緋の影

作者:青雨緑茶

「ふむ。やはり、か」
 夜。クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)はランプを掲げて、眼前に捉えるモザイクの塊を真っ直ぐに見据え呟いた。
 普段は地元住民は近づかず悪童どもの溜まり場になっているという廃ビル。その建物の元エントランスであった場所に、クオンは一人立っている。
 既に前例となる事件は聞き及んでいる。何かに引き寄せられるような予感がした時、これは自分が調査に赴くべき件だと理解した。
 そして、その予感は正しく的中していた。
 廃ビル内に人影はない。出迎えたのはただ、このモザイクのみ。
「入ってみなければ、中の様子は分からないな……」
 クオンはモザイクの内部に踏み入る。
 その中は、元の廃ビル内部がバラバラにされて混ぜ合わされたような奇怪な場所だった。
 しかも、辺りはまとわりつくような粘性の液体に満たされている。呼吸も発声も可能で動くのにも差し障りはないとはいえ、気持ちの良いものではない。
 だが、それ以上に最も看過出来ないものは。
「まさか、このワイルドスペースを発見出来る者がいるとは。この姿に因縁のある者か」
 燃えるような赤い髪、赤い光の翼、金色の瞳。
 限りなくクオンと相似した何者かが、銀色の甲冑を身に纏い、二輪の戦車(チャリオット)を駆る姿でクオンの前に現れた。
「現れたな、私の影」
 まるで自身が暴走したかの姿、自らの影。
 強い意志を宿す双眸で射るクオンを、敵は対照的に無感情なほど冷たい眼差しで見下ろす。
「影か。だがお前がここで死ねば、お前の方が影だ」
 夜の廃ビル内の暗さのままの空間ではあるが、敵が纏う炎めいた緋色のオーラが輝きとなって辺りを照らしている。皮肉なものだが、それゆえ視界に不自由はない。
「どうあれ、今、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかない。お前には死んでもらう――ワイルドハントである、私の手で」
 火花を上げ回転する大きな二輪。躊躇なく、戦車はクオンへと突っ込んでくる――。


「ワイルドハントについて調査していたクオン・ライアートさんが、ドリームイーターの襲撃を受けたようです」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は緊迫した様子で、集まったケルベロスに事件の概要を説明する。
 自らをワイルドハントと名乗るドリームイーターは現場である廃ビル内部をモザイクで覆い、その中で何らかの作戦を行っているらしい。
「このままでは、クオンさんの命が危険です。急いで救援に向かって、ワイルドハントを名乗るドリームイーターを撃破して下さい」
 幸いワイルドハントを調査する者をフォローする用意はあったため、予知情報をもとに素早く救援に向かう事が可能だ。
 続けて、イマジネイターは資料を配る。
「敵のドリームイーターは1体のみ、配下などは存在しません。
 モザイク内部は特殊な空間ではありますが、戦闘には支障ない模様です。また時刻は夜間ですが、敵自体が光源となるため照明の用意なども不要でしょう。
 念のため避難勧告は出してありますので、人払いも考えなくて大丈夫です。
 敵は装甲の厚い重量級の戦車ごと全身に炎を纏うのが主な攻撃方法です。その状態で突撃してきて破壊力と炎のダメージを与えてくる大技の他、ヴァルキュリアを模した翼を目が眩むほど光り輝かせてこちらの行動を抑制したり、纏う炎で傷を癒すとともに甲冑と戦車を高温状態にして攻撃力を増したりなどしてきます。
 到着したら、何よりもまずクオンさんとの合流を優先して下さい。
 事前にモザイクの調査や探索を行うとそれだけ彼女が危険に晒されます」
 一通りの説明をして、イマジネイターはケルベロス達に深くお辞儀する。
「現状のところ、敵の姿と関連するケルベロスだけが調査で発見出来るこの一連の事件……謎は多いですが、今は無事にクオンさんを救う事を目的として下さい」


参加者
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ


 廃材、コンクリート、ガラス片。
 無機質なパッチワークじみた夜色のモザイクを蹂躙し、戦車が迫る。
 その最初の一撃からギリギリで飛び退き、錆びた破片の散らばる床に着地するクオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)。
「ふむ、これはまた……なるほど、な」
 空振りし行き過ぎた後方となる戦車に振り向き目を眇め、喉の奥で呟く。
「避けたか。小癪な」
「その程度の突撃だった、というだけの話だ」
 一歩も引かぬクオンに、戦車駆る夢喰いは火花散らして方向転換する。
 ともすれば侮るかのような言葉を向けながらもクオンは確かに理解していた。決して侮れる敵ではないと。
 その風貌、その冷徹な眼差し。これが、『戦乙女』として暴走した自身の姿。
 ――ならば。
 クオンもその身に地獄の炎を纏う。炎が、力となって全身に行き渡る。
 瓦礫を潰す車輪音でみるみる間にその距離を縮める、同じ緋色の炎二つ。
 初手はかわしたといえど、輝く爆炎を纏い再び特攻してくる戦車を次は避けられないと察し、防御の構えで受け止める。
「くっ……!」
 流石に、衝撃は大きい。姿こそクオン一人と相似といえど、相手は普段ケルベロスが群れで対処しているデウスエクスなのだ。
「そら。『その程度の突撃』に、あと何回耐えられるかな」
 夢喰いの嘲りに声は返さない。クオンはあくまでもインフェルノファクターで自身をヒールすると同時に攻撃力の強化を行い、一切の攻撃を考えず、徹底的に守りを固める。
 ここを持ち堪えれば、救援は必ず来る。揺るぎなく、そう信じている。
 そうして再度、突撃してくる敵に――。
 ドォンッ!
 衝撃波が、戦車の横腹を襲った。クオンを狙っていた進路から逸れ、耳障りな音を上げ横滑りする車輪。
「まったく、一人で行かずとも良いものを……心配するまでも無いが、大丈夫か」
 すんでのところで龍咬地雲(リュウコウチウン)を打ち当てたのは巫・縁(魂の亡失者・e01047)。向ける声には彼女の強さへの信頼と仲間としての心配、両方がある。
「これがワイルドハントって奴か。いいじゃねーか、楽しいバトルが期待できそうだ!」
 戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)が躍動し、夢喰いの目の前に派手に着地。
 彼が一瞬でも敵の気を惹きつけるうちに、新たな仲間が颯爽と現れて。
「こんくらいで倒れるクオンじゃねぇだろうと思ってたさ。さっさと片を付けよーぜ」
 八崎・伶(放浪酒人・e06365)が、天津風でクオンのダメージを限界まで回復する。
「間に合ったみたいだね……久しぶり、クオン……」
「クオン助けにきたっすよー! ってほんとそっくりっすね!?」
 声を響かす四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)とコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)を含め、7名のケルベロスが無事にクオンと合流した。
「皆……すまない、恩に着る」
 信じて疑わなかった仲間の到着に、クオンの双肩が微かに和らぐ。
「番犬ども……。雑魚がどれほど群れようとも、所詮は雑魚だというのに」
 忌々しそうに、夢喰いは8名を敵と認識し身構える。
「舞えよ踊れよ……悪戯者の鱗舞曲(ロンド)……」
 一目見たなら、もう逸らせない。矢絣牡丹の着物を翻してしなやかに舞い、『怒り』を付与して敵の攻撃を誘う千里。その瞳を緋色に変じさせて。
「クオン様を救援するであります! 偽物をやっつけて、共に帰還するでありますよ!」
 歌声高らかに前衛へ「寂寞の調べ」を響かせるは、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)。
「挨拶は後、だよね。袖振り合うも多生の縁、お助けしますー」
 双極阪路(サカサザカ)の拳を叩き込み、クオンが味方の隊列で体勢を整える隙を作る熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)。
 クオンは縁のオルトロスであるアマツに庇われ、その隙にここからは防戦一方のディフェンダーから敵を屠るクラッシャーへと切り替わり、その手に武器を握り直す。
「纏めて蹴散らしてくれる!」
 夢喰いは『光炎の翼』を眩く光り輝かせ、クオン、そして千里のいる前衛を襲う。
「そうはいかねっす! くらえーっすよ!」
 コンスタンツァが愛用のリボルバー銃をド派手にぶっぱなしクイックドロウの鉛弾をブチ込んで、将が流星煌めくスターゲイザーの飛び蹴りで足止めを叩き込む。
「OK,Alright.作戦行動は迅速に……ってね! さァ、熱いバトルを始めよう!」
 緋色の光が陰影を色濃く浮かび上がらせる中、番犬達の夢喰い討伐が始まる。


「予想通り襲ってきたね……計画は順調かな……? 『秘密』を守りたければ、そう動かざるをえないだろうね……」
 高く跳躍して、ファナティックレインボウの虹色振りまく急降下蹴りによって更に『怒り』を誘いながら、千里はまるでワイルドスペースの秘密に気づいているかのような言動で挑発する。
「何の事だ。私達はもう望まない、私達はもう求めない。貴様らは、ここで死ぬだけだ」
 千里の蹴りを厚い装甲で弾き、夢喰いは興味なさそうに返す。
 伶は信頼するクオンが真正面に立って殴る同じ姿の敵を眺めつつも、といって躊躇う様子もなく立ち回り、状態異常を受けた味方へ紙兵を散布して回復させる。
「目の前にもう一人の自分がいる、とは、どういう気持ちになるものかねぇ」
 列減衰と使役減衰から完璧にとはいかないが、そこはボクスドラゴンの焔が指示通り属性インストールですかさず補う。
「助かるー、これなら外さないよー、っと!」
 パラライズから解放されたまりるが押し迫り、心通わせた鋼の鬼と共に正拳突きをお見舞いする。装甲の厚さが実に厄介だが、その表面に打撃の形を残して歪ませる。
 『怒り』に誘われた夢喰いの攻撃は千里に向かう。破壊の爆炎をに包まれた戦車が、真っ直ぐ突っ込んでくる。
「……!!」
 直撃を受けた彼女が魔人降臨の呪紋を浮かばせて自力で回復する傍ら、クリームヒルトとクオンが目配せを交わして動く。
「クリームヒルト、今だ」
「クオン様、行くであります!」
 クオンが狩人の弓で放つホーミングアローが夢喰いの纏う炎を揺らがせ、幾らか吹き飛ばす。そこにクリームヒルトが破鎧衝の一撃を加え、装甲に更にダメージを積み重ねる。
「クオンと同じ顔してるからって手加減しねっすよ! って、あれっ!?」
 装備したはずだったグラビティが見当たらず代わりにスターゲイザーを発動してしまって、結果的に敵に見切られてしまい、コンスタンツァはバランスを崩す。
 だがそこへ、伶が炎の蹴りを敵に叩き込み、すかさずフォローする。
「どうした、らしくないぜスタン」
「うぅっ、面目ねっす……!」
 味方が攻め立てているうちに体勢を立て直すコンスタンツァ。確認は大事である。
「小賢しい……!」
 夢喰いの纏う炎が勢いを取り戻し、『炎熱反応』によって回復と攻撃力の増大が行われる。赤く熱されゆく戦車、この突撃を受けたら、ただでは済まない。
「いいねえ、熱くなってきたじゃァねーか! これで、どうだ!」
 将には救出対象との面識はなくとも、漲る戦意がそれを凌駕する。
 命中率の高い電光石火の蹴りを選択し、鈍い音で申し分ないダメージを炸裂させる最強無敵のカードバトラー。敵の行動をつぶさに注視しながら戦う彼は、実に楽しげだ。
「まるでアイロンだな。耐性はつけておくが、警戒しておくといい」
「ん……わかってる……」
 足止め付与は充分と見て味方へのBS耐性付与に行動を切り替え、スターサンクチュアリの守護を与える縁の声に、千里はこくりと頷き敵を見つめる。
(「顔色にも、行動にも、これといって変化はなし……か……」)
 予想はしていたが、やはり夢喰いから目新しい情報を引き出すというのは無理なようだ。気持ちを切り替えて、彼女も同じく旋刃脚を叩き込む。パラライズの重ね掛け、有効なはずだ。
 また火花を散らし突撃してくる、赤く焼けた高温状態の戦車。
 だがその狙いは今度は、千里ではなく――。
「――っ! 皆様は、ボクが護るであります!!」
 狙われた将を庇い、重鎧で身を固めたクリームヒルトが大きな盾を構え、夢喰いの特攻を食い止めて踏ん張る。
 そんな彼女にテレビウムのフリズスキャールヴが、すぐさま応援動画でヒールとキュア。
「悪い、助かった……!」
 彼の防具耐性は敏斬、『爆炎特攻』の属性は頑破。もしこれをまともにくらっていたら、まず間違いなく撥ね飛ばされて酷いダメージを負っていただろう事は将にも分かった。
「いやーそれにしても硬いですわー、水滴岩を穿つと思って頑張らない、と……っ」
 愛用の農家手伝用草刈大鎌を雑草を刈るが如くに振るい、付与率自体は芳しくなかった破剣がたまたま宿った一撃を繰り出すまりる。
 ワイルドという単語に対して思考を巡らせたい気持ちもあるが、すべては目前の夢喰いを倒してから。
「チッ……!」
 戦車と鎧の赤変が収まる。攻撃力上昇が、ブレイクされたのだ。
「よーしっ! 今のうちっすよ!」
 飛んで跳ねて身軽な動きで敵を翻弄し、グラインドファイアの飛び蹴りを浴びせるコンスタンツァ。炎纏う敵を炎のバッドステータスで包むのは見た目の上では分かりにくいが、だが効果の方は別だ。
「盤面、掌握させてもらうぜ!」
 指天殺の突きを敵の気脈に見舞う将。ウィークポイントもあれど、足止めの重要性も把握して確実に攻める立ち回りは遜色ない。
 夢喰いは再び、『光炎の翼』の輝きを放とうとする。だが重ね掛けされたバッドステータスが功を奏し、その行動は失敗に終わり――。
 そのまま数分の攻防が応酬されたが、番犬達の作戦の方が一枚上手。
 敵の装甲の厚さからして長期戦に縺れ込んではいるものの、長引けば長引くほどジリ貧に追い込まれているのは夢喰いの側。
 夢喰いの冷徹な眼差しは、今や苛立ちと憎悪に燃えている。
「――ああ、確かに貴様は私の影だ」
 充分な状態異常が付加され動きの鈍った夢喰いに、クオンが真っ向から立ち向かう。
 凶暴な獣性を引き出す暗示を自らにかけ、彼女の闘気が更に各段上昇してゆく。
「だから教えてやる。ソレは、その姿はあくまで私の一面に過ぎん!」
 蹂躙・緋の巨獣(スカーレット・ベヒーモス)を解禁、激しい火力をもって攻め立てる!
 それへ阿吽の呼吸で連携して、龍咬地雲を再び放つ縁。
「その機動力、全て奪わせてもらう!」
 叩きつけた衝撃波が、幾多の足止めや捕縛、それにパラライズで捕らわれた戦車を襲う。
 音を立てて破壊される、大きな車輪の片側。
 夢喰いとの対峙も、恐らくは、あと僅かだ。


「おのれ……何故だ……群れねば戦えぬ、ひ弱な犬どもが!」
 熾烈な戦い、特に再三に渡る服破りによって夢喰いの銀色の甲冑はあちこち砕かれ、心臓を始めとして甲冑が覆っていた場所にはモザイクが露出している。
 ケルベロス達の戦い方が理解出来ない夢喰いは、鼻面に皺を寄せて憎々しげに唸る。
「クオン様ならそんな事言わないであります!」
「その通り。所詮は姿しか真似られねぇ劣化コピーに、勝機なんかねーよ」
 クリームヒルトと伶が迷わず告げる。仲間と共に呼吸を合わせる戦いを常に胸に置いているからこそ、常に仲間を信じて最前線に立つからこそ、彼女は強いのだと。
 心無き夢喰いとの明暗を分ける何よりも明瞭な一線。それは、信頼。
 夢喰いは残る片輪に重心を傾けてガリガリと火花散らし、ジグザグの効果も受けてやたらめったら増幅した『怒り』の主を狙う。
 積み重なったヒール不能ダメージがそろそろ限界近い中で身構える千里だが、もはや機動力という機動力を削がれた夢喰いの一撃は、アマツによって庇われた。
 ディフェンダーのサーヴァントとしての役割を全うし、一時的にその姿を消すアマツに感謝して見送り、千里は静かな声で見下すように呟く。
「これが本物の暴走者だったらもっと苦戦しているはず……本当に外見だけのハリボテだね……」
 後はもう、押し切るのみである。
「ニセモノは退場する時間っす!」
「今だ、突っ込め! 道は開いてあるッ!」
 テキサス・トルネードの大竜巻を巻き起こすコンスタンツァと、駄目押しの一手で重力を宿した蹴りを振り下ろす将が、雌雄を決するべき本物へと最後を託す。
(「戦乙女としての私。“楽園を求める求道者”としての私」)
 幾つもの己の姿を、クオンは脳裏に想い描く。――そして。
「さあ影よ! 刮目せよ! これが……これが“緋の巨獣”としての私の姿だ!!」
 巨獣の如き咆哮と共に、己の影へと突撃するクオン。
 小手先の技巧も何も無く、相手が完全に壊れるまで、緋の闘気を纏った拳を放ち続ける。
 猛攻に次ぐ猛攻。歪に潰れ、砕かれ、破裂する形。
 激しく音を立てて打ち滅ぼされ、緋の影は塵へと還る。
 それは同時に内部を照らしていた光源も四散する事となり、モザイクは夜色に包まれて元の廃ビル内部の姿へと戻った。


「どっちが影で光かなんてただのなぞなぞっす。一つ確実に言えるのは、クオンのほうが友達が多いってことっす!」
 戦い終えて、コンスタンツァ達ケルベロス一同はクオンの無事を喜ぶ。
 前例に違わず、ワイルドスペースはワイルドハントの撃破によって消滅してしまった。
 用意周到にも何名かが懐中電灯など照明となるものを持参していたため、真っ暗な廃ビル内であっても支障はないのが実に幸い。
 何かしらの手掛かりが得られないかと試した者もいたが、残念ながら収穫はない。
「ワイルドハントによる襲撃が多発しているのは、我々ケルベロスが真実に近づいていることを示すのでありましょうか?」
 これ以上の長居は無用と判断し出口へ向かう一行の中で、クリームヒルトが口に出す。
「ワイルドスペース云々って、黒幕はシャーマンズゴーストだったり……しないよね?」
 あと、ワイルドなんとか、って聞いてトランプのワイルドカードを連想したんだよねー。まりるも自身のそんな考えを皆へ話してみる。
 あるいはそうかもしれないし、そうではないのかもしれない。何にしても現場での調査行動が実を結ばない事がほぼ共通している現状では、何もかも推測でしかない。
「どうだろうな……だが私達は戦うのみ、だ」
 廃ビルを出て、冴え冴えと降り注ぐ月光の下で夜風にマントの裾をなびかせるクオン。
 改めて深く感謝の言葉を告げる彼女に、当然だ、と誰からともなく温かい笑い声が返る。
 ワイルドハントの真相に迫るのは恐らくまだ先の話。少なくとも今ではない。
 今はただ、仲間の無事を喜び、全員揃って帰還しよう。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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