煉華の墓守

作者:朱乃天

 空が茜色に染まる夕暮れ時の頃。
 放課後の校舎では、数人の女生徒達が会話に夢中になっていた。そこへ音も無く、黒いローブを羽織った謎の少女が現れる。
「ねぇ、あなた達、怪談話は好きかしら?」
 女生徒達は少女の不気味な空気に気圧されて、恐れを成すかのように黙って頷くと。少女は薄ら目を細め、一つの話を語り出す。
 校舎の裏手の森の奥深く、そこに古びた祠が祀られている。周りには彼岸花が一面に咲いており、その下には死者が眠っていると云う。
「祠の中では墓守の霊が死者を見守っていて、夜中になると少女の姿になって出てくるらしいわよ。そしてもし、この場所に人が近付けば――」
 少女は一拍間を置き、言葉を飲み込んだ後。声のトーンを低くしながら小さな声で、しかし静まり返った空気に響かせるように囁いた。
 ――死者の眠りを邪魔する者を逃さず捕らえ、花に生き血を捧げるように命を奪い、常世の果てに引き摺り込む、と。
 少女が話し終えると、女生徒達はざわつきながら互いに顔を見合わせる。
 困惑する彼女達を後目に、少女はローブのフードを目深に被り、歪んだ黒い笑みを携えながら去っていく。
 女生徒達が気付いた頃には、少女の姿はもう消えていた。取り残された彼女達は話し合い、悩んだ末に出した結論は――。
「……帰りにちょっとだけ、森の方に寄り道していかない?」
 新たに芽生えた好奇心に誘われる侭、噂の真偽を確かめようと心に決める。
 謎の少女の怪談話が、惨劇の始まりを告げるものとも知らず――。

「彼岸花咲く死者の眠る地に、墓守の少女の霊が顕れる……か。でも、幽霊だったらまだ良かったかのもしれないけどね」
 夢浮橋・密(シュガーリーズン・e20580)が浮かない顔をしながら、口元に手を当て考え込む仕草を見せる。
 怪談話に誘われた女生徒達を待ち受けるのは、幽霊などでは決してない。森の奥に潜んでいるのは、謎の少女によって仕込まれた屍隷兵なのだから。
 玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)は密の言葉に大きく頷きながら、事件についての説明をする。
「この事件を起こしているのは、ホラーメイカーというドラグナーの少女だよ。彼女は怪談話で女生徒達を焚き付けて、屍隷兵に襲わせるつもりみたいだね」
 既に怪談に纏わる場所を探索して行方不明になった者もおり、早急にこの事件を解決する必要があるだろう。
 舞台となるのは、とある高校の裏の森にある、彼岸花が群生している一画だ。屍隷兵はそこに潜んでいるようである。
 怪談話を聞いた女生徒達が事件現場に現れないよう対策しつつ、怪談話に扮した屍隷兵の撃破をお願いしたいと。シュリは重ねて依頼する。
 現場に出没するのは一体の屍隷兵。
 見た目は彼岸花のように真っ赤な髪をした少女の姿だが、その中身は残虐非道な怪物だ。
「敵の攻撃方法だけど、全身から毒の霧を発生させたり、大きな悲鳴を上げて相手を怯ませようとしてくるよ。後は素早い動作で爪攻撃を仕掛けてくるけど、油断だけはしないでね」
 屍隷兵の戦闘力自体は高くはないので、仲間同士で協力し合って戦えば、決して恐れる敵ではない。
 現場に到着する頃は、女生徒達はまだ森の中に立ち入っていない。そこでまず彼女達を森に近付けさせないようにして、戦闘に向かうのが望ましいだろう。
「怪談話で好奇心を煽って命を搾取する……。敵はかなり用意周到且つ狡猾だけど、相手の思い通りにさせるわけにはいかないからね」
 ドラグナーの目論見を打ち砕き、一般人を守ることが自分達に架せられた使命だと。
 シュリはケルベロス達の顔を真っ直ぐ見つめ、この事件の解決を彼等に託すのだった。


参加者
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
夢浮橋・密(シュガーリーズン・e20580)
ブランシュ・エマイユ(春闇・e21769)
セシリア・クラーク(神風ゴシップガール・e30320)
渫・麻実子(君が生きるといいね・e33360)
八久弦・紫々彦(雪中花・e40443)

■リプレイ


 彼岸花咲く地に眠る死者。その魂を護る筈の墓守こそが、死者を模した怪物なのだった。
 いかにもよくありそうな怪談話を創り上げ、興味に誘われて来た者を襲って命を喰らう。
「わざわざ場所を選んで、それっぽい相手を配置して。手の込んだことをしますねえ」
 この一連の事件を計画している元凶は、随分用意周到な相手だと。レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)は半ば感心し、半ば呆れたように小さく溜め息を吐く。
 怪談話と屍隷兵を組み合わせ、それらを利用し人を襲わせる。事件の黒幕はかなり狡猾で計算高い相手だが、今はまずこの任務の解決に全力を注ぐのみである。
「怪談話で人を呼び寄せる……人の好奇心は恐ろしいですね。怖いもの見たさ、という気持ちは分からなくもないですが」
 しかしそうした好奇心が命を落とす切欠となってしまうことだけは、絶対に止めなければならない。
 ブランシュ・エマイユ(春闇・e21769)は既に出ている行方不明者の身を案じつつ、現場に出没する屍隷兵はもしかして……などと嫌な予感が頭を過り、そこから先は考えないよう口を噤んで言葉を閉ざし、物憂げに褪せる瞳で森の奥深くをじっと見る。
 件の女生徒達はこの周辺には見当たらないようだ。彼女達を決してここに近付けさせないよう、レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)が殺気による結界を張り巡らせる。
「彼岸花の下に眠る死者を見守る墓守さん……噂そのものは嫌いじゃないの」
 でも綺麗な彼岸花に生き血を捧げるなんて、無粋だと。夢浮橋・密(シュガーリーズン・e20580)は怪談話に眉を顰めつつ、周囲に立入禁止テープを貼って人払いをする。
「好奇心は猫をも殺すという言葉もあるからな。寄り道せずに帰ってくれるといいのだが」
 もしも女生徒達が紛れるようなら、隣人力を活かして去ってもらおうかと八久弦・紫々彦(雪中花・e40443)は備えたが。その心配は杞憂に終わりそうである。
「どうやら誰も近付く気配はないみたいっスね。後は今のうちに倒しに行くだけっスよ」
 守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)は仲間達が人払いの対応を行っている間、常に周囲を見張って警戒の目を光らせていた。その一騎の言葉を確認し、一行は更なる森の奥へと足を踏み込んでいく。
「Wunderbar! ここは正に冥府と現世の境の場所って感じだぜ」
 一行を出迎えたのは、漆黒の闇夜の中に、赤い花の群れが一面に広がる光景だ。そこへ空から月の光が降りてきて、深緋の花を照らす幻想的且つ蠱惑的な情景に、レンカは驚きと感動の余り感嘆の声が漏れてしまう。
「へえ……彼岸花か。凄みのある、それでいて儚げな美しさ。本当に、『何か』が出てもおかしくないかもね」
 怪談話の類が苦手な渫・麻実子(君が生きるといいね・e33360)ではあるが、その彼女ですらも、夜の森に浮かび上がる色鮮やかな赤い世界に心惹き付けられていた。
 彼岸花が咲く理由は、そこに眠る人を護る為。深い夜の闇に抱かれて、追憶の火を灯すが如く咲き誇る。だからその色は、生き血を捧げたなんて不快なものでは断じてない。
 セシリア・クラーク(神風ゴシップガール・e30320)の緑の双眸が、真剣味を帯びて闇に蠢く何かを睨め付ける。この地で贄を求めて待ち受けていた異形、怪談話に擬えた屍隷兵が番犬達の前にその姿を現した。
「……僕達が、誰も殺させない。だからせめて安心して、眠って欲しいんだ」
 セシリアの決意を秘めた囁きに、ケルベロス達は頷きながら武器を手にして身構える。
 人の命を奪うことを目的とした、偽りの怪談話を終わらせる為――美しくも哀しき戦いの幕が切って落とされた。


 彼岸花と同じような赤い髪。緋色の花の群れに佇む少女は、天蓋から射し込む月明かりを浴びて、妖艶な姿を醸し出す。しかし彼女の身体には、醜く継ぎ接ぎされた痕が生々しく残る。
 生前は可憐な少女であったかもしれないが、今は怪物に変わり果てた哀れな存在だ。元がどうあれ倒すべき敵に変わりはないと、レベッカは躊躇なくアームドフォートを構えて狙いを絞る。
「――捉えました」
 砲塔から戦いの始まりを告げる号砲が放たれる。撃ち込まれた一条の光線に、屍隷兵は反応して躱そうとするが避け切れず、脇腹に灼けつくような痛みを浴びてしまう。
 屍隷兵の少女は走る痛みに若干顔を顰めるが、すぐに身を翻して反撃を開始する。少女はケルベロス達を近付けさせまいと、全身から澱んだ毒香を含んだ瘴気を発生させる。
 戦場を包み込む濃紺色の霧。身体を蝕み死に至らしめようとする毒の脅威に対抗すべく、ブランシュが薬液の瓶を取り出し上空目掛けて振り撒いた。
「この綺麗な場所を穢すような真似はさせません」
 散布された薬液は癒しの雨となって降り注ぎ、醜悪なる瘴気を瞬時に打ち消していく。
「『少女』ならもう眠る時間だぜ。余り騒いだら、死者も起きちまうだろ?」
 レンカが巨大な槌を取り回すと大砲へと変形し、魔力を充填。凝縮された魔力の弾が射出され、着弾すると竜が猛るが如き爆発音が轟いた。
「怪談を元にするとは洒落てるね。誰にも迷惑をかけていなければ手放しで褒めたんだが」
 巻き上がる土煙に紛れるように、紫々彦が間合いを詰めて斬りかかる。惨殺ナイフに空の霊力を込め、刃を走らせ傷痕に重ねるように斬り付ける。
「手加減はしないから。君の偽りの生命は、ここで終わらせる」
 オウガメタルを纏った麻実子の全身が、鋼と化して荒ぶる鬼迫を滾らせる。拳に力を溜めて弓のように引き絞り、放たれた強力な一撃は少女を吹き飛ばし、緋色の花弁が宙に舞う。
「御機嫌よう墓守さん。煉華の髪が月明かりに映えて綺麗だこと」
 麻実子に続いて、軽やかに跳ねて空高く舞う密。闇に溶け込むような黒い翼が月に照らされて、悪魔の如き異質な形が背徳的な影を映し出す。月光纏いし密の、重力を乗せた蹴りが華麗に命中し、敵の動きが一瞬よろめいた。
「……アンタは一体、どういう気持ちで俺達と戦ってるんスかね」
 一騎はどこか憐れむように呟きながら一瞥し、黒い残滓で少女を包んで捕縛する。
 屍隷兵にされた少女が抱く感情は、果たして怒りか悲しみか。もし激情や恨みを持って攻撃してくるのなら、全てを吐き出させてここに捨て去っていってほしい。
 銀色の炎が灯る一騎の右眼には、煉華の髪の少女はどう視えただろうか。少しでも彼女を救いたいという想い、例えそれが傲慢な自己満足だとしても――。
 もはやただの屍でしかない少女。彼女の虚ろな眼窩に宿る光は、憎悪に塗れた昏い殺意。まるで命ある者を妬むかのように、激しく叫んで怨嗟の声を響かせる。
「本当は、人を殺したくないって思ってるんだよね。とても辛くて苦しくて……その無念、僕達が必ず晴らしてあげるから」
 セシリアの想いに応えるように、オウガメタルが眩く光り輝いて。全身から溢れる光の粒子が、仲間に勇気を齎し闘争心を研ぎ澄ます。
 次いでウイングキャットのぽちが白い翼を羽搏かせ、清浄なる風を起こして邪気を掻き消していく。屍隷兵の嘆きに満ちた慟哭も、ケルベロス達は怯むことなく積極果敢に攻め立てる。
「その程度では、私達の心は縛れません」
 レベッカは距離を保ちながら敵の動きを見定めて、バスターライフルのトリガーを引く。放たれた光線は、七色の光を帯びて軌跡を描き、レベッカの正確無比な射撃は少女の肩を抉るように撃ち抜いた。
「見た目は可憐だが、中身は獰猛だ。その調子では、女友達はできそうにないな」
 戦いに興じる紫々彦の、口元から不敵な笑みが思わず漏れる。相手を揶揄うような口振りも余力があればこそ。紫々彦は相手の足が止まった隙を突き、素早く駆けて音速の蹴りを叩き込む。
「私も援護します」
 回復役を担っていたブランシュも、押している今が攻め時だと判断して攻勢に出る。彼女の腕に巻き付く攻性植物が、伸ばした蔦を屍隷兵の少女に絡ませて、侵食するかのように少女の四肢を強く締め付ける。
 元は骸であった少女の中に詰まっているものは。ほんの些細な好奇心と、大きく孕んだ絶望的な恐怖心。小さな咎が産み堕とした残酷なる悲劇、その忌まわしき枷が死しても尚少女に重く圧し掛かる。
「ソイツらすげー重たそうだから、俺が解放してやるよ。ついでにお前もな――」
 レンカが魔法で創った鋏を手にして、少女の腹部に突き立てる。鋏は少女の身体を透過して、慈悲の刃が断つのは少女を犯す罪と罰。
 酷薄な笑みを浮かべるレンカが一度鋏を入れる毎、少女は腹を裂かれるような激痛に顔を歪めて身悶える。


 操られるが儘の魂無き骸。そこに自我はなく、生者に対する憎しみが詰め込まれただけの憐れな容れ物。
 姿形は少女であれど、中身は全く別の悍ましい怪物でしかないと。理屈は分かった心算でも、『ソレ』を少女としか見れないことが、一騎の心を悩ませる。
 煉華の少女が鋭利な爪を振り翳して迫り来る。だが一騎は一歩たりとも退こうとしない。彼女の痛みを知る為に、例えこの身が傷付いても全てを受け止めようと覚悟して。
 憎悪に満ちた少女の爪が、ウェアライダーの少年に傷を刻み込む。それでも彼は踏み止まったまま、気力を奮い立たせて耐え凌ぐ。
「俺は――まだ、戦える」
 少女を救える方法は、この怪物を倒して人の尊厳を取り戻すことだけだ。黒い波紋が傷を塞いで流れる血が止まり、一騎は瞳に強固な意志を宿して相対する少女を凝視する。
「――咲かせましょう、火の花を」
 ブランシュの心の内に渦巻く地獄の炎。それは途切れた記憶の闇に射し込む、陽光にも似た東雲色をして。仄かな優しい温もり感じる焔の花は、仲間の周囲に朝焼け空の紗幕を纏わせて、蔓延る不浄の力を灼き祓う。
「貴女を思い、貴女に仕え、貴女に尽くします。この身、この祈りは貴女のために――」
 セシリアが捧げる祈りは、戦女神への献身的な不変の愛。今はこの世にいなくとも、心は常に共に有る。セシリアの光の翼が力を増して煌めいて、一途な想いは仲間に癒しを施していく。
「ここでの怪談話は、これでおしまいです。これでも喰らいなさい」
 敵を追い詰めたなら後は排除するのみと、レベッカは淡々と語りながら手持ちの武器を取り換える。ガトリングガンに魔力を注ぎ込み、銃弾は炎の雨となって少女の身体を貪るように食い千切る。
「死して尚弄ばれる可哀想な君より、生前確かだった君を想っていたいから……。そろそろ消えて失せようか」
 麻実子が気配を消して敵に近寄り、気が付けばいつの間にか隣に立っていた。人差し指を銃のように少女の頭に突き付けて、圧縮させた魔力がその一点に集束されていく。
 ――ありがとう。そして、さようなら。
 別れを告げるように撃ち出された気の弾丸は、的を外すことなく少女の頭蓋を貫いて。血飛沫の花が弾けるように舞って散り、麻実子の頬を朱に濡らす。
「この花の下でなら、“本物の墓守さん”が見守ってくれるから。だからもう……おやすみなさい」
 密の薄紅色の瞳の中で、揺れ落ちていく赤い髪。崩れかかる少女の身体を、密が両腕伸ばして抱き止めて。耳朶に囁き紡ぐ言の葉は、少女の御霊を常世に誘う明晰夢。
 手にした花を千切ると紅い花弁が散り落ちて、煉華の少女の命の灯が燃え尽きていく。
『これは、わたしの傲慢が生んだ――、』
 花が凡て散り終えた時、少女は花弁の泉に埋もれるように横たわり。血溜まりに沈む身体は死の世界に呑み込まれ――淡い光に包まれながら、跡形残らず消え果てた。

 一拍の間を置いて、戦場は静謐なる空気に包まれる。戦いの終わりを知らせるように風が吹き抜けて、戦士達は束の間の安らぎを得るのであった。
 張り詰めた緊張感から解き放たれて、改めて周囲の景色を見渡せば。彼岸花が群生している赤い世界が広がって、紫々彦はその光景に圧倒されて息を呑む。
 そこにあるのは常世に迷い込んだような退廃的な美しさ。鮮烈に燃える紅の花言葉は――『想うのはあなたひとり』だったかな。そんな風に麻実子が微笑むと、密は一輪の彼岸花を摘み取って、ショコラ色の髪を掻き上げながら左耳の上の部分に宛がった。
「……似合うかな」
 誰に言うともなく零れた想い。セシリアは優しく眼差し向けながら、彼女の心に届けるように囁いた。
「密ちゃん……似合うし、綺麗だよ。すごく」
 その一言が何よりもとても嬉しくて。感極まった密の瞳から、熱い雫が流れて頬を伝う。
 彼岸花は自分にとって“大切な”花だから。泣き濡れる少女の心を宥めるように、麻実子が彼女の髪にそっと手を添える。
 森は静かで密やかで、何もかもを人の目から隠してくれる。だから今だけは――。
 一騎は儚く消え逝く煉華の少女に瞑目し、少し寂しそうな顔を浮かべつつ、奥に佇む祠に手を合わせて冥福を祈る。
 彼女がどういう気持ちで死を迎えたか、それは誰にも分からない。けれどもこれで漸く人として、安らかに眠れることができるだろう。
 願わくば、その魂が安寧の地に導かれんことを――。
 物語の切欠となった怪談話が、奇しくも現実のものとなってしまう。
 運命に翻弄されながら、彼岸花咲くこの地で眠りに就いた一人の少女。運命は時に残酷で皮肉だと、ブランシュは少女が倒れた場所に向かって目を伏せる。
 その奥にある古びた祠は、本当に墓守の霊が宿っているのかもしれない。もしかして、自分達をこの森に導いたのも――これも不思議な巡り合わせと考えながら、ブランシュは手を組みながら黙祷し、少女の死を悼むのだった。
 微風に揺れる深緋の花は、魂送りの火が焚べられたかのように幽玄的で。レンカの赤い瞳も景色と同化するように、心は黄泉路の境界線を彷徨い歩く。
「また会う日を楽しみに、か……」
 普段は強気で勝気な彼女も、この時ばかりは想いに耽り、移ろう視線の先に朧気な影を視る。レンカにとって懐かしさを覚える記憶の残像は、泡沫の夢のように霞んで消えて。
 ――あれはきっと祠の霊が逢わせてくれた幻なのだと、そう心に言い聞かせつつ。
 彼岸花を見つめるその顔が、ほんの微かに綻んだ。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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