当方、不遜のロマン砲

作者:ハッピーエンド

●憧れ
「アビスフィンガー!!」
 紅葉の舞う境内。修行に明け暮れる少年がいた。若さゆえの過ち、または黒歴史。本来この修行は微笑みと共に終わる青春の1ページであるが、今回は運が悪かった。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 不意に現れた幻武極。少年は操られたように拳を繰り出すが、ダメージを与えた様子は一切ない。しばらくすると幻武極は手にした鍵で少年の胸を貫いた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 倒れる少年。そして、姿を現す白髭の夢食い。
 夢食いはニヤリと笑い、腕を組みながら胸をそらすと、拳に闇をまとわせアビスフィンガーを放った。衝撃に紅葉が吹き荒ぶ。
「よし、そのままお前の武術を見せ付けてきなよ」
 指示を出す幻武極を夢食いは一瞥し……、そして、悪夢は解き放たれた――。

●脅威
「武術家を襲う夢食い・幻武極の話は、もうお聞き及びでしょうか。彼女が、また夢食いを生み出しているようです」
 アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は、深刻そうな顔で、かぶりを振った。
「今回襲撃が発生するのは廃寺。憧れのヒーローに扮した少年が襲われ、夢食いが出現するようです。夢食いは戦う相手を求めて人里へと向かいますが、私たちはその前に夢食いを迎撃することが可能です。人里に至るまで、住んでいる一般人もおりません。周囲の被害は気にせず、思う存分その力をふるってください」
 アモーレは拳をグッと握りしめた。熱のこもるアモーレに、ハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)が、お茶を差し出す。
「少年から生まれたなら弱そうだね、楽勝?」
 首を傾げるハニーに、しかしアモーレは首を振る。
「いえ。出現する夢食いは、襲われた少年が目指す、究極の武術家が使うような技を使いこなします。厄介な相手ですね」
「あっ、そうなんだ」
「1体のみで、配下もなし。そこまでは良いのですが、拳に闇をまとわせた突き、自在に動くマフラー、そして、自らの身体を弾丸にしての突撃。これらの攻撃を全て全力で行ってくる危険な相手です。繰り出される攻撃は全て脅威。そう言ってよいかもしれません」
「油断しちゃいけない相手なんだね」
 ハニーは気をひきしめて、お茶を飲み干した。
「無邪気な少年の夢を利用する、幻武極の暴挙! 許されるわけもありません! しかし今回、幻武極は去った後です。まずは幻武極が生み出した夢食いを撃破し、夢見る少年の救出、お願い致します」
 アモーレは、深々とおじぎをしたのだった。


参加者
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
イグナイト・リヴォルヴ(煉獄系警備員・e41175)

■リプレイ


 真っ赤な紅葉が舞い散る中、その夢喰いは威風堂々と白銀のおさげをたなびかせていた。太陽が空を赤く染める中、大音声が響く!
「ふ、中々骨のありそうなヤツラがいおる! どれ、ワシの究極の武術。その身に味あわせてくれようか!!」
 夢喰いは、シュババッと音を立てると、親指を中に折り、手のひらを上向きに半身に構えた。かなり独特な構えだ。
 不敵に笑う夢喰い。しかしその姿に怯むことなく、むしろ嬉々とした表情で、新撰組風の空色服に袖を通したうさ耳少女が、ライドキャリバー『まちゅかぜ』に右足をのせ、ビシッと夢喰いを指差した。
「究極の武術家とな! これは笑止! まずは拙者を倒してから名乗っていただきましょうぞ! おじいちゃん!」
 ニヤニヤが止まらないマーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)の脳裏で、とある円盤が誇らしげに回転していた。マーシャが愛する、限定版で購入した円盤セット。一二三殿が影響を受けたアニメは、拙者も大好きなあの作品のはず! ならば、拙者には既に敵の技が『見えている』!!
 その横では、色黒長身でシャイターンに似た雰囲気を持つ男が、あくびを噛み殺していた。
「えーと、どっかのアニメで見たよーなアレだよなアレ。師匠役なら弟子も必要だけどいねーのか。つまんねーなぁ、しかたねーケド」
 なんやかんや言いながらも、内容には詳しい。イグナイト・リヴォルヴ(煉獄系警備員・e41175)も、脳裏にはマーシャと同じビジョンが映っているようだ。
「巨大ダモクレスを生身で倒せそうなドリームイーターだね。凄く叫びそうな気がするよ」
 露出の多い巫女服を着た白髪のサキュバス、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)も、夢喰いの元になったであろう人物を思い浮かべながら、くすりと笑った。
 仲間たちも、うなずき、笑い、それぞれ頭の中には同じ人物を思い描いている。そんな中で、
「あびす? あびすって深淵って意味だったよねぇ。ああ、闇を纏うから技名にあびすがつくのかなぁ? あの年頃の男の子って、どうして闇とか傷跡とか好きなんだろうねぇ……まあよくわかんないけどぉ、ちゃんと助けてあげなくちゃねぇ」
 ざわめきが起こった。みな一様に驚愕の表情を浮かべ、発言した人物。大きな目の描かれた布で顔の半分を隠す、狩衣を着た紫ツインテールを見つめていた。ちなみに若干一名、同じようにあびす……? と首をひねっていたが、流れに乗っかった主婦もいる。
「まさか、知らぬのでござるか!? あの名作を!?」
「ふえぇ!?」
 ひと際熱を持っているマーシャに詰め寄られ、葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)は汗を飛ばしながら後ずさった。いつもなら少し薄気味悪くキヒヒと笑うところだが、迫力に気圧されおどおどしている。ちょっと押しに弱いお姉さんなのだ。
「それなら後で一緒に見るでござるよ! なんたって拙者! 高画質限定円盤セット、購・入・済み! でありますからな!」
 満面の笑みを向けられ、コクコクうなずく咲耶。ほほえましい光景を尻目に、童顔長身赤毛の男が、パチンと指を鳴らした。
「みなさんお待ちかね!」
 プランが芝居がかった声をあげると、咲耶以外の面々が一斉に顔を上げた。
「ついに只野少年を倒した幻武極」
 セリフを引き継いで、マーシャが足を組みながらナレーション声を上げる。
「ですが、闘志に燃える幻武極は夢喰いを生み出し、地球と人類の未来を懸け、最大最後の戦いを番犬達に挑みます!」
 続きを引き取ったのは、白く長い髪と金色の目をした、猫耳ウェアライダー。漆黒のウイングキャット『ヴィー・エフト』を肩に乗せ、ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)がニヒッと笑う。
「この危機を番犬達は切り抜けることが出来るのでしょうか!」
 周りの流れに合わせてニッコリ笑うのは、金髪色白の落ち着いた空気を持つ主婦。中学生になる娘がいるとは思えないほど若々しい主婦。なにゆえか娘の夏服をアグレッシブに着こなしている主婦。その名もユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)。
「希望武戦伝ケルベロス」
 上品な声のタイトルコールが上がった。清楚なお嬢様然とした赤髪のサキュバスが、礼儀正しくおじぎをした。旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)は、しかし、どこか色気を感じさせる女性でもある。
「さらば師匠!」
 イグナイトは、まー付き合ってやるよといった感じである。
「おさげジジィ、暁に死す!!」
 トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)が白い歯を見せニッコリ笑いながら、茶目っ気たっぷりに夢喰いを指さした。
「ふん! 茶番はもう済んだのか!?」
 腕組みしながら挑発的な笑みを向けるおさげジジィ。表情こそ悪ぶってはいるが、最後まで待っていてくれるあたり、なんだか甘い。
 そんな夢喰いとのやり取りを尻目に、緑髪の和服少女、ハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)は咲耶になにやら耳打ちしていた。ふむふむとうなずく咲耶。せーの、と2人気合を入れると、
「そ、それではぁ!」
 咲耶が頬を赤く染め、心持ち周りより少し小さく叫ぶと、
「おさげジジィ最終決戦!」
 ハニーが元気満々声を響かせた。こちらも頬は赤い。
「レディーーーー! ゴォー!!」
 最後は番犬達による開始の声が山に響き渡った。


「ワシのこの手が唸りをあげる、闇を纏いて全てを侵す!」
 ニヤリと笑う夢喰いは、右手に闇を這わせ、猛スピードで番犬の懐に飛び込んだ。
「漆黒! アビスフィンガー!!」
 突き出した拳の先にはユリアの姿。弱体も味方の強化も整っていない状態でのそれは、肌にゾクリと刺さる凄みがあった。
 飛び出したのは赤いボクスドラゴン『チョコ』。無邪気な顔に夢喰いの拳があたると、螺旋を描く闇がその身体を空へとかき消した。
「ふっ、身をていして仲間をかばうとは、やりおるわ!」
 満足げに笑う夢喰い。番犬達に緊張がはしる。最後尾ではハニーが、今日の夕飯はサービスするよと相棒の健闘を称えている。
 次の瞬間、夢喰いの笑みに苦痛が混じった。
「あなたの作ってくれた一手。無駄にはしないわ」
 九尾扇を夢喰いへと振り下ろしたのはユリアだった。夢喰いはかろうじて衝撃を受け流したが、それでも脅威を感じ間合いをあける。
「ふはははは! 中々、筋がいいレディもいるようだな! いいぞ! そうでなくてはな!!」
 夢喰いを見据えるユリアと、不敵に笑う夢喰い。目と目が合い、どちらからともなく笑みがこぼれる。決して娘の夏服を着こなすアグレッシブさに笑った訳ではない。ユリアは敵が放つ研ぎ澄まされた力を浴びて、歓喜に身体を震わせた。
 その横から、柔らかな物腰で赤いサキュバスが夢喰いの前に立った。とても楽しそうな笑みを浮かべつつ、優雅に一礼。
「貴方様の技……、何処かで聞いた事がある様な……? 手の甲にハートの紋章があるとかございませんでしょうか……?」
 夢喰いの右手に、竜華の手から伸びた鎖が艶っぽく絡まる。
「味な真似を!」
 豪快に笑う夢喰いの後ろでは、ヒマラヤンが自分に幻影を付与している。
「ヒーロー志望の子供が原因で、市民に危害を加えるっていうのは、本人にとっても不本意だと思うので、ちゃっちゃと倒してしまうのですよ」
 その声に応えるかのように、ヒマラヤンの影からヴィーが尻尾の輪を飛ばした。
 余裕の表情で攻撃を避けようと動いた夢喰いが、不意に身体を痙攣させた。驚き見やった視線の先には、稲妻を纏って突き抜けたプランの姿があった。
「小癪な!」
「チョコ殿の犠牲。無駄にはしないでござる!」
 生じた隙をつくように、幕末オーラの弾丸と、ガトリング砲が夢喰いの肩を揺らした。放ったマーシャとまちゅかぜの髪も風圧を受けて揺れている。
「ふん、その程度の攻撃、痛くも痒くもないわ!」
 目を瞑り笑う夢喰いだが、その顔を突然の爆破が襲った。
「黙れおさげジジィ! 幻武極に生み出され、グラビティ・チェインを奪う悪党がッ! 男が心に決めたものに従い己を磨くのは大事なことだ! それがアニメの影響でもだ! そこに付け込む夢喰いは許せねぇ!」
 トライリゥトがビシッと指を突き付けると、その横から相棒のボクスドラゴン『セイ』も炎の塊を夢喰いへと弾き飛ばした。
「おのれ! 小童がああああ!」
 顔を真っ赤にさせる夢喰い。
「ごめんなさいねぇ」
 その後ろから、申し訳なさそうに、こわごわとゾディアックソードを振り下ろす紫ツインテール。咲耶はサポートこそ得意だが、攻撃するのは不慣れだという。
「格ゲーってのは切り返しとSTGとコンボの合わせが重要なんだよなー」
 後方では、全身を地獄の炎で覆いながら、イグナイトが戦闘準備を整え、その横でハニーも仲間を強化していた。
 ユリアは、夢喰いがマフラーを掴む姿を確認すると、
「鞭の速度は、離れれば離れるほど増す……となれば、少しでも近付くべきかしらね」
 懐へ向かい踏み込んだ。しかし、夢喰いは不敵に笑うと、マフラーの切っ先を器用にユリアの首筋へと向けた。大きく弧を描いて、ユリアの後ろから襲いかかるマフラー。慌てて向きを変えるユリアの前に、華奢な身体が飛び込んだ。咲耶の身体が勢いよく弾き飛ばされる。
 砂まみれで起き上がった咲耶だが、思ったよりも傷は浅い。咲耶は自身の服に付いた砂を、ありがとうねぇと優しくはたき落とす。
 一方、攻撃から逃れたユリアは、電光石火の蹴りを夢喰いに突き刺した。ウェーブがかったブロンドの長髪が風にたなびき、夢喰いはカハッと呼吸を潰される。
「元気なお爺ちゃんだね。動きを止めて、燃やしてあげる」
 プランの掌から放たれた炎の幻影が夢喰いの背中を焼いた。さらに、竜華が鉄塊剣に地獄の炎を纏わせ叩きつける。
「ふん、甘いわ!」
 夢喰いは避けるが、切っ先が背中をかすめ炎が燃え広がった。
「私の炎の華が燃えています!」
 夢喰いは、軽く距離を取ると神経を集中させ始めた。なんやかんやと幾度か刃を交わした後、夢喰いはカッと目を見開くと、番犬の攻撃を利用し、大きく後ろへと飛び退いた。


 夢喰いは紅葉の枝に足をかけると、思い切りそれをしならせ、大声で笑いながら闇のモザイクをオーラとして纏った。
「あ、あれは『超級覇王アビス弾』!」
「知っているのかぃ? ヒマラヤンちゃん」
「いや、全然知らないのですよ。でもあの技はオーラの気流を渦のように纏わせて突進する、超・超・高威力の技なので、当たらないように気を付けるのです!」
 これは絶対知っているよねぇという表情を浮かべる咲耶に、ヒマラヤンはすまし顔だ。
 さらに、トライリゥト、プラン、竜華、マーシャ、イグナイトが話の流れに乗っかった。
「もちろん俺も全然知らないが、あれは弟子と決着を付ける時に使われるような大技のような気がするぜ!」
「もちろん私も全然知らないけど、協力者に射出された場合、巨大ダモクレスさえ、葬り去ってしまいそうな気がするね!」
「もちろん私も存じませんが、そもそも、あの技、お2人いないとできなかったような?」
「もちろん拙者は、完全に知っているのでござるが、この技は師匠が弟子と一騎打ちする時にも使った技。1人でも打てる技なのでござる!」
「あの技か。距離考えると、攻撃判定まで100フレくらいか? 突進技だから、軸回避で裏回りしちまえばボーナスタイムだぜ!」
「みんな本当に詳しいのね」
 感心したように、ユリアが微笑んだ。ちなみにここまでの会話は1秒である。集中していると時の流れはおかしくなるのだ。
「ハァァァ! 超級! アビス! 電影弾!」
 凄まじいエネルギーの渦が、弾丸となって射出された。狙いは竜華。
「ウワハハハ!」
 衝突する。という刹那、白い影が間に割って入った。
 ドゴォッッッッ!!!
 大音響の中、超回転する闇のモザイクは、飛び込んできたうさ耳を巻き上げはね飛ばす。どう見ても大ダメージだ。
「マーシャさん!」
 緊張を含んだ竜華の声が響いた。
「こ、これが師匠の超級覇王でござるか……ふおおおお! ふおおおおお!!」
 瀕死寸前の大ダメージを負ったというのに、このうさ耳は、嬉しそうにクネクネ身体をよじりながら、むせび泣いている。愛が深い。深すぎる。それを見て、ヒマラヤンが治療用の大きな注射器を取り出した。
「こらそこ、痛そうだからって逃げちゃ駄目なのですよ! あんまり逃げる様なら、敢えて痛くするのですよ!」
 溢れ出す愛ゆえにゴロゴロ転がっていた瀕死のマーシャに、ヒマラヤンは容赦なく巨大注射針をぶっさした。哀れマーシャの悲鳴が森に木霊する。やったぜ、マーシャのダメージはかなり回復した。
 夢喰いは息を吐くと、気を取り直すかのように胸を張った。
「東! 西! 南! 北! 中央――」
 気合をいれる夢喰い。しかし、その身体が麻痺におそわれる。疲労は色濃い。その隙を番犬達は見逃さない。イグナイトの言葉と共に集中攻撃が始まった。
「最初からカンストしちまった強さに『意味はねぇ』。上げれねぇ強さは、『それ以上にならねぇ』。努力の過程のねぇ強さは『無意味』だ。お前は、無意味に、帰してやる。俺の記憶ごと」
 灰色の焔が夢喰いを焼き、
「貴方の夢を悪夢で彩ってあげる。この現はもう私の支配下だよ」
 プランが空間を捻じ曲げ、
「雷纏いし精霊を、振り切れぬ物はないと知れ!」
 咲耶の雷球がその身を焦がす。
「うまく避けて頂戴ね。首が落ちたら、つまらないもの――もっともっと、楽しませて?」
 ユリアが『なまくら』で切り伏せ、
「覚悟するでござる! 幕末・五稜郭フィンガー!!」
 マーシャが指を五稜郭の形にし、掴みかかる。
「俺のグラビティが真っ赤に燃えるぅ! ヒィィィイト・エエェエエエェンドッ! …ってな!」
 トライリゥトも全魔力を込めた一撃を豪快に打ち下ろした。
「ふふっ……新しく完成した技のお披露目です♪」
 そして、竜華が八本の鎖を放つ。それぞれが生きた八岐大蛇の如く炎の蛇となって夢喰いの身体に絡みつき、
「さぁ、咲き誇れ、業炎の華……!」
 凛とした声にのせ、さらに放たれた大剣は一直線に夢喰いの身体につきささると爆発し炎の華を咲かせたのだった。
 ほどなく煙がはれると、夢喰いはうさ耳の胸に抱かれていた。
「見よ! 当方は赤く燃えている」
「師匠ぉぉぉぉぉぉ!」
 身体を炎に燃やされながら、渾身の親父ギャグを放つ夢喰い。号泣するマーシャ。
 夢喰いはマーシャの手の中で炎に呑まれ、その姿を溶かしていった。
「あばよ、おさげジジィ。なんだか師匠に会いたくなっちまったな」
 夕日に染まる番犬達に背を向け、トライリゥトは空をあおぐのだった。


「あれ、ここは……?」
 柔らかい手が頭を撫でる感触に、被害者の一二三は意識を取り戻した。
 風がサワサワと頬を撫で、紅葉の葉がハラハラと皮膚を撫でるのを感じる。季節はもう秋だ。
(「うららかだな……」)
 ホッと息を吐き出し目をあける一二三。その目の前では大きな胸が踊っていた。
「!?」
「あら、起きたのね」
 ガバッと勢いよく起き上がるも、勢いあまり転倒する一二三に、プランがコロコロと笑いかけた。
「ふふ、元気だして。頑張る男の子って好きよ。……若い時って、そんなものだし」
 紅葉よりも顔を赤くし、目を踊らせる一二三に、ユリアは母親のように優しく言葉をかけた。周りを見れば笑顔の番犬達。
「見よ! 当方は……現場の片づけをしておいたぜ」
 トライリゥトがニッと笑った。
「しかし、あれはよい作品であった。一二三殿の気持ち、拙者も痛いほど解るでござる!」
「ヒーローを目指すなら、心の方の修業も必要だと思うのです。体を鍛えるだけじゃなく、そっちの方も頑張るのですよ」
 興奮したマーシャが一二三の手を取り、ヒマラヤンがウィンク。状況が分からず、まごまごする一二三の袖を竜華がソッと引いた。振り向く一二三に、竜華は微笑み、自分たちが一二三の憧れる究極の武術家と戦ったことを伝えた。
「貴方が目指したヒーローはとても強かったですよ。理想に近づけるよう、これからも頑張ってくださいね♪ ……あれ程の強さを手にしたら、またお会いしましょう♪」
「本当ですか! もしよかったら、どんな感じだったか、少しでもいいので、教えてください!」
 興奮する一二三。その頭にイグナイトの大きな手が乗せられた。
「運動ついでじゃねーけど、まぁ、黒歴史に本当にならん程度に一緒に修行すんのもいいんじゃねーか? ほら、ケルベロスと一緒に修行したっつったら箔つくだろ、ウン」
「また幻武極に目を付けられても大変だしねぇ。護身用の御札の使い方も、教えてあげようかねぇ」
 目を輝かせる一二三の手を咲耶が優しく掴む。そして一二三は番犬達と修業を始めた。ハニーはそれを優しく見つめながら、急須を傾けた。

「答えろ、一二三!」
 師匠役のイグナイトの声が響き、一二三がそれに応える。激しく動く2人の間を、真っ赤な紅葉が楽しそうに舞い踊る。そして――、
「見よ! 東方は、赤く燃えている!!」
 白い息を吐き出し高揚する一二三の声にあわせ、楽しそうなケルベロス達の声が、赤く燃える空へと響き渡ったのであった。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 8/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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