●花園と淑女
山奥に鎮座する、豪奢な洋館。
所有者が手放して数か月。人の出入りが途絶えてまだ日が浅いそこに、メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は足を運んでいた。何かに引き寄せられるように。
「……あったわ。やっぱり、メアリの予感は間違っていなかったのよ」
いくつかの先例にあった状況と同じ。洋館の庭に広がる花園は、モザイクに覆われていた。
花園の外からでは視線をモザイクに阻まれ、内部の様子は窺えない。
メアリベルは少し思案したのち、躊躇なくモザイクの内部に足を踏み入れた。
「まぁ。まるでモザイクの花園ね」
現実離れした光景に、感嘆するメアリベル。
内部は、元々そこにあったであろう花々や草木、生垣などが、バラバラにされて混ぜ合わされたような、奇怪な場所だった。
その上、まとわりつくような粘性の液体が周囲を満たしている。しかし不思議と、呼吸にも発声にも支障はなく、動きを制限されている感じもしない。
「――このワイルドスペースを発見できるなんて。まさか、この姿に因縁のある者なのかしら?」
興味深げに周辺を見回していたメアリベルの前に、女が現れた。
色とりどりの花々で飾り付けられた、紫色の豪奢なドレス。腕は、肘から先が鳥の翼の如き形状になっており、美しい紅色の大鎌を、日傘のように掲げている。
繊細なヴェールの下に覗ける長い髪は、燃えるような真紅。
「あなた、メアリ?」
メアリベルが反射的に問いかけるも、女は粛然と麗しい笑みを浮かべたまま、否定も肯定もしなかった。
「残念だけれど、今、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかないの。アナタ、ワイルドハントであるワタシの手で、死んで頂戴?」
「ああ、やっぱり、メアリではないのね」
これは、自分の姿を写し取っただけの別人だ。短いやりとりの中でそう確信して、メアリベルは静かに身構えた。
「いいわ。お相手してあげる」
二人のメアリベルは相対し、微笑み合った。
●ワイルドハント
「緊急事態でございます。メアリベル・マリス様が、ドリームイーターの襲撃を受けていらっしゃいます」
戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は真剣な眼差しで、ケルベロス達に訴えかけた。
各地に現れ始めたモザイクに覆われた空間。そこを調査するケルベロス自身に似通った姿のドリームイーターが、ケルベロスを襲う――そんな事件が多発している。
その調査をしていたメアリベルが、襲撃を受けた。
敵ドリームイーターは『ワイルドハント』と自称しており、山奥の洋館の花園をモザイクで覆って、その内部でなんらかの作戦を行っているものと思われる。
「このままでは、メアリベル様の命が危険でございます。可及的速やかに救援に向かい、ワイルドハントなるドリームイーターの撃破をお願い致します」
戦場は山奥の洋館の花園。モザイクに覆われ、変容した特殊な空間ではあるが、一般的な行動及び戦闘行動についても支障はない。
敵はドリームイーター1体。メアリベルが暴走した際の、成長したメアリベルの如き姿をしているが、似ているだけの別人だ。
「武器は大鎌を用います。刃を燃え上がらせながらの斬撃、刃に花弁を纏わせた回転投擲、白羽根混じりの横薙ぎの衝撃波、といった攻撃を行って参ります」
敵の発言を鑑みれば、ワイルドの力を調査される事を恐れているようにも思える。
そして、ヘリオライダーでも予知できなかった事件をメアリベルが調査によって発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれない。
「……しかし、思案は事を収めた後に。今はメアリベル様の救出と、ワイルドハントの確実な撃破を、皆様、よろしくお願い致します」
参加者 | |
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パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239) |
シィ・ブラントネール(絢爛たるゾハルコテヴ・e03575) |
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) |
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166) |
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784) |
ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597) |
一之瀬・白(八極龍拳・e31651) |
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829) |
●集う想い
お決まりの異性装をバッチリ着こなしながら、パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)は勇ましく駆ける。
「メアリベルの無事が心配だぜ! 兎に角現場急行だ! 何が何でも取り返す!」
薔薇柄のワンピース姿の遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)は、父方の遠縁である少女を想う。
(「わたしのワイルドハントが出現した時に駆けつけてくれたメアリベルちゃん……とっても嬉しかった! わたしも力になりたい」)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)は戦場へと思い馳せる。
(「今の私を形作るのは、あの場所。選ばれなかった過去を選び取り、選ばれた現実を捨て去ったあの場所。知る必要があります、ワイルドハントとは、そしてワイルドスペースとは一体何なのか? ……けれど」)
「敵の目論見は気にかかりますが、今は何よりも、救出を」
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)は誰よりも慎重に、注意深く周囲へと気を払いながら、最速の合流を目指す。
(「気がかりは尽きないが……今は危険な状況に身を置く仲間の保護が先決だろうな」)
ケルベロス達は駆けた。大切な仲間を救け、支える為に。
そして躊躇なく足を踏み入れる。モザイクの向こう側の花園へ。
「これがモザイクの中か……」
ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)は、奇妙な景色と、心地よいともなんとも言えない、不思議な感覚に首を巡らせ……視線の先に見出した光景に、驚愕の声を上げた。
「――メアリベル! その前にいるのは……あれもメアリベル!?」
奇妙によじれたモザイクの花園で、メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は孤独に戦っていた。
「ふふっ……どうしたの、お嬢さん。動きが今一つね?」
赤毛の女が鎌をもたげる。紅色の刃が、真っ赤に燃える。
美しく優美な、赤毛のワイルドハント。それは確かに己自身の暴走態を写し取った姿であり……同時に、懐かしい面影をも思い起こさせていた。
「ママ……」
誰の耳にも届かない、小さな呟きが零れ落ちた。
母の死を、メアリベルは受け入れている。あれが別人で、自分の姿を写し取ったドリームイーターなのだと、わかっている。
それでも、失われた人に生き写しの姿に、どうしようもなく、心がざわめく……。
女が嗤い、地を蹴ると共に、一息に間合いを詰めた。メアリベルは咄嗟に動けない。幾度となく攻撃を受け、とっくに防護を破られた小さな体へと、大鎌が振り下ろされ――、
炎を帯びた紅色の凶器は、鈍い音と感触に軌道を遮られた。
「間一髪、といった所かのう……?」
メアリベルとワイルドハントの間に立ちふさがったのは、一之瀬・白(八極龍拳・e31651)だった。逆手に持った日本刀『慈龍』で大鎌の衝撃を受け止めている。
事態の急変に、ワイルドハントは顔色を変えて、大鎌を押し戻されるままにすぐさま飛び退った。
「みんな……」
呆然と立ち尽くすメアリベルを庇うように、次々とケルベロス達が駆けつけた。
「メアリ殿、無事か……!?」
すぐさま飛び出していく攻め手に敵の相手を任せ、白は千目千手観音符による治癒をメアリベルに施す。
体力は半減するほどに持っていかれているようだが、十分に立て直しの効く範疇だ。白は安堵の吐息をついた。
「どうやら間に合った様で何よりなのじゃ……」
パトリックは気力溜めを、癒乃はマインドシールドを。仲間達の懸命な癒しを受け取り、傷が癒えていくほどに、メアリベルの心にわだかまっていたものが薄らいでいく。
強張っていたその表情は、瞬く間に自信に満ちた笑顔に彩られていった。
●偽りの淑女
治癒と守りは仲間に任せ、グレッグは駆けつけるや否や敵へと肉薄した。仲間の、それも女性の姿を模した敵に、若干のやりづらさを覚えぬでもなかったが、今は仲間の為に力を尽くすべき時。火力を乗せた旋刃脚が、女の腹部を容赦なく打ち据える。
「鞠緒、シィ」
淡々と促すグレッグ。旅団仲間の二人は即座に応えて動き出す。
「まあ……綺麗な方ですね。でもこちらのメアリベルちゃんの方がとっても綺麗だし、きっと未来のメアリベルちゃんの方がずっと綺麗です!」
時空遊泳の名を持つ鞠緒のブラックスライムが、痺れに怯んだワイルドハントを呑み込み、縛り上げる。
ハントの名を持つ敵を、むしろハントしてやろうと、絶妙の位置から狙いを定める銃口がひとつ。
「目的はわからないけれど、メアリをこれ以上傷付けさせないわ!」
シィ・ブラントネール(絢爛たるゾハルコテヴ・e03575)はライフル型のEtoile filanteを手に、豪胆に啖呵を叩きつける。
「覚悟しなさいワイルドハント! 今日はアナタがハントされる番なんだから!」
撃ち出された氷結の螺旋が、女を的確に射抜いた。ワイルドハントはさらに後方へと押し込まれ、忌々しげに吐き捨てる。
「次から次へと……!」
「まだまだぁ!!」
威勢の良い掛け声と共に、ライドキャリバーのアインクラートと息を合わせて、しゃにむに敵の懐へと飛び込むユーディット。煌めくスターゲイザーが、女の体を激しく揺さぶり、動きを鈍らせる。
「ぐぅっ……侵入されてしまったのなら、仕方がないわ……全員、殺すまでッ!!」
ワイルドハントは大鎌の構えを返す。豪奢なドレスの裾を広げながら、くるりと軽やかな一回転と共に、大鎌を投擲する。鋭い花弁を幾多纏いながら激しく回転する刃が宙を駆ける。未だ戦傷の全てを拭いきれぬ、メアリベルへと。
「――力を貸して、ママ」
少女の小さな呟きに応えて、大鎌を受け止めたのは、亡母の姿を模したビハインド。
「みんな一緒ならもう何も怖くない。ママを騙りメアリを騙る真っ赤なニセモノを倒すのよ」
大鎌を振り払われ、再度退いたワイルドハントと、メアリベルは正面から対峙する。
「ごきげんようさようなら、真っ赤なニセモノさん」
心を重くしていた感傷をすっきりと振り払い、メアリベルはおしゃまな笑みを浮かべた。
●力を合わせて
肉薄したメアリベルのブレイズクラッシュが、重い一撃を敵に打ち込んだ。ワイルドハントが熱と痛みに鈍く呻く。
「無理はするなよ」
陣営に退いたメアリベルにさりげなく声をかけながら、グレッグは入れ違いに敵の懐へと飛び込み、月光斬で鋭く斬りこむ。
「メアリ復活ね! 盛り上げていきましょう、レトラ!」
声を弾ませ、溌剌と星型のオーラを叩き込むシィ。相棒のシャーマンズゴーストは、あくまでも紳士的に、ボクシングスタイルからの神霊撃を打ち込む。
「まだ十全とは言えません。ルキノ、敵の引き付けをお願いね」
癒乃はシャーマンズゴーストに敵への対応を託し、自身は掌に淡い生命の光を宿す。
「生きる事は……死に向かう事。代償なき生は世の理に非ざる欺瞞……。あなたは滅びずにいられるかな……?」
顕世の代償。命を賦活する生きる意志を呼び覚ます灯。癒乃の灯が、メアリベルへと火の恵みを分け与えていく。
(「おれの力はちいさいけれど、からだの異常はとりはらってやれる……」)
胸中に呟きながら、近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)は黄金の果実を実らせていく。未だ癒しきれぬ弱体化を祓う為に。
「暴走した自分の姿との戦い、かぁ……」
スターサンクチュアリを輝かせながら、パトリックはぽつりと零した。思い出すのは、『彼女』に擬態したダモクレスを撃破した、あの瞬間。
(「まぁ、身内を討ったなんて凄惨な過去を背負った奴、ケルベロスには珍しくないというけど……厄介なことになったぜ」)
因縁を擬態される、その苦しさに、パトリックは静かに胸を痛める。
着々と守りを盤石にしていく陣営。攻め手の攻勢も勢いづいていく。
「あなたにはそんな綺麗な衣装、似合わないんじゃないかしら?」
ウイングキャットのヴェクサシオンに仲間の治癒を任せ、鞠緒はステップを踏むように星型のオーラを蹴り込み、堅牢なドレスの裾の一部を破り裂いた。
「脱ぐのはドレスだけじゃなくて……正体を現したらいかが!?」
「見えている以上のものを、なぜワタシが明かすと思っているのかしら?」
おめでたいわね。押し込まれながらも、ワイルドハントは強がるように鼻で笑った。
メアリベルが成長したようにしか見えぬその姿を、ユーディットは驚嘆の思いで見つめていた。その脳内では数多の疑問が駆け巡る。
(「ワイルドハントはワイルドスペースにアクセスしてあの姿を? ……では「ハント」とは? 何をどうハントするのか……」)
わからないことだらけだ。ならば、直々に教えてもらうまで。
「――余所様の姿を借りるとはいい度胸だ」
スターゲイザーで追い討ちをかけながら、ユーディットは腹を探るような言葉をぶつけていく。
「未来だか過去だか知らないが、わたしの姿も観てもらおうじゃないか」
「なんのことかしらッ……」
荒っぽい口調で吐き捨てながら、嘲りを籠めた不敵な笑みを浮かべるワイルドハント。情報の一片も漏らしてやるものかという強い意志が、双眸をぎらつかせる。
(「これが、ワイルドハント……初見じゃが、成る程」)
新たな符を用意しながら、白は胸中に納得する。あの様子では、何故姿を真似ているのかと愚直に問うても、答えはしまい。よしんば答えがあったとしても、それが真実かどうか、確かめるすべはない。
「千目千手観音よ……我が仲間に、その加護を……はぁっ!」
白が投擲した符がグレッグの背に貼りつき、その視力を、動体視力を、観察眼を、さらに鋭敏に研ぎ澄まさせていく。
「わらわらと鬱陶しい……!」
目論見を外され、苛立ちを隠せないワイルドハント。腕の羽根を散らしながら大鎌を勢いよく横薙ぎに振るうと、羽根混じりの衝撃波が走り、前衛を一薙ぎに襲った。あえて『怒り』を買いにいったシャーマンゴースト達を巻き込みつつ、弱体化を根治しきれていないメアリベルとママを執拗に狙って――。
が、ダメージを覚悟したメアリベルの視界に影がかかり、衝撃波は別の誰かに受け止められた。同時に、駆けつける複数の足音。
「よお、手伝いに来たぜ」
広喜は常時崩さぬ笑顔を向けながら、到着するや即時、光輝くオウガ粒子を前衛へ放出した。
「微力だが、盾くらいにはなれるからな」
メアリベルを庇った傷に癒しを受けながら、恭介は敵から目を離さずに言う。
「暴走したメアリ……だが他人だ、容赦はせん!」
敵の容姿に、あたかも父兄になったかのような複雑な眼差しを向けていた唯覇は、かぶりを振って気持ちを切り替え、護りの聖譚曲により耐性を広げていく。
「似ているだけの別人とはいえ、それで好き勝手されるというのも少々思うところがありますね。――それはメアリベルさんのものです」
鼓吹による鼓舞を行いながら、シルクは厳しく敵を見据える。
「この闘いが終わったら、美味しい紅茶と甘いお菓子を用意して、何時もの花園でみんなで食べましょう」
また楽しい気持ちでみんなで笑えますように。ユリスは微笑みながら、最後まで残っていた炎を治癒で取り払う。
新たな救援に、笑顔を弾けさせるメアリベル。対照的に、ワイルドハントは絶望的になっていく戦況に、焦燥と暗い熱を瞳の底に灯しながら、ケルベロス達を睨み据えた。
振り上げられた大鎌の刃が炎を発したのを見取り、冷静に敵の挙動を観察していたシィとグレッグが、鋭く警告を飛ばす。
「来るわよ! 前衛、中衛、備えて!」
「――頑、斬、炎。最大威力の単攻撃だ」
正確な分析の、全てを聞き届けるより早く、本能的に攻撃の前に飛び出す小柄な影が一つ。
「メアリのお友達を傷付けるのは許さない」
炎を帯びた斬撃を自ら受け止めるや否や、天高く舞い上がるメアリベル。
「モザイクの花園でワイルドハントと輪舞。なんてステキなグランギニョル。メアリ、とっても楽しい」
急降下からの蹴撃が、ワイルドハントの『怒り』にさらなる火をくべた。
●輪舞
一丸となって陣営を固めるケルベロスの前に、ワイルドハントの命の灯は、瞬く間に削られていく。
「許さない……許さない許さない許さない許さないィィィイ――ッ!!」
数多の傷を負い、追い詰められ、『怒り』に呑まれ、ひどく悔しげに、がむしゃらに大鎌を振るう姿に、優美な姿の面影はもはやない。
「上には上がいる、ということだ」
斬撃を多用する敵に、あえて同じ斬撃で対抗するユーディット。刃が一閃し、たちどころに斬り捨てる。
メアリベルの為のマザーグースを歌い踊りながら、戦場を彩るように戦っていた鞠緒は、ステップを止め、敵の胸に伸ばした手に一冊の本を取り出した。
「これは、あなたの歌。あなたの秘密はどこにあるのかしら……?」
レチタティーヴォ「淵源の書」。敵の深き欲求を、鞠緒は歌う。ひたすらにモザイクに塗れた、形状不明瞭な歌を。
「仲間と一緒に帰るんだ! 行くぞ、ティターニア! Live and Let Die!!」
ボクスドラゴンの吐くブレスに彩られながら、パトリックの斬撃が無数の残像を描いてワイルドハントを斬り刻む。
「ルキノ、あなたの声は、ワイルドスペースに届いている……?」
果敢に敵へと襲い掛かるシャーマンズゴーストを遠い瞳で見つめながら、癒乃はぽつり呟き、魔力を籠めてファミリアを射出する。全身の弱体化を増幅されたワイルドハントが、耳をつんざくような悲鳴を上げた。
身動きもままならぬワイルドハントを、シィの銃口が、計算され尽くされた位置取りと射角から、抜け目なく狙う。
「アナタの罪業、天に代わって撃ち抜いてあげる!」
Nemesis。『罪』を灼く聖なる光が一点に収束し、光の弾丸となって光速で敵を撃ち抜く。
喉が割れんばかりの絶叫。しかしワイルドハントの震える手は、必死の思いで大鎌の柄をきつく握り直した。
「ッ――――殺ス!!」
純粋な殺意を糧に、炎を帯びた大鎌が、モザイクを散らしながら美しい紅色の軌跡を描き――、
「――ふんっ!」
燃え盛る大鎌の刃は、メアリベルに届く前に、白の徒手によって受け止められた。
次に繋げる為の、一瞬の隙。白は不敵に笑う。
「余達の友人を傷付けた、その報いは受けて頂こうか? ……グレッグ殿、今じゃ!」
その瞬間、研ぎ澄まされた殺気がワイルドハントの知覚に滑り込む。瞬く間に目前に現れたそれは、静かに熱く揺らめく蒼炎を足に纏わせた青年。
「終焉は速やかな方が良い……」
蒼颯炎舞。連続で繰り出されるグレッグの蹴撃が、的確に急所へと繰り出される。舞い散る炎は、不死者を地獄へ誘う篝火の如く……。
メアリベルは胸に灯る暖かな覚悟を、小さく呟く。リジー・ボーデンを振り上げながら。
「……メアリはひとりぽっちじゃない。お友達がたくさんいる。かっこ悪いところ見せられない」
巨大な、赤黒い斧が、ワイルドハントの美しい顔面を、シンプルにかち割った。
声にならない断末魔の叫びを上げながら、ワイルドハントは真っ赤な花びらのようなモザイクとなって砕け、あっけなく消滅していった。
「やっぱり鎌より斧が強いのよ」
大斧を下ろした少女は、無邪気に微笑んだ。
「――メアリベル、無事か!? 無事だな!?」
戦闘が幕を閉じると同時に、パトリックは息せき切ってメアリベルの元に駆け付け、忙しなくヒールを施していく。
「偽者とはいえ、自分と対峙するというのは、酷な戦いだったな。なんにせよ、無事で何より」
ユーディットもNebelmittelwurfanlageで治癒を手伝いながら、ふと、謎多き戦場へと思いを馳せる。
(「『失われた時の世界』……これがデウスエクスに悪用されなければいいのだが」)
ワイルドスペース。その謎に、癒乃も心を傾ける。
「お疲れ様、ルキノ。私はあなたの力になれた……?」
大切な親友の存在に心の空白を埋められるのを感じながら、癒乃はとらえどころのない瞳で淡く問いかけた。
今回の異変をしかと見届けた事、それはきっとケルベロス達にとって意義のある行為であったはず。あとは、活かすも殺すも、今後の行動次第だ。
地面に伏したぬいぐるみに気づいた鞠緒は、それを拾い上げ、丁寧に埃を払ってメアリベルへと差し出した。
「良く頑張りましたね」
笑顔と労い、それに綺麗になったミスタ・ハンプを受け取って、メアリベルは極上の笑顔を仲間達一人一人に返した。
「ありがとう……みんな、大好きよ!」
少女は歌い、踊る。仲間達への心からの感謝を込めて。
消えゆくモザイクの花畑で、バレリーナの如く、くるくる、くるくると。
メアリベルと花園の物語は、これにて終幕……。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 11
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