●旧き音を永久に
お前も年を取ったねと、老紳士は笑みを零す。
若い頃に出会い、今まで共に過ごしてきた相棒――古い蓄音機。
それは老紳士が丁寧に扱い、メンテナンスを行いつづけ今でも生きて音を奏でてくれる。
若い頃、美しいフォルムに一目ぼれして、勢いで買ってから今までずっと。
恋人ができ、この蓄音機で音を奏でながら二人で踊った。そして結婚しても、子が生まれても、孫が生まれても、妻に先立たれても共にあったものなのだ。
「今日はこのレコードにしよう。ふふ、お前の奏でる音と珈琲は私の楽しみだよ」
そう言ってレコードを蓄音機にセットして回し始める。
ゆったりとしたこの時間は老紳士にとって毎日の楽しみの時間。
ふかふかのお気に入りのソファに腰かけ珈琲を一口飲み、瞳を伏せる。
流れる音は柔らかく心地よく、眠ってしまいそうにさえなるのだ。
しかし――その音が突然、大きな音をたてて止まった。
「なんだ!? あっ……そ、そんな! お、お前達か!!」
蓄音機の置いてある台の傍らに妙な姿の女が二人。
その二人は手に持っている大きなカギで、蓄音機を叩きおとしたのだと老紳士はすぐに理解した。
ああ、と悲痛な声を零し、壊れた蓄音機の傍にぺたりと座り込む。ふつふつとわいてくる怒りは、目の前の二人へと向いていた。
「どうしてくれるんだ! 大事な……大事な蓄音機を!」
そう、叫んだ瞬間――二つのカギが老紳士の身を貫いていた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
老紳士は崩れ落ちる。
そのそばに現れたのは二人の男女の姿をしたドリームイータ―。しかし、頭の部分は人のものではない。
女の方は、蓄音機の――音を響かせるフォーンの形を。
そして男は音を読み込むターンテーブルの形を。
ドリームイータ―達は手を取り合って唄いあう。その『悲しみ』と『怒り』を。
●予知
「危惧していたことが起こってしまったか」
む、と声零すヨハネ・メルキオール(マギ・e31816)に、だから皆にもお願いしようと思ってと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は紡ぐ。
集ったケルベロス達に伝えられるのは、パッチワークの魔女達の話。
今回動いたのは怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテ。
この魔女達はとても大切な物を持つ一般人を襲い、その大切な物を破壊し、それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪って、ドリームイーターを生み出しているのだ。
「生み出したドリームイーターは二体で連携して動いて、周囲の人たちを襲ってグラビティ・チェインを得ようとしているんだ」
すでに魔女たちは姿を消しているので追う事はできないけれど、そこにはドリームイータ―がいる。
悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、その悲しみを理解できなければ、『怒り』でもって殺害するらしい。
「戦闘になれば怒りのドリームイーターが前衛、悲しみのドリームイーターが後衛で連携してくるみたいなんだよね」
この二体が周囲の人々を襲って被害を出す前に撃破してほしいのだとイチは言う。
「戦いの場所になるのは襲われた人の家近くでになるかな。郊外にぽつんとある家だから周囲に民家はないんだ」
だからこそ、誰か被害者を出す前にまだどうにかすることができるとの事。街へ向かっている所を補足する事ができるだろうと。
「ドリームイータ―は言葉は喋れるけれど、その怒りと悲しみを表現する事以外はできないんだ。だから、言葉は喋れるけれど会話はできないんだよね」
怒りのドリームイータ―は男の、蓄音機のターンテーブルの方。悲しみのドリームイータ―は女の、蓄音機のフォーンが頭となっている。
連携してくるこの二体を倒せば、意識を失っている人も意識を取り戻すはずだ。
「大切なものを壊されたら、悲しんで怒るのは当たり前だな」
それも共に歩んできたものと思われる蓄音機なのだから、その想いは一層深いのだろうとヨハネは紡ぎ、瞳伏せる。
「けど、それを利用されるのは許しちゃおけないよね」
「ああ。それは大事な想い出も踏みにじっている」
それは許されるべきではない事。
ヨハネは集っていた者達へと力を貸してくれと言葉を紡いだのだった。
参加者 | |
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ライル・ユーストマ(紫閃の斬撃・e04584) |
樒・レン(夜鳴鶯・e05621) |
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673) |
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084) |
ヨハネ・メルキオール(マギ・e31816) |
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149) |
十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151) |
メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276) |
●想い、ふたつ
街へ続く道を、手を繋いで進む姿がある。しかし、その存在は人ではなく夢喰。
ターンテーブルの頭をした男と、フォーンの頭の女。
その二体もまた、対して待つケルベロス達の姿を意識したようだった。
思い出の品を壊し、その感情をもとにして生まれた二体。
無体な事をする、と樒・レン(夜鳴鶯・e05621)は思っていた。
(「己の人生そのものを傷つけられるに等しい」)
このような非道をこのまま見過ごすわけにはいかん、とレンは思っていた。
「この忍務、必ず成し遂げよう」
魔女達にはいつか鉄槌を。しかし、それより今は優先すべき事がある。それは二体を倒し、老紳士を助ける事。
「大切なモノを奪うのはよくないの。悲しいのも怒るのもとってもわかるのよ……でもダメなの」
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)はがるると小さく唸り声を。
怒りも悲しみもわかる。けれど、このままにしておくわけにはいかないのだ。
「怒るのもね、悲しいのも必要だけど、誰かを巻き込んだら絶対にダメなのよ!!」
ライル・ユーストマ(紫閃の斬撃・e04584)は紫色の髪の間から、その姿を見とめ金の瞳を細める。
(「彼らが被害者の『悲しみ』と『怒り』から生み出されたのなら、彼らを倒すことで――」)
その『悲しみ』と『怒り』も和らげばいいのに、とライルは思うのだ。
『どうしてもう音が響かない! かすれる音は何にもならない!』
『伝わってこない、何もないの、悲しい、悲しい……』
ふたつが発する、声とも音ともとれるもの。
それはきっと本来奏でていたものとは程遠いのだろうとジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)は思う。
(「何度か聞いたコトある――俺の、知らない時代の音」)
それはぶつかってくるんじゃなくて、そっと通り過ぎてくみたいな音だったとジルカは覚えている。
「……どうして、平気で壊してしまえるのさ」
そう小さく、ジルカは呟き零した。すると傍らで翼猫のペコラが一鳴き。
目の前に二つの存在としてある。
それは人のこころから生まれたものだ。
「被害者の心中を思うと身につまされるな……俺だって同じことされたら立ち直れる自信がない」
踏み躙られた想いも救えるといいのだが、とヨハネ・メルキオール(マギ・e31816)は呟いた。
「怒ったって悲しんだって返ってこねえもんはあるけどさ、他のやつらの手で奪われたんならほんと遣る瀬ねえよな」
やつら倒しても元通り、にはならねえだろうしなと、冷静に零す十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)の隣で、妹の十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151)はぐっと拳握り。
「人の大事なものを壊して、その気持ちを利用するなんて本当に許せない! コテンパンにしてやる!」
その気持ちを露にする琥珀。
そりゃそうだ、とメィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)も思う。
「おれだって、長年連れ添ったものがこうなったら悲しむさ」
ふぁと零れそうになる欠伸をメィメはかみ殺す。
「けど、そろそろ眠くなってきたんじゃねえか。おれはけっこう眠いぞ」
けれど今は我慢と敵を見据える。
戦う意志を互いに感じ取り、先に動いたのはどちらか。
お互いが距離を詰めたのは同時だった。
●悲しみ
痛ましいな、とヨハネは零す。
その口が紡ぐのは古代語魔法。そしてその手より放たれた魔法の光線が後方の、フォーンを貫く。するとその身の一部はびしりと、硬い音をたて固まっていく。
ヨハネの視線はフォーンを捕らえている。けれどその端にターンテーブルへと向かう刃鉄の姿があった。
刃鉄は懐へだんと一歩、力強く踏み込んで蹴りを放つ。体の中心を電光石火で捉えたそれにターンテーブルの身が傾ぐ。
その攻撃を放つと同時に身を引く。
すると風が、駆け抜けた。
「いくよ! Hit the Bull’s-Eye!」
琥珀は自らが持つ16の術のうちのひとつを前衛の仲間達へ。
背中を押すようなその風は皆を鼓舞し、支えるものになる。
その傍らで翼猫のそらが羽ばたきを、その風と重なるように送っていた。
「夜鳴鶯、只今推参」
そう紡ぎ、レンは紙兵を共に前で戦う仲間達へと向ける。それには戦いの助けになる力が籠められたもの。
黒色の魔力弾が、続けてフォーンに向けられる。それを放ったのはジルカだ。
それは悪夢を見せるもの。受けたフォーンは呻き声を上げる。己が壊された時のことをそれは思い出させるのだ。
「ペコラだって、上手に歌って踊れるんだよ!」
そう言うと、ペコラは空を舞い羽ばたく。その風は清浄なるもの。仲間達の力になるものだ。
攻撃を受けつつ、怒声を振りまくターンテーブル。その声を琥珀は庇い建てて正面で受ける。
その怒りの声は琥珀自身の心も怒りの色で染めていくもの。
けれどすぐ様、エルピスが動いていた。
気力を溜め、琥珀へと放つ。
「もう大丈夫なのよ!」
向けられた気は怒りを取り払って消していく。
その動きを抑えるべくメィメもターンテーブルへと仕掛ける。
「長年連れ添ったもんだ。怒りも悲しみも湧くってところだろ」
それを利用しようって根性が気に入らねえなとメィメは橙の瞳を細めた。
「ふん……じいさんの余命でも伸ばしてやるか」
振り上げた足は急所を打ち抜く一撃。もたらした衝撃は、敵の身に痺れを残し動きの精度を落としていく。
その間にライルは狙いをフォーンへ向けた。
振り下ろした竜鎚から放たれた竜砲弾がその足を鈍らせる。
『あああ、悲しい、悲しい。もう音伝わらぬ、奏でられぬ』
発せられる声は音でもあり。その響きは自身を癒すものだ。縛りのほとんどを払い、受けた傷を癒していく。
ターンテーブルはその間に雑音を響かせる。それは不愉快なものであるはずなのに妙な響きを持って惑わせるもの。
その音をかき消すように声を上げたのは刃鉄だ。
「進むなら前だぜっ!」
十六夜天流剣術、三の型は、至近距離の踏み込みから始まる。
刃鉄はそこから猪の如き突進力を瞬発的に生み出して、その中心を抜く鋭い突きを如意棒ので放つ。
そしてすぐさま下がると、声をかけたわけでもなく琥珀がそこにいた。
「悲しいだの怒っただの言ってさあ、ほんとーーに悲しいのも怒ってるのも……あんたたちじゃないでしょーが!」
想いを声にしながら振るう雷杖から放たれた雷が敵を穿つ。
攻撃を重ね、先にそれが募りきったのはフォーンの方だった。
レンの放った氷結の螺旋が、フォーンの身を凍てつかせる。凍る音が響く中、フォーンは変わらずその悲しみを発していた。
『悲しい、もっと音を広げて、響かせて、ずっと傍で、死ぬまで傍で奏でて』
その悲しみの想いは、倒れていると聞く老紳士の想いなのだろう。
「その感情は被害者の大切な思いの表れだ。お前達が利用していいものじゃない」
オーラの弾丸がフォーンに喰らい付く。それを放ったライルはただ静かに紡いだ。
「外すなよ、デカイ的だろ。悲しむなら、あんまり長引かせるもんじゃねえよ」
メィメは、仲間へとオウガメタルの粒子を放って仲間の超感覚を研ぎ澄ます。
千切れるような音は悲しみを表しているのだろうか。
「Verweile doch! du bist so schoen!」
ヨハネが紡ぐ聖邪のアポカリプスの一節。齎される光の魔法、それが照らし出せば闇もまた色濃くその場に現れる。
時の悪魔は白昼夢を見せ、逃しはしない。
「おやすみ、佳い夢を……さようなら」
夢に囚われたフォーンの紡ぐ悲しみが止まる。そしてその姿は掻き消えたのだった。
●怒り
残るは怒りの夢喰。それは悲しみを失って、その怒りを加速させるように呻いていた。
そこへエルピスは威嚇の唸り声をあげる。
こっちにくるな――その声は夢喰の身に響き動きを縛る。
「ワタシもね、思い出が壊されたらすごく怒るの」
エルピスが唸り声と共に紡ぐ言葉。その言葉は夢喰には聞こえては、いるのだろう。
けれど、その言葉が届く事はない。
「でもそれが狙いなんだよね……そういうのとってもずるくて嫌だなあ」
エルピスの揺れる尻尾は少し悲しげだ。
その呟きを耳にしたメィメはそうだなぁとひとつ頷いて敵を見る。
怒りを吐く、ターンテーブルの夢喰だ。
「よく眠れたか? これからもっと、よく眠れる」
メィメが喚ぶは、夢の怪物。冬眠の時期、共寝のあいてをほしがって。そのふところは常春。抱かれてしまえば夢の中。
けれど――怪物ですら眠る夜に、その身を置かれれば凍えてしまう。
夢喰の身に走るは氷結の縛り。けれど、それではまだ、夢喰は倒れない。
「この寒さに、まだその怒りが勝ってるか」
その怒りの激しさを感じ、メィメはほとりと零す。
長引かせることではなく、早く終わらせてしまいたいのに、敵はまだそこに立っている。
けれど、攻撃の重ねは意味あるものだ。
「おい、あれよろしく」
刃鉄のぶっきらぼうな物言いに琥珀はもうといいつつ笑う。
言いたいことはすでに伝わっているのだ。「刃鉄、まかせて!」
琥珀はその声に応えるように雷杖を振るう。そこより放たれた雷の一矢は刃鉄を打ち抜いてその身を賦活する。
その一瞬の衝撃に刃鉄の身は跳ねるが、その表情は前を向いていて。
「剣の腕どっちが上か、勝負するか!」
ヨハネに向けた声を置いて、とんと先に踏み込んだ刃鉄はその刃を鮮やかに振るう。その切っ先は皆の攻撃した傷の上を迷いなく辿っていく。
その刃鉄の剣の腕を、凄いとヨハネは思っている。
それは認めているのだ。
張り合えるのは、互いに認めているからこそ。
「だが俺だって凄い! 負けはしないさ!」
振るう刃には空の霊力を帯び、与えた傷跡をなぞるように切り開く。
「お前たちの怒りや悲しみはよく判る」
そして、幾ら他者の怒りや悲しみを具現化してもモザイクが晴れることは決してないとレンは二体のその向こう。魔女達へと思い向ける。
「お前達の誠信が為すものでない故に、な」
レンは螺旋の力を籠めた木の葉の渦を起す。そして、その行く先をターンテーブルへと定めた。
「天地に充る螺旋の力、その身で味わうがいい。覚悟!」
巻き上がった木の葉の渦が敵の身を包みこみ張り付く。それはその身に纏わりつき、邪魔をするものだ。
「……いや、そういう存在として生み出されたお前達に言っても詮無きことか――哀れな」
せめて倒すことでその定めから解放しようとレンは紡ぐ。
それが、できることなのだから。
ターンテーブルのなげた円盤は、本来ならその身の上で回る、音を記したものだ。けれどそれは今、武器となって見舞われる。
その傷をエルピスが癒す。その恩恵受けながらライルは懐へと走り込み、電光石火の蹴りを一撃。
その手応えは確かなものがあった。
『壊された、痛み、許さない!』
「ウン、その怒りも、悲しみも――どちらもわかるよ。でも、だからこそ、絶対止めてあげる」
その手は想いを受け止める為でもあるが、刃を振り下ろすためにもある。
ジルカの伸ばした手にはベニトアイトの煌き宿した幻影の大鎌。それが一閃、振り下ろされた。
おんがく。
それは、大人になったらいつかもっと、携わってみたくて。
「だから、奏でるべき悲しみ、苦しみ、強さ弱さ――ソレが痛くても怖くても、ヒトの心から、俺は逃げたくないんだ」
ジルカは一歩踏み出している。その歩幅は小さくとも、少しずつ顔を上げて前に。
その小さな一歩でもある一撃に夢喰の姿は掻き消えていく。
未だ怒りの言葉を吐き続けながらも。
「だいじょうぶ、全部聴こえてるよ」
最後まで、ちゃんととジルカは紡いで瞳閉じた。
●形は無くとも
怒りと悲しみ。
その二つの感情をもとにした夢喰は果てた。
「己の夢を持てず、只々他人の感情をなぞる存在として生み出された哀れなる者達よ。その魂の安らぎと重力の祝福を願う」
安らかに、と瞑目し片合掌を倒した敵へと、レンは向ける。
そして、続く道の先にある家には老紳士がいる。
「おじいちゃんが心配だなぁ……」
ふと、琥珀は零す。そして、刃鉄とヨハネを見て。
「刃鉄もヨハネさんも一緒に来てほしいな……」
怒りと悲しみ。それを奪われた老紳士がどうしているのか。
それは少し、気になるところだ。
戦い終わってしばらくして意識を取り戻した彼は、壊れた蓄音機の前で座り込んでいた。
ライルは、砕け散った部品を拾う。それをジルカも手伝った。
(「もう、おじいさんのために歌えないんだね」)
部屋の端に飛んでいた針を見つけ、これだけでも新しい蓄音機につけてあげられないかなとジルカの視線は思う。
「……きっと、覚えていてくれるよ、君の奏でた音も、思い出も」
ライルは集めた物を老紳士の傍へ。
ヒールで直す事ももちろんできるのだが、今そうすべきではないと感じていた。
「デウスエクスはやっつけたんだけど。大事にしてたもの、取り戻せなくって本当にごめんなさい」
琥珀は老紳士へと頭を下げる。そらも、傍で一緒に頭を下げていた。
「……これ、ヒールで直せねえのかなあ。修理とかできねえのかなあ」
老紳士の傍らに刃鉄は一緒にしゃがみ込む。
蓄音機はもう、壊れてしまっていて。けれどヒールをかければ元の姿を取り戻すというわけでもない。
「形あるものはいつか壊れる運命だ。受け入れるのに時間はかかるだろうが……だが大切な思い出はまだ爺さんの胸のうちにあるはずだ」
ヨハネの言葉に顔をあげた老紳士。彼へ向かって、あるだろう? とヨハネは紡ぐ。
老紳士は再度、視線を落とす。
壊れた蓄音機はそのまま、まだそこにあるのだ。
「いちど壊れたものは、元には戻らねえよ。けど、ここで壊れたことだって――あんたとこいつの歴史のひとつだろ」
けど、直すことはできるとメィメはヒールをするかと問う。
老紳士はしばらくの間沈黙して、いいやと首を横に振った。
「そうだな。確かに……壊れてはしまったが」
想い出を失うわけではないと頷いて。
「私はいつでも、これが奏でた音が思い出せるよ。それを……忘れそうだった」
ありがとう、と老紳士は紡ぐ。
「よかったな、命拾いして。せいぜい長生きしろよ」
メィメの言葉に老紳士は長く生きて、いつまでも忘れないと笑う。
その様子にヨハネはうんとひとつ頷いた。
「それを忘れなければ思い出のメロディはいつも傍にある。永久に、な」
それは老紳士の中でずっと、これからも紡がれるもののはず。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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