弱虫ヘラクレス

作者:犬塚ひなこ

●白獅子の爪
 何かに引き寄せられるように、彼はその場所に辿り着いた。
「ここは……?」
 或る洞窟の入口にて、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は自分が抱いた予感が正しかったことを知る。其処は洞窟全体がモザイクに覆われた場所だった。
 ワイルドハント、という存在が脳裏に過ぎる。
「中を覗くのは怖い――けど、逃げるわけには行かない!」
 レオナルドは自分を奮い立たせ、意を決して暗い洞窟の中へと踏み込んだ。モザイクの中は元の地形がバラバラにされて混ぜ合わされたような奇怪な場所になっていた。しかも周囲は纏わりつくような粘性の液体に満たされている。
 だが、不思議と動きや声は制限されておらずレオナルドは辺りを見渡した。
 すると――。
「このワイルドスペースを発見できるとはな……この姿に因縁のある者なのか?」
「……!」
 突如として真白な獣が現れ、レオナルドを睨み付けた。思わず後退った彼は目の前の存在に目を見開く。その姿はライオンそのもの。白く染まった毛並みも黒く鋭い爪も自分によく似ていた。否、自分そっくりだったのだ。
 上手く言葉を紡げないレオナルドを余所に、それは身構える。
「ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかない。お前は、ワイルドハントである私の手で死んでもらわなければな!」
 今にも襲い掛かって来そうな相手にレオナルドは震えていた。
(「怖い……怖くて仕方がない。手も足も震える……。――それでも!」)
 だが、先程に逃げたくないと口にしたばかりだ。
 レオナルドは大太刀・稻羽白兎を手に取り、しかと構えを取る。戦うことは怖くて怖くて仕方がない。それが自分の姿をしたモノであるならば尚更だ。
 されど彼には戦う理由があった。
 あの魔女達との決着を付けるまでは死ぬわけにはいかない。それも自分に負けるなど言語道断だ。そして、密かな決意と共にレオナルドの戦いへの意思が巡った。

●ワイルドハントの襲撃
「皆さま、レオナルド様がピンチなのでございます!」
 ワイルドハントの調査に向かっていたケルベロスが襲撃を受けたと話し、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は仲間達を集めた。
 或る洞窟に巣食っていたドリームイーターは自らをワイルドハントと名乗っており、其処をモザイクで覆って何らかの作戦を行っていたらしい。このままだと襲われたレオナルドの命が危険だ。急ぎ救援に向かうと告げ、リルリカは番犬達をヘリオンにいざなった。
 現在、敵とレオナルドは交戦状態にある。
 不思議なモザイクに覆われた洞窟内に突入するとすぐにワイルドハントと交戦する彼を発見できるだろう。
「敵は白獅子の姿をしたドリームイーターが一体のみです。ですが、かなりの力を秘めているので気を付けてくださいませ」
 敵はレオナルドが暴走した時の姿をしているが、その能力や性質などはまったくの別物だ。黒爪での引っ掻き、咆哮を響かせる攻撃、そして尻尾の地獄めいた炎を飛ばす一撃。どれもが強力であると伝えたリルリカはぐっと掌を握る。
 たった一人で戦っているレオナルドはかなり消耗させられているだろう。救援に入ったとき、どのように彼をフォローするかも大切になってくる。連携を密にし、誰がどの役割を担うかが勝利と救出の鍵となるはずだ。
「敵はワイルドの力を調査されることを恐れているのかもしれません。ですが、今はレオナルド様をお助けすることが先決です。皆さま、よろしくお願いします!」
 そして、リルリカは件の洞窟前に着いたと示す。
 モザイクの先に待ち受ける敵は手強く厄介だ。それでも、歴戦のケルベロス達ならばきっと彼を助け出してくれる。そう信じているリルリカの瞳は何処までも真っ直ぐだった。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)
斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)

■リプレイ

●白き獅子
 鋭い牙と爪、獰猛さを宿す赤い眼差し。
 真白な獅子の咆哮が響き渡る中、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は果敢に戦い、身体中に駆け巡る痛みに耐えていた。
「ワイルドハントと名乗ったか。何処まで持ち堪えられるか……」
 ああ、知っている。
 あの姿は俺だ。あの日、魔女から、恐怖から、全てから、背を向け逃げ出した。
 ――俺の姿だ。
 鏡映しの己を見ているような感覚の最中、大太刀を構え直したレオナルドはふらつきそうになる。そうさせる要因は傷だけではなく、裡に秘めた恐怖の所為でもあった。
「いや、ここで諦めるわけにはいかない!」
 しかし、地面を踏み締めたレオナルドは奮い立つ。意気込み直した勢いに乗せて地を蹴り、跳躍した彼は斬霊の一閃を振り下ろした。
「小癪な、さっさとやられてしまえばいいものを!」
 されど敵はその刃を弾き返し、鋭い爪でレオナルドを八つ裂きにしようと迫る。
 そのとき、
「させないよ――!」
 敵と彼の間に虎丸・勇(ノラビト・e09789)が身を滑らせ、爪撃を受け止めた。
 肩口から血が流れて激しい痛みが巡る。だが、勇はすぐさま両手で印を結んで分身の術を発動させた。その隙を狙って敵の真横に回り込んだウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)とクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)が素早く斬り込む。
 月光を宿す一閃と地獄の焔によって獅子が揺らぎ、此方から距離を取った。
「ハイ、ケルベロスのおかわりが到着だぜっと」
「やぁ、これは随分と立派な獅子殿だ」
「皆さん……!」
 ウィリアムとクロハが敵の前に立ったこと、レオナルドは仲間の到来を悟る。疲弊している様子の彼に向け、左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)とメイア・ヤレアッハ(空色・e00218)が癒しの力を紡いだ。
「結城、遅れてすまない」
「レオナルドちゃん、もう大丈夫よ。私達が来たもの」
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
 医療魔術を施す十郎と気力を分け与えるメイアの二人にレオナルドが応える。
 その声を聞いた勇は一先ずの安堵を覚え、ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)も静かに頷いた。
「よくここまで耐えたね。私などよりよほど勇敢だよ」
 賞賛の言葉を贈ったジゼルは敵に向き直り、雷魔の壁を張り巡らせてゆく。斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)は此処からが本番だと口にし、敵を見据えた。
「いざ華やかに参りましょうか」
 轟竜の砲撃がワイルドハントを真正面から貫き、重い衝撃を与える。敵は低く唸り、救援に集ったケルベロス達を見回した。
「何だと……?」
「残念だったな、八対……や、十対一が正しいか?」
 ウィリアムは口の端を軽くあげ、メイアの匣竜であるコハブと勇のライドキャリバーであるエリィを示した。
 体勢を立て直すレオナルドを朝樹と十郎が支える最中、メイアは問いかける。
「偽物さん、偽物さん。どうしてその姿を取っているの?」
 しかし、獅子は鋭い眼差しで此方を睨み付けるだけ。元より答えは期待していません、と口にしたクロハは敵を見つめ返す。
「では、こちらで勝手に正体を暴かせて頂きます」
 そして――容赦はしません、と紡がれた言の葉が終わった瞬間。偽の白獅子を包み込むかのように黒き槍の切先が宙を舞った。

●黒き尖爪
「ここからは反撃の時間だ、いくぞ!」
 レオナルドは太刀の切先を敵に向け、雄々しく叫ぶ。
 其処から放たれた一閃に勇が続いた。エリィに仲間の盾となるよう願った勇はナイフを逆手に持ち、戦場を駆ける。
「悪いけど、じっとしててね」
 刃に纏わせた螺旋の雷が相手の身体を伝い、鋭い痛みを与えた。
 戦うことが怖い。その点において勇とレオナルドの性質は似通っていた。見た目に反して胸の裡は臆病者。勇とて自分の心を知っている。だが、レオナルドは勇猛果敢に戦っていた。自分もそうありたいと奮い立つ勇の眼差しは鋭く強い。
 仲間が放つ一閃に合わせてウィリアムが地面を蹴った。
「しっかし、見れば見るほど妙だ。さっくり済ませておさらばしたいトコですよ」
 空間内は天地が逆さまになっている個所もあり、方向感覚が狂う。長居したくない雰囲気だと零したウィリアムは流星を思わせる蹴りを敵に見舞う。
「まったくだね。全面的に同意するよ」
 更にジゼルは魔鎖を展開して再び仲間の援護に入った。どーも、と軽く笑って礼を告げるウィリアムにジゼルも視線を返し、続く戦いに備える。
 敵も後列に狙いを澄ませ、獣爪の衝撃でひといきに穿とうとした。だが、十郎が素早くクロハを庇い、勇とエリィがそれぞれにメイアと朝樹を護る。
「あの獣……姿だけ借りたと言うか」
 まるで数ある選択肢から適当に拾ってきたような――。
 間近で敵を見た十郎はそんな印象を受ける。されど今は考察を行うよりも襲い来る敵を倒す事が先決だ。
 しかと相手の動きに注視しながらも、十郎は癒しの薬雨を戦場に降り注がせる。
 自らの暴走した姿と戦うという状況。
 唸る白獅子と対峙するこの光景をレオナルド本人はどう感じているのだろうか。太刀を手にして立ち回る彼の姿を見つめ、朝樹は心境を慮る。
 何れにしろ複雑な気持ちに違いないと考えた朝樹は、改めて敵を見据えた。
「目的の知れぬ悪しき魔に利用されるのは論外。なれば打ち倒す一助となりましょう」
 禁縛の呪を紡いだ朝樹は一気に敵を穿つ。
 その衝撃でワイルドハントが揺らいだ隙を狙い、メイアとコハブが回復援護に入った。メイアが地面に魔鎖で陣を描く中、まだ傷の残るレオナルドに匣竜の癒しが施される。
「元気になぁれ。勇気もギュギュッとお届けするね」
 守護の力を広げたメイアはコハブに仲間の後押しを続けるように伝えた。軽快に翼を揺らした匣竜が、了解、といっているかのように感じたクロハは双眸を緩やかに細める。
 しかし、クロハはすぐに鋭い眼差しを敵に向けた。
 ワイルドハントの力はまだ十二分に残っている様子。クロハは地面を蹴った勢いで飛びあがり、ひといきに敵に肉薄する。
「まったく、状況が落ち着かないのも考え物ですね」
 溜息交じりの言葉と共に指先が敵の毛並みを撫ぜた。途端に気脈が断たれ、敵の動きが僅かに鈍る。
「ぐ……なんて威力だッ!」
 偽獅子は思わず呻き、クロハを睨みつけた。
 其処に生まれた好機を見逃さず、ウィリアムは掌に淡く明滅する光を集わせる。白獅子にそれを叩き込むべく距離を詰めた彼はふと思う。
「自分みたいな奴と戦うってのは、ぞっとしねェな」
 きっと、そいつを倒すのは間接的に自分の死を見るようなものだ。
 もし自分の姿をした者がもう一人いたならば、と考えたウィリアムは左手の薬指に光る指輪に視線を落とした。光を受け、きらりと煌めくそれは――。
 瞬刻。いや、と首を振って思考を振り払ったウィリアムは幽き光を解き放つ。
 メイアもはたとして想像した。
「自分のそっくりさんに会うってどんな感じなのかしら。ドッペルゲンガーみたいな感じ? おばけみたいでちょっと怖いかも……」
 ふるふると自分の肩を抱いたメイアは、怖さを弾き飛ばす為に爆破スイッチに手をかける。次の瞬間、ぽちっという音と共に爆風が巻き起こる。
 仲間からの鼓舞の煙を受け、レオナルドは自らが立つ布陣を変えた。続けて素早くエリィに跨った勇は敵に狙いを定める。
 ケルベロスとして戦い始めてから戦いに対する恐怖は少しずつ薄れていた。しかし、今のような敵が現れた場合、自分ならどうするだろう。
「エリィ、遠慮はいらないよ。突撃!」
 未だ答えの出ない疑問を抱きながら、勇は愛機と一緒に螺旋の拳を叩き込む。
 鋭いエンジン音が響き、炎と衝撃が舞い散る中でジゼルと十郎は頷きあった。やや押しているといえど敵の攻撃は強力だ。
 身体に残る微かな痛みも取り払おうと決めた二人は癒しに入る。
「俺は全体を、そちらは個人を頼む」
 十郎が告げた回復の指針に同意し、ジゼルはわかったと答えた。十郎は薬の雨を降らせ、ジゼルは旧き精霊魔法によって召喚した妖精に願う。
 それぞれが力を解放していく中でジゼルは不意に敵に声をかけた。
「それにしても、これはハロウィンの祭りの前準備なのかい」
「何のことだ?」
 ワイルドハントの亡霊さん、と呼びかけてかまをかけてみたジゼルだったが、敵の反応は薄かった。とぼけているのか、それとも本当に見当がついていないのか、どちらとも取れない答えは判断しがたい。
 しかし、そのような反応も想定済み。
 仕方ないと十郎は首を横に振り、クロハも更なる攻勢に入ってゆく。
 敵を映す黄昏めいた彩の瞳の奥には煉獄が宿っている。奈落の底めいた目でしかと敵を捉えたクロハは告げる。
 ――お前には屠られる運命が待っている、と。
 大きな衝撃が白い毛並みを貫いた瞬間、ワイルドハントの身体がぐらりと傾いだ。其処へレオナルドが駆け、炎を纏わせた稻羽白兎を振るいあげる。
 思い返すのは畏怖に満ちた過去。
 今、此処で巡るのは自分にとっての戦い。利用されたに過ぎなくとも、あの日の自分と、自身の恐怖に別れを告げる為のものに違いない。
「俺は過去と決別するために……ここで、決着を付ける!」
 猛り吼えるような決意の声が響き渡り、激しい焔が敵を貫いた。
 ジゼルはその一撃が転機になったと感じ、ウィリアムもやりますねぇ、と口笛を吹いて賞賛する。朝樹もまた、レオナルドの決意を感じ取った。
「背中は任されます。ですから、どうぞ真っ直ぐに対峙なさってください」
 最後まで仲間を支え続けると決め、朝樹は穏やかな笑みを湛える。そして、優雅な所作で掌を掲げた朝樹は薄紅の霧を周囲に満ちさせた。
 纏い付く霞柵、逃れえぬ混沌。不明瞭な視界は敵を惑わせ、そして――。

●刃に誓う
「おのれ、ここまでとは……」
 白獅子から苦しげな声があがり、戦いは佳境に入った。
 勇とエリィ、十郎は仲間を守りながら癒しを続け、メイアとコハブが二人が倒れぬように気を配る。他の仲間に攻撃が及んでも其々が補助しあい、戦いは進んだ。
「何があろうと尽力しましょう、仲間の為にも」
 我々はケルベロスですから、と薄く笑んだクロハは皆に合図を送る。敵が弱りきった今こそ畳みかけるべきだ。
 クロハの視線を受けたウィリアムは前を見据え、打刀に光を纏わせる。
「立派なライオンさんはちゃーんといるんで凶暴な二頭目はいらねェんだよな」
 そのとき、彼は仲間の眼差しだけでそれが合図と解る自分に気付いた。仲間と戦うのが板についてきたかと感じたウィリアムは軽く片目を瞑り、一気に刃を振り下ろした。其処にすかさずジゼルが連携を重ね、雷杖から魔力を放つ。
(「彼は怖いと口にしながら、一度として敵から目を背けなかった」)
 つまり、それは――とレオナルドを見遣ったジゼル。その思いを感じ取ったメイアも仲間への思いを言葉に変える。
「大丈夫よ、あなたの背中を守る皆がいるもの」
「さて、そろそろ終わりにしようか」
 メイアに続き、十郎もレオナルドに呼び掛けた。
 コハブの体当たりとメイアが放つ神鳴の獣が敵を穿ち、更には十郎が呼び出した闇色の狼の群れが戦場を駆ける。
「道化役は終わりですよ。さぁ砕けて散り逝きなさい」
 疾る群狼が敵を引き裂いた瞬間、朝樹も氷結の槍騎兵を突撃させた。勇はあと一撃でワイルドハントを倒せると感じ、敢えて攻撃の手を止める。
「結城さん、今だよ!」
 最後は彼が決めて欲しいと願った勇。その声を聞き、レオナルドは身構えた。
 この刀に誓ったのは魔女を倒すこと。それを果たすまでは挫ける訳にはいかない。巻き起こされた地獄の焔から生まれた陽炎はまさに獣王の刃。
「終わりだ」
 心静かに紡がれた言の葉はただ真っ直ぐに、終焉の一閃として放たれた。

●勇者ヘラクレス
 獅子はその場に崩れ落ち、苦しげな呻き声を零す。
 刹那、ワイルドハントは忽然と消失し、周囲も何の変哲もない場所に戻った。
「力を失って空間ごと消えたか」
 十郎は冷静に判断して洞窟内を見渡す。メイアも戦闘中に周囲の液体を詰めた小瓶を取り出したが、中身は空っぽになっていた。
「なくなっちゃったの……」
「お持ち帰りはご遠慮くださいってとこですかね」
 ウィリアムは軽く肩を竦めて冗談めかし、メイアを慰める。朝樹は他に何か手掛かりがないかと考えて洞窟とレオナルドの関係を問うた。だが、彼は予感を頼りに偶然に訪れただけであり因縁のある場所でなかったようだ。
 クロハとジゼルは調査は徒労に終わるだろうと判断し、そっと頷きあう。
「さて、答え合わせはいつできることやら。もっともそう遠からず暴かれますよ」
「そうだね、きっと。それよりも……」
 ジゼルはクロハの言葉に同意を示しながら、レオナルドの方を見遣った。大丈夫かと気にする視線に気付いた彼は力なく笑う。
「はは、まだ足も震えてます」
 戦うことも、敵と対峙することも、恐いままだと彼は正直に答えた。
 だが、共に戦った者達は本物の白獅子がただの弱虫などではないと知っている。
「恐怖に負けずに挑んだ強い気持ち、尊敬するよ」
 勇は心から感じた思いを言葉に変え、十郎とウィリアムも静かに頷く。朝樹も、偽物とはいえ自身と立ち向かう姿は勇ましく思えたと告げた。
「獅子殿は誠の英雄かと存じますよ」
 そんな、と首を横に振るレオナルドに朝樹は語っていく。
 弱きは痛みを知っているということ。痛みを知っているのならば、他者の痛みが解る優しさや強さを持っているということに繋がる。
 その言葉を聞いたレオナルドはいつの間にか震えが止まっていたことに気付く。
 きっともう大丈夫。
 たとえ弱虫なままでも、憧れた強さに届かない自分のままであっても、支えてくれる友や仲間が傍にいてくれる。
「皆さん、ありがとうございます」
 たったひとりでは立ち向かえなくとも、共に往く者達が背を押してくれる。
 レオナルドが顔をあげると、あたたかな笑みを浮かべ、穏やかに微笑む仲間達と目が合った。ジゼルは彼は平気だろうと感じて洞窟の出口を示す。
「さあ、長居は無用です」
「では帰りましょうか、我々も」
 クロハも皆をいざない、先を歩いていく。
 行くか、と歩き出した十郎に続く朝樹。エリィを伴っていく勇。うん、と答えてコハブと一緒に駆けていくメイア。早いとこ行きますよ、と手をひらひらと振って呼ぶウィリアム。
 ひとりひとりの背を見つめ、レオナルドはそっと呟いた。
「俺は、一人じゃ無い――だから、」
 その先の言葉は敢えて紡がず、レオナルドは光に満ちた空の下へと歩いてゆく。
 彼こそ十二の試練を越えるべき、勇ましき者。
 少し怖がりで、臆病で、それでいてとても優しい心を持った真白き獅子。己の心と立ち向かい、全ての魔女を倒すことを刀に誓った彼を、人は敬意を込めてこう呼ぶ。

 ――弱虫ヘラクレス、と。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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