鎌倉ハロウィンパーティー~忘れられた童心

作者:藤宮忍

●happy halloween
 街はハロウィンの演出に彩られている。
 何処のショーウインドウを覗いても、カボチャやお化けのデコレーション。
 衣料品店も雑貨屋もお菓子屋も、飲食店もコンビニもスーパーも。
 お客を呼ぶ店舗は勿論のこと、病院や役所まで窓口がハロウィンに飾られている状況。
「ハロウィン……て、何だ。クリスマス並みに知名度上がってンのな」
 まぶしい朝日に眼を細め、ぼやく青年はショーウインドウの硝子を覗き込む。
 硝子に映り込むのは自分と背景だけ。
 綺麗に着飾った姿、仕立ての良いスーツに整えた髪、ピアスに指輪。
 仕事明けのホストの疲れた顔が映っている。
 周辺の店は開店前で、通勤時間帯にも少し早い、早朝の時間に。
 夜の仕事を終え、帰途につく途中に足を止めたまま。
 無言で眺める瞳は醒めている。けれど、どこか、もの寂しい。
 その時、――ふわりと風が流れた。
 街を映していたショーウインドウに、赤い頭巾の少女が映り込む。
 青年の、背後に。
「……!」
 眼を瞠って振り向いた青年の胸を、赤い頭巾の少女は手にした鍵で貫く。
 鍵が、心臓を突いた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 鍵は心臓を突いたが、鼓動を止めたわけではなかった。
 青年はその場に、意識を失って崩れ落ちる。
 赤い頭巾の少女、ドリームイーターに夢を吸い取られて。
 そして少女は、彼の心の奥に隠れた夢を具現化する。
 倒れた青年の隣に佇むモザイクの人影は、子供の背丈でカボチャを頭に被っていた。
 ドリームイーターはふわりと掻き消える。
 ショーウインドウに映っているのは、気を失っている青年ひとりきり。
 
●依頼
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)が調査してくれたのですが、日本各地でドリームイーターが暗躍しているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が事件を告げる。
 出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭に対して何らかの感情を抱いていた人間で、ハロウィンパーティの当日に一斉に動き出すようだ。
 ハロウィンドリームイーターが出現するのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティ会場、つまり鎌倉のパーティ会場となる。
「皆さんには、実際のハロウィンパーティが開始する直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいのです」
 そう言って、セリカはケルベロス達を見渡した。
「ハロウィンドリームイーターは、パーティが始まると同時に出現します。なので、本物のパーティが始まる時間より少し早く、あたかもハロウィンパーティが始まったかのように、楽しそうに振舞えば、誘い出すことができると思われます」
 実際のパーティより先に、囮のパーティを演じる。
 そしてドリームイーターが出現したところで、実際のパーティが始まる前に撃破してしまえば良い。
「どのように楽しそうに振舞うか、も考えておくとスムーズに行くでしょう」
 それから、とセリカはドリームイーターの特徴を告げる。
「仕事に疲れた青年が、遠い昔に忘れてしまった純真な少年の心から生まれた、ただ純粋にハロウィンを楽しんでみたい想いが具現化したドリームイーターです」
 モザイクを飛ばしてくる単調な攻撃が多いようだとセリカは説明する。
「ほなら、俺もいこか。任務終ったらパーティの飯食ってええんやろ?」
 真喜志・脩(ドラゴニアンのガンスリンガー・en0045)が同行に名乗り上げる。
「楽しいハロウィンパーティのためにも、ドリームイーターを撃破しましょう」
 ヘリオライダーは、ケルベロス達をヘリオンへと案内する。
「それでは皆さん、よろしくお願いいたします」


参加者
篁・悠(黄昏の騎士・e00141)
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
天津・千薙(天地薙・e00415)
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
芥河・りぼん(刀魂リサイクル・e01034)
古峨・小鉄(勇敢な救助者・e03695)
龍神・機竜(百グラム七十二円・e04677)
月日貝・健琉(紅玉涼天・e05228)

■リプレイ

●偽装ハロウィンパーティ!
 ヘリオンで鎌倉のパーティ会場へとやってきたケルベロスたち。
 本物のハロウィンパーティが始まるまでは、まだ時間がある。
 一般人の参加者はまだ居ないようだ。
「パティの秘蔵菓子『埋蔵金最中』取って来たん♪」
 頭に箱を乗せた古峨・小鉄(勇敢な救助者・e03695)が、会場に入るなり風船を投げながら、怪獣のきぐるみ姿でぽてぽてと走り回る。
 持ってきた南瓜の風船がいっぱい、会場のあちこちでぽんぽん跳ねている。
「パティの秘蔵のお菓子を持って来たとはどういう事なのだ!」
 ヘリオンから降りた直後、小鉄に詰め寄ったパティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)は、小鉄を追う。
「パティの埋蔵金最中を返すのだ! 待たぬかーッ!」
 勝手に秘蔵のお菓子を持って来た小鉄に、パティは怒っていた。
 白兎の耳をぴょこぴょこ揺らしながら全力で追うパティの手に、掴まり掛けては、くるっと華麗に回避して、その場でジャンプする小鉄。
 南瓜の風船がぽんと飛ぶ。
「パティの菓子は皆が食べたい高級菓子じゃもん。パーティの皆で食べたいん」
 だから持ってきた、主張する小鉄。
 ボクスドラゴンのおっとりお花ちゃんは、おなじくボクスドラゴンのジャックと共に楽しげにダンス。双子のように見える仮装もしていた。
「えぇっ? パティ様の秘蔵のお菓子!? それはわたくしも欲しいですわ!」
 小鉄とパティの二人に、シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)がにっこり笑顔で近づいていく。
 白いドレス姿で差し出すのは、大量の抹茶シュークリーム。
 説明しよう。これは『抹茶シュークリーム・ロシアン』である。
 アタリは美味しい抹茶クリーム入り。
 ハズレはたっぷりわさびクリーム入り。
「この抹茶シュー・ロシアンで勝負をつけてはいかがでしょう?」
 シエルの提案に、小鉄とパティは興味津々。
 どうぞ♪と差し出す抹茶シューをひとつずつ手に取って、ぱくり。
 シエルは、にこにこ反応を見守っている。
「?!」
「ぶほぉっ」
 パティは噎せた。小鉄の顔も青ざめた。
「かーらーいーーっ!?」
 パティがじたばたして、小鉄が悶絶する。
 そんな間に、秘蔵の菓子の行方や如何に?
「当るも八卦、当たらぬも八卦、皆様も運試しにいかがですか?」
 みんなに抹茶シューを勧めるシエルが、微笑んだ。
「あ、秘蔵のお菓子はわたくしが預かっておきますわ!」
 月日貝・健琉(紅玉涼天・e05228)は、パティたちの楽しげな(?)声を聞いてシエルに歩み寄る。猫のきぐるみ、ニヤリと笑う笑顔のマスク。
「こういうのは、如何に楽しむかが重要、と学習しました」
 敵が現われるまでは、わいわいと騒ぐのが良いだろう。
 シエルが差し出す抹茶シュー・ロシアンを、健琉もひとつ、貰って食べる。
「抹茶、美味しいですね」
 健琉はマスクをしたまま、器用に抹茶シューをもぐもぐ食べる。
 どうやらアタリの方だ。

 篁・悠(黄昏の騎士・e00141)は持参してきた料理を並べる。
 ピザを数種、南瓜のモンテビアンコ、ティラミス、スコーン……等々。
 ブラフ用とはいえ、手抜きなしの出来栄えだった。無事に任務を終えた後に、ゆっくり食べれば良いし。
 本来のパーティ用にあらかじめあった料理に加えて、一層豪華なテーブルの上だ。
「逡巡なしで色々作ってきた。これぞ不退転」
 白いタキシード姿の悠は、赤い薔薇の飾りつけたシルクハットを被りなおし、やたらと賑やかな抹茶シュークリームロシアンに興じる面々を興味深げに見守る。
「おお、旨いわ」
 真喜志・脩(ドラゴニアンのガンスリンガー・en0045)が、ピザを一切れ、ひょいとつまんで食っていった。出しっぱなしの角としっぽを示して、これが仮装ですと主張する。リボンを角に巻いただけの手抜き加減。そして美味しそうに料理をつまんで食べ歩いている。
 皆が仮装して偽装パーティに興じる最中、会場の壁際に、動かぬ甲冑があった。
 一見するとオブジェのようだ。
 目立たず、突っ立っている。
 ……ぎし、と少しだけ動いた。
 甲冑のなかには、龍神・機竜(百グラム七十二円・e04677)が隠密気流を使用して入っている。
 勿論、敵が出現した際に、奇襲を仕掛ける為だ。
 その甲冑の前を、少女が二人通り過ぎる。
「やっぱり、ウチの苦手なかわいい系やった……」
 ふりふりドレスに身を包み、無表情で呟くのは、真澄。
 パーティを盛り上げる為、半分はノリで仕方なくという感じに着たのだろうか。
「……これが終わったあとが怖いんだねぇ」
 ドレスを用意した二夜は、隣でひっそりと呟く。

「うにゃーうにゃー、俺に返してくれじゃ」
 小鉄はシエルに、秘蔵の菓子の返却を求める。
「パティのお菓子なのだ!」
 そしてパティがまた小鉄を追いかける。
 テーブルの合間を走り回り、風船がパンパンと幾つも割れた。
「こらー! いたずらばっかり!」
 芥河・りぼん(刀魂リサイクル・e01034)が追いかけて、割れた風船を片付ける。
 逃げる怪獣、怪獣を追う白兎、その白兎を追うりぼんはプリンセスモード、足元がドレスのひらひらで走り辛い。
 ジャック・ランプがパティに合流して、一緒に風船を割りまくる!
「とりっくおあとりーとだぞっ」
 ロロットは白いワンピースに赤いハートのマークで、ハート型のシルクハットを被り、兵隊風の姿。両腕にお菓子をたくさん抱えて、もぐもぐ食べている。
「Oh, Yeah!! 皆、盛りあがってっかー?」
 アリスはギターを手に、椅子の上に立つ。
 奏でるアップテンポのハロウィンソングが、会場内を賑やかに演出する。
「お菓子ばっかり食べないの!」
 りぼんが加速する。逃げる方も加速する。
 壁際で静かに佇んでいた甲冑が、床に座り込んだ。
「疲れた」
「???」
 りぼんが振り返ると、甲冑は普通に立っている。りぼんは首を傾げながら、追いかけるのを続行する。

「ふふっ、皆さん、本当に可愛らしいです」
 天津・千薙(天地薙・e00415)は黒いドレスに黒い猫耳のカチューシャをつけて、紅茶を淹れる。会場の一角は、お茶会の風情になっていた。
 用意してきたクッキーやブラウニー等のお菓子は、手作り。
「えへへ、なぎねぇ、おいしいねぇ」
 千薙の膝に乗ったルピナスが、クッキーを食べてにっこにこの笑顔。
 いつものうさみみフードに、蝶ネクタイとチョッキで、お茶会に参加。
「いたずらとお菓子。さぁ、甘くとろけるようなパーティの始まりだよ」
 王様姿の刻は、千薙に、お菓子をひとつつまんで差し出した。
 はい、あーん。と、食べさせ合うふたりは、王様と女王。
「おや。マカロンがございますね?」
 ジャック・スプモーニが、大量のマカロンに気づく。
 刻が持ってきたものだが、幾つかはわさびが入っている危険なお菓子だった。
「なぎは食べちゃダメだよ」
 刻が言う。
「ノンアルコールのパンチボウルは如何でございますか?」
 ジャックが飲み物を勧める。
「お菓子だぁ♪」
 ルピナスが喜んでマカロンに手を伸ばした。
 ――その時だ。

「ハロウィンパーティ! たのしいたのしいハロウィン! ぼくも仲間にいれてよ!」

●夢喰い少年
 カボチャ頭のモザイク少年は、風船をひとつ、パァンと割った。
「いっくよー! どきどきわくわくたのしいハロ……わあああ!」
 甲冑から飛び出してきた機竜のスパイラルアームが、モザイク少年を捕えた。アームがモザイクを裂く。奇襲成功だ。
 機竜が隠れていた甲冑が、ガシャンと倒れた。
「人の抱く寂しさを利用し、その思い出を踏みにじり、あまつさえ復興への願いすら葬ろうとする……天はそれを許しはしない! その卑劣な意志、人それを「悪意」という!」
 悠は、神雷剣を構えて敵を見据えた。
 その傍ら、健琉が呟く。
「定義:自宅。続行」
 心の区切りをつけ、敵の攻撃に身構える。
「癒しの『ケルベロスハロウィン』、邪魔させません」

「パーティだね! パーティだね!」
 敵はモザイクを、巨大な口に変えて悠を飲み込もうとする。
 モザイクの口と悠の間に、千薙が割り込んで攻撃を受け止めた。
 モザイクの牙は悠ではなく、千薙のバトルガントレットに喰らいつく。
「あの子達はなぎが守ります。絶対に、絶対に……」
 誰も傷つけさせまいと、千薙が敵の前に毅然と立つ。
 敵を倒して、本物のハロウィンパーティをする為に。
「咲き乱れる真紅の園を征く疾風よ、舞い散る花をその身に纏て天へと翔んで、駆け抜けよ。世界を鮮やかに彩らんが為に!」
 悠が詠唱する。
 真紅の薔薇の花吹雪が、敵を包み込んだ。色鮮やかな花の、氷の牢獄。
「咲き乱れる極彩の中に散り逝け! 繚乱たる薔薇園征く疾風―――ッ!!」
 花吹雪の中、敵の腕は凍りつく。ぶるぶると震えて悠から離れた。
「毎日仕事お疲れ様じゃ」
 小鉄のバスタービームが、モザイク少年を、氷の牢獄ごと魔法光線で撃ち抜く。
「わあああ!」
 カボチャ頭のモザイク少年が、ぴょんぴょんと走り回って風船を割っていく。立ち止まると、再びモザイクの口を作り出した。
 大きなモザイクの口は、機竜にがぶりと噛み付く。
 パティは、気力溜めで即座に傷を癒した。
「友達いっぱい参加のパーティーは楽しいです! でも! こんないたずらはだめです!」
 りぼんが少年を追って、達人の一撃を放った。
 氷を伴う斬撃が、モザイクを斬る。
「だってだって……!」
 モザイクの破片が飛び散った。
 シエルのペトリフィケイション。古代語の詠唱と共に魔法の光線を放てば、モザイクの一部を石化する。
 続けて健琉が大器晩成撃で、石化の箇所に氷の魔法を叩き付ける。
「ひゃあああ冷たい!」
 カボチャ頭をぶるぶると震わせ、敵は両腕を掲げた。
 モザイクを飛ばして健琉を包み込み、知識を喰らう。
 刻がスターサンクチュアリで援護する。足元に描いた守護星座が光る。
 また走り出した敵を追って、悠が絶空斬を放つ。
 空の霊力を帯びた武器が、モザイクの傷跡を的確に斬り広げる。
 小鉄は会場の被害を抑えるべく、射線に気を使いながらフロストレーザーを放つ。発射された凍結光線は、敵の足元を凍らせた。
「うわああっ」
 あちこち凍りついた敵は、よろめいて立ち止まる。
 カボチャ頭をふらふらと揺らしながら、小鉄に向けて放つモザイク。
 モザイクが小鉄を包み込もうと、して。
 咄嗟に千薙が、攻撃の前に立ち、肩代わりする。
「あの子たちに手は出させません。……あなたは、私だけ見ていればいいんです」
 家族のように大切に思うハロウィンプロジェクトのメンバーが傷つくのは、赦せない事。
 仲間は、全力で守る。
「私だけを見ていればいいんです。ずっと、ずっと……」
 千薙が攻撃を繰り出す。狙う位置もタイミングもすべて的確に。古武道を用いた格闘形式の攻撃手法で、攻撃と同時に魔力を流し込む。その魔力が、敵の精神を徐々に蝕んでいく。敵の意識をかき乱す、天津の奥義、天津七技・蝕。
「回復はわたくしにお任せくださいませ!」
 シエルは脳髄の賦活を詠唱する。
 千薙を癒して、同時に常軌を逸した強化を施した。
「うううう……ぼくも遊びたいのに!」
 モザイク少年が千薙を睨む。
「あの子たちを傷つける悪い方には、強くお仕置きをしないといけませんね」
 攻撃の手を緩めず、千薙は敵を見返した。

「さて……ここは何としても勝たなくては」
 何しろ鎌倉に自宅がある健琉は、デウスエクスの思い通りにさせるわけにはいかない。
 コアブラスターでエネルギー光線を放ち、モザイク少年の頭部を撃った。
 カボチャ頭がぐらりと傾く。そこを狙って、脩もリボルバー銃を一発。
「料理は! 守るぜ!」
 テーブルの上の料理をディフェンダーとして死守していた。
 勿論仲間を守ることも忘れていない。
 敵を追い詰めた千薙の旋刃脚が、急所を貫く。
 機竜がそれに並ぶ。放たれたフォートレスキャノンが、モザイクを破壊していく。
「ひいいっ! ハロウィンなんて……!」
 敵はモザイクで、巨大な口を作り出し、機竜に喰らいついた。
 怒りを覚えた少年のモザイクは、鋭い牙となって噛み付く。
「対象を確認。行きます」
 健琉の両手の上。ホログラムの海、そしてその海に半分浸かった紅い満月。
 ホログラムの海と月から、碧と紅の弾が連続で発射される。
 敵に痛みを、機竜に癒しを。
 パティがウィッチオペレーションで癒しの力を重ねてかける。
「来いバトルドラゴン! 一気に決めるぞ!」
 機竜のライドキャリバー、バトルドラゴンが従う。
 バトルドラゴンは大剣の形へと変化して、それを機竜が振るう。
「一刀「竜」断ってな」
 敵の腹部を、ばっさりと断つ。悶絶の悲鳴。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するのだ!」
 パティの周りに幻想の光景が浮かぶ。背後に立つのは大鎌を持つジャック・オー・ランタンの幻影。大鎌を振り上げる。
 パティの武器も2倍の大きさになった。
「トリック・オア・トリート、なのだ!」
「いやだ! お菓子なんか、無い!!」
 反抗的に叫ぶモザイク少年を、パティと幻影が両断する。
「成敗ッ!!」
 悠の旋刃脚。電光石火の蹴りが急所を貫く。
 カボチャ頭がよろけて傾いた。
「ドリームイーター! あなたのモザイク! 叩き割ります!」
 りぼんの拳がバトルオーラの魔力を纏い、垂直に落とされた。
 ガン、と重い衝撃と共に、少年の全身のモザイクがびりびり震える。
 そしてゆっくりとその場に崩れ落ち、動かなくなった。
「定義:自宅続行……。戦闘終了」
 静かになった会場に、健琉が呟く。
「……これで終わり、ですね。では、パーティの再開といたしましょう」
 千薙の声が告げる。
 動かなくなったドリームイーターは、カボチャ頭の唯の人形と変わり果てる。
「さあ!今度はあなたも一緒に楽しみましょう! 不思議で楽しいハロウィンパーティーの始まりです♪」
 カボチャ頭の人形に、りぼんは手を差し出した。
 被っているカボチャの顔は、笑っているように見えた。

●本当のハロウィンパーティ!
 会場内の被害は最小限に抑えられたが、ヒールで修復した箇所はファンタジックに変わっており、幻想的な雰囲気がより一層ハロウィンらしさを演出していた。
 夢喰い少年はその幻想的な会場の片隅で、人形となって飾られている。
 唯の人形で、飾り物以外の何物でもない。
 けれど少年の姿をしたものは、一緒にハロウィンパーティを楽しんでいるように見えた。
 これが本物のハロウィンパーティ。
「こちらが本命か。まぁ、楽しませて貰おうか」
 悠はゆっくりと会場を眺めて、パーティに混じる。
 ぼちぼちと一般の来客も姿を見せており、賑やかさが増してきた。
「いいことを思いつきましたの♪」
 シエルは、積み上げられたマシュマロタワーを見て、悪戯っぽく微笑む。
 秘蔵のお菓子である最中の上に、マシュマロタワーを作って、残った最中をこっそり隠そうと企てた。
 大量にあったマシュマロで最中はすっぽりと隠され、マシュマロタワーが出来上がった。
「~♪」

「なぎー!」
 お茶会を再開する千薙たちへ手を振りながら、パティはまた走り回っていた。
 ピザやお菓子を食べまくる。
 途中で転んでは、ポケットに詰めていた辛いお菓子をばら撒いた。
「おっ、落ちたでー……むぐっ」
 拾い食いをした脩が、噎せてしまった。
 楽しげに笑って、パティはきょろきょろする。
「そういえば、埋蔵金最中はどこへ消えたのだ……」
 小鉄を見るが、行方は知らぬと首を振る。
 よくよく見渡していると、積み上げたマシュマロタワーを発見する。
「マシュマロタワーって遊びあるん初めて知った」
 小鉄がタワーに手を伸ばす。
「おお♪ 焼きマシュマロにすると美味いのだ。一気に焼いてしまうのだ♪」
 パティは嬉々としてマシュマロタワーに火をつけた。
 マシュマロは、香ばしく甘い匂いを漂わせる。
 とてもとても、美味しそうだ。
 だが結構な勢いで燃えていた。
「……お、おおお!? や、やばいのだ! 燃えておる……」

「千薙様のクッキー、美味しいですわ!」
 お茶会に混じっていたシエル。
「では、もういちど挑戦してみましょう」
 健琉が抹茶シューをもうひとつ、口へ入れる。
「ぐ、ごほっ、きっつ……」
 やはり器用にマスクをしたまま。だが今度はわさびだった。涙目。
「みーんなとあそべるの、たのしいのっ」
 ルピナスはにっこにこ。
 賑やかに楽しんでいると、焼ける匂いがしてシエルは振り向いた。
「まぁ、パティ様ってば豪快ですわ!」
 マシュマロタワーは燃えていた。めらめらと燃えていた。
「……あら? もしかして、埋蔵金最中も一緒に燃えてます?」
 勿論のこと、マシュマロと一緒に燃えていた。
「最中っ?! わーんパティのあほーっ!」
 小鉄は燃えるマシュマロタワーを眺めて叫んだ。
 パティと仲直りしようと思って、わたあめ持って来たけれど。
 小鉄はパティをじいっと見る。
「じ、時間なのだ! 遅刻しちゃうからパティは帰るのだ!」
 パティは白兎らしく、わたわたと走り出そうとする。
「時間だじゃないでしょ! パティうさぎさん!」
 りぼんが逃がすまいと確りとパティを捕まえた。
「燃えてますよ! 火傷したらどうするんですか!」
 パティはじたばたする。
「離すのだーっ!?」
 楽しい楽しいハロウィンパーティは、まだまだこれから。

 

作者:藤宮忍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 8
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