秋に転がる巨大イガイガ

作者:天木一

「わー栗がいっぱいだー!」
 少年がはしゃいで立派な栗の木が並ぶ山道を駆ける。足元には栗を包むイガイガがあちこちに落ちていた。
「よーしいっぱい取るぞー!」
 立派な栗の木に体当たりするようにして揺らし、イガイガを落とす。
「えーっと、チクッとしないように、こうやってふんづけてー」
 長靴を履いた足で挟むように踏み、真ん中から割れて栗の実が姿を現す。
「やったー栗ゲットーだよー!」
 嬉しそうにぷっくりと大きな栗を取り出し、少年は満面の笑みを浮かべる。
「よーしこの調子で籠いっぱいに取っちゃうぞー!」
 コツを掴んだように少年は次々と栗を集めて籠を満杯にした。
「こんなものかなー、焼き栗にー、栗きんとんにー、栗ごはんー! 今日は栗三昧だー!」
 栗を使った料理を思い浮かべ嬉しそうに微笑む。
『ゴロゴロゴロゴロー』
 ご機嫌な声と共に山の上から巨大な落石。いや、よく見ればそれは6mはある巨大なイガイガだった。長い棘だけで簡単に人を貫通して殺してしまうサイズがあった。
「大きな栗!? こっちに向かって……うわー!」
 自分の方向へ向かってくる巨大イガイガから慌てて少年は逃げ出す。だがイガイガが圧倒的速度で迫り、少年に覆い被さってきた。
「わーーー! チクッとするどころか、死んじゃうよー!」
 わっと少年が飛び上がる。そこは真っ暗な自室のベッド。少年は寝汗を掻きながら悪夢から目覚めた。
「夢かぁ~。びっくりしたー。晩ごはんに栗ご飯食べたせいかなー」
 ふぅっと脱力した少年の胸に鍵が突き刺さった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 突如現れた魔女が刺した鍵を引き抜き、幻であったように忽然と姿を消す。
 少年は意識を失ってベッドに崩れ、その隣に巨大なイガイガが現れる。
『ゴロゴロゴロ―。美味しい栗にはトゲがあるー♪』
 ご機嫌な調子で歌いながら、窓と壁を突き破ってイガイガは夜の街へと転がり落ちた。

「もう秋ですよぅ。秋といえば栗ですよねぇ」
 過ごしやすくなったと、熊の姿をしたワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)はのんびりと窓から入る秋風を感じていた。
「第三の魔女・ケリュネイアが少年から『驚き』を奪い、ドリームイーターを生み出し事件を起こすようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロスに向け事件の詳細を話す。
「ドリームイーターはグラビティ・チェインを奪う為に人々を襲います。その前に敵を撃破し、そして眠ったままの少年を助けてもらいたいのです」
 今から向かえば被害者が出る前に到着でき、倒す事で少年を目覚めさせる事ができる。
「敵は巨大なイガイガの栗の姿をしています。そのトゲで刺し殺したり、体内で熱した栗を弾けさせて撃ち出したり、栗を食べて巣食う虫の幻を見せるといった攻撃をしてくるようです」
 見た目はただの大きな栗だが、そのトゲの殺傷能力た高い。気を付けなければ痛い目に遭うだろう。
「事件が起こるのは熊本県の住宅地で、夜遅くなので周辺に人は居ません」
 敵は少年の家の周辺道路をゴロゴロと転がっている。
「『驚き』から生まれた影響下、敵はまず出会った対象を驚かせようとするようです。その時驚かなかった対象を優先的に攻撃してきます」
 その習性を利用すれば最初に攻撃される対象をこちらで操作できる。
「もうすっかり秋らしくなって栗拾いのシーズンも始まりましたね。大きな栗となれば食べ応えもあるでしょうが、人を害するようなのは放ってはおけません。巨大栗を退治して少年を助けてあげてください」
 お願いしますとセリカが一礼し、ヘリオンの準備に向かう。
「秋らしい巨大な栗ですよぅ。一個で普通の栗何個分ですかねぇ。きっとお腹一杯になるほど栗が詰まってますよぅ!」
 巨大栗を想像したワーブは涎を垂らしながら獣の口を開ける。
「みんなで沢山いただきますよぅ!」
 秋らしい食欲に溢れたワーブがやる気満々で腕を上げると、ケルベロス達も秋の味覚を思い浮かべ、楽しみに思いながら出発の準備に取り掛かった。


参加者
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
ワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)

■リプレイ

●転がるもの
 日が落ちれば冷たく感じられる秋風の中、ケルベロス達は静まり返った街を進む。
「秋らしい敵だけど、クリか……」
 どうも栗と戦うイメージが湧かないと、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は首を傾げる。
「秋の美味しい風物詩デスガ、巨大になって人を襲うようではイケマセン。存分に味わい……もとい、討伐致しマショウ」
 栗というと食べるイメージが先行してしまうと、モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)は食欲を抑えて戦意を高める。
「栗はおいしいよねー。食べ過ぎちゃうのもわかるけど今度出る栗は大きいみたいだねっ。普通にちくちくして痛いのがおっきくなるとか危ないよねっ」
 栗の棘は普通サイズでも痛いのに、大きくなれば凶器にもなると東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は想像して痛そうに顔をしかめた。
「他に被害が出ないようにわたし達がおいしく料理してあげるよっ、ただとげとげばかりだしどうやって攻撃しようかなー」
 棘に刺さらずに攻撃するにはと頭を悩ませる。
「今回はぁ、外見からして痛そうなトゲトゲですねぇ。でもぉ、中身は栗ですよねぇ。今回の話だとぉ、中身の栗は調理済みなモノのようですけどねぇ」
 灰色熊の姿をしたワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)は栗の中身を思い浮かべる。
「あ、それならぁ、トゲトゲを剥がして食べれそうですねぇ。でもぉ、痛そうですよぅ……」
 食べてみたいが痛いのは嫌だなあと、マイペースにワーブはどうやって食べようかと考え込んでいた。
「見た目は巨大な栗……いやはや、先端恐怖症の者には辛いじゃろうのう」
 ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)は刃物のようなイガイガを想像して肩を竦めた。
「栗拾いって初めてです。トゲを取らないといけないんですよね?」
 雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)が栗拾いを楽しみにウズウズしていると、ファミリアロッドのカワウソも楽しそうにきゅっと鳴いた。
「さてぇ、今回はぁ栗ですけどぉ、どこから転がってくるんでしょうねぇ??」
 そろそろ目的の場所だとワーブが周囲を見渡す。
「おいしい焼き栗など気になる季節です。まー住宅街のど真ん中歩いてて焼き栗なんてあるわけないですね。ないですよね?」
 そんなフラグを立てながら板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)が道を進んでいると、その視線の先から場違いな巨大なイガイガを持つ栗が転がってきた。
『ゴロゴロゴロゴロー』
「……、おったー!?」
 栗の堂々とした登場に、えにかは思わず声を上げる。
「ゴロゴロゴロ―♪ ……いや、すまん! 耳に残ってな」
 ご機嫌に栗の転がるリズムを口ずさんでいたアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は、我に返り緩んでいた表情を取り繕う。
「大きな栗の木の下……じゃなくて、栗そのものでしたか。確かに、びっくりするほど大きいですね」
 雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)がイガイガを見上げる。
「……はっ! 駄洒落のつもりで言ったわけではないんですよ!? とにかく、例えどんなに美味しくても、人を傷つける危ない栗は放っておけません。わたし達で美味しく頂いちゃいましょう!」
 きっと大きな栗も美味しいに違いないと、その心は栗を食べることで一杯だった。

●イガイガ
『ゴロゴロゴロー。美味しい栗だよー♪』
 ケルベロス達の前で止まり、歌うように喋り驚かせようとする。
「Wow……処刑器具の様デス……」
 そのトゲトゲを見てモヱは処刑に使う道具を連想して、無表情のまま後ずさって驚きを表現する。
「大きな栗の木の下……じゃなくて、栗そのものでしたか。確かに、びっくりするほど大きいですね」
「まずは栗が暴れないようにがっちりホールドしましょう、暴れられると怪我をしてしまいますからね」
 もう待ちきれないと、しずくは植物の蔓を伸ばして絡ませ栗の動きを封じていく。
「大きいっこれに刺さったら怪我じゃすまないよっ!」
 棘を見た苺はビクッと恐怖心に震えるのを堪え、仲間の前に立つ。
「マカロンはディフェンダーお願いだよっ。とげとげは痛いかもしれないけどわたしと一緒にみんなを守ってね」
 隣のボクスドラゴンのマカロンに呼びかけながらその身にオーラを纏い、イガイガに大地を砕くような拳を叩き込んだ。拳は棘を折るが、無数の棘が腕に突き刺さる。マカロンがそこにブレスを浴びせて棘の先端を消し飛ばした。
「大きなクリだな……どんな見た目だろうと、人を害するというなら容赦はしない」
 ベルンハルトは霊子を核に光の鎖を生み出し、それに炎を纏わせ振り回して叩きつける。鎖は棘を何本もへし折った。
『驚かない子は、串刺しだよー』
 ゴロゴロと絡まる蔦を引き千切りながら栗が迫る。
「ところで6mの栗食べるのに8人で足りるんです?」
 間近で見た栗の大きさに、えにかはこの人数では食べきれないと思いながら、周囲に霧を生み出しその中で揺らめく不気味な炎で敵を包み込んだ。
「痛そうだしぃ、こっちで行くですよぅ」
 ワーブはガントレットを左腕に嵌めて振り抜いた。腕に棘が傷をつけながらも外皮に割れ目を入れた。
「ここまで大きな栗は初めてだな、どう調理したものか」
 驚くどころか逆に興味津々でアラタは敵を観察しながら、紅茶色の一滴に封じ込められた柔かな渋みを仲間達の口の中に広げ、その完璧に調和された味わいが体内を潤し活性化させていく。
「ん? これは驚いといた方がええのかのう?」
 大きくとも栗は栗だと達観したソルヴィンは首を傾げ驚く手筈だったと思い出し、大きく息を吸った。
「デカい! なんとういう巨大なイガクリじゃ! アメイジングマロン! わしもそこそこ生きておるがこんなにデカいのは見たことかいわい!」
 そして大きな声で驚いたとわざとらしく栗を褒め称える。
「……よし! 食うか! 栗は食べるに限る!」
 役目は果たしたとソルヴィンは周囲の物質を原子核未満まで分解し、生じたエネルギーを使って蒼白い光炎が放たれ大爆発を起こした。炎に巻かれ栗が黒く焦げる。
『火は危ないよー山火事になっちゃうよー』
 燃えながらゴロゴロと巨体が迫り、近くのケルベロス達をその槍のように長く鋭い棘で斬り裂いていく。苺は傷つきながらも棘を掴んで動きを止めた。
「栗食べたいなー。でもこんな怖い栗は食べられないよねー。でもおいしいらしいし気になっちゃう……」
 じーっと苺は栗を観察しながら、自らの生命力を高めて傷口に触れ治療を施す。
「当たったら痛そうデス、これで進路を塞ぎマショウ」
 杖を構えたモヱは雷の壁を生み出して栗の進路を遮る。そこへミミックの収納ケースは蓋を開けて棘を挟み折った。
「まずは棘を取らないと実が取り出せないですね」
 飛び込んだえにかは流体金属を腕に纏わせて殴りつけ、棘を一気に叩き折った。だが栗は回転してまだまだ生えている棘を向けようとする。
「よぅし、それならぁ、トゲトゲを剥がすですよぅ」
 ワーブは左手のガントレットで棘を掴み、塀に押し付けて拘束して力任せに引き剥がす。
「棘を何本折ってもたいしたダメージは無いみたいだな」
 敵の構造を見通したベルンハルトは棘をすり抜けるように光の鎖を振り抜き、硬い表皮を打ち破った。
「悪い奴では無いと思う、けど少年を放置は出来ないからな。お前をしっかりホクホクの焼き栗にしてやるっ!」
 続いて地を蹴ったアラタは炎を纏った回し蹴りを傷口に叩き込む。
「しっかりほっくり焼いてしまいましょう」
 更にしずくは竜の幻を呼び出し、吐き出す炎で栗を焼き始める。
『ぷしゅー焼き栗できちゃいましたーー!』
 傷口から覗く焼けた栗がパーンッと破裂音と共に飛び出し、砲弾のように撃ち出された。防ごうとしたアラタが吹っ飛ばされ、周囲のケルベロス達も着弾した栗の爆風に薙ぎ倒される。
「大きな栗で危ないからやっぱり武器で攻撃を捌かないと危ないよねっ。これはなかなか大変なんだよー」
 仲間に被害を出さぬよう苺は一生懸命に飛翔する焼き栗を蹴り飛ばしていく。その間にウイングキャットの先生は清らかな風を起こして癒しを与えた。
「栗のトゲも巨大になると油断デキマセン」
 モヱはアラタに触れ電気ショックで内部を活性化させて傷を癒す。
「きゃ! なかなか暴れん坊な栗ですね……。さるかに合戦に出てくるお猿さんになった気分です」
 しずくは砲撃する栗を止めようと植物の蔓を巻きつけ、周囲の電柱と結んで拘束する。
「気の抜ける相手だな……でも倒さないと」
 その隙にベルンハルトは鎖を伸ばして傷口から内部へ侵入し、纏う炎が伝い内部を燃やす。
「絵にかいた餅は食えない、夢の栗は持ち帰れない」
 良い事言ったとうんうんとえにかは頷き、ならばここで食べてしまうしかないと槍を棍を左右に持って振り回し、竜巻のように渦を巻いて目の前の棘を全て薙ぎ倒した。
「もう中の栗が食べ頃になってますねぇ!!」
 ワーブは右手の爪にグラビティを込めて振り下ろし、大きな切れ目を入れた。
 そこに腕をドリルのようにしてアラタは硬い皮に穴を空ける。そこからはホクホクの巨大な実が姿を現した。
「何て大粒の栗だ」
 ぱくっとアラタは割れて剥き出しになった子供の大きさ程もある栗の実を食べる。
「……おぉ!大味か繊維が硬いかと思ったが、ホクホクねっとり甘くて美味しい! 凄いな、これで栗きんとんとかマロンケーキ作ってみたいぞ」
 ベタ褒めでぱくぱくと食べていく。
「熱熱! しかし大きな栗じゃ……うむ、うまい!」
 焼けた栗の実を取り出すと、ソルヴィンも早速頬張って秋の甘味を味わう。
「さぁさぁもっとその中身を落とすのじゃ!」
 そしてもっと寄越せとソルヴィンは拳に炎を纏わせて殴りつけ、押し出された実を強奪した。

●焼き栗食べ放題
『栗が食べたいなら、たーんとお食べ―♪』
 食らえとばかりにパーンッと焼き栗が次々と撃ち放たれる。
「当たれば痛そうだ、当たればな!」
 ベルンハルトは鎖を電柱に巻き付けて宙へと跳んで躱し、上から鎖を振り下ろし叩きつけた。
「何気にぃ、この栗ぃ、自ら剥けてるんですよぅ。でしたらぁ、中身を食べるですよぅ」
 ワーブは棘を剥がし大きな栗の実を取り出す。
「ではぁ、いただきまぁす!!」
 そして剥き栗に大きな口でかぶりついた。
「手伝うよっ! 動きを止めるからがんばって食べてねっ」
 割って入った苺は飛び蹴りで地面に接地している棘をへし折り、敵の体勢を崩し動きを止めた。マカロンもタックルして押し留める。
「ちょっとくらい食べてもいいですよね」
 それを見て自分もと、えにかは霧と炎で敵を追い詰め栗を取ろうとする。だがそこからにょろんと現れたのは巨大な芋虫の幻だった。
「ふぁ! 虫いるじゃないですかやだー!?」
『たまには虫も入ってるよ♪』
 顔を引きつらせて慌てて飛び退く。その驚く様子にご機嫌な栗が転がり出す。
「栗ハントは薄い本ハントに通じるモノがアリマス。表面……表紙は綺麗でも中身に虫食い……地雷があったりするのデス……」
 ぼそりと呟いたモヱはローラーダッシュで加速し、火花散らす靴で蹴り上げた。炎が燃え移り栗の焼ける良い香りが漂った。収納ケースは逆に栗を食べる虫の幻で敵を惑わす。
「鳥でも飛行機でもありません、鮫くんですよー♪ 皮剥きをお願いしますね」
 しずくが空を見上げるとお腹を空かせた巨大な鮫が空を泳ぎ、栗に噛みつくとトゲも関係なく噛み千切られズダズダになる。
「焼き加減に秘訣があるのか? 栗好き少年の夢だからか? 倒すと無くなるのは、ちょっと残念だなー……」
 真剣な表情でアラタは栗を味わい、少年に食べさせてやりたかったと思いながらも、ロッドを鳥の姿に変えて撃ち出し敵を貫く。先生は爪で栗を引き裂いた。
「食欲の秋じゃのう、ついつい食べ過ぎてしまいそうじゃ」
 ソルヴィンは大爆発を起こし、栗の全身に火を点けた。
『ボクボクの栗はいらんかねー♪』
 燃えながら中から弾けた栗が飛び出す。
「トゲを燃やし尽くして焼き栗だけにしてやろうか」
 ベルンハルトが鎖を周辺に敷き、炎を激しく荒ぶらせて栗を焼き棘を焼失させる。
「焼けたらいい匂いがしてきたねー」
 お腹が減ってしまうと思いながらも、苺は炎を纏う蹴りを叩き込んでさらに栗を焼く。
「マコトさんもお手伝いお願いしますね、つまみ食いもオッケーですよ!」
 しずくがロッドのカワウソを飛ばすと、カワウソは皮を裂き大きな栗の実をもぎ取ってくる。
『虫が居るのは栗が美味し証拠ー』
 またもや栗が芋虫の幻を作り出す。
「幻でも虫を見ちゃったら食べる気を失ってしまいますー」
 無念そうにえにかは食べるのを諦め、槍を傷口に突き入れ内部の実ごと貫いた。
「虫!? 美味しい栗を食べた虫だろ? 焼けばイケるっ!」
 目を回すように錯乱したアラタは、炎宿す足で蹴り込んで幻ごと栗を燃やす。内部の栗の実が弾けて周囲に吹き飛んだ。
 その一つがモヱの元まで転がってくる。それを拾い割れ目から覗く実を味見してみる。
「ホクホクで美味しいデス。もっと焼き栗をつくりまショウ」
 モヱは『炎』を操る魔術的なコードを入力し、周囲に炎を巻き起こし敵を包み込む。
「ホクホクで甘いんですよぅ、これならいくらでも食べられますねぇ」
 夢中でワーブは次々と栗の実に噛みつき、あっという間にお腹に収めてゆくと見る見るうちに栗の実が無くなっていった。
「夢の栗は終わりじゃ……本物の栗でも食べるかのう!」
 中身を失い萎んでしまった栗にソルヴィンは魔光を放ち、石へと変えてしまう。
『栗だよー』
 石は砕け散り、跡形もなく消えてしまった。

●秋の味
「うん、さすがにぃ、食欲の秋だけありますねぇ」
 満足そうにワーブはお腹を撫でて余韻を楽しんでいた。
「クリは美味しそうだったな、コンビニで買っていこうか」
 仲間が食べるのを見ていたベルンハルトは、すっかり栗を食べたくなってそう提案する。
「いいねっ、お土産には栗を買って帰ろー」
 それに苺も賛同して手を上げた。
「売ってる栗なら安全ですよね。いっぱい食べましょー」
 えにかも虫の入っていない栗がいいと頷く。
「夢の栗も美味しかったが、本物の栗を家族と美味しく食べるのが一番だ」
 アラタも栗を買って帰ろうかと、一緒に食べる人の事を思い浮かべる。
「栗拾いしようと思っていたのに……消えてしまいましたね。残念ですー」
 幻のように消えてしまった栗を見てしずくが肩を落とすと、カワウソも残念そうにきゅーと鳴いた。
「栗でも拾って鍋で煮ようかのう」
 ドリームイーターに触発され、ソルヴィンは秋の旬を堪能しようと予定を立てる。
「もうすっかり秋デスネ」
 周囲にヒールを掛けてキレイに修復したモヱは、涼しい風に混じる栗の残り香に秋らしさを感じていた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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