ワイルドバレット

作者:つじ

●連なる鎖
 郊外と呼ぶのも憚られるような林の奥、うら寂れた廃工場。調査の末に辿り着いたそこは、見覚えのあるモザイクに覆われていた。
「引きが良い……というのかな、こういう場合」
 薄く色の付いたサングラス奥の瞳を揺らし、レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)がそう呟く。
 ワイルドスペース、その場所を既に訪れたことのある彼には、この先に何が待つのか大体予想できている。その時は、調査に当たっていた仲間の『それ』と遭遇したわけだが……。
「放って帰る、ってのはナシだよね、きっと」
 この辺りは、所謂暴走族の類が根城にしていた過去もあるという。人の訪れる可能性はゼロではない。それに、既に中に人が居た場合は? 頭を巡る可能性を吟味した末、彼はそのモザイクの中へと踏み込んでいった。
「ここも変わらず、か」
 廃工場の様を乱雑に切り貼りしたような光景に、空間を満たす謎の液体。呼吸も発声も妨げられないことを確認し、レスターは武装の位置を確かめる。
 予感の通り、彼と『それ』の目が合った。
「このワイルドスペースを発見できるとはね。……そうか、君はこの姿に因縁があるんだね?」
 じゃらり、と鎖が床を叩く音がする。現れたその男は、両手、両足を鎖で繋がれていた。
 赤い翼に、赤茶の瞳。握られた銃の周りには、闇色の蝶がいくつも飛び交っている。
「……まぁ、そうだね」
 苦い顔で、レスターがそう返す。相対した『それ』の右半身を覆う鎖の入れ墨、それは彼の身体にも同じように刻まれているものだ。
「そういうことか。でも、今ここの秘密を漏らすわけにはいかないんだ。君はワイルドハントたる僕の手で、仕留めさせてもらうよ」
 敵の銃口が上がるのと同時に、レスターもまた銃把を握る。見慣れた顔に銃口を向けるのは、きっと奇妙な気分だろう。
 二つの射線が交錯し、銃火がワイルドスペースを彩り始めた。


「皆さん、ワイルドハントが出ましたよ! 急いでください!!」
 嘴のようなハンドスピーカーを手に、白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)がケルベロス達に呼び掛ける。
 話によれば、ワイルドハントについて調査を行っていたレスターが、ドリームイーターの襲撃を受けているのだという。
「現場となった廃工場は、既にモザイクで覆われていたようですが……レスターさんはその中でワイルドハントを名乗るドリームイーターと遭遇したみたいです!」
 調査も大事ではあるが、このままでは彼の命が危ない。急ぎ救援に向かい、このドリームイーターを撃破する必要があるだろう。幸い、バックアップの準備はできていたため、素早く現地乗り込むことは可能である。
「敵対するワイルドハントは、銃を使用した戦闘を得意としているようです。複数の相手を薙ぎ払うように連射したり、貫くように一点を狙ってきたり……状況に応じた射撃をしてくることでしょう!」
 派手さはないが、的確。銃の特性を活かすという意味ではそれが一番なのかもしれない。
「その他、鎖を用いた近接攻撃もしかけてきます。銃と違って遠くには届かない反面、やたらと威力が高いようですので気を付けてください!」
 また、合流時点でレスターは多少なりと消耗していると考えられる。適切なフォローが必要になるだろう。そうして注意を促すと、慧斗はヘリオンの方へと一同を押し出し始めた。
「僕達でも予知できなかった事件を、レスターさんが調査で発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれません。この成果を無駄にしないためにも! 無事に! 帰ってきてください!!」
 ケルベロスらの背に向けて、慧斗はそう激励の言葉を投げた。


参加者
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
善知鳥・リュカ(魔改造ノクターン・e21446)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
デニス・ドレヴァンツ(花護・e26865)
レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)

■リプレイ

●悪い夢
 飛び退いたその場所を、銃弾の雨が通過していく。自らを掠めていった弾丸に嫌な汗を感じながら、レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)は付近にあった廃工場の器材の後ろに回り込んだ。
「全く……やりにくいな」
 これは、悪夢の類だろうか。手元で揺れる武器飾りを一瞥し、遮蔽物の向こうを窺う。
「逃げられないよ。……言わなくても、分かっているよね?」
 そう言葉を投げてくる『敵』、ワイルドハントはレスターと良く似た姿をしていた。誇示するような刺青と、手足の鎖が特徴的と言えるだろうか。
 とはいえ、所詮似ているのは外見のみ。中身は別物と理解できてはいるのだが……。
「昔の俺、か」
 皮肉な状況、と言わざるを得ないか。笑みを浮かべて覚悟を決め、レスターは応射するべくその場から飛び出した。

 響き渡る銃声を追って、ケルベロス達がその両者を発見する。
「すごいな、レスターがふたり居る」
「なるほど、こりゃあ……」
 ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)の言葉に、善知鳥・リュカ(魔改造ノクターン・e21446)が苦笑する。
「あのドリームキャッチャーは悪夢を捕まえてくれなかったようだな」
「そうみたいだねぇ……ええと、なら、代わりに僕達が」
 友達を助けよう。どこか茫洋としたエリヤ・シャルトリュー(影踏・e01913)の瞳に力が宿る。それを察し、リュカは銃口を敵の方へ。
「ああ、じゃあそっちは頼むぜ?」
 そして、『面』を制圧する規模の弾丸をばら撒く。牽制のそれでワイルドハントの足を止めている間に、傷付いたレスターの前にイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)等が滑り込んだ。
「皆……!」
「おう、レスター。迎えに来たぜ」
「無事で何よりだよ」
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)がいつもの調子で声をかけ、デニス・ドレヴァンツ(花護・e26865)がその双眸を和らげる。そしてレスターの隣に立った君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が、手にしたガトリングガンに火を入れた。
「レスター、待たせたな。援護すル」
 銃身にエメラルドのラインが走り、眸の右目もまた同じ色の輝きを放つ。それが見定めるのは、リュカへと応射している敵の在り方。
「ふむ……やはリ、レスターと同じものではなイな。完全に別の個体だ」
 バイタルスキャンの結果を口にする眸に、デニスもまた頷く。
「姿は同じだが異なる者だな。まるでそう――温度が感じられない」
 やはり、見知った者ならば『中身』を見分ける事も容易なようだ。
「要するに、眼鏡かけてねえほう殴ればいいんだよな?」
「いや、まぁそうなんだけどさ……」
 そんな中での広喜の回答に、レスターの顔に引き攣った笑みが浮かぶ。当然、広喜にも見分けは付いている。タチの悪い冗談ではあるが、ともかく。
 緊張で凝り固まった空気を肺から追い出し、レスターはもう一度、『敵』の姿を見遣った。
「皆、悪いけど、手を貸してくれるかな?」

●銃弾の雨
「全く……友達が多いんだね、君は」
 面倒なことになった、そんな気配を滲ませて、ワイルドハントが自らの姿の主に言う。数の差は圧倒的、だがその声に気負った様子はない。
「まぁ良いさ。使う弾の数が少し増えるだけだからね」
 遮蔽物から飛び出し、ワイルドハントが引き金を引く。フルオートで弾丸をばら撒きながら銃口を横薙ぎに。
「私の後ろへ! そこに居てくださいよ?」
 ここまでの戦いで負傷しているレスターを後ろへ庇い、イッパイアッテナが弾丸の雨を受け止める。
「《我が邪眼、彩光の蝶》《集え、集え》《其等の光で傷を癒せ》――もどかしいだろうけど、少し待って」
 その間にエリヤが術式を起動。青く輝く蝶が舞い、レスターの傷を癒していく。
「大地の力を今ここに――顕れ出でよ!」
 さらにイッパイアッテナが地中と龍穴を繋ぎ、流れだした力で前衛を包む。
「……忌々しい」
 輝く蝶を、目を細めて睨んだワイルドハントは、そちらに銃口を定める。射抜き、貫く、そのための弾丸を放とうとするが。
「おいおい、勝手なことをするな。お前は俺たちの的になるんだ」
 そこにリュカの影が伸び、足元から敵に襲い掛かり、それを阻んだ。咄嗟に弾丸で影を打ち払い、逃れたワイルドハントに、さらにデニスが空中から仕掛ける。
「そういうことだ。大人しくしていてくれ」
 流星の軌跡を描いた白銀の靴と、黒塗りの銃身が衝突。一瞬の停滞に、眸が味方へ合図を送る。
「尾方」
「ああ、ぶちかましてやれ」
 それに応じた広喜がオウガメタルを活性化、金属粒子の作用で照準を確かなものとし、眸はガトリングガンから銃弾をばら撒いた。激しい銃撃に晒され、ワイルドハントは赤い翼を広げて後退する。
 当然、そのまま退くはずもない。反転したワイルドハントは動きを読まれぬようにジグザグに飛び、要所でその引き金を引く。再度の薙ぎ払うような銃撃に、眸を中心とした地面が抉れる。
「良い音がしてきたな。D'accord、銃撃戦といこう!」
「私もガンスリンガーの端くれ、付き合おう」
 愉快気に笑うリュカの隣で、デニスもまた愛用のリボルバーを引き抜いた。

 素早く飛び回り、鋭い射撃を繰り返すワイルドハントに対して、ケルベロス達が取った手段は一時の『溜め』だった。銃撃を中心に応戦しつつも、優先するのは自陣を固める事。
「このっ……ひらひら飛び回りやがって……!」
 広喜と共に金属粒子を散布していたラルバの尾が、びしりと一度地面を叩く。
 盾役として銃撃に対する遮蔽物を買って出たイッパイアッテナ、そして眸が傷付いていく中、出来る事は味方をカバーしつつ、射撃手達の射撃精度を上げていく事のみ。作戦とはいえフラストレーションが溜まる展開ではある。
 ミミックの相箱のザラキと、ビハインドのキリノも敵の後を追っては居るが、その動きを捉えるのは中々に難しい。
「ま、そう焦るなよ」
「これも下準備の内です」
 広喜に合わせ、イッパイアッテナも同様にメタリックバーストを放つ。全体に等しくその効果を行き渡らせるには時間がかかる。だが三人で分担できるならば。
「すぐに反撃の機会は来るよ。……それで良いかな?」
 エリヤが展開したオーロラのカーテンが、降り注ぐ銃弾の勢いを和らげる。そうして笑い掛けられた先で、ラルバと共にレスターも頷いて返した。
「舐めないでくれるかな。僕を捉えきれない君達に、勝ち目があるとでも?」
 降り注ぐ声は側方から。急速に旋回したワイルドハントが銃弾を再装填し、一点に向けてそれを放つ。
 レスターを狙った貫く連射に、眸がその身を晒す。金属製のボディに弾丸が喰らいつき、鈍い衝突音が次々と上がった。
「構わなイ、続けテくれ」
 ダメージが無いわけではない。だが身体を貫くそれを意に介さず、流れに逆らうように瞳のガトリングガンが火を吹いた。
 銃火の交錯、そして雌伏の時は、今しばらく続く。

●鎖
「全く、辛抱強い事だね」
 攻撃を繰り返しながらも、今一つ突き崩せない状況に、ワイルドハントが焦れる。
 そんな状況の変わる兆しを見せたのは、狙撃に徹した者の銃弾だった。
「――私は、外さないよ?」
「ッ!?」
 不用意に姿を見せた敵を、デニスの拳銃が捕まえる。低空を飛ぶように移動していたワイルドハントが、姿勢を崩して地面を転がった。
「へえ、やるもんだな」
 こちらも負けていられないと駆けたリュカが銃口を上げる。咄嗟に崩れた姿勢を立て直した敵もリュカを捉え、二つの火線が交錯する。
 行き交う弾丸が互いの身を抉る状況に、身を翻しながらリュカが笑みを浮かべて見せた。
「ああ、レスターと銃を向け合ったのはこれで2度目か?」
「これはカウントしないで欲しいんだけどね」
 それに答える声と共に、リュカの背後から放たれた銃弾が、追撃にかかろうとしていたワイルドハントの胸元に炸裂。地獄を秘めたそれが炎を撒き散らす。
「……まぁな。銃の使い方は、ニセモノよりこっちの方が面白い」
 振り向かぬまま尻尾を揺らしたリュカの後ろで、最後の仕上げとばかりにラルバが手元のスイッチを押した。
「よーし、行くぜ!」
 味方を勇気づける爆煙が、先ほどの炎弾の主、レスターの背を押し出す。隣に並んだ彼に、イッパイアッテナもまた信頼の目を向けた。
「あなたの、本物の狙撃手の手腕を見せて下さいレスターさん」
「はは、これは……不甲斐ないところは見せられないね」
 困ったような、それでいて自信に満ちた笑みを返し、レスターは再度銃を構えた。

「そろそろ行こうか、良い音を聞かせてくれるんだよね?」
「仕方ねえな、ちゃんと聞いてろよ?」
 再度青い蝶が飛び交い、エリヤがリュカの負傷を癒す。憂いがなくなったとばかりに、リュカもまたそれに答えてバスターライフルを敵へと向けた。
「レスターとどういう関係があるのか知らねえけど、デウスエクスがレスターの姿を真似るんじゃねえ!」
 高く吠えたラルバの手からシャーマンズカードが放たれ、生じた御業が飛び去ろうとした敵を掴み取る。
「その通りだ。それに、レスターはてめえよりもっと強えぞ」
 先程までと打って変わって積極的に敵に迫り、広喜が炎を纏った蹴りを叩き込んだ。
「贔屓目というやつかな? どう考えても、僕の方が――」
 それに対し、絡みつく御業を振り払うように回転し、ワイルドハントが銃弾をばら撒く。
「どうかナ」
 立ち塞がる眸とイッパイアッテナ、その後ろで狙いを定めたリュカの感想は、共に。
「あいつの射撃の腕、こんなもんだったか?」
「いいえ、これではとても、及びませんね」
 挑発的な言葉と共に、イッパイアッテナのガトリング、そして眸が炎を込めた弾丸を雨と降らせる合間に、リュカの『Traqueur de la sauvagine』、まじないを乗せた弾丸が敵を射抜いた。
 精度を上げ、冴え渡る攻撃は着実にワイルドハントの身を削っていく。敵の側も弾幕の圧力を上げにかかるが……。
「この程度じゃ壊れねえよ!」
 それではもはや足らず、無理矢理前進した広喜が接敵する。
「そうかい? なら思い知ると良い」
 ワイルドハントが笑みを浮かべると同時に、右半身の入れ墨が脈打つ。空間に染み出す様に、そこから黒い鎖が次々と現れた。瞬く間に伸びたそれは、目の前の敵を絡め捕るように蠢くが。
「いい加減にしろ」
 狙撃手にあるまじき間合いまで距離を詰めたレスターが、広喜を引き寄せるようにして庇った。
 当然、鎖はレスターの四肢に殺到する。
「俺の姿で仲間を傷付けるな!」
「僕の姿が、そんなに気に入らないのかな?」
 至近距離。怯む事無く敵を睨むレスターの首に、薄笑いを浮かべたワイルドハントが、両腕を繋いでいた鎖をかける。
 四肢に絡む黒い蛇、そして首の周りの二重の輪が閉じていった、そこに。
「鎖、か。そろそろ来ると思っていたよ」
「調子に乗るなよ、ニセモノ」
「その姿は貴様のもノではなイ。レスターは、返してもらおウ」
 銃声がひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
 この攻撃を警戒していたデニスのものを皮切りに、研ぎ澄まされた弾丸達が、鎖を食い破りながら、ワイルドハントへと突き刺さった。
「さあ、動きを止めて」
 さらにはエリヤの命を受け、飛び掛かったファミリア……白ネズミが敵の傷口を広げる。体勢を崩した敵が、明確に隙を晒した。
 自由になった腕と首。一度引き寄せた銃身に、レスターが軽く口付ける。
 頭に浮かぶのは大事な仲間、そしてかけがえのない居場所。地獄化した涙を封入した特別な弾丸が装填され、唇を通じて繋いだ『鎖』が、そこに魔力を送り込む。
「この涙は罪を穿つ、地に堕つ蝶を断つ」
 最後の聖餐。敵に動く間も与えず、半身を引いたレスターが引き金を引いた。
「なっ――!?」
 落ちる涙が、『過去のレスター・ストレイン』を貫く。舞い散る黒い蝶に代わり、真紅の蝶が舞い上がる。
「R.I.P……安らかに散れ」
 全ての蝶が飛び去り、消えて。モザイクの領域は終わりを迎えた。

●解放
 戦いを終え、ワイルドスペースが霧散する。入り乱れたモザイクの光景は、暗闇の廃工場へと形を変えていた。
 破れた天井から月が覗き、かろうじて周りは確認できる。朽ちた器材や建材、そして誰一人欠けることなく戻った仲間達。
 安堵の息を吐き、ふらつきかけたレスターの背を、広喜が叩く。
「お疲れさんだぜ」
 快活な声が響く一方、イッパイアッテナ達は周りの様子を窺っていた。
「空間は消えてしまいましたね」
「……何とも、捉えどころがないね」
 空間に満たされていた粘液もまた、それに伴い消えている。その辺りを確認するデニスの横で、リュカもスタンダードプードルへと姿を変えて鼻を鳴らしていた。……が、そちらも成果は不作のようで、首を横に振って仲間に伝える。
 半ば予想は出来ていたが、現状大した情報は得られなかった。
 けれど、とラルバがそれに続ける。
「まぁ、あの構造はよく分からねえけどさ、レスターが無事なのが一番だぜ」
 自然と、目線がそちらに集まる。そう、あのワイルドスペースから勝ち得たものがあるとするなら。
「皆……ありがとう。俺が今ここにいるのはキミたちのおかげだ」
 照れたように頬を掻いて、レスターは一人一人に視線を合わせてそう告げた。
「良いんだよ、ただ友達を……あの、うん」
 微笑んで答えたエリヤの言葉が、途中で切れる。何のことはない、欠伸だ。
「……安心したからかな、ちょっと眠いかも」
「そうだナ。帰還しよウ」
 軽く目を細めた眸が一同を促す。傷を癒し、帰路へと着く一行の後ろで、レスターが一度『そこ』を振り返る。
「俺はもう、奴隷じゃない」
 小さく、誰にも聞こえぬよう、それを唇に乗せる。鎖は千切れ、黒い蝶は散った。その言葉は、もうどこにも届かないけれど。
「どうしたんだ、レスター。何か見つけた?」
「……いや、何でもないよ」
 問いかけるラルバと、仲間達の方へ、レスターは踵を返し歩き始めた。
 打ち破られた扉を潜り、月の下へ。そして、自分の意志で選んだ居場所へ。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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