月灯り射す湯に浮かぶ地獄かな

作者:質種剰


「栃木県に少し早い紅葉を楽しめる温泉があるのでありますよ♪」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)がうきうきした調子で話し始める。
「もうすぐガイバーン殿のお誕生日でもありますし、今年の中秋の名月も迫ってますから、皆さんには温泉でゆっくりお身体を休めて、紅葉とお月様をいっぺんにお楽しみ頂ければと思ったのであります〜」
 つまりは、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)の誕生日をダシにして、温泉から望める絶景を満喫しに行こうというお誘いらしい。
「今回ご案内する温泉宿の混浴風呂と男湯女湯、そして家族風呂つきのお部屋や多人数が入れる宴会場を貸し切りましたから、ゆっくりお話などもできるかと思います」
 普段は男湯に入るガイバーンだが、この日はかけらに唆されて共に混浴風呂へ浸かる模様。
「お飲み物の持ち込みも可能でありますから、お茶やジュースの盆を浮かべて、乾杯するのも良いやもしれませんね♪」
 食べ物は、温泉の外の宴会場でなら、誕生日ケーキなどの持ち込みもアリで好きに食べられるようだ。
 予め舟盛りなどの宴会料理や温泉卵、温泉饅頭が用意されている。
 注意事項は、未成年者とドワーフの飲酒喫煙の禁止のみ。
「それでは、皆さんのご参加を、おっさんもわたくしも楽しみにお待ち致しております♪」
 かけらは笑顔でぺこりとお辞儀した。


■リプレイ

●女湯男湯
「おっきいお風呂だねー!」
「うん、こんな大きな場所はカレンも初めてだよ」
 広い湯舟に喜ぶフレアとゆったり手で体にお湯を馴染ませるカレン。
「皆でお風呂に入る時って、身体にタオル巻いたり先に身体洗ったりしないといけないんだね」
「女湯では、もうタオルを取っても大丈夫だよ。あとね、温泉にはいろんな成分が入ってるんだよ。ここの効能って何だったかな?」
 カレンの説明を聞きつつ、フレアは浮かべていた桶を手繰り寄せる。
「串焼きだよ。デウスエクスの肉じゃないよ? 後で皆にも分けてあげようね!」
 2人で食べる串焼きが美味しくない訳は無い。
「誕生日かぁ、実は自分の誕生日知らないんだよね。でも、めでたい日なのは知ってるよ? 今日は楽しもうね!」
「誕生日かぁ。まだまだ先だけど、また一緒にお祝いしようね」

「紅葉を愛でる事など、そう言えばなかったでありますね」
 燃ゆる紅葉の燦たる赤、雅やかなる紅が眩しくて、バンリは深い深い吐息を漏らす。
「誰にも縋らず生きるなど無理だとしても、己は一人立てるようにならないといけないのに」
 肌を伝う水滴を見つめても、頼りなく浅ましく独りよがりな思いがのしかかる。
「恋をして、女の子になってるのかな……何の変哲もない普通の女の子に」

「いやーこういうシチュ一回やってみたかったんやわー」
 夜空を眺めつつ塀向こうの男湯へ語りかけるのは千舞輝。
「今も落ち着きタイム中?」
 白陽はだらっとした風情で肯定した。
「何に限らず、手が届くと殺したくなる。ほら、偶々見掛けたものが気に入ったりして、その気はないけどつい触ろうと手が伸びるとかない? あんな感じだ」
「わからんでも無いでー、ウチも好きなゲームの限定特典付きとか手ぇ伸びるしなー」
「それがないとボケーっと眺めてられて、楽な訳だ」
「つまり、水着女子が隣に居っても直視して来ぉへんのも、そーいう理由?」
「……それはまた別というか、うん」
「へっへっへ、隙の多い殺人鬼さんやなー、全く」
「千舞輝が大胆すぎるんじゃないかなあって思うんだ」
「いやいや、ウチ程度序の口やでー。多分」

「風呂では髭取るの?」
「貸切故に取らんでも良いそうじゃ」
 おっさんへ紅葉を差し出し、男湯へ入るは夜とラウル。
「俺は混浴でも良かったけど?」
「恥ずかしいから駄目!」
「女性が恥ずかしがるなら分からないでもないが、何故見る方が照れるのか」
 混浴と聞くだけで慌てるラウルに、夜は首を傾げるも、
「何でラッシュガードまで着ているのだ。腹筋が12個に割れていると誇っていたのに」
「……だ、代々伝わる門外不出の腹筋だからっ!」
 ラウルの儚い見栄を察して悪戯っぽく笑んだ。
「共に一献傾けよう。今はコレだが君も成人した折には酒で」
 粋なお誘いにラウルも頷き、夜の杯へお酌する。
「あと少し、酌み交わせるひとときを心待ちにしてるね?」
 宵空の藍を彩る月と紅葉に見守られ、酒とジュースの乾杯。
 それは、あたたかな約束の音。

●混浴
「ガイバーンさん、お誕生日おめでとうございます!」
「有難うな」
「ガイバーンさんは温泉で豊かなつけヒゲをどうするのでしょう?」
 湯船へザラキと共に浮かぶイッパイアッテナは、立ち込める湯気に負けじと夜目をフル稼動。
「普段、1人で風呂の時は外すのじゃがな。今日は特別じゃ」
 立派なつけ髭の先が三つ編みになって、湯の中で揺れているのが見えた。

「ん……誕生日プレゼントに、クッキー、家で焼いてみたよ……」
 おっさんへクッキーを渡すのはリーナ。
 中に胃薬が入ってるのはセイヤの気遣いか。
「……スマン、好みそうなモノがコレぐらいしか思いつかなかった」
 当人は高級ふさふさつけ髭を差し出し、おっさんを大喜びさせた。
「ん……ガイバーンさんの誕生日記念だし、お酌してあげる……」
 美味しい葡萄ジュースをグラスに注ぐリーナは、身に着けたフロントホックのビキニが可愛らしい。
「かけらはにいさんの方、お願い……」
 盆に浮かべていた【星ノ空】を小檻が注ぎ、セイヤ以外はジュースで乾杯。
「かけらの水着って以前着てた海藻のなのか……?」
 盃を干したセイヤは、盆が隠していた肢体に、慌てて目を逸らす。
「にいさん……水着を着るって言ったのは、ガイバーンさんと衣さんだよ……?」

「誕生日おめでとうございます。これからもよろしくお願いします」
 律儀におっさんへ挨拶してから、混浴でゆったり差しつ差されつを楽しむのはトリスタンとトウコ。
「折角ですからこの時期にしか出回らないのを御用意致しましたの」
 彼のお猪口へお酌するトウコは、翡翠色の大胆なビキニが目に眩しい。
「有難うございます。熱い湯につかると言うのは……何だか慣れませんね」
 冷酒を楽しむトリスタンは、トランクス型の水着だ。
「月と紅葉が湯煙に揺れて、とても綺麗ですわね」
 見上げた赤髪の向こうに銀の月が見えて、トウコはにこにこ上機嫌。
「ええ。夏の緑も良いですが、紅葉をみると日本の四季を感じますね」
「一緒に眺めることが出来たのが嬉しいですの」
 ほろ酔いに任せてトリスタンへ寄り添えば、肩を大きな手がそっと抱いてくれた。

 今年成人した蒼眞は、手酌でキンキンに冷やした月見酒を満喫。
 曰く、温泉に水着は個人的に邪道らしく、素っ裸で混浴中だ。
「それにしても平和だ……これだけのんびりするのも久しぶりの気がする……」
 幸せそうに洩らした一言がフラグに聞こえるのは気のせいか。
「……いやまあ、何故か厄介事が人の形をして近付いている気も……そんな事はない……筈、多分、恐らく……?」
 ふと嫌な予感のする蒼眞の耳に、聞き覚えのある声が。
「ガイバーンくんは誕生日おめでとうね。ドワーフのおヒゲの手入れってどうするのかしら? 洗髪と洗濯はどちらが近いかしら?」
 はいこれお手入れ道具——談笑するソフィア達は楽しそうで、
「これはかたじけない。洗髪に近いやもしれんのう」
 偶には厄介事も彼の上を素通りするようである。

「今回は渋くキメるぜ」
 そんな非正規雇用の意気込みは、ディークスへ月見酒を薦めようとした所で、脆くも崩れ去った。
「……なっ!? でかい!?」
 幾らタオルで隠しても隠し切れぬ存在感——そう、ディークスの『前尻尾』に驚いたのだ。
「足が3本あるのかと思った……」
 仲間の率直な感想に、ディークスは盃を受けつつ苦笑い。
「紅葉よりそっちか……お前は歪み無いな」
「おい! 立花もこっち来て見てみろよ!」
「やはは、素敵なコントを見られただけで充分愉しいよ」
 はしゃいだ非正規雇用に連れて来られた佑繕は、2人を微笑ましく見守る。
 ともあれ、夜野も加わってガイバーンの誕生日を祝う黒猫師団の4人。
「皆本当に有難うな」
「……何っ!? でかい!?」
 次に非正規雇用が驚愕したのは、小檻の胸。
「西瓜が2個あるのかと思った……」
 ゴス、とディークスが思わず彼の頭を叩く。
「尾守も、あのくらいグラマーならなぁ?」
「そういえば、何故ボクは女性に勘違いをされるのかなぁ……? なんでだかわかる?」
 真顔で首を傾げる夜野だが、赤いハイビスカスの如きヒラヒラした水着を着ている彼なれば然もありなん。
「……えっ、お前男だったの……ウソ……体くっついた時、無駄にドキドキしちゃったわ……」
 今度は、佑繕の優しいでこぴんが非正規雇用を襲った。
「……水面に月明かりと、色づき赤く燃える葉が地獄を連想させる……なるほど、確かに絶景だな……良い時期だ」
「綺麗なのですよぉ。同じ地獄でも、こっちの地獄だったら素敵だねぇ」
 痛がる非正規雇用を尻目に、頷き合うディークスと夜野は平和だ。

「温泉、温泉~♪」
 青い花柄の可愛い編み上げビキニ姿で、温泉にはしゃぐかぐら。
「っと、いけないいけない。お誕生日祝いだったわね」
 温泉饅頭とお抹茶を載せ、隣には蝋燭まで立てたお盆を浮かべて、お祝いも忘れなかった。
「ハッピーバースデー、テンペストさん♪ これからもいい事があるように願ってるわ」
「ガイバーン様はお誕生日おめでとうございますっ。今年はめいっぱいお祝いするのですっ」
 ニルスもフリフリのワンピース水着で、おっさんの背中を流したり肩を揉んだり甲斐甲斐しい。
「氷霄もニルスも有難う。わしは幸せ者じゃ」
 小檻の世話も焼くニルスが用意したのは、イチゴ大福や甘酒。
 かぐらの温泉饅頭やお抹茶と合わせて、和のお茶会を皆で楽しんだ。
 後は宴会場で、舟盛りや温泉卵が彼らを待っている。

●家族風呂
「お風呂にはみんなで入りましょうね」
 マコトや橘花の髪や尻尾を、しっかり洗うのは鎮理。
「ちょ、耳に水が! 水が!」
 途中、橘花が獣耳にお湯が入って焦ったものの、念入りにリンスまでして上機嫌だ。
「髪や尻尾くらい自分で洗えるぜ」
 マコトは口ではそう言うものの、始終大人しく洗われていた。
「川で水浴びするのとぜんぜんちげぇな」
「お月様も綺麗ね……」
「だなぁ」
 今は2人とも湯船から空を見上げてのんびりムード。
「あちぃからそろそろ出ねぇ……?」
「……熱いからってすぐに出てはだめよ」
(「ちゃんと温まるまで逃がさないように捕まえておかないと」)
 少しのぼせ気味のマコトだが、湯冷めを危惧する鎮理はにべもない。
 すると。
「出来ましたよー」
 鍋で何やら煮立てていた橘花が、湯気の中に卵が香る湯呑みを皆へ振る舞ってくれた。
「温まるわね。ありがとう橘花」
 笑顔で口をつける鎮理と、興味津々に匂いを嗅ぐマコト。
 橘花ものんびり湯に浸かり、体の内外から温まっている。
「お風呂から出たらドライヤーもオイルもあるんだから、逃げないの」
「ドライヤーはわかるけど、オイルって何すんだ?」
 風呂を出た後も鎮理のアフターケアは万全のようで、信頼してついていくマコトと橘花だった。

「つっても、やっぱ何も付けないってなると緊張しねぇか?」
 外の賑やかな声がやけによく響くと思いつつ、ルルドは一糸纏わぬ恋人を見やった。
「早苗が大丈夫なら俺は全然良いんだけどよ」
「そ、そりゃまぁ……緊張するし、恥ずかしくはあるけど」
 言いながら恥ずかしさで顔まで半分湯に沈む早苗だが、
「ほら、その、予行練習というか、なんと言うか……!」
 一番伝えたい事はしっかり告げて、ルルドへそっと身を寄せた。
「……ふふ、マッサージとかしてあげよっか」
「良いな。上がったらお願いしようか」
 此の所動きっぱなしだったから、こうやってゆっくり話す事もなかったしよ。
「……今日は寝かせねぇぞ、なんてな」
「賛成っ。一緒にお布団入ろうね! ……お話が弾むって意味で寝かせないんだね! ね!」

 黒のハーフパンツを穿いた奏星は、おっさんに祝いを述べてから家族風呂へ小檻を誘った。
「足元には十分注意しないと」
 客室の脱衣所で水着を脱ぎつつ言うも、早速小檻が足を滑らせて、
「おっと」
 奏星は支えんとして尻餅をつき、白い巨乳に顔を挟まれていた。
「ありが……やだ、どこ触ってるの」
 それをきっかけに、胸以外へも伸びた奏星の手指が、小檻を苛んで悩ませる。

 双牙と麻実子は湯の中で寄り添いながら、月を仰いでいた。
(「月を眺めるといつも、せつの笑顔が浮かぶ」)
(「月を見る時はいつも、あなたの金瞳を思い出す」)
 何を見るにつけても脳裡によぎるのは互いの事。
(「……今は隣にいるせつが、月よりも眩しい。その強い引力に惹かれて落ちて行ってしまいそうで」)
 果たしてそんな双牙の想いが通じたものか。
「何だかちょっとのぼせたかも……」
 昂ぶった肌でくっつく麻実子。
(「いいよね? 誰もいないもん」)
 更には伸び上がって頬にそっと口付けた。
 双牙は驚きに目を見張るも、心の赴くままお返しを恋人の唇へ。
「……これ以上はここでは駄目……だけど」
 じっと金の瞳を見つめて麻実子がねだる。
「ね、もう上がろっか……」
「……ああ俺も、のぼせてしまいそうだ」

●宴会
「温泉いいなぁいいなぁ温泉ほんといいなぁ温泉……」
「アホ弟が珍しく出かけるというので付いて来てみれば、ガイバーンさんのお誕生日でしたか。これはこれは、おめでとうございます」
 相変わらず姉弟漫才を繰り広げているのはルイスとマリオン。
「しかし人様のお誕生日を祝おうだなんて、やっとこのハナタレにも人間らしい感情が……」
 ぐすっと涙ぐむ姉の気など知らぬ弟は、
「日ごろ世話になっているお礼に、祝いの句でも……」
『湯の花にドワーフ見ゆる白髪かな』
「……やりやがった……」
 姉の頭痛の種を増やしていた。
「どうよこの見事な句。才能が迸ってね?」
「すみませんガイバーンさん、あとでよく言って聞かせますんで……いや、言っても全然聞かないんですけど……」
「和歌には本歌取りという技法もあるからのう」

「お誕生日おめでとう! よりいっそう『だんでぃ』に近づいたね!」
 楽しそうに箱を開けるのはシルディ。
「アウトドア好きのガイバーンさんの為にー……ta-da! 黄色い三角テント型のケーキだよ! とれたてフレッシュなミカン味!」
「これは可愛い、食べるのが勿体ないぐらいじゃ♪」
 蝋燭製の焚火は、火も点いていて、おっさんを喜ばせた。

「舟盛りのお刺身とか初めて見たわ……何か感動するなー記念に撮っとこう」
 パシャパシャ。
「ミミックーいい感じにカメラ目線頂戴だぜ―」
 カメラ片手に宴会料理を撮っては、仲間にも声かけて記念撮影に挑むタクティ。
 素直にお澄まししているミミックが可愛い。
「わぁ~~♪ ごちそうが、たくさんです~♪」
 母に浴衣を着付けて貰い上機嫌なルティアスも、豪勢な料理の数々に瞳を輝かせた。
「そうね♪ でも、お膳についているときにはおしとやかにしないとダメですよ?」
 ルチルは優しく娘へ声をかけてから、仲間にお酒やジュースを注いで回る。
 気づくと、ルティアスもジュース瓶抱えてちょこちょこついてきていた。
「それでは宴会に余興で華を添えましょうか」
 お造りや温泉卵を満喫した宵一は狐変身。
 持参したタブレットから流れる海外の定番ポップスに合わせて、懸命に踊り始める。
 当人曰くのキレキレでモフモフなダンスを披露し、拍手喝采を浴びた。
「宴会芸でござるか」
 ガンガン酒を飲んでいた鈴女は、突然ばっと浴衣を脱いでマジシャン猫耳バニー姿に変身。
「失礼……ガイバーン殿のおひげが」
 もふもふ。
「おっきくなっちゃったー♪」
 もっさり。
「興が乗ってきたでござるな。次はだいごろーがんばっ」
 おっさんのつけ髭をボリュームアップしたり、箱を刃物で分断する輪切りマジックで会場を沸かせていた。
「髭がでっかくなった瞬間撮ったのでどうぞなのだぜー」
 タクティは変わらず記念撮影に余念がない。
「はい、は~い。ルティしま~す♪」
 次はルティアスが元気に挙手、
「いい?」
 母が微笑んで頷くのへ安心して、舞台に上がる。
「赤や黄色のお花がさくよ♪ ここにも、そこにもあそこにも♪」
 ルティアスが打ち鳴らした手を開く度、仲間達の髪や、宴会場の其処彼処にお花のリボンが可愛く結わえられる。
「はい、はい♪ は、は、はい♪」
 ぱんぱん手拍子する娘を、ルチルもノリノリで見守り、一緒に手を叩く。
「お疲れ様、とても素敵でしたよ?」
 笑顔で応援していた憂女が、ジュースを渡してルティアスを労う。
 さて、皆が余興を楽しむ傍ら、ひっそりと温泉卵が減っていた。
 それは宴会場に潜むお化け——ならぬ恭介の仕業。
 他の料理には目もくれず只管食べる彼を、安田さんも、
「それだけ食べ過ぎ!」
 と言いたそうだ。
 ちなみに宴会芸は、
「ふふっ……、人前に出るのが苦手な僕には場の空気を盛り下げることしかできませんよ」
 そんな自己評価故か恭介は温泉卵へ集中、時々皆の芸を囃すに留めた。
 一方。
「それにしても……背後からピンポン玉が撃ち込まれたときはびっくりしましたよ」
 宴会料理に舌鼓を打ちながら、卓球勝負を振り返るのはティと樹。
「やっぱりこの曲ですよね……ふふっ」
 憂女が対戦の一部始終をカメラに収め、時代劇の殺陣よろしくBGMつきで編集してくれたから、それを見るだけでも熱が入る。
「まあ、そのまま攻撃に移れたので正直『貰った!』と思いましたけどね。玉を跳ね返すために二藤さん自身が自爆した時にも思いましたけど、ホント自爆技が好きですよね~」
「いやいやそっちこそ。耳の色を利用したホワイト・イクリプスなんて『消えるピンポン玉』なもんだから手も足も出なくて……」
 互いの妙技について称え合う2人は楽しそうだが。
「見えた! と思っても、毛玉で作られた偽物で、まさに雪原に潜むスナイパーのように捉えどころのない戦い方だった……!」
 片や自爆の爆風で返球したり、片や体毛の色で目眩ししたり実際に毛玉を拵えたりと、どうも普通の卓球と言う次元を超えたプレイなのだった。
「結構沢山の写真が撮れたのだぜ。やっぱ紅葉とかより出し物とか卓球が多くなるなぁ……」
 デジカメの画面で撮った写真を確かめ、タクティが笑う。
「ヒメもお疲れ様、花火のときはバタバタしたし、やっぱりこういうゆっくりできる時間は貴重よね」
 憂女は赤々と燃える紅葉の写真をのんびりと観賞。
「有難う。こうやって時間が経っても同じように皆で楽しめる、と言うのは嬉しいわね」
 宴会が始まる前に女湯へ軽く入ったヒメが、浴衣姿で幸せそうに頷いた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月10日
難度:易しい
参加:43人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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