歪なる緋色の呼び声

作者:雷紋寺音弥

●赤き魔龍
 ――新城島。
 沖縄県八重山郡竹富町に属し、限界集落を抱える南海の離島。
 地元の言葉で『パナリ島』と呼ばれる通り、その島は上地島と下地島と呼ばれる二つの島に分かれていた。その内、下地島に至っては、島民の数は5名にも満たない。
 そんな絶海の孤島に、何か惹かれるものを感じたのだろうか。妙な胸騒ぎを覚え、下地島へ上陸したウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が見たものは、奇妙なモザイクに包まれた集落の姿だった。
「ワイルドスペース……こんな場所にあったのですね」
 島のあちこちに放牧されている牛の鳴き声。そんな長閑な光景の中において、モザイクに包まれた空間は異様な雰囲気を醸し出している。
 だが、ここで引き返すわけにはいかない。意を決して中に足を踏み入れると、ウィッカは思わず目の前の光景を疑った。
 粘つく液体が全身に絡み付いて来るような感覚。継ぎ接ぎの景色が広がる空間に鎮座するのは、全身を夕刻の空よりも赤く染め上げた一匹の魔龍。
「コノ空間ヲ、発見スルトハ……。汝、我ガ姿ニ因縁ノ在ル者カ?」
 重々しい口調で魔龍が口を開く。種族としては、ドラゴンではなくドリームイーターで間違いない。だが、しかし、その姿は……。
「私……なのですか?」
 それは、もう一つの可能性。魔の力に魅入られ、飲み込まれた、ウィッカにとっての忌むべき未来。
「我ガ名ハ、ワイルドハント! 我ノ姿ヲ見タ者、何人タリトモ、生カシテハ帰サヌ!」
 魔龍の咆哮が辺りに響き、大地に展開される魔法陣。広がる円陣の中から逃げる暇もなく、ウィッカの身体に灼熱の炎が襲い掛かった。

●灼熱領域
「召集に応じてくれ、感謝する。ワイルドハントについて調査をしていたウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が、沖縄県の離島で襲撃を受けたようだ」
 このまま放っておけば、遠からず彼女は敗北する。至急、現場に向かってウィッカに加勢し、敵を撃破して欲しい。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に語り始めた。
「もう、勘のいいやつは察していると思うが、念のため説明しておくぞ。ウィッカを襲撃した敵は、ドリームイーターのワイルドハントだ。離島の限界集落をモザイクで覆って何らかの作戦を行っていたようだが、その詳細までは判っていない」
 それを調べようと内部へ侵入したウィッカへ、敵は攻撃を仕掛けて来た。島まではヘリオンで移動できるので、まずは彼女と合流して敵を叩くのが先決だ。
「敵のドリームイーターは1体のみで、配下の類は連れていない。モザイクに覆われた場所も、そこまで広くはないようだな」
 空間の中は奇怪な光景が広がっているようだが、戦闘にも何ら支障はない。もっとも、既にウィッカが敵と戦闘に突入しているため、加勢後の立ち回りも考える必要はあるが。
「敵の姿はドラゴンに似ているが……どうやら、ウィッカの暴走した姿を模しているようだな。口から炎を吐いて攻撃して来る他に、呪文のような技も使う。おまけに、得意な間合いは妨害特化だ。見た目だけで判断して、単なるデカイ蜥蜴だと思っていると、あっという間に火達磨にされるぞ」
 敵の使用する技は、その全てが炎の力を用いたものだ。口からの火炎攻撃に加え、自分を中心とした全方位に魔法陣を展開して一面を炎で包み込んだり、自らの分身ともいえる火竜の幻影を繰り出す竜語魔法も使用してくる。
「敵の狙いは不明だが、今はウィッカの救出を優先してくれ。模倣存在であっても、赤き魔龍の力は見かけ倒しなんかじゃないからな」
 甘く見て掛かれば、ミイラ取りがミイラになるのがオチである。決して油断することなく、ワイルドハントを撃破して欲しい。
 そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
伊・捌号(行九・e18390)
立華・架恋(ネバードリーム・e20959)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)

■リプレイ

●赤き龍の巣
 歪んだ空間の中へ足を踏み入れると、べた付くような肌触りの何かがケルベロス達を迎え入れた。
「うへぇ……なんか気色悪いっつーかなんつーか」
 あらゆるものが無造作に融合したような景色と、なによりも身体に液体が纏わりつくような感覚に、伊・捌号(行九・e18390)は思わず顔を顰めた。
 南国とはいえ、既に秋を迎えたはずの季節にも関わらず、この空間の中は異様な暑さに満ち溢れている。肉の焦げる臭いが鼻先を掠め、口を開けば舌を焼かれ、炎の味が広がって行く。
 灼熱の領域。その言葉が相応しい空間の中、熱源を探して辺りを見回せば、それは直ぐに見つかった。
「ドウシタ? 貴様ノ抵抗、ソレマデカ?」
 人語を解する赤き魔龍。対峙するのは、全身を炎に包まれて、今もなお身を焼かれ続けているウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)。
「甘く見られたものですね。この程度の炎など……」
 裂帛の気合いで炎を吹き飛ばすウィッカだったが、それでも彼女を包む火炎は、未だ鎮まる様子を見せない。払っても、払っても、次から次へと燃え広がる炎。それは徐々にだが確実に、彼女の命を蝕んでいる。
「愚カナ……。無駄ナ抵抗ヲ続ケル者ハ、ソレダケ苦シンデ死ヌノガ定メ……」
 魔龍の口が、再び大きく開かれた。漏れる吐息は灼熱を纏い、全てを焼き尽くす焔と化す。広がる業炎は大地を焼き、荒れ狂うままにウィッカの身体をも焼いて行くが……彼女の身体が焼き尽くされるよりも先に、紅蓮の壁を一陣の風が切り裂いた。
「……正面! うちが一番乗りや!」
 獣の腕が、魔龍の身体に突き刺さる。焔を掻き分け、先制を仕掛けた鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)の一撃に、魔龍の意識が一瞬だけ逸れた。その隙を狙い、立て続けに降り注ぐのは、流星の如き二つの影。
「……ッ!?」
 サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)とアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)の蹴撃を受け、今度こそ魔龍がたじろいだ。
「大丈夫かい、ウィッカくん?」
 着地と同時に、サロメがウィッカに尋ねる。対するウィッカは残念ながら、無事とは言い難い姿であった。もっとも、後少しでも救援が遅れていれば、より酷い目に遭っていたのは言うまでもないが。
「待たせたわね! ……ウィッカ、無事ね?」
「ええ、なんとか……ね」
 駆け付けた立華・架恋(ネバードリーム・e20959)に答えるウィッカだったが、その間にも彼女の身体には、新たな炎が広がりつつある。放っておくわけにはいかないと、慌てて架恋がウィッカと意識を共有させた。
「貴方の望む、未来を見せて」
 白を黒へと反転させ、予測される現実さえも改変する力。纏わりつく炎だけではなく、焦げ跡さえも綺麗さっぱりと消滅させ。
「さてと……お前がここで何をしてるのかは知らないけど、僕達の邪魔をするなら消えてもらうよ」
 改めて宣戦布告を告げるアビスの言葉に、しかし魔龍は何ら動ずる様子を見せなかった。
「笑止……。ココハ、我ガ領域。貴様達コソ、飛ンデ火ニ入ル羽虫ト知レ!」
 魔龍の殺気と共に、辺りに広がる灼熱の空気。数の不利さえも問題ないと言わんばかりの敵を前に、仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)は手にした槍を握り締める。
「……ウィッカの可能性が竜とはの。友として、その模倣、止めぬわけにも、現実とするわけにもいかぬ」
 偽りの魔龍。竜神を鎮める責を担ってきた自分にとっては、丁度良い相手だ。
「皆さん、ありがとうございます……。私は、もう大丈夫です」
「当ったり前じゃねーか、です! 二葉がいんだ、なんも心配しねーで、思いっきりぶちかましてやれ、です!」
 己の気力をウィッカへと分け与え、一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)は前に出る。ウィッカが最強の矛ならば、自分が最強の盾となるために。赤き魔龍の焔から、共に戦う仲間を守るべく。
 熱風が砂塵を巻き上げ、舞い散る火の粉が肌を焼く。灼熱のワイルドスペースにて、虚構の龍との戦いが幕を開けた。

●焔の陣
 焼け付く空気が辺りを焦がし、立ち昇る熱気が視界を歪める。その身の色が示す通りに、赤き魔龍は様々な形で炎を操り、周囲を焦土へと変えて行く。
「ナルホド、数ダケハ、多イナ……。ダガ、我ノ炎ニ死角ハナイ!」
 魔龍の身体を中心に、展開されて行く魔法陣。距離を取ろうにも、それよりも早く陣は大地を包み込み、赤く輝く粉塵を放出させて。
「フハハハハッ! 灼熱ノ領域ニ飲マレ、燃エ尽キルガヨイ!」
 噴煙の如く噴き出す業火が、周囲の空気諸共に、全てを飲み込み焼いて行く。360度、逃げ場はない。だが……全てを焼き尽くすと思われた業炎は、果たして地獄の番犬達を焼き払うには、いささか火力不足だったようだ。
「その程度の炎、効かないよ。こっちの対策は万全だからね」
 服の袖に付いた火の子を払い、アビスは平然とした口調で告げながら、紙の兵士達をばら撒いて行く。
 効果がないわけではない。現に、燃え移った炎は今この瞬間も、彼の身体を焼き焦がしながら燃え広がっている。
 それにも関わらず、彼がこうまで強気な理由。それは一重に、敵の攻撃に合わせて予め防具を厳選し、徹底的に耐え抜く姿勢を貫いていたからこそのこと。
「こんなに燃え上がっているのは、情熱の証かしら? 情熱的なのは良いけれど、一方的なのはいただけないわ」
 そうそう好きにはやらせない。瞬時に間合いを詰め、架恋が鋼の拳を震えば、その隙にウイングキャットのレインが羽ばたいて荒れ狂う炎を鎮火して行く。続けて手毬が原罪を肯定する歌を紡げば、その響きは清浄なる音色と化し、更に炎を抑え込み。
「元よりこの身は竜を鎮める神楽の巫女よ。汝、我が竜神にはあらねど、その炎、好き放題に燃やさせはせぬ」
 灼熱の業火に一歩も怯む素振りさえ見せず、手毬は魔龍と対峙し、言ってのけた。
 足りない部分は、テレビウムの御芝居様やステイによる応援でフォローする。どれだけ凄まじい炎で焼き焦がそうと、それを上回る手数で鎮火すれば、そうそう恐れる必要もない。
「エイト、あいつの守りを崩すっす!」
「コキュートス、お前も行け」
 捌号とアビスの命を受け、突撃する二匹のボクスドラゴン。魔龍は爪を振るい、その攻撃を軽くいなして見せたが……しかし、それは見せ技に過ぎなかった。
「ウィッカさん的には思う所もありそっすが、こうも外見が違う分には、こっちはやりやすいっすね!」
「赤髪の妖精の名を騙る歪んだレヴリ……君こそ、付き果てぬコシュマールに追われて滅びるといいよ」
 残念ながら、本命はこちらだ。捌号が指先で漆黒の魔力弾を弾き飛ばし、サロメもまた同じく魔力の弾を、流れるような動きで放り投げる。直撃を受けた魔龍が雄叫びを上げるが、赤き身体に食らい付いた魔弾は決して離れず、獲物の精神を情け容赦なく削って行く。
「オノレ……ナラバ、セメテ貴様ダケデモ……」
 際限なく波のように遅い来るトラウマに侵食されながらも、魔龍は翼を広げてウィッカのことを睨み付けた。だが、次なる炎が放たれるよりも先に、魔龍の前に飛び出したのは橘花だ。
「ナニッ!? 貴様、仲間ヲ盾ニ!?」
「それを言うなら、囮やろ? どの道、うちをマークしとらんかった、そっちのミスやで」
 他人の名前と姿形を騙るワイルドハントは、言わば虎の威を借る狐と同じ。そんな者に負けるつもりもなければ、倒すための手段も選ばないと言ってのけ。
「首筋、もろた!」
 敵の身体に深々とナイフを突き立て、その返り血を浴びて糧とする。敵として出会ったが最後、肉片となるまで解体し、骨の髄まで食らい尽くすのみ。
「ガッ……! 貴……様……!」
 身体を捻らせ橘花を振り落とそうとする魔龍だったが、それより先に橘花は素早く背中から飛び降りた。続けて、敵が体勢を整えるよりも早く、入れ替わりに仕掛けたのは二葉とウィッカだ。
「よそ見してるんじゃねー、です!」
「そちらが炎を使うというのなら、こちらは氷で勝負しますか」
 テレビウムのふたばちゃんねるが強烈なフラッシュで敵の目を眩ませた瞬間、二葉の蹴りが三日月の形の炎を呼び、ウィッカの投げたマジックカードが氷結の騎士を具現化させる。
 焔と氷。相反する二つの力を重ね合わせれば、それは魔龍の鱗を幾重にも砕き、焼き尽くす。急激な温度変化を与えられれば、いかに強固な甲殻とて脆くなるのは道理。
 徹底した防具の厳選と、圧倒的な手数の差。戦いに掛ける準備と年期の違いが、徐々にだが確実に、偽りの悪夢を追い詰め始めた。

●魔導の極み
 ワイルドスペースに響く魔龍の叫び。それに焦りが伴ってくるまで、そう時間は掛からなかった。
「何故ダ! 何故、我ノ炎ガ通用セヌ!」
 自慢の火炎を次々に払われ、魔龍は打つ手をなくしていた。
 単一の性能に特化した存在は、1対1の戦いにおいて、驚異的な強さを発揮することもあるだろう。特に、払っても払っても燃え広がり続ける炎を操る存在は、個と個のぶつかり合いにおいては、確かに有利だ。
 だが、それはあくまで、炎を使う側の方が、全てにおいて各上であるが故のこと。力の振りを数の差で覆されてしまえば、状況は一転して不利へと傾く。
「よくやったわ、レイン。もう一頑張りよ」
 清浄なる風を呼び、炎を打ち払ったレインの頭を軽く撫で、架恋は改めて魔龍の方へと銃口を向ける。
「それじゃあ、ここから反撃と行きましょうか。少し、頭を冷やすと良いでしょう」
 狙いを定めたライフルの先から、発射される蒼き輝き。灼熱の業火でさえも凍り付かせる絶対零度の光線が、魔龍の翼を凍らせて行く。
「飛べ、鴉たち」
 動きの鈍ったところを狙い、橘花が模倣体の鴉を解き放った。もっとも、彼女の技は本来であれば、多数の敵を同時に相手取る際に効果を発揮する種類のもの。魔龍の傷口を抉るには、少しばかり力不足であったのだが。
「今じゃ! 御芝居様に続くのじゃ!」
 手毬の号令を皮切りに、御芝居様が強烈な閃光で敵の意識を自分へと逸らす。それに続き、残るサーヴァント達もまた、一斉に魔龍へと攻撃を開始した。
「ヌォッ! エェイ、邪魔ダ! 退ケ!」
 爪を振るい、身体を捩らせて抗う魔龍だったが、やはり数の差は圧倒的だった。凶器が、爪が、次々に身体へと食い込んで行き、その度に凍り付いた甲殻が粉々になって散って行く。それだけでなく、追い撃ちとばかりに放たれたボクスドラゴン達のブレス攻撃が、受けた傷痕を更に抉り、新たなる氷晶を刻んで行く。
 それは、さながら巨大な像が、蜂の大軍に倒されるが如く。攻撃手段の多彩さでケルベロス達に劣るサーヴァントではあるが、こうして徒党を組んで仕掛けることで、個々に足りない部分を補うことも可能なのだ。
「ふむ、そろそろ潮時じゃの。……一気に決めるぞ」
 好機と判断した手毬が駆ければ、アビスとサロメもそれに続く。稲妻を纏った槍の穂先が敵の身体を貫いたところで、強烈な掌底と鋭いナイフによる一撃が、それぞれに魔龍の翼を切り裂いた。
「グォォォッ! コウナレバ……我ガ最大ノ魔術、見セテクレヨウ!」
 だが、それでも諦めていないのか、魔龍は傷つきながらも自らの正面に魔方陣を展開して行く。その中央から現れし存在は、全身を焔で形作った紅蓮の飛竜。
「グハハハッ! 死ネェェェッ!」
 魔龍の雄叫びに合わせ、焔の竜もまたウィッカに狙いを定め、灼熱の牙を向けて来た。が、その一撃が届くよりも先に、颯爽と割り込んできたのは二葉だった。
「させねー、ですよ! お前みてーな奴に、ウィッカが負けるわけねーだろ、です!」
 その身で火竜を押さえつつ、二葉は捌号に目配せした。
 仕掛けるなら今だ。止めを刺せずとも、動きを封じてくれればよい。果たして、そんな二葉の考えを汲んだのか、捌号は半透明の御業を展開し。
「捕まえたっす! もう、逃がさないっすよ!」
 御業を不可視の巨腕に変えて、敵の身体を鷲掴み! その拘束から逃れようと暴れる魔龍へ、ウィッカは自らの杖に魔力を注ぎ込みつつ肉薄する。
「特化した力は強力ですが、逆に対処されてしまえば、大半の能力を封じられるということです。やはり、多彩な手段から適切に選択する私とは異なりますね」
「ナ、ナンダ……ト……?」
「あなたにも、教えてあげましょう。……幾重の加護よ、我が杖に宿れ……マギノストライク!」
 強化魔法を施した杖で敵を打つ、シンプルだが極めて強力な一撃。振り下ろされた杖先が魔龍の額に炸裂した瞬間、辺りに凄まじいエネルギーの奔流が巻き起こり。
「これが……これが、私の『本当』の魔術です」
 杖の柄でウィッカが軽く地面を叩いたところで、偽りの魔龍の身体は木端微塵に爆発四散した。

●ワイルドの謎
 歪んだ景色と空気を持つ空間が消滅したのは、それから直ぐのことだった。
 波の音と牛の鳴き声を背景に、橘花がタッパーから取り出した白玉団子を食べている。
 この空間の主が倒されてしまったからであろうか。ケルベロス達の前では空間に取り込まれたと思しい村落が、元の姿に戻っていた。
「怪我はないかい、御嬢さん達?」
「なんとかなったけど……二度は戦いたくないわね」
 灼熱地獄での戦いを思い出し、架恋がサロメの問いに答えつつ首を横に振った。
「一体、ワイルドハントは何がしたかったんだろうね……」
「さあ、儂には解らぬな。デウスエクスの連中の考えることは、常に複雑怪奇なものばかりじゃ」
 アビスの言葉に、手毬は軽く溜息を吐いて答える。
 結局、この地でワイルドハントが何をしようとしていたのかは、未だ不明のままあである。だが、それでも戦い続けるしかないのだ。その戦いの先に、真実が隠されているといのであれば。
「結局、何も解らずじまいっすね。もう、ここには手掛かりも残ってなさそうっすよ」
 捌号が大きな伸びをして、大袈裟に肩をすくめて見せる。調査を行うにしても、これ以上の進展は、この場所では見込めそうにもない。
「ワイルドスペース……その秘密、今に暴いてやろーじゃねーか、です」
「ええ、そうですね。……皆、今日はありがとう」
 二葉の言葉に軽く頷き、最後にウィッカは空を仰ぐ。どこまでも広がる、蒼い色。そこを舞う海鳥達の鳴き声が、吸い込まれるようにして上空へと消えて行った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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