蒼炎乱舞

作者:小鳥遊彩羽

「成る程、噂には聞いていたが……」
 そう声を落とす伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)の眼前には、モザイクの壁が立ち塞がっていた。
 そこは、引き寄せられるような感覚と共に訪れた森の奥。地図によるとその先には小さな集落があるはずなのだが、モザイクに覆われているせいで、外からその姿を確かめることは叶わなかった。
 信倖は迷わず一歩踏み出し、モザイクの中へと足を踏み入れる。
「……! これは、何と面妖な!」
 モザイクの内部は、元の地形や建物などがバラバラにされて混ぜ合わされたような奇怪な景色が広がり、纏わりつくような粘性の液体で満たされていた。
 とは言え、呼吸も声を発することも可能で、動くことにも支障はないのだが――その時、内部の様子に驚きを隠せない信倖の前に、ゆらりと、大きな人影が現れた。
「このワイルドスペースを発見出来るとは……貴殿はこの姿に因縁のある者なのか?」
 その男の姿は、信倖と似て――異なるもの。だが、信倖にはすぐに『それ』が何であるのかがわかった。
「早速現れたか、ワイルドハントよ」
 信倖は確信と共に身の丈程の愛槍を構える。己とよく似た姿をしたその男も、信倖が構えた槍とよく似た得物を構え、そして続けた。
「だが、今、ワイルドスペースのことを知られるわけにはいかぬ。――ワイルドハントである私の手で、死んでもらおう!」
 紅い瞳に殺意を宿し、信倖へと襲い掛かってくるワイルドハント。その左腕に燃える蒼い炎は、信倖もよく知っているものだ。
 だからこそ、倒さなければならない。信倖の本能がそう告げていた。

●蒼炎乱舞
 ワイルドハントについての調査を行っていた信倖が襲撃を受けたことを、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)は急ぎケルベロス達に伝える。
 ドリームイーターは自らをワイルドハントと名乗り、滅多に人が訪れることのない小さな集落をモザイクで覆って、その内部で何らかの調査を行っていたと思われる。
「このままだと、信倖さんの命が危ない。これからすぐに現場に向かうから、急いで助けに行ってほしいんだ」
 戦いの舞台となる空間は、奇妙な粘性の液体で満たされてこそいるものの、それによって動きが阻害されたり、戦闘に支障が出ることはない。
 ワイルドハントはおよそ信倖に近い姿をしており、信倖の得物でもあるゲシュタルトグレイブを使った攻撃を主に行ってくるようだとトキサは続けた。
 これは、ヘリオライダーの力でも予知出来なかった事件。信倖が調査で発見出来たのは、敵の姿とも何らかの関連があるのかもしれないが――。
「信倖さんが無事に戻って来られなければ、何の意味もなくなってしまう。だから、どうか信倖さんを救って、ワイルドハントを倒してほしい」
 そう言葉を結ぶと、トキサはヘリオンの操縦席へと向かった。


参加者
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)
雨之・いちる(月白一縷・e06146)
ルムア・フェネーク(熱砂に流離う砂狐・e13489)
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
小鳥谷・善彦(明華の烏・e28399)
君影・流華(ウタカタノウタウタイ・e32040)

■リプレイ

 全てが歪められた異質な空間。
 そこへ足を踏み入れたケルベロス達の耳に剣戟の音が届くと同時、雨之・いちる(月白一縷・e06146)は彼方に燃え上がる蒼い炎を天色の双瞼で捉えた。
「……いました! あちらですね!」
「急いで合流しよう」
 大きなフェネックの耳を動かし、音の元を探って。確かめるように声を上げたルムア・フェネーク(熱砂に流離う砂狐・e13489)に、ティユ・キューブ(虹星・e21021)が頷いて答える。
 一斉にそちらへと駆け出す足。目指す距離は、そう遠くはなかった。

「自分と瓜二つの相手と戦えるとは思いもしなかったな。そして、私と同じ槍使いと見た」
 己と似た姿、同じ色の血を流すワイルドハントへ、相対する伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)が抱いたのは憎悪でも恐怖でもなく、純粋な興味だった。
 鏡に映したものとも違う、似て異なる姿。けれど不思議と己だとわかるそれは、噂によると自らが暴走した時の姿であるという。
「貴殿の目的も、何故私の姿をしているかも知らんが……『偽物』に負けるわけにはいかないのでな」
 信倖は大きく翼を広げ、石突に蒼の宝玉が輝く大振りの愛槍を構える。その穂先に宿るは、彼の心を燃やす蒼い炎。
 対するワイルドハントもまた、禍々しい色で作られた槍を構え。そして一瞬の後、信倖よりも僅かに速く、先に動いた。
 繰り出されるは稲妻を帯びた超高速の突き。だが、信倖を襲う衝撃はなく――代わりに視界を覆ったのは大きな背。
「……本当に双子を見てるような感じだな」
「――善彦か!」
 鋭い槍に肩口を抉られながらも如意棒の一撃を叩き込み、冷静に零した小鳥谷・善彦(明華の烏・e28399)に、信倖が目を瞠った直後。
「こっちとも、遊んでよ」
 信倖の背後から烈風の如く躍り出たいちるが、流星の尾を引く蹴撃をワイルドハントへと叩き込んだ。
「いちる殿、……皆!」
 信倖の元に駆けつけたケルベロス達が、ワイルドハントを囲むように布陣する。
「――信倖、無事?」
 振り返り、無事を確認して安堵の息一つ。いちるは改めてワイルドハントへ向き直り、本当に似てる、と感心したような声を漏らした。
「でも……纏う雰囲気は全然違う。これなら間違って信倖を攻撃する心配はなさそうだね」
 軽口を叩きながら笑ういちるに、信倖もまた知らず安堵の息を零して。
「お待たせしてごめんなさい。微力ながら力になるわ」
 ひとりではないと囁きかけるように、宵空の闇に煌めく穏やかで優しい燈星の光を信倖の元へ降らせるのはメロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)。続いてティユが星の輝きを帯びたドローンの群れを展開させ、前衛の守りを手早く固める。
「ペルル、頼んだよ」
 ティユの声に応えるように、淡い幻想の色彩を纏う箱竜のペルルが自らの属性を信倖へと分け与えると、どこか不安げな眼差しで皆とワイルドハントを窺うように見つめていた朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)が、意を決したようにすっと息を吸い込んだ。
「戦いを始めます。――竜の吐息を」
 その一言でまるでスイッチが切り替わったように凛と敵を見据え、ほのかは掌を掲げる。すると、躍り出た竜の幻影が、忽ちの内にワイルドハントを焼き捨てた。
「アナタが何故彼のような姿をしているのかは解りませんが、ドリームイーターである以上は倒すのみです」
 ケルベロス達の畳み掛けるような攻撃に表情を歪ませるワイルドハントに対し、ルムアは好戦的とも取れる笑みを浮かべながら、砲撃形態に変形させた竜槌の砲口を向けた。
「ドカンと一発いきますよ!」
 ルムアが放った竜砲弾が直撃し、ワイルドハントの動きが鈍る。
「貴方は皆を守る盾。お願い、守ってあげて」
 紡がれる歌声は、君影・流華(ウタカタノウタウタイ・e32040)のもの。歌う声に合わせて動いた黒鎖が守護の魔法陣を描き出すと、流華は小さく息をつき、セラフ、と傍らの箱竜を呼んだ。
 呼ぶ声にセラフが勢い良くブレスを吐き出し、ワイルドハントの戒めを増やす。
(「姿は、真似られても、心までは、真似できないの、かな?」)
 信倖とそっくりな、けれどどこか違う敵を見つめ、流華は胸中でぽつりと呟く。
 知っている姿と似ているのは、戦いづらい。けれど――。
 勇ましく踏み込んでいく信倖の姿に、流華の心も勇気づけられる。
(「……頑張ろう」)
 皆で力を合わせれば、負けるはずなどないのだから。

「相手が誰でも手を抜くつもりはねぇぞ」
 ワイルドハントの見た目だけではなく、その戦い方にも着目しつつ、善彦はワイルドハントの懐目掛けて踏み込んだ。
「痺れちまいな」
「ぐっ……!」
 善彦の鍛え上げられた体躯から放たれる重い殴打。衝撃と共に送り込まれた気に、ワイルドハントがその身を強張らせる。
「善彦、下がれ!」
 背後から飛んで来た声に善彦が身を翻すと同時、ワイルドハントへ肉薄した信倖が雷光迸る天銘の槍を繰り出した。
「おおおおっ――!」
 気迫の篭った雄叫びが、空間を震わせる。腹部を穿たれ後退するワイルドハントは、けれどその瞳に宿す敵意の光を失うことなく、禍々しい色を孕んだ槍で前衛陣を薙ぎ払った。
「させないよ」
 ティユが盾としてその身を投じ、サーヴァント達も衝撃を受け止めて。
「……ほんとうに同じ姿をしているのね。まるで鏡写しのよう」
 話には聞いていたが実際に見ることで、改めてワイルドハントの存在を実感するメロゥ。
 味方と同じ顔というのは少しやりづらいと思ったのは、流華だけではなくメロゥも同じ。
(「でも、中身は別人で安心したわ。……だって」)
 攻撃の手が緩んでしまっては事だもの、と胸中で呟き、メロゥは妖精のブーツで可憐にステップを刻んだ。癒しを帯びた淡い花弁が舞い、メロゥはただ一人の敵を――ワイルドハントを真っ直ぐに見つめて告げる。
「逃げ場はないわよ。大人しくやられてちょうだいな」
 軽やかに地を蹴った流華が蹴り込むのは理力を籠めた星型のオーラ。きらりと弾ける光のリズムに合わせ、セラフが自らの箱で武装しつつ果敢にぶつかっていく。
「やっぱり、貴方は、信倖さんじゃ、ない。本当の、信倖さんは、きっと、もっと強い」
「ええ、あなたは伽羅楽さんではありません、――絶対に」
 流華がぽつりと落とせば、ほのかが同意するように頷き、続いて踏み込んだ。
「雷光の如く、――行きます!」
 黒い刀身の日本刀に雷の霊力を纏わせ、ほのかは神速の突きでワイルドハントを穿つ。
 ルムアは指先でマインドリングを擦り、膨れ上がった光を剣に変えてワイルドハントへ斬り掛かった。
「それにしても、ワイルドスペースとは本当に不思議な場所ですね」
 空間を満たす、纏わりつくような粘性の液体。なのにこうして動くことも喋ることも、何も不都合はない。
 ――そして何よりも、ワイルドハントとはそもそも一体何者なのか。
 ルムアの心に浮かぶ疑問はいくつもあるけれど、目の前の夢喰いがそれに答えてくれるとは到底思えなかった。
「その姿……自身の欠損を埋めるのでなく、他者の欠けている姿を真似ることで欠損を無くそうとしているのかね」
 ペルルの息吹がワイルドハントを包み込む。そこにティユが星図の輝きを投影して敵の姿をより露わにしながら、ふと思い浮かんだ疑問を重ねた。
 ティユの問う声にワイルドハントが返したのは、答えではなく殺意を剥き出しにしたような槍の穂先。駄目元でも何らかの情報が得られないかと思ってのことだったが、やはり思った通り、敵が口を割ることはなさそうだった。
 ティユへ意識を向けたワイルドハントを、いちるは螺鈿のように玻璃が煌めく鎖を伸ばして締め上げる。
(「……いやだな」)
 いちるを捉えるのは、信倖のそれとは違う、血のように赤い瞳。
 別人だとわかっていても、その冷えた眼差しはまるでいちるの心を抉ろうとしているかのようだった。
「いちる殿」
 掛けられた声に振り向けば、いちるがよく知る信倖の優しい瞳がそこにあって。
 ――そう、
(「信倖は、あんな目で私を見ない」)
 いちるは頷き、そして再びワイルドハントを――倒すべき『敵』を見定める。
「早く帰ろう、信倖。早く帰って、美味しいご飯を食べなくちゃ」
「……そうだな」
 信倖は微かに目元を和らげ頷きを返すと、すぐさまその眼差しを戦う者のそれへと変え、ワイルドハントを見据えた。

 戦いは佳境に差し掛かっていた。
 ケルベロス達が積み重ねてきた攻撃により、最早まともに動くことすら叶わぬ状態へと陥っていたワイルドハントであったが、それでもその瞳に宿る敵意、あるいは憎悪と呼べる感情は失われてはいなかった。
「これ以上を、知られる訳には……!」
「っ、来ます……!」
 ワイルドハントの動きを注視していたほのかが咄嗟に声を上げる。同時に、ワイルドハントの赤黒く染まった腕――そこに宿る蒼の焔が信倖目掛けて放たれた。
 ――ほんの一瞬のことだった。
 善彦が、ティユが、そしてサーヴァント達が動くよりも速く。信倖は自ら踏み込み、骨さえも溶かそうとするその熱を、焔を全身で受け止めたのだ。
「信倖っ!!」
 いちるの叫ぶ声も、まるで焔に呑まれたかのようで。
「……っ、あんた」
 善彦が落としたのは、何をしているんだと言わんばかりの声。けれど今この瞬間に為すべきことは一つと、善彦はすぐに気を飛ばし、ティユも星の輝きをオーラに変えて送った。
 凄まじい一撃を辛うじて耐え抜いた信倖の姿にいちるはぐっと唇を引き結び、魔力の糸を伸ばす。陽炎のごとくゆらりと伸びた糸が、その見た目からは想像もつかない力で瞬時にワイルドハントを締め上げ、そして――。
「掬んで、開いて。てのひらで踊って――」
 密やかな詠唱の刹那、解けた糸は無数の氷刃となり、一斉にワイルドハントへ襲い掛かった。
「一気に畳みかけましょう!」
 滅びという名の救済を――古代語の詠唱と共にほのかは星を喚んだ。放たれた幾筋もの光線は流れ落ちる星の輝きにも似て、敵の『罪』を疾く穿つ。
「ちょっとじっとして下さいね」
 ルムアが放った魔力の鎖が檻のように展開してワイルドハントの自由を奪い、そこに、流華が縛霊手に篭められた網状の霊力による捕縛を重ねた。
(「大丈夫、皆がいるから、怖くないから」)
 きっと彼もそうであってほしいと願うように、流華は信倖を振り返る。
 信倖の瑠璃紺の双瞼が仲間達の姿を、そして己と同じ姿の男を映す。
 その場に膝をついたワイルドハントは、信倖への激しい憎悪を燃やしたまま。
「導こう」
 おそらくはあと一撃で、この偽物は消え去るだろう。そう判断したティユは、再びポラリスの輝きを散りばめる。
「さぁ、紛い物にはご退場願えるかしら。この場で同じお顔がふたつあるなんてややこしいでしょう。……それに」
 きっと、本人も良い気分じゃないと思うの――囁くように紡ぎ、メロゥは微笑みと共に信倖へ燈の一つ星の光を降らせた。
「信倖、どうぞあなたの力で」
「僕からももふもふのパワーをどうぞ!」
 ルムアも満月に似た月の光を送り、信倖へと力を託す。
 ほのかは刀を鞘に収め、流華も静かに信倖を見守るよう。
「あんたの役目だ」
 そうだろうと善彦が信倖を振り返り、そして、いちるは静かに彼の名を呼んだ。
「――信倖」
 頷き、信倖は静かに『槍』を構える。
「見た目は同じだが、唯一違うのはその左腕か」
 赤く、黒く、禍々しい――己の『蒼』とは違う、ワイルドハントの左腕。
 それは、かつて信倖が抱いた『人』への憎悪の証。
「俺の姿をしているのならば、俺の業を背負うべきだ。――我が槍、果たして見切れるかな!」
 身を屈めた低い構えから瞬時に踏み出し、信倖は荒梅雨の如き幾度の突きを――槍の雨を繰り出した。
 自らの血の雨に塗れ、ワイルドハントはモザイクの欠片となって砕け散る。
 同時に空間の歪みは呆気なく消失し、ケルベロスたちを取り巻く風景は現実のそれへと戻っていた。

「皆、――有難う」
 言葉では言い尽くせない感謝の気持ちを、信倖は皆に告げる。
「伽羅楽さん、ご無事で何よりでした」
 戦いを終えたほのかはいつもの不安げな表情に戻ってしまったが、それでも信倖や皆が無事だったことに安心した様子で微笑んで。
「また、藤の下で、皆で、楽しく、お話、できるね」
 流華もほっとしたような笑みを浮かべ、それから周囲の様子を確かめるように視線を巡らせた。
(「……何とも奇妙だわ」)
 メロゥも微かに眉を顰め、辺りをきょろきょろと見回す。
 空間を満たした液体はどこにもなく、歪んだ景色も元通りになったように見える。
 けれど息が詰まりそうな静寂に、メロゥはここから早く離れたいと思うばかりだった。
 ルムアが懸念していたのは服や身体が濡れていないかどうか。だが、それも全くなかった。

 火を点けた煙草を咥え、善彦は信倖にも煙草を渡す。
 ワイルドスペースに隠されたものとは何か。ワイルドハントがどのようにして暴走したケルベロスの姿を手に入れたのか。溢れる疑問は尽きないが、答えは得られそうになかった。
「……姿だけじゃなく記憶も受け継いでいたら、もっと厄介だっただろう。暴走した自分にやられちまったなんざ、死んだ仲間に会わせる顔がねぇからな」
 善彦が独り言のように落とした言葉に、信倖はそうだな、と静かに頷く。
「似た顔の奴に三人会えば、死んじまうなんて迷信があったな。人の考えることは分からないもんだが、……」
 吐き出された煙は、すぐに風に溶ける。
 それを追うこともなく傍らを見やり、善彦は続けた。
「――あんたが先に死んじまいそうで恐ろしいよ」
「……そうか」
 善彦の言葉を肯定も否定もせずただ頷き、信倖は煙草の先に点る小さな火に目をやった。
 己と良く似た、もう一人の自分。それは確かに違う存在ではあったけれど。
(「だが、俺がいつか人への想いを失ってしまった時、」)
 あのようになるのかもしれないと、信倖は思う。
(「その時は……」)
 ふと視線を感じてそちらに目をやれば、案ずるような天色の双眸が信倖の姿を映していた。
「どうした、いちる殿?」
「……なんでもないよ、信倖」
 そう言って微笑むいちるに、信倖もまた笑み返す。
(「……良かった。私の好きな優しい目だ」)
 安堵するいちるの傍らで、信倖は途切れた思考の続きにあった答えを拾い上げる。
 いつか、己があのワイルドハントのようになる時が来るようなことがあったら。
(「――その時になったら、考えるか」)

 やがて戦いを終えたケルベロス達は帰途につく。
 その最中、ティユは最後にもう一度集落を振り返った。
 視界一面に広がるのは、どこにでもあるような風景。
 けれど、ただそこに在る静けさが、日常を取り戻したはずのその場所にはもう何もないのだと教えてくれているような気がした。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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