鎌倉ハロウィンパーティー~灯火の誘惑

作者:市松千恵子

●万聖節前夜も近づいて
 10月31日を目指して世間はハロウィン一色に染まる。
 華やいだ空気の中、とある娘は溜め息をついた。彼女はハロウィンパーティーに参加できないのだ。ドレスがない――もとい、相応しい仮装のアイディアが思いつかない。ついでに誘ってくれるような友達もいない。会場で楽しくお喋りできるようなコミュ力もない。
 蝙蝠や南瓜が可愛らしくディスプレイされた通りを見ないようにしながら早足で路地に入り込んだ彼女は、息を呑む。赤い頭巾を被った少女が突然目の前に現れたように見えたのだ。
 少女はその口元に淡い笑みを湛えていた。
 そして、戸惑う娘の胸元――心臓に、手にしていた鍵を突き立てた。
「……ハロウィンパーティーに参加したい?」
 娘の夢を得た、赤い頭巾のドリームイーターは笑みを深める。
「その夢、叶えてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです……」
 だが、娘はその言葉を聞けなかった。娘は既に意識を失い、路地に崩れ落ちている。
 赤い頭巾の少女はそんな娘に構うことなく、娘の夢を具現化したような、ドリームイーターを生み出した。それは、お姫様のようなドレスを着て、お化け南瓜の頭を持ち、全身にモザイクを抱えた存在。
 そして、出現した『ハロウィンドリームイーター』は、音もなくその場から姿を消すのだった……。

●ハロウィンパーティーの誘い
「ドリームイーターに動きがありました」
 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査により、日本各地でドリームイーターが暗躍していることが判明したのだと雪乃森・星羅(サキュバスのヘリオライダー・en0033)は言う。
 詳細を説明させて頂きますと星羅は膝を曲げ、腰を低く落とすようにして礼をした。
「ハロウィンに対する劣等感を持っていた方の夢から生み出された『ハロウィンドリームイーター』が、ハロウィン当日、一斉に動き出します。彼らが現れるのは世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場、つまり……『ケルベロスハロウィン』が行われる鎌倉の地です」
 今年のハロウィンは多くの人々の新たなる希望となるはずだった。なのに、復興の象徴でもある『ケルベロスハロウィン』にデウスエクスの襲撃が起きてしまうなんてあまりにも悲しすぎる。
 星羅は少しだけ眉を寄せ、祈るような口調で言った。
「皆さん。どうかハロウィンパーティーが始まるまでに、『ハロウィンドリームイーター』を撃破して頂けないでしょうか?」
 『ハロウィンドリームイーター』を誘き出すのは簡単だ。
 ドリームイーターはハロウィンパーティーを襲撃するつもりなのだから、本来の開始時間より早くパーティーが始まったかのように振る舞うだけでいい。
「とはいえ今回は絶対に、確実に、本当のパーティー開始時刻前に誘き寄せてもらわなければなりません。この『ハロウィンドリームイーター』を生み出した想いは、特に『素敵な仮装』と『お友達同士で楽しそうに振る舞い様子』に向けられています。ですから、とびきり気合いを入れた仮装をして、親密そうに笑い合ったり、仲良しな様子で乾杯したりしてくださいね」
 星羅は言いながら、ポップなお化け南瓜のイラストが描かれた瓶を幾つか取り出した。
 中身は熟した南瓜色のノンアルコールスパークリングワインだと言う。乾杯に必要ならぜひお使いくださいね、と星羅は小さく微笑んだ。

「『ケルベロスハロウィン』は僕もすごく楽しみにしてたんだ。だから、パーティーを荒らしに来るドリームイーターは許せないな」
 千歳・カナタ(ウェアライダーの刀剣士・en0032)は真剣な顔で呟いたが、すぐに相好を崩した。にこやかに笑んでカナタは言う。
「それにしても仮装って悩んじゃうよね。みんなはもう決まってる? 僕は全然だから、アドバイスもらえたら嬉しいなって思ってるよ」

 星羅はケルベロスたちを見つめ、深々と頭を下げた。
「作戦開始は夕方頃。日が暮れて、ランプに火を灯すくらいの時間帯から、場所は鎌倉にある小さな公園です。人々の希望を守るため、どうかよろしくお願いします」


参加者
ミルフィーユ・キス(触れたら最後・e00104)
万道・雛菊(幻奏酔狐・e00130)
佐原・エイキチ(普通のカフェ店員・e00251)
銀冠・あかり(夏檻・e00312)
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)
瀬戸口・灰(泰然自若な菩提樹・e04992)
バンリ・スノウフレークス(リメンバースノウ・e12221)
烏丸・鵺(葬銃・e14649)

■リプレイ

●夜の誘い
 今宵はハロウィン。年に1度の、人々が浮き立つ夜。
 瀬戸口・灰(泰然自若な菩提樹・e04992)の精悍な体躯には盗賊の仮装もよく似合う。腰には曲線の美しい短剣を、そして首から肩にかけては砂漠の灼熱から肌を隠すかのようにぐるぐると布を巻き、じゃらりと宝石を飾った、砂漠の千夜一夜を思わせる風体。
「たとえ、誰が相手でも邪魔はさせないさ」
 呟くように声を漏らせば、ランプを抱えて布を被った相棒――ランプの精、ではなくウイングキャットは目を細めると顔を洗った。
 これだけ人が集まれば、童話に疎い灰も『何』か理解できる仮装が散見される。
「お菓子をくれないと悪戯するぞ、とは言っても限度はありやすからね」
 ブラックスライムを従えた烏丸・鵺(葬銃・e14649)は、気弱そうな表情をしたライオンの着ぐるみを身につけており、いつも銀に鈍く光る鎧姿のビハインド――ジサマは玩具の斧を持たされており、どことなく木こり風の装いだ。
「さっさとドリームイーターを倒して、その夢をご本人にお返ししやしょう」
 鵺の言葉に、堂々と胸を張りながらバンリ・スノウフレークス(リメンバースノウ・e12221)も頷く。
「日本のハロウィンは、みんなで仮装して楽しむ日よね」
 元を辿れば収穫祭など様々な意味合いが含まれる行事だが、いろんな心配を取り払って特に『楽しむ』へ特化しようというのが『ケルベロスハロウィン』だ。
 そんなバンリは髪に真珠のティアラを飾り、ピンクの上品な透け感のあるピンクのオーガンジーがふんだんに使われたロングドレスのお姫様姿。
 赤を主とする貴族風の外套を羽織り、羽根飾りをつけた海賊風の帽子を被った佐原・エイキチ(普通のカフェ店員・e00251)は、鉄塊剣をまるで細剣のように軽々と操っては風を切る音を立てた。
 とびきり楽しんでドリームイーターを誘き寄せ、後顧の憂いを断つとしよう。
「楽しいハロウィンを台無しにするなんて許せねーよな」
「そうよね~。いけないわ~」
 エイキチの言葉に万道・雛菊(幻奏酔狐・e00130)が応じる。
「うふふ、みんなの仮装もすごく素敵ね~。可愛くて格好いいわ~」
 橙色のドレスをひらりと翻した雛菊は、黒い三角帽子を片手で押さえて蕩けるように笑んだ。もう片手には星のついた小さな杖を持って、魔法使い。
 白染め狼毛皮のコートを羽織り、白のタキシードを着たミルフィーユ・キス(触れたら最後・e00104)は漆黒――ではなく白の髪の合間から狼の付け耳を覗かせ、貴い天使様だから純白こそ映えるワケ、と狼尻尾を揺らしながらへらりと笑う。
「俺、カナタの全力が見てぇな☆」
 色白の青年からメイクセットを差し出され、千歳・カナタ(ウェアライダーの刀剣士・en0032)はきょとんと瞬いた。
「よくわからないから、ミルフィーユさんがしてくれる? あ、それとも俺が君にするの? 化粧なんてしなくても綺麗だけど……」
 首を傾げたカナタはみんなの意見を節操なしに取り入れて、シルクハットにトランプを挿し、紫と黒のストライプ柄ベストを着込むという自前の縞模様の耳と尻尾も活かした成り。ミルフィーユが見立てた赤ずきん姿の銀冠・あかり(夏檻・e00312)が、何かプレゼントしようと申し出てくれたのでそれもお言葉に甘えた結果、ゆるい感じのワニのぬいぐるみを小脇に抱えることになった。
「カナタ様、一緒に遊んでください、なっ」
「もちろん!」
 胸には懐中時計を下げ、紫チェックのベストとフリルスカートを合わせ、唯の杖に見える杖を手にしたリラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)が小さくも声を弾ませると、あははと笑ってカナタも空いている側の手を差し伸べた。

「よっ!」
 エイキチは余興として武器を構えると楽しげに剣舞を始めた。
 遊びながらでも身体を温めておけば、いざドリームイーターが現れてもすぐに対処できるはずという目論見だ。親友であるテオドールがくるくるっと手の中で短剣を回したのを合図に、会場に流しておいた音楽に合わせてふたりは踊るように戦い出す。鳥の羽根を飾る衣装のすれすれを鉄塊剣が薙いだ。
 最後はエイキチが取り出した玩具の銃がテオドールの眉間に、テオドールの短剣がエイキチの喉元に突きつけられる形でお開きとなる。ふとチクタク時計の音が聞こえた気がして振り仰いだが、ぬいぐるみのワニは随分と大人しくしていた。その隣にいる兎仮装の少女が持った時計からその音が聞こえてきたのだろうと察し、エイキチは大仰に肩を落として安堵して見せる。
「みんな、本当に素敵な仮装ね~。童話からそのまま飛び出してきたみたいよ~?」
 緩い口調で言う雛菊はにこにこと笑みを絶やさない。みんなの仮装を相当楽しみにしていたのか、言葉そのままの心境らしく、嬉しくて仕方ない様子で尻尾までもわっさわっさと動き続けている。
「じゃあ、そろそろ乾杯かしら~」
 お酒じゃないのは残念だけど、と呟きながら雛菊は南瓜の馬車を模った南瓜ケーキを切り分けた。
「『かつておばあさんだった』赤ワインならあるぜ?」
 狼――ミルフィーユは童話をなぞる素振りでそんなことを言う。熱を通していながらまだ赤いレアステーキにレバー料理を並べ終えると、果物や風船にお化け南瓜の顔を落書きしていたあかりの顔を覗き込む。
「あっかりぃ」
 ハロウィンの定番挨拶を送れば、あかりは照れながらも、可愛いラッピングを解いてアイシングクッキーをミルフィーユが嬉しげに開けた口に届けてやる。ここは楽しむ様子を見せるためにもなりきるべきかと悩んでから、
「み、ミルさんのお口は、どうして……」
 あかりは童話定番の問いを投げかけた。
「それは――」
 ミルフィーユは赤の頭巾をめくり、答えを示すように天使の――あかりの額へ唇を押しつけた。ふにゃりと頬を染めながらも笑んで、優しい狼さんですねと呟いたあかりは、ミルフィーユにとって恋とも違うけれど心底大切で、傷ひとつもつけたくない存在。
「ぁ……じゃあ、俺も悪戯です……っ」
 あかりは、一緒にいるだけでも幸せになれる大好きな友人の手を引いた。そして、隠していた花冠をそっと彼の頭に飾る。驚いた様子で漆黒の瞳を瞬いたミルフィーユが常よりますます可愛く見えて、あかりも幸せそうに笑みを零した。
 リラは星飾りのランプを飾りつけ、公園の樹々にはジャック・オ・ランタンのオーナメントを掛けて彩ったなら、星羅が用意した南瓜色のノンアルコール・スパークリングワインを全員のシャンパングラスに注いで。
「――乾杯、ですっ!」
 合わせて黒い毛並みのウイングキャット、ベガは器用にクラッカーを鳴らした。
「ふふ、ハロウィンは初めて、ですが、こんなに愉しいもの、だったのです、ねっ」
 リラがカナタを振り仰げば、彼も邪気なくころころと笑って、
「僕もこんなハイカラな行事、あんまり縁がなかったから、今夜はすごく楽しいよ」
 と頷いた。
「その仮装、すごく似合ってるね?」
 あまり雰囲気が変わらないというか、良い意味で馴染むというか。クラッカーを鳴らして乾杯した灰に、砂漠の女奴隷風の仮装をした宿利が言う。
「月織の方がよく似合ってると思うが。踊り子みたいで綺麗だな」
 親しい旅団仲間同士ではあるが、いつもと違う格好というのはやはり新鮮だ。美味そうな菓子もありがとよ、と目を細めて灰は彼女が籠から取り出したケーキポップ――お化けや南瓜の形をしたものをありがたく受け取った。この後も気をつけてと彼女が囁けば、頑張ってくると確かに応える。
「カナタも楽しんでるか? 飲んで食べて、よく楽しめ」
「嬉しいなあ! じゃあお言葉に甘えて、たくさん食べちゃうよ!」
 灰の言葉にカナタもにっこり笑って頷いた。
 ハロウィンらしく飾り切りした羊羹などを用意した鵺は、大人向けの飲み物を嗜んでほろ酔いの心地。
「寒くないざんすか?」
 着ぐるみの腕で、恋仲のデジルをそっと包み込むように抱き締める。
 いかにも少女らしい仮装の彼女が応えるように身を委ねてくれば、鵺は「あーん」と彼女の口元にお菓子を運んだ。
「はい、あーん♪ 鵺くん、美味しいー?」
 そしてデジルは精一杯の背伸びと共に、頑張ってね、と愛しい彼にキスを贈った。
「あたしもたくさんお菓子を持ってきたから、交換っこしましょ♪」
 バンリたちは4人はくじ引きで決まった役柄の仮装をしている。清は従者の格好。執事服のように見えるが、鉄の帯に見立てた銀の布帯は、思い切り胸を張るとぱーんと音を立てて弾けるように取れる構造。さっそく兄のように思っているバンリにトリックオアトリートを仕掛けると、バンリは笑顔でチョコレートでハロウィンらしい絵を描いた南瓜マフィンを差し出した。
「今日はめいっぱい楽しむのよ♪」
 花冠代わりに王冠を頭に飾り、髪を高くひとつに結い上げたフロエは王様らしい正装姿で赤いマントを靡かせている。お菓子をあげたり、もらったり。
「蛙を元に戻すには、キスよキス!」
 蛙のスーツ、王冠と赤のマントを身につけた穹は、迫るバンリ姫をタブレットでガードする。親友というかそのような間柄なので対応も慣れたものだ。普段はあまり賑わいの中に身を置くことはないけれど、今日ばかりは悪くないと思える。
 そして宴もたけなわのハロウィンパーティーに、ついに南瓜の姫君が――ハロウィンドリームイーターが現れた。

●宴の前哨
「うふふ、パーティはこれからよ。ね、お姫様」
 寂しいひとりぼっちから連れ出してあげなければ。
「それじゃ、忍術……じゃなかった、魔法をかけてあげるわ~」
 常ならば忍者らしい戦い方を披露するけれど、今日は違う。敵の動きを封じることを主目的として今宵の魔女は符を構えた。ばら撒いた数多の符には鳥居の紋様が描かれているが、これは魔法だ。
「は~い、みんな出番よ~。101匹コンちゃん大召喚~!」
 呼び出された半透明の狐は一斉に敵へと纏わりつき、その動きを止めんとする。その数が正しく101匹かどうかなど数え切れるものではない。
 雛菊が視線を送ればカナタは薄く笑んで頷き返し、地を蹴ると迷わず敵の正面に躍り出た。カナタの刀は空を斬るが、ケルベロスの攻勢は留まるところを知らずに続く。
「遅かったな。パーティーはもう始まってるぜ」
 盾としての役割を果たすべく、灰は駆けた。今は亡き者の怨念が強く残る、禍々しいナイフの刀身に惨劇を映して具現化させる。心の傷跡を直接抉るような一撃に続き、ウイングキャットが翼を羽ばたかせ、清浄なるもので邪気を祓う。
「一緒に、ハロウィンナイトを、いたしましょう」
 大切な、大切な、娘さんの夢。
 煌めく星屑の矢で、撃ち抜いてみせる。
 ベガと共にリラが祈りを重ねれば、その周囲には小さな星々が浮かび上がる。
「愛しい、愛しい、綺羅星よ。どうか、わたしに、力を貸して」
 星の輝きは矢を紡ぎ、奔る矢の狙いは違うことがない。一条の光が駆けた先、星々の謳は飛ぶ鳥を落とすが如くに敵を撃ち落とす。よろしく、ね、と紫の眼差しを向けられたベガはケルベロスたちを庇うような位置に留まり、清らかな羽ばたきを仲間へと齎した。
 モザイクを纏う南瓜のお姫様を、バンリはにっこり笑んで歓迎する。
「今日は、別の誰かに変身できるんだから、ないない尽くしはお休みよ」
 碧白い色味を帯びた剣に、星座の重力を宿す。彼は深く踏み込み、あまねく守護を打ち消す重い斬撃を放った。
「夢は現実にしなくっちゃ、ね?」
 バンリの言葉が終わらぬうちに、エイキチは鉄塊のように巨大な剣を振り上げ、地獄の炎を纏わせる。そして、南瓜の姫君目掛けて思い切り振り下ろした。
 仲間の様子を注視しながら、あかりは戦場に薬液の雨を降らせていく。色の白い彼へと目をやれば、いっそ彼が襲われぬよう庇いたいくらいに思う。耐えるように小さく息を吐いて、再び薬液を用意した。
 彼の眼差しの先にいるミルフィーユは、余裕を崩すことなく遊ぶように対峙していた。白い羽根と花の香を振り撒いて、小さく口づけた指先を己の心臓へ突き立てる。
「傷つけてやるよ。取り返しがつかないくらい、優ぁしく」
 敵が追い込まれつつあると見ての選択だ。ノイズと共に胸を貫く漆黒のレイピアが現れるけれど、今回だって痛みはない。ゆっくりと引き抜かれた刀身は、天使が愛おしむような愛撫で緩やかに白に染まっていく。目を離せなくなれば既に遅く、その切っ先が全てを奪う一撃を繰り出した。
「うひー、あっしは喧嘩なんて怖いでやんすよ~」
 ジサマを勇ましく敵にけしかけつつも、鵺自身は敵の目を引こうと臆したように戦場を動き回っていた。彼はサーヴァントに庇われながら、仲間たちの攻撃を援護するように行使する黒い液体を鋭い槍の如く伸ばしてドリームイーターを貫いた。傷口から汚染が広がりきるより早く、敵はぼふんと音を立てて白煙に包まれる。
 小さな爆発の後――地面に落ちたのは、何の変哲もない、お化け南瓜だった。
 ハロウィンパーティーの会場にしっくり馴染んでいるし、どうも危険なものではないようなので、このままにしておいても良いのかもしれない。
「……奪われた夢、ご本人に帰りやしたかねぇ?」
 鵺はぽつりと呟いた。
「夢を奪われた子が来てくれたら、トリックオアトリートしてあげたいわね♪」
 バンリの言葉にリラも小さく頷いた。
 どうか、かの娘にとっても愉しい夜になりますよう。
「会場へ参りましょう、か。ハロウィンナイトの始まり、ですっ」
「きっとみんな、たくさん笑顔になってくれるよね」
 微笑みかけられたカナタは頬を緩めて応じる。
 あかりは暮れた空に向けて『ハナビジャック』を解き放つ。虹を纏う御業が舞い上がり、空に美しい華が咲く。さあ、待ちに待った平和と復興の旗印――本物のハロウィンパーティーの開幕だ。

作者:市松千恵子 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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