「ねぇ、あなた達、怪談話は好きかしら?」
陽の長さが秋の訪れを感じさせる日のことであった。
とある高校。放課後の教室で、たまたまおしゃべりに夢中になって居残っていた三人は、その言葉に顔を上げる。
いつからそこにいたのか。どこから来たのか。そんなことを尋ねるのを忘れるぐらい、それは。ホラーメイカーは、不気味な雰囲気を醸し出していた。
気圧されたように少女たちは頷く。それでホラーメイカーは笑って……少なくとも笑ったように少女たちには見えた……語り始めた。
曰く。
深夜二時。今は使われていない旧校舎の一番奥の教室で。
打ち捨てられた人形たちが、一斉に動き出すのだ。
三人は顔を見合わせる。その人形には聞き覚えがあった。
どうしてなのか。もしかしたら旧校舎は過去、重い病気の子供が集まる病院があったからと言われているそのせいなのか。それとも演劇部が使用した出し物の残りなのか。はたまた業者による不法投棄か。
旧校舎には、人形がたくさん集まる部屋があるらしいと言われているのだ。
ホラーメイカーは言う。人形はただ動くだけではないのだと。
人形は固まって一つ大きな塊となり、その場に訪れた人間を襲って仲間にしてしまうというのだ。
本当なのかと、少女の一人が顔を上げて聞こうとする。
しかしその時には……。ホラーメイカーの姿は、どこにもなかった。
「なんか、びっくりしたー」
黄昏の一瞬、気づけば陽が落ちていた。友人の言葉に、頼子は小さくうなずく。
「なんだか怖かったね。あの人もそうだけど、お話の内容も……」
「でもでも、なんか、気にならない?」
軽く身を震わせる頼子に、友人は人差し指を立てて得意げだ。
「だってさ、ライコも聞いたことあるっしょ。旧校舎の人形の話。それが動くんだよ!? でもって、合体するんだよ?」
「確かに、動くまではともかくとして合体するとなるといささか恐怖感は薄れるな。むしろ胸がときめく」
「やめてよ二人とも。旧校舎だよ? 夜だよ? 行くだけで怖くて死ぬよ? ……あぁ。行くんだね、気になるんだね。もう……」
友人二人の声に頼子は反論したが、しながらもどこか声音はあきらめたような声だった。肩を落とす彼女に、目を輝かせた二人が顔を見合わせ頷きあった。
●
「姿かたちがわかったホラーなんてホラーとしては三流さ。大丈夫、恐れるものなど何もない」
浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)がそんなことを言った。対する萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)は若干うんざりとした表情である。が、特にコメントはさしはさまない。月子は話を続ける。
「今回の件は、ドラグナー『ホラーメイカー』が、屍隷兵を利用して起こそうとしている事件だな。奴の狙いは、こうだ。作成した屍隷兵を学校に潜伏させる。そしてその後、怪談話に興味を持った高校生たちにその屍隷兵使用した怪談話を聞かせるんだ」
まるで蜘蛛だな。と月子は所見を述べる。興味を持った高校生が、屍隷兵のもとへ自らやってくるように仕向けるのだと彼女は言った。
「高校生が屍隷兵のもとへ行ってしまう前に、早急に解決する必要がある」
「……なるほど。それで」
雪継は月子の説明に小さくうなずく。一呼吸置いたのちに、
「それは、どのような怪談なのですか?」
「ああ、怖い話は嫌いかな?」
「嫌いというほどではありませんが、びっくりさせられるのは、苦手です」
「それはよかった。舞台は夜の旧校舎。その奥の奥だ。たどり着くまでちょっとした肝試しを楽しめるだろうさ。その奥の奥の部屋の中に、人形が積まれている。そいつが夜中動き出して、一つになって襲ってくるんだと」
雪継はそうですか、と小さくうなずいた。月子はおかしげに喉の奥で笑いながら、話を続ける。
「幸い、何の関係もない一般人は足を踏み入れるところじゃない。怪談に興味を持った子供たちが事件現場に来ないようにしつつ、屍隷兵を撃退してほしい」
なお、現れる場所としては普通の教室だ。机もあれば椅子もある。
「屍隷兵たちはその陰に潜んでいて、教室に入ると姿を見せるらしいぞ」
「……待ってください。今、屍隷兵たちと言いましたか?」
「あぁ。いったな。だが大丈夫だ。戦闘能力は高くない」
月子は若干意地の悪い笑みを浮かべている。ついでに椅子や机は戦闘になれば別に障害になるほどのものでもないし、元々使われていない校舎なのでヒールをする必要もないと、大事なことだが若干ずれたことをわざという。
それに雪継は気づいているのかいないのか。若干生真面目な表情で確認した。
「つまりは、薄暗い教室で、どこからともなく、複数の人形が現れるんですね?」
「屍隷兵だぞ」
「それにしても」
「……うん、まあ、そうなるな」
「それってぬいぐるみですかね?」
「多分日本人形もフランス人形も人形の区分に入ると思うぞ」
ちなみにドラグナー・ホラーメイカーはもうそこにはいないから安心しろと、やっぱり月子は大事なんだけれども若干ずれたことを言って笑った。
「この屍隷兵は、螺旋忍軍の集めたデータを元にしてられたものだと推測される。……屍隷兵を潜伏させ、人を怪談話でおびき寄せる。真面目な話、用意周到な敵だと思うよ。子供たちが被害に遭う前に、できるだけ早く、この屍隷兵を撃破してほしい」
「……とても、つらい戦いになるかもしれませんが、頑張りましょうね」
いつものごとく皆を激励する月子の隣で、若干雪継は苦悩をにじませた顔でそう言った。で、と月子がわざとらしくひと呼吸、置いて、
「それで、怖いんだ?」
「うまく言えませんが……。怪物は恐ろしくはないのです。けれど、驚かされたり、目に見えない不確かなものは、怖いというより、苦手です」
逆に素直に答える雪継に、月子は瞬きを一つする。まあ、頑張って行っておいでと、月子は笑って送り出した。
参加者 | |
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西条・霧華(幻想のリナリア・e00311) |
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357) |
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775) |
朔望・月(既朔・e03199) |
キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
空舟・法華(回向・e25433) |
扉が音を立てて開いた。
空舟・法華(回向・e25433)がのぞき込むと、暗闇の中にぼうっと下駄箱が並んでいる。その先には左右に伸びた廊下があった。
自然、法華の目が輝く。今日は女子高校生らしいいでたちで、好奇心旺盛に懐中電灯を突っ込んだ。
ぐるぐる。不安定に光が揺れる。長年人が立ち入っていないのか、靴箱には埃がたまっていた。……なぜか、隅のほうに埃をかぶった運動靴が一足、置かれている。この持ち主はどうやって帰ったのだろうか?
「……あ、あのですね? どなたか、いらっしゃいますか?」
思わずそんな疑問を持った法華に、背後から声がかかった。恐る恐る尋ねたのは、輝島・華(夢見花・e11960)だ。法華は首を傾げる。
「んー。もしかしたらいる、のかな?」
「え」
思わず、言いかけて飲み込んだ華。けれども気丈に、そっと扉をくぐる。
月明かりがまぶしく、廊下は奇妙な明るさに染まっていた。その中を懐中電灯の頼りない灯りがゆらゆらと揺れている。ふむ、とキーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)は地面に顔を落とした。
「何か……のう」
「え、なになに、なんですか!?」
若干意味ありげないいように、リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775) が上ずったような声を上げる。キーリアの後ろ若干背に隠れるよう丸まりながら、それでも中をちらちら伺った。
「こ、怖いわけじゃないですよ!? 万が一のしゅーげきを警戒しているのです! 危険があるならそれをはっきりさせてお……ぎゃわ―何か足元に!」
「お、落ち着いて。リリウムちゃん。それはネズミ。大丈夫ですよ」
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が落ち着かせるように言って先を促した。一見気丈なお姉さん風にふるまっているが、魔導書を持つ手が震えている。二人が入ったのを確認し、キーリアは地面を示した。
「いや、なに。儂ら以外の足跡があると思ってな。ほれ」
示した先には確かに複数の足跡が残っていた。西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)が確認し一瞬、押し黙る。
「……子供たちの、肝試しの場になっている可能性もありますから。踏み入った人がいてもおかしくないでしょう」
眼鏡を外し、すでに戦闘態勢で。押し殺すような声で、霧華は言った。言外に、きっとそうに違いない、という雰囲気を醸し出している。フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357) も自分の手を握りしめた。
「そ、そうだよ、そう。幽霊に足があるわけないし、子供の足跡に決まってるよ。だってほら、なんかすごくいっぱいあるし、それに……」
「けれど、すごく小さいものもありますね。まるで人形の足跡……」
「ダメ―! これはただの近所の子供の足跡……!」
朔望・月(既朔・e03199)が少しだけ蒼い顔で地面を示し、フェクトがそれを認めると若干泣きそうな声を上げた。
「子供はいたずら好きですから……。噂を聞いて来る人を驚かせようとする人がいてもおかしくはありません」
最後に入ってきたのは萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)だ。だから、気にすることは無いと。言いかけたところで、扉は音を立ててしまった。
「……あれ、扉、閉めました?」
思わず月が尋ねた。雪継は扉に触っていないように見えたから。あれ? と、彼は振り返る。
「いいえ。扉には触ってませんよ。勝手に……」
「っ、ぎゃああああああ! あ、違う! じゃない! そう、そうです! 人払い、しましたか!? 高校生が、入ってくるかもしれません!」
リリウムが唐突な話題転換。フェクトが片手を上げる。
「あ、うんこの私が! 直々に! きっちりキープアウトしたよ! でも確かめた方がいいよね。神様に間違いはないけれど、神様的に確認は大事だもの!」
それに。扉が閉まったままというのは心持ちおよろしくないと。フェクトはそう主張した。
「退路は、確保しておいた方がいいでしょう」
もっともらしいことを霧華が言って、扉に手をかけた。が、
「……え?」
「どうしましたか?」
霧華の声にエルスが務めて冷静さを装って尋ねた。霧華も硬い顔で、
「開きません」
押しても退いても、扉は開かなかった。
「壊してみるか? さすがに、不可能ではないじゃろうが……」
「い……い、いえ、キーリアお爺様。その、屍隷兵の気配は感じませんし……」
「んー。じゃあ、屍隷兵以外の誰かが抑えてるってことですか?」
法華がひどくまっとうな意見を述べた。人と、屍隷兵以外の何か。
「立て付けが悪そうな扉ですし、いざとなればほかの窓からでも外に出られると思います。……まずは、屍隷兵を倒しませんか?」
思わず沈黙。その後、月がそういって歩き出す。ああ、なるほど。と皆も歩き出した。振り返っては、いけない。
「雪継兄様」
「こっちですよ、輝島さん」
差し出された手を握り、華は先ほどそっと耳打ちした会話を思い出す。
『実は私も兄様と同じような事を感じているのですけど、でも正体の分かっている相手なら怖くありません。一緒に頑張りましょうね』
『ありがとうございます。未熟者の上に気を遣わせてしまうなんて、申し訳ないですが……。輝島さんも守れるように、頑張りますね』
お互いに怖いけれど。頑張ろうと約束したから。一つうなずいて、華は一歩恐る恐る、踏み出す。
果たして本当に、「正体のわかっている相手」なのだろうかと。少しだけ感じたことは、胸にしまって……。
●
廊下の奥に何か黒い影が見える。……人形だ。紐がぶら下がり人形が吊るされていた。
「ぎゃー! も、ヤだ!!」
「落ち着いて、大丈夫。リリウムちゃん、手を放してはダメだよ?」
パニックを起こしかけるリリウムを、手をつないだエルスが優しくなだめる。今日の私はお姐さん、お姉さん……と、自分で言い聞かせて。
それを横目にキーリアが廊下の隅に転がっていた椅子を持ってきた。あんまり気にしない様子で、隙あらばひょいとあらぬ方向に行ってしまう。
「やれやれ、重いものは持ちたくないのう。じゃが、さすがにあれはかわいそうだ。せめて……」
机に乗って、手を伸ばす。……と、ぐるりと人形がこちらを向いた。その顔は目玉がくりぬかれていて、空洞がキーリアを見つめた。
「……!」
さすがに驚いたキーリアが飛びのいた拍子に人形は地面に落ち、首が外れて転がる。
「ひゃああああ! 幽霊退治は神様の十八番! 十八番! 十八番……! 成仏! 成仏!」
足元に来たそれに必死でフェクトが声を上げた。必死で手にしていた杖を振り回す。
「危ないっ」
「わーっごめん! 大丈夫グラビティは籠ってないから……多分!」
しまった、と慌ててフェクトが振り返った。しかしその後ろには、
「あれ……いな……い……?」
「お、落ち着いてください、フェクトさん」
「い、いやいや落ち着いてる。落ち着いてるって! あっ、今この教室から音が聞こえたよ! きっとそう」
「あ……あの、です、わね。さっき、その教室は調べさせていただいて……その」
無人でした。と、華はキーリアから借りた千罠箱を抱きしめながら答えた。
「……大丈夫です。二人とも落ち着いてください。深呼吸して」
一瞬、黙り込んで。声を上げそうになった二人を、雪継がなだめる。
「聞き間違いです」
彼にしてはものすごくきっぱりとした口調でそう言った。
「萩原君。こういうときって、やっぱり叫んだ方がいいのでしょうか。女子高校生的に」
そんな二人や、そのやり取りにもはや駆けだしそうなリリウム。それを必死に押しとどめるエルスなどを見て、先頭を歩いていた法華がポツリとつぶやいた。
「いや、やめてくだされ。あなたはあなたでいいじゃないですか。怖いものが好きな人もいれば苦手な人もいます。空舟さんはそのまま頼もしくいてください」
雪継のほうは割と必死である。こういう状況は得意ではないが女性陣を守らなければいけないとは思っているので、割といっぱいいっぱいなのだ。前を往く法華が頼もしいことこの上ない。
「そ、そうですか……。では、女子高校生的に頼もしくずんずん進みます」
「はい。ですが、逸れてしまうのは得策ではありませんからもう少し集まりませんか?」
そんな雪継の強がりに気が付いて、霧華が至極真面目な顔をして提案した。内心、その方が自分も助かると思っているのだがそれは口には出さない。
……多分、同じなのだ。恐怖があるとともに、この少女たちを守りたいとも思う。精いっぱいの、強がりだ。そんな自覚も、ほんの少しだけ、ある。
「ああ。そうしよう。みんなで固まって進めば、怖くもなんともないじゃろうて。いやはや、この歳じゃしあんまり心臓に悪いことして寿命縮めたくないものじゃな」
キーリアの全く怖がっていない様子にそうですね。と、華も小さくうなずいた。
「では、手をつないで。……参りましょう?」
少し後ろを歩いていた月に声をかける。月は一瞬、華の顔を見て。それから手を取ろうとした、その時、
「あ、あれ?」
ふっと、法華の持っていた懐中電灯が切れた。
「おかしいですね。昨日拾ったばかりだったのですが……」
ものすごい爆弾発言。その一呼吸おいて、
「いやぁぁぁ!!!」
リリウムが大絶叫をして走り出した。
「ああ、リリウムちゃん!」
エルスが追いかける。リリウムは全速力で走った。そして目の前にあった教室の扉を、半ば叩き割るようにして開けて転がり込んだ。
「うぅ、やだ。やだやだやだ。もうだめぇぇぁ」
そのまま埃だらけの床にごろごろ転がって小さくなって震えるリリウム。慌ててエルスが駆けよって膝をつきその肩に手を置いた。
「絶対に振り返ってはいけないのです、顔を上げてはいけないのです……!」
「うん、こわくない、ぜんぜんこわくない!」
「大丈夫ですか!?」
「ご、ごめんなさい。新しい懐中電灯、点けますから……!」
雪継と法華が後に続く。パッと次の懐中電灯がともった。
「すみません、コケてしまって。置いてかないでください……」
「……え?」
ぼうっとしていましたという月。華が振り返って瞬きをする。月と手を握っていた、
「……ええ??」
月も声を上げた。手を握っていたはずの二人が、なんだか、遠くで、
二人の手には、
古びた日本人形の手が握られていた。
「っ離れてください! ここが、屍隷兵の教室です!」
即座に霧華の思考が切り替わった。その声にぱっと人形から手が離れる。霧華は斬霊刀に手をかけて、月をかばうように前に出る。
「でよったな屍隷兵! 分かりきっている怪異ならば問題はないのじゃ!」
キーリアも即座にそういって、敵がお化けではなく屍隷兵であることを強調した。そのまま稲妻のごとき突きでその人形を貫く。
「月さん!?」
雪継に声をかけられて、はっと月は我に返った。その一瞬。暗闇の中、ただ一人だった一瞬に、月は言い知れぬ孤独と、そして奇妙な安堵を感じて、
「……」
いいや恐ろしいのは、もっと。昼の。違う、これは忘れたこと。
「……大丈夫です!」
あぁでも。為すべきことは、今ここに。
一瞬の思考の隙を隅へ追いやって、月はケルベロスチェインを軽く揺らした。
攻撃を受けた人形が地面に落ちる。
カタカタカタ。歯が鳴るような音が聞こえた。
それは目の前の人形だけではなく。周囲の、机の裏の。教卓の下の。カーテンの裏の、あちこちから。
「……取り囲まれましたか」
「いいえ、これは……!」
霧華の鋭い指摘に、華が悲鳴を飲み込んだような口調で言う。
物陰から現れた人形たちの一部が、床に溶けるようにして忍び込む。黒い塊になったそれは徐々に、徐々に集まり、
巨大な首になった。おそらくは日本人形のそれだろう。彼らよりも巨大な首はごろりと地面に転がっている。髪が蛇のように蠢いて彼女たちへと伸び始めた。腐り落ちそうな目玉が、ぎょろりと動いて彼女たちを見た。
残った人形たちが、カタカタと音を上げながら浮かび上がる。その様にフェクトは小さく、息をのんで、
「ようやくの……殴れる相手! 現世の未練はあるのかな? 私が君を成仏させてあげる!」
それでもそう宣言した。全力で終わらせるだけだと!
答えるように人形の髪が動き、宙に浮く小さな人形たちも一斉に彼女たちへ襲い掛かった。
●
その後。
「デウスエクスなら、全然怖くないよね!」
「はい! まとめてやっつけちゃいますー!」
エルスの時空を凍結させる弾丸とともに、リリウムが強力な電撃を帯びた武器を、足元に向けて思い切り叩き付け、びりびり人形の動きを封じたり。
「やはりこの手の相手は火葬に限るのじゃよ」
キーリアの作り出したドラゴンの幻とともに、千罠箱ががぶがぶ噛みついたり。
全力を尽くした攻撃が、人形たちを薙ぎ払っていく。
「種も仕掛けも、あるのですから。大丈夫です、怖くないです……ちょっと嫌です、けれど」
華も真正面から人形の首を見つめる。大きな目玉がこちらを見ると思わず息をのむけれど、
「……っ、頑張りましょう、輝島さんっ」
励ましてるのか自分を奮い立たせているのか。雪継の台詞に、華も頷いた。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
魔力で生成された花弁が人形へと降り注ぐ。ぐぁっ。と、応えるように人形の髪がうごめき、そしてのたうつように走った。
「……っ、目に、見えるものなど……。目に見える階段など、些末なものです!」
そんな華の前に、霧華が立ちふさがる。刀で受け流すように髪の毛をさばいた。
嫌がるように髪の毛は形をゆがめてしなる。
「はうぁっ。……や、だいじょーぶです、今日の私は、やたらしぶとい女子高校生!」
その攻撃から仲間を守るように立って、法華は笑った。髪の毛がその身を切り裂き血を流す。
「すぐに、癒します!」
即座にエルスが声を上げる。それを確認して、月は手を伸ばした。
「すぐに、終わらせましょう。こんなところ……」
もういたくないと、言いかけて。月は複雑な表情でビハインドの櫻を見る。櫻が金縛りを起こすと同時に、鎖で敵の体を締め上げた。
人形はバタバタと数を減らしていく。それですっかりフェクトは立ち直って気をよくしていた。ふふーん。と、なぜか妙にエラそげな態度でライトニングロッドをくるり手の中で旋回させる。
「さあ……これで終わり! 神様パワーで成仏だよ! 私を崇めろ! みんな私に着いてこーい!」
最後半ばわけのわからないこととを言いながらも、達人のごとき一撃で巨大な人形の脳天をぶん殴ったのであった。
その瞬間、ものすごい断末魔の悲鳴が周囲にこだまする。周囲の小さな人形からも同じ怨念のような声が教室中に響き渡った。
「きゃ、きゃわー! 早めに出ましょう、帰りましょう―!」
フェクトの残念な声とともに。
●
「お疲れさまでした。暖かい飲み物、ありますよー」
身も心も疲れ切った彼女たちを、紫睡が出迎える。
「おぉ、ありがたい。やはり温かいものは身に染みるのぉ」
平気な顔をしてキーリアがそれを受け取る。
「ほれ、大丈夫か?」
「はい、はい……。恐れるものなど何もありませんでしたよね。皆様無事で良かったです」
華が少し疲れのにじんだ声でうなずいた。屍隷兵の成り立ちには心が痛むが、終わってよかった。
「わー! どーなっつあるです? どーなっつ」
さっきまでの騒ぎはどこへやら。リリウムがぱぁっ。と、表情を輝かせて駆け寄る。
「よかった……です。よかった……」
守れた、その笑顔。ふにゃ、と、柔らかくエルスも微笑んだ。夜の学校がいかに恐ろしいか散々聞かされていたので、ずいぶん気を張っていたのだが、それももう終わりだ。
「うん、ヒールもしたし! 学校綺麗になったし! よかったよね!」
うんうん、と、一仕事した顔でフェクトも汗をぬぐう。これは労働が終わったが故の汗である。それ以外では決してない。
「今回も……油断のならない相手でしたね」
眼鏡をかけて、霧華が言った。なるべく無様な姿を見せたくないと思ってはいたが、何とかなったようだ。
「……はい。ちょっと、格好の悪いところを見せてしまいましたが、みんなが無事でよかった」
似たようなことを考えていたのだろう雪継に霧華は顔を見合わせて笑う。
「そう……ですね。みんなが無事で……、それに」
月が胸にそっと手を当てて顔を上げた。先ほど暗闇で感じた闇は何だったのか。それを隠すように顔を上げた先には、
「わぁ、朝日ですね! 早く起きないと、学校遅刻しちゃう、ってやつ」
「もうここが学校ですよー」
目を輝かせる法華に、月が思わず笑って冗談めかして言った。えへへ、と法華は笑う。
今日はいい日だった。学校を探検して、最後には少しだけだけれども教室の椅子にも座って学生のまねごとも出来た。
「萩原君―。一緒に帰りましょうかー」
「はい、わかりました。なら、帰り道に買い食いでもしていきましょうか」
なんとなく学生っぽい遊び方。ただ買い食い、に喰いついたのか、紫睡が顔を出した。それで法華は思い出して、
「そういえば、学校の扉、あいてましたね」
「? 学校の扉は、最初から開いてましたよ?」
紫睡が言って、ピタ、と、めいめいお喋りをしていた皆が口を閉ざした。
「最初から?」
「はい。私が来た時から」
一呼吸。の、のち。
誰かの悲鳴が、朝日の中にこだまするのであった……。
作者:ふじもりみきや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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