ヤンキー流武闘術

作者:夏雨


「うぉらああああ! 死にさらせえぇ!」
 人気のない早朝の雑木林に唯一の人影。
 怒号と竹刀をサンドバッグに打ちつける音。
 太い木の枝には使い古されたサンドバッグが吊るされている。
 ヤンキーが好みそうな刺繍の入ったジャージ姿に坊主頭の青年は、木刀を構えてひたすらサンドバッグに打ち込みを続けていた。
「西高の近藤には絶対負けられねぇ! ぜってぇぶっ飛ばしてやる!」
 有り余る闘志のままに発奮する青年の元に、ドリームイーターの『幻武極』は現れた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 唐突に姿を見せた極に対し、青年は極に指示されるままに襲いかかる。
「なんだ、てめぇ!?」
 しばらく青年の木刀を受け続けていた極だが、傷ひとつ残らない姿で、
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 等身大の鍵の切っ先を向け、青年の胸元を貫いた。
 青年が意識を失って倒れたそばには、特攻服に耳を包んだ強面でリーゼントの青年の姿を借り、木刀を構えたドリームイーターが新たに現れた。
 特攻服のドリームイーターは木刀でサンドバッグを突き破り、中身の砂をぶちまける。木刀から放たれた攻撃の軌跡に合わせて、モザイクが漫画のような効果線を描いていた。
 木刀を見つめるドリームイーターに対し、極は言った。
「お前の武術を見せつけてきなよ」
 その一言を最後に、極は姿をくらました。
 ドリームイーターは意識を失った坊主の青年を残したまま、雑木林から立ち去っていく。


「坊主のヤンキーさんは、雑木林で喧嘩の特訓をしていたみたいです」
 雑木林で起こるてん末を説明した笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)。ねむの予測によれば、青年を襲った極は自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているらしい。
「坊主さんではモザイクを晴らせなかったようですが、代わりに彼から生み出したドリームイーターを利用して、グラビティ・チェインを集めようとしているのです」
 雑木林から人通りの多い場所に向かう前に、ドリームイーターを止めることができる。また、ドリームイーターを倒さない限り青年の意識が戻ることはない。
「利用された坊主さんは、漫画が好きだったのかもしれませんね。漫画でこう、『ズバッ』とか『バシュッ』てなったときの表現が、実際にドリームイーターの技に現れるんです! モザイクで表現されているのですが、そのモザイクは皆さんを侵食するものでもあるので注意が必要です」
 モザイクの効果線以外にも、袖の内側から自在に伸びる鎖状のモザイクを操り、相手の動きを阻害してくるという。
「雑木林なら人通りの心配はなさそうです。みんなが戦いを挑めば、やる気満々のドリームイーターは必ずのってくるはずです! グラビティ・チェインを奪うというドリームイーターの目的を阻止してください」


参加者
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
流水・破神(治療方法は物理・e23364)
黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
メイ・プロキオン(ゴメイサ・e38084)

■リプレイ


 地面に倒れたままの青年を残して、特攻服姿のドリームイーターは雑木林の外へと向かい始めた。そして、丁度いいタイミングでドリームイーターの前へと現れるケルベロスたちの姿があった。
 ドリームイーターの全貌を見据えたアンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)は粗野な口調で言った。
「おーおー、トップクって奴か。気合入ってんじゃねーか」
 アンナの横には拘束された姿のビハインドが現れ、アンナの容姿と共通する点が多く見られる。
「喧嘩したいってのはお前か? わざわざ来てやったぜ」
 好戦的な気質を示す態度の霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)。
 ドリームイーターはトウマをはじめとする顔触れを見渡した。
「オラァ! タイマン張れなのです!」
 実際には8人プラスアルファ対1人なのだが、ウイングキャットのベルをつれた八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)はそんなことは気にせず、元気よくヤンキーらしい言い回しを真似する。
「オウ、何ガンくれてるんじゃコラ」
 機械的な抑揚のなさはそのままで、小学生ヤンキー女子の凄みを見せつけるメイ・プロキオン(ゴメイサ・e38084)。
 ヤンキーの作法とやらに乗っ取るメイに合わせて、オルトロスのマーブルを従える黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)もヤンキーらしさをかもし出す。
「僕らケルベロスの目の届く範囲は僕らのシマっすよ。そこで暴れようとはいい度胸じゃねえっすかゴルァ」
「ボコボコにされねえ無駄な自身があるなら、とっととかかってこい」
 口の悪さでも悪目立ちする流水・破神(治療方法は物理・e23364)だが、小学生のあこやメイと並ぶ白を含めたドワーフ2人は、身長だけで判断すれば小学生に分類されかねない。
 150センチ以上かつ年相応の身長を有する者からしてみれば、威圧感よりも小ささが際立つ4人。
 『なんだかかわいいわね……』という言葉をひそかに飲み込み、『殺界形成』を発動する日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)は殺気の障壁を周囲へと広げていく。
「あなたの武術は喧嘩殺法ってところかな?」
 拳を構え、ミミックのスームカと共にすでに臨戦態勢のフィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)。
「私の武術は殺⼈技! 死ぬ気でかかってこいなの! 冷戦時代のエージェントだったおじいちゃんに伝授された、ロシアの軍隊格闘術に勝てるかなー?」
 フィアールカの一言に反応するように、ドリームイーターは両手で木刀を構えた。
 周囲にモヤのように発生したモザイクは、ドリームイーターの動きに合わせて形を現す。その太刀筋をなぞるようにモザイクの効果線が浮かび上がりつつ、鋭い突きがフィアールカを捉えようと迫る。


 回避行動を取るフィアールカの側面を木刀が過るが、フィアールカは怯むことなく振り下ろされる木刀を蹴りで弾く。祖母からの教育で培われたバレエの柔軟な動きはフィアールカの1つ1つの動作に現れていた。わずかな隙に踏み込むフィアールカが重心を回転させれば、勢いをつけた裏拳がドリームイーターの喉元へと命中する。一瞬遅れるドリームイーターの動きは、フィアールカに範囲外から飛び退く充分な余裕を与えた。
 スームカは、女の子らしいデザインのピンクのカバンの体からエクトプラズムを放出し、鋭利な刃を実体化してドリームイーターへと挑む。ビハインドも金縛りの念を送り込み、ドリームイーターの動きを封じようと力を合わせる。
 スームカの攻撃を木刀で受け止めるドリームイーターに対し、マーブルはすばやい動きで迫った。足元から飛び上がった拍子に木の幹を蹴りつけ、剣をくわえたマーブルはドリームイーターへと飛びかかる。僅差でスームカを押し退けたドリームイーターは、特攻服の袖の下から自在に伸びる鎖をムチのように操り、マーブルの刃を弾いてみせた。
「そのリーゼントを炎上させて、チリチリパーマにしてやんよ!」
 メイの左目から地獄の炎が揺らめくと、視線の先のドリームイーターはリーゼントを基点にして燃え盛る炎に包まれていく。
 爆発的に広がる炎にうろたえながらも、ドリームイーターはケルベロスたちの追撃に耐えていた。
 アンナや破神が続け様に攻撃を狙う間に、
「紡ぐは嵐、吹き荒れるは怒涛、呑み込むは『嵐の王』――」
 トウマはその身に強大な螺旋の力をまとい、精神を集中させた。
「『嵐獄槍:貪狼』、我が螺旋と魔⼒を以って権限せよ!!」
 トウマの周囲には螺旋の力が嵐のような気流となって現れる。
 破神の攻撃をかわした直後を狙い、トウマは防御態勢を崩さないドリームイーターへと気流の槍を叩き込む。
 特攻服の裾は暴風の衝撃を受けてぶわっとはためき、耐え切れないドリームイーターは両足を後方へと滑らせた。
 少し燃えたリーゼントの先がこんもりアフロになっているドリームイーターに気づいたあこは、
「アフロじゃないですか! ナメるんじゃねえのです!」
 本人からしてみればヤンキーっぽい売り言葉で攻めかかる。
「理解できなかったのは俺だけか?」
 あこの発言に疑問を呈さずにはいられなかった破神はつぶやいた。
 相手に対し一歩も攻撃を譲らず、進退を繰り返すあことの動向を見守りつつ、
「楽しそうで何よりっすよ」
 動物の精霊を操る白は、1本の薙刀を具現化させた。
 ウェアライダーらしい獣に近い俊敏さを発揮するあこは、木刀を振りかざす相手にも怯むことなく拳を突き出す。その線上から大きく飛び退るドリームイーターを狙い、薙刀を構えた白は相手の間合いへと深く切り込んだ。
 白の動きに機敏に反応するドリームイーターは、力強く木刀を振り向けた。木刀から放たれたモザイクは刃の波動を現し、一陣の風のごとく押し寄せる。
 羽ばたいたベルの翼は清らかな光で満ちあふれ、正面から攻撃を受け止めようとしていた白を中心に守護の力を注ぎ込んだ。
 幻影のように体を突き抜けた衝撃に圧倒されると同時に、モザイクの粘着質な圧力が白の身体を冒そうとするが、鈍る足取りは一瞬で解けた。
 勢いのままにドリームイーターへと放つ白の刃は、僅差で左肩への裂傷を刻む。


 相手の木刀さばきもさることながら、袖口から自在に伸びる鎖の攻撃もケルベロスたちの動きを阻害する。互いの猛攻に応えれば蓄積される傷は絶えないもので、負傷した者の元へ満面の笑みを浮かべた遥彼は忍び寄る。
 ヤンデレの性質を覗かせる笑顔の裏に剣を隠し、遥彼は棒状の三角の剣身を掲げ、後ずさるメイとの距離を詰める。
「ふふふ、心配ないわ。流れる⾎の⾚は愛の証、流れれば流れるほどに愛しさは降り積もり――」
 詩のように言葉を紡ぐ遥彼の陶酔し切った様子に対し、メイは制止しながら言った。
「治療してくれる者の目ではありません」
「やがて貴⽅を貪り喰らう、澱になるの――♪」
 ヤンデレの極みのごとく患部を突き刺す遥彼だが、非常に心臓に悪い愛ある方法で傷を癒す能力を注入しにかかる。
「さあ、私のミセリコルデで優しく癒してあげる」
 本人に決して悪気はないものの、遥彼の手法に戦慄する者らは、
「アメ! 金平糖をちょうだい!」
「金平糖を寄こしてください!」
 進んでアンナからの支援を求める。アンナのグラビティの一部でもある金平糖は、食べた者の生命力を大いに養う。
「求められる理由が複雑なんだが……」
 そう言いつつも支援に応じるアンナと、傷を受けた者に笑顔で剣先を向ける遥彼を見比べ、破神は言った。
「嫌ならとっととぶちのめせばいいだけだ」
 チェーンソー剣を軽々と掲げる破神は、傷ひとつつかないドリームイーターの木刀とかち合う。互いに交差させる武器で衝撃を受け止め合えば、剣身を翻す破神の刃は更にドリームイーターの懐へと滑り込み、表面すれすれを過ぎった。相手を上回るスピードで切り返された刃は、薙ぎ払われる寸前のドリームイーターの胸元に真っ赤な筋を刻んだ。
 鎖を振り回してそれ以上の攻撃を妨げるドリームイーターに対し、
「喧嘩ならやっぱ男同士でだろ、女子にやられてばっかじゃ不良の沽券に関わるもんなァ」
 トウマは螺旋の力を込めた拳を構え、臆することなく向かっていく。
「ここで男をあげてみなァ!」
 振り抜かれた鎖はトウマに向けられるが、トウマが触れただけで鎖は影響を受け、ドリームイーターの体を傾けるほどに強力な力で弾かれた。
 鎖は真横に払われ、突破する余地が生まれる。ビハインドはトウマの道筋を確保するべく、ポルターガイストを引き起こす。複数のつぶてが地面から浮かび上がり、ドリームイーターを狙って飛び出す中、トウマは螺旋の力を叩き込もうと拳を突き出した。
 到達する攻撃はドリームイーターを突き飛ばし、その体は背後の木の幹へと叩きつけられる。
 格好や構えだけは持ち直したように見えても、ドリームイーターの鈍る動きは確実にダメージの蓄積を現している。
 あとひと押しと踏み込む者らに続くメイの行く手に、木刀から放たれたモザイクの波動が迫った。あこは反射的にその線上へと飛び出し、体を張って受け止める。
「……ご飯がある限り、あこは倒れないのです!」
 そう言って、あこは手品のように空間からサバの水煮缶を出して見せる。


 あこのお蔭で影響をまぬがれた直後、背後から飛び出すメイは容赦なくドリームイーターへと襲いかかる。限界を覗かせながらも足掻き続けるドリームイーターを相手に、連続で繰り出されるメイの回し蹴りは炎を吹き、翻弄されるドリームイーターを追い詰めていく。
 隙を見て反撃に出るドリームイーターの動きを読み、後退するメイから攻手を引き継いだ破神は、チェーンソー剣を大きく振り回す。斬りつけた衝撃は木刀で防がれるものの、破神はそのまま体を回転させた勢いで強烈な蹴りをドリームイーターに命中させた。
 腹部に蹴り込まれた瞬間から、苦痛に悶えるように体を屈めた状態を見せるドリームイーターを見て、破神は余計に相手を見下す。
「ハッ、クソガキの真似をして振るう武術なんぞ、俺様に通⽤する訳ねえぜ。⼤⼈しく消えろ」
 観念しろと言いたげに包囲を狭めるケルベロスたち。だが、抵抗を続けるドリームイーターは、守備の要として前に出る白に振り回す鎖を向ける。
 巻きつけた鎖で白を引きずり回そうとするが、
「おいおい……喧嘩に正々堂々しろたー⾔わねぇけどよ――」
 すばやく鎖の根元へと回り込んでいくアンナは、木刀を持つ手を蹴りつけてはね退けた後、鎖を伸ばすドリームイーターの腕をつかみ、引き倒すように体重をかけ、
「ちょいと無粋だぜ」
 その拍子にアンナの鋭い蹴りがドリームイーターの首筋へと入った。ドリームイーターは傾く体を必死に支えながらも、よろける足取りで木刀を杖代わりにする。
「とっておきで締めてあげるよ! これなるは⼥神の舞、流れし脚はヴォルガの激流!」
 ――サラスヴァティー・サーンクツィイ!
 助走をつける直前にフィアールカは言い放ち、体操選手のように全身を傾けて前転する体は伸びやかに地面を跳ね、同じように首筋を狙うかかと落としがドリームイーターに追討ちをかける。そこからは目で追うこともままならないスピードで、フィアールカの蹴り技は続く。ドリームイーターの体を一周するようにして、蹴りつけた先に回ってはまた蹴りつけの繰り返しの動きで円を描く軌跡は舞うような姿を見せた。
 全身を打ちのめされたドリームイーターは遂にその体を地面に預け、次第に現れるモザイクの淀みの中に沈んでいく。そして、霧散するモザイクの向こうに消滅した。

 ケルベロス一同は、倒れたままで目を覚まさない坊主の青年の様子を覗き込んでいた。
「おーい、おーい、そこの髪の無いお兄さん⼤丈夫?」
 フィアールカは屈んで青年を起こそうとする。
 やがて半開きになる青年の両目の前に、3本の指を立てて、
「何本か⾒える? 名前⾔える? お家帰れる?」
 心配そうにしていたフィアールカだが、目を見開いた青年は木刀を握りしめて急に起き上がる。
「うをぉぉぉぉ!? 俺はまだ負けてねえぞー! かかってこいやぁぁ!」
 幻武極との続きに臨んでいるつもりのようで、青年は木刀を振り回す。一瞬の混乱は起きたものの、トウマは瞬時の判断で行動を起こす。
 トウマの拳は青年のみぞおち辺りに命中し、青年は「ぐっ……ぅ!」とうめいた後にまた気絶した。
「一応聞くっすけど、殺してないっすよね?」
 シャレにならない疑念を抱いた白に対し、トウマは即座に答えた。
「ちゃんと手加減してるってェ!」
 『一応、俺も医者だし』と、トウマはぼそりと付け足した。
「本気で俺らと殴り合いしたら、流石に死にそうだな」
 一応の手当を施される青年を見つめながら、破神はつぶやいた。

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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