九節鞭の武術

作者:なちゅい

●最強の鉄鞭術
 鞭といえば、よく思いつくのは皮製、ロープ状のもの。
 しかしながら、マイナーな部類ではあるが、中国拳法には鞭(ベン)と呼ばれる武器を使った武術が存在する。
 先に述べたロープ状のものではなく、九節鞭などと呼ばれる、短い鉄の棒を輪でつないだ形状のもの。成人男性の身長程度の長さで、短いヌンチャク状のものが繋ぎ合わさった武器だ。
 九節鞭は間合いに入られると弱い点があるが、最大の利点はリーチの長さ。槍に対してすら、その間合いは大きく上回る。
 これを操るのは難しいが、敢えて九節鞭を使って武術を磨く男がそこにはいる。
「…………」
 金属音を響かせつつ、自在に九節鞭を操る男、水口・草太はこれを使った武術を大成させようと考える。古くは暗殺にも使われたという中国武術の一つ。使いこなせれば、武術の高みを見ることができるかもしれないと、水口は人里離れた岩山で日々鍛錬に励む。
 そこに、ゆらりと現れる小さな影。ポニーテールを揺らすその少女は勝気な笑みを浮かべ、水口に告げる。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 すると水口は操られたかのように、少女に対して九節鞭を振るって攻撃を仕掛ける。少女は軽くそれをいなしながら、技を注視していた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 一通り技を見極めた彼女……ドリームイーター、幻武極(げんぶきわめ)はどこからか取り出した巨大な鍵で水口の体を貫いてしまう。
 水口は意識を失ってしまうが、彼に外傷はない。
 その代わりに、水口と似た背格好の男が現れ、自身の武術を確かめるように九節鞭を操る。その度に鞭はモザイクに包まれていた。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極に背中を押された男……新たに生まれた武術家ドリームイーターは小さく頷き、山を降りていくのだった。

 ヘリポートに集まるケルベロス。
 なかなかヘリオライダーが現れないこともあり、メンバー達は歓談したり、スマートフォンを取り出して情報収集したりと時間を潰す。中には、組み手を行い、準備運動する者達の姿もある。
 そこに、一機のヘリオンが降り立ってきた。
「ごめんね。すぐ依頼の説明を始めるよ」
 中から現れたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は、ケルベロスへと謝罪する。別のケルベロスの輸送で遅れたとのことだ。
「鞭使いの武闘家が幻武極のターゲットにされるって聞いたぞー」
 鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)の話に、リーゼリットが頷く。
「うん、話が早くて助かるよ」
 彼女は話すは、ドリームイーター、幻武極による事件だ。武術を極めようと修行している武術家をターゲットとし、襲うのだという。
「幻武極は自らに欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らそうとしているようだよ」
 今回襲撃した武術家の武術ではモザイクは晴れないようだが、代わりに、武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするらしい。
 出現するドリームイーターは、襲われた武術家が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、なかなかの強敵となるだろう。
「幸い、夢喰いが人里に到着する前に迎撃できそうだから、周囲の被害を気にせず戦うことができそうだよ」
 現れる武術家ドリームイーターは、九節鞭という武器を使用する男性の姿をしている。
 身長は平均的な地球人の成人男性並み。デウスエクスとして存在することで、グラビティとして九節鞭を使った攻撃を行ってくる。いずれも遠方から相手を狙う攻撃なのだが、全てのグラビティはモザイクに包まれているようだ。
「現場は島根県某所、人里離れた岩山だよ」
 岩場の広い場所に立てられた小屋の正面は、修行の為のスペースが設けられている。
 そこで発生した武術家ドリームイーターは己の技を他人に見せ付ける為、人里を目指して移動を始めているようだ。
 だが、険しい山道を降りる必要があり、すぐに人里へとたどり着く状況ではない。戦後のヒールを考えるなら、山道で迎え撃つことで人的被害を考慮せずに戦うことができるだろう。
「ドリームイーター撃破後は、幻武極によって倒された男性の介抱とフォローをお願いしたいかな」
 先に説明した修行スペースで男性は倒れたままだ。襲われた記憶はほとんどないようだが、その彼に事情を話すなどしてフォローがあるとよいだろう。
「九節鞭……ボクは初めて聞いたよ。武術というのは奥が深いものなんだね」
 広く武術に興味を持つ幻武極は気になるが、先に現れた武術家ドリームイーターを対処せねばならない。
「ケルベロスとして、負けられない相手だね」
 夢喰いに土など付けられるわけには行かない。リーゼリットは参加するメンバー達に対し、必勝を願うのである。


参加者
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)
守部・海晴(空我・e30383)
鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)

■リプレイ

●目にしたことのない武術
 島根県某所に降り立つケルベロスは、山道を登っていく。
「『武術』を奪ってモザイクを晴らすか……」
 肩まで伸びた赤い髪と、日に焼けた健康的な肌を持つナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)が呟く。奪った人の褌で相撲をとったところで、どうにかなるとは思えない、と。
「さて、あまり慣れていない武術が相手だね」
「九節鞭、か。生で見るのは初めてだ、どんなモノだか楽しみだな!」
 天真爛漫なレプリカントのルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)の言葉に、着物を纏うインド人、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)が言葉を返す。
 ラジュラムは先ほど、コンビニで買ったカップ酒と焼き鳥を口にしており、ややほろ酔い気分。彼曰く、ガソリン補給との事である。
「九節鞭なんて面白い武器もあるんですね……」
 篠村・鈴音(焔剣・e28705)はメガネを吊り上げながら興味を示すが、剣術を操る自身にはとても使えそうにないと首を振る。
「うふふ。鞭、鞭!? いいわね!」
 柔和な表情を浮かべるユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)はにこにこと上品に笑う。
「一見、不合理で殺傷力に欠けた武器――けれど、それを突き詰めて極めようとした武術の精髄。きっときっと、とても美味しいことでしょう」
 ただ、その本音がだだ漏れになっており、ユリアは期待を抑えきれない様子だ。
「ケルベロスの武器に、完全な鞭ってのはないんだよなー」
 頭に竜の角を生やした鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)は普段面倒くさがりな性格だが、それなりにやる気を見せる。
「それっぽい使い方するやつならあるんだけどなー」
「九節鞭。性質としてはケルベロスチェインか、如意棒が近そうだな」
 万里矢の言葉に続き、一見、無表情の地球人と思える容姿のレプリカント、ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)が武器の例を挙げる。彼は相手の使う技に興味を持ち、可能ならば自らの技に組み込みたいと考えていた。
「武道を嗜む者なら、九節鞭という武器の扱いがどれだけ難しいか分からないはずはない」
 そのハートレスの顔見知りである守部・海晴(空我・e30383)は敢えてそれに挑み、極めようとする青年に驚きを隠せない。
「不謹慎だけど、ドリームイーターとは言え達人との手合わせ、胸が躍る気持ちだね」
 マイペースな印象の海晴は傷痕のある左腕を見せつつ、腕を鳴らす。
「しかしながら、脅威であることは違いない。油断しないでいかないと」
 己の信じる正義の為、ルージュは現れるドリームイーターの撃破を誓う。

 山道を登っていたメンバー達は、その途中で足を止めた。
 できるなら、この山道で相手を出迎えたいところ。鈴音もナクラも索敵を続ける。
 事前のアドバイスどおりならばとラジュラムが道の先に視線を向けると、そいつはゆっくりと山道を降りてきた。海晴、ルージュが身構え、そいつを出迎える。
「よぉ、水口のドリームイーター。暴れるなら付き合うぜ」
 ナクラの呼びかけに、水口・草太と思しき姿の武術家が九節鞭を取り出す。一度地面を叩き付けた際に鞭がモザイクに包まれたところから、ドリームイーターに間違いはないだろう。
「リーチの長さは厄介そうだなー」
 万里矢の独り言に、海晴が頷く。
(「懐に飛び込まれたら面倒、という事はベースとなった水口さんも充分理解してるはず……」)
 鞭は遠距離に力を発揮する武器。その分間合いを詰められると不利になってしまう弱点を持つ。
(「この模倣体はしっかり留意して、立ち回ってくるか……な?」)
 そんな予想を立てていた彼は合掌して一礼し、戦いに臨む。
「お前が盗んだ夢、取り返させてもらう」
「相手は達人だ……心して参るぞ!」
 ハートレス、ラジュラムも自身の立ち位置につき、目の前のドリームイーターに対してグラビティを繰り出すのである。

●九節鞭を操る武術家
 山道で武術家ドリームイーターを迎撃するケルベロス達。
 敵は九節鞭を操り、変幻自在の軌道で乱舞させてこちらの足を止めてこようとする。
「まずは、搦め手で攻めましょうか……。はあああっ!」
 前線メンバーがモザイクで包まれた鞭を浴びる少し後ろから、高く跳びあがる鈴音が叫びながら流星の蹴りを叩き込む。
 海晴も一歩引いた位置から、グラビティを発していた。
 その体に燃え上がるはずの地獄の炎は見ることができないが、彼が繰り出す回し蹴りは確かに炎を伴っており、打撃箇所を燃え上がらせる。
 前線で鞭を抑えていた万里矢は軌道の読みにくい武器ということもあり、翼で前線を覆うようにして防御メインの態勢で立ち回っていく。
 回復も重視してはいたが、鞭の連撃の合間に飛び出す万里矢は強烈な回し蹴りを相手の腹に浴びせかけた。
「続くよ!」
 隣で同じく九節鞭を浴びせていたルージュも地獄の炎を燃え上がらせながら、敵に対して「Die Sterntaler」の刃からモーター音を唸らせた。
 僅かに怯む夢喰いへ、ユリアが間髪入れず仕掛ける。
「鞭の速度は、離れれば離れるほど増す……となれば、少しでも近付くべきかしらね」
 落ち着いた様子のユリアはにこにこと笑顔を浮かべ、敵の鞭の合間を見て飛び込む。
 微妙にズレた発言をするユリアは感じるままに数打ちの刀を操り、雷を纏わせた突きを打ち込んでいく。
 一児の母であるユリアは、その内に斬り合いを心から愛する剣鬼としての本性を持つ。今、この一時はそれを垣間見せながら、彼女は思ったように刀を振るっていた。
 前線メンバーを援護すべく、ナクラは守護星座を地面に描く。
 彼のナノナノ、ニーカも前に立つメンバーをハート型のバリアで包んでくれていたようだ。
(「歌にしたって武術にしたって、何かを真剣に追い求めるっていうのは楽じゃない」)
 仲間の回復支援を繰り返すナクラは思う。
 ――どうしようもないくらい好きだから、俺にはこれしか無いなって、骨身に染みてるのが解るから。
 苦しくても楽しい。寝ても覚めても忘れられない。それは、執念にも近しい。
(「憑りつかれてるといってもいいな。そんなの簡単に諦められる訳ない」)
 おそらく、相手も同じなのだろう。もっとも、それは目の前のドリームイーターではなく、武術を奪われた武術家本人のことだが。
 前線では、ラジュラムが振るわれる九節鞭を愛刀、華咲【月下美人】を受け流そうとしている。
 その全てを防ぐことは難しいが、防戦一方というわけでもない。
 ラジュラムは愛刀に空の霊力を込めて行き、仲間が与えた痺れを大きくすべく傷痕を重ね、夢喰いの身体を切り払う。
「これも戦いだ、自由にさせる事は出来んな」
「そのとおりだ。オレの地獄に付き合ってもらおう」
 それに、漆黒の動力甲冑を装備したハートレスが同意する。
 ライドキャリバーのサイレントイレブンが炎を纏った突撃で強く夢喰いにぶつかり、その体の一部を燃えあがらせる。
 続き、地獄の炎を動力としたハートレスが、ドリルのように回転させた腕を夢喰いへと突き入れていった。
 ハートレスの攻撃によって、服を破かせた武術家の夢喰い。
 傷口からモザイクを垂れ流すそいつは、再び九節鞭で宙を切りながら襲い掛かってくるのである。

 モザイクに包まれはしていたが、武術家ドリームイーターの鞭の技が冴える。
 操るのが難しい九節鞭を巧みに捌き、夢喰いはケルベロス達の攻撃の手を、動きを止めていく。相手はその隙に、幾度も殴打を繰り返してくるのだ。
 盾となるラジュラムは九節鞭を愛刀で弾き返そうとするが、鞭は止まらず彼の体に浴びせかかってくる。
 基本、盾役メンバーが受け止めていたが、時にそれはメイン攻撃役にも襲い掛かった。
「ぁん――凄いわ。速くて、不規則で、――先端が見えないくらい」
 殴打を受けるユリアは艶かしい声を上げてしまうが、しっかりと反撃も繰り出す。
「うまく避けて頂戴ね。首が落ちたら、つまらないもの――もっともっと、楽しませて?」
 剣に愛されたユリアにとって、二束三文で売られたなまくら刀であっても関係ない。彼女はあらゆる道理をねじまげ、相手を切り伏せてしまう。
 痛打ではあったが、夢喰いと成り果てたその存在はなおも鞭を操る手を止めない。
 戦場を縦横無尽に駆け回る海晴も、鞭の軌道を注視しながら仲間が攻撃を受けたタイミングで相手に裏拳を叩き込む。
 彼の体を包む不可視の気がその瞬間凍りつき、相手の体を僅かに凍りつかせていく。
 海晴はさらに蹴りを放ち、ほぼ肉弾戦で立ち回っていたようだ。
 同僚の海晴を時に気遣うハートレス。ただ、それ以上に傷つく前線メンバーの為、彼は回復に徹する。
「この手の術は苦手なのだがな」
 広範囲を薙ぎ払ってくる鞭を喰らったメンバーの手前へ、ハートレスは紙兵を撒いていくが、敵も伸び縮みするかのような連撃で攻め立ててくる。
 ドラゴンの翼で抑える万里矢。しかし、徐々に徐々に傷つく彼女の姿に、ハートレスは瞳を閉じて小さく言い放つ。
「イミテーション・スリー、シルエットゴースト」
 それは、螺旋忍者が使う分身にも似たグラビティ。今は亡き戦友から学んだ術を再現したものだ。
 そのタイミング、幻影は万里矢へと纏う。当人は少し持ち直し、手厚い回復を行うメンバーを見て言葉を紡ぐ。
「とてがんはそもれきこげ――ま、気付かない方がいい事というのもあるんだよ」
 万里矢の声に応じて現れたのは、「影で姿の分からない人型のなにか」のエネルギー体。自身の目の前に呼び出したそれは夢喰いを恐怖させ、怯ませてしまう。
 ただ、敵は呼び起こされたトラウマごと、ケルベロスを鞭で薙ぎ払おうとしてくる。
「走れ! 振り返らずに 脇目も振らず逃げ続けろ……」
 ナクラはバイオレンスギターをかき鳴らして弾き語りを始め、仲間達を奮起させていく。
 相手は1人だけ。盾となるメンバーが抑える中、遊撃に動く鈴音が戦闘時のみ大きく姿を現すオウガメタルへと呼びかける。
「これ以上はやらせない。タスク!」
 鈴音がグラビティ・チェインを与えたことで、「ラギッド・タスク」は鉄塊を組み合わせた粗雑な巨人の姿を取り、轟音と共に鉄鎚を叩きつけて夢喰いを威圧する。
 そして、海晴が辺りに落ちていた石を触媒とし、グラビティ・チェインを練り上げ、バトルオーラの闘気と掛け合わせて。
 次の瞬間、彼は地面から岩塊の大剣を具現化した。
「一度討つと決したなら、例え石くれでも必殺の武具と成る……。この一撃、見事凌ぎ切れるかな?」
 大きく振りかぶって叩き込む、嶄絶なる刀身。畏怖と絶望を与える一撃にも、夢喰いは耐えてみせる。
 トドメには浅いと判断したラジュラムが天空に呼び出した刀剣を解き放ち、敵の操る九節鞭の尖端を地面に縫い付けた。
「叩きかけるよ」
 それに刹那、驚きを見せた夢喰いの姿。ルージュは仲間に声をかけながら思う。
 信念、拘り、美学。その人にとって最も大切とする生きる上での指針。目の前の相手は自らの理想を追い求めるという意味では、近しい物を持っているのかもしれない。
 だが、その想いは別のドリームイーターによって歪められ、誰かを傷つけてでも己の技を見せ付けようとする外道に成り下がっている。
 それは、ルージュの信じる正義ではありえない。
「この蒼き焔眼は、清白たる裁きのために重ねた功徳を抉り出す。――さぁ、君の正義を見せてくれ」
 ルージュは無数にある可能性の中から、勝利の為の最善手を導き出す。
 正面から敵に肉薄したルージュは、一気に「Die Sterntaler」の刃を振り下ろす。
 切り裂かれた武術家ドリームイーターの体は爆ぜ飛び、モザイクと成り果てる。
 舞っていたモザイクはやがて薄れて行き、完全に消え去ったのだった。

●高みを目指して……
 ドリームイーターを完全に霧散させたケルベロス達はすぐに、事後処理へと移る。
「通れなくなったら、水口が困るだろ」
 ナクラはギターを取り出し、立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏で始め、戦場跡に力を与えていく。
 他人向けのヒールを持たぬ鈴音は、他メンバーと一緒に被害者、水口・草太の介抱へと向かう。
「体の調子はどうですか? 怪我とはありませんか?」
 気力を撃ち出す海晴が声をかけると、先ほど戦った夢喰いと同じ容姿をした水口本人が目覚める。
「それにしても、扱いの難しい武器を使ってますね?」
「間違えなく君の武術は正しく強い物だった。尊敬に値するものだと感じたよ」
 ケルベロスに覚醒したなら、とても頼もしい存在になると声をかける海晴に続き、ルージュも彼の目指す武術が高みにあると背中を押す。
「いや、それは自分がたどり着いた境地ではない」
 水口は大きく頭を振る。あくまで理想であり、自分がたどり着いた頂ではないのだと。
「何を今更、落ち込むことがあるというの?」
 そこで、ユリアが葉っぱをかける。
 人の目も合理も、全てを投げ捨てて進む道だからこそ、もっともっと高めて欲しい。それこそ、一対一で刈り取りに来たくなるくらいと、彼女は笑ってみせた。
「みずぐちくんの武術には、伸びしろがある」
 水口の技を、ラジュラムは絶賛する。
「それだけ、水口の九節鞭は高まる余地ありってことだろ? 頑張れ!」
 道中の補修を終えたナクラも、この場に駆けつけて鼓舞していく。凹んだ様子の水口だが、絶対にその場から這い上がるとナクラは確信していたのだ。
「足技も鍛えてみませんか! 手数は増えるし、近づかれたって蹴っ飛ばせます!」
「ぷっ、それもありかもしれないな」
 そこで、鈴音が空気を読まずに自身の大好きな蹴り、足技を強く推すと、水口は思わず噴き出していた。
「間合いの取り方を意識すると、もっと良くなるかもなー」
 万里矢は先ほどの戦いで厄介と感じた距離の取り方について、彼に指摘する。
 レプリカントのハートレスも、戦闘中に敵の動きを撮影した動画を相手に見せていた。
 技自体はモザイクに包まれているとはいえ、それ以外の部分から技が解析できないかと考えたのだ。
「棒の握り方、筋肉の強張り方、なにがしか得られるものはあるのではないか?」
「うむ……」
 目を凝らし、じっくりと映像を見つめる水口。その様子にラジュラムもまた、長所短所と感じた部分を指摘する。
「強くなるチャンスがあるって事は励みになるはずだ。武術家として今後が楽しみだな」
 将来ある若者の熱意に、ラジュラムは大きく頷いていた。
 ナクラもまたそれを見つめつつ、この事件の元凶について思い出す。
「そういうのを宿らせてない奴が奪った処で、同じにはならない」
 武術を奪うドリームイーター、幻武極。そいつはモザイクを埋めることはできないだろうと彼は考えるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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