(「この辺だと思うのですが……」)
倒壊したビルの中を、一人歩く八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)。
そこは街近くにありながら未だ復旧の手が加えられず、普段ガラの悪い連中のたまり場になっているということで誰も近づかない場所……。
別件でこの辺りに訪れていた彼女は、ただなんとなく、何かに引き寄せられるようにこの場所が気になり調査を進めていた。
廃墟の2階に上がり通路を曲がったところで、異様な一角を見つける。
モザイク化した空間。
「やっぱり。直感は、正しかったようですね」
1部屋分が切り取られたように変異していた。
外から中の様子を探ろうとしたものの確認ができない。
意を決し中に入ると……そこは、建物の壁や置いてあったであろう机などがバラバラにされ組み合わされたような奇怪な場所で、まとわりつくような粘性の液体に満たされていた。
すると、その中に気を失った少年少女達が数人捕らわれ横たわっている。
「ここは、一体……?!」
「……このワイルドスペースを発見できるとは、まさか、この姿に因縁のある者なのですか?」
驚く鎮紅の前に姿を現したのは……暗く沈んだ瞳……見覚えのあるその姿は『私』であって『私』ではない。
「ですが、今、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいきません。あなたには、ワイルドハントである私の手で死んでもらいます!」
●ヘリオンにて
皇・基(en0229)は、集まったケルベロスの仲間達を前に地図を広げながら、危急の要件を告げる。
「気になることがあるからと単身調査を進めていた八神さんが、ドリームイーターの襲撃を受けたようなのです。敵は、自らを『ワイルドハント』と名乗っており廃ビルの一室をモザイク化し、その内部で何かを行っているようなのです。このままでは八神さんの命が危ない。急ぎ救援に向かいワイルドハントを名乗るドリームイーターの撃破をお願いします」
基が言うには、戦闘が行われるのは特殊な空間ではあるものの戦闘には全く支障が無いとの事。
敵は、手にする剣で心を抉り、状態異常や回復の手段も持ち合わせているらしい。
「ヘリオライダーの私でも予知できなかった事件を、八神さんが調査で発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれません。加えて、敵は『ワイルド』の力を調査されることを恐れているのかもしれません。ワイルドハントを倒し、無事に八神さんを救い出すこと、どうぞよろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721) |
燈家・陽葉(光響射て・e02459) |
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196) |
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) |
暮葉・守人(狼影・e12145) |
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875) |
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168) |
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080) |
●ワイルドスペース
そこは、歪、という表現がまさに似合いの場所だった。
まとわりつくような液体に包まれているというのに息も出来るし動きにも支障がない。
切り取られバラバラにされた部屋の風景は、組み合わないパズルのピースがばら撒かれているようで……形を成さないこの空間で、不自然なほど同じであるその姿だけが、確固たる存在を主張している。
対峙するのは『私』であって『私でない者』だ。
「其の彩、鎮静の蒼の来歴も知らず、ただ真似るというのですか」
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)は、前に立つワイルドハントを名乗るものに向かって、静かにそう発する。
まるで鏡越しに映る、色違いの自分を見ているようだ。
「真似る、とは? この姿形に意味を持たせているのは貴方……この姿の来歴などに、私は興味はありません。 ただ、問題は貴方がここにいる、ということ。ワイルドスペースに不要な貴方が存在している。不愉快です」
ワイルドハントはそう言うと、二振りのダガーナイフを構える。
それに応じるように、鎮紅も愛用の深紅のダガーナイフ『ユーフォリア』を構えた。
「……言われるまでもなく、実に、不愉快です。見るに堪えない。こんな戯曲は、早々に終わらせましょう」
刀身に、燃えあがる炎が宿る。
床とも地面とも言えない地を、踏み込み前に躍り出た鎮紅は敵に一撃を浴びせる。
確かな手応えが伝わるが、敵は動じる様子を見せない。
顔色ひとつかえず繰り出すのは、鎮紅の使う技とは、まったく別の攻撃だった。
(「くっ、このモザイクを飛ばす技、ドリームイーターそのもの……技まで同じ、というわけではないのですね。 それならば、何故姿形を私に似せる必要があったのでしょう。 それに……」)
一瞬、鎮紅は倒れている少年少女に目を向けた。
(「彼らは、何故この場所に?」)
敵がワイルドスペースと呼ぶこの空間に、自分の他にも一人の少女と二人の少年が居ることに鎮紅は気がついていた。
気を失っている様子で、動く気配はない。
「」
彼らが見た目『悪そう』な格好をしていることを考えると、もともとこのあたりに集まっていた仲間同士なのだろう。
「あなたは、ここで何をしようとしているのです?」
「私は、成さねばならないことを成そうとしている。ただ、それだけです」
ワイルドハントは、明確な答えを返さない。
(「間違ってここに迷い込み、敵に遭遇し気を失ったのか。それとも、敵が彼らに狙いを定め襲われ捕まったのか……知りたいところですが、私が彼らを気にかけていると思われるわけにも行きませんね。ここに居るのが私一人である以上、彼らを護れるのも、私だけ」)
それとなく、敵とぶつかる位置を変え、彼らを背にかばいながら、鎮紅はユーフォリアを握る手に力を込める。
●廃墟へ
「こんな場所に、ほんとにいるのかぁ?」
暮葉・守人(狼影・e12145)が、辺りを見回しそう言った。
倒壊した建物が立ち並ぶ、この場所。
「まったく、フラリと一人で行きおってからに! さっさと助けに行くぞい!」
「情報では、この辺りです、早く合流したいところですね」
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)の言葉に、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が答える。
「一人で戦っているかと思うと、心配だ」
親しい友人である鎮紅の身を案じそう言った四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)。
それは、この場に居る皆が同じ思いだった。
「無茶をしたものだ。最近、なにかとワイルドハントとかいうのが動いているようだが、そこに一般人も居るようだ。救助はこのライダーチェインに任せたまえ」
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)が言った。
「同じ師団の仲間だもの、助けに行かないワケがないよね!」
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)の言葉に燈家・陽葉(光響射て・e02459)も頷く。
「ええ。 皆のアイドルやがみんをほうっておくわけにはいきませんから」
一人先行している仲間のために、ケルベロスの仲間達は教えられた場所へ急ぐ。
倒壊した壁や、壊れたままになっている道路。
こんな何もない場所に入り込もうなどと、普通は思わないだろう。
やがて、それらしい廃屋を見つけたケルベロスの仲間たちは、階段を見つけると急ぎ二階へと駆け上がる。
「どっちかしら?」
通路が二手にわかれている。
陽葉が耳をすませた。
僅かに、ではあるが右手から物音がするような……。
「こっち、じゃないかな」
仲間達は、顔を見合わせ駆け出すと、通路を曲がる。
●救援
「ハァ、ハァ」
ガクリ、と膝をついた鎮紅。
それを見下すように見下ろして、ワイルドハントは言った。
「もう終わりにしましょう。 消えなさい」
その時だった。
「ここかぁぁ! 八神さん……ッ!!」
守人が『Belzebuth』を手にワイルドスペースの中へと飛び込んできた。
「八神さん、助けに来たよ!」
ヒールドローンを飛ばし、そう声をかけるモモ。
「この光を捧げます!」
払暁の矢の光に包まれ、鎮紅の傷がみるみる癒えていく。
「やがみん、ひとりで問題解決しようだなんてズルいぞ。 皆と一緒にきたよ!」
「間に合ったようですね、遅くなって申し訳ありません」
ユウマが、横に立ち並びそう声をかけるといつもと変わらぬ表情で頷いた鎮紅見て、微笑み頷き返す。
敵懐に飛び込むと、白鞘から刀身抜き放ち斬撃を浴びせる幽梨。
ワイルドハントが動きを止める。
「やれやれ……アクティブな妹を持つと大変だよね。変身!」
颯爽とクラヴィクを駆り現れたライゼル。
ワイルドスペースに倒れる少年少女を背に庇い、敵に向き合う。
「このライダーチェインが来たからには、もう大丈夫だ」
「いくぞい!」
豪快で快活な声とともに、ソルヴィンが猛烈な勢いで敵を殴り倒す。
「おお、本当にそっくりじゃなぁ……殴った後じゃがの! ふはは!! 見た目は同じであろうとも、わしの地獄の目は魂を見透かす。そんなもので誤魔化されたりせんわ。と……そうじゃった」
ソルヴィンが鎮紅を見ていたずらっぽくニカっと笑う。
「八神よ……お主は勝手に敵地に潜り込んだ罰として、後でアレじゃ」
ケルベロスの仲間達が救援に駆けつけたことで、これまでのワイルドハントの優勢が一気に崩される。
次第に、険しい表情を浮かべるワイルドハント。
敵に肉薄し、迫る守人。
未知の敵を前に、姿が何であろうと攻撃の手を緩める気配は一切ない。
「一つ聞くわ。貴方、実は欠損要素が無いドリームイーターじゃないの?」
モモが問いかける。
「私は、ワイルドハント、ただそれだけです」
「『地獄』って知ってる? 『パッチワーク』のこと、何も知らないかしら?」
「何を知り、何を知らないか、そんなことは今問題ではありません。 私の答えは、貴方達には早急に消えてもらう必要がある、ということだけです」
「話し合いには応じない、みたいだね」
モモと敵とのやり取りを前に、陽葉が言った。
(「そうかんたんにボロを出すタイプの敵では無い、ということかな。こちらも、優勢だからって気を抜く訳にはいかないね」)
敵はモザイクを飛ばし攻撃を仕掛ける。
「その攻撃は通しません……!」
その軌道は幽梨を狙っていたが、すかさず大剣を盾代わりに攻撃をいなし受け止めるユウマ。
「もうひと押し、といたところでしょうか。気を引き締めていきましょう!」
その言葉に、頷く幽梨。
「ワイルドハントだか知らないけどさ。 余程のモンかと思えば、ガワだけか? あんた等ただの仮装集団なわけ?」
せっかく同じ姿なら、剣術で勝負をしたい。
そんな思いが幽梨にはあったのかもしれない。
敵の使う技が鎮紅のものでは無いということに多少落胆しつつ、煽るような口調でそう問い詰めるのは、やはり他の仲間と同じように、『ワイルド』に関しての情報が欲しいからだ。
しかし、敵はそれに関しては的を得るような答えを返さなかった。
●謎を残して
鎮紅は、その刀身に魔力を纏わせた。
「其の歪み、断ち切ります」
風に舞い散る花弁のように、深紅の光刃が敵の体を何度も断つ。
「少年少女からワイルドの力を……一体何個目じゃ?」
「……」
「……まあよい、それなら倒すまでじゃ!」
ソルヴィンの狙いすました一撃。
それに呼応するように、飛び出した守人。
「悪いけど、終わりだ! 全力で逝かせてやるよ!! 我一陣の風となる。 貫き穿ち切り払う暴風の斬撃!」
緑色のオーラを纏い、渾身の一撃を振り下ろす。
暴風のような斬風が収まると、そこには、地に倒れるワイルドハントの姿があった。
敵は、倒された。
すると、そこにあったワイルドハントの姿も、ワイルドスペースも、掻き消えるように何も無くなり、そこは元通りただの廃屋の一室へと戻る。
「終わったね。 そうだ、あの子達……!」
幽梨は、そう言って気を失っていた少年少女に近寄る。
ワイルドスペースが消えると間もなく、彼らも意識を取り戻した。
しかし、まだ状況がわからないようで、年相応に慌てた様子でワタワタしている。
「あぁ、落ちつて。 もう大丈夫ですから」
戦闘中とはその雰囲気がうって変わり、少し控えめに穏やかに微笑むと、ユウマは言った。
「自分たちは、ケルベロスです。先程まで、貴方達はデウスエクスに捕らえられていたんですよ」
「あ、ほらこれアゲル」
モモはポケットからチョコや飴といったお菓子を取り出し彼らに手渡しつつ尋ねた。
「襲われたときのこと、何か覚えてない?」
彼らは首を横に振る。
どうやら、敵に襲われたという認識も無いらしい。
「ふむ、手がかりは何もなし、か。 まぁ、しかし君たちが無事で良かった。脅威は去ったよ。ボクの妹のおかげさ」
ライゼルは鎮紅に向き直る。
そして、その頬を包み込むように手を伸ばし……ふに~っとその頬を引っ張った。
「皆を心配させた罰だよ。たてたてよこよこぶるどっぐー♪」
「お兄様、それくらいにしてあげて。やがみんも、ちゃんと反省してるよ」
罰、といいつつその無事を喜ぶようにフニフニと頬を引っ張るその様子を微笑みながら眺め、そう言った陽葉。
ソルヴィンが言う。
「結局、なんだったのかのぅ。 ワシもワイルドハント、とかにジョブチェンジすれば何か分かるかの。『応せよワイルドスペース、わしをモザイクを操る戦士に変えい!!』 ……ま、無理な話じゃな。 ともかく皆無事でなによりじゃ!」
そんな仲間達の微笑ましいやりとりを眺めていたユウマが言った。
「謎解きは、またの機会に持ち越し、といったところでしょうか。では、そろそろここを離れましょう。きっと作戦成功の報告をまっているでしょうから」
作者:stera |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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