●やっチャイナ!
愛用のビビットなピンクがアクセントの黒いヘッドフォンから流す大音量のアニソンで思考を埋め尽くしながら、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)は夜の街を歩いていた。
街、と言っても繁華街ではない。
どちらかといえば、廃れた界隈。頭の尖ったヤンキー達が、屯りよからぬことを企んでいそうな雰囲気の。
(「……何故、ボクはこんなところにいるんでしょう」)
長い前髪で隠した視線を足元に落とし、東西南北は困惑の溜め息を吐く。傍らを歩くテレビウムの小金井も、不思議そうな顔をしているような気がしないでない。
ひきこもり歴7年の立派な干物人生。
だのに東西南北の足はふらふらと、見慣れぬ地に彼を導いていた。まるで何かに導かれるみたいに。
この感覚は、きっとあれだ。
耳に馴染んだメロディラインに混ざる高揚とも不安ともつかぬビートに、東西南北は追っている事件の影を思い描く。
(「なるほど。やはりこういうことでしたか――」)
果たして東西南北の予感は正しく、切れかけの街灯に照らし出された駐車場はモザイクに覆われていた。
「あははは! てめぇ、ナニ入って来ちまってんだよ!」
(「あー……」)
流れ続けるアニソンの音量を凌駕する哄笑に、東西南北はヘッドフォンを外し現れたものを見て天を仰ぐ。
金色に紫を馴染ませたような蝙蝠似の羽に、戦端が尖った悪魔の尻尾。
「人のウチに勝手に上がり込むとか、ダメだろ~。ダメダメだろ? ダメに決まってんだろぉ?」
ヘッドフォンの彩と近い色の瞳を長い前髪と眼鏡で覆うのは、東西南北と同じ。頭から生えた巻き角も同じ。
「まぁ、入って来ちまったからには、この姿のカンケーシャってヤツだろーが」
しかしジャージやパーカーを好む東西南北に対し、粗暴極まりない雰囲気のソレが身に纏うのは、ある種お約束でもある拘束服に鎖の手錠。
封じられた凶魔か、或いは。
(「ボクのワイルドハント……ですね」)
多くを考えるのを放棄し、東西南北はモザイクに隔たれた先、不可思議な液体で満ちた空間で相対したソレを観た。
「でもなぁ。今、ワイルドスペースのヒミツを漏らすワケにはいかねぇんだよ。そこらへん、てめぇもわかんだろ? なぁ、わ・か・る・だ・ろ!?」
饒舌な口振りは狂気に満ち。風化著しいコンクリートとアスファルトを継ぎ接ぎにした風景の中に在って、背徳感を増している。
あぁ、厄介なモノに惹かれてしまった。大人しく引き籠れる家が恋しい――東西南北がそう思ったかは定かではない。しかし、明らかな面倒ごとを前にして、東西南北の瞳に力が籠った。
「つまり。てめぇは此処で死ね。俺様の手で死ね。今すぐ死ね!!!」
「お断りします。こんな所で引き籠りたくはありませんから」
襲い来る鋭い爪を前に、東西南北は羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てる。露わになったのは、中華風の格闘服。そして得物を構え、東西南北は敵をねめつけた。
●ワイルドハント遭遇、八王子・東西南北の場合
相次ぐワイルドハントを名乗るドリームイーターの事件。
新たに発見されたのは東西南北の裡なる一端を捕らえたもの。廃れて錆びれ、善良なる人々は寄り付かなくなった街の片隅で何らかの作戦を行っていたらしいそれは、東西南北により発見された。
しかしこのままでは遭遇した東西南北の生命が危険に晒される。
「急ぎ現場へ赴きワイルドハント撃破して下さい」
東西南北の調査支援を行いつつ、予知で得た情報をまとめたリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、ケルベロス達に救援を請う。
東西南北がワイルドハントと相対しているのは、灰色の夜の街の光景が千々に切り刻まれ、再び張り合わされたような世界。
内部は粘度の高い液体で満たされているが、呼吸は勿論のこと、攻撃や防御といった行動を阻害されることはない。またやや不安定ながら街灯の明かり等も風景に取り込まれているので、光源の確保なども気にする必要はなさそうだ。
「敵の攻撃方法は三種。一つ目は精神に影響を及ぼす哄笑。二つ目は両手首を縛める鎖を自在に伸縮させるもので。三つ目は此方の生気を吸い取る妖しい瞳の耀きです」
敵は一体だが油断は禁物ですと念押して、リザベッタはケルベロス達へ唯一無二の願いを託す。
「何より大事なのは八王子さんの命です。どうか彼を無事に連れて帰って来て下さい」
参加者 | |
---|---|
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218) |
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658) |
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159) |
一式・要(狂咬突破・e01362) |
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402) |
浜本・英世(ドクター風・e34862) |
●これでいいのです!
お友達のピンチだ。さぁ、急ごう。導きの頼りは戦闘音や耳障りな馬鹿笑いか――なんて綿密な予想を一式・要(狂咬突破・e01362)はしていたのだけれど。
「……」
モザイクの空間へ踏み込んだ瞬間、眼前に在った光景に、要の肩から羽織っていただけのコートがずり落ちる。
だって、探すまでもなく。其処にいたのだ。序に、二者とも睨み合ってる風――傍目にはそう見えた――で戦いさえ始まっていない。
(「しほう君の場合、こんな時だからこそむしろ大丈夫って気がしてたけど」)
「なんだ、余裕がありそうじゃないの。急いで来なくても良かったかな?」
不思議なタイプではあるかと思っていたが、まさかこうとは。しかし、場に加わった新たな人の気配に、元から居た二人が揃って振り向くと、メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)の瞳は点になる。
「うっ、同じ顔……。見分けが付かないのっ」
白い仔犬のようなボクスドラゴン、コハブをぎゅっと抱き締め、メイアは盛大に困惑した。だって同じ顔なのだ。ちょっとばかし毛色は違う気はするが。
されど今回の事案の主、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)と親しく付き合う者なら大丈夫!
「偽物はいつもよりオラついてるSッ気のあるヤツだよね! わかる――」
「パッと見シホウが二人いる!? えーと、ドSな俺様シホウが偽物でドMなシホウが本物――」
「どえむですっ!」
……。
一瞬、沈黙。折角、ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)とマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)がフォロー(?)してくれようとしていたのに、東西南北自身が迷いなく最大の自己アピールを叫びきった。
「ドSな偽物を総攻撃して下さい!」
……。
再び、沈黙。
いや確かに。間違われない為の最適策ではあるかもしれないがっ。
「いよっし、小金井くん居る方が本物ですね!!」
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)、東西南北がつれるテレビウムを目印にして、東西南北の訴えは聞かなかった事にした(おそらく本人の名誉の為)。
「間違える? いえいえ、むかつく方をぶん殴れば正解でしょう」
普段、嘘で食べてるグーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)は、本物というものは眩しく見える理論でスルー。
そして冷静沈着な浜本・英世(ドクター風・e34862)と言うと。
(「偽物は我らに敵意や殺意を向けてくる筈」)
知り合って長くはないが、本物の東西南北ならば自分達にそんな目は向けなどしない。
信頼に裏打ちされた自信でどっしり構え、思った通りの殺意を眼鏡越しに跳ね返す。
なんというか。まぁ、そうなのね。彼方を攻撃すればいいのね、なメイアの反応だけが、ちょっぴり救い。いや! 言わずとも分かって貰えるのって幸せだけど!
余談。
「え? 拳法着なのに何で如意棒じゃなくってチェーンソー剣なのかって? 細かい事は気にしないで下さい。伸びろ僕の如意げふげふごふ。このような規制がですね」
「しほう君、それでいいの? シリアスで行きたい時は……」
「いえ、お気になさらず要さん。大事なのは、友情、努力、そして勝利! コミカル路線で始まるワイルドハントもあっていいじゃないかケルベロスだもの。これでいいのです!」
●序、君の偽物
「俺様、死ねっつったろ?」
時間にすればほんの僅か。けれど捨て置かれた東西南北のそっくりさんこと、ワイルドハントが苛立ち紛れに高嗤う。
耳障りな音色にまかれ、英世は改めて『敵』を観察した。格上なのは間違いない。事実、得物を握る手元が僅かにぶれる。
(「シホウくんは旅団仲間。危機的状況は見過ごせないね――及ばずながら助太刀させて頂こう」)
「暴走してもあまり変わらないのだね、シホウくんは」
足元を英世は強く蹴ると、不可思議な液体が満ちる空へ跳ぶ。
「とはいえ、覚悟なき者には許されない姿だ。つまりその姿は私達への挑発。ならばこの英世、容赦せん」
「うん、ホントにお顔が同じだけですねっ」
星の重力に引かれた蹴りで英世が夢喰いを打つのに合わせ、メリーナも敵との間合いへ駆け込む。
「『大丈夫、神が私をお救い下さる』『お見捨てになんてならないわ』」
観客はたった一人。
「『――だから』、怖くなんてないですよ、って」
全身五ケ所に杭打つ衝撃をデウスエクスへ流し込む、僅か数台詞のみのメリーナの名演技。
「っち、ご挨拶だなっ!」
痛みは錯覚なれど、リアルさに器を砕かれたワイルドハントの表情が鋭さを増す。でも、様相に怯む者はこの場には居ない。
「あのね、一応忠告しとくけど。彼を狙っても楽しいことにはならんと思うわよ」
ずり落ちかけていたコートを敵へと放り、要が一条の流星と化す。
そう、誰もが東西南北のワイルドハントを打ち倒し、東西南北を生還させる気で溢れているから。
(「どえむっておいしいのかしら? そもそも何のかしら。わたくし、よくわからないわ……」)
若干一名、最初の衝撃が過ぎ去らぬ者もいるにはいたが。そんなメイアも、ふるふるっと首を振って意識を切り替える。
「コハブはメリーナちゃんへお願いね」
自らは星辰宿す剣で守護の陣を描き、メイアは箱竜へ癒しを求めた。何れも自浄の加護を宿す力に、回復の要であるマヒナは緊急オペの回避を悟り、敵の気迫と世界の異様さに震えるシャーマンズゴーストの背をそっと撫でる。
「大丈夫だよ、アロアロ。アタシたちも頑張ろう?」
翼を仕舞った天使の励ましに、花のレイを飾った神霊もようやく奮起し。マヒナが最前列へ撒いた紙兵に倣い、英世へ祈りを捧げた。
それにしても液体が満ちる空間というのは矢張り奇妙なもの。
(「普通に動けて逆に不気味だよ。あいつもこんな場所で妙な敵に絡まれて大変だねぇ」)
しげしげと感じ入ったピジョンはワイルドハントと東西南北を見比べ、口の端を吊り上げる。
(「敵は暴走した姿に似ているって話だけど。ひょっとしたらこの性格も、実は東西南北の一面だったりするのかなぁ?」)
東西南北との合流からデウスエクスを屠る態勢へ移行しつつ、戦うよりもモノ作りの方が得意だという男は歪な刃を抜く。
「自分で言うのも何だが、楽しさ万点! 僕のイチ押しはこの僕だよ!」
「楽しいことをお探しと伺いました。でしたらこちらへどうぞ」
冴えた軌跡でモザイクの返り血を浴びたピジョンの誘いに続き、グーウィも敵を手招き『やれば出来る』と信じる心で叩いた。
誰を狙うのが最も楽しくなるかを判断し、獲物を択ぶのがこの敵の性。それを利用し、意識を引き付けようとしているのだ。
けれど。
ピジョンのテレビウムがアロアロの為に応援動画を流し、東西南北が明日からの本気を誓う心を溶岩として噴出させ、小金井がコハブの傷を癒すのを横目に、目的の顔は嗜虐心に溢れた笑みを零す。
「っ、させません」
両手首を縛めを繰る敵の狙いはマヒナ。咄嗟に前へ出たのは東西南北だった。
「やっぱ仲間を殺る方が痛いだろぉ? 残念ながらどえむは直に悦ばせてやらないぜ!」
●破、本物は君
「お前らまとめて死んじまえよぉ!」
荒れる哄笑の波を盾役達が懸命に我が身で受け止める。その一翼を担う東西南北の心は、複雑に揺れていた。
(「ボクが暴走したらあんなオラオラ俺様主義全開のイケイケドSになるんですか?」)
それは甚だ不本意。というか、抑圧された願望の具現化とでもいうなら、ヒキコモボーイのアイデンティティクライシスである。ただでさえ同じ顔でやり難いのに。その上、いじめっ子ときたら――。
「……いいえっ」
過る色々をかなぐり捨て、東西南北はチェーンソー剣でワイルドハントに斬り掛かった。躊躇っている場合ではない。偽物へ見せつけねばならぬのだ、自分という人間の生き様を。
「それにしても、随分楽しそうで」
凍てつく呪いを纏わす力で殴りつけたグーウィが、嘲り返すように笑ったのはその時。
「お手伝いした甲斐がありました。いえそんなに歯ぎしりして感謝しなくても結構」
「はぁ? お前、ナニ言ってんだよ」
ただの揶揄とも思えた台詞は、しかし真実。敵は楽しむ為にマヒナを狙っているが、実際に攻撃がマヒナに届いた事は一度もない。常に前に構えた誰かに阻まれ、必死の様を味わえこそすれ『結果』には繋がっていないのだ。
そして、また。
「そう簡単に僕らをやれると思っちゃ困るよ」
心を絡めとる鎖からマヒナを庇ったピジョンがニヒルに笑む。恋しい男に守られたマヒナの顔にも、不安よりも安心と心強さの方が大きい。何故なら、凶魔の如き男がどれほど縛めの力を発揮しても、ケルベロス達の殆どが自浄の加護に守られているから。万に一つも、内的要因で戦線が崩壊することはない。
「どうやらグーウィくんに痛いところを突かれたようだね」
時は、至れり。足を止める一撃から、雷帯びた惑わしの突撃に変えて英世が銀の髪を靡かせる。唯一の懸念だった攻撃を躱される可能性も、攻守を経て阻害因子を重ねた今となっては零に近しく。
「あなたは――」
東西南北と敵と、見比べメリーナは微かに微笑む。
思い出すのは、いつだったか東西南北に芝居を披露した時のこと。控え目に、恐る恐る、それでも真っ直ぐ『見たい』を投げかけてくれた顔。
(「視線は苦手でしょうに、それでも私と目線を合わせてくれた。そんなシホくんと比べたら、ワイルドハントなんて」)
「ぜんーんぜん、カッコ良くありません♪」
軽やかに言い切って、銀環型の特殊魔術の発動体から生じさせた光剣でメリーナは偽物を斬る。
「そうだよ。シホウの方が強い」
ピジョンへ大いなる癒しを施しながら、マヒナも東西南北を肯定した。そしてその言葉に勇気を得たのか、アロアロも意識を己に惹きつける爪をデウスエクスへ突き立てた。
どうして『ワイルドハント』を名乗る夢喰い達は、ケルベロスの暴走姿を知っているのか。
(「彼らにとっては姿形よりも数の方が大切なのかしら?」)
尽きぬ考えを巡らせながら、メイアは焦りが隠しきれなくなった相手へ時をも止める弾丸を撃ち込む。そこへコハブがふっと息を吹き掛けると、デウスエクスの躰を覆う氷がまた増える。
アロアロが根付かせた負の感情により、戦線は完全に安定した。マヒナが撒く癒しと清めも鉄壁と化し、仲間を守る。
「沈めよクソがぁ!」
間近に居並ぶ者たちの数の多さに、思うように攻められぬ鬱憤を晴らそうと、凶魔はマヒナへ鎖を奔らせた。が、東西南北の意地が勝つ。
「仲間に手出しさせない! ヒキコモゴミニートの意地を見せてやります!」
傷ついても誇らしげな東西南北の姿に、要は我が事のように胸を張る。
「そうだ。やる時はやるのが本物さんだ」
ならば自分は支えるだけと、粘度の高い液体の中を清き奔流となって要は、執拗に偽物の動きを絡めとる蹴撃を見舞う。
(「割と似てるから、地味に抵抗あると思っていたけど」)
「まあ、本人の方がイケてるね。だからマギー、回復は念入りに頼んだよ」
お得意様の奮戦ぶりを讃えるピジョンの頼みに、赤いリボンを結わえた鋏を持つテレビウムは『任せて』と言うように応援動画を流す。
運命は、既に決していた。
●急、大団円
遺跡に生きたドワーフが、数奇な廻りを経て択んだのはインチキ占い師という生業。かくしてグーウィは夢喰いの眼前へ水晶玉を突き付ける。
「お金があれば大体のことは何とかなります。しかしどうにもならないこともある。例えばそう、ここに見える貴方の終焉のように」
「っち! あぁ、ウ・ゼ・ェ!」
映し出された惨めな終わりを素直に信じでもしたのか、鋭い顔が絶望と身を覆う氷が呉れる痛みに歪んだ。さらに反撃さえ石化の呪いに阻まれれば、凶魔は既に悪態を吐くだけの玩具。
「さて、と。その偽りの中身がどうなっているのか……試しに開いてみようか?」
元には戻せはしないけれどね、と物騒に嘯き、英世は喚んだ無数のメス等の魔術操作でワイルドハントに解体手術を施す。
ごとり、片腕が落ち。ばさり、片羽がもげ。はらり、モザイクの腸が空に散る。
「ざけんなっ」
英世が喰らわせた衝撃が収まらぬうちに、要が敵の懐へ飛び込み、守りを固めようとする腕を払う。それだけでも、相応の威力はあった。しかし――。
「残念、次のが本命だ――メリーナちゃん!」
「はぁい、その本命でーす♪」
共闘に慣れた要とメリーナの連携。後を継いだ少女は再び演じ、錯覚を以て東西南北を写す器を破壊する。
「っ、っ、っ!」
三度、舌打ちを繰り返し、口惜しさを隠さぬままデウスエクスの上体が頽れた。
「コハブ、ワルっぽい東西南北ちゃんを狙うの」
自らは古代語を繰り魔法の光線を放つメイアの指示に、コハブもふわり弾んでブレスを吹き掛ける。
「――っ」
強化された縛めに、剣呑な貌をした男はついに立ち上がる余力さえ奪われた。
(「ワイルドハントが何者かより。友達がピンチってことの方がワタシにとっては大事な問題。だから、何があってもシホウを助けるつもりでここに来たの」)
終幕の気配に、マヒナも攻勢に転じる。
「頭上注意、だよ?」
それは警鐘というより宣告。南国小島生まれに相応しく、マヒナは敵の頭上へヤシの木の幻影からココナッツを落とす。
呉れる痛みに、マヒナの胸をちくりと棘が刺す。だって、マヒナにとって東西南北は大事な友人。
「シホウはゴミじゃない、これだけの人が助けに来てくれるんだから!」
だから投げる言葉は、敵と東西南北の両方へ。
――君はゴミじゃない。君は友達。友達を助ける為に、いつも以上に頑張れたのだ。
「シホウ、自分でケリをつけるかい?」
懸命に訴えたマヒナにさり気なく寄り添い、ピジョンは東西南北へ尋ねる。応えは、走り出す背中。
(「ボクだって仲間を守る為なら、どこまでだって強くなる。ボクはもうひとりぼっちじゃない」)
――ヒキコモニートなゴミじゃあない。
「何度踏まれても立ち上がる、これが八王子東西南北の生き様です! 世界の中心東西南北ここに在り!」
掲げた二刀より吹き上げた焔は、巨大な火柱と鎖と不死鳥の幻影を成し。地の果てまで追わんとワイルドハントへ迫る。
苛烈な意思と力を前に、偽りの写し鏡には断末魔さえなかった。
パチモノな悪徳商売はさっさと潰れてしまえばいいのに、等とグーウィが嘯く傍ら。
「無事で良かった」
「本当!」
「最初はどうなる事かと思いましたが」
「ほんとねぇ」
ピジョンにマヒナ、メリーナと要、そして小金井らに囲また東西南北が頬を掻くのを、英世やメイアは微笑ましく見守る。
古今東西、悲喜交交なれど。皆が無事で笑っていられるなら、それで上々。
「皆さん、今日はありがとうございました」
東西南北の心からの礼と歓喜が響けば、夜の錆びれた街も、春に輝く苑が如し!
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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