を崩壊させし蒼光の弓矢よ」
 彼女の祈りは流星の如く。少年の怯えを映した瞳と克ち合えば、柔らかな笑みを小さく乗せて。
 凛として、只、悠然と。星は彼女の周囲に廻る。『おざなり』な癒しを向けて佐楡葉の荒療治は見るも無残な『Bloody Mess(ぐっちゃぐちゃ)』な大惨事。
「言った通り、B級映画な出来栄えです」
 薫る花の姿に視線を向けて佐楡葉が片を小さく竦める。花に寄生されて、その花が無残な姿を見せるというならばそれこそ出来の悪い『B級映画』だ。
 ノーレが前線でスカートを翻す。その仕草が助手として付く彼女の合図なのだと気づきクラレットは「少年」と花のなかにある彼を呼んだ。
「眠るには寒い季節なのだから。こんなところで眠っては風邪をひく。
 ――『彼女』は少しわがままなんだ。ほら、ノーレ。『彼女』のお相手をしよう」
 チョコレイトコスモスはきっと美しい花なのだ。その姿を歪められて、どうして生きてられようか。
「だから、ここで仕舞にしよう」
 冷めた眼差しは只、刹那げに細められる。いのちを摘み取る感覚は医師たる彼女には慣れないもので――ただ、その姿は『彼女』にとっても酷過ぎる。
「ああ。すまんがその子は、ここに置いて行っておくれね」
 柔らかに告げられたクラレットの声音。最後の反撃の如くいのちを散らすことを拒むが如く秋桜は揺れ動いた。
 一つ、口づける様に、『ぐん』と近づいて。靭やかに地面を蹴ったヴィヴィアンはその可憐な声音を震わせる。
「ねえ、こっちを見て」
 アネリーが攻撃を受け止める。嗚呼、花は美しい、けれどそんなに大きくなったら怖いでしょ?
 ヴィヴィアンの唇は小さく笑った。虹色の光に包まれるように、美しい音色が周囲に鳴り響く。
「さあ一緒に行こう、手と手を取って――」
「その誘いに心も踊るってもんだ! そろそろ仕上げだぜ? ちょっとばかり目ェ瞑っておきな!」
 地面を踏み締める。絡みつく蔦がそれを止めるというならば、それさえ全て切り取ってしまえばいい。
 秋風が頬を刺す、ちりりとした僅かな痛み。その感覚さえもダレンには高揚感の様に感じられた。
 靭やかに走りより、攻性植物の終わりが近いことに気づいた佐楡葉は遊びの時間が終わる事に唇を尖らせる。
「――See you later」
 最大出力の魔法弾。至近距離で見たキャラメル色の鮮やかさがその両眼に焼き付いた。
 嗚呼、その火力を受けたなら、きっとひとなら一溜りもないだろう。薔薇の海で死すかの如く、鮮やかな赤に埋まりゆく。
 その様子から目を伏せて、カルナは黒猫の幻影と共に影で遊んだ。
 シャ・ノワールは悪戯っ子。息を潜めてそろりと近寄って。
「おいで――」
 誘う声音は只、閑かに。
 叶うならその香りを心より楽しみたかった。けれど、魔性に生じたならば摘み取るのみだとカルナは目を伏せる。
「おやすみなさい」
 眠るなら、きっと暖かなところがいい。秋風は膚を指すから。
 白い露草がふわりと揺れる。母譲りの巫術と共に、ラズリアは翼を揺らした。
「怖い思いをさせてしまって申し訳ありません」
「怖い思い、そうだね。今すぐに出してあげる」
 ラズリアの言葉に紫杏は小さく頷いた。地面を蹴り、集中攻勢に転じた彼女の頬を蔓が叩く。
 ぴ、と傷付いた其れを気にせずに彼女は獅子座を振り上げる。どちらかと言えばインドア派である彼女はケルベロスたる矜持を胸に任務をこなす。
 紫苑の髪が風に揺れる。金木犀の香に鼻先を擽られラズリアは「ああ、花の薫だ」と茫と考えた。
「甘い香りは嫌いじゃなかったよ」
「ええ、ええ、甘い(おいしい)ものは大好きですから……残念です」
 煌めき星を映した瞳に悲し気な色を乗せたラズリアは己のブラックホールな『別腹』の事を考えて小さく息を吐く。
「ですが、だからといって見過ごすわけにはいかないのです」
 もう、花はおわりが近いのだろう。段々と、あの濃いチョコレイトの香が掠れてゆく。
 凪いだ双眸が緩やかに花を見遣る。
 凍て付くゆびさきは、魔法の絃を括る。芽ざし、そして摘む事さえも厭わない。
「摘みとるのはいつだって、心痛むものなのだな」
 独り言ちてクラレットは目を伏せる。チョコレイトコスモスの花びらはもはや傷付き原形をとどめない。
 キャラメル色の花びらの下、俯く少年の『悪い夢』を醒ます様に冷たい指先は花へと振れた。
「冷たい夜に、鮮やかな花、輝く星空の下で妖精は口遊む」
 氷の気配に僅かに笑んでここのかは口遊む。甘い甘い、香りの終わりは何時だってあっけない。
 前線に飛び込んだヴィヴィアンの声が彼女を躍らせた。くるり、ひらひら、くるり。
 ――それは誰かのために。
 だから、彼は笑うのだ。
「な? 助けるつったろ?」


 少年を救出するに至った事で、一安心したと一息ついた紫杏は傍らで「大丈夫だといったろ」と云う様に自慢げな雰囲気のカルネロの頬をぷにりと突く。
「はい。これ」
 叢に隠しておいた自由帳と鉛筆を少年に差し出したヴィヴィアンは「お花、好きなんだね」と柔らかに微笑んだ。
「あ――」
 何が起こったのか。くらくらと甘い香りに翻弄される少年は茫とした儘、自由帳を抱きしめる。
「安心しろよ。怖いモノも疫病神ももう退散したさ」
 くしゃりと少年の頭を撫でてダレンは小さく笑う。子供の扱いに長けているのか、それとも子供と同じ目線に立てるからなのかは分からないが彼は不安げな少年に寄り添うように声かけた。
「ほら、立ってみろよ」
「う、うう」
 何処か不安げに、両方の足に力を入れて、それでもふらつく少年の様子を「見せて呉れ」と声かけたクラレットはじぃ、と瞬く。
「私は名医ではないが、医者は医者なのでね」
 安心してくれ給え、と。告げるクラレットの背後にノーレは静かに控える。その様子を見て、小さく息を飲んだのはカルナ。機械仕掛けの人形は何処か、その様子が不思議で仕方がなかった。
「どう?」
「嗚呼、大丈夫。なんにも心配はいらないよ」
 じいと見つめたカルナは「そう」と呟き、花が咲いて居た筈の場所に触れる。土の感覚が指先に伝わって、彼女は一つだけ瞬いた。
「ふふ。よく頑張りましたね。今度こそ、素敵なお花を見ましょうか?」
 誘うラズリアの声を聴き紫杏と佐楡葉は花を探そうと歩み出す。どこか、薫るチョコレイトはきっと彼女らを誘うだろう。
「あ、そうでした」
 ほら、とここのかが差し出したのは甘い甘いミルクチョコレイト。キャラメル色の花とは対照的な色でありながら同じ香りをさせるそれを「ひみつ」と差し出して。
「いきましょうか。本当の花を見に」
 包み紙に隠された――其処に薫ったのは甘いチョコレイト。

作者:菖蒲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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