ただ純粋に、力だけを

作者:久澄零太

 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は愛機こがらす丸を駆り、とある山中に来ていた。何年も前に熊の襲撃があり、悲惨な事件が起こってからというもの、人がほとんど立ち寄らなくなったキャンプ場。そこが彼の目的地。
「静かだ……」
 客足は遠のいたが、管理者は未だにいるし、利用者とてゼロではない。にもかかわらず人の気配がないとはどういうことか?
「……!」
 胸の傷がうずく。何故かは分からないが、ここで何かが起こっているような、そんな気がするのだ。無人の管理者の小屋を横目に進んだ先は、モザイクの広場。広がっていたのであろうキャンプの為の設備が、謎のモザイクに覆われて見えなくなっている。
「これが、噂の……」
 意を決して、モザイクの中に踏み込んでいく計都。彼を待ち受けていたものは……業火。
「……俺を見たな?」
 身構える計都に、ソレは銃口を向ける。
「この場所を見た以上、生きては帰さん。失せるがいい」
「どうして……」
 迫りくる弾幕を避け、両者が睨み合う。計都の前に立ちはだかったのは……。
「どうしてリミッターの外れた俺がいる……!?」

「皆、集まったね?」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある山中を示す。
「ここにすっかり寂れたキャンプ場があるんだけど、北條さんのワイルドハントが現れて、調査に向かってた北條さん本人が危ないの。皆にはすぐに救援に向かってもらうよ!」
 四夜・凶(蒼き灯は誰が為に・en0169)を示し、ユキは一瞬眉根を寄せるが、すぐに抱いた感情を振り払う。
「敵は北條さんが本当に全力を出した時の姿をしてて、一撃の火力が凄く大きいよ。だから……」
「今回は治癒役、およびいざという時の捨て駒として、私が同行します。皆さまは全力を敵の撃破に注いでください」
 途中から言葉に詰まるユキに代わり、凶が告げた。その言葉の意味に、番犬達も生唾を飲む。
「敵は北條さんとこがらす丸が合体して、リミッターを外した時の姿をしてるの。でも、姿をコピーしただけだから、途中で分離して二人になるって事はないみたい。重力鎖の過剰出力で熱暴走しないように装甲の一部が吹き飛んでて、ちょっと防御力は落ちるみたいだけど、その分攻撃力は桁違いだからね。それが性格にも出てるみたいで、防御を捨てて敵を何としても倒そうとするの」
 自らの生存すら捨てて、敵を殺す為だけに振るわれる拳の恐ろしさを、修羅場をくぐってきた番犬達はよく知っている。
「それと、敵はあくまでも姿が同じってだけで、北條さんとは全然違うの。本人にはない奥の手を持ってるかもしれないから気をつけて」
 番犬達に釘を刺し、ユキは不安で揺らぐ瞳を向けた。
「……絶対、帰って来て。約束だよ」


参加者
鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
有枝・弥奈(滑稽にやって来る乱れ鴉・e20570)
アトリ・セトリ(幻像謀つリコシェ・e21602)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
水瀬・和奏(鎧装猟兵・e34101)
園城寺・藍励(鬩ぎ合う光と闇を纏いし白猫・e39538)

■リプレイ


「おかしい……」
 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は一方的に攻められていた。普通は暴走した姿をとる相手の方が上だから、で片付くが計都のソレは違う。しかし思考を巡らせる時間はない。敵の銃口は、既に突きつけられているのだから。
「死ね」
 カチリ、弾倉が回る。
「ファイヤー!!」
 大声をあげる水瀬・和奏(鎧装猟兵・e34101)に赤い機人が振り向けば、壁と見紛うほどの弾幕が張られており、離脱。
「お待たせしました!」
 計都を庇うように和奏が立ちはだかり、身の丈ほどの機関砲を構え照準を合わせる。
「邪魔を……」
 ――させない。
「!」
 耳元の囁きに反転、背面蹴りがリーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)の短剣を弾き、彼女を地に叩き伏せるが紫炎の獣に腕を食いつかれ、その隙に距離をとられる。
「無事かね北條君!死んでないなら良し!」
「なんで両方に言うんですか……?」
 上機嫌に笑う千歳緑・豊(喜懼・e09097)に半眼を向ける計都。
「君に死なれては困るし、あっちも生きてなかったら殺し合いを楽しめないだろう? いやぁ、真面目に番犬を続けてみるものだなぁ!」
「北條さん、無事?」
「すぐ治療します!」
 アトリ・セトリ(幻像謀つリコシェ・e21602)が応急処置を済ませ、鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)が展開する小型戦闘機が治療薬のこもった爆薬を投下。ワイルドハント……シフトオーバーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「雑魚がわらわらと……目障りだ」
「数が多くて潰すのが疲れる、という事かな?」
 アトリが真っ直ぐ見据え、短剣の柄に手を乗せる。
「かかって来なよ、偽者。唯の力だけで護りを崩せると思わないことだね」
「時解空封……」
 園城寺・藍励(鬩ぎ合う光と闇を纏いし白猫・e39538)の構えは完璧だった。黄金の刀身の内に夜空の輝きを秘めた大剣を腰だめに構え、敵はアトリに気を取られている。だというのに……。
「伍之……」
「随分と仰々しい構えだな?」
「か……きゃ!?」
 得物を振るうまでの一瞬に距離を詰められ、柄を押さえられた隙に脇腹を蹴り飛ばされる。地面に転がりながら内臓の悲鳴が渦巻く体内に駆ける激痛に、脳は警鐘よりも疑問符を浮かべた。
「なんで……?」
「園城寺さん! すぐ行きます!!」
 命が飛行機を展開。隊列を組む飛行機は内部に治療薬の弾丸をばら撒き、藍励の体内の損傷を修復する。冷静に、感情を抑え、動揺せず、敵を、味方を、見ろ……ドローン展開せよ。心中で自身に言いきかせている時だった、彼女に影が落ちたのは。
「しま……」
 意識を治療に向けていた今、砲塔は飛行機展開の為に左右に開いており、今から照準を合わせても間に合わない。
「だらっしゃぁ!!」
 命に迫る鉄拳を有枝・弥奈(滑稽にやって来る乱れ鴉・e20570)の蹴脚が横合いから弾き飛ばして軌道を逸らした。その余波で命は吹き飛び、反動で自分が傷ついた弥奈は後方へステップ。
「蒼鴉師団所属、有枝弥奈。興味を惹かれやっては来たが……生憎、今の緋色蜂の一行には大事な予定がおありでね。のんびりする予定は変更だ」
 刀を捨てた女は拳を握り、嫌悪感を露わに叫ぶ。
「後……そういう姿を使われるのは少々癪に障るのでね。早急に消え失せな、紛い物!」


「面白いねあっちの北條君。まるで瞬間移動じゃないか」
 豊は映画でも楽しむように軽口を叩き、計都が奥歯を噛み締める。
「俺もあれにやられたんです。確かに動きを見切ってたはずなのに、急に……」
「こっちの北條君にも同じものがあるはずだろう?君の戦闘形態は異能によるものではなく、武装によるものだ」
「リミッターが外れてることを差し引いても、明らかに過剰出力ですよ……」
 会話を断つように、轟音が響いた。
「この……」
 ガゴン! 空の巨大な薬莢を吐き出した砲身を構える和奏が装填。砲撃の反動で揺らぐ足元を意識しつつ敵から目を逸らさない。
「照準……なんて言ってられないですね……!」
 まともに狙おうものなら、その隙をついて距離を詰められるのがオチだ。当たればデウスエクスの肉体すら消し飛ばす彼女の砲はその長大さ故に、懐に入られれば無力と化す。自身の技量と直感を信じて引き金を引き、すぐさま後方へ飛びながら装填。一発目の着弾でたたらを踏んだ隙に藍励が星の輝きを宿した槍を携え、首を狙い突き上げるのだが。
「舐めるなよ」
 穂先が喉を抉るより速く、柄を掴まれて封じられてしまう。それでも、彼女は笑った。
「そっちこそ!」
 動きを止めた腕の関節部位めがけて豊が発砲。装甲の隙間に弾丸を詰めて動きを鈍らせるが、鉛弾を装甲で挟み潰し、藍励を豊に向けて投げつけながら肉薄。
「ははは、良いね!うっかりしたら死にそうだ」
 避ければ藍励が空中で追撃されて潰される。彼女を受け止めれば自分が直撃を貰う。一瞬の選択を、彼は選ばない。
「やはりこうでなくてはねぇ!!」
 藍励を命の方へ受け流して彼女に庇わせつつ、自身は……。
「やはり戦闘は、相討ちこそが命を実感できる……!」
 直撃のボディブロー。全身が機械の彼は痛みというものに鈍い。それでも身を蝕まれていると理解させられる金属が軋む音に、回路を持っていかれたのか、体内でショートする感覚に視界が明滅しながらも、心が昂る。
「ターゲット!」
 呼び出した紫炎の獣が食らいつき牙を立てれば、機人は豊を蹴り飛ばして金属の肉体をへし折りながら、獣を叩き潰す。命は受け止めた藍励に治療機を飛ばしつつ、必死に冷静さを保とうとしながら思考回路は高速で回す。
「一度の攻撃で何人瀕死に追いやるんですか……!」
 攻撃の『ついで』の動きですら攻撃になる敵を前に、命は治療機を展開するだけで手一杯。
「何が冷静に、だ。この状況で焦るなと言う方がどうかしてる……!」
 さっきまでの自分を殴りたいと思いながら、視線は豊に。
「千歳緑さん、ヒールいきます!」
「私はいい!」
 豊が示したのは、命に迫るシフトオーバー。弥奈が割り込んで拳を蹴り上げるも、拳圧だけで頬を斬られる。ビリビリと痺れる脚を地面に叩きつけて体を跳ね上げて、振るわれる第二撃を迎え撃とうとするが、地力が違い過ぎる。横っ面を吹き飛ばそうとした膝は拳に打ち据えられ、命を巻き込み木に叩きつけられ力なく崩れ落ちた。
 続けてリーナがその視界を覆うように跳び出して首めがけて漆黒の短剣を振るう。だが裏拳で防がれ、甲高い音を鳴らす得物を手の中で返し、防御の内側に滑り込ませて首元に突き立てるも、浅い。攻撃直後の隙に首を掴まれ、吊し上げられてしまう。
「ぐ……ん……!」
 喉を潰すほどの圧力に気道を塞がれ、四肢から力が抜けダラリとさがり……枯葉に姿を変えた。
「なに?」
 機人の視界の端、リーナを掠め取ったアトリが緊急蘇生。息を吹き返した彼女を支え、自らに迫る気配に素早く反転、防御姿勢でぶん殴られ、頭を庇いながら地面を転がっていく。
「だめ……」
 キヌサヤのヒールを受け、復帰したリーナが背後から刃を振るうが自身の脇腹越しに機銃を掃射。斜め下方からの弾幕に晒されたリーナがボロ布のように吹き飛ばされていく。
「そこまでにしてもらおうか!?」
 機人へ計都が超重量の拳銃を発砲、弾丸が装甲を穿ち、両者急加速により肉薄。振るわれる拳とすれ違いに重力鎖を込めた拳を振るい、バイザーを砕かれながらも機人の頭を小爆発を持って吹き飛ばす。地面に倒れ込む寸前に装甲化したこがらす丸による姿勢制御で踏みとどまり、脚部のブースターによる加速で大回転、回し蹴りで機人を弾き飛ばした。
「アトリさん!」
「自分は大丈夫!あいつを!」
 顔の半分を血で濡らし片目を潰したアトリに言葉が詰まる計都。それこそが、致命的な一瞬。
「仲間なぞをもつからそうなる」
 ザクリ。すぐさま跳ね起きたシフトオーバーの貫手が腹部を貫いた。


「……げほ」
 血の塊を吐いてなお、アトリは倒れない。自分が庇われたのだと気づいた計都は思考が止まり、目の前でアトリが蹂躙されていく。引き抜かれた傷口から血はとめどなく溢れ、掴まれた頭蓋骨が悲鳴を上げる音がする。拳が叩き込まれる度に、赤い液体をこぼす彼女の口は、もう言葉すら紡げないように見えた。
「こんのぉおお!!」
 和奏の砲塔が唸りをあげ、砲弾をシフトオーバーに叩きこみアトリを吹き飛ばせば藍励が滑り込み、アトリを抱えて滑り抜けようとするが機人が彼女の髪を掴もうと……。
「お返しだよ!」
 身を翻し、アトリを駆け抜けてきた飛行機の群体に任せて身軽になった彼女は大剣でその手を打ち払い、一陣の風と共に背後へ躍り出る。
「時解空封、伍之型『五星絶』……」
 周りの全てが止まっていると錯覚する空間の中、藍励は返り血を払うように大剣を振るう。

 ーーペンタグラム・アブソリュート。

 最後にそう呟いた瞬間、五芒星を描く剣閃が煌めき機人の体に傷を刻み込む。
「命さん容体は!?」
「まだどうにでもなる、ていうかして見せる……!」
 腹部の風穴まで手が回らないが、飛行機に治療薬散布させてどうにか繋ぎ止めながら頭の傷口に意識を集中させる。
「シェスはいつもこんなことをしていたのか……!」
 彼らの所属する師団には、現在行方不明の医師がいる。彼女と同じ立場に立って、彼女が何を成して来たのかを思い知らされる命。果たして自分にできるのか、そう問いかけるもう一人の自分の幻影を振り払い、傷口に意識を向け……目の前に回り込んできた赤い翼に絶望する。
「今お前に構ってる時間は……」
「なさそうですね?」
 突然湧いた新たな声と共に氷の牢獄がシフトオーバーを捕獲、更に地面を凍らせて勝手に滑り、命から距離をとらせた。
「どうやら間に合ったようで」
 支援に到着した連夜が一つため息。
「本当、私達がいないとダメなんですから」
 優雅に歩いて前線に加わる紫姫。紫色の極光が翼となり、一歩踏み出すたびに輝きを振りまいて、同胞たちの傷を癒す。
「踏ん張り時だ!バックアップは任せな!」
「同胞よ、今こそ目覚める時だ。憎らしくも愛おしい、我らが友を守らんが為に!!」
 隠岐乃の弾丸がアトリの傷に突き刺さって内部から傷を癒し、佐久弥の呼び出した無数の付喪神が命の治療を補助、一先ずの縫合を終えて命の表情にも少し余裕ができた。
「ほらとっとと起きるのじゃ!」
「ちょ、端境さん!?」
 その後括が往復ビンタでアトリをヒールしたせいで命がワタワタしたけど、多分大丈夫。
「豊さん……」
「やぁアルシク君。はっは、腰骨をやられてしまってね。人間のぎっくり腰ってこんな感じなのかな?」
 冗談を口にする豊にバラフィールは一瞬俯いてから、彼の体に触れた。
「無理しないでください……」
「大丈夫、私は無茶しかしない」
 命の危機を娯楽程度にしか捉えてないこの男に、彼女は深々とため息をつくのだった。
「さぁ守るよ!そして皆で無事に帰ろう!」
「グォオオオオオオオ!!」
 顔面どころか全身を業火に包まれるベルベットと、巨竜と化した晟。荒れ狂う炎と竜の咆哮に飲み込まれて、リーナはゆっくりと瞼を開ける。
「え……」
 まぁ、初対面でこの状況だと敵だと思うかも知れないけど、味方です。
「次から次へと……」
「あなたの好きにはさせない!」
 氷牢を打ち砕いた機人に果乃が飛びかかり、右腕に冷気を、左腕に雷を纏う。両腕を伸ばして高速回転し、凍気と雷撃を纏う回転刃と化した果乃を弾き返す機人だが、その隙にノイアールが両手を押し付ける。
「ニセモノなんて悪趣味な事やるやつに、皆さんを傷つけさせたりはしねえっす!」
 ここに至るまで優位に戦ってきたシフトオーバーだが、決して無傷だったわけではない。無数に刻まれた傷にノイアールが重力鎖を流し込み、発破。頑強な装甲の表面を打ち砕き、初めて大破させた。
「さて、力加減バカ男の山道にちょーっと花ァ添えてやろうかいや……ここまで来て、自己再生とか洒落にならんしねぇ?」
 ふわり、爆風に紛れて月子が和風ジャンパーの袖から見えざる毒を噴霧。掌底に混ぜ合わせて挙動をごまかしながら、叩きこむ。
「お前らは……一体……!」
 始めて見えた焦りの色に、支援部隊は声を揃えて嘲笑う。
『我ら、緋色蜂師団! ヒャッハー!!』


 挑発と見たのか、潮時と見たのか、シフトオーバーの胸部、黄色い装甲が開いてモザイクを露出、そこから炎の意匠を取り入れた真紅の刃を取り出した。
「あれが奥の手か?」
「待って」
 前に出ようとした凶にアトリが立ちはだかる。
「普通の攻撃でも一撃耐えられるかどうかなのに、アレを受けるなん……痛ッ!?」
 既に倒れかねないアトリを、凶が抱きしめた。同時に指先が滲んできた血に触れてぬめりを帯びる。
「こんなにボロボロになって……」
 無理して起き上がり、傷が開いたアトリを命に任せて彼は歩きだす。
「ダメだって!自分は大丈夫だから!!」
 彼の足元に銃弾を撃ち込むが蒼の地獄が一瞬揺らめき、鉛弾が溶け落ちる。
「支援部隊の編制で出遅れてこっちは余裕がある。それに、こんだけ囲まれてたら無茶もできねぇって」
 途中から虚ろ目で自分を囲んでる達也と括と晟と、ついでに広範囲攻撃が切り札と読んで人一倍前に陣取るベルベットを示す凶。敵は瞬く間にベルベットと距離を詰め、袈裟切り。斬撃から舞う血飛沫を吸うように、重力鎖を奪う。
「刀をそのまま……計都って刃物を使えないんじゃ!?」
「本人とは別人って事は特徴も違うんだろう!?」
 飛び道具でない事に驚きながら崩れ落ちるベルベットに、命が治療機部隊を飛ばして即刻ヒールに当たるが、機人は既に凶の目の前に。
「一回見てんだ、そう簡単に当たると思うな……!」
 斬撃を避雷針で受け、しかし纏う業火が彼の身を焼き、徐々に刀身が迫る。彼一人だったなら、致命傷を避けるので精一杯だっただろう。
「言ってみりゃ本気の北條さんって訳か。一度戦りあってみたいと思うが……それは『お前』じゃない。失せろ紛い物!」
 達也の伸ばす鎖が機人を絡めとり。
「彼の事は引き受けると宣言したのでね」
 晟が抜刀と同時に反転、峰で頸椎を打ち動きを鈍らせ。
「計都の真似がしたいなら、各種おもしろ形態覚えて出直すのじゃ!」
 括の呼び出した巨大な熊による熊パンチ! 機人が装甲の一部に亀裂を走らせながら吹き飛んでいく。
「さぁて、どうなるかね」
 仕込み錫杖を折り、鎖で繋がれた二本の棒に変えた陸也はシフトオーバーの反撃の瞬間、回り込ませるようにして背部ブースターを破壊する。すると炎の翼が消え、機人が膝を着いた。
「そうか!こがらす丸の全力は十秒しか持たない。あいつは暴走状態の中でも、その十秒間の俺の姿を映したモノ……」
「本来は一瞬しか出せない実力を常時維持しているという事ですか」
 弥奈が頷き、リーナが姿を消した。
「堕ちて……偽の破壊者……!」
 人は咄嗟に身を護るとき、心臓のある左半身を庇う。その特性を逆手に、リーナはやや右より真正面に現れて、漆黒の短剣に周囲に散った重力鎖と、熱エネルギーを収束、右半身を晒す機人に刃を突き立て。
「いくら外見を真似したって、中身まで真似する事はできない……これは……たった一人だけ強ければいい……そんな傲慢が生んだ最期……!」
 解き放つは灼熱。吸収した力に自身の魔力を上乗せして、元々赤いカラーリングだった装甲が赤熱したと分かるほどの熱が、周囲もろとも機人を焼く。
「さぁ、いまこそ決着を」
 進が加護を宿した矢を計都に撃ち込み装甲の修復を行う。
「それだけあれば後一撃、いけるだろ?」
「主役は計都、お前ぇだ。決めてこいよ」
 陸也に背中を押されて、計都は歩き出す。
「来いよ、シフトオーバー!武器なんて捨てて掛かって来い!」
「おのれェ……!」
 新たな炎翼を纏う機人に、歩き出した機人が迫る。
「俺は、空を飛べるわけでも、力が強いわけでもない。俺に出来るのは唯一つ……」
「弱者同士寄り集まらなければ生きられない、脆弱なイノチの分際で……!」
 歩みは少しずつ早まって、いつしか大地を駆ける。走り出した敵に向かい真っ直ぐに、跳んだ。
「限りある力で守ることだけだ!」
「そんなもので何が守れる!?」
 赤き翼と青き翼、二つの炎翼が交差して、二人の蹴脚がぶつかり合う。シフトオーバーがブースターを失った今、素の出力はほぼ同じ。拮抗する二人が睨み合い、計都が歯を食いしばる。
「何でもは守れない、でも何かは守ることができる!」
「そうか!他の全てを見捨てるのだな!?」
「違う!!」
 青は少しずつ出力を失い始める。だが、焦燥を覚えたのはシフトオーバー。
「俺は何かを守れる、皆も何かを守れる。だったら皆で戦えば、全てを守ることができる。それがたった一人で戦うお前が俺に……」
 推進力を失い、押し切られたかに見えた計都だが、違う。相手の勢いを利用して肉薄。
「俺達に、勝てない理由だ!!」
 振るわれた拳はバイザーを粉砕。貫通した拳は虚ろな肉体の中、何かを掴む。
「バカな……俺が、こんな雑魚共に……」
 光の粒子となって散りゆくシフトオーバー。崩れゆくモザイクの空間の中で見たものは。
「あぁ、あれが、仲間というものか……」
 落下する計都を受け止めようと、彼の下に集まる番犬達。たった一人で落ちていく彼は、地面にぶつかり霧散してしまった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 19/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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