――それは、人生で、2度目で最後の恋だった。
「嗚呼、今年も沢山蕾を付けたね、楽しみだ」
平屋の家に比して広々とした庭に、大きな鉢が幾つも並ぶ。植わっているのは、全て同じ種類の多肉植物。昆布状の扁平な葉状茎は、どれも優に1mを超える。茎葉の各節には、幾つもの大きな蕾が垂れ下がり、来る夜を待っている。
知る人ぞ知る、月下美人だ。
元は、若くして亡くなった妻の形見――初恋の人の病死はあまりに呆気なく、陶山・真治(すやま・しんじ)は胸の空虚を埋める為、挿木したばかりの小さな月下美人の世話を始めた。
それまで園芸と無縁だった真治の世話で、月下美人が初めての花を咲かせたのは、実に5年後――月影を浴び、馥郁と香る清楚な大花に、真治は2度目の恋をした。
以来、村役場に勤めるながら、月下美人一筋で数十年。開花の頃に立ち込める香りは、ご近所でも評判だ。
尤も、喜寿を目前にする迄とうとう再婚しなかったから、きっと真治は最期を独りで迎えるだろう。
「なぁに、月下のお前達を眺めて逝ければそれで充分、だ」
「へぇ、これはそーかん! ってやつだねー♪」
微笑む真治の呟きを掻き消すように、秋の黄昏時に場違いな、底抜けに明るい声音が響き渡る。
「……見ない顔だね? お嬢ちゃん」
生垣の向こうに、大きなリボンが目を引く赤いワンピースの少女。山吹色の髪から小さな角が覗いている。サキュバスかドラゴニアンだろうか?
……否、大きな斧を軽々と担ぐその背後に、尋常でなく大きな鬼百合が不穏に蠢いている。
「あ、あんた……」
真治が思わず一歩退いたその時。鬼百合から噴出した花粉めいた何かが、殊更沢山の蕾を付ける月下美人に降り注ぐ――。
「な……っ!」
突如、グニグニと葉を伸ばし、鉢から根を引っこ抜く月下美人。巨大化しながらポンポンと音を立てて花を咲かせるや、忽ち真治を絡め取り肥大した花の1つに閉じ込める。
「よしよし、景気よく満開だねー。それじゃ、まずはご近所さんからドッカーンって破壊しちゃってね! 村を全滅させたら、山を下りて町に行くんだよ。自然を破壊してきた文明なんか、ゼーンブぶっ潰しちゃおー♪」
「月下美人が、恋人? それはそれで素敵、かもしれないけど……何だか、ちょっと淋しい気もする」
赤毛のシャドウエルフの少女の呟きに、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は敢えてコメントを控えたようだった。静かに、集まったケルベロス達に向き直る。
「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
兵庫県の山村に、植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばらまく、人型の攻性植物が現れたという。
「どうやら、同じ目的で動く人型攻性植物は、複数体いるようですが……本件の攻性植物は鬼百合と同化しています。『鬼百合の陽ちゃん』と呼称されているようですね」
謎の胞子で攻性植物と化した月下美人は、その場に居合わせた陶山・真治を襲い宿主としてしまった。
「もうそろそろ、月下美人も終わりの頃だし……何事もなければ良かったんだけど」
小さく溜息を吐く新条・あかり(点灯夫・e04291)。淡々とした面持ちながら、エルフの長耳は憤慨したようにピコピコと忙しない。
「新条さんの懸念が、私の案件にヒットしましたので、皆さんに集まって戴いた次第です。急ぎ現場に向かい、陶山さんを宿主にした攻性植物を倒して下さい」
残念ながら、「鬼百合の陽ちゃん」は既に姿を消しており、戦う事は出来ない。残された月下美人の攻性植物は1体のみで、配下はいないようだ。
「幸い、攻性植物が陶山さん宅の庭から外に出た所で、駆け付ける事は可能です。周辺は畑と農家が点在していますが、道幅もそれなりに広く、戦うのに支障は無いでしょう。丁度夕飯時ですし、陶山さんの家は村外れにありますから、周辺に人はいません」
とは言え、単純に戦って倒せばいい、という訳ではなさそうだ。
「皆さんが駆け付けた時点で、陶山さんは既に攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます」
打開策は『ヒールグラビティ』だ。
「攻性植物にヒールを掛けながら戦う事で、戦闘後に寄生された彼の救出が可能となるかもしれません」
ヒールグラビティを敵に掛けても、ヒール不能のダメージは少しずつ蓄積していく。粘り強く攻撃していけば、理論的には撃破も可能だ。
「犠牲者は出ないに越した事はありません。しかし、攻性植物も弱くはありません。陶山さんの救出まで考慮するならば、万全の体制で臨んで下さい」
月下美人の攻性植物は満開の白花から毒の花粉を噴出させ、或いは濃密な芳香を振り撒いて敵を幻惑する。
「又、一際、大きな花を牙具える大口と化して喰らい付いてくるようです」
毒の花粉は『服破り』、幻惑の芳香は『トラウマ』攻撃と考えれば判り易いだろうか。尚、大花の喰らい付きは、標的を定めれば執念深く追い掛けて来るようだ。
「月下美人の花って、食べられるんだよ。でも、花の方が人を食べちゃいけないよね……」
「陶山さんも月下美人に深い想い入れがあるようです。しかし、このような最期はけして看過出来ません。攻性植物の宿主を救うのは非常に難しいと思われます。しかし、もし可能ならば、救出してあげて下さい……皆さんの健闘を祈ります」
参加者 | |
---|---|
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186) |
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443) |
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816) |
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089) |
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392) |
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447) |
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365) |
遠道・進(浪漫と希望狂いの科学者・e35463) |
●黄昏に馨る
秋分を過ぎて、徐々に夜は長くなる。西の山に落陽が触れんとせん頃。ケルベロス達は、兵庫の山村に降り立つ。
「月下美人か……確か咲く時間が短いんだっけ?」
村外れに急ぎながらも、小首を傾げるゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)。その肩で花冠のボクスドラゴンが甘えるように一鳴き。澄まし顔のウイングキャットを抱っこするティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は、静かに頷く。
「一夜限りの花、だよ。でも、とっても綺麗で、いい匂い……大事に育てた花に襲われるなんて、悲しい事、絶対防ぎたい、な」
「陶山・真治さん、だっけ? 香りも見た目も楽しみにしてたんだろうな。早く助けてあげないとね!」
「頑張ろう、ね、ゼロ」
信愛篭る視線を交わす2人。ちなみに、ボクスドラゴンのクラーレとウイングキャットのリューズ、本来の相棒は肩車や抱っこする方とは逆だったりする。
「くぁ~またぞろヘンな雑草が現れたのオチで」
赤いペンギンぐるみ、もといヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)は、黄色いクチバシの下で鼻をひくつかせる。
俄かに立ち込める濃密な芳香。ペンギン頭を巡らせば案の定、平屋の庭に臨む私道を、根っこで叩きながら異様な月下美人が現れる。
「雑草……月下美人は、育てるのも見るのも中々難しいんですよね」
ヒナタの明け透けな言葉に、ウイングキャットのプリンと並ぶ東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)は思わず苦笑する。
「大事にしていたものを利用するとか、ひどい事するのです」
攻性植物と化した月下美人とて、丹精込めて育てられただろうに。だが、これ以上の被害は食い止めなければならない。
「きっと真治さんは、あの花の中だよ!」
攻性植物にぶら下がる一際大きな白蕾を、暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)が指差す。人1人が座り込んだくらいのサイズだ。
「食虫植物だって人は襲わないのに……こんな異常になるなんて……」
囚われの人を死なせてはいけない、何があっても――息を呑んだ姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)は、祈るように両手を組んだ。
「あの月下美人の花って、食べられるの? 知らなかったわ。無事に救出出来たら、食べてもいいかしら? ああ、でも、花より肉の方が美味しそう」
いっそマイペースに呟くユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)は、八重歯覗く唇に不敵な笑みを浮かべる。
「兎に角、大事にしてた花に食べられてしまうのも可哀想だし、救助してあげないとね」
(「月下美人に籠められた真治さんの想い……僕にだって伝わってくるよ」)
早くに妻に先立たれた陶山・真治は、以降を月下美人と共に過ごしてきたという。再婚しなかった彼の切なくも綺麗な想いが、思春期の少年の柔らかな感性を擽る。攻性植物なんかに、踏み躙らせちゃいけない。
「こんな終わらせ方、絶対いやだ! 助けるよ、絶対!」
「うん。儚い恋の花に人を襲わせるなんて、ダメ」
輝凛やティスキィの健気な言葉に、思わず茶の双眸を細めた。遠道・進(浪漫と希望狂いの科学者・e35463)は、燻らせていた煙草を携帯灰皿に放り込む。
「月下美人が恋人ねぇ……共感は出来ないが感心はするな」
その実、宿主を取り込んだ攻性植物は初めての進は、些か落ち着かない心情を新型パワードスーツに押し込み身構える。
「おk、攻性植物は即燃やす会会長のヒナタさんとしては、人様に迷惑を掛ける植物は即焼却でGoのオチね~♪」
赤ペンさんの癒しのオーラを立ち上らせながら、物騒を言い放つヒナタ。正々堂々のファイティングポーズが、夕陽に照り映える――。
「くぁ~赤ペンキ~ック」
天高くより赤ペンの急降下蹴りが、戦いの火蓋を切って落とした。
●暗雲
ガバリ、と白の大花が内から捲り上がって牙を剥く。鎌首もたげるように、ヒナタの虹色の蹴打を弾いた。
「私の中の脅威……お願い……! 私を……皆を、あの人を助けてあげて……!」
常ならば虫も殺せぬ気弱な楓。攻性植物の獰猛さを前に黒の双眸をきつく閉じる。
「やれ……面倒、何故無駄に肥大化して自我を持つのじゃ。月下美人が食せるといえど、こんなの誰が食うのじゃ」
再び目を開いた時、少女の雰囲気が一変する。いっそ狂気さえ滲ませたそれは、楓自身が抱える『闇』。
「私たちに逆らうなんて、ナマイキだー!!」
対照的に強気を叫ぶユーロは、4人に分身するや攻性植物を囲んでフルボッコ。
「……うん?」
ダメージを与えながら、ユーロは不審げに眉を顰める。よくよく狙える立ち位置ながら、クリティカルには厳しい命中精度に違和感を覚えたのだ。
「僕達の声、耳を澄ませて、待っていて!」
万物を裂く超高エネルギーの光剣を両手に輝凛も高速突進するも、その斬撃は花弁を一片飛ばすのみ。
「行くぜ! 行くぜ! 吹き飛ばして行くぜ!」
ゴウと燃え上がる炎。進の好戦的な口調は、装着した龍型強化魔導外装・ドラゴニックアーマーの影響か。
「ドラゴニックスマッシュ!」
声高らかに叫びながら、真っ正面から突っ込んで行く――だが、ドラゴニック・パワー噴射で加速したハンマーを、攻性植物は事も無げにかわしてのけた。
「くっ!」
悔しげに歯噛みしながらも、進も冷静な一面で把握している。眼力が量った自身の技は、どれも命中率が4割を切る事に。
「キャスター、ですか」
菜々乃の轟竜砲とて、本来は命中を旨とした得意技だ。だが、彼女の竜砲弾をもグニリと茎を曲げて回避されれば、自ずと敵のポジションも見えてくる。
――――!!
ぶわり、と毒の花粉が楓に浴びせられる。咳き込む少女も含めて前衛に、リューズとプリンが相次いで清浄の翼が広げるが、楓は体勢を崩したままだ。
「あれ……6人?」
初手奮わずを半ば幸いに、メタリックバーストを放つゼロアリエ。だが、超感覚の覚醒を促す効果を発揮する前に、オウガ粒子が失せたように見えた。首を傾げて数えてみれば……クラッシャーは輝凛、楓、進。ディフェンダーはヒナタと菜々乃&プリン。合計5人+1体。
元より、範囲型グラビティのエフェクト発動率は50%。そこに使役修正が加わった上に、列減衰まで重なれば。
戦闘に入れば、おいそれと作戦は変えられない。攻性植物に取り込まれた宿主の救出も定められた方針だ。早速、攻性植物にウィッチオペレーションを施しながら……肩越しに窺ったティスキィの緋の眼が怪訝に翳る。
「あの……メディックさん、は?」
後方に控えるのはユーロ、サーヴァントのクラーレとリューズの1人+2体。ユーロとクラーレはスナイパーだ。
「え、まさか……リューズだけ!?」
ゼロアリエもギョッと目を瞠る。ジャマー2人は攻性植物の回復担当。仲間へのヒールはメディックを想定していた。それが、癒し手がウイングキャットのみとは。
「くぁ、いざとなったら赤ペンさんがフォローするのオチ」
「私も皆さんを守りつつ、回復も早めにがんばりますよ」
ヒナタと菜々乃の言葉は心強いが、初手より雲行きの怪しさは否めなかった。
●長期戦に臨むには
「くぁ~はっは~~、その程度の攻撃痛くも痒くものオチね~」
数手を経て、攻性植物に怒りを植えるヒナタ。堂々と敵の正面で子ペンギン達と歌い踊って挑発する光景は、如何にもミュージックファイターらしい、としておこう。
「破壊して、殺戮して、殲滅してやるー♪ ゆっくりしんでいってね!」
物騒を言い放ちながら、ユーロの遠隔爆破がじわじわと攻性植物の武威を削ぐ。
「月下美人、大切なんでしょ!? ずっと大事にしてきたんでしょ!?」
旋刃脚を繰り出す一方、蕾の内の真治に声を掛け続ける輝凛。応えがなくとも諦めず、声を張る。
「なら、そんな子達に、貴方を殺させちゃダメだよっ!」
「エネルギー最大、ピンポイントに形成……完了。あとは叩き込むだけ……デリャァー!!」
そろそろ昇り始めた月を背に、ゴルドハンマーを叩き込む進。隙を突いて命中させれば、攻性植物の硬い表皮もひび割れた。服破りによる与ダメージ上昇は回復量が追いつかぬ可能性も高まるが、ケルベロス側の攻撃が万全と言えぬ現状では、却って援けとなろう。
「もう少し! 真治さんを助けるまでの辛抱だ!」
ゼロアリエに頷き、ティスキィも懸命にウィッチドクターの手腕を繰る。だが、その実、ケルベロス達は「宿主救出のタイミング」を読み違えていた節がある。
攻性植物を弱らせて戦闘中に宿主を引き剥がす、ではない。与えたダメージ分だけ攻性植物にヒールし、ジワジワと蓄積される「ヒール不能ダメージ」で押し切る。これが宿主の命を繋ぐ唯一の手段だ。実際「戦闘『後』に宿主の救出が可能となるかもしない」とヘリオライダーも明言している。
だが、眼力で体力の程は測れない。ダメージばかり先行しては、回復の前に撃破という「事故」もあり得る。
故に「攻撃しながら回復」が重要であり、ジャマー2人を敵回復に充てていた。尤も、ゼロアリエもティスキィもサーヴァントと魂を分かつ為、回復量は相当に減じている。2人合わせても、クラッシャーたる輝凛の一撃でほぼ消えてしまう。その上で他もヒールを用意して、不足のフォローに回る算段であった。数手の遅れを引き換えにしても、着実にヒールを重ねる体制は出来ていたのだ――だが、それは敵へのヒール対策だ。
宿主の救出まで目指すなら、長期戦は必至。戦線を保つ攻防の備えは、常よりしっかりせねばならない。ケルベロス『全員』の攻撃が速やかに命中するように、或いは、只でさえ敵へのヒールに割かれる戦力を悪戯に減じさせない回復に。
だが、反撃の起点となり易いスナイパーのユーロに足止めや捕縛の準備はない。複数の足止めグラビティを用意していたティスキィは、攻性植物のヒールが最優先だ。これに前衛過多の列減衰が重なり、エンチャントの付与速度も落ちている。
「お~っと、ココで赤ペンインタ~セプト~……ぶはぁ!」
「栄養剤で眠気を取るのですよ」
何となく元気になった気がしたら、本当に元気になるかもしれない。楓を庇って頭から毒の花粉を被ったヒナタを、菜々乃は懸命に応援する。
或いは、やはり足止め技を複数活性化していた菜々乃がもっと攻撃に回れば、もう少し早く攻性植物の動きを鈍らせられただろう。だが、ケルベロスのメディック不在は、常に戦闘不能の危険を煽る。菜々乃が戦線の維持に必死になればなる程、敵への火力が減じる皮肉な循環に陥る。
「おのれ、面倒な……」
長期戦となれば、敵の攻撃に晒されるのも長くなる。最初に落ちたのは、楓。ディフェンダーが全てを庇える訳ではない。ヒナタへの「怒り」の発動は五分五分だが、その残り50%全てを執拗に狙われ続ければ、敵の火力をある程度削いでいたとして……防具耐性が合致していなかったのも痛かった。
「……っ」
敵も眼力で量ったか。頭を巡らせた白花の大顎が次に己に向けられると知り、顔を顰める進。この攻性植物は狙い定めての集中攻撃を旨としているようだ。
それでも、やるべきは1つ。騒音刃からゴルドハンマーを繰り出そうとして……見切りに気付いてやむを得ず、進は旋刃脚を放つ。
幸か不幸か、1人欠けて前衛にも範囲型ヒールが届き易くなった。再度、メタリックバーストを放つゼロアリエ。ジャマーのエンチャントは掛かれば心強い。
――――!!
だがそれは、敵とて同じ。初めて、振り撒かれた幻惑の芳香が前衛を包む。
咄嗟にクラッシャー達を庇う菜々乃&プリン。
「い、いやぁぁぁぁっ!」
少女の悲鳴が響き渡る。彼女の目に映るのは――本が全く売れず、部屋にも自分の本がびっしりの世界。商業デビューしても起こり得る、クリエイターの恐怖の叫びだ。
そして、突如、ヒナタの眼前に現れた「虎と馬」。双方の容赦ない噛み付き&キック攻撃に、赤ペンぐるみはボロボロに!
「正に……とらうま」
――お後が宜しいようで。
●散華
「ひゃっは~! 赤ペンさんの歌を聞け~~♪」
シリアスを犠牲にしたトラウマは、リューズ渾身の清浄の翼に掃われた。ヒナタの「ブラッドスター」がビートを刻み、身を竦める菜々乃を輝凛の気力が癒す。
「このままいくわよ!」
プリンのキャットリングに続く菜々乃の轟竜砲の軌道を、ユーロのロッドが変じた蝙蝠が辿る。
「ぐ、あああぁっ!」
漸く、押し始めた戦況。だが、勢い付いて程なく。進のパワードスーツが音を立てて噛み裂かれる。まだ意識があるのは防具が役目を全うしたお陰だろうが、これで戦闘不能は2人。
ケルベロス達は、時間を掛け過ぎた。
誰1人として宿主の救出は諦めていない。だが……2人の戦闘不能を出す間、ヒナタも同程度のダメージを被っただろう。メディック不在の現状、ここまで奮闘してきた盾を喪えば。
ケルベロスが敗北すれば――この山村は全滅する。
「攻性植物も、大分やられている、みたい」
敵を注視してきたティスキィは、終焉までけして長くないと判断する。
「頑張ろう、最後まで」
「俺達は、最後までヒールするから!」
一か八か――ジャマー達の声に頷き、ケルベロスらは一斉に攻性植物へ刃を向ける。
「くぁ、ここで勝負を決めるのオチ!」
ヒナタのクイックドロウに続き、スターゲイザーを放つ菜々乃。ユーロは攻撃を加減するも、その一撃は白花を幾つも落とす。
――――!!
咆哮する攻性植物が花粉を撒こうとして、その動きを不自然に止めた瞬間。
「ここだ! この一撃で決めるっ!」
ジャマー達のヒールと同時に、吼舞ダブル黎明剣――輝凛の一対の「力ある光」は空間を断裂し、攻性植物の繁る葉を尽く破壊した。
攻性植物は忽ち萎れ、落下した花から老人が転げ出る。
幸い、楓と進は少し休めば回復しそうだ。だが……真治の息を確認した菜々乃は、沈痛の面持ちで首を振る。
「そんな!」
悲鳴を上げて駆け寄り、真治にウィッチオペレーションを繰り返すティスキィ。ゼロアリエもサーヴァント達も、ヒールグラビティで手伝う。
「真治さん、頑張って! 目ぇ覚まして!」
輝凛も懸命に気力を注ぐが、ヒールグラビティとて生と死の分水嶺を越えた命は呼び戻せない。
(「ごめんなさい……」)
けして気を緩めた訳ではないが、色々足りなかった。俯く菜々乃にプリンが心配顔で寄り添う。
気が付けば夜闇が迫り、清楚な芳香が鼻腔を擽る。
「くぁ、そろそろ咲きそうな花があるのオチ」
ヒナタの言葉に、ケルベロス達は遺体を真治の庭に運ぶ。
「このまま、眺めていてもいいかしら?」
本来はお花見用の筈だった、ユーロの紅茶とバニラクッキーはお供えに。
「今回の件は月下美人を攻性植物にした奴らが悪い……彼女を嫌いになるなよ?」
進の青息吐息の呟きが、せめての手向けとなった。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 4/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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