例えば、子供が居れば。彼等の仮装に付き合って、お菓子を用意して、その笑顔を見ることが出来ただろう。
例えば、彼女が居れば。共に仮装を楽しんで、一種の『非日常』を楽しむことが出来ただろう。
例えば。
……考えを募っても切りが無い。この国の一般家庭にも浸透しつつあるこのイベントだが、これもまた独り身には厳しい類のものである。パーティに沸く浮ついた雰囲気を尻目に、彼は仕事場へと歩を進める。
赤い頭巾の少女が現れたのは、丁度そんなタイミングだった。
手にしているのは大きな鍵だろうか。忽然と現れた彼女は、その鍵を至極あっさりと男の胸に突き刺した。
心臓を穿つそれは、その少女がドリームイーターである事の証左である。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
そう口にした彼女の横で、男が倒れる。
そして、その代わりに、カボチャを被った人間型のモザイク……新たに生まれたドリームイーターが立ち上がった。
●トリックオアトリート
「ハロウィンも間近っすねぇ。皆さん仮装の準備は進んでるっすか?」
微妙にハロウィンらしい飾り付けのされた部屋で、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)がこちらを振り返る。
「そんな時期なんすけど、どうもそれに乗じてドリームイーターが暗躍してるみたいなんすよ」
イベント潰しはやめてほしいっすよね、などと呟きつつ、彼はケルベロス達に事のあらましを説明し始めた。
先日からの藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査により、日本各地でドリームイーターが暗躍している事が明らかになった。
ハロウィンのお祭りに対して劣等感を抱いていた人からドリームイーターが生み出され、それらがハロウィンパーティの日に一斉に動き出すのだと言う。
「で、そいつらが現れる場所って言うのが、ここ。鎌倉なんっすよ」
彼等は『世界で最も盛り上がるハロウィンパーティ会場』として鎌倉の地に集合するらしい。賑やかになる……と言えなくも無いが、実際は害の方が多いだろう。
「そういうわけで皆さんには、パーティが始まる前にこの招かれざる客を撃破してほしいっす」
そして彼は、作戦決行の場所として地図上のある地点を指し示す。
「皆さんに行ってもらうこの地点の近くには、カボチャ頭のドリームイーターが潜んでいるっす」
対象は顔の形がくりぬかれたカボチャを被り、黒マントを羽織っている。とはいえマントの下は全身モザイクになっているため、見落としたり見間違えたりする事はないだろう。
ドリームイーターはパーティ開始と同時に現れるつもりのようなので、実際のパーティ開始よりも早く、あたかもハロウィンパーティが始まったように楽しそうに振舞えば、誘き出す事ができるだろう。
「せっかくのハロウィン、気掛かりは片付けてから楽しみたいっすよね」
最後にそう言って、彼は一同をヘリポートへと案内した。
参加者 | |
---|---|
ナレイド・ウィンフィールド(月追い黒狼・e00442) |
石火矢・卯月(春風メイド・e00871) |
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981) |
平坂・サヤ(こととい・e01301) |
麻生・剣太郎(砂糖菓子の防人・e02365) |
鷹嶺・征(模倣の盾・e03639) |
篠宮・マコ(アースドリーム・e06347) |
ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890) |
●下準備
昼下がり、ハロウィンパーティを控えた広場に8名の男女が降り立つ。会場は設営中の状態、飾りつけ等は粗方終わっているようだが……。
「はい、どーもーケルベロスですよう」
作業中の人達に平坂・サヤ(こととい・e01301)が声をかけ、手を止めてもらう。ヘリオライダーの予知に従うなら、この場所は程なく戦場になるのだ。
「ちょっと危ないので離れていてくださいねえ」
「我々が来た以上は皆さんに危害が及ぶことは絶対ありません」
麻生・剣太郎(砂糖菓子の防人・e02365)も同様に事情を説明し、一時避難してもらうよう促す。作業が止まってしまう事に若干心配そうな表情を浮かべた市民だが、状況が状況だけに納得してその場を離れて行った。
「壊さないようなるべく気をつけますので!」
手を振るサヤが、人々が遠ざかっていくのを確認し、頃合を見てルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)が付近に立ち入り禁止のテープを貼り付けた。
「少しの間、お借りしますね」
これで一般人の乱入は無いだろう。後は敵を迎え撃つのみ。
●パーティタイム
イベントを邪魔する敵は許せない、と控えめながら決意を固め、天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)が宣言する。
「では、パーティを始めましょう」
ちなみにこの発言は比喩ではない。ドイツの民族衣装、ディアンドルに身を包んだ彼女は持参した手作りのスコーンを小脇に抱えている。そして恋人からの贈り物等アクセサリーで着飾った彼女と同じく、他のメンバーも格好にかなり気合が入っている。
「お菓子をくれないといたずらしますよう」
「うらめしやー」
おばけの顔入りのフード付きケープを羽織ったサヤがばっさばっさと袖を振り、額に三角布の和風幽霊な篠宮・マコ(アースドリーム・e06347)がその背後に憑く。
お洒落と言うよりこれは、そう。ハロウィンなので。
「皆さん仮装は済んでますね」
「あ、これ、どうぞ。南瓜のプチパイを焼いて見ました」
いかにも魔法使い、な装備の剣太郎の横で、吸血鬼姿の鷹嶺・征(模倣の盾・e03639)が持参品をテーブルに並べる。
「お、被った。やっぱこの辺が鉄板だよなァ」
包帯でぐるぐる巻きになったナレイド・ウィンフィールド(月追い黒狼・e00442)もパンプキンパイを置いた。
「お菓子は色々準備をさせて頂きました。よろしければどうぞ」
「こんなにたくさん……!」
「ああ、涎出てきた」
喫茶店勤めのルイは腕によりをかけた甘味に、征とナレイドの歓声が上がる。そしてミイラメイド姿の石火矢・卯月(春風メイド・e00871)もまた、自らの好物を展開した。
「ボクもたくさん持ってきたよー」
「全部大福……ですか」
苺大福に豆大福、様々な種類のそれに剣太郎が苦笑を浮かべ、マコがその内一つを摘み上げる。
「この大福、中まで白い……」
「もちもちふわふわのマシュマロ大福だよ」
堂々と答える卯月。何にせよ、パーティ会場に欠けていた料理分は補充できている。
「美味しいですねえ。このスコーン手作りです?」
「そうなんですよ、旅団のマスターさん直伝で――」
サヤと雲雀同様、お菓子交換をしたメンバーに穏やかな空気が流れる。
今回の場合、こうして楽しげな雰囲気を作り出すことが敵を誘き出す鍵となるのだ。和やかな談笑も悪くないが、どうせなら盛り上がりが欲しい所。
「よし、それじゃー俺が一肌脱ごうじゃねェか」
そんな空気を察し、ナレイドがリュートを取り出した。扱い慣れた様子で弦を一撫で、軽やかな音色が辺りに響く。
「ハロウィンに合いそうなのってーと……」
「こんな感じでどうですかね?」
同じく卯月がシタールの弦を爪弾く。何とこのメイドは楽器もできるのだ。
「あァ、だったら――」
何となく、ホラー風味で楽しげに。即興の音色の方向性が定まっていく、が。
「えーっと……」
完全に置いていかれた様子でマコが唸る。演奏経験の差はこういう時に顕著に出るもの。悩ましげに動かした視線は、その辺りの気負いの一切無い人物に行き当たった。
「タンバリンならおまかせください!」
サヤが手にしたタンバリンをしゃんしゃん鳴らす。
「うん……じゃあ私はカスタネットで」
結局マコもそれに乗っかり、音色に合わせたルイの手拍子につられ、雲雀も手を打ち合わせる。征もまた、たどたどしい調子ながらカスタネットでそれに参加した。
「ぼ、僕のリズム感で邪魔になりませんかね」
「上出来、上出来。その調子で頼むぜ?」
征の声にナレイドが愉快気に答える。やはりこういうセッションは良いものだと彼は笑う。打楽器の比率が少々大きいが、皆で参加しているというこの感覚は悪くない。
「……ん?」
そこで一瞬音が跳ねる。良く見ると、先程までいなかったはずのカボチャ頭が一団に混ざってカスタネットを叩いていた。
既に気付いていたのだろう、何人かの仲間と視線が交錯する。どうしたものか。切りが良い所まで演奏するか。そんな探るような気配の中。
「子曰く、空気は読むものではなく、吸うものである」
適当極まりない発言と共に、演奏を中断した卯月が高速回転して突っ込んでいった。
●戦闘開始
スピニングドワーフ。楽器から剣に持ち替えた卯月の攻撃を受け、カボチャ頭のドリームイーターが地面を転がった。倒れた敵は、「何が起きたか分からない」といった調子で周りを見回す。
「紛れ込むなら、もっと上手にやらないとですよ?」
巨大な袋を手に立ち上がるドリームイーターに、雲雀が苦笑混じりに言う。前衛へと分身を纏わせ、彼女もまたシャーマンズカードを手に戦いに挑む。
「どっちにしろ次はねェけどな!」
「そうだね、せっかく来てもらったけど、ドリームイーターにはお帰り願わないと」
敵の眼前へとナレイドが立ち塞がり、マコが紙兵を展開してそれをサポート。さらに征が地面に守護星座を刻み込み、体勢をより磐石に持っていく。
「では、手早く片付けましょう」
ルイが高く跳躍し、ドリームイーターへと仕掛ける。上方からの一撃は、しかし軽やかに地を蹴った敵に避けられてしまう。
傍らのテーブルに飛び乗ったドリームイーターは自分の両目を指差して、次にルイへと指を向ける。「見えているぞ」とでも言うような仕草。だが次の瞬間、目の位置にある空洞からカラフルなモザイクが射出された。
「させませんよー」
射線をその身で塞いだサヤが、攻撃を受けつつもタンバリンで覚醒の音色を奏でる。
「遊んでほしいんでしたら、つきあってあげましょーか」
それでも、逃がす事はしないが。前衛へと出たサヤは、ナレイド、征と協力して敵を囲むように位置取る。
どうせなら、このまま包囲を完成させてしまい所だが……ナレイドの月光斬を受けつつも、ドリームイーターはまたマントを靡かせて跳躍する。この素早い敵を捉えるのは、恐らく一苦労だろう。
「――そこです!」
征の視線が一点に注がれ、同時にそこに流し込まれた力が爆ぜる。だがどう察知したものか、敵はサイコフォースによる爆発の衝撃を、自らも跳躍する事で和らげる。
そして征の頭上を飛び越えざま、今度はカボチャの口部分からモザイクを撒き散らした。
「見た目が良くない……!」
「ったく、すぐに治してやるからな!」
攻撃を受けた征に、癒し手に回ったマコと、盾役を務めるナレイドが同時に回復にかかる。威力もさることながら、敵の攻撃によるバッドステータスの影響は大きい。だがそれも、事前の対策とこうした直後のカバーが十分なら恐れる必要も無くなるだろう。
「如何なる蛮勇も退けよう、我を恐れよ!」
剣と盾、そして黒い幻影を纏った卯月がTerrorKnight、連撃を放つ。円を描き、舞うように。続く斬撃は身をかわす敵を追い詰め――。
「ここ、ですね」
後方から、剣太郎の狙い済ました主砲が炸裂し、卯月のウイングキャット、エライネが爪を伸ばして飛び掛る。
避け損なったドリームイーターはそれらの攻撃をまともに受け……。
「つかまえました!」
直後、上空から降って来たサヤの靴裏がその顔面にめり込んだ。
もんどりうって倒れた敵に、さらに追撃がかかる。ルイの星天十字撃、雲雀の熾炎業炎砲が続け様にドリームイーターの身を穿つ。
「楽しんでいきましょうよ。一度きりの人生だもの」
毎日が日曜日と言わんばかりの癒しオーラを撒き散らし、回復に徹していたマコが、ドリームイーターの担いだ巨大な袋に目をつける。季節は違うが、サンタクロースが持っているようなアレ。
「そういえばあの袋、何が入ってるのかしら」
「さあなァ、でも時期を考えればやっぱり――」
仲間の逆を取るように走っていたナレイドがふと答え……その鼻先を、カラフルな弾丸が行き過ぎる。
「……てめェ」
目を向ければ、ドリームイーターが握った袋の口をこちらへ向けている。
にやり、と。カボチャの顔が笑ったように見えた。
「ぴ、ぴろー、お願い」
咄嗟に応えたウイングキャット、ぴろーが立ち塞がったそこに、敵の袋からマシンガンよろしくモザイクが射出される。指先サイズのそれに呑まれていくぴろーに回復の手が回る中、即座に征が反撃に出た。
「くらいなさい!」
こちらもアームズフォートの主砲を瞬時に向け、撃ち放つ。
当初こそ素早い動きに翻弄されていたケルベロス達だったが、今ではその動きにほぼ追従できている。敵の頭を押さえる攻撃や、動きを縛るグラビティを効果的に放ってきた成果と言えるだろう。
「氷を。余り動かないでください……!」
雲雀の護符から生じた槍騎兵がドリームイーターに一撃を加え、続けて卯月が決めに掛かる。最前衛に位置した彼女の剣が、大きな弧を描いて敵のマントの下――モザイクに塗れた身体に深く傷を残す。
ダメージは甚大。だが敵にもまだ余力はあるか。すぐに振り返った卯月が、またじりじりと間合いを詰めようとするが。
「かかっておいでよ。ほら、正々堂々と、カムヒア」
誘うような言動に対し、ドリームイーターは指を二本立て、顔の横で振ってみせる。
「ああっ!?」
そして、即座に踵を返して地を蹴った。
「逃げるつもりのようですね」
征が呟き、追走する。一度高く跳んだドリームイーターは、清々しいまでの全力疾走を始めていた。
この開けた空間で、戦いながら敵を包囲しきるのは難しい。が、不可能と言うわけでもない。この状況もまた、ケルベロス達には想定の内なのだから。
「行きますよ鉄騎、バイクサーカスと洒落込みましょう!」
高らかな宣言と共に、剣太郎がライドキャリバー、鉄騎にまたがった。
●追走
高速回転する車輪が地面を蹴立て、火花と共にライドキャリバーが疾走する。マントをはためかせ、それを操る魔法使いが指を一振り。それと同時に、グラビティによる砲撃ドローンが宙空に現れた。
「目標諸元入力、全砲、アクティブモードへ移行。最大出力にて一斉掃射、撃てえ!」
翠玉の槍。その一斉射撃に晒されながら、カボチャ頭は必死で広場の中を逃げ回る。
「あんまり飾りを壊しちゃだめですよう」
ハロウィンの飾り付けがされたアーチを踏み台に跳んだそれを、白いお化けが追いかけて、その逆方向からはミイラ男が飛び掛る。
「そらよッ」
「!!」
辛くもそれを潜り抜けたカボチャ頭は、しかしまたミイラメイドに追い立てられ、誘導される。
「……舐められたものだな」
広場から抜け出すはずの方向からは翼を広げたルイが回りこみ、方向転換した先からは魔法使いが速度を合わせて併走してくる。
「パーティーの主賓なんですから、あなたには最後まで居てもらわないと!」
そうして追い込まれたドリームイーターは、鎖を手にした吸血鬼と鉢合わせる形になった。
「逃がしたりなどしませんよ」
猟犬縛鎖。ケルベロスチェインがその足を絡め取る。
「とりっくおあとりーとー!」
直後、二人の幽霊がその背に着地した。踏みつけられたドリームイーターは、袋と地面の間で声にならない悲鳴を上げ――。
「――!!」
限界を迎えた袋が弾け、続けてドリームーターもまた、虹色の爆発となって四散した。
●あめふり
「派手に散ったもんだなァ」
カラフルな爆発を少し離れた場所で観測し、ナレイドが肩の力を抜く。そして辺りに、虹色の雨が降り注いだ。
「いたっ」
その内一つがサヤの頭に命中。そのまま地に落ちた雨粒を、マコが拾い上げる。
「……やっぱりお菓子が入ってたわね」
ばらばらと降ってくるそれは、モザイクではなく、カラフルな包装紙入りの飴玉だった。ドリームイーターのモザイクが変じたか、それともこの飴玉からドリームイーターが生まれたのか。その辺りは定かでないが、この調子では程なく周りは虹色に染まるだろう。
「これは、拾い集めるのも一苦労ですね」
どうせだからと会場設営を手伝うつもりで居た剣太郎が、苦笑混じりに言う。そして同じく崩れた会場にヒールをかけ始めた征がそれに応えた。
「飾り付けと……後は演出に利用できるかも知れませんよ」
ものは考えよう、といったところか。少なくとも、ドリームイーターによる邪魔はもう入らないのだから。
パーティの敵は、ケルベロス達によって打ち倒された。とは言え、大変な事ばかりではなかったと雲雀は思い返す。仮装にお菓子の交換、そして演奏会。
『予行演習』でこれだけ楽しめたのだから、本番はきっと――。
彼女もまた、帰りを待つ人へと思いを巡らせる。どうせなら、楽しみを共有したいその人へ。
「どうか、沢山の方がハロウィンパーティーを楽しめますように」
そう、今宵のハロウィンパーティ。本番はここからである。
作者:つじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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