鎌倉ハロウィンパーティー~カボチャ男パニック

作者:香住あおい

 ハロウィンムードに包まれる街中で浮かない顔をした男が一人。
 彼は年に一度のこの時期がどうしても好きになれずにいた。パーティーに参加するなどもってのほか。
 なぜなら、彼はカボチャが苦手なのである。
 カボチャが単体で置いてある分には問題ないのだが、それが大量に積まれているとなると、どうも近寄りづらくなる。
 それに加えて、目や鼻や口が描かれていたり彫られたりしているとなると足がガクガクと震え出し、そこから動けなくなってしまう。
 理由はわからないが、とかく彼はカボチャが苦手だった。
 そんな彼の前に現れたのが赤い頭巾を被った少女。
 彼女こそがドリームイーターであり、手にした鍵で男性の心臓を一突きした。
 鍵は心臓を穿つが、男性は無傷である。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 先程の攻撃こそ、ドリームイーターが人間の夢を得るための行為。
 そして彼女はドリームイーターを生み出した。
 夢を吸い取られた男性は意識を失って崩れ落ちる。そのすぐ横に現れる、新たなドリームイーター。
 全身がモザイクに包まれている人間型のそれは、カボチャの被り物にカボチャの胴体、両手首から先もカボチャで、膝から下もカボチャ。一言で言うなればカボチャ男。
 新たなドリームイーターの出現を見守り、そして彼女は姿を消した。

 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテは唸りながら言う。
「皆さんはカボチャ、好きっすか?」
 それは唐突な質問だったが、今回の事件に十二分に関係のあることだった。
 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)が調査した結果、日本各地でドリームイーターが暗躍していることがわかった。
 出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っていた人で、ハロウィンパーティーの当日に一斉に動き出すらしい。
「ハロウィンドリームイーターが現れるのは世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場、つまり鎌倉のハロウィンパーティーの会場っす」
 皆にはハロウィンパーティーが開始する直前までに撃破して欲しいと続ける。
「ドリームイーターは全身がモザイクの人間型っす。でも、今回皆さんに倒して欲しいドリームイーターはカボチャ男っす」
 カボチャヘッドにカボチャボディ。腕も足もカボチャ。
 しかしカボチャに覆われていない首や腕や膝から上にははっきりとモザイクがかかっており、カボチャに彫られた目鼻口からもモザイクを窺うことができる。
「カボチャ男はカボチャを狙って来るっす。だからカボチャを壊してパーティーが始まる前でも、大量にカボチャがあれば出てくるかもしれないっす」
 カボチャを狙うドリームイーター。ハロウィンパーティーが始まると同時に現れる彼は大量のカボチャやジャック・オー・ランタンを一か所に集めれば誘き出すことができそうだ。
 そしてさらに、さもパーティーが始まったかのように装えばドリームイーターが現れる確率は高まる。
「カボチャ男の使うグラビティっすけど、『心を抉る鍵』『夢喰らい』『モザイクヒーリング』の3つっす」
 『心を抉る鍵』にはトラウマ、『夢喰らい』には催眠、『モザイクヒーリング』には回復の効果がある。
「しっかりハロウィンパーティーを楽しむためにも、カボチャ男を倒してほしいっす!」
 ドリームイーターを撃破すれば楽しいハロウィンパーティーが待っている。ダンテはキラキラとした眼差しとともに皆へと激励の言葉を向けた。


参加者
蒼天翼・舞刃(蒼き翼のバトジャン少女・e00965)
周防・虎河(正義の味方・e01279)
カチューシャ・ヤコブレフ(物理攻撃大好き万能メイド・e02490)
真神・ケイト(ピジョンブラッド・e03367)
篠田・隼斗(瑠璃水晶・e08361)
霊仙・瑠璃(ウェアライダーの巫術士・e12682)
エステル・エクセレン(動き始めたココロ・e14107)
鋼・五六五六衛門(通信教育なんちゃって剣術使い・e17520)

■リプレイ

●パーティーのはじまり
 鎌倉ハロウィンパーティー当日。
 ドリームイーターの出現が予知され、ケルベロス達はおびき寄せるための作戦を開始している。
「某はカボチャを置いてくるでござる」
 普段着である侍の装いではあるが金髪碧眼のためにどうにも外国人の侍コスプレ感が拭いきれない鋼・五六五六衛門(通信教育なんちゃって剣術使い・e17520)がカボチャを抱えてパーティー会場を出ていく。 
 ケルベロス達の狙いはカボチャを狙ってやってくるドリームイーター。実際のパーティーが始まる前にこのドリームイーターを退治するのが目的であった。
 そんなわけでこのパーティー会場へ、道を作るようにカボチャを置いてわかりやすく誘導する手筈となっている。
「ボクも手伝うよ!」
 同じく普段着の巫女姿で霊仙・瑠璃(ウェアライダーの巫術士・e12682)が耳と尻尾をぴょこぴょこと動かしながらカボチャを持って五六五六衛門の後を追う。
「ここは任せて大丈夫かな」
 ジャック・オー・ランタン姿の周防・虎河(正義の味方・e01279)は会場内での力仕事が一段落したところで、外に置きに行こうとカボチャを抱え、会場設営をしているところに声を掛けた。
「大丈夫よ。何かあったら呼ぶからそっちはお願いするわね」
 くノ一衣装の蒼天翼・舞刃(蒼き翼のバトジャン少女・e00965)が答える。今回は彼女の仲間達も手伝ってくれるようで、一緒に偽パーティの準備を行っている。
「俺もカボチャ置きに行こうかな。あ、似合ってるね、可愛い可愛い」
 デフォルメされたドクロのお面を頭に付けてフード付きの黒い布で死神風の仮装をした篠田・隼斗(瑠璃水晶・e08361)は、お姫様の格好で着飾られた小野寺・蜜姫(ウェアライダーのミュージックファイター・en0025)へとそんな言葉を残して出ていった。
「……趣向はわかるんだけど、あたしがここまで着飾る必要あるの?」
 偽パーティーの一環として蜜姫のライブが開催されることとなった。そのため、ステージ衣装だと言うことでお姫様風の丈の長いドレスを着させられ、いつもと勝手の違う服装に戸惑っているようにも見える。
「やっぱり良く似合うじゃないですか~。素材が良いと何を着ても似合いますねぇ~」
 器用にカボチャをくり抜いてランタンを作りながら上機嫌で真神・ケイト(ピジョンブラッド・e03367)がおだてるように言うが、恐らく半分以上は本気だろう。彼はカボチャパンツのカボチャ王子風衣装で、自身が作ったものを並べていく。
「貴女は私が守ります。ご安心ください。私、優秀ですから」
 カボチャ並べから戻ってきたシスター服に丸メガネを掛けたエステル・エクセレン(動き始めたココロ・e14107)はそう蜜姫に告げると、黙々と会場設営を手伝い始めた。
「ドリームイーターの腐った心根、メイド直々に指導してさしあげましょう」
 いつものメイド服姿でカチューシャ・ヤコブレフ(物理攻撃大好き万能メイド・e02490)はテーブル設置を行う。メイド喫茶勤務のおかげもあるのか、慣れた手つきで作業をしている。
 会場も外も、ドリームイーターを迎え入れる準備は着々と進みつつあった。

●ウェルカム・カボチャ男
 ギターがかき鳴らされる。イントロはアップテンポのロック。
 そのまま激しい曲調は続くのだが、聞こえてくるのは蜜姫の可愛らしい歌声とやたらと可愛らしい歌詞。
 隼斗は手拍子でライブを盛り上げる。おびき寄せるための偽パーティーとはいえ、実際に楽しそうな表情を浮かべていた。
「蜜姫お姉ちゃんかっこいい!」
 瑠璃も楽しそうに手を叩く。その感情に連動するように尻尾も揺れている。
 エステルは先程の約束を守るべく警備に回っていた。だが、ステージは気になるようで、ちらちらとそちらに視線を送っている。
 蜜姫の演奏をBGMに、舞刃達はわいわいと楽しんでいた。
 雪女のコスプレをしたピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)は様々なお菓子を用意した上で雪結晶模様の着物で給仕に回っている。
 また、蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)とリリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008)は揃いのメイド服で、一糸乱れぬ完璧なコンビネーションで裏方として動いているのだが、如何せん完璧すぎて少々目立っている。しかしそれはまるでパフォーマンスのようで見ごたえもある。
 仲間達の様子を楽しく見ながらも舞刃は警戒を怠らない。敵がいつやってくるのかわからないため、気は抜けない。
「小野寺殿ぉぉ! 某でござるぅぅ!」
 頭に『小野寺命』と書かれた鉢巻きを巻いた五六五六衛門が吠える。どこかの街に居そうな感じになっているが、視界の端に会場へ入ろうとする一般人の姿を見つけてそそくさとそちらの方へ向かった。
「まだ会場の設営中故、もう少し経った後でお越し頂けると幸いにござる」
 そう言ってプラチナチケットを見せると一般人は素直に離れていく。
 しかし、会場入りしようとする一般人は少なくはない。
「申し訳ございません。まだ準備段階で、ライブはリハーサル中となっております」
 メイドらしく受け答えをして、カチューシャが深々と頭を下げた。
「パーティ本番は夕方からなんですよぉ~。すこぉしだけ待っててもらえませんかねぇ?」
 ラブフェロモンとお菓子を撒き散らしてケイトが言う。投げキッスのおまけも付けて一般人を会場から離れさせる。
「お帰りはこちらからどうぞ」
 虎河はドリームイーターと鉢合わせしないよう、カボチャで彩られていない方へと一般人を案内する。これで一般人に危害が加わることはない。
 恐らく迷い込んできた最後の一般人を無事に帰路へ返したところで、遠くから殴打音が聞こえてくる。
 それはだんだん近づいてきてパーティー会場へと姿を見せた。
 そこにいたのはカボチャ頭にカボチャの胴体、カボチャの手足に彩られた全身がモザイクのドリームイーター。
 入口に飾られている大きめのカボチャに手の先に付いたカボチャをぶつけて壊し、会場内に居るケルベロス達を一瞥する。

●楽しいパーティーのために
 ドリームイーターの姿を視界に捉えた蜜姫が演奏曲を「紅瞳覚醒」へ変える。立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏でて皆を奮起させる。
「これぞ我が剣技……ジョブレスオーラでござる!」
 特に剣を使っているわけでも抜いているわけでもないが、五六五六衛門も掛け声とともにジョブレスオーラを虎河へ掛けて耐性を上げる。
 ドリームイーターが真っ先に襲いかかるのはジャック・オー・ランタン姿の虎河。カボチャがキーヘッドの鍵で斬り裂き、彼はトラウマを受ける。
 何が見えているのかは定かではないが、虎河は足止めを食らったかのように一歩も動くことができない。
 さらに追撃しようと動くドリームイーターに瑠璃がふわりと巫女服をなびかせながら獣撃拳を撃ち込む。高速かつ重量のある一撃はドリームイーターを怯ませた。
 怯んだドリームイーターに電光石火の蹴りを入れるのは隼斗。頭の仮面が吹っ飛ばないように押さえながら放った旋刃脚が左手のカボチャを削り取る。
 次いで、南瓜の王子様――ケイトが大器晩成撃を胴体に叩き込む。
 舞刃もくノ一らしく、構えた手裏剣から時空凍結弾を撃つ。
 虎河のオルトロス、アスラも口に咥えた神器の剣で斬り付けた。
 それぞれの攻撃は全て胴体のカボチャを目掛けたもので、見事胴体のカボチャを氷漬けにする。
「模倣だからと侮らないことです」
 エステルはメガネの弦を押し上げてドリームイーターを一瞥すると、攻撃を放つ。膨大なエネルギーを収束させて矢を作り出し、高速で射出するマキナ・ミストルテイン。ドリームイーターが動きを止めていたということもあって、矢はカボチャヘッドを抉る。
 少し悲惨な外見となりつつあるドリームイーターの正面に割って入るとカチューシャはロングスカートをなびかせて拳を振り上げる。
「言葉の後にマムを付けなさい!」
 叱責しながら殴る蹴る等の肉体言語を繰り出すメイド式生活指導。激しい殴打の結果、氷漬けの胴体にヒビが入る。
 そして、加賀・マキナ(龍になった少女・e00837)が人知れず狙撃し、ドリームイーターのヒビを増やした。
 その間に五六五六衛門が虎河を気力溜めで癒す。体力が回復すると同時に、トラウマも消え去ったようで虎河は戦線復帰する。
 蜜姫はメロディラインを微妙に変化させ、「片翼のアルカディア」を奏でる。激しいギターの音色に圧倒されたドリームイーターは怯んだ。
「見て、蒼天の奥義! この衝撃と華麗さに、動けなくなったって知らないんだから♪」
 舞刃の蒼天舞翼衝が繰り出される。翼や衣服を翻しながら美しく舞うように的確に攻撃を当てていき、急所を撃ち抜かれたドリームイーターは痺れてしまったように体の動きを止めた。
 すかさず、虎河は剣から降魔の一撃を繰り出す。ドリームイーターの左手のカボチャがその表面を削られて橙色の中身が見える。
「へい! お兄さん、俺とちょっと遊んでいこうぜ!」
 隼斗は目を淡く光らせて月のイタズラを仕掛けた。フェロモンによってドリームイーターを挑発し、攻撃の手をこちらへと向けさせる。
 虎河から隼斗へと攻撃対象を変えたことにより、ドリームイーターの動きが読みやすくなった。カチューシャは進路へ割り込み、グラビティブレイクでドリームイーターを殴り飛ばす。
「さて、燃やして料理しましょうか♪」
 ケイトは吹っ飛ばされるドリームイーターに追いつくとグラインドファイアで蹴り上げた。
 空中を漂うドリームイーターに瑠璃は御業を呼び出すと熾炎業炎砲で火あぶりにし、エステルは掌から放ったドラゴンの幻影によるドラゴニックミラージュでさらに強火力で焼く。
 良い具合に焼けたカボチャを斬り裂くべく、落下点に納刀状態の五六五六衛門が入る。羽織りをはためかせたかと思えば、その一瞬で程良く焼けたドリームイーターは居合い斬りによって真っ二つにされた。

●レッツパーティー!
 二つに斬り裂かれたドリームイーターは、ぽんと軽い音を立ててカボチャのランタンへと変わった。それは飾り付けのカボチャ達に紛れてパーティー会場を彩る。
 ドリームイーターによって壊されたカボチャは清掃業をしている隼斗を中心に皆で片付けて新しいものと交換していく。
「本番でも小野寺のライブが見たいな」
 片付けが終わって虎河がそう言った。それは鎌倉の人達にこのパーティーを笑って楽しんでほしいという想いからの提案だった。
「名案でござる。小野寺殿には何卒ライブを!」
 五六五六衛門も熱く後押しをする。いつの間にやら鉢巻きを先程の偽パーティーで巻いていたものに変えていた。
「私もぜひとも見たいですねぇ。お姫様ルックで華麗に可憐に歌う蜜姫君をこの目にしかと焼きつけるためにも!」
 ケイトも熱心に言う。本心で言っているのだろう、やたらと説得力のある熱い言葉。
 3人の説得に、蜜姫はほんの少し表情を緩めた。
「そ、そう? まあ、そこまで言うんなら歌ってもいいわよ。あたしの歌とギター、しっかり聞きなさい!」
 蜜姫はステージに上がるとギターをかきならす。その表情はまんざらでもないどころか嬉しそうである。
 カボチャの悲哀感をポップなメロディに乗せ、蜜姫が歌う。
 それはパーティー会場に響き、本当のハロウィンパーティーの幕が開いた。
 隼斗はライブを見ながらケルベロスの皆や歌声を聞いてやってきた一般人へ振る舞うべく、アイシングで小さなお化けが描かれた自作の個別包装のカップケーキを取り出した。テーブルの上に置かれたそれはみるみるうちに減っていき、皆の胃の中に収まっていく。
 カチューシャもあらかじめ小袋に分けていた手作りのお菓子を、会場へやってきた子供達へと配って回る。にこにこと嬉しそうな表情で受け取る子供達を見て彼女は笑みをこぼす。
 舞刃は仲間達と改めてパーティを楽しむ。初対面である魔女の仮装をした六道・蘭華(双破の侍女・e02423)と改めて挨拶をかわした。
 談笑しているうちに、ステージで演奏する蜜姫を見て猫耳アイドル衣装の赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)が舞刃の手を握って笑顔で一緒に歌おうと誘う。
「わ、私も!?」
 驚く舞刃。黒マントを着て死神の仮装をしている蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)も自分もバックダンサーをするからと告げて後押しをするように背を押す。蘭華もお嬢様のためにと援護をする。
 するとそのやり取りに気付いた蜜姫がステージから手招きをして一同を呼び寄せた。
 会場の片隅で賑やかな面々を物珍しそうに見るのはエステル。その行動はハロウィンパーティーが初めてだということもあるのだが。
「エステルお姉ちゃん、行きましょう!」
「いえ、私は初めてですからここで――」
 彼女の姿を見つけた瑠璃がぱたぱたと尻尾を揺らしながら声を掛ける。エステルはやんわりと断ろうとするも、瑠璃はその手を掴んで喧騒の中へと連れていく。表面上は無表情に見えても、ほんのわずかに戸惑いの色が見え隠れしている。
「折角仮装して集まったんだし、みんなで楽しみましょう!」
 瑠璃の言葉に同意するように皆が笑顔を浮かべた。
 輪の中に連れ出されたエステルも、心なしか笑っているようにも見えた。

作者:香住あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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