見知った彩り

作者:雨音瑛

●廃鉱山にて
 既に使われていない、坑道への入り口。その場所がモザイクに覆われているのを見て、八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)は懐中電灯を点ける。
「予想通り、だな」
 モザイクの中がどうなっているのはか見えない。しかし、爽は調査のためにここを訪れたのだ。爽は、ゆっくりとモザイクの中に足を踏み入れた。
 とたん、奇怪な風景が爽の前に広がる。
 採掘用の道具やトロッコ、レールなどが混じり合い、浮遊している。さらに、全身にまとわりつくような粘性の液体に満たされていた。
 驚く爽の前に、ひとりの少女が現れる。
「このワイルドスペースを発見できるなんて、この姿に因縁がある者なのかな?」
 少女は5枚の羽を揺らし、続ける。
「でも、今ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかなんだよ! だから……ワイルドハントの手で、殺してあげるね☆」
 少女は手を前に突き出し、紅色の光を放った。

●ヘリポートにて
「ワイルドハントの調査をしていた爽が、ドリームイーターの襲撃を受けた」
 ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)の言葉を聞いて、ヘリポートに集ったケルベロスたちが沈黙する。
「爽を襲撃したドリームイーターは、自らを『ワイルドハント』と名乗っている。ワイルドハントは廃鉱山の坑道をモザイクで覆い、内部で何らかの作戦を行っているらしい」
 このままでは、爽の命が危ない。急ぎ救援に向かい、ワイルドハントと名乗るドリームイーターを撃破して欲しいと、ウィズは緊張した面持ちで告げた。
 戦闘が行われるのは、廃鉱山の坑道の先、モザイクに覆われた場所だ。
「特殊な空間ではあるが、戦闘に支障は無い。グラビティの使用はもちろん、普通に話すこともできる」
 戦闘となるのは、爽を襲ったワイルドハント1体のみ。魔法攻撃を得意としており、魔法によって構成された光、矢、風で攻撃を仕掛けてくるという。
「ワイルドの力を調査されることを恐れているのかもしれないな……何にせよ、まずは爽を救って欲しい」
 頼む、と、ウィズは頭を下げた。


参加者
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
ガーネット・レイランサー(桜華葬紅・e00557)
八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
スズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567)
ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)
ルーニア・リステリアス(微睡はいつまでも・e37648)

■リプレイ

●知る顔、知らぬ存在
 ワイルドハント、と名乗る少女の姿をしたドリームイーターが放った紅色の光。
 光が迫るのを認識しながらも、八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)は、光の向こうにいる少女の姿を脳裏に描いた。
 爽と同じ、赤い瞳を持つ少女。自身の、暴走した姿。
「……彩」
 自分にだけ聞こえる声で呟き、紅色の光を避ける。爽も攻撃を仕掛けようと、エアシューズ「Meteorbit」にそっと触れた。屈んだ体勢から一気に踏み出し、跳躍する。
 星くずを零しながらの蹴りで、狙うはワイルドハントの顔面。
(「ま、俺1人で出来る事なんてたかが知れてるけど……切り札は必ず来る」)
「……ケルベロス、舐めんなよ?」
 恐ろしいほどの真顔で、爽はワイルドハントへと迫る。
「っ!」
 ワイルドハントは怯えたような表情をして爽を見た。
「……なんて、ね☆ 遅いよ!」
 にこりと笑い、後方へとステップして回避する。
「今度はこっちの番だね♪」
 爽が舌打ちし、ワイルドハントの次の攻撃へと備えたその時。聞こえた数人分の足音に振り返るが早いか、爽とワイルドハントの間を精悍な体躯が遮った。傍らの小さな竜が先に振り返り、ひとつ瞬きをする。続けた振り返った主は、大きな声でこう告げる。
「待たせたな」
 八崎・伶(放浪酒人・e06365)は爽に笑いかけ、ヒールドローンを展開した。
「込み入った話は後だ。……あれが爽の暴走した姿か、そうか……どうしてああいった姿になったのか今度詳しくな」
 ワイルドハントと爽を見比べ、伶はうなずいた。
「目標捕捉。戦闘を開始する」
 冷静な声で言い放つのは、ガーネット・レイランサー(桜華葬紅・e00557)。耳のあたりからアンテナが起き上がり、ゴーグルが装着されれば、赤い瞳が輝き始める。ガーネットの放ったドローンが、前衛の防備を高めてゆく。
「誰一人白馬には乗っていないが助けに来たぞ」
 ガーネットが爽を見遣ると、ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)も大きくうなずいてにかっと笑った。
「ぶっ倒れては……いないようだな、安心したぜ」
 両手のガントレットを打ち鳴らし、ライラットはワイルドハント目がけて駆け出してゆく。だが、拳は空を切る。
「くそっ、流石に早いな……!」
 舌打ちひとつ、ライラットはワイルドハントを睨み付けた。直後、ボクスドラゴン「焔」のブレスがワイルドハントを狙う。
「わわ、危なーい☆」
 ひらりとかわし、ワイルドハントはくすくす笑う。
「……大丈夫か。……お前、女になりたいのか?」
 無表情で爽とワイルドハントを見比べるのは、ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)。
「爽……とは無関係の存在か。なら遠慮なく戦らせて貰おう――縛り、逃さず、絡みつけ」
 ゼノアの袖口から、何かが蛇のように飛び出す。しかし、ワイルドハントはそれすらも交わし、かわいらしく微笑んでいる。
「わ、今のは危なかったよ!」
 余裕でスカートの端をつまみ上げるワイルドハント。を、不可視のものが鷲掴みにする。
「っ!?」
「……さや、しんぱいしてた、よ」
 ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)の放った御業だ。
 その隙に、ルーニア・リステリアス(微睡はいつまでも・e37648)が自身をオーラで包み込む。さらに、スズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567)がロナへと魔法の木の葉を纏わせる。
「これだけ違うと間違えて攻撃とか有得なくて楽ね」
 スズネは肩にかかった髪を払い、爽を見た。
「……あと少し来るのが遅かったら、自分の身体使ってでも派手に暴れようかと思ってたぜ」
 仲間の顔をひとりひとり確認し、爽は呼吸を整えた。

●共に戦う者
 ワイルドハントの動きは、速い。仕掛けてくる攻撃は勿論、回避の速度も。後衛の高命中率を誇る攻撃が届くのが、やっと。
 受けた傷をそのままに、ライラットはワイルドハントへと肉薄する。
「そろそろ……喰らえやっ!」
 声を張り上げ、拳を叩きつけようとする。ジェットエンジンで加速した拳の速度は十分、載せた重さも十分。
 だが、それ以上にワイルドハントは未だ素早い。全員の攻撃が当たる程には、動きを阻害切れていない。
 戦闘開始から数分が経過し、ガーネットは何かに気付いたようにワイルドハントを凝視した。
「性別爽か」
 なるほどと一人納得し、爽の反応も待たずに背面と腕のブレードを分離する。
「全ブレード、パージ。…目標の足を止める!」
 ブレードは、ワイルドハントへと射出される。射出は一度ではなく、何度も。ブレードがガーネットに戻るや否や、如意棒を手にした伶がワイルドハントの背後に回りこむ。
「暴走した姿も色々あるもんだな。……まあ、爽本人が暴走したってヤツじゃなくて良かったぜ。それに、自分で自分の暴走した姿を見るなんてレアケースだろうしな」
 言いつつ、ワイルドハントの羽の間から如意棒を撃ち込む。
 ワイルドハントの見た目は、爽とは異なる。だからこそ、攻撃は遠慮無くできるというものだ。とはいえ、流石に顔は避けるのであった。
 焔が箱に入り、ワイルドハントへと体当たりをしようとする。が、まだ届かない。
 それでも、攻撃を止めるわけにはいかない。ゼノアの装着したエアシューズ「黒猫のイリス」が、モザイクの地面を摩擦して炎を纏い始める。
 しなやかに跳躍し、ゼノアはワイルドハントに炎を叩きつけようとする。やはり回避するワイルドハントの動きは、それでも鈍り始めている。
「……此処を調べられるのがそんなにも不都合か?」
 ゼノアは目を細め、ワイルドハントに問う。
 ルーニアも首肯し、拳を叩き込もうとワイルドハントの正面に回りこんだ。
「ワイルドスペースを使って何を企んでいるのか……気になるところだな」
 しかし、と踏みしめ、ルーニアは拳を撃ち込む。
「が、まずは八剱の援護が第一だ、気をつけないとな」
「そう、だね……」
 ルーニアがワイルドハントから離れたのを見て、ロナがドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出した。
 爆音と爆風が、ワイルドハントを包み込む。息を吐き、ドラゴニックハンマーを降ろすロナに、紙の兵が降りそそぐ。
 スズネの繰り返していた紙兵の散布、それによる耐性の付与がこれで終わった。
「ワイルドハントと戦うのは2回目となるけれど、前と違って全くの別人みたいね」
 スズネが言い切ると同時に、翠の色を孕んだ風がライラットを上方包み込んだ。
「遠距離からの攻撃……イライラすんなっ! 正面からかかってこいや!!」
「ええ? そんな柄じゃないから、無理だよ☆」
 ライラットの激高に、ワイルドハントが首を傾げて返す。
「ぶりっ子キメェ」
 凶暴な笑みを浮かべ、爽が魔術陣を顕現させた。『【鉱石回路術式】輝石星雨』は、爽の持つ陣式すべてを顕現させる技だ。
 色鮮やかな厄災を受けたワイルドハントの顔から、余裕の笑みが消えてゆく。

●由来
 ゼノアの振りかぶったドラゴニックハンマー「黒猫すてっぷ」。重く、速い振り下ろし。
 開戦当初ならば確実に回避されたグラビティが、いま見事に叩き込まれる。
 ゼノアの動きに合わせ、黒猫ウェアの耳が大きく揺れた。
「お前らが何故ケルベロスに関係する姿をしているのか……お前は、この空間で生まれたのか」
 ワイルドハントは答えない。ただ受けた傷を、ケルベロスを交互に見るだけだ。
(「……じぶんが、ぼうそうした……すがた、みるのって……どんなきぶん、だろ。わたしは、どんなのかしらない、けど……」)
 少しばかり首を傾げつつ、ロナは意識を集中し始める。
「「わたし」は言いました。浄化の光からは逃れられない。「わたし」はあなたに、永久の眠りを与えます」
 うっすらとした伝承奇譚ふたつを脳裏に、ロナが言葉を紡ぐ。
 放たれる魔力、その閃光の出力は高く、回避行動を取ろうとするワイルドハントを執拗に追いつめてゆく。やがて閃光が弾け、ワイルドハントがモザイクの壁面に背を打ちつけた。
「……しっかり、しないと、ね……」
 過剰な魔力の消費によろめきながら、ロナは踏み止まった。
 ロナのグラビティを受けて呻くワイルドハントに、ガーネットが高速移動で迫る。
「逃さん」
 手にした惨殺ナイフの刃が禍々しい形状となり、ワイルドハントに深い傷を与えた。
 ルーニアの御業も、確かにワイルドハントを拘束する。
「因縁がある人が惹かれるようだけれど、彼らはワイルドスペースで何を行っているのかしら?」
 逃走する素振りをみせるでもないワイルドハントを横目に、スズネは魔法の木の葉をライラットの周囲で巡らせた。
「だよなあ。それに、これ本当に爽の暴走した時の姿かよ? 全然面影ねーな。そんな姿になって何企んでんだよ?」
 ライラットの掌から、竜の幻影が放たれる。炎に包まれたワイルドハントのシルエットから、いくつもの蒼の矢が撃ち出された。矢はゆるやかな弧を描いた、と思いきや、凄まじい速度で落ちてくる。
 矢を受けながら、伶はワイルドハントの腹部へと拳を叩き込んだ。
「その姿を選んだことを後悔させてやるぜ」
 暴走時の姿とはいえ、あまりにも別人。攻撃に躊躇はない。それは焔も同じようで、命中するようになってきたブレスを遠慮無く放射する。
 ワイルドハントの傷は相当。だが、ケルベロスとて無傷ではない。
 爽は惨殺ナイフ「Corundum Nagel」を抜き、ワイルドハントへと向ける。
「ワイルドハント、その姿で現れてくれてサンキュー」
 刀身に、ワイルドハントが映る。
「アイツの面一回殴りたかったから、ニセモンでもそのチャンスが巡ってくるなんてすげー嬉しい」
 だからこそ、これまでの攻撃はまるで容赦なく。もちろん、これからも。
 刀身に映るトラウマに、ワイルドハントの表情が、引きつる。
「その面殴れるなんて、サイッコーにハイだぜ!」
 叫び、爽はナイフを大きな動作で収めた。

●消えるもの
 序盤で手こずったためか、戦闘は存外長引いていた。
 伶もヒールへと回り、仲間を援護する。
「包めよ、長月」
 伶に応え、絹糸のような月光がルーニアを照らした。そのまま腕の傷が優しく包まれ、消えてゆく。
 焔のタックルでワイルドハントがよろめけば、その先を予測したゼノアが蹴りで炎を灯す。
「遅い」
 ゼノアの立ち位置の反対から、ガーネットが同じく炎の蹴りを叩き込む。炎は止まず、ロナの御業も炎弾を放ってはまたひとつ炎を増やす。
 ルーニアも畳みかけようと、ワイルドハントの足元から溶岩を噴出させた。
「回復は任せて、攻撃に専念してね」
 スズネが柔らかな笑みを浮かべ、皇大神の寵せし甘味を分け与える。

「今度は外さねーぞ」
 ライラットが八重歯をのぞかせて笑い、ガントレットを装着した右手でワイルドハントを引き寄せる。すぐさま反対の手で背面に打撃を与えると、ワイルドハントはもがき、ケルベロスたちと距離を取った。
「こんな奴らに……やられるなんて……でも、まだだよ!」
 ワイルドハントが、何度目かの紅の光を放つ。しかしその軌道は精彩を欠き、ルーニアは難なく回避した。
「……ぼちぼちだな。爽、お前が決めろ。利用された分の礼をして来い」
「引導を!」
 ゼノアとガーネットに促され、爽は無言で頷く。
「テメェは彩じゃねぇのは百も承知だが、その姿である以上、俺はお前を拒絶する。ここで消えろ、ワイルドハント」
 身につけた鉱石を媒介にして、魔術陣を喚ぶ。鉱石を砕いた顔料で描かれた魔術陣は、すべて極彩色。
「終点は俺の示す先。さ、行ってきな」
 爽が静かに指したのは、ワイルドハント。少女の顔は一瞬無表情になり、次いで諦めたような笑みが見えた。
 その笑みも、鮮やかな色彩の厄災に消されてゆく――。

「……目標の殲滅を完了。……状況終了」
 静まりかえった空間を見渡し、ガーネットが宣言した。
「いやー、啖呵切って誰も来なかったらどーしよーかと……ホント、ありがとな」
 坑道の中で、爽の声が響く。
「当たり前じゃねぇか」
 笑い、伶は煙草をふかした。
「助けるなんて当たり前だし、照れくさいっつの」
「とりあえず、無事で何より。では――」
 ガーネットが周囲を確認すると、モザイクの空間は崩れて消え去った。
「……ケルベロスの暴走時の姿……浮遊する物品……グラビティチェインの指向性が不安定、ということなのか」
 ただの坑道に戻った空間を見上げ、ゼノアがつぶやく。
「いろいろ持ち帰ろうと思ってたけど……これじゃ無理、だね……」
「観察する間もなかったわね。残念だわ」
 ただの坑道に戻った空間を見て、ロナとスズネがため息をついた。
「私もグラビティを撃ち込んでみようと思ったんだがな、これではな」
「時間はあるが、これじゃ調査のしようがねーな。爽も無事なことだし、帰るとするか」
 ライラットが頭の後ろで腕を組み、帰投を促す。
 仲間と共に、爽は坑道を抜けてゆく。落ちた鉱石ひとつを広い、やがて地上に到着する。
 握りしめた石は冷たく、日の光は温かかった。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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