なごりの栗を抱く谷~バルタザールの誕生日

作者:譲葉慧

 今日もヘリポートはヘリオンの発着で慌ただしい。
 そんな中、端っこの方で、行き交う人を避けるようにバルタザール・パラベラム(戦備えの銃弾・en0212) が一人立っている。
 どこか所在なげにも見えるあたり、危急の用件でヘリポートを訪れたわけではなさそうだ。
「どうしたもんか……行くって言う奴いるかなあ」
 ぼんやりと独り言を呟いていたバルタザールはケルベロス達を見つけると、嬉し気に近寄った。嬉し気と言うと可愛げがあるが、その風体は共犯者を見つけたならず者めいている。
「お前さん方、栗好きか?」
 唐突にそう尋ねる。だが、それは話のとっかかり上尋ねているだけのようだ。一通り返事を聞くと、バルタザールは続けて語り始めた。
「実は、この時期に栗がわんさか採れる谷があってな、そこに行こうと思ってるんだが、毎年余る程採れるんでなぁ……今年は栗好きな奴誰か誘おうと思ってよ」
 興味を持ったケルベロスに向けて、改めてバルタザールは栗の里について語る。
「そこは山奥の谷でな、谷の麓に栗の林が広がっているんだ。いわゆる和栗って呼ばれる栗だな。これが大粒でほっくり美味い。だが、流通に乗らないのさ。山奥過ぎてな」
 栗の旬は少し過ぎた頃だが、この谷の栗は今が一番美味しいときなのだと、バルタザールは言い添えた。
 何故そんな場所を知っているのかと問われると、バルタザールは少しばつが悪そうに視線をそらす。
「俺が生まれてから飛べるようになるまで育った場所なんだよ。その後も秋にはよく寄ったから、馴染んでいると言うか……」
 歯切れ悪く言葉を切ると、とにかく栗だ、とばかりに強引に栗の話へ移る。
「和栗だからな、蒸したり煮たりすると美味いぜ。菓子の材料にもなるし、皆で拾った数を勝負するとかどうだ? 土産に持って帰って皆で食べるのもいいんじゃないか?」
 麓の里で、簡単な調理場所と道具なら貸してくれるだろうとバルタザールは請け合った。
「栗のイガが大量に地面に落ちてるからな、踏んだり、手に刺したりしないように気をつけろよ。結構痛いんだよアレな。……さて、準備はいいか? じゃあ行こうぜ」


■リプレイ


 周りに連なる山々を訪れ、とりどりに彩っている紅葉は、栗の実る谷には一足遅くやって来るつもりらしかった。秋も深まるこの時期だが、すこし遅い実りの季節を迎えた栗の木はまだ緑を残していた。
 とはいえ、毬栗の多くは地に落ちている。これを収穫すれば、実りの季節は終わりなのだろう。ケルベロス達が谷を訪れたのは、ちょうどそんな時だった。
 一面棘だらけの地面すれすれをバルタザール・パラベラム(戦備えの銃弾・en0212)が飛んで、栗林の様子を見ている。
「今年も豊作だな。里の皆も好きなだけ採って大丈夫って言ってたが、素直に言葉に甘えても大丈夫そうだぜ」
 彼がそう請け合うと、集まったケルベロスはさっそく毬栗の海へと分け入った。
 手袋に長靴、対棘完全防備のアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)がトングで毬を掴むと、割れた毬からふっくら丸い栗が覗いている。これ程の大粒はなかなか見かけない。
「いい栗を紹介してくれたな、パラベラム!」
 からりと笑い、アラタは背負った籠に毬栗をどんどん収穫してゆく。とは言え、採っても採っても地面の棘々は一向に減る気配がない。採りたてを味わった後、残りをお土産にしても、まだまだ余裕がありそうだ。
「美味そうだろ? 土産に持って帰って皆で食べるといいぜ」
 棘避けのため宙に浮いたままのバルタザールは、しゃがんだ姿勢で収穫している。アラタは太っ腹だなと破顔し、少し窮屈そうな彼の姿を見た。
「ここを故郷といっていいのかは解らんが、パラベラムは里帰りしてるんだろう? 偉い! いい奴だな♪」
 弾む声で正面から褒められたバルタザールは、一瞬不意を突かれたような顔をしてアラタを見上げた後、だよな? と返し、翼を一打ちして少し浮き上がった。拡がった翼と被ったポンチョが、アラタの眼からその表情を隠してしまう。
「さっ、栗取るぞ! どっちが沢山採れるか競争だぜ、アラタ」
 どこか取り繕うように言い、バルタザールは棘の密集地帯へとふわふわと飛んで行った。

 栗の木の枝葉の間から、雲一つない空が見える。月見里・ゼノア(鏡天花・e36605)は栗拾いの手を止めて、空を見上げた。頭上の青は心なしか昨日見たそれよりも深いような気がする。時折吹く風は優しく包み込むようだが、ゼノアの肌は、優しさの底に潜む微かな冬の気配を感じ取っていた。
 栗林をゆるりと歩くゼノアの傍らでは、長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)がせっせと栗を収穫している。本当は遠出など性ではないけれど、たまたまヘリポートを通りかかり栗の谷の誘いを見かけ、ついつい誘いに乗ってしまったのだと彼は言うのだが……。
「渋皮煮に、マロングラッセ。栗を使ったケーキにあしらうのも良いかな?」
 しかしゴロベエ、しっかりと和栗のお菓子とその製法を調べ上げていた。落ちている栗はたくさん、全てのお菓子を作れるほど量は余りある。だがゴロベエは考え込むことしきりだ。
 大きな栗を持て余し気味に抱え、慌てて葉陰に隠れたリスを見送ったゼノアは、考え込むゴロベエに気が付き、振り返った。
「長篠さん、どうしたんですか?」
「うーん……マロングラッセとか、作るのに何日もかかるみたいで、ここで作るわけにいかなくってね」
 たっぷりの栗をじっくりと時間を掛けて丁寧に料理する。そうして出来上がったお菓子を引きこもって独り占めする……どうにもそれは興が乗らない話だ。
「帰ったら、皆でお茶会でもしようって声をかけようか」
「良いですね! 長篠さんのお菓子、楽しみです」
 風景を愉しんでいたゼノアも、お茶会と聞き、本格的に栗拾い参入だ。籠がどんどん毬栗で埋まってゆく様に、ゴロベエの目元口元が少し緩む。繊細な栗のお菓子で、お茶会だなんて。
(「まるでリア充のようだ」)
 そんな彼の背後で、ゼノアが毬栗の棘に悪戦苦闘している。ゴロベエが毬の端を靴で押さえて栗を取り出していると、誰かが火ばさみを貸してくれた。こぼれ落ちるつややかな栗はずっしり重い。これを使ったお菓子は、きっと良い出来栄えになる。そう考えてみると、刺さるとちょっと痛い毬取り作業も、俄然はかどるというものだ。
 美味しいものは人を笑顔にしてくれる。きっとお茶会に来てくれた皆は笑んでくれるだろう。栗を取り出すゴロベエとゼノアは、その笑顔を少しだけ先取りしている。その姿は傍から見れば、リア充そのもののようだった。

 毬栗を持て余す誰かに予備の道具を貸し、望月・巌(昼之月・e00281)は、ずっと屈み気味の身体を伸ばした。思いの外強ばっていた背や腰に、内心苦笑いしているところに、バルタザールがふらふら飛んできた。
 巌と一緒に栗拾いをしていた、生明・穣(月草之青・e00256)が呼びかけると、彼ら二人の前にバルタザールはやって来る。
「こんにちは、バルさん……とお呼びしても良かったですか」
「ああ。俺の名前長ぇからな、逆にまんまだと呼びづらいだろ?」
 挨拶や、以前の誘いの話など、二、三言葉を交わし、その流れで三人は語らいながら栗拾いをはじめる。
「此処がバルタザールの生まれ育った場所かぁ。良い所だな?」
 澄んだ空気と豊かな地に育まれた、山奥の小さな里。都会の便利さには到底敵わないが、それでもこの地を良しとして里の人々は営々と暮らしてきたのだ。
 巌の言葉に、ああ、と応えるバルタザールは、よっぽど毬が苦手なのか、灰色の翼をゆっくりと羽ばたかせ、地面すれすれを浮いたままだ。
「こんな綺麗な所を飛んだら、きっと気持ちイイだろうな」
 翼を持たない地球人の巌は、少し羨望が混じる眼で、横着するオラトリオの顔を見上げた。
「街中と違って周りを気にせず飛べるからな、そりゃあもう格別さ。晴れた日に飛ぶと、翼がふかふかになるんだぜ。干した布団みたいにな」
 羨みの気配には触れず、バルタザールはただ笑った。その顔立ちのせいで、やけに物騒に見える笑顔ではあるが、それでも彼にとっては素の笑顔であるらしかった。
 のんびりと会話を楽しみながらの収穫であったのに、籠は存外早く一杯になった。他のケルベロスもぼちぼち収穫を終えたようだ。
 新鮮な食材は、直ぐに調理するに限る。ケルベロス達は一路、里への道を辿った。


 里の集会所の台所を借りたケルベロスは、早速料理に取り掛かる。スプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)が里の人から聞いた話では、折々に里の集まりがあるそうで、そのために台所はかなり広く作られているのだそうだ。
 スプーキーは、誕生祝を作るため、収穫した栗の幾ばくかを暫し湯に浸けてから、皮剥きに取り掛かる。ちょうど側ではバルタザールが同じ作業をしているところだった。
「……やぁ。歳近い番犬同士、少し話をしていかないか?」
 顔を上げ、バルタザールは、お前さんも四十路かいとにやりと笑った。
「俺は今年から四捨五入すりゃ五十だけどな。この里から始まった人生だが、長いようで案外短かいもんだ」
「君の故郷は素敵な場所だね。地元の方々もとても親切にしてくださったよ」
 スプーキーが鬼皮も渋皮も剥いているのに対し、バルタザールは渋皮を残している。お互いが作ろうとしているものを何となく察しつつ、二人は栗を火にかける。
「……俺のお袋も流れの銃使いでよ、身重の身体でこの里に辿りついて俺を産んだのさ。ここの人らは、素性もわからねえオラトリオの母子に随分親切にしてくれてな。けど、大した恩返しもできずじまいでなあ……」
 尋ねられたわけでもないのに、そんな身の上話をしてから、喋り過ぎたと思ったのか、バルタザールは悪ぃな、とスプーキーに断った。
 その後は、煮具合を確かめつつ、甘露煮の味付けの好みだとか、使う砂糖の種類だとか、そんな話をして過ごす。そうしていると、栗より先にスプーキーが仕込んでおいた品が出来上がった。
 鍋の蓋を開けると、栗ご飯が炊かれている。それだけで充分美味しそうだが、スプーキーはもうひと手間かける。鍋肌のおこげごとさっと握って炙れば、栗入りの焼きおにぎりの出来上がりだ。
「栗甘露と、熟成栗の焼きおにぎりを作ってみたんだ。佳ければ味見してくれるかい?」
 バルタザールは、二品を食べ比べ、栗の味の違いを楽しんでいる。
「鮮度抜群のもので作った甘露もさることながら、熟成させた栗でしか味わえない、深みがあると僕は想うよ」
「それぞれ違う美味さがあるぜ。栗の食べ比べなんて、なかなかできないからな。珍しい機会をありがとうよ、スプーキー」
 ケルベロス達と里の皆、全員に振る舞えないのだけが残念だなと、バルタザールはちょっと罪悪感の混じった笑いを浮かべ、焼きおにぎりの最後の一口を味わった。

 火にかけていた土鍋が沸いたようだ。左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)は、いっぱい採れた籠の栗を湯気立つ土鍋へと入れてゆく。栗の素材をそのまま味わうつもりなら、茹でるよりもじっくりと蒸す方が、栗の甘味を引き出してくれる。
 それを十郎から聞いたサイファ・クロード(零・e06460)の、張り切ることときたら。玄人と自認する彼は、土鍋持参という十郎に玄人魂を感じ取ったらしい。栗を茹でている鍋に貼りついて、火加減を見守っている。
 サイファの準備は万全だ。包丁、ボウル、裏ごし器、へら。後は茹であがるのを待つばかり。そしてその後は、時間との勝負なのだ。
 そしてついに……ついにその刻が来た。ざるに茹であがった栗をざあっと開ける。触れるほどに冷めるのを待つのももどかしいサイファは、熱そうに栗の皮剥きを始めた。
「熱いうちに裏ごししないと、やり辛くなるんだ。熱いけど、すっごく熱いけど、玄人としてここは譲れない!」
 サイファが二度『熱い』と言うからには相当熱いのだろう。土鍋の方はもう暫くかかるからと、十郎はナイフを手に取りサイファの皮剥きを手伝うことにする。
「栗は皮剥きが大変だからな……苦労した分美味いんだけど」
 手の中でつるりと滑る栗をあやしながら身を取り出してゆくが、数が数だけに中々果てしない。剥き栗がある程度貯まったところでサイファは身を潰し、裏ごし器でこしてゆく。これはこれで、意外に力仕事で骨が折れる。だがここで手を抜くと、今まで積み重ねた苦労が台無しになってしまうのだ。
 ようやっと出来上がった栗のペーストは、妥協を許さないサイファの手により、滑らかな食感に仕上がった。用意した薄焼きクッキーに塗ってみると、もたつきなく実にするりと塗れる。それを何枚も重ねて、サイファが目指すはお手軽(決して作るのは手軽じゃなかったが)栗のミルフィーユ。
 これはどこをどう考えても美味しい。玄人の勘がサイファにそう確信させる。だがしかし、しかしだ。実際のところは食してみなければわからない。玄人の勘だけではなく、五感、主に味覚によって、その確信はもたらされるべきではなかろうか……!
 これは決して食欲を満たすためではない。仕事の完成は、己の身で確かめなければならないのだ。玄人として。
「試食会しようよ?」
 誘われた十郎は、良いな、と微かに頷いた。土鍋の方も、そろそろ良い頃合いだった。
「……お、なかなかお洒落なの作ってるじゃないか。美味そうだなぁ」
 十郎が覗き込んだサイファの手元では、丁寧にクッキーとペーストが重ね合わされてミルフィーユとなってゆく。さっくりとしたバター多めの薄焼きクッキーとまったり滑らかな栗のペースト、そりゃあ試食もしたくなるだろうさと納得の組み合わせだ。
 そして、次は十郎の番だ。サイファに見守られながら、彼は土鍋を火から下ろし蓋を開けた。蒸された栗から湯気と熱気が立ち上る。まだ熱い栗を取り出して、半分に切ってみると、黄金色の身が現れた。目を輝かせているサイファに、布巾とスプーンを添えて試食を頼む。
「……慌てて触って、火傷しないようにな?」
 美味しそうに食べるサイファのために、十郎が幾つか蒸し栗を切っていると、ふらりとバルタザールが現れた。
「土鍋で蒸し栗と、これはクッキーか? 皆それぞれ作る物が違ってて、良いな」
 サイファと十郎に誕生日祝いの言葉を掛けられ、バルタザールは少し面はゆそうに礼を返す。
「玄人の作った特製ミルフィーユをプレゼントだよー。甘党なアンタもきっと気に入るはず」
 そう言い、サイファは悪戯を思いついた子供のような顔をし、誕生日だし「あーん」のサービスもつけちゃおっかな、等と空恐ろしいことを言い出した。目を剥いたバルタザールに、なんちゃって! と返す様は、果たしてからかっているのか本気なのか。
「おいおい、からかうのは止せよ……」
 脱力しているバルタザールに、十郎はまだ熱い土鍋を差し出した。
「素敵な場所と美味しい栗の礼も兼ねて、甘い蒸し栗はどうかな?」
 繊細なミルフィーユと素朴な甘さの蒸し栗とを、三人はしばし満喫したのだった。

 皆それぞれ料理を作っている中、巌と穣の栗料理も出来上がりつつあった。
 巌は、蒸し上がった栗を、裏ごしして砂糖を加え、更にとろ火にかけて練り上げていた。どの程度水気を飛ばすかで、食感が違ってくるのだが、巌はその加減を見計らいながら、栗を混ぜ合わせている。
 一方、穣は渋皮を残した栗を煮ていた。砂糖も全量入れ終り、最後の仕上げだ。通りかかったバルタザールが、鍋の中身を見て笑う。
「渋皮煮か。良い感じだな」
「子どもの頃から良く作っていまして。意外と時間は掛かるのですけれどね」
 もっと時間をかけた品は、後日送りますからという穣の囁きに、バルタザールは意外そうに眉を上げ、頷く。そして貰うだけじゃ悪いなと、持っていた袋の中から渋皮煮の瓶を一つ取り出し、穣に渡した。
「まあ同じ渋皮煮なんだが、今年は仕上げにスコッチを入れてみたんだ。疲れた時に食べると、沁みるんだよな」
 そんなやり取りをしていると、丁度巌の作っていた品も出来上がったようだ。並んでいるのは茶巾絞りにされた栗だ。この里に似た、恵那という地の栗きんとんなのだそうだ。外見は和菓子に近いそれを、巌はバルタザールへと差し出した。
「誕生日おめでとさん、バルタザール。ようこそ45歳の世界へ」
「これからの一年がよりよきものとなり来年の誕生日を迎えられますように」
 巌と穣から祝いの言葉を受け、ありがとよ、とバルタザールは返す。相変わらずのご面相だが、嬉しそうな笑みで目尻が下がり、険がほんの少しだけ和らいでいた。

「おっ、栗、随分採れたじゃねえか、アラタ」
 一生懸命毬を剥いているアラタの所へ、バルタザールが現れた。先程いきなり居なくなったと思ったら、現れるのも唐突だ。横に腰かけ、毬栗剥きを手伝い始める。
 二人がトングやナイフを使って次々と毬を剥いていると、周りの人達も手伝いに加わってくれた。それからの作業は実に早かった。今、アラタの目の前には栗が大山盛りだ。
 アラタは栗にナイフで切り込みを入れ、七輪の上に置いた網に置いた。熱くなり過ぎないよう加減を整えておいた炭火が、鬼皮ごと栗を炙る。
「焼き栗だ。皆に食べてもらいたくてな、たくさん栗を採っておいたんだ」
 そう言い、アラタは笑う。栗の切り込みが段々開き、濃い黄色の身が見えてきた。今度はひっくり返して裏側だ。香ばしい匂いが食欲をそそる。
「もうそろそろ、いいんじゃないか?」
 せっかちに聞いてくるバルタザールに、まあ待てとお預けをして、アラタは焼き加減を確かめる。加減に納得した後、大粒の栗を選りすぐり、一番にバルタザールへと渡した。
 火傷するなよ! と言うアラタに、バルタザールは大丈夫だと返すが、いい大人の割に、どうもそそっかしそうで、危なっかしいのだ。
 焼き栗のお裾分けをしてから、アラタは七輪の側へと戻り、自分も焼き栗にありついた。少し肌寒い今日は、七輪の暖かさがありがたい。
 里の人によれば、なごりの栗の季節を終えると、この里は一気に冬へと向かうのだそうだ。踏みしめた地面の落ち葉の柔らかさ、透き通った山の空気。里の残り短い秋の様を愉しみながら、アラタは笑う。
「静かだけれど豊かで、いい処だな。パラベラム、お誕生日おめでとう」
 もう何個めかの焼き栗を味わいながら、バルタザールはアラタに礼を言ってから、秋晴れの空を見上げた。
「いつ頃からか、誕生日は別に特別な日じゃなくなっちまってたが、今日は久しぶりに『特別』な日になった……祝ってくれる人達がいるってのは、良いもんだな。皆をこの里に誘って良かったぜ」
 そう言い、視線を落としたバルタザールは、アラタとまた目が合ったが、照れ顔を今度こそ翼や服で隠さず、代わりにぎこちなく笑んでみせた。

作者:譲葉慧 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月12日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
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