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「これは……」
クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680)は、衝動的な予感に駆られ、ある山間を訪れていた。
そこは、訪れる人は少ないが知る人ぞ知る紅葉の名所……の筈だった。
クレアの目の前に広がるのは、美しい紅色の景色ではなく、一面を覆う奇妙なモザイクの塊。
内部は粘性の液体に満ちているが、奇妙な事に呼吸はできるようだ。
「一体、何が起こっているんだ……?」
外からはモザイクで見えなかったが、その内部は更に奇妙な状況が広がっていた。
紅葉や木々、地面等、恐らくはモザイクに取り込まれた地形をチグハグに繋ぎ合わせたような景色。そして――。
「ケルベロスか……このワイルドスペースを見つけたと言う事は、お前はこの姿に因縁があると言う事か?」
喉奥で唸るような声を上げ、クレアの前に姿を表したのは……漆黒の獣。
「まぁ……どっちでも良い。何にしても、今このワイルドスペースの秘密が漏れるわけにはいかないからな。……死んでもらうぞ」
唸りが殺意に変わる。その殺意をぶつけるように吠え、獣はクレアへと襲いかかるのだった……。
●
「諸君、ワイルドスペースの件で調査に出ていたクレアくんがドリームイーターの襲撃を受けた、至急救出に向かってくれ」
ケルベロスの暴走した姿を模し、ワイルドスペースと呼ばれるモザイクに潜むドリームイーター、ワイルドハント。
フレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)はその存在の簡単な説明を混じえながら、今回の事件について状況説明を始める。
「クレアくんが向かったのはある山間の森の中だ。少数ながら、人が訪れていた可能性もある」
ワイルドハントが一体そこで何をしているのか、その目的は未だ不明だ。
しかし、今はまず襲われたクレアを助けるのが先決だろう。
「敵は恐らく、クレアくんの力を暴走させた姿を模している。しかし、それは外見だけだ」
漆黒の獣の姿をしたワイルドハントは、素早い動きと的確な攻撃で確実にこちらの体力を奪ってくる。戦いの流れを掌握されると厳しいだろう。
「我々の予知にも引っかからない力か……クレアくんが発見できたのは、やはりヤツらの姿に何か関係があると言う事か? ……いや、今はとにかくクレアくんの救出が先だな、頼んだぞ」
参加者 | |
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猿・平助(申忍・e00107) |
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311) |
クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680) |
ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
ルルド・コルホル(恩人殺し・e20511) |
イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846) |
フリード・レオニグル(機巧凍影の武拳・e41137) |
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散り散りになった紅葉。でたらめに並ぶ並木の幹。そしてそれらを繋ぎ合わせるように景色を蝕むモザイクと……黒い犬。
「どうやら、ここを見つけてしまったのが貴様の運の尽きだったようだな、ケルベロス!」
クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680)に襲いかかる漆黒の獣は、その鋭い爪と素早い動きで容赦なく猛攻を畳み掛ける。
対するクレアは、ただ静かにその一撃一撃を最小限のダメージで受け止めていた。
「……黙れよ、アンタ……」
否。攻撃に対応するために構えられたその腕の隙間、そこから覗く双眸は鋭く、爆ぜるような怒気に満ちていた。
ぶつかり合う獣同士の激しい殺気。だが、そんな中での一方的な攻防は突然終わりを迎える。
「クレア!」
「!」
割り込む声。そして、一閃する光芒。
聞き慣れた声に咄嗟に飛び退いたクレアのいた場所を経て、光はその周辺の熱を奪い尽くす。
「よし、無事だな?」
「平助が無事じゃなくしそうだったと思う」
猿・平助(申忍・e00107)の射撃はそのままワイルドハントの身体をかすめ、ひとまず距離を取らせる事に成功したようだ。
一方、危うくクレアの背中を直撃しかねなかったようにも見える攻撃に、アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)抗議の視線を平助へ向けていた。
「いやいや、クレアなら俺の意図を読み取って、上手くやってくれると思っての事だ。なぁ、クレア?」
「あぁ、助かった。……援護、頼むぞ。あいつは俺が……狩る!」
平助の問いかけに、いつもの軽口は返ってこなかった。
その視線は依然、普段は見せない攻撃性に満ちたまま、ワイルドハントを釘付けるように睨みつけている。
「クレアん……う、うん! ボク、いっぱい頑張るから!」
いつもと違う、緊迫した空気を放つクレアのすぐ近くで、ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)も精一杯の敵意を黒犬へと向けた。
「ふん、ゾロゾロと群れて現れたか……1人だろうと8人だろうと、このワイルドスペースの秘密、明かすものか!」
体毛を震わせ、迸る咆哮がワイルドスペースと呼ばれた空間を駆け抜ける。
「……これがクレアさんの暴走した姿? 本物の力を持っているわけではないそうですが」
「なるほど。成長すると大型犬に……? いや、いくらウェアライダーとは言えそんな事は……やはり偽物か?」
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)の言葉を盛大に曲解しつつ、フリード・レオニグル(機巧凍影の武拳・e41137)は難しそうな表情で首を捻る。
だが、あれが姿形を偽っただけで、クレアと個人的な因縁を持ってはいないと言う意味では『偽物』という言葉は、遠からずと言ってもいいのかもしれない。
「だが、ワイルドハントが姿を真似、真似られたケルベロスがそれを見つけ出す……個人の因果はともかく、何かある筈だ」
今までの報告からも、ワイルドハントが息絶えればワイルドスペースは崩壊してしまうと思われる。
だが、いずれは明かされるであろう真実を知るためには、ここを乗り切らなければならない事だけは確かだ。
イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)の言葉に、ケルベロスたちは思案を止め、戦いに備える。
傷付いたクレアのフォローに回りつつ、ルルド・コルホル(恩人殺し・e20511)はつい先日、自分の前に現れたワイルドハントの姿を過らせていた。
「なに、犬っころの相手は慣れてるつもりだぜ。この間やりあったばかりだからな!」
●
クレアに負傷があり、態勢を立て直す必要がある分、状況は普段のデウスエクス戦よりも不利と言わざるを得ないだろう。
そこに付け込むように、ワイルドハントはクレアに狙いを定めているようであった。
「そこだ、捕らえろ!」
絶妙な間合いから、ワイルドハントの足元にフリードの放ったブラックスライムが飛び付く、が……。
「遅い! この程度かケルベロス!」
寸での所で、ワイルドハントは射程外へと逃れる。
その巨体からは想像もできないような軽快さと、強靭な脚力が生み出す瞬発力は一筋縄ではいかないようだ。
「早いな……だが、ただで逃れられると思うなよ」
最初の一手こそ逃したが、フリードの攻撃によってその方向はある程度予測はできる。
ワイルドハントが飛び退いた、その先に待っていたのは……。
「チョコマカしやがって! ルリナ、ヤツの動きを止めるぞ!」
「うんっ! 挟み撃ちだよ!」
平助とルリナだった。
蹴撃から生じた重力の檻は、ワイルドハントの動きを縛り、文字通り足を止める。
「ぐ、ぉぉぉ……これしきぃっ!」
その隙は一瞬。しかし、ケルベロスたちが攻撃を重ねるには十分な一瞬だ。
だが、ワイルドハントの機動力はまだ健在であった。猛攻の合間を縫うようにして、態勢を整えるクレアへと爪を伸ばす。
「そう簡単に! 行かせるかよ!」
だが、それをルルドの声と、影より喰らい付く不定形の狼が遮る。
「まずはこっちの相手をしてもらうぜ?」
機動力を削ぐ程ではないが、このブラックスライムによる鎖は戒めとしては十分。ワイルドハントの矛先は、やむを得ずルルドへと転換する。
「本当にすばしっこいですね。けど……サイ!」
宙空のモザイクに取り込まれた木々の破片を蹴り、不規則な高速軌道を描くワイルドハント。
その鋭い一撃を、ミミックのサイが受け止める。
そして、攻撃後の隙を、アウィスが捉えた。
「クレアは、こんな事しないと思う。やっぱりあなたは、偽物? ほかのひとの姿で何がしたい?」
ふわりと、悠藍が舞い、刃が踊る。軽やかで儚げだが、それは紛れもなく死の舞踏だ。
「動き回られる前に畳み掛けるぞ、攻撃を絶やすな!」
ワイルドハントを包囲するように放たれる、イヴリンの砲撃。
そして、その爆炎と土煙を掻い潜るようにして、クレアの拳が黒犬の顔面を捉える。
「……ワイルドハントの目的なんて知ったことじゃないけど、その姿で俺の前に出てきたのが、アンタの運の尽きだったな」
スズナの凝縮したオーラによって、万全とは言えずとも前線で戦える程には回復できたようだ。
だが、その怒気は依然変わらず。最早狩る者と狩られる者は、その立場を逆転させていた。
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度重なる攻撃は、着実にワイルドハントの機動力を奪いつつあった。
俊敏さを失った事で、攻めも守りも、文字通り目に見える程度にはキレを失っている。
「おっと、その程度でヘバッてくれるなよ? 曲がりなりにもアイツのマネッコをしたんだ、クレアの十分の一でも粘り強さを見せてから死にな!」
しかし、油断も慈悲も一切無い。負傷した脚部へ更に斬撃を重ねていく平助の容赦の無さは、友人の姿を騙られた事への不快感の表れだろうか。
統率の取れた連携に、最早満身創痍のワイルドハント。だが、その爪の鋭さまでが失われたわけではない。
「調子に乗るなぁっ!」
傷付いた足に鞭打つように駆け出し、その鋭爪が平助の喉元に伸びる。
致命の一撃となろう攻撃。しかし、その前に飛び出したサイがワイルドハントに貫かれる。
「ちぃっ……逃したか!」
「あなたも、目的はグラビティ・チェインなんですかっ! 教えてはいただけませんかっ!?」
サイの犠牲と引き換えに生まれた隙に、再び攻撃が重ねられていく。
「我々ケルベロスに成り代わろうというのか? 民衆を取り込むつもりか……あるいはケルベロスの地位を貶めるつもりか……答えろ!」
グラビティ・チェインの枯渇に伴い、徐々に崩れていくワイルドハントにスズナとイヴリンは言葉を投げかける。
未だに謎だらけのワイルドハントの目的。それを知るのもまた、ワイルドハントだけである、が……返ってきたのは咆哮による衝撃波だった。
「やっぱり喋る気はねぇって事か、口が固いのは共通だな!」
「ほう……お前も出会ったのか、ワイルドスペースに」
ルルドの鋭い蹴撃をいなしながら、ワイルドハントはこちらの反応を嘲るように吐き捨てる。
「まだ勝った気になるのは早いぞ、ケルベロス! このまま刺し違えてでも――」
「もうやめてよ!」
刹那、遮る声と共にワイルドスペースに冷気が走る。
否、それはワイルドハントにぶつけられた、この世で最も冷たい『否定』と言う感情。
「クレアんのまねっ子で、そんな言葉……これ以上言わせないんだから! これからはボクだってクレアんを守れるって、言ったんだから!」
ルリナ自身をも蝕む、強い否定の冷気。それから逃れようと、ワイルドハントが間合いを離そうとした瞬間、絡み付く何かに足を取られる。
「今度は、上手くいったみたいだな?」
それは、フリードのブラックスライム。そして、そこにアウィスが更に追撃を加える。
奏でられる美しい歌声は、存在そのものを否定され、凍て付き切った黒犬の身体を崩壊させていく。
「さよなら、黒犬さん。……やっちゃえ、クレア」
終幕は、『それ』を騙った者に最も相応しい形で訪れる。
「アンタの行き先は冥府じゃない……ここで、一切合切残さず消えろ!」
霧のように朧気な輪郭へと姿を変じたクレアが、その手をゆっくりと伸ばす。
その手は、まるで月の無い夜のように暗い色で、運ばれた死はただ静かにワイルドハントの生命を灯火をかき消していく。
モザイクと共にワイルドスペースが消えて行く。それは、戦いの終わりを示していた。
●
「うーむ、やっぱり何にも残ってないか……」
「回収できる物も無さそうだな……結局、目的は何なんだ?」
消滅したワイルドスペースの周辺を探索する平助とイヴリンだったが、何か謎に繋がりそうなものはやはり見つからないようだ。
「結構な数が見つかってるよな、1つくらい手がかりを落としてっても良いだろうによ」
状況は、やはり自分の時と同じ。周囲を見渡しながらルルドも首を捻る。
そして、一緒に調査をしていたアウィスは、相変わらず物言いたげな視線を平助に向けていた。
「……最初の射撃のこと、まだ怒ってるのか?」
「怒ってない。怒ってないけど、帰ってからおはなし」
やはり、おはなしがあるようだ。
ここはクレア本人に友情の深さを説いてもらいたいところだが、流石に今は休ませる方が優先だろう。
当のクレアは、流石に傷も深く、今は元の姿でヒールを受けていた。
地面に腰を降ろしたまま、ジッとワイルドハントがいた場所を見つめる様子には、先程までの怒気は無い。だが、いつも通り、と言うにはどこか物憂げだ。
「クレアん……ボクが一緒だからもうこわくないよ、大丈夫。だから……一緒に帰ろう?」
その視線の高さに合わせるように、ルリナもすぐ傍で身を屈める。
優しく投げかけられた笑顔。だが、その指先や髪の毛先は、先の攻撃の反動で凍てつき、寒さで微かに震えていた。
「あぁ、そうだね……帰ろう」
その優しさにできる限り応えるよう、笑顔を返す。
偽物とは言え、その姿形は確かに自らのものに間違い無い。思う所は、決して少なくはないだろう。
だが、戦いは無事に終わったのだ。今は、それだけで十分だ。
「そういえば、こんなにきれいな紅葉だったんですね!」
場の空気を変えるべく、スズナは頭上に広がる紅葉へと視線を向けた。
眩しい程の朱色の天井、そしてそこから舞い落ちる紅葉。モザイクに取り込まれていた時はわからなかったが、確かにそれは絶景と言っていいものだ。
帰るまでの僅かな時間、そんな景色を眺めながらフリードは思案し、飴玉を口に放り込む。
「……時間は、あるのだろうか」
何かが起ころうとしているではないだろうか、連日の事件を考えれば、そんな考えも脳裏を過ぎる。
その答えは、いずれケルベロスたちの前に姿を見せる時が来るのだろう……。
作者:深淵どっと |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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