青く燃えるその顔に

作者:幾夜緋琉

●青く燃えるその顔に
「……」
 深夜の名古屋港。
 遠くの灯が静かに明滅し、どことなくムーディーな雰囲気が漂う埠頭に立つ……イケメンな男。
 そんな男を見つめているのは……どことなくエキゾティックな雰囲気の服装に身を包んだ女性。
「ふふ……美しい人。あの人にしちゃおうかしらね?」
 と……彼女はニッ、と微笑むと、男に接近。
「……ん?」
 と振り返ったその瞬間。
『う、う……うわあああああ……!!』
 叫び声を上げる、青い炎に包まれてしまう男。
 目の前の女性……『青のホスフィン』が作り出した青い炎に焼き尽くされた彼の身体。
 そして、彼は燃え尽きた後、巨大な体躯のエインヘリアルへと変わる。
 勿論、その顔は美しく、整っている……そんなエインヘリアルにくすりと笑い、『青のホスフィン』は。
「なかなか、良い見た目のエインヘリアルができたわね。ま、やっぱりエインヘリアルなら外見に拘らないと」
 どことなく、満足気。
 でも、そんなエインヘリアルに。
「でも、ね。見かけ倒しはダメ。だから、とっととグラビティ・チェインを奪ってきてね。そしたら、迎えに来てあげる」
 と言うと、そのエインヘリアルはこくり、と頷き、街に向かい始めるのであった。

「皆様、集まっていただけた様ですね? それでは、早速ですが説明いたします」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスらに一礼すると、早速。
「有力なシャイターンが、どうやら動き出した様なのです」
「彼女達は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、其の場でエインヘリアルにする事が出来る様です」
「そして、出現したエインヘリアルは、グラビティ・チェインが枯渇した状態の様で、人間を殺しグラビティ・チェインを奪おうと暴れ出しています。急ぎ現場へと向かい、暴れるエインヘリアルの撃破をお願いしたいのです」
 と、そこまで言うとセリカは。
「今回のエインヘリアルは、とても顔立ちの整った巨躯のエインヘリアルの様です。それに加えて、とても自尊心の高いエインヘリアルで、恐らく皆さんの言葉を聞くことは万が一にもないでしょう」
「そして、彼の武器となるのは、その体躯で揚々と振り回す事の出来る、巨大なゾディアックソードを得物としています。当然ながらその一閃から繰り出される攻撃は、かなり高い攻撃力で、危険な一撃であると言えます」
「又、エインヘリアル自身は一般人を殺す事については、何とも思っていません。勿論そんなエインヘリアルですから、皆さんが対峙してくれば、必ず殺す、という意思で以て対抗してくるでしょう。どちらかが倒れるまで戦う事になるのは間違い有りませんから、油断はなさらない様にお願いします」
 そして、最後にセリカが。
「何にせよ、危険なこのエインヘリアルを放置しておく訳にはいきません。皆さんの力を結集し、確実に仕留めていただけるよう、お願いします」
 と、再度頭を下げた。


参加者
エアーデ・サザンクロス(自然と南十字の加護を受けし者・e06724)
暮葉・守人(狼影・e12145)
水神・翠玉(自己矛盾・e22726)
速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)
鹿目・万里子(迷いの白鹿・e36557)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
時崎・創英(深緑の剣士・e39534)

■リプレイ

●明滅する灯火
 愛知県名古屋市の海沿いにある、名古屋港。
 遠くに埠頭の灯が明滅し、人の影も余り多くは無い……そこに、どことなくエキゾティックな雰囲気の、ちょっと露出度の高い服装に身を包んだ女性。
 シャイターンの一人『青のホスフィン』は、好んだ男……顔立ちの整った、所謂イケメンをターゲットにし、彼らを炎に包み、巨躯を持つエインヘリアルへと変えていってしまうという事件を起こす。
 それを受けて、ケルベロス達は名古屋港へと向かう。
 ……目の前に広がる灯を眺めつつ、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)が。
「夜の名古屋港か……この雰囲気を共に満喫するのはデウスエクスではなく、素敵なおねーちゃんが良かったぜ」
 と、肩を竦めると、それに時崎・創英(深緑の剣士・e39534)も。
「全くだ。しかし元が何であろうが、俺のやる事は変わらない……デウスエクスならば、叩き斬る迄の事だ」
 と瞑目し、静かに呼吸を整える。
 確かに、今回のエインヘリアルは、元々はイケメンの一般男性。
 何か悪い事をしてきたかと言えば……特に悪事は働いていないとの事。
 ただ、自尊心が高い俺俺な性格からして、沢山の女性達を泣かせてきた、という様な事はあるかもしれない。
「自尊心が……高い……自分に……自信が……あるって……ことですよね……? どうしたら……そんなに……自信が……持てるんでしょう……」
 と水神・翠玉(自己矛盾・e22726)の言葉に暮葉・守人(狼影・e12145)が。
「まぁ……イケメンだって言う事を自称している位だからこそ、というのはあるかもしれないな。それを自分自身の努力によってやってきたのなら、相応に自信を持つという話が解らないでもないし」
「……そう……ですか……」
 翠玉がぽつり呟く、とそれに櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)とエアーデ・サザンクロス(自然と南十字の加護を受けし者・e06724)、鹿目・万里子(迷いの白鹿・e36557)が。
「どのような形であれ、デウスエクスへと変貌したのならば、敵である。民間人へ被害が出ぬよう、排除するのみ」
「そうね。生きている人間を死に追いやっているエインヘリアルに……そんなのは許されない。でも今は、目の前の危険を取り除いていきましょう」
「ええ。エインヘリアルの選定に成功しているシャイターン……今迄のシャイターンと比べますと、やはり選定の成否を分けている尾は彼女達の炎……でしょうか? それは気になる所ですが、被害は食い止めませんとね」
 そんな三人の言葉に、速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)が。
「ハッはァー!! それじゃーイケメンをしっかり討伐しないとな!!」
 何処か自信有り気な言葉を履く紅牙だが……その幼い容姿からすると、何だか可愛く見えてしまうのは何故だろう。
 ……ともあれ、そんな紅牙の頭をぽんぽん、としながらラジュラムが。
「まぁ、何にせよ、敵の蛮行は防がねばならんな。皆、気張っていくぞ!」
 と気合いと共に、埠頭に立つのであった。

●狂う炎に踊らされ
「さて……この辺りだったよな?」
 と辺りをキョロキョロ見渡し、更に耳を立てて音に集中。
 ……と、次の瞬間、ゴォォォオ、という業火の音と共に、悲鳴。
「グォオオオ……!!」
 と、遠くの方でしたその叫び声の方を指さし。
「皆、あっちだ!! 急ぐぜっ!!」
 と声を上げる。
 そしてその方向に急行すると……巨大な体躯のエインヘリアルが、立ちはだかる……その顔は、上中下で言えば、明らかに上の方。
「うををっ!? マジでイケメンなエインヘリアルじゃないかっ!?」
 と紅牙の言葉……それに対しエインヘリアルは。
『……ウウゥ……』
 と唸り声を上げて威嚇。
 そんなエインヘリアルに、紅牙は。
「でもでも、どんだけ顔が良くっとも乱暴なのはヤダなー……やっぱあたしの好みじゃないや。やっぱりアタシ優しい人が一番かなっ!」
 ニッ、と笑う紅牙、それにこくりと頷き、その顔を見据える翠玉。
「そうですね……」
 ……勿論、イケメンだから全部許せる訳ではないけれど。
 そして、そんな仲間達の言葉を聞きつつ、守人、エアーデの二人は殺界形成を周囲に展開し人払い。
 ……そして、創英が。
「……貴様か、グラビティ・チェインを求め暴れ廻っているというエインヘリアルは」
 と、その言葉に頷く事も無く、エインヘリアル……その大きなゾディアックソードを振りかぶる。
「来るぞ!」
 と悠雅が声を張り上げ、全員、その場から離れる。
 地面を大きく抉るその一撃は、かなりの攻撃力である事が予測できる……が、取りあえずのその一撃は回避。
 そして、その場に降り立つと共に。
「ケルベロス、時崎創英。無辜の民の安寧の為、貴様には死んでもらおう」
 と、創英が抜刀、名乗り挑発すると、それにラジュラムも続き。
「そうだな……ま、お前にとっては災難かもしれないが、許せよ」
 と、同じく挑発する。
 ……そんなケルベロス達の挑発に、ウウウ、と唸りながら、再度ゾディアックソードを手に取り、振り上げ、振り落す。
 行動自体は、殆どワンパターンではあるが、その一撃こそが重い。
「腰も入ってねぇ、只のチャンバラかよ! お前の優れた点は顔だけかよ!」
 と言いながら守人がライティングボールを地面に投げて、周囲の灯を確保。
 更に万里子も。
「そうですね……なるほど。確かにお話に聞いた通りのお人柄の様で。エインヘリアルである前からそのようなお人かは存じませんが!」
 と言うと、傍らのビハインド、チノアがエインヘリアルを鼻で笑う仕草を取る。
『ウル……サィ……!』
 と、明確な言葉でケルベロスに怒り、排除の行動を取るエインヘリアル。
 そのゾディアックソードの一閃を、敢て惹きつけ……地面へと叩きつけさせると。
「さぁ、罪なき人ではなく私達の相手をしてもらいましょうか」
 とエアーデが先陣を切り、ペトリフィケイションの一撃を放ち……石化効果を付与。すると、それに続けて翠玉が。
「被害を……出す前に……ここで……倒れて……貰います……!」
 と、クイックドロウで、ゾディアックソードを傷付ける。
 更に紅牙も。
「ハッハー!! ほらほら食らえぇええ!!」
 と獰猛な笑顔と共に、マインドソードでプレッシャーを与える。
 ……更に、万里子が。
「皆さん……宜しくお願いします」
 と後衛からメタリックバーストを前衛陣に放ち、狙アップを付与。
「サンキュー!」
 とラジュラムがニッと笑顔、それにチノアがむっとした様な仕草。
 ……そして、チノアがエインヘリアルにポルターガイストを飛ばして攻撃すると、更にラジュラムが。
「取りあえず、その武器を砕かせて貰うか」
 と、死天剣戟陣で、ゾディアックソードへ攻撃。
 簡単に割れるようなものではないが、確実にゾディアックソードに攻撃を重ね、攻撃力への対処。
 一方、守人、創英、悠雅のクラッシャー三人は。
「それじゃ俺達は本体を削らねえとな」
「……ああ」
「頼むぞ……与えるは守護の力」
 と、悠雅のサークリットチェインで盾アップを付与された後、創英が敵の振り落とし上がりつつある肩口へ雷刃突を一閃。
 更に守人が続き、騒音刃を逆の肩口に叩きつけ、大騒音を鳴らす。
 五月蠅そうな仕草をするエインヘリアル。
 そして、次の刻となり、エインヘリアルは先ほど五月蠅い行動をした守人を狙う……が。
「……散れ!」
 その攻撃を、左サイドから駆けると共に、『桜花散閃』を放ち、攻撃の軌道を逸らす。
「どうした、イケメンは飾りか?」
 と、更に挑発し、その注意をこちらへと惹きつけ、クラッシャー陣とは逆方向へ。
 それを補助する様に、紅牙も惨殺ナイフを手にして。
「強くて優しい奴になるのはとても難しい。だが、それができなきゃ男じゃない。顔が良いだけじゃダメなのさ!」
 と言い放ちながらのジグザグスラッシュで、バッドステータスを一気に倍増させる。
 そして、食らったダメージをすぐに万里子が。
「なま白き牝鹿、ホワイ・マラルの祝福を!」
 と祝福の矢を飛ばしてラジュラムを回復。それにちょっと悲しげな視線を向けつつ、チノアが金縛りでエインヘリアルを攻撃。
 更にエアーデと翠玉が続く。
「無理矢理エインヘリアルにされたのには同情するけど、お前の自由にさせるわけにはいかないのよ」
「……ええ……」
 エアーデのペトリフィケイションに続け、翠玉のスターゲイザー。
 そして、悠雅は後衛陣にサークリットチェインで補助を飛ばしつつ。
「悪いが、俺一人だけじゃねぇし越えてきた修羅場の数、お前とは違うんでね!」
 と守人のズタズタラッシュに、創英の黎月から放つ月光斬。
 更なるダメージを積み重ねつつ、確実に本体を削り続ける。
 ……ただ、エインヘリアル自体かなり体力も多く、中々弱る事も無い。
「ふむ……中々しぶといじゃないか」
 とニヤリ笑みを零すラジュラム。
 敵は強いけど、強ければ強い程にこちらも燃える……。
 そして次の刻以降も、ケルベロスらの猛攻は怒濤の如くエインヘリアルの体力を削り去る。
 ……時折、その剣戟を食らってしまい、大ダメージを喰らう者の、万里子に加えて翠玉が。
「……大丈夫ですか……?」
 と、バレットタイムで回復を追加し、戦線は維持する。
 そして、そんな猛攻のやりとりが続く事、十数分。
「さぁ、もう光に包まれて永遠の眠りにつきなさい」
 と、エアーデの放った『聖十字光』が、エインヘリアルを包み込むと……。
『グゥ……』
 膝から崩れるエインヘリアル。
 そんなエインヘリアルを見て、ラジュラムが更に『桜花散閃』での一閃を繰り出すと……かなりその表情は苦しげ。
「守人くん、創英くん……今だ!」
 とラジュラムの言葉に頷き、守人が接近。
「我一陣の風となる!! 貫き穿ち切り払う暴風の斬撃!!」
 と『風刃+天風殺+』の一閃を至近距離から叩き込むと、それに続けて。
「一歩性変。二歩見定。三歩招来――」
 殺意と共に呟き……そして。
「破剣、剛破衝刃ッ!!」
 と、感情を爆発させるが如く叫び『霊剣術・破剣『剛破衝刃』』の一閃を叩き込む創英。
 その一撃に、エインヘリアルは……壮絶な声と、表情と共に崩れ墜ちて居った。

●その炎を消して
 そして……エインヘリアルの姿の消えた後。
 ……遠くの灯火が瞬き明滅する中、ただただ静けさに包まれる……そして、そんなエインヘリアルの残した、僅かな痕跡に跪き、エアーデが。
(「……必ず貴方の命を弄んだ相手を見つけ出すわ。安らかに眠ってね……」)
 と、利用された彼に向けての冥福を祈りを捧げるエアーデ。
 ……そして、彼女が祈りを捧げている横で、悠雅は戦闘場所をしっかりとヒール開始。
「辺りに被害を残しておくのはよろしくないからな」
 と言う悠雅に、他の仲間達も頷き、ヒールと後片付けを開始。
 一通り片付け終わった所で、エアーデも立ち上がり、埠頭の芳へと視線を配せる。
 その視線の先に移る灯り……暫く見つめていると共に。
「それにしても……彼はエインヘリアルにされるまでは何をしていたのかしらね?」
 と万里子の言葉に、小首を傾げるチノア。
 ……ただ、その顔立ちからして、かなりのイケメンであり、それを自信に付けている職業となると……そのイケメンさを活かした職業、ホストとか、その辺りだろうか。
「……まぁ、何でも良いですわ。あなた、折角ですし、夜の町を散策してみませんか?」
 と言う言葉にこくりと頷き、そして万里子とチノアは其の場を後に。
 ……一方、エアーデが。
「それにしてもシャイターンのやり方は、どんな方法でも気に入らないわね。平気で人の命を弄ぶ……最低なことだわ。早くこの原因である輩を見つけなければいけないわね、必ず……」
 と、拳を握りしめるエアーデに、守人が。
「そうだね……まぁ、居ないとは思うけど、一応周りを調べておくか」
 と周囲の捜索を開始。
 ……そんな守人を横目にしつつ、ラジュラムが。
「ま、何だ。折角ここまで来たんだし、ちょっと一杯やってくとすっかな」
 と言うと共に、コンビニで購入してきたカップ酒を片手にし、名古屋港をぶらぶらと歩くラジュラム。
 と、他の仲間達も同様に、名古屋港をぶらぶらと歩くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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