必要悪は必要なのか?

作者:木乃

●良くないことでも、求められる場合がある
「俺はかつて、とある会社の人事を担当していた」
 とある廃ビルの一室で、生え揃っていない羽毛を揺らしながらビルシャナは語る。
「作業効率の悪い連中には『遅れを取り戻せ』と連日残業させた。仕事が出来ぬ無能な奴らの給与を最低限までカットした。全ては会社のため、会社のために『悪』を成した!」
 ビルシャナは自らを『必要悪の権化』と言って憚らない。必要に迫られたのなら、誰かが遂行せねばならぬのだと。
「会社の利益を守るためには相応の覚悟、相応の態度をとらねばならない――そう、これは必要とされた『悪』! 誰しもが忌み嫌う汚れ役を買って出る、これを英断と言わずしてなんとするか!?」
 自分は天命を受けていたのだと、臆面もなく叫ぶビルシャナに市民たちは感嘆の息が漏らす。
 偽りの神々しさに平伏する市民たちは、ビルシャナの教義に『必要悪』の正当性を見出そうとしていた。

 ビルシャナの信者は悟りを開くと新たなビルシャナとなる――ヴィゾフニル明王の傘下から離れたビルシャナは、そうして生まれた。
「信者を増やすことで勢力を拡大させていく手法がビルシャナの手口ですわ。今回も新たに生まれたビルシャナの布教を阻止することが目的となりましてよ」
 問題のビルシャナの教義は『必要悪は必要である、ゆえに必要悪は必要である』というものだ。
 ヴィゾフニル明王の教義に触発されて見出したらしい。
「でも必要悪ってーぇ、悪い事をして結果的に解決するってことですよねーぇ?」
「本来は『必要に迫られて、やむを得ず実行する』という前提ですが……生前のこの方、そうではなかったようですわね」
「なら、わざとってことですねーぇ」
 立派な懲罰対象が現れた。人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は嬉しそうに右の機械腕を鳴らす。
 オリヴィアもそれを否定せず話を進める。
「ビルシャナは市民に教義を説いて配下にしようと目論んでいます。ビルシャナの言葉は強い説得力をもち、魅入られた市民は配下となってしまいますわ。ビルシャナの主張を覆すような強烈な主張を行えば、配下化を防ぐことが出来ますわよ」
 配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナを援護しようと戦場に飛び込んできてしまう。
「ビルシャナを倒せば救出は可能ですが、配下が多ければ、妨害される回数も増えますわよ。そのまま攻撃すれば死んでしまうため、注意が必要ですので」
 ビルシャナは廃ビルの階層を占拠して、市民に教えを説いている真っ最中らしい。
「市民の数は10名。30~50代の中間管理職の方が中心ですわね。日頃から胃の痛い判断を迫られているとあって、ビルシャナの教義には納得できる所があるようですわね……今は五分五分と言ったところでしょうか」
 納得しきれていない、もう半分はなにか、というと。
「必要悪がなぜ必要になったか?という事ですわね。『そういう状況を作ってしまった責任は、ほかでもない責任者』という自覚があるからでしょう」
 つまり、自分達の責任でもあると。良心の呵責もあるのだろう。
「努力不足を叱責するより、必要悪を必要とせずに済む状況作りを説いたほうが良いでしょうね。力不足を責められても素直に受け入れられない大人は多いですから」
 全員を説得しきれなかった場合は、無理せずビルシャナ撃破を優先するようオリヴィアは勧められる。
「ビルシャナは違法残業、経費削減、過重労働を具現化させて攻撃してきますわ。書類の山を頭上から落としたり、長時間労働している幻覚を見せたり……心身共に辛くなる攻撃が多いのでご注意ください」
 必要に迫られてやむなく決断すること自体は、悪いことではないとオリヴィアは前置きする。
「不要な犠牲を出してまで、劣勢を維持させようとする停滞した思考こそ『必要悪』の悪たる所以ではないのでしょうか? 悩める市民の心に響くような、印象的な説得で思い直させてくださいませ」


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
天塚・華陽(妲天悪己・e02960)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)
マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ

●管理職はつらいよ
 ビルシャナの前で行儀よく座るスーツ姿の者達。大量生産品ではない、しっかり仕立てた背広は肩書のある身分だと傍目に見てもわかる。
 社外や上司への印象を考えれば、多少値の張る装いでも身に着けることを余儀なくされるのだろう。
 そして目の下にうっすら浮かぶクマと、ガサガサに荒れた肌にその苦労が浮き彫りになっていた。
(「心労とは人を容易く追い詰めるか。いつの時代も変わらんのう」)
 彼らも藁にもすがる思いだろうが、見るべき方向を違えてはならない。
 見た目は幼いが天塚・華陽(妲天悪己・e02960)は年の功をもって手引きしようと腹に決める。
「いやダメでしょ」
 開口一番、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)は真っ向から否定した。
「労基ブッチにパワハラ、職権乱用って、むしろそっちの方がよっぽど会社にとっての悪でしょ?」
 作業の遅さや仕事の不出来、監査や訴訟に比べれば大したことじゃないと樹は吐き捨て、
「少し転んだくらいで手足切断してたら、何本あっても足りないっての。悪いと思ってるなら、改めればいいんだよ」
「そうよ、会社の『必要悪』ってそこまで格好いいものかしら?」
 不機嫌そうな琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)も便乗し、樹の言葉に次いでいく。
「確かに嫌われ者を演じる自分に酔っている方も一部にいらっしゃいますけど」
 チラと視線をくれてやったビルシャナは『どこ吹く風』と淡雪の皮肉った視線も意に介していない。
 ビルシャナの教義は『会社の為に必要だからやった』という確信犯にあるのだ。
 やれやれと肩を竦めながら淡雪は座り込む市民に視線を戻す。
「それって本来は、会社のトップがやるべきお仕事よね? それが面倒くさいから、別の人に昇給や昇進を条件にやってるだけであって、効率化の仕事ってだけじゃない? 勘違いしてると……今度は自分がリストラ候補にされちゃうわよ?」
 そうなったのがそこのビルシャナだろう、と淡雪は嘲る。
「ちょっと話が逸れたけど……何度もリストラしてる会社って倒産まで秒読み中よ、さっさと逃げた方がいいんじゃない?」
 市民は俯いたまま無言を貫いている。
 どのような表情をしているかは見えなかったがフィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)は沈黙を破る。
「必要な、悪が。あるかも、しれない。けど、悪いことには、変わりない」
 褒められよう、認められようなんて思うことがお門違いだ。フィーラは指摘した。
 『必要だから』と人を殺しても、それは罪にならない訳がない。
「たとえ、正しかったのだとしても、あなた方が、誰かの、なにかを奪ったことに、変わりはない」
 必要でもないのに、人を陥れることはただの『悪』でしかない。
 まっすぐ見つめるフィーラの視線には誰も目を向けずにいる。
 反応が全く見られずエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)も怪訝な顔をしていたが――白髪交じりの男がわなわなと肩を震わせていたことに気付く。
「お前達に……お前達になにが解るんだ!!」

 その目は怒りで真っ赤に血走り、感情の昂ぶりから涙がこぼれそうなほど潤んでいた。
「切った連中にも生活があるのなんか、とっくに解ってるんだよ!!……でもな、それでも私達にも生活があって、上から判断を迫られるんだよ!! お前達みたいな若造に他人の人生を背負わされる者のなにが解るのだ!?」
 つぶさに見れば、他の市民も微かに肩を震わせていた。血が滲むほど唇を噛み締め、膝の上におく拳を白むほど握り締めていた。
 ――元より彼らは『良心の呵責』から自分を責めている。
 ヘリオライダーからも『努力不足や力不足を責められても、素直に受けれられない大人が多い』と指摘されていた。
 強過ぎる言葉や威圧的な姿勢が『責めている』と、自己嫌悪する彼らに錯覚させていたのだ。
 『自分は悪くない』『どうしようもなかった』『でも本当にこれでよかったのか?』
 重ね続けた苦悩から彼らはビルシャナの教義に惑わされようとしている。

(「このまま反感をもたれてしまったら、ビルシャナの教義に洗脳されてしまう……!」)
 動揺する四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)達を人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が手で制す。
 焦っても仕方がない。しかし、ツグミもどう声をかけるべきか悩んでいた。
(「会社の為にどうしたらいいか? これを管理職の方に説くのは、やっぱり難しいですねーぇ」)
 元より苦心していた彼らを責めても仕方ない。しかし、必要悪に走ればどうなるか考えなければ。ツグミは緊張を振り払うように大きく息を吸う。
「いいですかーぁ? 締め付けは短期的には効果があっても、長期的には辞職や転職……最悪、過労自殺を促しかねませんよーぉ?」
 苦労して教えたノウハウはなかったことに。素人だらけでは作業効率も下がる。仕事の品質も評判も大暴落。
 それを解決させようと労働時間を引き上げれば、見事なエンドレス・デス・マーチが完成。
 悪循環でしかないとツグミは諭す。
「頑張らせないといけない時期はある。それは確かですが、飴も必要なんですぅ。昇進、昇給、休暇もボーナスも、部下のやる気を維持し続けるために必要なことなんですよーぅ」
 上役と部下の間で板挟みになるのは辛いことだらけ、けれど誰かが立たねばならないのだ。
 馬車馬のように働かざるをえない、部下が頼りにしているのは――。
「経験豊富な管理職の皆さんだけが、部下の皆さんの頼りなんですよーぅ……!」
 必死で呼びかけるツグミを見て、玲斗も気を持ち直そうと息を吐く。
「結果として悪く見られることもあるかもしれないし、あなた達にもその覚悟は必要。だけど、わざと悪くみられる必要はないし、必要悪だと思って振舞う必要もないわ!」
 部下の信頼がなければ、人の上に立つ意味自体なくなってしまう。
 その立場に立った意味を忘れてはいけない!
「あなた達も誰かからの信頼を受けて、その立場になったはず。それは忘れないで?」
 玲斗達の言葉を聞いて、数人がチラと教祖を一瞥する。
 ビルシャナは『全く理解できない』と言いたげに首を傾げた。
「お前達も部下も会社の歯車だ。効率よく動かすため、使えない部品はすぐに交換するべきであろう? 中間管理職とは会社を上手く動かすため、人材の選り抜きが――」
「戯言をぬかすでないわ、下郎め!!」
 詭弁を遮るようにマリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)が力強くビルシャナに指を突きつけた。
 鬼気迫る迫力は小さな体躯を大きくさせたようにすら感じる。
「おぬしのそれは必要悪じゃなく、ただの悪じゃ!大悪党じゃ!この鳥頭!」
 部下達の生活を省みながら苦渋の決断を迫られていた市民達を、『無感情に切り捨てることを肯定する』おぬしの教義と一緒くたにするでない!
 ――マリーの怒れる叫びが廃ビル中に響き渡る。
「英断とはのぅ、優れた判断の事を言うのじゃ。おぬしのそれはどうみても愚断じゃ。部下の努力不足を責める前に、おぬしの管理能力不足を正してから物申さぬか!」
 ビルシャナを責めたところで市民達に響くものは微々たるものだが、ツグミや玲斗の言葉を受け、方針の違いに気づいた者は困惑して教祖を見ている。
「……会社のために残業、リストラをする。確かに必要であり、それによって立て直される例は多い。事実である、否定はできん」
 狐尾を揺らして華陽は腕組みする。ピリピリと張り詰めた空気に物怖じせず、華陽は静かに続ける。
「だが、そんな人員を受け入れたのはひとえに人事の責任、となるな。その苦難に陥る前に対策するのが役職持ちの仕事……それを判っているから苦悩するのだろう」
 自分の悪意を正当化する、そんな大人になりたい訳ではないだろう!
 ――理解を示し一喝する姿勢に、戸惑うように4人が顔をあげた。
「会社のためならば社員にも目を向け、声をかけよ。その地位に駆け上った、お主らなら出来るはずじゃ」
 今日はもう帰って風呂に浸かり休むのじゃ、とこの場を離れるよう華陽は促す。
 マリー達の呼びかけに心動かされ始めた者を見て、ビルシャナは溜め息を漏らした。
「俺を邪悪と罵るか、くく……罵詈雑言、恨み節なら山ほど受けた――こいつらもなぁぁぁぁ!!」
 ビルシャナの甲高い叫びにフラフラと市民が立ち上がる。

●必要悪は悪なのか
「往けっ!行けっ!己の為に逝くがよい、己の正しさを証明しろ!! 大局も読めぬ凡愚共に現実を教えてやれぇ!!」
 ビルシャナの号令に6人の市民が掴みかかろうと一斉に動き出す。
 正気に戻った4人の市民も裏切り者同然。雪崩れるようにして馬乗りで殴りつけ始めた。
 玲斗達がビルシャナへの攻撃を開始し、配下と化した市民達が教祖の為に恐れもなく割り込んでいく。
「はいはい、パワハラはんたーい」
 馬乗りする市民を引き剥がそうと樹がスイッチに手をかける。爆竹ほどの極小の爆弾が炸裂し、フィーラもブラックスライムの鞭で払い除けた。
「今からここは戦場となる、急ぎ離脱せよ!」
 辛うじて逃れた市民を手引きしてエメラルドは脱出するよう呼びかける。
 しかし配下は6人、フィーラ達4人では一気に制圧しきれない。
「ちょ、ちょっと!無暗に抱きつかないでもらえる!?」
 紙兵を振りまく淡雪に飛びついた市民は万力のように両腕を締め上げる。ギリギリと肋骨が軋みだし、裾から飛び出してきたオウガメタルが巨大な拳骨を落とす。
 ツグミも頭上にやり過ごすと同時に腹部へ拳を一撃。崩れ落ちるように倒れる姿も見届けず踵を返してビルシャナのほうへ。
 書類やファイルの山、請求書で切り付けられながら猛進する玲斗を先頭に、華陽とマリーもビルシャナに攻撃を集中させる。
 圧し掛かる重さは見た目以上のもので、そこに含まれる責任や圧力がのしかかってきているとさえ思わせた。
「紙の束と侮った訳じゃないけど……!」
 淡雪が配下に手を回して支援の手がない。玲斗はやむなく自ら治療を施し、テレビウムのアップルも陽気な動画で気力を持ち直させる。
「本当の悪党の無慈悲を教えてやる」
 マリーが全身を使って大斧を振り回す隙に、華陽が大鎌で脇腹を突き上げ振り抜く。鳥肌が裂けると同時に赤い飛沫が舞う。
「神妙にせい!丸ハゲにしてくれるのじゃあ!!」
「有り余った気力は勤労に注ぎ込め!」
 大技に編成を偏らせたためか、空振りが続くマリーの周囲をスーツ姿の人々がいくつも投影される。
『次はこの書類ね、データはグラフにしておいてー』
『このタスクがまだ終わってないんだけど、進捗どうなってるの?』
『さっきの書類、数値も書式も全部間違ってるからすぐやり直し』
「そ、そんな一遍に申すでないわあぁぁぁ!?」
 脳内に直接流れ込んでくる作業指示が止まらない。折り重なる雑音を振り払おうと、マリーは支柱ごと無茶苦茶に叩き壊しだす。
 暴力の波を掻い潜ってツグミはビルシャナの足元に潜り込む。
「憎むべき『悪』は、あなた一人で安心しましたよぅ。懲罰開始ですーぅ♪」
 射殺すほどの鋭い狙いが高速回転する拳を突き立てる。生えかけの羽毛が飛び散り薄桃色の肌が露出させていく。
 一般人を鎮圧した淡雪も暴れまわる華陽達にオウガ粒子を放ち、催眠状態から解放して8人が揃う。
 まだ余裕を見せていたビルシャナは怪訝に眉を顰める。
「解せぬ!全くもって、解せぬ!! 1人の犠牲で999人が助かるならば、1人の犠牲は必要だと思わないのか!? たった1人の為に999人を危険に晒すのか、お前達は!!」
「なに言ってるの? 999人の為にあなたが犠牲になりなさい!」
 計上する数に自分も含んでいないと、淡雪は論破して紙兵をフロア中に舞い散らす。
 集中力の高まった華陽とマリーも少しずつ攻撃が当たり始め、書面を召喚し続けるビルシャナの肌は真っ赤に染まる。
「その汚い羽毛をすっ飛ばしてやるのじゃー!!」
 きりもみ回転しながら突貫するマリーが血濡れた羽毛を刈り取り、寂れたコンクリートが汚れていく。
 フィーラとエメラルドの援護によって次第に動きが鈍り始めたビルシャナを、樹がみずからの設置物まで追い込む。
「細工は流々、ってね」
 起爆によって生じた破片がビルシャナに突き刺さる。剥き出しの肌を冷たい破片が貫き、無残な様相へと変えていく。
 命中率が安定してきた華陽も秘奥義の発動に踏み切った。
「来たれ、絢爛なりし百鬼夜行が9番」
 詠唱と共に伸び往く影には彼岸の花。影の川は花道となり到達する。
「飛花落葉、屠り曼珠沙華!」
 ビルシャナの影と繋がると暴力的なまでの赤が一層突き穿ち、痛烈な最期を彩ろうとしていた。しぶとく幻影を繰り出すビルシャナにツグミが右腕のギミックを開放する。
「地球に住む全ての生命を守るため、あなたが犠牲になるんですよーぅ」
 鹵獲術と降魔の力を放出しながら肉薄する。投影された影を払い飛ばしてビルシャナの心の臓を掴んだ。
 ――正義の鉄鎚を受けたビルシャナは『全人類を防衛する』という大義名分のもとに犠牲となった。

「サビ残……休日出勤……ケルベロス出なければ即死だった……」
 攻撃の数々にげんなりした様子で樹が肩を落とす。書類の山で圧殺されかけたことを思い出すと、樹は頭痛を覚えそうになった。
 人生楽しく、ラクして暮らしたいものだ。
 戦闘後、ずっと思案顔でいた淡雪はこんこんと思考を巡らせていた。
「ビルシャナから信者を奪う……いえ、間違えましたわ」
 信者増加を防ぐためにはなにが良いか。そう、思えば至極単純な話だ。
「そうです、この『おっぱい教』を立ち上げるのですわ! さっそく勧誘しにいかなくてはっ」
 名案とばかりにどや顔で叫ぶ淡雪は目を覚ました市民達の元へ……。
 部屋の隅に座り込むフィーラは突きつけられた言葉の数々の意味を考えていた。
(「自分が悪いって、わかってた……みんなの為に、必要で。必要だけど、悪いことで……悪いことだけど、必要……それは、悪いこと、じゃないの?」)
 必要悪という言葉は矛盾している。
 『悪』と糾弾するには背負う重責が大きく、重責が大きくなるほど『悪』とみなされやすくなる。その矛盾によって発生するのが責任という受け皿だ。
 いずれケルベロスも『受け皿』にならざるを得ない日が来るだろう。地球に住む人々の為に背負うものが、いかに強大で重きものかを思い知るように。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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