十三段目の階段の怪談

作者:秋津透

「ねぇ、あなた達、怪談話は好きかしら?」
 新潟県新潟市の某高校。放課後の教室で漫然とおしゃべりをしていた三人の女生徒に、いつの間にか近づいてきた不気味な少女が訊ねる。
「か、怪談話?」
「まー、好きっちゃ好きだけど」
 女生徒たちが応じると、不気味な少女はうなずいて話を始める。
「じゃあ、教えてあげる。毎月十三日の夜一時、木造旧校舎の正面玄関から二階に上がる大階段の、一階から最初の踊り場までの段数を登りながら数えてごらんなさい。昼間や他の時間には十二段だったはずの階段が、なぜか一段多い十三段になっているから。ただ、十三段目に足を乗せてはダメよ。階段を破って十三本の腕が伸びてきて、数えていた人を階段の中に引きずり込んで殺してしまうから」
「か、階段の中に引きずり込む?」
 底なし沼じゃあるまいし、階段の中に人を引きずり込むなんてことできるの? と、女生徒の一人が突っ込み気味に訊ねようとしたが、既に不気味な少女の姿はない。
「あれ? 今の子、どこ行っちゃったの?」
「さあ……でも、今の話、ちょっと面白くない?」
「面白いっていうか何というか……」
 何か妙に気になるわね、と、女生徒の一人が唸る。
「十三日って、明後日だよね? その午前一時ってことは、明日の晩?」
「そういうことになるのかしら……」

「十三段目の階段ねぇ……ホラーメイカーとやらは、ホントにその時だけ、階段を一段増やしてみせるんでしょうかねぇ?」
 その場に居もしないでそんなことができるなら、そりゃ大した芸ですが、と、リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)は少々皮肉っぽく嗤う。
 そしてヘリオライダーの高御倉・康が、こちらは真剣そのものの口調で告げる。
「新潟県新潟市の高校で、セージ・ハッピーフォーエバ(サキュバスの風紀委員・e30800)さんの宿敵、ドラグナー『ホラーメイカー』が、屍隷兵と学校の怪談を利用して事件を起こそうとしています。『ホラーメイカー』は、作成した屍隷兵を学校に潜伏させた後、怪談に興味のある生徒に、その屍隷兵を元にした学校の怪談を話して聞かせ、怪談に興味をもった生徒が屍隷兵の居場所に自分からやってくるように仕向けているようです。何でそんなややこしい真似をするのかよくわかりませんが、今回もまた、三人の女生徒が引っかかってしまいました」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。既に使われておらず取り壊し間近な旧校舎があり、その正面玄関から二階に上がる大階段……具体的には最初の踊り場の床下に、屍隷兵が潜んでいるようです。階段が何段になっているかはわかりませんが、午前一時を過ぎた時点で、踊り場近くまで誰かが登ってくると、屍隷兵が床を破って襲ってくる、という趣向のようです」
 そう言って、康は画像を切り替える。
「踊り場床下に潜んでいる屍隷兵は単体で、大柄な男性の姿をしていますが、腕が十三本あります。どういう構造なのかよくわかりませんが、十三本の腕がそれぞれ独自に動いて、高速で連続パンチを繰り出してきます。まともにくらってしまったら、かなりのダメージになるでしょう」
 それにしても、この屍隷兵一体を造るために少なくとも七人の人間が殺され、腕を奪われているわけですよね、と、康は心底嫌そうな表情で唸る。
「これから急行すると、『ホラーメイカー』が指定した十三日午前一時の三十分前、深夜零時三十分に現場に到着できます。しかし『ホラーメイカー』は現場の状況をどこかで窺っている可能性が高いので、早く行って事前に何か工作をした方がいいかどうかは難しいところです。警戒されて、屍隷兵を配置されなかったら元も子もありませんから」
 少なくとも、女生徒たちより先に旧校舎に入るのは、控えた方がいいと思います、と康は告げる。また、同じ理由で、彼女たちが旧校舎に入るまでは、阻止はもちろん接触もしない方が無難だろう。
「なぜ、ドラグナー『ホラーメイカー』がこんな手の込んだ真似をするのか、わからない分不気味ですが、とりあえずは、女生徒たちが屍隷兵の犠牲にならないよう、速やかな対処をお願いします」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
卯月・裕平(山籠り・e15650)
白峰・真琴(いたずら白狐・e16172)
シレン・エアロカーム(氷空と風との深絆・e21946)
ベルベット・フロー(母なるもの・e29652)
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)
神苑・紫姫(ヒメムラサキ色吸血鬼・e36718)

■リプレイ

●怪談、奇怪な女に背後霊?
「……お嬢さん方が来たようですねぇ」
 新潟県新潟市の某高校、深夜十二時過ぎ。隠密気流をまとい身を潜めていたリチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)は、校庭を横切ってくる三つの頼りない光を認めて呟いた。
「それにしても……まさか本当に階段の怪談とは。死刑台の十三階段と言うか、ベタな所を押さえてますけど、割とメジャーな怪談ばっかり見かけますねぇ。今までの事件と、何か共通項があったりするんですかねぇ?」
「そうですわね。好奇心は惹かれますけれど、あれこれ考えるのは、事件を無事に解決してからで良いと思いますの」
 光を見据え、やはり隠密気流をまとった神苑・紫姫(ヒメムラサキ色吸血鬼・e36718)が応じる。
「ケルベロスとして多くの人を救う為、そして私が望む貴族の在り方として、今や救えぬ命に拘泥してばかりいられはしませんし、そのつもりもありませんが……やはり屍隷兵とやらの事件、胸糞悪いったらないですの」
「なるほど……では、胸糞悪い屍隷兵を叩きに行きましょうかねぇ」
 どこか他人事のような口調と表情で囁き、リチャードは隠密気流をまとったまま密やかに動き出す。紫姫も彼に続き、旧校舎へと向かう。彼女の「眷属」こと、サーヴァントのビハインド『ステラ』は、姿を現していない。
 そして校庭の別方向から、やはり隠密気流をまとった喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)シレン・エアロカーム(氷空と風との深絆・e21946)の三人が動き出し、旧校舎に向かう女生徒たちの背後に着く。シレンのサーヴァント、ビハインド『コーパァ』は、『ステラ』と同様に姿を消している。
 更に、旧校舎の通用口……本来は当然施錠されているが、その夜に限ってなぜか鍵が開いている扉脇の闇溜まりに、イシコロエフェクトを用いて潜んでいた卯月・裕平(山籠り・e15650)が、女生徒たちの接近を見計らって、そろりと位置を変える。
 そんなことには気づきもせず、女生徒たちは通用口の扉を持参の懐中電灯で照らす。
「……鍵、かかってる?」
「どうなのかな」
 見ただけじゃわかんないよ、と、女生徒の一人が扉に手をかけて引く。ぎぎ、と、軋み音をたてながらも、扉は少女一人の力で開く。
「あ、開いてる……」
「じゃあ、行くっきゃないね」
 言い放った少女を先頭に、三人の少女は懐中電灯で廊下を照らして踏み込む。ぎし、みし、ぎし、と古い木製の廊下が軋む。
 ところが、不意に軋み音一つたてずに、何かが彼女たちをすっと追い越す。何? 風? 気のせい? それとも、と、女生徒たちが顔色を変えて足を止めた時。隠密気流を消した波琉那が、三人の前、懐中電灯の光の中に立つ。
「ここから先へは、行ってはダメよ」
「う、うわ、出た!」
 女生徒の一人が叫んだが、リーダー格の少女が冷静に制する。
「違うわ。この人は、後ろから来てあたしらを追い抜いたのよ。何で足音しないのか知らないけど」
「ええ、私はケルベロスの喜屋武・波琉那。この先の階段には、デウスエクスがあなたたちを殺そうと罠を張っているわ」
 波琉那は誠心誠意を籠めて事実を告げたが、女生徒たちの表情は、途端に胡散臭げになる。
「ケルベロスって、あの、宇宙怪獣から地球を守ってるケルベロス?」
「ちょっと待ってよ、デウスエクスって空から降ってくる宇宙怪獣でしょ? それが階段のところにいるの?」
「えーとね、確かに空から降ってきて暴れる怪獣みたいなデウスエクスもいるけど、人の中にまぎれて悪いことしてるのもいるの。あなたたちに怪談を話した女の子も、実はデウスエクスが化けた姿なのよ」
 波琉那は懸命に事実を伝えようとするが、ますます話はややこしく、意味不明になる。何しろ、なぜ怪談を語る少女ことドラグナーの「ホラーメイカー」がこんな妙な真似をしているのか、ケルベロス側にも全然わかっていないのだから説明は難しい。
 そこへ追いついてきたシレンが殺界形成を行い、女生徒たちは途端に居心地悪そうな様子になるが、すぐさま退散はせずに波琉那にくってかかる。
「ちょっと! 何か急に居心地悪くなったんだけど、あんた、何かしたの?」
「失敬。居心地が悪くなったのは、拙者の闘気のせいであろう。だが、これからこの先で、我らケルベロスとデウスエクスが死を賭した闘いを為す。危険ゆえ、皆には即刻離れてもらいたいのである」
 姿を現したシレンが、波琉那に代わって告げる。隆々たる筋骨は合羽で覆っているとはいえ、雰囲気からしてタダモノではないシレンの出現に、女生徒たちは理屈抜きにタジタジと下がる。
 そこへ何を思ってか、シレンのビハインド『コーパァ』が、ふわっと姿を現した。
「うわあっ! 出た! ホントに出た! 幽霊!」
 リーダー格の女生徒が絶叫し、身を翻して一目散に通用口へと走る。半瞬遅れて、他の二人もリーダーに続く。確かにビハインドは、顔を隠し下半身がなく武器……『コーパァ』の場合は怪しげな巻物を振りかざしており、一般的に言う幽霊、亡霊のイメージそのものではある。
「あ、待て。『コーパァ』殿は幽霊などではなく……いや、幽霊でないとも言い難いのであるが、決して無辜の民に害を為すようなことはなく、怖れるような必要は……」
 シレンが思わず言いかかったが、女生徒たちは聞く耳持たずに逃走し、当の『コーパァ』は口元に無言の笑みを浮かべている。
「……ああ、そうか。これで良いのであるな」
「でも、無闇に走ると危ないよ?」
 一応、様子を確かめておくね、と、波琉那は女生徒たちの後を追う。シレンは踝を返し、階段……戦場の方へ向かった。

●十三腕屍隷兵無残
「案外かかったわね。女の子たちは無事に逃げたの?」
 シレンが旧校舎正面玄関から二階に上がる大階段近くへ赴くと、先行していたマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)が淡々と訊ねる。
 ちなみに、マイアは真っ先に女生徒たちを追い抜き、そのまま隠密気流を消さずに階段のところまで進んでいる。
「無事……かどうかはわからぬが、逃げたである」
 シレンが応じると、彼女の少し後から入ってきたリチャードが淡々と補足する。
「動転して転んだりもしたようですが、動けなくなるような怪我は三人ともしていないようでしたね。波琉那さんが、無事を確かめに追っていったようですから、何かあったら彼女が対応するでしょう」
「何だか、波琉那様に追われて逃げているようにも見受けられましたけどね。ケルベロスを怖がるようなことにならなければ、よいのですけれど」
 溜息混じりに紫姫が続けたが、彼女はすぐに階段へ鋭い視線を向けて訊ねる。
「で? そこに屍隷兵が潜んでいますの?」
「おそらくはね」
 応じたマイアが、シレンに告げる。
「まだ全員揃っていないけど、女の子たちが逃げたから屍隷兵も撤収、とかドラグナーが判断したらまずいわ。さっさと始めましょう」
「左様であるな」
 シレンが応じると同時に、マイアは凝ったデザインのフェアリーブーツ「Banquet of the Spirits」から星形のオーラを飛ばし、最初の踊り場に至る階段の最上段へと叩き込む。ちなみに、段数が何段かなど、数えてもいない。
 ばきっと古い木製の階段が割れる音が響いたかと思うと、次の瞬間、多数の腕を持つ魁偉な屍隷兵が、階段と踊り場を破壊しながら立ち上がった。
「サー、ティーン!」
「いざ、勝負!」
 咆哮をあげる屍隷兵に向け、シレンは二振りの日本刀を同時に振るい、空間ごと切断する。腕が三本ほど、斬られてぼとぼとと落ちる。
「奇策奇計大いに結構、これでくたばってくれたら楽なんだけど……ま、この程度で簡単にやれるわけないわよねぇ」
 敵を見据え、マイアが淡々と呟く。
 当初の作戦では、背後に一般人がいる場合を想定し、すぐさま距離を詰めて接近戦に持ち込む予定だったが、一般人がいないなら無理をする必要はない。魔術師タイプで基本前衛戦闘向けではないマイアは、距離を取ったまま冷静に敵を観察し、シレンも近接戦闘の相方であるベルベット・フロー(母なるもの・e29652)がまだ到着していないので、強引に前へ出るのは止める。
 そして『コーパァ』が屍隷兵に金縛りを仕掛け、『ステラ』が破砕された木片に念を籠めて屍隷兵の脚に突き刺す。
「サー……ティーン!」
「変な咆哮ですね。生前は、暗殺者でもしていたのですか? まあ、屍隷兵に鮮烈な悲鳴など期待できないのはわかっていますが」
 リチャードが軽快かつトリッキーな動きで間合を詰め、オリジナルグラビティ『倒行逆施(サカシマニオコナイテサカシマヲナス)』を華麗に放つ。切ると見せかけ突き、突くと見せかけ薙ぎ、薙ぐと見せかけ切り付ける。変幻自在の太刀筋で踊るように優雅に相手を制圧していく剣戯(剣技ではない)に翻弄され、屍隷兵の多すぎる腕が更に数本落ちる。
「……ずいぶん簡単に腕が落ちますのね。もしかして、これ、実用化前の試作品ですの?」
 ブラックスライム「ロード・メレアグリス」を放ちながら、紫姫がなかなか鋭い推察をする。「ホラーメイカー」が使う屍隷兵は、事件ごとに全然タイプが違うことが多い。屍隷兵にまつわる怪談は基本的に「ホラーメイカー」の創作だから、屍隷兵のタイプに合わせて怪談を作り、怖いもの見たさの学生をおびき寄せ、その実、彼らを助けようとするケルベロスを呼び込んで試作屍隷兵のテストをしているのではないだろうか?
「……まあ、推察はあくまで推察ですけれどもね」
 でも、そうだとすると、女生徒のみならず私たちも「ホラーメイカー」の思惑に乗せられているわけで、ますます胸糞悪いですわね、と、紫姫は眉を寄せる。
 そして、戦闘開始直後に駆けつけてきた裕平が如意棒をヌンチャク型に変形させ、防御する屍隷兵の腕を激しく打つ。
「これだけ腕があると、懐に飛び込むのは難しいかな」
「サー……ティーン!」
 咆哮をあげると、屍隷兵はすべての腕を水平に伸ばし、全身を独楽のように回し始める。ケルベロスの攻撃で何本も落とされ、残る腕の数は半数にも満たないが、それでも六本の腕が身体ごと猛然と振り回され、ケルベロスの前衛を襲う。
 すると、その時。
「危ない!!」
「間に合ったか!」
 身を隠す手段を用意できなかったため、皆より後から現場に駆けつけた白峰・真琴(いたずら白狐・e16172)とベルベット・フロー、二人のディフェンダーが屍隷兵の前に飛び込み、マイアとシレンをそれぞれ庇う。更に『コーパァ』がベルベットを庇い、マイア、シレン、ベルベットは無傷で済むが、真琴が二人分、『コーパァ』が三人分のダメージを負う。
「それがお前の切り札?」
 順次腕を落としていけばすぐ使えなくなるわね、と、冷静に呟くと、マイアが結晶花『Amber Mistelten』の蔓を飛ばし、防御する腕ごと屍隷兵を締め上げる。ばき、と音をたてて一本の腕が折れ、落ちはしなかったものの、だらんと力なくぶら下がる。
 そして駆け戻ってきた波琉那がケルベロスチェインで守護魔方陣を描き、前衛を癒しながら守備力を上げる。
 続いて『コーパァ』が、斬られて落ちている屍隷兵の腕に念を籠め、宙を飛ばして屍隷兵自身にぶつける。『ステラ』は金縛りを仕掛け、屍隷兵の動きを鈍くする。
「ふむ……」
 リチャードが念を集中し、爆発を起こす。屍隷兵の肩口で爆発が起き、またも腕が一本千切れ飛ぶ。
「サー……ティーン!」
「一思いに頭を砕いてやろうと狙ったのですが……なかなか思うようにはいきませんねぇ」
 肩をすくめるリチャードに続き、紫姫がオリジナルグラビティ『ヒメムラサキ色流星群(シルヴァティクアスター)』を放つ。
「これぞ私、西の地の怪力乱神を束ねし幻想、吸血鬼・神苑紫姫の代名詞。知らぬと言われても知ったことかですの。この場でその身に、我が威光、刻みなさいな……Sylvatic Aster!」
 紫姫が傲然と言い放つと同時に、紫色の光の弾幕が屍隷兵に襲い掛かる。腕が千切れ、胴を打ち抜かれ、屍隷兵はよろよろとよろめく。
「サー……ティーン!」
「何人の人を犠牲にして生み出されたのか知らないけど、さすがにしぶといね……でも、これ以上の犠牲は嫌だからね」
 治癒が充分ではないのか、口元からわずかに血を垂らしながら、真琴が小さく笑う。そして、その表情が引き締まると同時に、オリジナルグラビティ『白峰流拳術「雷龍」(シラミネリュウケンジュツライリュウ)』が発動する。
「喰らえ! 雷龍!」
 ぶっ飛べ、と、真琴は圧縮した闘気を雷に変換し、拳から雷の龍を放つ。直撃を受けた屍隷兵は、全身をびくびくと痙攣させるが、かろうじて倒れず、身体各所から黒煙をあげながらも咆哮する。
「サ……サー……ティー……ン」
「もう、いい加減にしろよ。粘ってもいいことないぜ?」
 まあ、聞こえちゃいないだろうけどさ、と、呟きながら、裕平は目を閉じて、今や腕二本になった屍隷兵の懐に飛び込む。
「お前の動き、見切った」
 裕平のオリジナルグラビティ『一葉知秋(イチヨウチシュウ)』は、自身が山での狩りを通して身に付けた技で、目を閉じ視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、僅かな情報から敵の動きを正確に捉え攻撃する。日本刀が一閃し、屍隷兵の胴を半ば以上裂いたが、しかし、既に命を持たない屍隷兵は斃れない。
「サ……サー……サー……」
「よっしゃ、よく耐えた! 褒美に、あたしとシレンお姉さまのオリグラ連携で派手派手に斃してやるから、光栄に思いな!」
 ベルベットが喜々として言い放ち、オリジナルグラビティ『ベルちゃんダイナマイト!』を発動させる。
「火力! 最大! ベルちゃーんダイナマイッ! とあああああっ!」
 いつもは顔を覆っている地獄の炎をを全身に纏い、火力を最大まで高めたベルベット全力の体当たり。触れた途端に大爆発が生じ、屍隷兵の身体が吹っ飛ぶ。
 そしてシレンが満を持して、オリジナルグラビティ『渾・身・満・力・資・金・投・擲ッ!(グゥレイテェスト・パゥワー・ゴォールド・スロォウ)』を放つ。
「受けてみるである! この世を動かす、輝きの光玉をっ!」
 おもむろに懐から資金袋を取り出し、シレンは全身の筋肉を盛り上げつつ渾身の力で投擲する。
「輝きの重みを知り、粉々になるがよい! ぬううぅぅおおぉぉぉ!!」
「……よかろう。報酬はスイス銀行のいつもの口座へ」
 いきなり屍隷兵が明瞭な口調で告げ、シレンをはじめ一同の目が点になったが、リチャードだけは、ああ、やっぱりと呟く。そして次の瞬間、風を裂き、空気を震わせ、辺りに衝撃波を放ちながら飛んでいった資金袋が直撃し、屍隷兵の全身は粉微塵に砕け散った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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