ここ数年、やたらと『ハロウィン』という言葉を聞くようになった。
恋人や友人と楽しむ日らしいのだが、そんなトコロへ一緒に往ける相手なんていない。
本当は、往ってみたい。
けど当日は仕事もあるし、きっと今年も、気付いたらその日は終わっているのだろう。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか」
「ぇ……」
そんなことを考えていた青年の胸に、銀色の大きな鍵が穿たれる。
にたりと口角を上げる、赤い頭巾を被った少女。
「その夢、叶えてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
言い終わらないうちに、青年はその場へと倒れる。
代わりに立っていたのは、黒い頭巾とマント姿の『死神』だった。
「それじゃ皆さん、いまから説明するっすよ!」
話を切り出すのは、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)だ。
藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査により、事件が発覚したのだとか。
「日本各地でドリームイーターが暗躍しているっす! ハロウィンを、本当は楽しみたいのに楽しめない……って感じの人達がドリームイーターにされちゃっているらしいっす!」
規模ははっきりしないが、行動を起こすのはハロウィンパーティーの当日。
世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場に、現れるということは。
「つまり、自分達の計画している、鎌倉のハロウィンパーティー会場ってことっす!」
ハロウィンドリームイーターを撃破しなければ、ハロウィンパーティーも始められない。
しょんぼりな1日になってしまう、ということなのだ。
「皆さんに倒してほしいのは、こんな感じのドリームイーターっす!」
言って、ダンテは白い紙を拡げる。
黒い頭巾とマントを被り、大鎌を持つ死神の絵。
「全身が、モザイクに覆われているっすよ! ただ、大鎌はあれっす、小道具っすね~」
攻撃に使うのは、あくまでも『鍵』と『モザイク』だ。
鍵を穿たれれば物理的なダメージとともに、トラウマを暴かれてしまう。
モザイクは、喰らった者の知識や欲望を奪い去る効果を有している。
会場の外には、公園やら学校やら、戦っても大丈夫そうな場所も多い。
「ってことで、ドリームイーターの撃破をよろしくお願いするっす! 皆さんと、盛大にハロウィンパーティーを楽しみたいっす!」
終わりにダンテは、くりぬいた南瓜をとりだした。
準備は、着々と進んでいる。
参加者 | |
---|---|
陶・流石(撃鉄歯・e00001) |
ベルベルベルベルベ・ルベルベルベルベル(九つの鐘に想いを込めて・e00337) |
ジャミラ・ロサ(メディカル必殺料理メイドロボ・e00725) |
芥川・辰乃(終われない物語・e00816) |
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526) |
神楽・ヒナキ(くれなゐの風花・e02589) |
皇・絶華(影月・e04491) |
バドル・ディウブ(月下靡刃・e13505) |
●壱
華やかに飾り付けられたハロウィンパーティー会場の外へ、ケルベロス達は集まった。
くり抜かれた南瓜が、怪しく笑っている。
「せっかくの復興かねてのパレードを邪魔なんてな。そんな下ごしらえをしたドリームイーターを殴り呼ばしたいところだが、まずは目の前の敵から確実に倒していかないとな」
「では、私達は先行しておく」
早々に、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)と バドル・ディウブ(月下靡刃・e13505) は会場をあとにした。
戦場となるであろう場所の準備を、進めるためである。
残る6名は、ドリームイーターをその場所まで誘導する役割を担っていた。
「皆さん、着替えはバッチリですか?」
神楽・ヒナキ(くれなゐの風花・e02589)の呼びかけを受け、皆の首が縦に触れる。
衣装は何時もと変わらず、紅の着物に真紅の椿。
表情もそのまま、いつもどおりをキープしていた。
「ハロウィンとは、仮装するお祭りだと、伺いましたので。間違っては、おりませんでしょうか?」
真黒いドレスと三角帽子を身に纏い、装うは魔女の姿。
ツレのボクスドラゴンも白いハンカチを被り、お化けに扮している。
芥川・辰乃(終われない物語・e00816)の周りを、ふわりふわりと漂っていた。
「お、魔女同士、仲よくしようぜ!?」
「はい、よろしくお願いいたします」
そんな辰乃の肩に軽く触れて、陶・流石(撃鉄歯・e00001)が笑う。
角や翼などドラゴニアンの特徴は収納したうえで、魔女の仮装をしていた。
手に持つ箒で飛べそうなくらい、元気である。
「メイドさん、ですね」
「ヒナキの仰るとおりであります!」
ジャミラ・ロサ(メディカル必殺料理メイドロボ・e00725) は、普段どおりのメイド服に身を包んでいた。
ただエプロンだけは、南瓜プリントのハロウィン仕様。
「お菓子を入れる籠も人数分準備してあるから!」
そう言って、ベルベルベルベルベ・ルベルベルベルベル(九つの鐘に想いを込めて・e00337)は、籠を傾けてみせる。
美味しそうな焼き菓子が、たくあん並べられていた。
ひとつ食べれば、にっこり笑顔になれる。
「さて、道順の確認をしておこうか」
白い耳に、白い尻尾。
狼男、もとい、皇・絶華(影月・e04491)は、その場で地図を拡げてみせた。
先行組に渡したものの原本で、通るべき道には蛍光ペンで線画引かれている。
「いまは此処。こう行って、このトンネルを潜れば到着だ」
「成程、憶えたよ!」
絶華の指を眼で辿れば、行き先には小学校。
既に、学校側に話はとおしてある。
南瓜を小脇に抱えて、ベルベルベルベルベも頷いた。
「誰もいない学校か、新鮮だな」
「確かに。それに、いつもより広く見えるのな」
さて、その小学校ではというと。
バドルと真琴は、【キープアウトテープ】を周囲に張り巡らされている。
ちなみに学校関係者には、学校へ入らぬよう伝達済みだ。
踊り子は、普段着のままのバドル。
真琴もフード付きの黒マントを羽織って、ハロウィンを演出している。
準備万端。
あとは、敵の到着を待つばかりだ。
●弐
会場外にてわいわい過ごしていたケルベロス達の前に、それは現れた。
死神装束から覗く顔や手は、総てモザイクに覆われている。
いま、どのような感情を抱いているのかすら、読みとれない。
「それでは私が、皆を本日のメイン会場へ案内するとしよう!」
「わぁい、楽しみだね!」
「はい」
待機組全員と、瞬時にアイコンタクトをとって。
先程の地図を頼りに、絶華が移動を始める。
楽しげにあとをついていく、ベルベルベルベルベ。
歩くたびに『心のゴールドベル』が、済んだ音を響かせる。
ヒナキも表現しないだけで、心のなかではわくわくしていた。
赤の瞳は真っ直ぐに、前を行く絶華の背を見詰めている。
「各々方、準備はOK牧場でありますか? それではレッツラゴーであります! さぁさぁ、貴方もご一緒にであります」
ジャミラの呼びかけを、理解したのかしていないのか。
ドリームイーターも、1歩を踏み出した。
作戦は、誘導段階へと移行する。
「会場には、お菓子や飲み物もあるそうですよ」
誰か1人にというわけではなく、殿のポジションから辰乃が告げた。
自身も焼き菓子や『スナック』に飲み物は紅茶などを持参している。
途中で抜け出されないよう、如何に興味を惹くかということがとても重要だった。
そのまま歩くこと、約10分。
「お、待っていだぞ!」
「パーティー会場へようこそ!」
テープを張り終えて一息吐いたタイミングで、仲間達の到着だ。
受付係のように、バドルも真琴も対応してみせる。
念願の会場到着で、皆のテンションも上昇……否。
寧ろ、緊張感すら漂っていた。
「てめぇさ、一緒にハロウィンを楽しむ気はねぇか?」
流石の言葉にドリームイーターの首が振れることは、予想どおり、ない。
やはり戦うしかないのだと、自分に言い聞かせた。
●参
開けておいた入口も完全にテープで塞ぎ、ドリームイーターを取り囲む。
絶対に逃がすまいと、ケルベロス達は気合いを入れ直した。
「ドリームイーターは特別嫌いなデウスエクスだよ。いらない想いなんてないんだ。奴らのいいようにはさせない」
あくまでも敵は、バックにいる赤い頭巾の少女。
ベルベルベルベルベは、カラフルなハンドベルを華麗に鳴らした。
音速の波動が、その身に9つの傷を負わせる。
「Trick and Destroy……お菓子をあげる代わりに殲滅させてもらうでありますよ」
言い終わると同時に、ジャミラはスイッチを押した。
瞬間的に貼り付けていた『見えない爆弾』が、轟音ととみに爆発する。
爆風で、ピンクの髪が左になびいた。
「南瓜の催事は、皆が、楽しみにしていたお祭りです。無粋な企みは、ご遠慮いただきましょうか。棗、お願いします」
名を呼ばれたボクスドラゴンが、封印箱のままドリームイーターへと突撃する。
そのあいだに、前衛のメンバーへ霊力を帯びた紙兵を散布する辰乃。
仲間達を護るために、バッドステータスにたいする耐性を付与した。
「素敵な仮装だが……被ったな。どっちが死神らしいか、試してみるか?」
首を傾げつつ、真琴は思い切り大地を蹴る。
重たい跳び蹴りを、腹部へと命中させた。
抑えてよろよろと後退するが、此処はドリームイーターも踏ん張りドコロ。
挑戦は受けたと言わんばかりに、頭に貼り付いたそれは、真琴の知識を奪っていった。
「私も、いままでハロウィンに参加したことはないんです。誰かと楽しむ祭事に参加したことも、実はありません。だからこそ、こんな悪夢に囚われないで、私達とハロウィンを楽しんで欲しい。助けますよ。絶対に」
そんな独白の最中、掌へと意識を集中させる。
いまにも総てを呑み込まんとするドラゴンの幻影を、ヒナキは放った。
ドリームイーターを倒して、夢の持ち主を助けたいのだと、強く想う。
「てめぇが楽しめないからって、他の連中まで巻き込むたぁ気に食わねぇな。楽しめねぇと嘆く前に、てめぇのやれること全部やったのか?」
その気持ちは皆に共通しており、流石も訴えるように叫んだ。
祈りとともに、引き金を引く。
鉄棒に当てた弾は勢いよく跳ね返り、死角を穿った。
「ハロウィンが嫌いなようだが、私達を潰さねばそんな暴挙が適うと思うなよ?」
言いながらも絶華は、勝利しか視ていない。
『三重臨界』に雷の霊力を纏わせ、腕を貫いた。
パリパリと、乾いた音が残り鳴る。
「悪いな、キュア以外の解毒方法は私も知らん」
事前情報によれば、ドリームイーターは回復するための術を持っていない。
よって、バドルの喰らわせた毒は、倒れるまで付きまとうことになるのだ。
より確実な結末のために、少しずつダメージを与えている。
「全ての想いをこの鐘に! 鳴り響け私の九重奏!」
情熱的に、それでいて時折切なく。
戦場に、煌びやかな鐘の音が響き渡る。
「対象を認識……全兵装のリミッターを解除……照準を固定……鎮圧、開始。無限の硝煙と弾幕の流れの中で溺れてください」
その身に内蔵された、総ての火器のリミッターを解除。
大量の縦断は、回避することを赦さない。
「輪胴を回し――今、運命は廻る」
更に飛来する魔弾が、ドリームイーターの身を射貫く。
一緒に前へ進んでいこうと、願いながら。
「響け、壮麗の調べ。生命の息吹、来たれっ!」
背の蒼翼で羽ばたけば、その風は暖かい蒼光の調べとなる。
仲間のダメージを、優しく回復させた。
「負けませんよ。楽しいパーティが待ってるんですからね」
宣言してから、古代語を詠唱する。
放たれた光線が、ドリームイーターの足の動きを鈍らせた。
「おう、目ぇ逸らしてんじゃねぇよ」
冷たく鋭く、射抜くような視線。
睨まれればおろおろして、挙動不審になる。
「我が身……一の刃成り……彼の身に刻むのは鮮血の華……!」
擦れ違うと見せかけて懐へ入るのは、ドリームイーターの現状からして容易だった。
刹那、血の華を咲かせる。
「その格好にふさわしい冥府に叩き落としてやる、感謝するんだな。先に逝って待っていろ……何れ、私もそこに堕ちるだろうからな」
最期のお別れを告げて、ナイフはその胸部へと突き立てられた。
ようやっと皆は、勝利を手にしたのだった。
●肆
ドリームイーターは倒れ、舞っていた塵も落ち着いていく。
徐々に訪れる平穏へ、ケルベロス達は暫し、身を委ねた。
「うむぅ……ん!?」
倒れた身体を観察していた絶華だが、思わず声をあげる。
全身が、白い光に包まれたのだ。
あとに残っていたのは、南瓜。
「おぉ!?」
「まさかの展開だな」
バルドとベルベルベルベルベが驚いたのも、無理はない。
暫し様子を伺うも、これ以上は何事も起こらなそう。
「それじゃ、元通りに片付けよう」
「そうだな! さっさと終わらせてパーティーに参加しようぜ!」
真琴と流石の指示のもと、さくさくと原状復帰がなされていく。
建物や遊具にも被害はなく、すぐに終了。
「作戦は完了であります。お疲れサマンサでありました、皆様。そしてハッピーハロウィン……南瓜のシフォンケーキをお持ち帰りくださいであります」
とり出すシフォンケーキを、1人ひとりに手渡すジャミラ。
皆の喜ぶ表情が、なにより嬉しい。
「願わくば、皆によきハロウィンを……」
「楽しいことはみんなで分かちあうといいと言いますし、ね」
無事の終焉に、心から安堵する辰乃とヒナキ。
これからまだまだ長い人生。
何度でも、楽しいコトを分かち合える幸福が訪れるように。
心のなかで、祈り続けるのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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