共に還りし山の郷

作者:幾夜緋琉

●共に還りし山の郷
 空が赤く色付く夕刻。
 丁度、季節は秋……多くの人達は紅葉見物に、赤く色付く紅葉の山へ訪れる頃。
 ……でも、ここは紅葉も紅葉していない。
 しかし、嬉しそうな顔で背中に籠を背負い、山を登っているのは、年の頃40位の男性。
『ふぅ、はぁ……やっぱり山深いなぁ。でも、この先に、秋の味覚の王様がある筈。楽しみだなぁ……』
 と。
 ……辺りに生えるはアカマツの木、そして仄かに薫るマツタケの芳香。
 そして、アカマツの生息域に到着すると、彼は地面をくまなく探し、マツタケ採取へ……そこにふらっと近づいてくるのは、鬼胡桃の姫ちゃん。
 そのじょうろのような物の中から不思議な花粉をふわり飛ばして、彼へと纏わせ、攻性植物がそのアカマツに取り憑いていく。
 そして……足元からそっと枝を伸ばして、彼の脚をぐるりと拘束してしまう。
 ……高く逆さづりに吊された男を見て。
「立派な攻性植物になりましたねぇ♪」
 にへらーっ、と脱力系ながら、満足気な笑みを浮かべた鬼胡桃の姫ちゃんは、嬉しそうに其の場を去って行った。

「皆さん、集まってくれたっすよね? それじゃ、早速ッスけど、説明させて貰うッスね」
 と、黒瀬・ダンテは集まったケルベロスへ一礼しつつ、早速。
「千葉県の内陸部、大多喜町にほど近い山中に、植物を攻性植物に造り替える謎の胞子をばらまく、人型攻性植物が現れた様なんッスよ」
「そして、その胞子を受けた植物の株が、攻性植物へと変化し、その場に居た一般人を襲い、宿主にしてしまった様なんッス。そこで、ケルベロスの皆さんには急いで現場に向かい、一般人を宿主にした攻性植物を倒してきて欲しいんッスよ!」
 そして、更にダンテは詳しく。
「今回の元となっている、鬼胡桃の姫ちゃんという人型の攻性植物はもう撤退した後の様で、その場には脚を拘束され、半ば身体が埋まり掛けて居る男性の方一人と、攻性植物化したアカマツの木がある様ッス」
「このアカマツの木のみが相手なんッスけど、これを普通に倒すと、一緒に死んでしまうッス。でも、相手にヒールを掛けながら戦う事で、戦闘終了後に攻性植物に取り込まれていた人を救出出来る可能性は多少ある様ッス」
「又、攻性植物自身は、その雑木林の枯れ葉の下に這わせた木の幹を伝い伸ばして、突如脚を拘束した上で逆さづりにして、締め上げるという攻撃をとってくる様ッス。拘束から締め上げのコンボ攻撃は、喰らうと大きなダメージになり易いッスから、囚われた早急に脱出する様にして欲しいッス!!」
 そして、最後にダンテは。
「攻性植物に寄生された人を救うことはかなり難しいと思うッスけど、可能な限り救出してきて欲しいッス。宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を振り上げた。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)
リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)
伊・捌号(行九・e18390)
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)
オルクス・フェニシータ(死を告げる梟・e33133)

■リプレイ

●薫るは芳香
 空が色付く、夕方の頃。
 千葉県は大多喜町にほど近い、雑木林の辺りに生えるは、アカマツの木々。
 ……そして、そんなアカマツの木の生息域には、芳醇なマツタケの芳香が薫る。
「これはこれは……いい薫りですね、良いマツタケがたくさん生えてそうだ」
『ギャウ!!』
 と夜陣・碧人(影灯篭・e05022)の言葉に、頭に乗ったボクスドラゴンのフレアが可愛く鳴く。
 そして、そんなアカマツの雑木林でマツタケ狩りに精を出す中年男性。
 ……それらは、至って普通にありそうな事ではあるものの、そこに突如現れたのが、人型攻性植物の一つ、鬼胡桃の桃ちゃん。
 彼女は彼をみるみる内に拘束し、逆さ吊りにして頭に血を上らせ、冷静な判断力を失わせた上で、攻性植物の栄養にしようとする……と言うのがダンテの話である。
「逆さ吊りとは、あまり良い趣味とは言えないわね……」
 と、リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)がぽつり。
 そしてそれにクロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)と叢雲・蓮(無常迅速・e00144)の二人も。
「そうだね。安心して山にも入れないなんて、本当に嫌な世の中だよね……」
「うん。攻性植物の取り込まれている人を助ける為に、よく考えて戦わないといけないのだよ……けど、こう言うミッションってなんだかお休みの日にテレビで見る正義の味方なのだ。頑張るの~!!」
 ぐぐっ、と拳を握りしめる仕草をする蓮だが、何だかその顔立ちと笑みがちょっと可愛く感じたりもする。
 ……それはさておき。
「しかし折角山に来たのに、探すのはアカマツに寄生された人か……なんだかなぁ……」
「そうだね! まぁケルベロスであるから仕方ないね!」
 と浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)にオルクス・フェニシータ(死を告げる梟・e33133)が元気よく頷く一方、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)は。
「C’est dommage……この子を産みだした人はもう居ないみたいですの。攻性植物を愛する者としては、色々とお話をしたかったのですが、残念ですの……」
 瞑目し、何処か寂しげに言葉を紡ぐシエナ。
 何にせよ、このまま放置していては、彼も死に絶え、攻性植物が更なる猛威を振るってしまうのは間違い無いだろう。
「んでは、ちゃっちゃと助けるとするっすか」
 と伊・捌号(行九・e18390)の言葉に、碧人、希里笑、そしてリリスが。
「そうですね。マツタケ狩りの前にお片付け、ですね?」
「うん。これ終わったら山菜やら茸やらを採りに行こうか」
「まぁ、ダメージに気をつけながら戦わなくてわね」
 と覚悟を決め、そして。
『ひ、ひぇええええ……!』
 遠くから響いてきた、叫び声。
「アッチみたいだね。みんな、急ぐのだよ~!」
 と指を差し、駆け出す蓮に続いて、ケルベロス達は急ぎ彼の元へ駆けつけていくのである。

●その芳香の下で
『う、や、やめろやめろぉぉ……!!』
 と、次第に呂律が虚ろになり始める彼……頭を下にした逆さ吊り体制で、尚且つ腕、脚を完全に拘束されてしまっている状態。
 僅かな身動きすらも出来ず、意識も次第に朦朧となりつつある。
「……あの姿勢は辛いね……早く救助しないと、殺される前に、勝手に死んじゃうんじゃない?」
「そうだね。早々に頭を下にして貰わないといけませんね」
 クロエに頷くオルクス。
 しかし、単純に話しを聞いてくれるかと言うと……それはほぼ無いだろう。
 恐らく逆さ吊りにして、苦しむ事でその力を吸い取ろうとしているのだから……。
「ほんと、あれは辛いっすよね。ま、頑張るっすよ」
 と、ひいきの店のチョコレートを囓り、気合い再充填する捌号、そして碧人も。
「そうだね……フレア、頑張ろうね」
『ギャァウ!!』
 一度フレアを撫でて、碧人が殺界形成をその場に展開。
 そして先陣切ったシエナが。
「Espoir……せめて、逆さ吊りはやめてあげて欲しいですの」
 と『アグレッションプラント・グリッファージュ』で攻性植物と彼にヒールグラビティを飛ばしながら、彼が楽な体制になる様に頼み込む。
 ……が、攻性植物は、シエナの言葉を理解せず、完全に無視。
「仕方ないね。取りあえず交渉決裂という事で……行くよ」
 ニッ、と笑みを浮かべるオルクスが、攻性植物に一歩二歩近づいていき、月光斬の一閃を叩きつける。
 更に連携し、リリスも月光斬での捕縛攻撃、クロエも。
「植物のくせに、動かないでくれるかな?」
 と稲妻突きを放ち、パラライズ効果を多重付与する。
 ……その身体が痺れ、動きは多少緩やかに変化。
 が、当然その効果は、攻性植物だけでなく、その囚われの彼の元にも効果が及ぶ訳で。
『ゥゥ……』
 と、苦しげに呻き声を上げる彼。
「ごめんね、でも、もうちょっと我慢して欲しいのだよ!」
 と、蓮が声を掛けつつ、その幹の部分に向けて斉天截拳撃の一閃を放ち、大ダメージを付与。
 その一方、碧人は。
「カタカタと響く、糸車は回る。老婆は微笑み祝福を織る……」
 と自分自身に『糸紡精の語り』で癒アップを付与すると、その傍らのフレアはボクスブレスの光弾を放つ。
 そして、希里笑がバスタービームを放ち、その傍らのライドキャリバー『ハリー・エスケープ』がキャリバースピン。
 更にリリスのウイングキャットは猫ひっかき、そして捌号のボクスドラゴン、エイトはボクスタックルで体当たりを喰らわせていく。
 そして、メディック以外のケルベロス達の行動が一巡した所で、敵と男の状況を注視。
「……ちょっと危なさそうっすね」
 そしてそのまま手を合せて。
「聖なる聖なる聖なるかな。届きたまえや、我が祈り」
 と信仰を捧げ、攻性植物と彼を回復する。
 対し、攻性植物の攻撃……取りあえず、その枝を先ずは振り薙ぎ攻撃。
 その攻撃を咄嗟にリリスのウイングキャットがカバーリングし、そのダメージをシエナのボクスドラゴン、ラジンが回復。
 ……そして次の刻。
 ケルベロス達が敵対相手だと判断した様で、明らかに攻勢を穫る攻性植物。
 幹を地面の下にそそそそ、と伸ばし……次なる瞬間、地面から突き上げるような攻撃。
 掬い上げる一撃、エイトの身体をがっしりと拘束するが……すぐにその拘束を解く様にオルクスがヴァルキュリアブラストを繋がる幹に放ち、拘束から解除。
「ありがとうっすよ」
 と捌号の言葉にオルクスは。
「大丈夫、気にしないで!」
 と。
 そして、リリスがそれに続けてスターゲイザーの足止めを付与すると、クロエも。
「ほんと、動かないでって、言ったよね?」
 とペトリフィケイションで攻撃。
 そしてクラッシャーの蓮が続けて如意直突きを至近距離から叩き込むと、続くディフェンダーの碧人とフレア。
「取りあえず、攻撃する幹を一つでも多く削りましょうか」
『ギャーウー!』
 と強い絆の連携攻撃。
 それにまけじと希里笑とハリー・エスケープの連携も、マインドソードにキャリバー突撃の連携。
 ……と、その瞬間、彼の顔に、明らかな憔悴が……。
「危険ッスね。エイト、一緒に回復するっす」
 と捌号の指示にこくりと頷くエイト。
 捌号自身はブレイクルーンを飛ばし、エイトが属性インストールで回復。
 ……どうにか体力を水準まで回復させ、危機は脱するが……油断は出来ない。
「中々綱渡りな作戦っすよね……」
 と捌号の言葉に頷くシエナ。
「Remarquer! わたしがあなたを護ってあげますの! だから、私の元へ来て!」
 と、手を開き、迎え入れるような仕草をするのだが……攻性植物はそれに対し、明示的な反応を帰す事は一度も無い。
 ……そして、そんな攻性植物を少しずつ、少しずつ……確実に体力を削り、回復し……を繰り返していき、経過する事十数分。
 攻性植物自身の枝葉がかなり弱々しく、しんなりとしてくると、それに。
「ん……そろそろ、かな?」
 と蓮の言葉に皆がうなずき、そして。
「その身に宿し水よ枯れ、風化せよ!」
 とペトリフィケイションで攻撃する碧人と、フレアのボクスタックル。
 その瞬間に、彼を捕縛する締め付けが一瞬緩み、その身体が地面の方へとずり落ちる。
「危ない!」
 と、希里笑の言葉に従い、ハリー・エスケープが加速し、彼を受け止める。
 そして……。
「これ以上時間を掛ける余裕は無いから……邪魔な植物だけ、刈り取る」
 と、クロエの『Baskerville』が攻性植物に叩きつけられ、半分に裂かれる、そして。
「さぁ、覚悟ー、なのだよ!!」
 とレゾナンスグリードの一閃を叩きつけ……攻性植物はその一撃に、大きな風穴を開き、崩れ墜ちた。

●安らぎに
 そして、攻性植物を倒した後。
 ……アカマツの木に残る傷跡……そして、ピクリとも動かない骸となった攻性植物。
 そんな攻性植物の木の幹の所へ歩いて行くシエナ……。
「……」
 眼を閉じ、手を合わせ、アカマツの木の冥福を祈る。
 そして……そんなアカマツの木からこぼれ落ちた葉、幹の破片などへ視線を落として。
「Triste……もう、大丈夫ですの……」
 と言いながら、それらを拾い集めようとする。
 葉っぱくらいなら拾い集める事は出来るが、それ以上は。
「Lourdes……回収、手伝って貰えませんの?」
 と希里笑と碧人に視線を配すと。
「攻性植物助けるんですか? まぁ……止めませんが……」
「そうだね。別に構わないけど、行けるの?」
 二人の言葉に、こくりと頷くシエナ。
「解った。可能な限り協力するよ。理由は特に聞かない事にしておく」
 と二人手伝い、欠片を回収。
 一方、蓮やリリスらは、未だ気絶している彼の手当に注力。
 ……約十分程経過した頃に。
『……う、ぅぅ……ん……』
 ずっと頭に血が上っていた為か、まだまだ意識は朦朧としているものの、どうにか無事の様である。
「ん、大丈夫?」
 と見上げてくる蓮の視線にこくり、と頷く彼。
 そんな彼に、更にリリスが。
「秋の味覚はとても魅力的だけど、危険はどこにでも潜んでいるので気をつけてね?」
 と優しい声を掛けて……虚ろに頷く。
 ……それから暫しの間、彼がはっきりとした意識を取り戻すまで様子を見る。
 もう大丈夫そうになれば、彼を大丈夫そうな所まで置くってあげる。
 そして……。
「さて、と……危険も無くなったなら、キノコでも探してみますか」
 と碧人の提案に、頭にぽふっと乗ったフレアが。
『ギャウ!!』
 とっても嬉しそうに鳴いて、鼻をくんくんと……。
 そんなフレアの仕草が何処か可愛くて、くすりと笑いながら蓮も。
「そうだね。きのこ探すのだ!! お土産に持って帰ったら喜んでくれるかな~♪」
 と、碧人のきのこ探しに同行。
 そして秋の香りを感じつつ、ケルベロス達は秋の山中を散策するのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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