鎌倉ハロウィンパーティー~さまようミイラ

作者:千々和なずな

 どうして買ってしまったんだろう。
 テーブルの上に置いたカボチャバスケット入りのお菓子の詰め合わせを前に、茉由はため息をついた。
 街はハロウィンカラーの飾り付けで、つい浮かれてお菓子を買ってはみたものの。
「ハロウィンっていってもなんにもすること、ないんだよね……」
 一緒にパーティしよう、って言えるような知り合いもないし、一人暮らししているオートロックマンションに子どもがお菓子をもらいにくることもない。かといって、いきなり誰かの家を訪ねてお菓子を要求するわけにもいかない。
 仮装して騒いだら楽しそうだと思うけれど、いざ自分が仮装して外に出ることを想像すると。
「……ありえないってー」
 顔も体型も今ひとつ……という自分がしても笑われてしまいそうで、仮装する勇気が出ない。
 自分だと分からないようなオバケやミイラなら……ああでもやっぱり踏み出せない。ハロウィンって、選ばれた人のためのお祭りのようだ。
「つまんない……大体、日本にハロウィンなんて似合わないし」
 茉由は負け惜しみのようにぼやいた。
 ……すると。
 どこから入ってきたのか、赤い頭巾を被った少女が現れ、手に持った鍵で茉由の心臓を一突きした。
 鍵は過たず心臓を穿ったが、茉由に怪我を負わせることはない。それはドリームイーターが人間の夢を得るための行為なのだから。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 ドリームイーターに夢を吸い取られた茉由はテーブルに伏すように意識を失った。
 代わりに茉由の横に、新たなドリームイーターが誕生する。包帯がぐるぐると巻き付いたミイラの仮装で。粗く巻かれた包帯の間からは、モザイクと化した身体が覗いている。
「いってらっしゃい。楽しいハロウィンを」
 ミイラを送り出すと、赤い頭巾のドリームイーターはいずこともなく去っていった。
 
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたのですが、日本各地でドリームイーターが暗躍しているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう切り出した。
「出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っていた人で、ハロウィンパーティーの当日に、一斉に動き出すようです」
 セリカの説明によると、ハロウィンドリームイーターが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場……すなわち、鎌倉のハロウィンパーティの会場だと言う。
 さまよい歩いていたドリームイーターが、賑やかな騒ぎに引き寄せられるように会場にやってきて、パーティを楽しむ人を次々と襲う。
 楽しいはずのパーティはたちまち悲鳴に包まれる。
 そうならないために、実際のハロウィンパーティーが開始になる直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいというのが、セリカからの依頼だ。
 
「現れるハロウィンドリームイーターはミイラの仮装をしています。全身モザイクの上に血のりで汚れた包帯を巻いていますが、包帯の間からモザイクが見えますからドリームイーターであることはすぐに分かると思います」
 ミイラはばか騒ぎでもするようにやたらとおおげさな動作で攻撃してくる。こちらを悪夢で侵食して催眠に落としこんだり、口の形をしたモザイクで喰らいつき武器に影響を与える攻撃をしたり、こちらの知識を吸収することによって行動をさまたげてきたりする。ただ回復手段を持たないため、倒すのにはそれほど難しくないだろうともセリカは言った。
「ですが、ドリームイーターを倒せばそれでいいというのでもありません。戦闘によってハロウィンのパーティがだいなしにならないよう、パーティ開始前に排除する必要があります」
 ハロウィンドリームイーターは、ハロウィンパーティーが始まると同時に現れる。
 その出現を待っていては、パーティの時間までに倒すことができない。
「ですから皆さんには、ハロウィンパーティーが始まる時間よりも早くに、あたかも、ハロウィンパーティーが始まったように楽しそうにふるまってほしいのです。皆さんが盛り上がるほど、ドリームイーターは早く誘き出されることでしょう」
 タイムリミットはハロウィンパーティの開始まで。
 いかにドリームイーターを誘き出すか。それが一番のポイントだ。
 
「せっかくのハロウィンなのですから、憂いなく楽しみたいものです。どうか皆さんでパーティに影を落とす憂いを取り除いてください」
 よろしくお願いしますとセリカは頼んだ。


参加者
ヒスイ・セレスト(夢幻の氷華・e00342)
エスツーイ・フールマン(シルバーナイト・e00470)
楠・竜胆(ローズバンク・e00808)
那々宮・しあの(インカローズハート・e01100)
クーリン・レンフォード(カスバド・e01408)
辻・ラッカ(カワイイの探求者・e01752)
月浪・光太郎(鍛え抜かれた不健康・e02318)
白藤・織夜(この花を君と・e04812)

■リプレイ

●一足先に始めよう
 ケルベロスハロウィンが始まるまでもう少し。
 祭りを待ちわびる空気漂う鎌倉の一角で、那々宮・しあの(インカローズハート・e01100)はせっせと飾り付けをしていた。仮装はファンシーな魔女。はしゃいでハロウィングッズを運ぶと、衣装のフリルがふりふり弾む。
 かなり大雑把にがさっと飾り付けられたそれを、白無垢姿の白藤・織夜(この花を君と・e04812)がこちらのほうが良いかと、向きを直して整えていった。ダイスに運を任せて決めた仮装だが、織夜にとってはいつも着ている白い着物の延長にある特別、のようで気持ちが浮き立つ。
「みんなで盛り上がりましょうね」
「そうだな。祭りを邪魔する無粋者をさっさと倒すためにも、盛り上げて引きつけよう」
 織夜に答え、ヒスイ・セレスト(夢幻の氷華・e00342)はカボチャ型の籠に焼き菓子をいっぱいに詰め込んだ。その傍らには自分で焼いてきたパンプキンパイを置く。おびき出しのため、と言いながらも何だか楽しくなってくるのは、箒を持った三角帽子の魔女といういつもと全く違う衣装と、パーティの雰囲気の所為だろうか。
 そんな様子を眺めつつ、狼男の扮装をした楠・竜胆(ローズバンク・e00808)はこの騒ぎの元となった茉由のことを考える。楽しい楽しいハロウィン。外から眺めていると自分と無縁に見えてしまうけれど、彼女も一歩踏み出しさえすればきっと楽しめるだろうに。
(「そう簡単にいかないから悩むのか。……ままならねーな」)
 踏み出せなかった茉由に代わり、ドリームイーターがやってくる。ハロウィンをさまよう魔物のように。
 茉由の口に出せない願いはハロウィンの夜の底に眠っているのだろうか。けれどそんな茉由の心情を思えばこそ断固としてハロウィンは守ると、月浪・光太郎(鍛え抜かれた不健康・e02318)は決意する。事件が終わった後に茉由がハロウィンに参加するかもしれない、その可能性をつぶさないためにも。

「テープ張ってきたよー!」
 羽毛を揺らしながら、辻・ラッカ(カワイイの探求者・e01752)が会場に戻ってくる。鳥人間風のエスニックな仮装は、ケルベロスなら依頼で見たことがある者もいそうだ。
 一般客が万が一にも入ってこないようにと、ラッカはキープアウトテープを設置してきた。あとはドリームイーターをおびき寄せるだけだ。
「ではそろそろ開始とゆこうかの」
「みんなで盛り上がろう!」
 フランケンシュタインの怪物のような仮装に執事服、という姿のエスツーイ・フールマン(シルバーナイト・e00470)と、大きなとんがり帽子をかぶって魔女に扮したクーリン・レンフォード(カスバド・e01408)が片目を閉じる。と、2人の掌の上にディスプレイの立体映像が立ち上がった。その画面に動画が映し出され、ハロウィンを盛り上げる曲が流れる。
「じゃあ、いっくよー。ハッピーハロウィン!」
 総合司会のラッカが跳ねる。
 ケルベロスハロウィンより一足早めの、けれどこれもケルベロスのハロウィンの始まりなのだった。

●トリートは大盛りで
「みんなー! 盛り上がってるぅー? 司会は僕、ミラクルラブリーなラッカくんでーっす! カワイイは正義! これゼッタイ!」
 ビルシャナ姿でもラッカはやっぱり可愛く盛り上げる。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー! お菓子をくれても悪戯するぞー!」
「どちらにしても悪戯はするのね。はい、可愛い魔女さん、ハッピーハロウィン」
 魔女の箒を手に言うしあのに、織夜が微笑んでお菓子を渡す。
「やっぱりハロウィンはこれじゃないとね! トリックオアトリート?」
 いたずらか、ごちそうか。
 クーリンに聞かれたエスツーイはおどけて箱を取り出した。
「おお、いたずらされてはかなわん! これで勘弁してくれるかのぅ」
 細長い箱を渡されて、クーリンはなんだろうと思いながら蓋を開けた。中身は大福餅の詰め合わせ。
「ツマラナイ・モノ、じゃ」
 へりくだっているわけではなく、実際にそういう名前のお菓子なのだ。
「なら、私からもお返し。甘すぎないビタークッキーです。どーぞ!」
「菓子を貰ったら、悪戯はできなくなってしまうのお」
 持ってきたお菓子を交換しては、あれこれ味見する。
 後に備えて菓子は食べずに泡だった麦茶を飲んだ光太郎は、ブレンドコーヒーを淹れて皆にふるまった。
「さあ、奮発した特製ブレンドだ。冷めないうちにどうぞ」
 ハロウィンの曲が流れる中、お菓子と薫り高いコーヒーをケルベロスたちは楽しんだ。

 皆がくつろいでハロウィンの雰囲気を楽しんでいるところに、ラッカの声が響いた。
「さあ、いよいよメインイベント! 大食い大会を始めるよ! 参加する人は真ん中のテーブルに来てねっ」
 その呼びかけに、竜胆と光太郎が進み出た。
「準備はいい? いくよ。――よーい……どんっ!」
 ラッカの合図とともに、竜胆と光太郎は猛然と目の前の菓子を食べ始めた。
「人がいっぱい食べるのを見てると、お腹が空いてくるね」
 クーリンがお腹に手を当てると、ヒスイが手製のパンプキンパイを皿に載せて差し出す。
「よかったらどうぞ。たくさんあるから遠慮はいらない」
「いただきまーす。一戦の前の腹ごしらえ、ってね。ん、おいしい!」
 和やかなそんなやり取りの横で、竜胆と光太郎はどんどんと菓子を食べ進めていった。
「今はお菓子も色々あるんだなぁ」
 普段は菓子なんて食べない竜胆は、次々に出される菓子の種類の多さに驚いた。
「しかし、こうも甘い物ばっかりだと塩辛いもんが欲しくなってくるな……」
 口の中に甘い味と甘い香りが充満している。甘い物は決して嫌いではないけれど、こうも続くと厳しい。
 光太郎のほうはといえば、嬉々として菓子を食べまくっている。
「この3日間、缶コーヒーしか口に入れていない路上生活者の底力を思い知るがいい」
「それならこれも楽勝じゃろう?」
 エスツーイが出したツマラナイ・モノを光太郎はするりと食べた。詰まらないのが特徴の大福餅だから、喉通りは良い。
「足りんなあ、モア、トリ-ト!」
「おおっとー、光太郎選手、余裕のおかわり宣言だ! 負けじと竜胆選手も追い上げるっ!」
 ラッカはマイク片手に大食い競争をあおり立てる。
「想像以上に食べられるものだな」
 感心しつつ、ヒスイは楽しそうに勝負を見守った。
「どっちもかんばれー」
 しあのは応援しながら、もっと盛り上げようと魔女の杖を模したスタンドマイクを大食い競争のテーブル前に持ってきた。
「わたしはお歌で応援するね。エスツーイさん、音楽よろしくー!」
 エスツーイが流す音楽にあわせ、しあのは精一杯声を張り上げて歌を歌う。
 出てこい出てこい、ドリームイーター。心の中でそう呼びかけながら。

●ミイラのおとない
 ハロウィンの鎌倉をふらふらとミイラ姿のドリームイーターはさまよう。
 聞こえる。
 風に乗って聞こえてくる歌、笑い声、楽しげな気配。
 あの場所ならきっと……。
 ミイラは引き寄せられるようにハロウィンパーティへと向かっていった。

 会場に一歩入った途端。
「ハッピーハロウィン! 世界一楽しいパーティ会場へようこそ!」
 ラッカの手でクラッカーが弾け、紙吹雪がミイラに降りかかった。
「やや、お主はわしの花嫁か、それともミイラか……はたまた夢喰いかの?」
 エスツーイは何食わぬ顔でミイラに話しかけた。
 普通のミイラの扮装ならばパーティに相応しくもあるのだが、包帯の隙間から覗くモザイクがの面妖さに、ヒスイは微かに眉をひそめる。それはこのミイラが、ここにあるべきではない存在であることをありありと表しているようだ。
 包帯の隙間からミイラの手が鍵を抜き出す。それは祭りを楽しむ仮装ミイラではなく、デウスエクスたるドリームイーターである印。
「来たかドリームイーター。歓迎するぞ、この拳でな!」
 光太郎は不敵に笑ってみせる。
 おびき出しパーティの時間は終わり、戦いの時間が始まった。

 まず先制したのはしあのだった。
 両手に構えたライトニングロッドでを振り上げイラを殴打。それだけでも大きなダメージだが、そこにおまけとばかりに雷の力を注ぎ込む。衣装はファンシーでも、やることはがっつり力押し系だ。
 後衛に位置取りしたヒスイは、御業から炎の弾を放った。外さない。必ず当てる。それが自分の役割だと。狙い澄ました攻撃はきれいにドリームイーターに命中し、燃え上がった。
「禍上流殺法一四代伝承者、月浪光太郎。……推して参る」
 光太郎の肉体が、月光に似たオーラへと変換される。
「砕けろ、この一撃で!」
 禍上流殺法奥義、月光撃。リスクの大きな狂気の技を繰り出せるのも、熟練の使い手なればこそ。
 立て続けに攻撃を受けたミイラは、包帯の隙間をケルベロスたちに向けた。モザイク状の上に包帯が巻かれており、ドリームイーターの表情は良く分からないが、隙間からは敵意が溢れている。その手が何かを払うように動いた。次の習慣、モザイクはクーリンを包み込み、催眠へと落としこむ。
「どーも、ミイラのお嬢さん! せっかく用意したお菓子、配らなきゃいたずらされちゃうよ。たとえば、僕みたいなカワイイ男の子にね!」
 トリック・オア・トリート、と笑うと、ラッカは劇的! カワイイ大革命に着手する。
 目にも留まらぬ速さでミイラに接近すると、一瞬のうちに可愛らしく飾り立てた。カワイイはつくれるというラッカの思いを昇華させた技術によってキュートに変身したミイラは、自分の姿に驚愕して固まった。
「どう? これでキミはパーティの女王様だ! なんの心配もしないで飛び込んでおいで!」
 勇気も自信も無くて。生み出されたドリームイーターも包帯で自分をぐるぐる巻きに隠して。そんな茉由の鬱屈なんてこれで砕いてしまいたい。
 クーリンはミイラの攻撃によってずれた魔女帽子を深く被り直す。普段はマント姿だけれど、この帽子があれば魔術師っぽく見えるだろうか。そう思うとテンションもあがる。
「ケルベロスハロウィンのお邪魔虫さんには、キッツーイお仕置きだよ!」
 燃え尽きちゃえ、とクーリンが掌から飛ばしたドラゴンの幻影は、強力な攻撃と共にミイラがまとう炎の勢いを増した。
 エスツーイの拳からは魂を喰らう降魔の一撃が放たれ、じわりとドリームイーターの生命力を奪い取り込む。
「さぁお嬢ちゃん、狼男と一緒に踊ろうじゃないか」
 竜胆の構えた電撃杖からほとばしる雷が、鮮やかに敵へと吸い込まれた。
 織夜は戦場を見渡す。仲間が安定して戦闘に集中できるようにサポートするのが織夜の役目。優先すべきは回復か、バッドステータスへの耐性か、はたまた攻撃力の底上げか。
 まずは仲間が戦いやすいようにするのが先決だ。織夜がさっとライトニングロッドを振ると、前衛を護るように雷の壁が作られ、クーリンの傷も癒される。
 ハロウィンにさまよう魔物。それが人に害なすというのならトリートはあげられない。倒すのみだ。

●パーティの前にはお片づけ
 ミイラから飛ぶモザイクがケルベロスたちに襲いかかる。
 大振りのな動作のわりには命中率は高く、与えるダメージも少なくないが、攻撃自体には工夫もなく単調だ。ただ、バッドステータスは厄介なため、織夜はその解除につとめた。
 ミイラの攻撃に対抗するように、しあのもとにかく攻撃を叩き込んで応戦する。
 解除のできるケルベロスに対して、敵にはバッドステータスが重なり、動けば傷を増やし、行動を邪魔し、と効果を及ぼしていた。回復手段を持たないため、それらはかなり大きな妨げとなっている。
 ヒスイはそこに尚も妨害を重ねようと、桜舞・散で密やかに敵の急所を射抜いた。着実に、過たず。ヒスイの攻撃はミイラに蓄積し、死の淵へと押しやってゆく。
 知識を吸収せんとミイラは織夜に向けてモザイクを飛ばす。が、間一髪。
「危ないところじゃったの」
 エスツーイが自らの体を割り込ませてそれを受けた。
「がんばれ! がんばれ!」
 回復の補助に回ったラッカが、分身の術を使ってエスツーイを応援して傷を癒す。
 ケルベロスハロウィンの時間が迫ってくる。
 パーティを台無しにされることのないようここできっちり倒させてもらう、と竜胆は胸部の発射口から必殺のエネルギー光線をミイラへと放った。ミイラはよろめいたが、何とかふんばって持ち堪えた。
「そろそろ決めちゃう? フォルンを見せてあげるね」
 あと一押し。クーリンはこれで最後だと守護獣を召喚する。
「Depending on my summons―!』
 現れたのは、クーリンと同じほどの大きさの狛犬だった。味方には大いなる癒しとなるが、敵に対しては牙をもっての粛清を。狛犬は深々とミイラの首元に喰らいついた。
 だめ押しにと、しあのも攻撃を重ねる。
「お父さんがマジ泣きした、この一撃――!!」
 完成までのお父さんの苦労がしのばれる掛け声とともに、しあのは右の御御足をドリームイーターへ容赦なく蹴り込む。
 ミイラはもんどりうって床に倒れ、その動きを止めた。

 戦いが終わると、光太郎は血のり付きのミイラの包帯に手を伸ばした。
「ハロウィンの仮装、直前まで決められなんだが、これはなかなか良さそうだ」
 ミイラの包帯を奪い取り、自身の仮装としようというのだ……が。
 ぐいっと引っ張った途端、ミイラはぼんっと音を立てて弾け……きれいなオレンジ色をしたジャックオーランタンの頭部へと変化する。どういうことかと光太郎は頭部を拾い上げ、それを小脇に抱えてみた。
「首を持って顔を隠して……デュラハン、とか?」
「ま、それでいいんじゃないか? もうパーティも始まるころだし」
 竜胆は時計に目をやりながら答えた。
「あら、それなら急がないといけないわね」
 織夜は破損した箇所をヒールグラビティで復旧し、散らばった飾り物を直し始める。周囲への被害は少ないから、開始までには余裕で間に合いそうだ。
「あ、今のうちにキープアウトテープを撤去しとかないと!」
 ほんとうのハロウィンが始まる前にと、ラッカは通りへと駆けていった。
「ケルベロスハロウィンか。楽しみじゃのぅ。こういうイベントでは女性の衣装も大胆……うぉっほん、工夫を凝らしたハロウィンの装いが見られるだろうからの」
「今、なんか言い直さなかった?」
 しあのに指摘され、エスツーイはふぉふぉふぉと笑う。
「ね、折角だから皆で本当のパーティ行っちゃう?」
 このまま皆でケルベロスハロウィンに突入しないかと、クーリンは皆を誘った。
 ドリームイーターがパーティを襲うのは阻止できた。あとはハロウィンを楽しむだけだ。
 飾り付けられた会場を見渡し、ヒスイは微笑む。
「さて、パーティはこれからが本番だな」
 ハッピーハロウィン。
 皆に素敵なハロウィンを――。

作者:千々和なずな 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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