●美形は夜に生まれ変わる
夜の盛り場を見下ろすビルの屋上に、タクヤは一人佇んでいた。女性好みの甘いマスクは、煌めく夜景に映え、ひどく絵になる光景だった。
「……明日はハルカ、明後日はエミ、その次はアイラさん……フフッ、全く女ってのはチョロいな」
スマフォを見下ろしながら、タクヤは口許を軽く歪める。人品醜いその笑みも、持ち前の眉目秀麗な容姿によって印象をやわらげられ、本性を包み隠してしまう。
「まぁイイオトコ。その顔でどれだけのオンナを泣かせてきたの?」
語尾に笑いを含んだような女の声。
タクヤが胡乱に振り向くと、そこには青い炎を纏いタールの翼を背に生やす、踊り子の如き女性の姿があった。
「なんだい、キミは。……俺に会いに来たのかい?」
「ふふふっ、女と見るや得体の知れない相手でも口説こうというのね? いいわ、そのよこしまな性根も素敵。……だから、エインヘリアルにしてあげる」
女が微笑みかけるや否や、青い炎がタクヤをくるんだ。業火が人体を作り替え、その肉体は瞬く間に、3メートルにも及ぼうというエインヘリアルへと変貌を果たした。
ざっくりと胸元の開いた黒い鎧を纏ったタクヤは、美麗な面を上げ、艶やかな髪をかき上げながら、ふうっと息をついた。
「……生まれ変わった心地だよ」
「いいわ、美しいわ。やっぱりエインヘリアルは見た目に拘らないとね。――さぁ、見掛け倒しじゃないところを見せて頂戴。グラビティ・チェインを奪って来たら、迎えに来てあげる」
「いいだろう。俺も腹が減ったしね」
気取った捨て台詞と共に、タクヤは悠然と屋上のふちへと歩み寄った。
●ジゴロイケメンエインヘリアル
有力なシャイターン、五人の『炎彩使い』が活動を開始した。
「こたび事を起こしますは、『炎彩使い』青のホスフィン。死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、その場でエインヘリアルへと変じさせてしまいます」
出現したエインヘリアルはグラビティ・チェインが枯渇した状態にあり、これを補給すべく一般人を殺そうと暴れ始める。
「エインヘリアルの選定阻止、青のホスフィンの捕捉、いずれも叶いませぬ。が、人々の命が無下に奪われるこの凶行だけは、何としても阻止せねばなりませぬ」
ヘリオンにて現場に急行、エインヘリアルを確実に撃破する――それが、ケルベロスに課せられた依頼だ。
敵はエインヘリアル1体のみ。青のホスフィンはもちろん、他のシャイターンも現れる事はない。
「敵の武器は、黒々とした鎖状のオーラ。敵の全身にしつこいほど鎖を絡みつかせる、汚染されたオーラを全方位に射出する、オーラで壁を作って身を守る、といったグラビティを使用して参ります」
現場は都市部の繁華街にあるビルの屋上。
青のホスフィンが去ったのち、エインヘリアルは大通りを見下ろし、好みの女性がいないか物色してから飛び降りようとする。この物色中に、ケルベロス達は駆けつける事ができるはずだ。
「ちなみに『炎彩使い』達による選定の基準は、各々の好みに依るもの。青のホスフィンの場合……端的に申せば、『性格の悪いイケメン』という事になりましょう」
今回の被害者、タクヤも例に漏れぬイケメン。女をとっかえひっかえ、二股三股当たり前の、いわゆるジゴロだったようだ。
当然その性根は問題満載。エインヘリアルになった後も、『自分は優れた男だからこそ導かれて勇者になった』『他人は自分の踏み台になるべき存在であり、特に女性は自分に貢ぐ為にある』といった歪んだ考え方をする。人殺しを躊躇う事もない。
「自尊心の高い女好き……女性のケルベロスの皆様には、鬱陶しいアプローチがあるかと存じます……」
鬼灯は疎ましげに吐息を零したのち、気を取り直してケルベロス達の顔を見渡した。
「しかしそれを逆手に取る事も不可能ではございますまい。皆様ならば、虐殺を阻止してくださると信じております」
参加者 | |
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ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350) |
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257) |
天津・総一郎(クリップラー・e03243) |
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510) |
ミツル・フィンレイ(空に舞う花の結晶・e07956) |
フェイト・テトラ(飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946) |
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●黒鎧の面倒臭いイケメン
宵闇を煌々と照らす繁華街の光を見下ろし、黒鎧のエインヘリアルへと生まれ変わったタクヤは、不敵に微笑む。
「いい夜だ……狩り日和、といったところかな?」
漆黒の瞳が、大通りを行き交う女性達を捉えて、妖しく細められる……。
「――どいつもこいつもデウスエクスは余計な事ばかり……」
唐突に、タクヤの背後から、吐き捨てるような殺意たっぷりの女性の罵声が浴びせられた。
「ぶっ殺してやりますよ……!」
咄嗟に振り返ったタクヤの眼前に躍り出たのは、フィルムスーツで全身の地獄を隠したシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)。頭部を覆うフルフェイスの奥で、眼光が険呑に輝き、容赦のない血襖斬りが斬り下ろされる。
「おっと! ……無粋だね、キミ。でも、勇猛果敢な女性も嫌いじゃないな」
斬撃を最小限のダメージにいなし、屋上中央部の安定した足場へと退くタクヤ。咄嗟に両腕に黒いオーラを取り巻かせつつ、斬りかかってきた相手が女性らしいと知ると、早くも興味をそちらへ移したようだ。
男の邪心に水を差すように、鳴り響く高らかな銃声。鎖としての形状に収束したオーラを、銃弾が鋭く直撃する。
「いやぁ、顔立ちが整ってると余計に際立つんだよな~……その腐った性格の悪さがな」
二丁の愛銃から硝煙をたなびかせながら、レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)は飄々とした笑みをタクヤに投げかけた。
オーラの鎖をさりげなく撫でながら、タクヤは薄笑いを浮かべたまま、剣呑に細めた目で辺りを見渡した。
周囲は、すでに、ケルベロス達に包囲されていた。
「……うまく嵌ってくれたようですね」
ぽつりと独白するイグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)。チベットスナギツネ特有のあの眼差しでタクヤを見据え、大通りへの飛び降りを封鎖する形で位置どっている。
「今回は……倒してもあまり心苦しくない相手ですね。顔の良さだけでどうにかなると思ってる男など、虫唾が走るというものです」
冷静沈着に、バッサリと切り捨てるルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)。
「なんつーかよォ……世の中にはどれだけ努力しても、好きになれない生き物ってのがいるもんだ。……にしてもアレだ」
げんなりと吐き出しながらタクヤを見やる天津・総一郎(クリップラー・e03243)。
「生まれ変わったらもっとタチが悪くなるとはな。普通はマシになるもんだが」
「ほんとですよねぇ。自信があるのは、僕、良いことだと思うんですけど、内面はもっと大切だと思うのですよね。うん、やっぱり内面なのですよ内面!」
天真爛漫にダメ出しするフェイト・テトラ(飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946)。
「女性なら相手が敵であっても関係ない、そういう一途なモノは嫌いじゃあありませんが。それでまわりに被害を出すのはいけませんね。貴方も選ばれた勇者なんかじゃあなく、その女性たちとおなじ、ただのヒトでございますから」
身振りも大仰に、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が喋るたびに、バケツヘルムの内側から炎が零れ落ちる。
「ああ、いえ。ヒトだった、が正しいですねえ? 今の貴方は討伐対象でございます」
慇懃な物言いで締めると同時、ケルベロス達の戦意が、一斉にタクヤを指向する。
「女性が二人、他は男か……フッ、腕が鳴るよ。女性が心変わりする瞬間を見る愉悦を、キミ達は知らないのかい?」
タクヤの笑みに宿るのは、輝かしいまでに醜い自信。
「……醜い人。愚かで、傲慢で……身勝手で……。見せかけの強さで、貴方のくだらない欲望なんて満たされるはずない……」
内実そなえた本物の美青年といった佇まいのミツル・フィンレイ(空に舞う花の結晶・e07956)は、タクヤの醜悪な人間性を冷たく糾弾する。
「見た目良しだけの外道な男には、少し……いえ、思う存分御仕置きさせていただきます……」
「おいで」
ざっくりと開放された胸元を逸らし、濡れ羽色の黒髪を払いながら、タクヤはケルベロス達を美しく嘲笑った。
●口説きフルスロットル
鷹揚に構えるタクヤへと、ケルベロス達は次々に攻撃を仕掛けていく。
「性格の悪いイケメンが好みとか……このシャイターンも大概だな」
やっぱ顔がいい方が女へのウケはいいんだろうか、などとぼやきながら、総一郎は攻撃に純化した身のこなしで敵の懐に飛び込んだ。
「ただこうしてこのバカを殴る機会をくれたことには感謝する」
強烈な螺旋掌が、黒鎧の脇腹に叩き込まれる。
「同感です」
そっけなく言い捨て、ルリナも立て続けに星型のオーラを蹴り込んだ。
「フフッ、キミもかい? 最近は女性も積極的だ。あるいはこれも俺の美貌の賜物か……罪なものだね」
長い睫毛を伏せ、鬱陶しい陶酔にひたるタクヤを中心に、突如、黒い鎖のオーラが全方位を向いて照射された。鋭い衝撃と甘ったるい毒が前衛を侵食していく。
「ふええええ! 痛々しい! 消毒っ、消毒しなきゃなのです……!」
「こころの疲労感もとれるヒールがほしいな……」
フェイトは慌ただしくメタリックバーストを前衛に振り撒き、近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)もげんなりとしながら負傷者へのウィッチオペレーションの準備を開始する。
「手の付けようがないうぬぼれぶりでいらっしゃる」
イグノートは細い眼差しで照準を付けて慇懃に呟くと、正確無比の轟竜砲を撃ち込んだ。
「余所見していていいのですか?」
女性陣に注意を惹かれがちなタクヤに、ミツルの容赦のない死天剣戟陣が降り注ぎ、全方位に広がった鎖のオーラを弾いていく。
次々に叩き込まれていく攻撃。しかしタクヤは歯牙にもかけず、その瞳は女性陣を捉えて美しく微笑んでいる。
……シャイターンは大概、性格に難のある人物を選定する。『彩炎使い』達はそこにプラスアルファの突出した長所を有する人物を選ぶようで、その相乗効果は大抵ろくな事にはならない。目の前の『美形』が、その最たる一例であろう。
「美しいキミ、そうヘソを曲げずに、笑ってごらんよ? その笑顔はきっと、男どもを虜にし、俺の心をかき乱すんだろうね……」
本格的に口説きにかかりながら、ルリナへと黒い鎖を投擲するタクヤ。――が、すんでで滑り込んだライドキャリバーによって、束縛の象徴とも言える鎖は防がれてしまう。
「物理的なナンパはご遠慮くださいですよ!」
サーヴァントの活躍に愛らしく胸を張りながら、フェイトはさらなるオウガ粒子を放出し、仲間達の超感覚の覚醒を促していく。
鎖を一度収めたタクヤは、ふぅっ……、とあたかも聞き分けのない子供にそうするように、わざとらしい溜息をついた。
「キミ達……自分が大した面構えじゃないからって、ヒトの恋路に横槍を入れるのはやめてくれないか。俺は彼女達と話をしたいんだよ。……ねぇ?」
さらり、と髪を払いながら、美しい流し目。
真正面からそれを受け止めてしまった女性陣。ルリナは一切動じぬ無表情。シルフィディアのフルフェイスの向こうの眼差しには、危険な輝きが灯った。
●女性をオトす事こそ我が人生
「ペラペラと五月蝿いですね……二度と口がきけないようにその首切り落としてやる……!」
言うが早いか飛び出すシルフィディア。デウスエクスへの怒りと憎しみを籠めた、冷酷かつ残虐なフレイムグリードが激しくぶち込まれる。
「だいたい、女性を何かの道具にしか見てないあたりも腹立たしいです。適当におだてれば言うことを聞くとでも思っているのでしょうね」
淡々と拒絶し、分析しながら、ルリナもスパイラルアームで抉り込む。感情を表に出さないその面持ちは、見ようによっては苛立っているように見えなくもない。
「怒っているのかい……? そんなキミ達も可愛いよ……」
微笑みながら凝りもせず囁くタクヤ。筋金入りである。
タクヤは徹頭徹尾女性陣を狙った。もちろんケルベロス達はそんな敵の特性には対応済みだ。女性二人は盾役としてしっかり攻撃をしのぎ、二体のライドキャリバーも同じく盾役としてフォローに回ってダメージを分散していく。
その上、タクヤの攻撃は似たり寄ったりの単調極まりないもので、非常に動きが読みやすい。命中を第一とする立ち回りでそれを帳消しにできる程度にはカバーしてはいるのだが……ケルベロス側はこれにも対応済み。周到に用意してきた防具のおかげで体が軽く、回避も容易い。
結果、タクヤの攻撃の命中率は、全体で半々、といった有様だった。
「あぁ……二人ともつれないね……俺がこんなにも愛しているのに」
女性陣にも軽々と攻撃を躱され始めたタクヤは、女性の気を惹く堂に入った仕草で、傷ついたように目を伏せた。と同時、鎖のオーラが周囲を取り巻き、壁を形成していく。
「所詮は顔だけの見掛け倒しだな……」
口説きに夢中で攻撃を躱されまくっている姿に、呆れ果てたぼやきを零しつつ、レイは即座に格闘体勢に切り替えた。鋭いハウリングフィストが鎖の壁を砕き、拳はそのまま色男の顔面へとクリーンヒット。
進路も退路も塞ぐように執拗に囲い込まれ、肝心の女性陣には口説き文句を躱され物理で倍返し、女性陣が盾となっている隙に男性陣は横からちくちくと嫌がらせをしてくる……さしものタクヤも、次第に苛立ちを隠せなくなってきたようだ。グラビティを浴び続けるほどに表情を消し、やがて、血の混じった唾を吐き捨てる。
「……ああ。邪魔だな」
ぽつりと零した瞬間、全方位に射出された鎖は初めて女性陣を素通りして、後衛の男性陣に牙を剥いた。目にも留まらぬ速さで殺到する鎖は、やはり半分は回避され、さらに盾役達のフォローも入るも、ミツルとヒダリギはまともに攻撃をもらってしまった。
「そんな鎖で、支配出来るとでも?」
ものともせずに鎖を斬り捨て、即座にペトリフィケイションをお返しするミツル。
「癒やしの女神よ、光を」
「さ、人間深呼吸すれば大体どうにかなるものです」
フェイトの魔法が消耗激しいヒダリギを癒し、イグノートの落ち着いた声音は、ストレスを取り去りながら後衛全体を癒していく。
すぐさま立て直していく陣営を、タクヤは胡乱に睨みやる。
「まったく、男の嫉妬は害虫のようにしつこいな。十人並みの容姿で生まれ落ちた不幸は、どれだけ八つ当たりしても癒されはしないのだろうね……特にそっちの彼は、よほど正視に絶えない素顔をしているのだろうし」
容姿に絶対的自信を誇るタクヤは、自分以外は全て不細工と決めつけるような傲慢さで揶揄し、バケツヘルムに向けて顎をしゃくった。
「シャイターン選定される事自体が醜い証拠だってのに、どんだけ目出度い頭してんだか……」
レイは馬鹿にしたように飄々と、むしろ挑発し返すように笑いながら、フォーチュンスターを的確に蹴り込む。あれはあれでシャイターンの被害者ではあるのだろうが、同情を寄せるには性根が腐り過ぎている。
「おや、私の事を仰ってます? ご覧になっているコレが素顔ですよ? 格好良いでしょう?」
味方全員に耐性をばら撒き終えたラーヴァは、大仰に肩をすくめて機械仕掛けの弓で狙いを定めながら、興が乗ってきたとばかりにバケツヘルムから炎をふき零した。
●命を賭けても口説きたかった
グラビティの波状攻撃をうざったそうに凌ぎながら、タクヤはかぶりを振って女性陣へと甘い視線を馳せた。
「ああしまった、余計な時間を消費した。……待たせてすまなかったね、二人とも」
待ってない、とばかりの剣呑な眼差しも四方から注がれる呆れ果てた冷ややかな視線もきっぱり無視して、タクヤはこの晩最高のイケ顔を作った。……ケルベロスの猛攻の末に、外見がずいぶんとみすぼらしくなってきている事には、たぶん気づいていない。
「ある意味、ホンモノですね」
表情筋の一筋とて動かさずに、ルリナが端的に感想を零した。
再びアプローチという名の攻勢が始まった。しかしその切れ味は順調に鈍っていくばかり。ケルベロスの攻撃の手応えは増し、タクヤは加速度的に消耗していく。
「……ッ、何故だ……こんなにも美しい俺が言葉を尽くしているのに……何故……っ」
……攻撃をはずしまくっている事よりも、口説きを無視されている事のほうが、本人的には大事件らしい。
「醜美の基準等時代と共に移り変わるもの……ですが醜いと思う中身はそれほど変化致しませんね」
敵へと素早く肉薄しながらも、イグノートの慇懃な態度は決して崩れない。
「そして貴方は間違いなく醜い」
端的な断定と共に、音速を超えるイグノートの拳が叩き込まれる。火力の乗った精密な攻撃に腹を抉られ、タクヤは吹き飛ばされながら激しくえずいた。
「畳みかけます」
ルリナの変形展開した胸部の発射口が輝き、高威力のエネルギー光線を照射する。
「くっ……また拒絶するのかい……っ」
悲愴に口許を歪めながら着地するタクヤ。
「色々と辛い事もあるけど、俺はケルベロスになれたことを感謝するぜ……」
低く呟く総一郎。
「オメーみたいな奴を遠慮呵責なしに容赦なく思いっきりブチのめせるんだからなッ!」
体勢を立て直したばかりのタクヤの懐に飛び込んでからの、強烈なアッパー。掌底に顎を砕かれ、タクヤの美貌がついに歪む。
「せいぜい、あの世で後悔しなさい……、……さようなら」
ミツルは端然と佇み、両手の斬霊刀を鋭く振るった。
(「もっと心が綺麗だったら、闇に堕ちることなんてなかったのに……」)
己の放った衝撃波がタクヤの霊体を激しく斬り裂くのを見届けながら、胸中に小さく零す。
「来世では、ちゃんと内面も磨いてくださいね? そしたらきっと、本物のイケメンになれるのですよ!」
幻想的な古い銃を掲げ、悪夢を籠めた黒色の魔力弾を撃ち出すフェイト。その脳裏に思い描くのは、多分に脳内補正された兄貴分のイケメンフェイスである。
「ずっと気になっていたのですが」
眩しく輝くほどに灼けた金属矢を弓につがえ、ラーヴァは狙いを定める。黒鎧の中央にざっくりと開かれた肌色へと。
「ちょっとその胸元は、鎧として欠陥ではございませんかねえ」
連射された矢は一点、黒鎧の胸元へと叩き込まれる。矢の熱と光に神経を焼かれ、絶叫するタクヤ。
「女性を掌の上で転がそうってヤツは、女好きの風上にも置けないな」
軽口を放ちながら、レイの芯には命を弄ぶ者への殺意が満ちている。他者の命を奪う事に躊躇のない者に、一切の遠慮は不要。
「さぁ、ラストだ……テメェが弄んだ女性達に懺悔しな!」
炎纏って突進するライドキャリバーのファントムに跨り、レイは引き金を引いた。宙を駆けながら五つに分裂した高密度のエネルギー弾が、一斉にタクヤへと殺到し、その肉体を撃ち貫いていく。
もはや見る影もなくボロボロになったタクヤの上体が、この期に及んで美しくのけ反る。
「……ぐ、はッ……俺が……なぜ……応えて、くれ、な――」
「貴様のような醜いゴミ以下のクズが何を言おうが無駄だ、死ね……!」
最凶に厳しい断罪を吐き捨てながら、シルフィディアは禍々しく鋭利な蛇腹剣へと変じた両腕を伸ばし、憎しみを込めて振り下ろした。
伸縮自在の刃になます切りにされ、はた迷惑なイケメンは二度と口説き文句を口にする事はできなくなったのだった。
「なんとか勝てましたね……よかったです……!」
フルフェイスから顔を出したシルフィディアは、開口一番、すっかりいつもの気弱で臆病な少女に戻って、心底胸を撫で下ろした。
「どうやら皆さん、こちらの戦いには気づいていないようですねえ。上々の戦果でございましょう」
平和そのものの大通りを覗き込み、ラーヴァは愉快げに炎を零した。あとは荒れた屋上を整えて、何事もなかったように帰還するだけだ。
「炎彩使いのシャイターン……一体何の目的で魂の選定など……。……油断ならない相手ですね」
皆で屋上をヒールの光に満たしながら、ミツルは思案に暮れるようにそっと呟いた。
全てを終えて、安堵の吐息をつく総一郎。
「……次はもっとマトモな物に生まれ変わるんだな」
人のまま生きていたらこんな事にもならなかったのに……小さく呟いたのち、総一郎はくるりと踵を返した。
「よーし、真のイケメン目指して明日から頑張るぞー!」
『外見だけじゃなく心もイケてなければ真のイケメンじゃない』という教訓を得たのが、本日最大の収穫であった。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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