鎌倉ハロウィンパーティー~Sweets&Witch

作者:犬塚ひなこ

●夢のかたち
 甘いお菓子が好き。楽しいことが好き。
 そんな少女にとってクラス掲示板に張ってあったハロウィンの誘いは魅力的だった。
 けれど、少女には一緒にパーティーに行ってくれる仲の良い友達がいない。美味しいお菓子があっても、どんなに楽しいことが待っていたとしても、ひとりきりで過ごすことになってしまうに違いない。そんなのは絶対に嫌だ。
「カボチャを被って、キャンディの杖やランタンを持って私も遊びたいな。でも……」
 行けるわけがない、と少女は肩を落とした。
 こんな日は眠ってしまおう。部屋のベッドの上、少女は部屋の明かりを消して目を閉じた。だが、その暗闇の中――赤い頭巾を被ったドリームイーターが現れ、手に持った鍵で少女の心臓を一突きする。
 しかし、少女に怪我はなく何の反応もなかった。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 赤頭巾は鍵の力で少女の心を覗き、夢を具現化してゆく。夢を吸い取られた少女はそのまま意識を失い、覚めることのない眠りに落ちていった。
 いつの間にか赤頭巾のドリームイーターは消えていた。
 代わりに笑い声と共に現れたのは、魔女のような漆黒のスカートの少女。
「きゃははっ!」
 頭部は目と口が三角に繰り抜かれた南瓜の被り物。服や被り物に隠れていない部分にはモザイクがかかっている。縞模様のステッキ型キャンディをくるくると回したドリームイーターは、可愛らしい声で高らかに宣言する。
「私の名前はウィッチ・ザ・スウィート! ハロウィンパーティーは私のモノ☆」
 そうして、ドリームイーターは部屋の窓から外へと飛び出した。
 
●ハロウィンの日に
 日本各地でドリームイーターが暗躍している。
 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)が調査した結果を話し、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は予知した事件を語る。
「出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感や気後れを持っていた人の夢が具現化したものです。どうやらハロウィンパーティーの当日に一斉に動き出すようですね」
 セリカは、それを便宜上ハロウィンドリームイーターと呼んだ。
 敵が現れるのは世界で最も盛り上がる会場。つまり、鎌倉を襲うようだ。
「そこで皆さんには実際のパーティーが開始する直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいのです」
 パーティーが始まってしまえば現場は大変なことになってしまう。
 そのため、開始前に敵を誘き寄せる必要がある。セリカは街中にある小さな公園周辺の地図を取り出し、この場所が戦いに最適だと示した。
「皆さんはパーティーが始まる時間よりも早く、この場所であたかもハロウィンパーティーが始まったように楽しそうに振るまってください」
 特に今回の相手はお菓子がとても好きらしい。
 そうすれば催しが始まったと勘違いした敵がケルベロス達の前に現れるだろう。
 後は戦いを仕掛け、ドリームイーターを撃破すれば良い。
 敵はモザイクを飛ばし、邪魔をするケルベロスを倒そうとしてくる。一体のみとはいえ、かなり手強い相手なので油断してはいけない。
 現れる敵を倒しさえすれば夢を吸い取られた少女本人も目を覚まし、すべてが無事に終わるはずだ。
「元となった女の子も少し勇気があればパーティーに出席できるはずです。ですが、このままではその勇気を出すことも叶いません」
 だからこそ、歪められた夢を葬って欲しいとセリカは願った。
 それに、この後にはケルベロスにとっても楽しいハロウィンが待っている。そのためにも絶対に悪しき夢の好きにさせてはいけない。
「どうか、お気を付けて」
 セリカはすべての無事と健闘を願い、ケルベロス達にそっと微笑みかけた。


参加者
ヴィオラ・ハーヴェイ(リコリス・e00507)
守矢・鈴(夢寐・e00619)
杖ヶ咲・りん(きりんの魔法使い・e01073)
エステル・ティエスト(投げ技大好き兎のウェアライダ・e01557)
玖皇路・柚華(玖皇路流戦闘術伝承者・e04447)
蓬莱泉・桜音(桜の旋律・e15752)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)
相馬・碧依(こたつむり・e17161)

■リプレイ

●にせものパーティー
 一歩を踏み出すのは、とても勇気が必要なこと。
 今までとは違う世界。これまでとは遠い環境。なりたいものと、なれないもの。
 様々な感情と憧れの狭間で揺れる少女の思いを想像し、守矢・鈴(夢寐・e00619)は普段から掛けている赤い眼鏡を外した。
「けれど、今日はハロウィン。仮装するといつもとは違う自分になれるわ」
「パーティーだもん! 明るく楽しく騒がなきゃ、ね!」
 鈴の声に頷き、両手を大きく上げた杖ヶ咲・りん(きりんの魔法使い・e01073)はどんどんぱふぱふーと声で賑やかしに入る。
 そう、今日は楽しいハロウィンパーティーの日。
 淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)は気合いを入れ、公園を見渡す。骸骨を模した仮面を被る死狼は男の子としての意地だと胸を張り、力を仕事を率先して行った。
「こういう飾りだとハロウィンらしくなるかな」
 輪飾りだけでは寂しいと感じた死狼は、南瓜や蝙蝠等の飾りも足していく。
 ヴィオラ・ハーヴェイ(リコリス・e00507)も装飾作業を手伝い、すっかりパーティー会場らしくなった公園をゆるりと眺めた。
「せっかくのお祭り、楽しめないと損だもの」
 それに、ちょっとの勇気の後押しができたらいい。少女の夢を思い、ヴィオラは自分の頭に魔女帽子を乗せる。彼女の仮装はその見た目通り正統派の魔女だ。
 腕に提げたジャック・オ・ランタンには不気味なキャンディが詰め込まれており、魔女の魔術道具のようにも見えた。
 同じく仮装に身を包む相馬・碧依(こたつむり・e17161)も相棒のウイングキャット、ララに合わせたアメリカンショートヘアめいた柄の猫耳と天使の羽を装着している。
「今はにせもののだけどやるからには楽しまなきゃ!」
 外に出るのは面倒だけれどパーティーならば大丈夫。碧依が付け耳の位置を直すと、ララも同じように自分の耳を前足で掻いた。
 玖皇路・柚華(玖皇路流戦闘術伝承者・e04447)もすっかり賑やかになった公園を満足気に眺め、何度か頷く。偽の会場とはいえ本当に楽しんでしまえば良い。
「まずは私達もパーティを楽しもう!」
 そうすれば一石二鳥だと笑んだ柚華はくるりと回り、吸血鬼ならぬ吸血姫の衣装を翻した。鈴は小さく笑み、お揃いね、と自分のマントを軽く広げる。男装の麗人めいた佇まいの鈴は手を差し伸べ、皆をパーティーへエスコートすると気障に告げた。

●南瓜の魔女
 そして、ちいさなハロウィンが始まる。
 小悪魔ドレスを着た蓬莱泉・桜音(桜の旋律・e15752)はヴァイオリンを持ち込み、少し不気味さを宿す曲を演奏してゆく。
「こんな雰囲気がハロウィンらしさですよね」
 桜音の衣装の効果もあり、その音色は悪魔が奏でる誘いのようにも聴こえた。
 だが、不気味な中に楽しさが織り交ざるのがハロウィンならでは。黒い祭祀服姿のエステル・ティエスト(投げ技大好き兎のウェアライダ・e01557)は、被っている黒いヴェールをゆらゆらと揺らして音に身を委ねる。
 彼女が仮装するのは慟哭の妖精、バンシー。
「まずは自分が最高に楽しむことから!」
 ポケットに飴玉を山ほど詰めて、桜音の旋律に合わせて踊るエステルは笑顔だ。
 動きの激しさで慟哭を表現しているらしく、彼女が大きく踊る度に飴玉が舞うように零れていく。その動きや笑顔が眩しいのも、エステルが普段からダンスミュージックを聞いて踊っているからこその賜物だろう。
「僕も少しだけ踊ってみようかな」
「皆が見て楽しいように、そして自分も楽しんで! さぁ、盛り上がろう!」
 死狼も演奏に合わせてリズムを刻めば、柚華がもふもふ尻尾を揺らして続く。決まった型はなくても即興で踊れるのがパーティーの醍醐味。
 ヴィオラは手拍子で仲間達をやさしく見守りながらテーブル上の菓子を示す。
「みんな可愛らしいわね。そろそろお菓子は如何?」
 パンプキンパイやタルトを切り分けたヴィオラの傍、鈴も甘い香りに双眸を緩めた。
「どれも美味しそうだな。Trick or Treat、なんてね」
 鈴は皆が用意した菓子を手に取り、敢えて男性口調で軽く片目を瞑って見せる。普段の女性らしい鈴とは違い、その様からは凛々しい青年めいた雰囲気が感じられた。
 りんは吸血鬼の鈴と魔女のヴィオラが並ぶ姿が素敵だと思い、瞳を輝かせる。
「みんな可愛くて格好良いね! お菓子も食べるのがもったいない!」
 りんは既に鈴の用意したマカロンタワーに手を伸ばし、愛らしい顔が書かれたマカロン達に感動した。人魂や南瓜オバケの顔をしたマカロンは色々な表情をしており、今にも動いて喋りはじめそうだ。
「でも、食べなきゃもっと勿体ない。それにおいしいね、ララ」
 碧依は可愛いピックを差した南瓜プリンを皆に配った後、タルトを頬張る。ララも猫用のミルクを貰っており、尻尾がぴんと立っていた。
 カボチャのランタンに灯された火が揺れ、キャンディやクッキーが彩るテーブルの上は不思議の国のお茶会のよう。
 演奏を続ける桜音も楽しい雰囲気を感じ、そっと口元を緩めた。
 そして――不意に其処へ笑い声が響き渡る。
「きゃははっ!」
 その声が待ち侘びていた主賓――ウィッチ・ザ・スウィートと名乗るドリームイーターのものだと察し、ケルベロス達は笑い声のする方に目を向けた。南瓜の被り物に魔女服、そしてキャンディのステッキを持った少女はモザイクに包まれている。
「もうパーティーが始まっていたのね。うふふ、とーっても楽しそう! けれどお菓子も楽しさもぜーんぶ私が貰うんだから、覚悟しなさい!」
 楽しげに、それでいて我侭な言葉を紡いだ夢喰いは高らかに笑った。
 賑やかなパーティーは一先ずこれで終わり。ここからは少女と夢とちいさな希望を取り戻すための戦いの幕があがる。
 そう感じたケルベロス達は身構え、哂う南瓜魔女を見据えた。

●夢の少女
「Happy Halloween!」
 魔女を歓迎するような言葉を紡ぎ、鈴は灰燼結界を発動させる。
 虐げるものを壊すプログラムは敵の情報を読み取り、鈴に戦う為の力を与えていった。彼女に合わせてハロウィン仕様の南瓜ランタンを乗せたグラナートが駆け抜け、ドリームイーターへと突撃してゆく。
 だが、軽い身のこなしでそれを避けたウィッチはモザイクを飛ばし返した。
「素敵な歓迎ありがと☆」
 響く魔女の笑い声は悪役めいており、エステルは身構えながら溜息を吐く。
「あ~、あのドリームイーターなんか笑ってるし……なんか楽しそう」
 何が面白いのかと呟いた彼女は掌に氷結の螺旋を渦巻かせ、一気に敵へと解き放った。だからデウスエクスは嫌い、と改めて感じたエステルの一閃は魔女を鋭く貫く。
 ヴィオラが雷杖から衝撃を放ち、碧依がララと共に仲間の傷を癒した。
 死狼も自身の幻影を纏い、敵を睨み付けた。
 夢の元になった女の子は自分と似ている気がする。だからこそ放っておけないし、ドリームイーターは許せない。
「僕は……いや、オレはもう自分を抑えない!」
 その瞳は金に輝き、それまでの死狼とは打って変わった雰囲気が満ちた。
「気を引き締めて往くぞ!」
 柚華も仲間に続き、巫術の力で肉体と闘気を強化した。紅く煌めく炎のような闘気を纏った柚華は、敵に怒涛の攻撃を叩き込みに駆ける。
 魔女は夢喰いでしかないが、真剣な思いはきっと元の少女にも届く。そう信じた柚華は仲間達に声を掛け続けようと呼び掛けた。
 りんは呪文を唱え、自らの魔除けを魔寄せへと変化させる。
 ――我が身は避雷針。その名の通り、雷を受けたりんは敵の気を引くべく、雷鳴めいた一撃を打ち放った。
「ハロウィンは一年に一度しかやってこないんだ。なのに自分の世界に閉じ込もったまま、パーティーをめちゃくちゃにするだけなんてダメだよ!」
「ふん、一度しかないから私の物にしたいのよ」
 対する魔女は頭の南瓜を揺らして反抗する。りんはその物言いがとても悲しいもののように感じたが、これくらいで諦めるわけにはいかなかった。
 桜音は簒奪者の鎌を振りあげ、グラビティ・チェインを破壊力に変える。
「一人でいいんですか? パーティーは仲の良い友達を作るのに最適の場ですよ?」
 自分だけのパーティーなんて、きっと彼女が望んでいたものではない。歪んだ夢に問いかけた桜音だったが、答えは返ってこなかった。
 それでも、と碧依は敵をしっかりと見つめて語りかける。
「外に出るのって面倒だけどさ、いざそうしてみると楽しいよ?」
 家の方がよかったって思うかもしれない。けれど、自分のように外に行ったからこそそういう感想にもなる。実体験を話す碧依は魔女が飛ばすモザイクの行先を察し、一撃を受けたりんに真に自由なる者のオーラを放った。
 ララも懸命に清浄の翼を広げ、碧依達は仲間を支えてゆく。
 吸血鬼のマントを翻した鈴が攻撃に移り、骸骨仮面の死狼も駆ける。戦いが巡る度に碧依達のお揃いの猫羽が揺らめき、りんの魔法使いのローブも衝撃ではためいた。
「きゃはっ! 舞踏会みたいで楽しいわね!」
 ドリームイーターは仮装姿で戦うケルベロスを眺め、可笑しそうに笑った。
 踊るように舞い、戦うエステルの黒いヴェールがひらひらと躍る。
 デウスエクスにかける言葉なんてないと断じた彼女にとって、この一撃とダンスがメッセージ代わりだ。
 魔女帽子を揺らしたヴィオラも影の如き一閃を見舞い、少女に思いを告げる。
「ひとりきりはとっても怖いわよね」
 でもね、貴女と同じようなコトを思っているコがいるかもしれない。
 パーティーを同じように楽しみたいって思っているコがいるかもしれない。
 踏み出さなければ始まらない。一歩進む先は独り善がりの夢ではなくて、現実にあるべきなのだから。ヴィオラが呼び掛けると、柚華も確りと頷く。
「仮装して、普段と違う自分になってみれば最初の一歩を踏み出せるんじゃないか?」
 自信に満ちた瞳を真っ直ぐに向け、駆けた柚華のポニーテールが活発に揺れる。赤のドレスに黒いマントを翻すその姿は、身を以て仮装の楽しさを伝えるかのよう。
 そしいて、凛々しくも楽しげに笑んだ柚華は電光石火の蹴りを放った。

●魔女の結末
「何よ……ちょっと強いからって!」
 ウィッチの身が揺らぎ、悔しげな声が紡がれる。そこに好機を見出した死狼は飛ばされるモザイクにも怯まず、螺旋の力を身に宿した。
 欲しければ何でも喰らっていけばいい。だが、狂気めいた眼差しを向ける今の死狼を止めることは誰にもできはしない。
「ウィッチ・ザ・スウィート、魔法の時間は終わりだ! オレ達が終わらせてやる!」
 勇猛果敢に突進した死狼は心の裡で思う。
 こんな僕だって、少しはパーティーを楽しむことが出来た。だから、君だって夢喰いに頼らなくても進めるはず。
 桜音も仲間の声に続き、懸命な思いを言葉にした。
「友達ができるかもしれない機会をふいにしようとする弱気なんて悪夢に囚われているのなら……その悪夢、私が切り払ってあげる!」
 刃を振りあげ、桜音は虚の力を纏う。敵を激しく斬りつけ、力を奪い取った桜音は「今です!」と仲間に合図を送った。
 それを受けたグラナートがガトリングを掃射し、鈴も芝居めいた口調で語りかける。
「仮装をすると違う自分になれるから、普段出来ない事も出来るようになるんだ」
 だから、試してみる価値はある。
 知らない世界に飛び込もうぜ、と告げた鈴は嘗ての自分を思い返した。心を教えてくれた切欠は、自分が初めて触れたあの『世界』だったから。言葉にしない思いを込め、鈴は形成した黒槍を突き放った。
「本当は何も言いたくないけど、楽しみたいと思う自分の意思が大事だよ」
 エステルはデウスエクス自身ではなく、本当の少女を思って言葉を向けた。代わりに敵へと放つのは宵待月と名を冠する激しい背負い投げ。
 落ちて行け、と敵に言い放ったエステルの一撃は大きな衝撃を与えた。りんは間もなく戦いが終わると感じ、構えた銃で狙いを定める。
「独りで終わっちゃうなんてもったいないよ! キミもハロウィンや楽しいことが好きなら分かるでしょ!」
 放たれる銃弾の雨が南瓜魔女を貫き、戦う力を削り取って行く。柚華も気咬を練り、味方の援護を信じて攻め続けた。
「ハロウィンは魔法の夜、恐れる事はないさ!」
 この言葉を届けたい。強い願いと思いが重なった一閃は夢喰いを烈しく穿つ。ヴィオラはただひとつを望み、手にしたカードを引いた。
「必要なのは、ちょっとの勇気。これからを楽しくするために、頑張ってみて」
 たった一度だけで良い。その勇気を持つ為の切欠は、此処に在るから。
「――!」
 ヴィオラのやさしい言の葉を聞き、一瞬だけ魔女がはっとした。次の瞬間、カードから生まれた爆発は敵を飲み込み、モザイクを破壊していく。
 碧依は改造スマートフォンを取り出し、終わりを与えるべく攻撃に転じた。
 ララが尻尾の輪を飛ばす動きに合わせ、碧依は炎上の力を具現化していく。そして、碧依は少女への思いを口にした。
「もう分かるよね。まずは一歩踏み出してみよ?」
 炎が南瓜の魔女を包み込み、戦う力を削り取る。魔女はへたりこみ、ケルベロス達に視線を向けて何かを呟いた。
「……そう、よね。本当は私も――」
 言葉が紡がれ終わる前に、ぽんっと軽い音と共に夢喰いが消えてしまう。
 何とも呆気ない終わりだったが、魔女が居た場所には少女の代わりに小さなランタンとキャンディステッキが落ちていた。
「あの子の置き土産でしょうか。可愛いですね」
 まるでお礼のようだと感じた桜音はステッキを拾い、薄く笑んだ。ヴィオラもそうに違いないと判断し、愛らしい南瓜ランタンをそっと掲げた。
「あの女の子も今頃は目を覚ましているかしら」
「ええ、そのはずよ。はい、グラナート」
 ヴィオラに笑みを向けた鈴もグラナートにキャンディを飾り、愛機の頑張りを褒めてやる。エステルはほっと胸を撫で下ろし、柚華と共に笑みを交わした。
 りんは勝利の喜びを胸に抱き、ぴょこぴょこと跳ねて仲間を労う。
「じゃあ、後は本当のハロウィンを楽しむだけだね!」
「そうだね。めんどくさいけどみんなが行くなら」
 碧依はしぶしぶと答えたが、内心楽しそうなことは傍らのララだけが知っていた。
 戦いを終え、いつもの雰囲気に戻った死狼は少女を思う。
 彼女が本当になるべきなのは魔女ではなかった。女の子は必ずプリンセスにもシンデレラにもなれるはずだから。
「勇気を持って踏み出したら、きっと――」
 いつか望むものが手に入ると信じたい。死狼は瞳を閉じ、少女の幸先を願った。

 さあ、ハロウィンパーティーはまだまだこれから。
 南瓜にお菓子、仮装と行列。明るい燈と少しの不気味さと、そして――最大限の楽しさが待っている。仲間達は胸を躍らせ、賑わう街へと踏み出した。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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