烱々たる炎の槍が狙うは黒龍

作者:質種剰

●対峙
「これは……」
 進藤・隆治(黒竜之書・e04573)から、驚いた声が洩れる。
 何かへ引き寄せられるように訪れた廃村全体が、巨大なモザイクに覆われていたからだ。
「やはり、我輩の予感は正しかったようだな……」
 そう呟いてみるものの、いざ巨大モザイクを目の前にすると、臆してしまう気持ちは拭えない。
 けれども隆治は勇気を奮い立たせて、この巨大モザイクを調べるべく、中へと足を踏み入れた。
「うっ」
 すぐに、空気が粘つく感触をもって全身へ纏わりつく気がして、思わず顔を顰める。
 実際は空気でなく、粘性の液体が空間全体に満ちていた。
 広がる光景もまた奇妙で、畑や平屋の家などをバラバラにして混ぜ合わせたみたいな、目も心も何とも落ち着かない風情である。
「このワイルドスペースを見つけるなんて、まさか、この姿に因縁のある人なのかな?」
 呆然とする隆治の前へ、赤シャツにネクタイの男が現れて言う。
 男は左手に槍の形をした炎を携え、右手にスナイパーライフルを構えていた。
「でも、今、ワイルドスペースの秘密を知られる訳にはいかないからさ。キミは、ワイルドハントであるぼくの手で死んでもらわなくっちゃね!」
 ワイルドハントは煌々と瞳を光らせて、隆治へ襲いかかった。
●救援
「どうやら、ワイルドハントについて調査なさっていた進藤殿が、ドリームイーターの襲撃を受けたようであります」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
 そのドリームイーターは自らをワイルドハントと名乗っていて、進藤殿が向かわれた廃村をモザイクで覆い尽くし、その内部で何らかの作戦を遂行中らしい。
「このままだと、進藤殿のお命が危ないであります。急ぎ、救援へ向かって、ワイルドハントと名乗るドリームイーターを撃破をお願いしたいであります!」
 かけらが真剣な声で頭を下げる。
「皆さんがワイルドハントと戦うのは、件のモザイクの中……特殊な空間ではありますが、戦闘には何ら支障ありませんので、その点はご安心くださいませね」
 ワイルドハントは、手にした炎の槍とスナイパーライフルを使って攻撃してくる。
 炎の槍を用いての敏捷性に長けた突きは、近距離の敵単体へ火傷を負わせる斬撃。
 スナイパーライフルの狙撃は、バレットストームとバスタービームによく似たグラビティである。
 ポジションはどうやらスナイパーのようだ。
「重ねてお願い申し上げます。どうか無事に進藤殿を助けて、ワイルドハントを撃破してくださいね」
 かけらは説明を終えると、心配そうに言葉を添えたのだった。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
ミシェル・マールブランシュ(きみのいばしょ・e00865)
天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
進藤・隆治(黒竜之書・e04573)
佐藤・非正規雇用(一纏恒星・e07700)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)

■リプレイ


 ワイルドスペース。
「時間はかけてられない……死ねぇぇぇぇ!!」
 ワイルドハントが、厳つい背格好に似合わぬ甲高い声で、炎の槍を突き出してくる。
 ドスッ!
「ここが何なのか、その姿をどのようにして手に入れたのか……」
 進藤・隆治(黒竜之書・e04573)は、炎の槍に刺された胸元を左手で抑えつつ呟いた。
 4本の角は雄々しく聳え眼光は刃物のように鋭く、筋肉質な身体はどっしりとして大層逞しい、竜派ドラゴニアンの男性。
 黒い軍服の下に赤いシャツを着て紺のネクタイを締めるのがいつものスタイルなのか、今しも戦闘中の相手——ワイルドハントと服装までもが似通っていた。
「……色々と疑問は尽きないが、今はただ生き残ることに専念させてもらおう」
 隆治が自分自身と戦っているような錯覚に陥るのも、これでは致し方あるまい。
 ともあれ、火傷の痛みなど気にもならないといった顔つきで、バスターライフルの照準を定める隆治。
 ——ビシィッ!
 放たれた魔法光線が、ワイルドハントの左胸を貫通して焼いた。威圧感を供えたビームでは火傷こそ残らなかったが、負傷の仕方まで偶然にも似ている。
 一方で、廃村から巨大モザイクの中へ足を踏み入れたケルベロス達は、皆必死で隆治を探していた。
 何せ、未知なる場所での未知なる敵との戦い。
「隆治さんがさらわれた! あ、違った、ピンチだ! 助けに行こう!」
 それは、普段からマイペースな藤・小梢丸(カレーの人・e02656)が大慌てするぐらいの非常事態に違いないのだから。
 青いポニーテールと黒縁眼鏡、ジャージがトレードマークの自宅警備員な小梢丸は、この世の何よりもカレーが好き。
「まず隆治さんがピンチなので兎にも角にもヒールをかけなければ! ヒールと言う名のカレーをかけなければ!!」
 独自に操るグラビティもカレーの見た目をした物が多い為、駆けつけざまに隆治へカレーをぶっかけてヒールしようかと考える程、彼の頭の中はカレーに支配されていた。
 幸い、隆治の姿はすぐに見つかった。
「進藤、貴様を倒すのはこの俺だ!! こんなところでピンチになってるんじゃねえぜっ!!」
 まず、お決まりのセリフと共に助けへ向かったのは、佐藤・非正規雇用(一纏恒星・e07700)。
 黒い鱗を持つドラゴニアンで、いつも身に着けた派手な武者鎧が自身の立派な角にぴったりハマっている。
 性格は社交的で、一見ハイテンションに見えるも実は気が小さく、虚勢を張る事もしばしば。
 それでいて、周りの空気を読んだり他人を気遣う優しさや協調性も持ち合わせている。
「……どっちが進藤?」
 非正規雇用は、隆治とワイルドハントを真剣に見比べてから、誰にともなく問いかけた。
「リュウジよ、貴様は必ず我が軍門に降らせる! こんなところで貴様を失わせたりするものか!」
 次いで、天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)も非正規雇用に張り合って高笑いする。
 染めた銀髪に着脱可能な付け角を生やし、切れ長の瞳には赤いカラコン、自作の豪奢な服を纏った、コスプレ魔王な地球人だ。
 つまりは厨二病を克服できずに未だ魔王を自称する、痛い格好のお兄さんである。
 とはいえ、尊大な態度に反して実は超がつくほどのお人好しのゾディア。困っている人がいれば、なんやかんやと魔王や悪役サイドのもっともらしい理由を付けて助けようとするそうな。
「……いや、助けるのは本当だが冗談を言ってる場合ではないな」
 現に今も、自らの言動を冗談と言い切った上に、非正規雇用と一緒にどちらが本物か見極めんと目を凝らしているのだ。
「うぅむ、言動からすれば、眼鏡をかけている方が真のリュウジに思えるが……ここは日頃の奴を知る貴様らの判断に任せようではないか」
 これがお人好しでなくて何であろうか。真偽が判明すればすぐに気力溜めが撃てるよう準備万端なのも含めて、まことに良い人である。
 ボクスドラゴンの魔王竜ルシファーも、いつでも隆治を庇えるように神経を割きながら、ボクスブレスを吐いてワイルドハントを攻撃していた。
「外見が似ているので紛らわしいですね……恐縮ですが、それぞれ自己紹介をお願いします」
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)も、どちらが本物の隆治か見分けられぬのか、ゾディアに負けず劣らずのお人好しさを発揮していた。
 請われて素直に自己紹介する敵が果たしているだろうか。
「……我輩が進藤だが」
 流石に本物の隆治は、ニルスの低姿勢に負けて口を開いてくれた。
「射撃なら多少の嗜みが有りますのでお相手致します」
 とりあえずは、ワイルドハントへTor Roarの主砲を向けて、一斉に発射するニルス。
 赤いリボンで結い上げた茶髪のポニーテールと澄んだ緑色の瞳が特徴的な、ドワーフの鎧装騎兵だ。
 私生活の物思いは絶えず、彼女は臆さぬスキンシップ等で相方を物理的に振り回す反面、彼からは逆に度々の精神的な反撃で振り回されているようだ。ある意味バランスは取れている。
 ちなみに、本物の隆治と偽物の区別は口調の差異で見極めた。
「本物の隆治さんなら、鼻からカレーが食べられるはず!」
 小梢丸はめちゃくちゃな事をほざいて有言実行、一晩煮込んだめちゃくちゃ美味しいカレーを隆治へ向かってぶっかけた。
「ちゃんとカレーを摂取した方が本物!」
 口ではそう言いつつも最初に本物を狙っただけ、しっかり見分けているのかもしれない。
 すると。
「皆様落ち着いてください。そもそも隆治様と偽隆治様の違いなど一目瞭然ではありませんか」
 ミシェル・マールブランシュ(きみのいばしょ・e00865)が、ぱんぱんと上品に手を叩きながら割って入った。
 端正な顔立ちをしたレプリカントの男性で、メイド服もといビキニアーマーもとい執事服がトレードマーク。
 性格は実直かつクールで、数ある趣味の中でも妻と子を愛でるのがもはや生き甲斐となっている、愛妻家かつ良いお父さんである。
「隆治様らしからぬ発言をしている、こっちが偽物です。わたくしの目はごまかせません」
 と、無表情でしかとワイルドハントへ指差すまでなら、ミシェルは格好良かった。前衛陣を覚醒させるべく、輝くオウガ粒子を放った演出も相俟って。
 しかし。
「……なんて、そんな事言うと思いましたか? 『本物の偽物の隆治様?』」
 まさかここで、彼がくるりと振り返り本物の隆治へ冷たい目で笑いかけるとは、誰に想像できただろう。
「二段構えで盛大に間違えてるー!!?」
 思わず久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)がツッコむ。
 シャーマンズゴーストのカエサルは、真面目にボケた主人を見て、ドドッとずっこけていた。何とも微笑ましい。
「それにしても、なるほどなぁ。グラビティを放たずに声だけで間違えれば良かったのか。戦況に影響を与えないボケ方というのも、色々あるんだな」
 航は気を取り直して感心しつつも、真剣な眼差しになって戦うネクタイ2人を見比べた。
「何かあっちのメカメカしい方が格好いい気はするけど、本物ではないな。うん」
 童顔にコンプレックスを持つ反動で、日頃は外見に則した立ち居振る舞いを心がけている高校生男子な航。
 だが、その本性は割と大雑把で面倒くさがり、時折素を見せた際は口調も普段と比べて乱暴になるという。
 性格はクールで客観的な物の見方が出来る反面、自分の色恋に対しては——ポーズもあるだろうが——半ば諦念を抱きつつ周囲を羨んでいたりする。
「大体あの偽物、見た目と口調が合ってない!!」
 ともあれ、今日も航の切れ味鋭いツッコミが冴え渡る。
「や、別に本人の口調真似ないまでも、見た目にふさわしい口調とかあるじゃん?」
 同時に、三日月が如き弧を描いた一閃を見舞って、ワイルドハントの足の腱を斬り裂くのも忘れなかった。
 他方。
「見てください! あのロボっぽい硬そうな尻尾!」
 霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)が、自信満々な声で叫ぶ。
 青く長い髪と常に笑っているように見える目元が爽やかな印象を与える、カピバラの少女ウェアライダーだ。
 性格は天真爛漫、年相応の無邪気さでたまに天然ボケも混じる模様。
 自他共に認める大好物は林檎と温泉だが、他にも水泳を好んだり、好敵手を求める武闘派な一面もあるのだとか。
「進藤さんの尻尾はもっと抱き心地が良さそうなので、あっちは偽者ですよぅ!」
「……は?」
 そう断言するユーリは合わせた両手をワニのようにぱくぱく動かして、隆治へ野生の力を送り込み代謝能力を高めた。
「なるほどなぁ!!」
「そこで納得するのか……」
 彼女の言を信じた非正規雇用は、隆治の太い尻尾を鷲掴み。
「大人しく、俺に守られてな!」
 どうやら彼を抑えつける為の行動らしく、その態勢のまま光の盾を隆治の前へと滑り込ませて防護に努めた。
 草臥・衣(神棚・en0234)も、御業が変形した鎧で隆治のグラビティに更なる効果を与える。
「いや……尻尾で判断ってどういうこったい。脱力しかけたぞ……」
 脱力する前に取っ捕まった隆治のツッコミが、戦場に融けた。


「さて。隆治様を殺そうとしたようですね。相応の報いを受ける覚悟は御座いますか?」
 ミシェルは醒めた声音で言い放つや、己が胸部を変形展開、発射口を外気に晒す。
 瞬きする間にも必殺のエネルギー光線が空を切って、ワイルドハントの脇腹を焼き貫いた。
 カエサルも主の意思に忠実に原初の炎を召喚。
 ワイルドハントの足へぶち当てて、火傷を負わせていた。
「今、僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える……」
 と、蔓触手形態に変じた芳醇を解き放つのは小梢丸。
 芳醇は蔓草の如き葉をスルスル伸ばしてワイルドハントを捕らえ、その刹那、ぎゅうっと力一杯締め上げた。
「進藤さんが無事で良かったし、ヒールなのは解ってるんだけど、あのカレー熱そうだなぁ」
 航は、カレー塗れになりながら非正規雇用に尾を掴まれている隆治を見て、思わず苦笑い。
 もっともカレー塗れを取り囲む、小梢丸にミシェル、魔王竜ルシファー、カエサルという鉄壁のディフェンダー陣が居てくれるからこそ、笑う余裕ができたとも言える。
 それでも日本刀の太刀筋にブレはなく、雷の霊力帯びし刀身による素早い刺突が、ワイルドハントの胸部を正しく捉えて抉り抜いた。
「ゲホッ、ゲホッ……全く、今日は招かれざる客の多い日だ」
 ワイルドハントは、口から流れた血もそのままに、ケルベロス達を憎悪の篭った眼で睨みつける。
「まずはお前、ぼくの前からいなくなれっ!」
 奴がスナイパーライフルで狙いをつけたのは、やはり隆治だった。
 砲身より太い光の帯が皆の視界を覆った瞬間、
「隆治、退がれ!」
 咄嗟にミシェルが己の背中で隆治を守り、彼の代わりに魔法光線を喰らう。
「くらえ……ドラゴンパス!!」
 ゴスゥッ!
 メディックとして気を張る非正規雇用も、ボール状に圧縮したオーラをすかさずミシェルの後頭部へ蹴り込んだ。
「…………ありがとう御座います。非正規雇用様」
 いかに見た目は暴力的でもヒール故に痛みは無い。ミシェルは全身を襲う圧迫感が消えたのを感じて、後頭部をさすりさすり礼を述べた。
 その傍らでは、店長が退魔神器の瞳でワイルドハントを睨めつけ、パイロキネシスを発揮して燃え上がらせている。
 戦いが続く中、光の尾を引く飛び蹴りをワイルドハントに喰らわせるのはなご。
 イッパイアッテナは小型治療無人機で後衛陣を守護した。
「そのロボっぽい見た目、硬そうなので壊しやすくします!」
 ユーリはワイルドハントへ接近するや、鎧装騎兵の能力を活かした高速演算で奴の構造的弱点を看破。
 下腹部にフェアリーブーツの爪先から痛烈な一撃をぶちかまし、容赦なく破壊した。
「……我輩は、こんなところでやられるわけにはいかない」
 仲間が来てくれて体力気力共に充ち満ちた隆治は、ドン・植木鉢の柄を握って振りかぶる。
 そして『砲撃形態』に変形した植木鉢から竜砲弾を発砲、ワイルドハントの土手っ腹に風穴を開けると同時に、俊敏さをも削ぎ落とした。
「あなた方ワイルドハントとワイルドスペースに隠された謎は、何れ白日の下に晒される事でしょう……」
 ニルスはいつもの如くワイルドハントへもぺこりと一礼してから、Dwarven Hammer Ver.Busterを構える。
「悪の栄えた例(ためし)無しなのですっ」
 グラビティを中和するエネルギー光弾を銃口より射出、ワイルドハントの炎の槍を撃ち抜いて弱体化させた。
 トライザヴォーガーも車体に炎を纏って突撃し、ワイルドハントへダメージを与えている。
「呪われてあれ、呪われてあれ。神は地に堕ち、聖者は磔刑に、平和は踏み躙られ、鮮血よ地に満ちよ」
 ゾディアは顕現せし黒き聖杯より、魔性へいざない魂狂わせる闇の雫、深淵の黒水を滴らせる。
 溢れて流れ出たその闇の一滴は、鋼の意志も、高潔なる魂も、清廉なる誓いも、全てを貶めるも同然の狂気と怒りへ、ワイルドハントを駆り立てた。
 魔王竜ルシファーも彼と息を合わせて、封印箱ごとの体当たりを敢行、ワイルドハントに怪我を負わせた。


「わたくしが何故怒っているかわかりますか?」
 ボキボキと両手指を鳴らしながら、口調だけ丁寧に謎の質問を投げかけるのはミシェル。
「死にたくても死ねないから怒っているのかな? でも安心してね。すぐにぼくが殺してあげるから」
 ——ドゴォッ!!
 答えを間違えたワイルドハントを全力で殴り飛ばした。
 尤も、万一答えを正解したところで、殴るに変わりないらしいが。
 カエサルは我関せずといった風情で自らの爪を非物質化。
 ザクリとワイルドハントの霊魂を切り裂いてから、機嫌良さそうにステッキをくるりと回した。
「インド洋に沈め!」
 小梢丸は、抑えきれぬカレー欲を溢れさせるかの如き勢いで、静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食す——ここまでブラックスライムの名前である——を嗾ける。
 捕食モードに変形した、静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食すはそのままワイルドハントへ襲いかかって丸呑み、奴の集中力や反射神経を鈍らせた。
「貫け! 流星牙!」
 裂帛の気合を入れてワイルドハントへ肉薄するのは航。
 エンブレムミーティアよりヒントを得て会得したという、紋章の力を借り受けた神速の突きが、ワイルドハントの腹筋を深々と刺し貫いた。
「しゃらんらー」
 非正規雇用は変なフリ付きで戦場を踊り狂い、前衛陣へ向かって花びらのオーラを振り撒く。
 ガタイの良い三十路男の舞を見て傷が癒えていく仲間達の心境は如何に。
 店長は微かに顔を顰めたかと思うと、ワイルドハント目掛けて地獄の瘴気を噴射、毒気に当てて体力を削った。
 ひょっとすると非正規雇用の踊りへの、無言の感想なのかもしれない。
「その狙撃銃、当たれば痛いですが、銃を壊してしまえばどうでしょうか!」
 と、蛇骨棍をヌンチャクみたいに操って、ワイルドハントの攻撃を捌くのはユーリ。
 棍は骨同士擦れ合う音を出しつつ、ガツンと強烈な一撃が奴の狙撃銃へ命中、弾を撃ち出す速度に影響を与えた。
「Schiessen wie der Blitz!」
 ニルスは、Tor Roarのコマンドワード認証をして電磁加速砲撃形態に変形させる。
 そして接続部へDwarven Hammer Ver.Busterの銃身を挿入し、可変式電磁加速砲『ミョルニールレール』の砲弾の威力を思い知らせるべく、稲妻を纏った神の鎚の如き一撃をワイルドハントへぶち込んだ。
 トライザヴォーガーは激しいスピンをかけて滑り込み、ワイルドハントの足を思い切り轢き潰している。
「フゥーハハハハハ! ワイルドハントとやらよ。貴様など我が手を下さずとも使い魔で充分、すぐに地面を舐めさせてやろうぞ!」
 ゾディアは相変わらずノリノリで魔王っぽく振る舞うと、彼曰くの使い魔——実際は普通のファミリアロッドを小動物の姿へ戻す。
 魔力を籠められたペットは弾丸の如く空間を裂いて、ワイルドハントへみるみる吸い込まれるや奴の顔面へ激突、今まで喰らった怪我が余計に開くような衝撃を浴びせた。
 その傍らでは、魔王竜ルシファーが健気にボクスブレスを噴き続けている。
「どれほどの絶望の中でも、どんな深い闇の中でも、必ず掴める光がある。それを使えば、こんなことも出来るのさ」
 隆治は右手に呼び出した小さな光をおもむろに握り潰す。
 その潰した光から弓矢を生み出し、ギリギリと弓弦を引き絞った。
「これで終わりだ。我輩達の前から居なくなれ」
 光の矢は謎の液体をも物ともせずに宙を疾って、
 ——ズブッ!
 ワイルドハントの太い首へと突き刺さり、遂にその命を奪ったのだった。
「進藤さん、無事でよかったです! さあ、みんなにお持ち帰りされちゃってください!」
 ユーリはホッとした様子で、演舞・鰐に集中、仲間の手当てに努めている。
「お持ち帰りって。……大人しくお持ち帰られるか」
 呆れてツッコもうとした隆治の体が、突然ふわりと浮いた。
「さぁ、皆で持ち帰るぞぉ!! そーれ、わっしょい! わっしょい!」
 非正規雇用が、まるで神輿へするみたいに彼を担ぎ上げたからだ。
 勿論、彼だけの力では簡単に持ち上がらない。
「よーし、このまま帰っても俺は全然良いぞ! わっしょい! わっしょい!」
 ノリノリで担ぐのを助けた航の力もあってこそだし、
「だって、僕たち仲間じゃないか。もう何も怖くない」
 妙なフラグを立てる小梢丸も、カレーを食べる手を止めてまで隆治を支えていた。
「どれ、今宵は気分が良いから、我も特別に手を貸してやろう」
 そう持って回った言い方で高笑いするのはゾディア。
「わっしょい、わっしょい」
 衣もちゃっかり担ぎ手に混ざっている。
「……5人では不安定で御座いましょう」
 ミシェルは口元に笑みを湛えて、隆治を下から持ち上げる。
「隆治様神輿ですねっ、私もお手伝いするのです」
 ニルスも笑顔で後ろへ回った。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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