静穏の夜刃

作者:犬塚ひなこ

●窮鼠舌を噛む
 ワイルドハントの謎を追い、ヴァルキュリ星人は往く。
 実に怪しい。滅茶苦茶に怪しいと彼女が睨んでいたのは或る街の片隅に建っている大きな屋敷。十数年前から廃墟になっているという屋敷の前、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)はキュッキュリーン、と両腕を得意気に組む。
「このモザイク、間違いありませんね!」
 読み通り、屋敷は不明瞭なものに包まれていた。これは調査すべきだと感じたレピーダは携えたカサドボルグの柄を握り、モザイクの中に踏み込んだ。

 そのとき、レピーダの前に何者かが現れた。
「このワイルドスペースを発見できるとは、この姿に因縁のある者なのですか?」
 鮮やかな紅い瞳に銀の髪。そして、不死鳥めいた光の翼。
 其処に立っていたのはレピーダに似た――否、本人と見間違える程の人物だった。彼女は紅の鎧を身に纏い、両手には白銀の剣を携えている。普通ならば驚くべきことだが、レピーダは肩を落としていた。
「鎧とか時代遅れですね……」
 初めてジャージに袖を通した時と全く同じ台詞が思わず口を衝いて出る。何故なら本当にそう感じたからだ。それも相手が自分と同じ顔なのだから仕方がない。
「私の格好が時代遅れですって?」
 相手は紅い瞳で此方を睨み付けた。するとレピーダはキュリーンと何かを悟る。
「あなたはニセモノですね!! すぐに気が付きました。何故なら……レピちゃんはレピちゃんのことをレピちゃんと呼ぶからです!」
「な、何を訳の分からないことを……」
 キュッと自信満々に指先を突き付けたレピーダに対し、相手が僅かにたじろいだ。だが、身構え直した敵は両手の刃の切先を向け、敵意を滲ませる。
 途端に殺気が辺りに満ちた。
「今、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいきません。レピちゃんとやらは、ワイルドハントである私の手で死んでもらわなければなりませんね」
「残念ですがレピちゃんは死にません。敵とあらば全力で成敗しましょう!」
 お覚悟を、と告げ返したレピーダはカサドボルグを構え、敵の姿を瞳に映す。片や赤き鎧の戦乙女、片や臙脂色ジャージのアイドル。
 剣対傘。そして今――熾烈なヴァルキュリバトルが幕をあける。

●ワイルドハントの襲撃
「キュッキュリーンです! あっ、間違いました。レピーダ様がたいへんなのです!」
 仲間に命の危機が迫っている。
 そう語った雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は集ったケルベロス達に急いで準備をして欲しいと願い、ヘリオンにいざなった。
 事件の場所は或る廃墟屋敷だ。
 其処に居た夢喰いは自らをワイルドハントと名乗っており、モザイクで覆った内部で何らかの作戦を行っていたらしい。それをレピーダが発見し、敵に襲われたという。
 其処は元の地面や建物などがバラバラに混ぜ合わされたような奇怪な場所になっている。一帯は纏わりつくような粘性の液体に満たされているのだが、不思議と呼吸や行動は制限されないようだ。
「敵はレピーダ様が真面目なヴァルキュリアになったような姿をしているのでございます。いえ、レピーダ様が普段そうではないって意味ではなくてですね!」
 慌てて訂正したリルリカは敵の能力について話す。
 彼女は見た目こそレピーダに似ているが、扱う力はまったくの別物だ。両手の剣を見事に扱い、着実に攻撃を当ててくること。そして回避力が高いことが懸念となるが、仲間で協力しあえば勝てない相手ではない。
 また、到着した時点でレピーダは相当に疲弊しているだろう。
 彼女のことなので明るく笑っているかもしれないが、危険な状況であることは間違いない。誰がどのように彼女を援護するか、その後にどう戦っていくかが勝利の命運を分けることになるだろう。
「さあ皆さま、現場上空に到着しましたです。どうか、ご武運を!」
 そして、説明を終えたリルリカは降下準備を整えてゆく。
 向かう仲間達が必ずレピーダを救出し、皆で帰ってくることを信じて――。


参加者
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)
トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)
エピ・バラード(安全第一・e01793)
ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)
森嶋・凍砂(灰焔・e18706)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)

■リプレイ

●仲間の声
 キュッキュリーンと閃光が煌めき、銀焔の炎が戦場を満たす。
 繰り広げられるのは戦乙女達の闘い。その最中、レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は不意に俯き、耐え切れません、と首を横に振った。
「――どうして、」
 零れ落ちた呟きは何故だか憂鬱な雰囲気を纏っている。そして、武器の柄を強く握り締めたレピーダはその切っ先で敵をびしりと指し示した。
「なんでよりによってそんな恥ずかしい格好してるんですか!」
「えっ」
 その言葉に驚いた偽戦乙女はたじろぐ。戸惑う視線はまるで「私の格好って恥ずかしいんですか?」と言いたげだ。だが、ぐっと堪えた敵は疾風破を解放する。一閃を得物で弾き返したレピーダは敵を睨み付けた。
「まさか、レピちゃんの過去を知っているとでも?」
「いえ、何も……」
「週刊誌に書き立てられる前に倒します!」
 彼女は敵の話など聞いちゃいない。
 刹那、カサドボルグから放たれた虚撃が敵の力を奪い取った。されど戦乙女も負けてはおらず、両手の剣による鋭い反撃が放たれる。
 キュ、とレピーダが痛みに息喘いだそのとき、後方から誰かの声が聞こえた。
「あっあっこっちからキューキュー聞こえます!」
「エピさんどうしたの? ひょっとしてヴァルキュリ星人との交信に成功したの?」
 顔をあげたレピーダがはっとする。この声はエピ・バラード(安全第一・e01793)と森嶋・凍砂(灰焔・e18706)のものに違いない。
 そして、次の瞬間。
「たかが偽者に苦戦するだなんて幻滅しました……レピ公のファンやめます!!」
 アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)の声と同時に電光石火の閃きが敵を貫いた。相手がよろめいた隙を狙い、ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)がイバラの蔓を伸ばして敵の足を絡め取る。
「アイドルが『愛嬌』たっぷりの笑みを振り撒くには、この空間はいささか窮屈だ」
「レピーダさん、お待たせしました。インターバルタイムですよ」
 ナコトフが手にした花に纏わる言葉を告げて片目を瞑った。その傍らではトリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)が仲間を庇う形で布陣する。
 更にはヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)が構えたバスターライフルから氷の光線を解き放ち、敵を貫いた。
「アタラクニフタ殿、助太刀するであります」
「レピちゃん無事ー!?」
「レピ様ー!! あたしがきましたよー!!」
 ヴェスパーの攻撃に続いた凍砂がバールを投げつけ、エピが光の盾を具現化して援護に入る。エピに続いたテレビウムのチャンネルも応援動画を流した。
 そして、カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)は分身の術で敵の目を眩ませて翻弄していく。
「何弱ってんの? 翼でBBQ出来なくなったら困るから後ろで休んでて」
 或る意味では辛辣にも聞こえるカッツェの言葉だが、その裏には仲間への心配と無事に立っていたことへの安堵が隠されている。
 敵は一瞬で放たれた猛攻とレピーダへの援護に驚き、番犬達を見て瞳を瞬かせた。
「なっ……貴方達は――」
「レピちゃんのファンの人達ですね!!!」
 しかし、ワイルドハントの台詞を遮ったレピーダが明るい笑みを浮かべる。その表情には心から仲間達を頼もしく感じる思いが込められていた。
 そして、戦いは更に激しく巡ってゆく。

●偽戦乙女
 アイドルたる者、ファンの前では常に笑顔であるべし。
 そんな心得を実践する彼女だったが、仲間にはその身が相当に傷付いていると分かる。退いてろ、とレピーダを押しのけたアルヴァは夕星を構えて薄く笑んだ。
「情けねぇな、そんなだからファンが増えねぇんだよ」
 ハンサムのアルヴァくんが手助けしてやる、と軽口を紡いだ彼は気咬弾を解放して敵を貫いていく。
 其処へカッツェの放った氷縛の一閃が重なる。
「レピーダに似てるって聞いてたんだけど、外見は比較的まともだし胸が大きいし全然似てない気がするんだけど?」
 その際、カッツェは冷静にワイルドハントを観察しながら本物を見比べていた。
 対するワイルドハントはゴッドフェニックスウイングヒールライトで自らを癒し、ケルベロス達に鋭い視線を向ける。
「数が増えようとも私の敵ではありません。覚悟しなさい!」
「確かに、あれは普通のヴァルキュリアに見えますね。ジャージを着ていない」
 しかし番犬達は怯まず、トリスタンに至っては確りと構えて敵の様子を窺っていた。ナコトフも次の一手の樹を窺いつつ華麗に微笑み、華美なポーズを決めている。
「サザンカの花に誓って、早急に片付けねば、ね」
 そして、ナコトフによる截拳撃とトリスタンが撃つ銃弾連射が敵を貫いた。
 ヴェスパーも狙いを定めて魔法光線を発射する。その際、皆の様子や言動からレピーダ達の人となりを感じ取ったヴェスパーは小さく頷いた。
「成程であります。彼女はアイドルであり、人望もあるのでありますね」
「そうです。地下アイドルのレピちゃんは一部で……に、人気……?」
 レピーダの癒しに回り続ける凍砂はヴェスパーに説明をしてあげようとしたが、途中で不安になり首を傾げる。
「アタラクニフタ殿は地下でバラエティなアイドルでありますか」
 するとヴェスパーが妙な納得の仕方をした。これ以上続けるとちょっと可哀想だと感じたエピは話題の方向転換を試みる。
「とにかく! あたしたちが来たからには好きにはさせません!」
 敵を見据えたエピがチャンネル、とその名を呼べば頼もしく駆けたテレビウムが凶器を振りあげた。その間にエピは機械の羽根から黄金に輝く閃光を放つ。
 仲間の援護が廻る中、レピーダは体勢を立て直した。
 そして、レピーダは改めて仲間を見つめた。そこには感謝の気持ちも籠っているが、味方に鎧がいないか確かめる為でもあった。
「いかにジャージが鎧より優れているか、力で示してあげましょう!」
 よし、と頷いた彼女は意気込み、雪さえも退く凍気を纏って駆ける。同時に動いた凍砂もその心算なら、と攻撃の機を合わせた。
「キュッキュリーン……あ、なんかあたしも言っとかなきゃいけない気がして!」
 少し恥ずかしくなったらしい凍砂だったが、すぐに気を取り直して駆動剣を振りあげる。レピーダの一閃と凍砂の斬撃が重なり、敵を鋭く斬り裂いた。
 ナコトフが絡花締鳥を放ち、敵の動きを再び阻害していく。
「ワイルドスペース……思っていた以上に、何とも不思議な場所だね」
 周囲を気に掛けるナコトフは、此処は美しいとは言い難い感覚に満ちていると表した。 其処へアルヴァが殴り込む。
 こっからが本番だ、と凄む彼は恐ろしい勢いで言い放った。
「おらぁ、キュッキュリーンって言ってみろパチモンがぁ!」
「ひっ、きゅっきゅ……」
「何だ、ふざけてんのか。ヴァルキュリ星って何なんだよ、コラァ!」
 思わず言いそうになる敵に対しめアルヴァは叱責する。言い掛かりもいい所のワイルドハントは泣きそうだったが何とか持ち直して反撃に移った。
「紅く閃き翔ける風、ゲイルウィンドデストロイ!」
 鋭い疾風が赤い衝撃を散らす中、カッツェは先程の言葉を前言撤回しようと決める。何故なら――。
「……え? 必殺技名を叫ぶなんて、レピーダだわ……」
 そっくりね、と口にしたカッツェは降魔の力を宿した拳で標的を打ち貫いた。何だか酷すぎる評価は気にせず、トリスタンも達人めいた一撃で以て敵を穿つ。
「こそこそと動き回るのが騎士のやることか、ニセピーダ!」
 その際にトリスタンは写真を撮った。まるで合成写真のような、名を付けるなら二人はヴァルキュリアだろうかと口にしたトリスタン。
 彼らが投げかける言葉と攻撃にあまりにも遠慮がなさすぎて戦乙女は怯え始めた。だが、更にエピがチャンネルを伴い、敵を殴りにかかる。
「それにしてもあっちのレピ様ちょっと盛りすぎじゃないです? えい、えい! ここまで偽ものですか!」
「どさくさに胸を触るのはやめてください!」
 なんやかんやされた敵は既に泣いていた。
 ヴェスパーも攻撃に加わり続けているが、相手が居た堪れなく感じる。
「敵とはいえ、可哀想になってきたのであります」
 しかし、手を抜くわけにはいかない。ヴェスパーが放つ弱体の光弾に続き、レピーダが流星の蹴りを見舞った。
「レピちゃんのようになりたいという、その気持ちはわかります★」
 鎧で身を守ろうとする考えが既に勝負を捨てている、と彼女は真剣に論じる。
 それにその姿は父親を思い出してしまう。けれど、と真っ直ぐな眼差しを向けたレピーダは決して目を逸らさなかった。
 だが、敵も決死の覚悟でレピーダを狙いに来る。
「ブレイジングシルバーソードフラワーバタフライソードクラッシュ!」
「そうはさせません」
 されどトリスタンが護りに入り、その一閃を受け止めた。彼が敵を押さえる間にアルヴァが二刀による斬霊波を放ち、見下した視線を向ける。
「技名がダサいのとソードって二回言ったんでレピ公のファンやめます!!」
「流石に今のはレピちゃんと関係ないのでは……?」
 キュウ、とレピーダが鳴いたがアルヴァは構わず二撃目を繰り出した。
 その一撃によって敵が大きく揺らいだことで仲間達は察する。まもなく標的は倒れ、この戦いも終結するだろう、と――。

●希望のちいさな星
 傷付いた鎧、破れたジャージ。
 それらは戦いの激しさを表している。だが、戦況は番犬達の有利。ヴェスパーが、エピが、そしてトリスタン達がしかと敵を見据えていた。
 対する偽戦乙女は苦しげに呻き、疑問の眼差しを向ける。
「それほどに傷付いているのに……どうして笑っていられるのですか?」
 敵の瞳はレピーダを、そして仲間達を映していた。
 カッツェは思う。彼女達は姿こそ似ているが、別の意味では似ていない、と。
「残念ながらそんな姿してても慈悲はないよ。姿が似てるからって手加減も遠慮もしないんだよっ!」
 強く言い放ったカッツェは自らの武器、黒猫に触れた後に自身の竜鱗に呪詛を纏わせた。そして、敵の背後に回り込んだカッツェはその傷口に触れる。
 あたかも呪化粧をしたかのような斑が対象の不利益を色濃く強めた。ナコトフも其処に続き、キクの花を片手に掲げる。
「彼女はアイドル、笑顔を作る職業。例えばこの花のように、『逆境にいても快活』……それが、あの子の強さなのだよ」
 柔らかく、されど不敵に微笑んだナコトフは鋭い刃を解き放った。其処に好機を見たレピーダは一歩前に踏み出す。
「満を持してのレピちゃんオンステージです!」
 エピはいよいよ決着の時が来たと感じてもう一度、黄金鳥を思わせる光を纏わせた機械羽を大きく広げた。
「レピ様、後はどーんとやっちゃってください!」
「きゃーレピちゃん! 素敵よ! これで芋ジャーファン爆増間違いなしだわー!」
 加護を宿すエピに合わせ、凍砂も応援の思いを込めてバールを全力で投げる。その衝撃で敵がよろめく隙を逃さず、トリスタンとアルヴァが駆ける。
 トリスタンは忌まわしき沼の巨人から奪い取った力を腕に宿し、敵を薙ぎ払った。一瞬で距離を詰めたアルヴァも夕星の刃を差し向け、鋭い一閃を放つ。
「なに、一つありゃ事足りる……と言いたいところだが、」
「レピチャン! チャンスですよ」
 アルヴァが言いたいであろう続きを汲み取ったトリスタンが言葉を継ぎ、期待を込めた眼差しを向けた。ナコトフも静かに目を細め、仲間達の意思を理解する。
 その気持ちは皆同じ。
 偽者と相対するレピーダの活躍に花を添えることが自分達の役目だ。カッツェとエピ、凍砂達までもが仲間を見守る姿にヴェスパーもそっと頷く。
「ご存分に偽の自分とやりあって頂きたいであります」
 仲間達の言葉や意志を受け、レピーダは勿論ですと大きく胸を張った。
 刹那、明るく澄んだ声が戦場に響き渡る。
「これが最期です。閃光にして刃たる者――カサドボルグ!!」
 是は光の翼、その輝きを武器へと集め極大の光刃を形成したもの。
 そして同時に、是は彼女の在り方。その身を光に変え、光を刃に変え、「光あれ」と誰かが望むのならば、彼女はそう在り続けるだろう。
 嗚呼いつか、星の光に届くまで――!

●そして彼女は自由を謳歌する
「キュッキュリーンに、負け、た……」
 悲痛な断末魔を残し、ワイルドハントは倒れた。
 レピーダはアイドル――即ち、正義は勝つのだと語って額の横でダブルピースを決める。そして、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「助けに来てくれた皆さんにはレピちゃんのサイン色紙を差し上げます!」
「サインでありますか?」
 その振る舞いにヴェスパーは思わず首を傾げる。カッツェは、いつものことだから大丈夫よ、と仲間に告げて双眸を緩く細めた。
「サイン目的に来たわけじゃないんだけど、まあいいわ」
「それよりも今は脱出だ!  急いで……うん?」
 華麗にスルーしたナコトフは首を振り、この奇妙な空間から抜け出そうと皆を誘う。だが、いつしかモザイク領域は消えていた。
 周囲を見渡したトリスタンとアルヴァはこの場に居たワイルドハントの消滅と共に空間が失われたのだと判断する。
「手掛かりのようなものはないようですね。仕方ありません」
「証拠は残さないってか。ご苦労なことで」
「そのようだね」
 トリスタンとアルヴァ、ナコトフは頷きあい、少女達の様子を見守った。
 レピーダはこんなこともあろうかと用意していた色紙とペンを取り出し、きゅきゅっと手慣れた様子でサインを記している。
「できたて生サイン完成です! ブロマイドもありますよ」
「わ、わ、レピ様のサイン色紙ですか!? 大切に鍋敷きにしますっ!」
「レピちゃんのブロマイド……!? 嬉しい!」
 エピは両手をあげて(多分)喜び、凍砂も嬉しさを表す。
「押し付け販売には負けないであります」
 ヴェスパーはというと、アイドルの色紙と写真は有料だと思っているらしく、ふるふると首を横に振っていた。
「後でオークションに流してレピちゃんの人気度を測ってあげるからね」
「チャンネルはサイン色紙を座布団にしたいんですか?」
「偽物とアイドルユニット組んだら面白かったんじゃない?」
 さらりと酷いことを呟く凍砂。仲のいいエピとチャンネル。カッツェも思い付いたことを口にして、可笑しそうに笑む。
 そんな仲間の中心にいるレピーダはいつものように笑っていた。
「ま、これが今のレピ公か」
 その姿を何とはなしに眺めていたアルヴァは軽く息を吐き、そうか、と呟く。
 第二のヴァルキュリア生を楽しむ少女は今日も皆の笑顔の為に戦った。
 過去は過去としてこの時を大切に生きる。きっとそれこそが彼女にとっての日常であり、今の在り方なのだろう。
「キュッキュリーン★」
 彼女を象徴するその言葉には、きっと――自由の喜びと星の光が宿っている。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 16
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