燎原の炎の如く

作者:澤見夜行

●紅霞の遭遇
 山道を下り、夕日差し込む木々の迷路の中にそれはあった。
 京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)がそこに辿り着いたのは偶然――否、必然めいた予感によるものだ。
「やはり、予感は正しかったようですね」
 先の一件以来、同様の事件がないか調査していた夕雨は辿り着いたそれ――モザイクに包まれた森――を前に一つ深呼吸をし心気を落ち着かせた。
「何にしても、調査してみないとなりませんね」
 覚悟を決め、その粘性の液体で満たされたようなモザイクの空間へと足を踏み入れる。
 絡みつく感覚は、相変わらず不快だ。
「あの時と同じ……変わりませんね」
 無秩序で不整合な周囲の風景。木々と空がバラバラに混ぜ合わされた奇怪な場。
 目が眩むような光景の中を、慎重に進む。
 何か手がかりはないものかと探す中、不意に気配を感じ振り返る。
「……現れましたね」
「へぇ、このワイルドスペースを見つけられるたぁ、まさかとは思うがこの姿に因縁があるって奴か?」
 粗雑な物言いのソレは夕雨と同じ姿をしていた。
 清閑な夕雨とは対象的に、荒々しい業火を身に纏うソレは、獲物を見つけたように目をギラつかせた。
「どちらにしても、今ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかねぇからな。お前にはワイルドハントであるワタシの手で死んで貰うぜ!」
「勝手なことを――!」
 襲いかかる業火の化身。
 予想された展開を前に、夕雨は冷静に武器を構え迎え撃った――。


 集まった番犬達を前にクーリャ・リリルノア(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0262)が、事態の説明を始めた。
「ワイルドハントについて調査していた夕雨さんが、調査中に遭遇したドリームイーターの襲撃を受けたようなのです」
 モニターに山間に広がる森が映し出される。
「最近頻発している事件と同様で、ワイルドハントを名乗るドリームイーターが、モザイクで覆った場所で何らかの作戦を行っていたようなのです。
 このままだと、夕雨さんの命が危険なのです。皆さんには急いで救援に向かってもらい夕雨さんの救出と、ワイルドハントを名乗るドリームイーターの撃破を行って欲しいのです!」
 クーリャは手元の資料を読み進めながら詳細情報を伝えてくる。
「戦闘が行われるのはモザイクに包まれた森の中です。特殊な空間になりますが、戦闘に支障はないのです」
 続けてクーリャは敵の戦闘能力について説明をする。
 敵は夕雨と同じ姿をしていること。
 炎を纏った剣で攻撃してくる他、炎を飛ばし生命力を奪う攻撃、また炎から使い魔のようなものを生み出し毒を撒き散らす攻撃をしてくるようだ。
 自己回復を行いながら状態異常をばらまく強敵です、とクーリャが言う。
 そうして説明を終えると、クーリャは資料を置き番犬達へと向き直る。
「ヘリオライダーの予知でも予知できなかった事件を、夕雨さんが調査で発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれないです。
 それに敵はワイルドの力を調査されることを恐れているのかも……?
 とにかく、無事に夕雨さんを救い出すために、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 一礼したクーリャは両の掌に願いを込め、番犬達を送り出すのだった。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)
上野・零(地の獄に沈む・e05125)
真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)

■リプレイ

●心配事
 ヘリオンより飛び出た番犬達は眼下に広がるモザイクの森を見据える。
 あの中で京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)が一人戦っている。
 急ぎ救出に向かいたいと思う気持ちは皆同じだった。
 モザイクの空間へとダイブし着地すると駆けだした。
 モザイクの空間を進みながら、キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)は思索する。
(「ちょっと見られただけで殺すってのは随分殺伐とした照れ屋だな」)
 少しはこの不明な空間の本性と共に本当の自分を見せて貰いたい物だ、とキルロイは考えていた。
「何にしても、京極ちゃんを助け出さないとね」
 顔見知りも多く、心強い信頼できる仲間もいる。
 なんとしても夕雨を助けだそうとイブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)は意気込んだ。
「京極さんはどのような方でしょうか?」
 イブと一緒ということで、些か緊張気味の真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)が訊ねた。
 夕雨と面識のある面々はそれぞれ特徴を口にし、確認するように梔子が頷いていく。
「なるほど……間違って攻撃しない様にしませんと、救出が使命ですから。ただ、姿が一緒ですとどう見分ければいいのでしょうか」
 匂いでも嗅げとでも? と梔子が口にするとその姿を想像したのか、仲間達に笑みが漏れる。
「まあ、同じ美人でも敵は目がつり上がって燃えてるし、味方は穏やかな目で涼しげだし……見た目の区別はつきやすいやな」
 八代・社(ヴァンガード・e00037)が言うと、なるほど、と皆が納得する。
「いつも顔を見合わせて見覚えがあるなら、普段通りの京極を。見覚えがない者は落ち着いていて物静かそうな、燃えてない方が京極だと思えば大丈夫だろう」
 サーヴァントのえだまめもいるしな、と付け加える。
 頷く上野・零(地の獄に沈む・e05125)は夕雨とこなした依頼のことを思い出す。
 あの時も、ワイルドハントを名乗る夢喰いが現れたものだった。
 夕雨の様相を思い出しながら、守るべき対象を間違えないよう零は心構えた。
「夕雨さん、えだまめさん……どうかご無事でいてください」
 呟くように祈るのはレカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)だ。
 夕雨に尊敬の念すら抱くレカは、夕雨を失うわけにはいかないという強い気持ちが溢れていた。
 耳を澄まし、戦闘音を確実に捉える。
 レカは指をさし「向こうです!」と仲間達に告げた。
 レカの声に走る速度をあげるのはユージン・イークル(煌めく流星・e00277)だ。
「ユウちゃん、あと具体的には一分くらいでつくよっ☆」
 夕雨に届くかどうかは問題ではないのだろう。
 夕雨を救出するという強い想いが声に乗り森に木霊した。
 救出を試みる番犬達が、装飾美術めいた森の中を駆けていく――。

●番犬の群れ
 荒く吐き出される息を大きく吸い込み力を入れる。
「くっ――!」
 何撃目となるか。その夢喰いの重い一撃が身体を強く打ち付ける。
 サーヴァントのえだまめと共にはじき飛ばされ、木々をへし折りながら地面へと倒れるのは夕雨だ。
「ハハッ! どうしたぁ、そんなもんかあ!?」
「……まったく、私と同じ見目のくせして、私一人では到底敵いそうにないのが癪ですね」
 続く追打ちを転がりながら回避し、勢いままに立ち上がると更なる追撃を紙一重で躱す。
 頬を焼く業火の熱さを感じながら、折れぬ意思を瞳に宿し敵を見据えた。
「覚悟は決まったか? どの道お前一人じゃ勝ち目なんて無かったな」
「確かに……私のような番犬一人では一匹狼であるアナタには勝ち目はないでしょうね」
 地獄の番犬であろうと単一ではデウスエクスに抗うのは難しい。
 しかし、番犬は群れでの行動を良しとする。
 共に戦う仲間とお互いを守るという意思。力を十全に発揮するにはその強い想いが必要不可欠だ。
 夕雨の顔に笑みが浮かぶ。
 視線で追わなくても分かる。きっと来ると信じていたのだ。
「……一人では敵いません。けれど、一匹狼と番犬の群れ。一体どっちが強いんでしょうね?」
 夕雨の言葉を夢喰いが理解するよりも早く――モザイク森の中から夕雨を救出するために馳せ参じた番犬達が到着した。
「……お待たせ」「待たせたね」「間に合いました……!」
 仲間達の声に夕雨は自身の気力が充実するのを感じる。
「――さて、覚悟は決まりましたか?」
 番犬達の鋭い眼光が、夢喰いへと注がれた――。

●燎原の炎の如く
「もうご安心ください、私達がついております!」
 夕雨の傷を手当てしながら、レカが胸を叩く。
 ヒールを受けながらも、その視線は夢喰いへと向かう夕雨。
 その視線を追っていたレカが言った。
「夕雨さんの面影が、確かに見受けられますね」
「そう、ですか……?」
 その答えに笑みで返すレカ。
 それは彼女を降りかかる業火から守りきるという自信に満ちあふれ、躊躇い一つないものだった。
「休ませねぇぞ!」
 傷を癒やす夕雨を狙って夢喰いが飛びかかる。
 だが襲いかかる夢喰いの射線を遮り、その身で夢喰いの炎獄を受け止めるのはユージンだ。
「麗しのゴッデスを傷つけさせたりなんてしないさ、例え同じくらいホットビューティーなキミであってもね……」
 夕雨とえだまめの体力が十分に回復するその間、なんとしても守りきるという強い意志が迸る。
「――割り込み失礼します」
 ユージンと同じく夕雨を守るように射線へと入り込んだ梔子が、夢喰いに殴りかかる。
 強く殴りつけたその拳から霊力が網状に放出され、蜘蛛糸を操る様に夢喰いを亀甲に縛り上げる。
「こんなもんで止められるたぁ考えるんじゃねぇぞ!」
 夢喰いがその業火を纏うように身体に侍らせる。
 瞬間、はじけるように梔子へと飛び込み反撃する。
「……――残念だったね、私だよ」
 梔子を咄嗟に庇うのは零だ。夢喰いの炎をその身体で受け止める。
 返礼するように零によって生み出された炎の塊が、夢喰いを覆い尽くすように襲いかかった。
「さぁ、よく凍え、よく燃えちまいな」
 キルロイはそのポジションを活かし的確に状態異常を与えていく。
 放たれた氷結の螺旋が夢喰いを捉え凍えさせると、一気に接近して炎纏う激しい蹴りを放つ。
 業火を上塗りするような激しい炎が夢喰いを襲う。
「チッ――群れた途端に調子付きやがって――!」
 吐き捨てるように言う夢喰い。
 その姿を見るキルロイは不敵に笑いながら言葉を溢す。
「粗暴にすぎるな、京極嬢」
「私ではないと言いたいですが、そうもいきませんね」
 頬を膨らませ抗議の声をあげたい夕雨だったが、否定もできず苦しい声をあげた。
 夢喰いの業火がその姿を変える。
 えだまめによく似た炎纏う使い魔が戦場を駆け瘴気をばらまいた。
 夢喰いの動向に気を配りながら戦うのはイブだ。
「そう上手くはやらせないぜ」
 夢喰いが仲間にとって危険なポジションに付こうとすれば、それを牽制する。
「いくぜ――」
 両脇に立つイブと零に声を掛け、社が走る。
 援護するようにイブの炎が夢喰いを牽制し、行動を抑制する。
 爆煙から躍り出る夢喰いが、社を狙いその炎獄の剣を振るう――が、社に追従していた零が割り込みその攻撃を受け流す。
 揺るぎない二人への信頼感が、戦闘中の社に笑みを浮かばせた。
「チィ――!」
 返す刀で斬り結ぶ夢喰い。しかし、社はその勢いを真っ向から受け止めると、運動エネルギーを体捌きのみで力と変え、攻撃に結実させる。
 必然カウンターとなるその一撃は夢喰いを大きく蹴り飛ばし、破砕された木々が次々と倒木した。
 跳ね起きる夢喰いに番犬達が襲いかかる。
 その攻撃を往なしながら夢喰いが炎獄の剣を振るい焼き払う。
 凶暴なその猛撃を、番犬達は夕雨を守りながら受け止めていった。
 優勢であるはずの番犬達は、しかし徐々に勢いを増す夢喰いの業火の前に油断ができない。
 拮抗する戦いの最中、その出来事が起こった。
 側面から駆け流星纏う蹴りを見舞い、重力の楔を打ち込むイブ。
 動きを止める夢喰い。そのタイミングをイブは逃さなかった。
「いただきます、ワイルドな京極ちゃん」
 その時、確かに時が止まった。
 熱い口吻を交わすイブ。
「ん……ちゅっ……」
 緊張の中突然行われたこの行為に、「まあ……!」とか「ひゅ~」だとかのヤジが飛び、中にはショックの叫びを上げる者もいたかもしれない。
 数秒のはずが数分のように感じられる時を経て、我に返る夢喰いがイブを突き飛ばした。
「――! このっ――!」
 怒りに眼を剥く夢喰いが口元を拭う中、イブは満足げに唇に触れた。
 突然の出来事ではあるが、これは歴としたイブのグラビティに他ならない。
 生まれつき体内に宿す毒を口移しによって相手を侵す。
 その毒はデウスエクスといえども、抗える物では無い。
 不慮の出来事を見ながらユージンが夕雨へと話しかけた。
「さて、良いものもみれて、ついでに存分に褒めたし庇ったよね。あとでケーキでも奢りよろしくね、ユウちゃん!」
「勝手に決めないでください。感謝はしています、本当ですよ」
 軽口を言い合いながら、夕雨は武器を構え直した。
「うっかり主を間違えたりしたら承知しませんよ。えだまめ」
 主の声に反応し、えだまめが口に咥えた神器の剣で夢喰いに斬りかかる。
「……キスか、成程そーゆう技もありなわけか……」
 夢喰いがどこか狼狽している最中、零は魔法によって生み出した人参を夢喰いの口めがけて放った。
「……口直しには良い、というのは失礼かな。……まぁお前が喰っても利益ないけどな」
 叩きつけられた人参に苛立ちを覚える夢喰い。どこか集中力が切れてきたようにも見える。
「零さん次は二人で! キルロイさん援護ヨロシクです!」
 サーヴァントのヤードに指示をだしながら、仲間達にも声を掛けていくユージン。
 番犬達の連携がうまく機能するのは、ユージンの声によってしっかりと意思疎通が出来ていたからだ。
 番犬達を猛追する炎獄の剣を仲間と共に分散しながら受け止めていく。
 これによって被害を最小に抑えることに成功していた。
「夕雨さんも……皆さんもみんな守り切ります!」
 一人番犬達を支えるレカは、必死に仲間の回復に努めていた。
 猛攻を続ける夢喰いの前に、仲間達が次々に傷つき膝をつく。
 そんな番犬達を癒やし続けるレカは、この戦いにおける要といって良いだろう。
 額から零れる汗もそのままに、レカは仲間達を癒やし続ける。
「ユージンさんも、頑張って下さい!」
「サンキューレカちゃん!」
 少なからずユージンに好意を寄せるレカは、ユージンの返事に心弾ませる。
「真木ちゃん、いくぜ」
「はい、お供します」
 イブと梔子が揃って地を駆ける。
 イブのブラックスライムが夢喰いを捕食すると同時に、梔子が接近する。
「蜘蛛の毒針は神経毒、苦しいかと思いますがご勘弁を」
 蜘蛛を模した鋭い牙が夢喰いに突き刺さる。
 呻きを漏らしながら夢喰いが体勢を整えるが、身体が思った以上に重く動かない。夢喰いの身体に痛みが走る。
 状態異常がふんだんに付与され、夢喰いの肉体を蝕んでいた。
 だが番犬達に緩める手は無い。追撃に追撃を重ねていく。
「報いを受けろ」
 放たれた銀弾が夢喰いの腕を穿つ。
「効きやしねぇぞ――!」
「ふむ、どうやらまだそんなに悪さはしてないようだな」
 犯した罪の数で痛みが増大するその一撃の反応を見たキルロイは、その飄々とした態度を最後まで崩すことはなかった。
 番犬達に囲まれていながら、なお一層の力を増大させる夢喰い。
 一歩も引くことのない自己幻像を前に、夕雨は憧憬の念を覚える。
 羨むほどの力。
 自分がそれくらい強ければきっと一人でも、何処までもいけるはず。
「でも――!」
 業火に抗う仲間達を見る。
 そう、自分は力と同じ程に貴重な仲間に恵まれたみたいだ。
 今はそれで幸せ――十分だ。
 夕雨が炎弾を放ち、夢喰いの足を止めながら「まぁ、ビタ一文奢りませんがね」と言うと、それを聞いた仲間達に笑みが沸いた。
 感情をむき出しに、業火を吹き上げる夢喰い。
「――!」
 その夢喰いの容赦の無い連激に動きを止めてしまう夕雨。
 危険を察知するも、身体が硬直し言うことを聞かない。
 炎獄の刃が夕雨の身体を引き裂かんと振り下ろされる。
 だが――その軌道を身体事ぶつけ逸らす者がいた。ユージンだ。
「ボクの大事な人を傷つけさせやしないっ!」
 裂帛の気合いと共に吐き出された言葉が胸をつく。
 礼を言おうとした夕雨が、ユージンの顔を見てクスリと笑った。
「もう、照れるくらいなら言わないでください」
 顔を紅潮させたユージンは、照れを隠すように夢喰いを追い詰める仲間達の元へ駆けていった。
 ――戦いは長期戦となった。
 容赦なく暴れ続けた夢喰いだが、徐々にその動きが鈍くなってくる。
 その隙を番犬達は逃さない。
 ユージンと零、キルロイとイブ、そして梔子とレカが的確な連携で夢喰いを追い詰める。
 そしてついに動きを止める夢喰い。
 しかしその瞳はまだ死んではいない。
 華麗に銃弾を放ちながら、その反動を利用し加速する社。
 やがてその速度は音速に至り――超えていく。
「残念だが、年季が違うのさ」
 音速の数倍に至る社の右拳が夢喰いを容赦なく殴り飛ばした。
 フィニッシュブローと思われた社の右拳だったが、だがまだ夢喰いは倒れない――!
 社が夕雨に視線を送る。
 ――トドメは京極、お前に任せる。
 視線を受取った夕雨が地を駆け夢喰いへと肉薄すると、勢いそのままに手にした番傘型の槍をその胸に突き刺した。
「いつか、仲間を守るためにその力が必要になったとき……私はアナタのことを思い出すかもしれませんね……」
 その時は、その折れることのなかった闘志を自分が模倣しよう。
 夕雨は巡る感情を払うように槍を引き抜くと、崩れ落ちモザイクに霧散する自己幻像をその燃え盛る瞳に焼き付けるのだった。

●帰還
「――ずるいです、京極さん」
 戦闘が終わり、周辺の修復が終わった矢先、梔子が夕雨に口を尖らせた。
 それは戦闘中におきたイブの接吻の件だと、誰もがすぐに気づく。
 イブのファンである梔子に取ってみれば大変なものを見てしまったわけで、言っても仕方がないのはわかっていながらも、口に出さずにはいられなかった。
「――してほしいか?」
「えっ!?」
 イブの声に驚き振り返る梔子だったが、イブは楽しげにえだまめに話しかけているだけだった。
「……やっぱり何もなさそうだね」
 周辺の探索を行っていた零が戻ってくると、手がかりがなにも残されていないことを仲間に告げる。
「……それに、ほら」
 見上げると、徐々にモザイクが晴れていくのがわかる。
 モザイクの空間――ワイルドスペースが消失しはじめているのだ。
 夢散していくモザイクと、現れる夕空を眺めながら、番犬達は共に無事に帰還できることを喜び合うのだった。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
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