有形喰らったあかがねの

作者:ヒサ

 シャイターンが姿を現したのは、彼が仕事から帰ってすぐのことだった。
 よく手入れされた広い庭はしかしこの時、彼以外の人の姿は無く、彼女にとっては好都合。
「おまえがこの家の主ね。……そうね、悪くないわ」
 シャイターンは男性を見遣り、品の良い邸宅に見合った財を持つ者である事を確かめた。それを築き維持する才を備えている様子である事も。
「いきなり何を……、人を呼びますよ」
「今からでは遅いし、無駄とも解っているでしょう?」
 理知的と表すのが近いだろうか、彼は少なくとも傍目には冷静に、彼女へと訝しむ視線を送る。それには異形への警戒と恐れが滲んでいたが、のみならず嫌悪と侮蔑の色もあった。しかし彼女にはそれすら、否、だからこそ一層、彼が好ましく映る。
「それよりも喜びなさい、おまえは私に選ばれるのだから」
 笑んで彼女は緑の色をした炎を操る。それは彼の身を包み焼き尽くし──やがて炎から出でたのは、豪奢な鎧を纏ったエインヘリアル。
「……ああ、綺麗ね。良いじゃない」
 派手な細工を施した二振りの剣を携えるエインヘリアルを見上げシャイターンが言う。
「それだけの装備があれば、自分のグラビティ・チェインくらい自分で調達出来るわね? 私が迎えに来るまでに済ませておきなさいな」
「──無論です。お待ちしておりますよ、レディ」
 不敵な色へと塗り替えられた目をそっと伏せたエインヘリアルが恭しく一礼するのを確認し、シャイターンは姿を消した。

「彼女達は『死者の泉』の力を操ることが出来るみたいなの」
 彩を帯びたその炎により、候補を見つけたその場でエインヘリアルを生み出せるらしい。メモから顔を上げた篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)はケルベロス達へ告げる。
「あなた達には、生み出されたエインヘリアルがひとを殺さないよう、急いで倒して来て欲しい」
 今回、シャイターンの行いを阻止する事は出来ない。狙われた男性をヒトのまま救う事も出来ない。出来るのはただ、飢餓状態にあるエインヘリアルに依って犠牲者が増える事の無いように。眉をひそめたヘリオライダーが僅かに視線を落とした。
「エインヘリアルはひとの多いところに行こうと、住宅街から駅前へと向かうようよ」
 時間帯は夕方、暗くなるより少し前。敵は人々が行き交う駅周辺を目指し、こちらが介入出来るのはそのほんの少しだけ手前。戦場は駅の裏手、バスターミナルの辺りになるだろう。開けた場所で足止め出来れば戦うには困らぬだろうが、付近には職員のほか、下校途中の学生が多く、避難を呼び掛ける必要があるかもしれない。
「彼は、効率的に事を運びたいタイプのようだから、散らばって逃げるひと達をしつこく追い回すような事は、余程のことが無い限りはしないでしょうけれど……何人ものひとが固まっていたりすると危険でしょうから、急いで貰った方が良さそうね」
 利用客には仕事帰りの大人も幾らか居るが、習い事等の為に一人歩きをしている小学生も少数ながら居る。結構な割合を占める中高生とて冷静に行動出来るかどうかは怪しく、死傷者を出さぬようにと望むならばケルベロス達の指示と配慮が不可欠となろう。
 また、あまりに手早く避難が進むようならば、エインヘリアルは新たな獲物を求め、改めて駅へと向かおうとする可能性もある為、その場合の対処も考えておいて貰えると助かる、と仁那は言った。エインヘリアルとなった為か飢餓感の影響か、あるいは元の性格ゆえか、その辺りは定かでは無いが、彼は己が行動に一切の疑問を抱く事は無い。なので良心に訴えかける等を試みるよりは、挑発する等して敵意を向けさせた方が早かろう。
「重武装のしぶとい相手のようだけれど、今ひとつ装備を扱いきれていないところもあるみたいだから、慣れる前に……、殺して、来て貰える、かしら」
 ふらり、一度彷徨ったヘリオライダーの視線は最後、色を乗せぬままにひたり、ケルベロス達へと据えられた。


参加者
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)
神宮時・あお(壊レタ世界ノ詩・e04014)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
アクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)
伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)

■リプレイ


 初めに被害に遭ったのは、敷地を囲う壁だった。地を踏む足の軌道上にあったコンクリートが蹴り破られ、次に甲冑姿を阻み得るものは客を降ろし終えたばかりのバス。そこへ至らせてはならないと、ケルベロス達が駆ける。
 四名と一体は敵の進路上に割り込むべく。その背後で歩を緩めたヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)付近の職員達へ、自分達がケルベロスである旨を告げる。
「敵は俺達に任せといて。貴方らは巻き込まれないよう落ち着いて逃げて」
 車から降ろした運転手を庇うようにして彼は、勇ましい装いを翻す。敵が間近に迫る状況の中でそれでもそれは、是と応じさせるに足りた。
 敵へと向かった者達から、相手の勢いを削ぐ為にまず放たれたのは雷撃。治癒の為にと拵えた赤華の杖とて、牽制は果たし得る。それを振るったアクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)を追い抜き最前線へ進み出たリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は、間を置かず声を張る。
「これ以上は行かせないわよ。『餌』が来てあげたんだから」
 アタシ達なら不足は無いでしょう、と口の端を上げる彼女を起点に空気が張り詰める。伝播するそれを感じてか、人々が滲ませていた困惑と怯えがより明確に映るのをベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は見て取った。それはこの場から離れる事を願う無意識、あとは導いてやれさえすれば。
「急いで離れてくれ。ああでも固まって動いて目立つのは危ないから気をつけて欲しい」
 注意を促しつつ少年は辺りへ目を配る。振りかざされたエインヘリアルの剣が人々へ届く前にと紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)が敵へと迫るのが判った。切っ先が巻き上げた瓦礫が宙へ舞い、少年もまた力無き人を護るべく動く──が、その視界の中、神宮時・あお(壊レタ世界ノ詩・e04014)の体が問題の岩塊を受け止める。衝撃に乱れた呼吸が小さな咳となり零れたが、ケルベロスの身ゆえもあろうか、当人に気に留めた様子は無く。
(「もう暫し、頼む」)
 各々が為すべき事をとばかりに、背後の安否を確かめぬ少女の背に少年はそっと目礼を。努めて冷静に、それでも出来る限りに手早く、彼もまた誘導を続ける。
「あまり好き勝手出来ると思わない事ね! バーニングエルフキィィック!」
 仲間を背に庇ったリリーは敵へ突撃を。その間にアクレッサスは攻撃役へと雷の加護を撃った。受けて敵の剣をかいくぐり放たれた大輔の蹴りは、逆側から届いたもう一振りに阻まれたものの、動きが止まったその隙に、あおの砲撃が敵の巨躯を圧した。
 星辰が辺りを蹂躙せんと震える様にケルベロス達は顔色を変えたが、宙を走るボクスドラゴンが術が広がるのを防ぐ。同じく身を盾にと駆けた娘もまた、予め得ていた炎の加護に依り、身の内を刺す痛みはほどなく忘れ得た。
「よし、ありがとうな、はこ」
 癒し手たる主は小竜へと笑んで、仲間達へ護りが成ったのちは攻撃へ、と新たな指示を与えた。

「固まって目立ったら駄目で……え、一人ずつ順番に行けって事?」
「いやそれだと日が暮れる──」
「と、とにかく静かに! 小さい子から先に──」
「えっ、携帯落とした? 家に連絡、は、えーと」
 人々はその殆どがケルベロス達の声に従ったが、中には混乱から脱しきれず動けぬ者も幾らか居た。学生のグループなどは特に、その中でも年長者が判断に迷うようで、動きを鈍らせる。その様から、年少者達の分も責任を背負い込んでいるらしいと察し、誘導にあたっていた女性達が助けに入る。
「仲間が敵を惹き付けているから、今なら大丈夫だ」
 ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)が示した前線は、学生達には砂埃と轟音ばかりと映ったろうが、
「なに、万一の事があってもあのお兄さんが何とかしてくれる」
 未ださほど退がり得ぬまま職員達の為に奔走している友人の背を指差して、微笑んだ彼女はそう断定した。
「お前はこいつを駅員に届けて来てくれ。お前はこいつらを連れて行け」
 周囲への影響力が大きそうな者らを見繕い、伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)が指示を与えて行く。体格の良い者には救助して来たばかりの小学生を抱えさせた。
「連絡通路はそろそろ閉められてんだろうから外から回れ。おら全員焦らず急げ」
 駅との連携をと依頼された職員達が此処への入口を塞ぎつつあった。外の路上も少なからず混乱している様子ではあったが、子供達を逃がす程度は難なく叶おう。前線の動きへの警戒を保ったまま彼女達は職員へも声を掛けつつ動き。
「──お疲れ様」
 ざわつきが遠のいてのち、労いの言葉を寄越して来たナディアと大差ない体格の子供らを抱えたり担いだりする任から解放された騎士は、肩をぐるりと回す。
「重かった」
 いなせが吐いた息は実感を伴う深いもの。十年以上掛けて育った体が、掛けた年数分の色々を満載した命が、重くない筈が無い。
 ほどなくビタが、ヴィルベルから預かった数名の職員を案内して来、後退して来たベルンハルトが安全の確保と確認を完了した旨を報せる。そうして改めて前方へ目を転じた彼女達が把握したのは、無人となった鉄塊達の向こうにある戦いの音──ひとまずは安堵する事を許されて、三名と一体は仲間達の元へ向かう。


 斬り払い、鎧を穿ち。知覚を冒し、肉体を焦がす。自陣の損害よりも周囲のそれを重く見た。ただ耐えるのみならず標的の無力化を目指した。そう戦力の揃わぬうちから手を重ねた事により、ケルベロス達が全員揃った時には敵は、そこにあった戦力差の割には結構な消耗具合だった。
 無論こちらの疲弊も相当なもの。いなせは急ぎ敵の前へ向かい、薬と血にまみれたリリーの姿をその身で隠す。
「待たせたな」
 それでも傷に関しては、護り手も癒し手も懸命に、創られる端から塞ぐべく手を尽くしていた。足りないのは、彼ら彼女らが傷そのものを負わず済むよう護る術。彼女はドローンを展開し、敵を見据えて告げる。
「後はこの胸糞悪ィ野郎をぶっ潰すだけだ」
 笑んで、否、嗤ってさえ見せた。何しろ目を逸らさせるわけには行かない。そうでなくとも進ませてはならない。無駄にしない為に積み重ねたその全ては、護るべきものを護るため。
 ベルンハルトの手に宿った光が敵を襲う。装備に任せた暴力に過ぎないものを、何の感慨も無く振るわれ続けるなどこれ以上は。護りを固め、人々の盾と在り続けた者達を労い支え、されど流れを緩める事は無く、一層のこと攻め抜く為。間隙を縫いナディアが炎を弾と撃ち、敵を穿つに合わせヴィルベルの爪がかの鎧ごと胴を抉る。
「ところでもしふざけるようなら、ヴィル、覚悟は良いな?」
 くるり、敵の反撃をかわして退る彼の、纏う空気とでも呼ぶべきものに何事かを感じ取ったらしきナディアが、友人の大きな背へ向けて炎を揺らす。
「──はーい」
 ヴィルベルが肩を竦めた。声に笑みが乗ったのは、こちらは逆に友人の背も顔も映らない視界が新鮮だったから。
 そうした事柄にも心を向けられる程度には、確かに、人々を逃がし終えてケルベロス達には余裕が出来ていた。心身共に緊張の意味は既に変わっていた。とはいえ、一歩も進ませてやる気は無い、その意志は比重を増してより強く。戦意は研ぎ澄まされた刃と同じにぎらついて、リリーの痩躯が枷を外された如く、
「螺々々々────!」
 爆ぜ駆ける。しなり放たれ踏み込んだ捩れが敵を大きく退がらせて。
「後ろ、頼む!」
 どちらの方向にも脱ける隙など与えぬと、発されるアクレッサスの声。応えたあおの蹴りが巨躯に乗った勢いを殺す。白に覆った手が操る華杖が加護を発し、迎撃に出た武闘家の身を更なる高みへと。
「有難い!」
 ずっと支えて貰っていた。だから己が身を顧みる必要すら無かった。そうして自身の肉体を攻める為だけのものと成して大輔は、癒し手の信頼を背負い、脚には憶えている嘆きを纏い。放つ蹴りは鋭くされどその見目以上の重さで以て敵の体を打ちのめす。質量の抵抗ごと蹴り抜いた、その手応えは過たず。
「……ワア」
 だがそれでも、そこまでのものをまともに喰らってなお、敵は抵抗を止めなかった。最早瀕死であろう身で、痛みに震えながらも右の剣で身を支え、左の剣に術力を塗す。
「さっさと倒れろ」
 その姿へ据えた青い瞳は熱を灯し、されど高い声が冷徹な色を乗せて吐き捨てた。
 敵が治癒を刻む。させはしない、いなせが爪を凶器と変ず。傷を癒す事こそ許したけれど、星の護りは確実に打ち破る。
 敵の間近に陣取っていた彼女の耳には、兜の奥から洩れる敵の声が届いた。けれど恨み言めいた呪詛になど、耳を傾ける価値は無いと聞き流す。
(「『何故』なんざ、」)
 彼が護られるべきものから殺されるべきものになった理由など。不運と言えばそれまでの。
 淡色の花器が火を噴いて、砲撃は今一度敵の身を圧す。小銃が剣持つ手を撃ち抜いて、ウイングキャットの魔環が呪詛を重ね、握り振るう力を減ず。元より敵は、防具の力に頼り身を護る事自体は疎かにしていたものだから、武器すら満足に扱えぬとなれば嫌でも不利を実感しようが。
「元から使いこなせて無いカンジが半端だよねえ」
「体捌きが甘いのよ」
「ああ、確かに重心が──」
 ふと呟かれた苦言に助言もどきが乗った。
「お前さん達流石だなあ」
 自称戦い不得手の自称おじちゃんは仲間達の目に素直に感心していた。かのエインヘリアルにはこれら全て皮肉と映ったろうが。黙れとばかり辺りを薙ぐ剣は、肉体のダメージを押して重く。
 されどそれとて無茶の果て。開戦直後から丁寧に打たれ続けた手は、彼の知らぬ間にその身を蝕んでいた。崖縁に在るかのような均衡など、最早崩れたに等しい。
「──炎よ」
 ゆえにベルンハルトが手をかざす。連なる熱が標的を捉え炙る。照り返す赤に揺らめく少年の静かな黒瞳は、どこか哀しげな色を帯びて敵を映した。
(「お前を、その道を、せめて照らそう。迷う事無く逝けるよう」)
 アスファルトをも融かす火は光を伴い、敵意すら挫く如く場を舐める。あおの指がそっと虚空を撫で、不可視の刃を生み敵を刻む。
 着実に、痛みを与えたその先に、大輔の蹴りが敵の身を貫く。身の内から冒す衝撃が癒えぬ間に、リリーの拳が獲物を捉えた。いなせが纏う銀流体が主の腕に力を宿し鎧を砕く。
 過ぎて嬲られた神経は務めに倦んでエインヘリアルをその時木偶と変え、抗う力を奪った。
「なら……ああ、頼まれてくれるか」
 仲間達の状況を急ぎ確認したアクレッサスが、翠の視線に気付き目を細めた。
 仕留めろと煽るかのような、終わらせてやれと慈悲を掛けるかのような。華の祈りは捩れた竜角を戴く青年へと届く。
「──さて」
 耳を叩くのは喘鳴、視野を冒すのは陽炎。
「遺したい言葉などはあるかな」
 苦悶に呻く男を青年は、己が長身で以てなお見上げる。それでも眼前の者はかつてはヒトだったから。緑の炎に侵されて、それでも何か残るものがあるならと、一縷の望みを投げ掛けた。
 けれど。
「レディ、私、は──」
 掠れた声が紡いだのは呪いの徴。一呼吸、待ったけれど、彼はそれ以上を、それ以外を、くれやしなかった。
 だったら。
「ナディア」
 風を喚んだ青年は背後へ乞うた。抱えた、背負った、それでも崩れぬ声の重みに応えて降るのは、幾つもの燃える星。伴う熱は追い風に。
 ヴィルベルの手に非物質の槍が唸る。嵐は音を塗り潰し、炎が荒れた。
 そうして斬り刻まれた、選ばれなかったものは切り捨てられる。


 緑火に与えられた武装ばかりか、ヒトであったその跡すらも消え行く様を円い金瞳がじっと見つめていた。
(「シャイターン、が、彼を変えた、の、ですよ、ね。…………」)
 よすがは色を、形を失う。しかしきっと、亡骸の主にとってはそれも良かったのでは、とも過ぎった。
 彼も不条理の被害者と、ケルベロス達は憐れんだ。それでも、塀を崩し車両をへし折り地面を抉り人へと切っ先を伸ばす暴力を捨て置くわけには行かなかった。ままならない、と嘆く代わり、疲れた、とばかり重い吐息が落ちる長い音がした。
「手当をしなくてはな」
 荒れた地形へ踏み入るナディアの靴が瓦礫に滑る。すぐに立て直せはしたけれど、手をついた先のバスであったものは、随分と芸術的な破れ方を強いられていた。人々を逃がせていて良かったと、今一度強く思う。

「──こんなもんかな。はこもお疲れ様だ」
 仲間と、地形と、手分けして各々傷を癒し終えた。盾役を務めた疲れを押して手伝った己がサーヴァントをアクレッサスが労う。脅威が去り緊張が緩む事を許されたこの場においてその様は、例えるならば幼い娘を褒める優しい父親に似て。
「俺は駅の方に報告行ってくるよ」
 ヴィルベルの声にあおがはたと顔を上げて傍へ駆け寄り袖を引いた。そうして、見上げて来る目の必死さばかりが先行した、ペンを握る少女の辿々しい訴えに、青年は一度首を傾げたが。
「ああ、転んで泣いてたガキなら見たな」
 幾らか時間を要したものの、供をしたい、人々が心配、との意志を示した少女の背をいなせの言が押す。エインヘリアルの手からは洩らさず護ったとて、混乱の中で多少の怪我を拵えた者は他にも居よう。不可欠とまでは行かずとも、ケルベロスが心を砕き手当を、となれば、彼らへの励ましになる。
 彼ら──ケルベロス達が護る事を決めた、護り得た無数の命。それが安らぐ事は間違い無く意義ある事で。終わりを察し賑やかになりつつある外の音、それをなす人の声の健やかさに大輔はほっと肩の力を抜いた。
 そう、耳に平穏を尊いものと聞きながら。それでも『最期』の場所に留めた目を未だ逸らせないでいたリリーやベルンハルトは、去る前にと惨事の記憶を胸に刻む──憎むべきはシャイターン、その炎を断てさえすればと。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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