巫女服を着た犬耳の男子こそ至高

作者:八幡

●巫女服を着た犬耳の男子こそ至高
 どこかの廃工場に何人かのローブを着た男たちが集まっている。
 それなりに涼しくなってきたとはいえ、残暑の厳しいこの季節であるが、集まった男たちの熱量はそんなものを歯牙にもかけないほどであった。
「巫女服こそが至高である」
「「その通り!」」
 そんな男たちの中心に居た鳥の化け物、ビルシャナが主張すると、周囲の男たちが呼応するように歓声をあげる。
「そして犬耳。これを追加することにより巫女服の魅力がより際立つのである!」
「「いーぬみみ! いーぬみみ!」」
 巫女服に犬耳を合体させることにより、そこはかとなく従順さと清楚さを併せ持ち最強に見えなくもない。そんなビルシャナの主張に信者たちのボルテージは上がる一方だ。
「何より必要なもの。それこそが純粋無垢な男子であることだ……これにより、巫女服犬耳男子と言う、究極であり、至高である萌えが完成するのだ!」
「「キャワタン! キャワタン!」」
 ビルシャナは、さらにそこに男子と言う要素を追加することにより、最強すらを超越する何かを生み出した気分だ。
 想像してみると言い、巫女服を着た可愛い犬耳男子が上目遣いに「いぢわる」とか見つめてくる様を! そりゃもう、信者たちのボルテージも最高潮だ。
「そして我等はそれを――体現する!」
「「いぃぃやぁっはぁああ!」」
 それからビルシャナと信者たちは纏っていたローブを脱ぎ捨てると……その下からは巫女服をまとい犬耳を装備したマッチョな肢体が現れたのだった。

●また変なビルシャナ
「また変なビルシャナが出て来たから倒して欲しいんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスの前に立つと話を始める。
 変なビルシャナと言うとあれだろう。鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が後を絶たないというやつだろう。
 このビルシャナ化した人間は、周囲に自分の考えを布教して信者を形成しサーヴァントのような配下にしてしまう。
 サーヴァント自体は強くはないが、一般人であるため倒してしまうのは好ましくない。また、ビルシャナ自体を撃破すればサーヴァントは元に戻る。
 あるいはサーヴァント化する前に、インパクトのある説得によりビルシャナの布教を覆せれば、サーヴァント化自体を防ぐことも出来る。
 ケルベロスがビルシャナについての基本的なことを思い返していると、
「今回現れたビルシャナは……えーっと、犬耳で、巫女服を着た、男の子こそが至高だって主張してるんだよ?」
 ボクには良く分からないんだけどと首を傾げながら、透子が説明を始める。
「ビルシャナは猫耳巫女服の恰好をした10人の信者と一緒に、廃工場で盛り上がってるみたい」
 しかも全員筋骨隆々らしい……嫌な盛り上がりである。
「信者の中には、巫女服に最大の魅力を感じてる人と、犬耳に魂を持っていかれてる人と、男の娘に転生したい人っていう微妙な派閥があるみたいだよ?」
 猫耳巫女服の男の子こそ至高……3つの要素が混じり合うことにより至高になる、とはいってもマックス萌え上がるパーツは人によって若干異なるものなのかもしれない。
 そこらへんをついていくか、あるいは至高を体現した後にそれを崩していくなど、信者を説得するための切り口はいくつかありそうだ。
 一通りの説明を終えた透子は人差し指を自分の唇に当て、
「にんげんのごうって底知れないんだね?」
 小首を傾げながらケルベロスたちに後を託し、
「ふっ、見せてやるよ。本当のイヌミミってやつをよぉ」
 藤守・大樹(ウェアライダーの降魔拳士・en0071)は不敵に笑って見せたのだった。


参加者
アリア・シルバートーン(女神さまのアイドル・e01387)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
月見里・一太(咬殺・e02692)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
橘・相(気怠い藍・e23255)
月隠・澪奈(ブートでシャット・e32646)

■リプレイ

●ハッピーバースディ
「「いぃぃやぁっはぁああ!」」
 ビルシャナと信者たちが纏っていたローブを脱ぎ捨てると、その下からは巫女服を纏いし犬耳のマッチョなオッサンたちが現れた。
 ふぁっさ~と宙を舞うローブ……それらが地面に落ちるころ、信者たちがざわつき始める。あれ? なんか1人多くない? 11人目が居ない? と、身を震わせる。
「話は聞かせて貰った!!」
 若干ホラーテイストな空気になる中、11人目の変態……信者としていつの間にか紛れ込んでいた、月見里・一太(咬殺・e02692)が声を張り上げ、
「事前に巫女服狐耳男子については画像を見て勉強したが、全くわからんじゃなかった」
 それと同時に、アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が工場の扉を蹴破って現れ、そんなアジサイの背中に隠れるように、メイド服を着た、湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)がぬるっと工場に入ってくる。
 難解ではあったが巫女服狐耳男子についての何かをアジサイは理解したようだ……何故、犬耳ではなく狐耳の方を理解したのかについて、麻亜弥は考えてみたが良く分からなかった。ただ、
「そういえば来年は戌年だし、初詣には犬耳をした巫女さんがいても不思議ではないですね。ここ流行を先取りするとは、ビルシャナ恐るべし」
 なんて独りで納得したりもした。
「これは予想外の展開ですね」
 うんうんと頷いている麻亜弥の横に並んだ、アリア・シルバートーン(女神さまのアイドル・e01387)は、信者に紛れていた一太に驚き「ひゃん」何て言いながらお互いを抱きしめ合う犬耳巫女服のおっさんたちに、女神のような生暖かい眼差しを向ける。
 それからアリアは、そのままの眼差しを、藤守・大樹(ウェアライダーの降魔拳士・en0071)へ向けてみる。アリアは大樹が紛れ込んでいないかを疑っていたのだが、当の大樹は何故か敬語なアリアに大丈夫? じゃんじゃんする? なんて狼狽えるばかりだ。
「ビルシャナの考えはわかんないな……」
 狼狽える駄犬に生温かみを増すアリアの視線を確認しつつ、月隠・澪奈(ブートでシャット・e32646)は今一度ビルシャナたちを確認すれば、そこには未だお互いを抱きしめ合うマッチョで巫女服犬耳なオッサンたちの姿がある。
 なぜあれが至高なのかは理解できないが、少なくとも信者たちに罪は無いのだから何とか助けたいなと、澪奈は考えるようだ。
「個人の趣向は好き好きでいいと思うけど、なんでビルシャナってこんなに傍迷惑なんだろうな……」
 そんな澪奈に頷きながら、ルーク・アルカード(白麗・e04248)はビルシャナの傍迷惑っぷりに息を吐いた。個人的に楽しむ分には良いのだが、ビルシャナは周囲を汚染していくから問題だ。
 なんだか真面目気味な澪奈とルークをぼーっと眺めていた、橘・相(気怠い藍・e23255)は何かを思い出したようにポンと手を叩いて、
「そういえば今日いったくんの誕生日だった。おめでとー」
 と、一太を祝福した。唐突に飛んで来た相からの剛速球に「今、言うことかよ?!」なんて驚く一太だが、
「そうなのか、おめでとう」
 富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)がぱちぱちと手を叩いて流れに乗っかって来た。白亜に深い意図は無く、何となく同じメイドの恰好をしている相に同調しておこうくらいの感じだったのだろうが、
「おお! めでたいな青年!」
 何故かビルシャナと信者たちも乗ってきて誕生日おめでとうコールが始まった。何この羞恥プレイと固まる一太に、信者の1人が「何も用意してなくてごめんな、俺の宝をお前にやるぜ」と自分の頭に付けていた犬耳を外す。
「ハッピバースディ……新しい自分にグッモーニンだな」
 へへっと鼻の頭を擦りながら照れくさそうにするマッチョなオッサンから犬耳を一太は受け取り……、
「天然物が付いてるからいらねぇよ! ……犬じゃなくて狼だけど!」
 膝の上で真っ二つに割ってやったのだった。

●物事の本質
 犬耳を割られた信者がショックで正気に戻ったようだが、深い喪失感に襲われていた……だが、
「さぁ、わしらの姿を見て、素晴らしきマッスルラブを思い出すのじゃ!」
 ソルヴィン・フォルナーが筋肉の素晴らしさを謳うと、マッスルの何たるかを思い出し、そのまま2人で肩を組み合って工場から出て行った。

 その姿を哀しみの視線で見送っていた信者たちの耳に、ポロロンと弦楽器の音が聞こえて来た。
「歌は世につれ世は歌につれ。それでは聞いてください、巫女服犬耳男子の歌」
 音の主はアジサイ。奏でるはアコーステックギター。歌うは巫女服犬耳男子への賛歌。ポロン、ポロロンと出鱈目なしかしながら魂を込めた演奏が流れ、アジサイは無言で曲を奏でる。
 それから暫くして満足したのか、十分な余韻を残してアジサイが曲を止めると、
「……歌ってないよな?」
 信者たちが顔を見合わせてヒソヒソ話を始める。そんな信者たちの言葉を聞きつけたアジサイは怒りを露わに信者たちに詰め寄った。
「今の俺の! この魂の歌が聞こえなかったのか! これだけ熱く歌ったのに! その犬耳は飾りかよ飾りだったな! そんなんじゃ巫女服犬耳おとこのこなんてなれるわけないだろ!」
 そんな偽物の耳で巫女服犬耳おとこのこを騙るなどおこがましいのだとアジサイは主張し、信者たちに動揺が走るが……、
「ふっ、俺には聞こえたぜ? アンタの熱いソウルがよ?」
 どうやら信者の中にもアジサイの魂の歌に感銘を受けたものが居たようだ。その目の端からは透明なものが流れ落ち、どうやら本気であることは明白だ。そんな信者にアジサイは大きく頷いて、頭に手を乗せ、
「……嘘をつくなぁ!」
 その犬耳をもぎ取ってやった。
「どっちみち?!」
 この問答に正解などない。そう気づいた信者たちがアジサイから後ずさると、
「あた……オレみたいなのが好きなのか……世も末ってか、オレみたいなのは巫女とは言わないんだがな……」
 犬耳巫女の姿になった澪奈の姿がそこにはあった。一見少年のようにも見える澪奈を目にした信者たちのテンションが一気に上がり、
「犬耳巫女服のどこがいいんだ?」
 そんな信者たちへ、ルークが素朴な質問を投げかけるも、テンションの上がり切った信者たちは「あの子を見ろ全てだよ!」と即答する。信者たちの回答を聞いたルークはクルッと回ると早着替えで巫女服姿になった。
「これを見てもそんなことが言えるのか?」
 キッと鋭い視線を信者たちへ向けた。幻想を現実でぶち壊すのが手っ取り早いと判断してのルークの行動だが、
「「くっころ感がたまりませんな!」」
 どうやら新たな属性を付与してしまったようだ。生肉を求めるゾンビのようにゆらゆらと近づいてくる信者たちに、色んな意味での身の危険を感じた澪奈とルークが共に尻尾を逆立てる。
「貴様らは甘すぎる!」
 そんなルークたちと信者の間に割って入り、一太が演説を始めた。甘すぎると言われた信者は何を! と食って掛かるが、
「犬耳、それが持つ言葉の意味を考えろ! 犬耳とは犬の耳、つまり犬の一属性であるという事だ! 犬という存在の特性を鑑みるに神のを奉じる巫女というのは向いているように感じるかもしれない! だが、だがである!」
 一太は信者を視線で制して演説を続ける。
「彼等はより自分達に近しく統率するものにつき従い、奉仕する! その特性は、もはや神を奉る神職のそれにあらず! そう、奉仕の時点で理解したものも多いだろう! 従者である! すなわち、犬耳に似合う服装は従者服であると主張する!! 従者服こそが犬耳の萌え所を最も輝かせるのである!!」
 犬とはすなわち従者であると主張する一太。憧れに近づくために、憧れを抱いたものの恰好を真似る……それは、信者たちとて犬耳巫女になっている訳だから、そこは共感できるのだが、
「う~ん、従者服はちょっと?」
 従者服については心に刺さらなかったようだ。不服そうな信者たちの様子に、分かった分かったと一太は両手をパタパタさせてから、
「って言うかテメェラ耳にしか言及してないけど尻尾はどうしたぁ!! 尻尾だって大事な犬要素だろうが!」
 澪奈とルークの逆立った尻尾を示した。犬耳だけではない、尻尾もあってこそ何ぼの犬要素であると。
「しっぽ……だと?!」
 何故自分たちはそこに気が付かなかったのかと驚愕する信者たちへ一太の追撃は続く。
「そもそもが感情を表ざたにし、それを見るだけで何よりも感情の揺れが解る犬尻尾、それに連動し犬耳が動くからこその犬属性だろうが!! それを失くし、耳だけしか語らぬとは笑止千万、テメェら御犬様に土下座して出直してきやがれ!! 貴様らに犬耳を語る資格など――まして、それを身に纏う資格などないと知れ!!」
「そうか、俺たちは犬に対する愛が足りなかったのだ」
 そして信者たちは地面に膝をつく。己の無知を痛感したのだ。耳などと言うパーツに拘るあまり、その本質を……犬であるべき理由を見失っていたのだと、思い知らされたのだ。
 そんな信者たちにの前で、視線を合わせるように澪奈も身を屈めて、にっこりと微笑む。
「少年よ。もしかして慰め……」
「……で? あたしが女の子だって気づかなかったよね?」
「ふぁー?!」
 それから纏っていた巫女服をそっと脱ぎ捨てると、笑顔を絶やすことなく現実ってやつを突き付けてやったのだった。

「あたしにはよく分からないけど、そのぐらいならやめた方がいいんじゃないかな?」
 なんて本気で心配する澪奈の前で信者たちは羞恥に悶絶するしかないようだ。犬耳どころか色々な本質を見失っていたのだからしょうがない。
 澪奈の前で悶絶するマッチョたちを見ていたアリアは、ふと大樹へ視線を向ける。深い意味は無いけれど、犬耳のマッチョと聞いて何かを思い出したのだ。
 当の大樹は何時の間にか巫女服を着み、その上で相に耳を引っ張られていて……アリアはバイオレンスギターを持つ手に力を込めた。

●巫女かメイドか
「や、やめろよぉ!」
 大樹の耳を引っ張り飽きたらしい相がルークの耳に襲い掛かっているのを眺めつつ、アジサイは考える。犬だけじゃなく猫も尻尾と耳で感情が読み取れるなと。そう例えば、
「犬耳? 巫女服? 私のようなメイドは嫌いかにゃん?」
 顔は無表情な白亜が分かりやすいだろう。にゃんとか無表情で言いつつ、あんまり気が乗らないのか微妙に耳がしなっている。
「巫女よりも、メイドのがご主人様にたくさんご奉仕できるのに……見てくれないのは酷いにゃん」
 もっとも台詞的にシュンとしてても可笑しくはない。むしろ可愛らしい仕草に見える白亜に信者たちに動揺が走った。犬耳巫女こそ至高とは言え、こんな可愛い猫耳メイドさんを悲しませて良いのだろうか? と言う男の本能的な部分が揺さぶられるのだ。
「犬耳の男子は、メイド服がお勧めですよ」
 動揺する信者たちに麻亜弥が微笑みかける。ぐらついた足元にさらに揺さぶりをかけるがごとく、メイド服の良さについて語る。
「犬耳の懐き易い印象は、メイド服と相性が良く、萌えが増します」
 メイドもまた誰かに仕える存在。つまりは犬の懐き易い印象と相性が良いと、微笑みを絶やさずに麻亜弥は言い、
「どうでしょう、私は男子ではないですけど、男子でも同じくらいの可愛さが出せますよ」
 自らも着たメイド服の裾をつまんでくるっと回り、信者たちを上目遣いに見上げる。
「懐く猫も居るにゃん」
 そして白亜も麻亜弥と並んで同じように信者たちを見上げ、さらに構って構ってと猫耳を動かしてアピールする。
 正直、もう巫女服なんてどうでも良いんじゃないか? と言うくらいの可愛らしさであるが、もう一押し必要だろう。そう考えた相は巫女服を着こんだ大樹を信者の前に連れてくる。そしてその巫女服をはぎ取ると、
「ほらー、いいだろーメイド服も」
 中から何とメイド服を着こんだ大樹が現れた。ついでに「あ、眼鏡かけるの忘れてた」と眼鏡も装着させる。それから相が大樹の耳元で何かを囁いて、
「ご奉仕するわん」
 白亜たちと並んで上目遣いで信者たちを見てやった、眼鏡越しに見つめてやった。もすぐ初老を迎えようと言うオッサンの上目遣いに信者たちが言葉を失う。
「とりあえず落ち着いてお互いを見ましょう。見ましたか?」
 そんな信者たちにアリアは相変わらず女神のような生暖かい眼差しを向けつつ、大樹の首根っこを掴む、
「あなた達は巫女服を来た犬耳の男子ではなく巫女服を来た犬耳のおっさんです」
 そしてお互いを見合ったマッチョなオッサンたちに、どう頑張ってもオッサンはオッサンなのだと言い放った。そう、この首根っこを掴まれたオッサンのようにオッサンなのだと。
「他人に迷惑をかけるよりはいいですがそれはそれとして視覚的なダメージが大きいのでウォオオオオ」
 それからアリアは左手にオッサンの首根っこ、右手にバイオレンスギターをもって物陰に消えていった。視覚的にダメージが大きかったのだ、仕方がない。
「あら、じゃんじゃんされちゃいましたね。あなたたちも如何ですか?」
 あっちの方から聞こえる音に麻亜弥は、貴方たちもご褒美が欲しいですか? とにっこりと微笑み、
「かわうそがあれば違う結果だったのかな」
 相がかわうそについて考える。かわうそを投げつける。或いは、かわうその足を持って殴りつければ全ては一撃のもとに解決したことだろうが、用意できなかったものは仕方がない。
「「いいえ! メイド服の女の子こそが至高です!」」
 かわうそは置いておいて。信者たちは一瞬考えこみ、物陰から聞こえるジャーンの音に身を震わせると、麻亜弥と白亜の足元に縋りつくように膝を折った。
「ふーん、やっぱり犬耳巫女男子とか言いながらやっぱり女がいいんじゃないか。それで至高だなんだいうなんて情けないぞ」
 あっさり屈した信者たちに麻亜弥が微笑み、白亜はやれやれと息を吐いた。
「そんなどっちつかずじゃ巫女もメイドも求めてるものは手に入らないな、出直してこい」
 それから信者たちを箒で工場の外に追い出したのだった。

 メイドさんからの責め苦……これはこれで。なんて言いながら転がっていく信者たちを横目に、比嘉・アガサは悩んでいた。愁いを秘めたその表情は美しくもある。あるのだが、
『フシュー!』
 足元で転がっている猫のような耳と尻尾だけを出し、鎖でぐるぐる巻きにされた何かを前に悩んでいるとなれば話は別だろう。死体を何処に埋めるか悩んでいるようにしか見えない。
 しかもそのぐるぐる巻きには犬笛を噛ませているらしく喋ることも出来ないし、その音すらこの場に本物の犬は居ないので誰にも聞き取ることが出来ない。
「あ、アジサイ。少しは役に立つかと思ったんだけど、これじゃダメかな?」
 悩んでいる間にアジサイの姿に気付いたアガサは手を振って見せるが、当のアジサイは転がっているそれが、玉榮・陣内であることを何となく察し、
『フシュシュー!』
 空気が抜けるような抗議の音を背にし、何も見なかったことにしたのだった。

●そして結末
 信者たちを外に出し終えた白亜が戻ると、アリアの足元に幸せそうな表情で転がっている大樹と目が合った。
「作り笑顔は骨が折れるな……でもこれで寄ってくるのなら男もたやすいよな、大樹もそうか?」
 耳をぴこぴこさせながらの白亜の問いに大樹は「笑顔だったっけ?」と言う言葉を飲み込んだ。ここでそんなことを言ってしまえば白亜は傷つくかもしれない、乙女の心は繊細に違いないのだから。
「ああ。可愛かったぜ?」
 大樹は最高にダンディな笑顔で可愛かったという事実のみを伝えるも、
「後で蹴っておくから覚悟しておくといい」
 白亜は一つ頷いて去って行った。そんな白亜の後姿に、大樹がどっち道ご褒美かフフフなんて考えていると、その顔をアリアが生暖かい眼差しで覗きこんだ。

 全ての信者たちの心を圧し折……解放した一行は、ビルシャナを前に揃い立つ。
「さぁ! 残るはてめぇだけだぜ!」
 この期に及んで逃げるでもなく、悠然と佇むビルシャナに澪奈は逃げ場はないぜ! と惨殺ナイフを向け、
「この屈辱は晴らして見せる!」
「てへ♪」
 相に全身もふられたらしいルークは、何もかもお前のせいだとばかりにビルシャナに牙を剥き、相はやりすぎちゃったと舌を出す。
「倒された友の敵……お前だけは許さない!」
『フッシュー!』
 アジサイはそっと天井を見上げ、そこはかとなく見覚えのあった鎖の塊を思い浮かべ、ビルシャナに対する怒りを燃やす……そして、その後ろからまるで彼が応援してくれるかのような空気漏れの音が聞こえた気がした。
「皆さん、生きて下さい、生きることは素晴らしい事ですよ」
 ルークやアジサイの姿を見た、麻亜弥はそっと目を伏せ生きることの素晴らしさを説く。そうさ、生きることは何時だって素晴らしいことなのだから。
「ビルシャナのせいにしてるけど、大体自爆だったよね!?」
 そんな彼らに一太はツッコミを入れるが、
「くっくっく、良いだろう! お互いに譲れぬ信念があるのだ! ならばあとは力で語らうのみよ!」
 ビルシャナも何やらかっこいいことを言い始めた。

 その後、なんやかんやでビルシャナ光に還すと、一行は帰路へと着いたのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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