ワイルドでサバトなミサイル!

作者:雷紋寺音弥

●モザイクに消えた土地
 そこは、崖と崖の合間に挟まれた、小さな浜辺があった場所。とある金持ちの別荘に面した、プライベートビーチがあるはずだった。
 だが、今やその場所は完全にモザイクで覆われて、中の様子を窺い知ることはできなかった。
「どうやら、嫌な予感が当たったようですね」
 何かに引き付けられるようにして訪れた霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)が、苦笑しつつ目の前のモザイクを見上げる。
 予感はしていた。だからこそ、驚きはすれど慌てはしない。意を決して中へ足を踏み入れれば、その中に広がっていたのは奇怪な空間。
「いやぁ……これは、聞きしに勝る混沌さだね」
 浜辺のど真ん中に別荘の一部が建っているかと思えば、海の中からヤシの木が生えている。他にも、元の地形や建物までがバラバラになって混ぜ合わされ、その全体に謎の粘液がまとわりつき、満ち溢れている。
「──このワイルドスペースを発見できるとは! まさか、この姿に因縁のあるものなのか?」
 突然、そこで声がした。ふと、顔を上げて見ると、目の前に現れたのは1体の影。
 種族としては、ドリームイーターで間違いないのだろう。だが、その姿は羽の生えた巨大なミサイル。嫉妬のオーラに身を包み、腹部にはリア充のみを爆破するために生まれたかのようなペイントが。
「なるほど……。これは、俺の姿というわけですか」
 正直なところ、人としての裁一の姿とは似ても似つかない容姿である。が、しかし、その機種の形状は、裁一の愛用している黒サバト風の衣装の形と瓜二つなのだ。
「残念だが、このワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかない! 秘密を知った者は、全て抹殺してくれる!」
 そう言って、裁一へ襲い掛かるドリームイーター・ワイルドハント。突撃して来る羽ミサイルを紙一重で避け、裁一もまた身構えた。
「やれやれ……。そう簡単に、この俺を爆破できると思わないことです。……さあ、行きますよ!」

●黒サバト危機一髪!?
「召集に応じてくれ、感謝する。ワイルドハントについて調査をしていた霖道・裁一が、とある金持ちの保有する別荘地で襲撃を受けたようだ」
 大至急、現場に向かって裁一に加勢し、敵を撃破して欲しい。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達を前に、今回の事件いついて語り始めた。
「裁一を襲撃した敵は、ドリームイーターのワイルドハントだ。別荘地と、そこに面したプライベートビーチの一部をモザイクで覆って、内部で何らかの作戦を行っていたようなんだが……」
 残念ながら、その概要までは解らなかった。そして、それを調べるために内部へと踏み込んだ裁一へ、敵は攻撃を仕掛けたのだ。
「こちらでも、最大限のフォローはさせてもらう。今から向かえば、裁一と合流して敵を叩くことも十分に可能だ」
 クロートの話では、敵のドリームイーターは1体のみ。場所はモザイクに覆われた別荘地で、内部は奇怪な空間になっているが、戦闘そのものに支障はない。特に邪魔も入らないので、裁一と合流後は戦闘だけに集中できる。
「裁一は戦闘に入っているようだが、こちらもそれほど間を置かずに到着することができるはずだ。それでも、敵に先手を取られていることも考えると、加勢後の立ち回りまで考えておいた方がいいと思うがな」
 敵のドリームイーターは羽の生えた巨大な漆黒のミサイルのような姿をしており、自らを弾頭として突っ込んでくる。さすがに、自爆することはないようだが、超高速で真正面から突撃されれば、質量弾としても破壊力は余りある。
「この敵の姿は……どうも、裁一のもう一つの姿といったものらしい。だが、同様なのは、あくまで姿のみだ。能力も微妙に異なるから、その辺りは注意が必要になるぞ」
 様々な武器を巧みに扱う普段の裁一とは異なり、敵は突進しかして来ない。まあ、ミサイルのような姿ではそれしかできないのだが、突進にも様々なバリエーションがある模様。
 逃げる相手を延々と追尾したり、流星のような軌道を描いて突進することで相手の機動力を奪ったり、果てはドリルのように回転しながら突っ込むことで、加護諸共に内部から貫いたり。派手さこそないが、避けるのは至難の技だろう。
「敵の狙いが何かは不明だが、今は裁一の救出が第一だ。ワイルドの力のことも気にはなるが……まずは、目の前の仲間を救出することに専念して欲しい」
 裁一の命運は、お前達に掛かっている。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
シア・フィーネ(ハルティヤ・e00034)
八代・社(ヴァンガード・e00037)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)
ジャスティン・ロー(水玉ポップガール・e23362)

■リプレイ

●サバトとミサイル
 浜辺を伝って目的の場所に足を踏み入れると、異様な空気がケルベロス達を迎え入れた。
「裁一さんを助けに行きませんと……って、なんですか、これ!?」
 空間へ突入した瞬間、和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)が顔を顰める。
 粘性の高い液体が、体中に纏わりついて来るような不快感。気のせいか、空気まで地球のそれとは異なっているような錯覚に陥りそうになる。
「シア、行くぜ。さっさと終わらせて、サイイチと一緒にかぼちゃシチューでも食おう。作ってやるからな」
「社くんのおいしーかぼちゃシチューだっ! さばちーと早く食べたいカナー。かぼちゃプリンもよろしくカナー」
 八代・社(ヴァンガード・e00037)の言葉に、シア・フィーネ(ハルティヤ・e00034)が跳ねた。ドサクサに紛れ、かぼちゃプリンまで注文しているが、それはそれ。
「団長のピンチとあれば、駆けつけないわけにはいかないな、ミコト! ワイルドな俺たちがワイルドハントをハントしてやろう! 行くぞ!」
「……にゃぁ」
 宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)の頭の上で、ウイングキャットのミコトが気怠そうに鳴いている。翼があるのだから飛べと思うのだが、どうやら季由の頭がお気に入りの場所のようで。
 兎にも角にも、まずはこのイカれた空間の中から、霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)を探さねばばらない。
 敵の形状はミサイル。そして、裁一の愛用する武器は爆破スイッチ。ならば、きっと派手に暴れているだろうと、しばし耳を澄ませてみると。
「その姿なのにリア充爆破してないので減点です! 手本見せますよ。……リア充、爆発しろ!!」
「ふんぬぅぅぅっ! そんな物で、この私を止められると思うなぁっ!!」
 爆風を盾にして逃げ回る黒サバトな衣装の男。そして、それを追い掛け回す、翼の生えたミサイルの姿。
 なんというか、これ以上になく解り易かった。不自然に歪んだ空間の中、迷ったり、裁一を見つけられなかったりしたらどうしようかと思っていたが、そんな心配は全然なかった。
「裁一さん、無事ですか!?」
 爆風を食らってもな追い縋ろうとするミサイルに、渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)が横から飛び蹴りを食らわせた。
「ぐほっ!? ……な、なんだ、貴様達は!?」
「おお、噂通り本当に瓜二つだ。姿全く違うんだけど、なんかRB的な雰囲気とか……」
 横槍を入れられて失速し、浜に墜落したミサイルと裁一を見比べながら数汰が呟いた。確かに、彼の言う通り、ミサイルの形状は裁一のサバト服の頭巾と瓜二つ。
「めちゃくちゃ裁一おにーさんらしい姿っていうか、すごくそれっぽくて安心しちゃったっていうか……とりあえず、大丈夫?」
 何故か物凄く納得した様子で、ジャスティン・ロー(水玉ポップガール・e23362)が裁一の身体にショック療法を施している。どう見ても、斜め45度の角度で殴っているようにしか見えないが、細かいことは気にしたら負けだ。
「裁一さんは後ろへ。ここからはチームプレイで行きましょう!」
「それはありがたい。耐久は、ストレス溜まりますからね」
 数汰の言葉に、裁一が頷きつつ後ろへ下がる。同時に、浜辺に突き刺さっていたミサイルもまた、ようやく身体を砂の中から引っこ抜いて、ケルベロス達と対峙した。
「おのれ、仲間がいたのか! こうなれば、貴様達全員、一人残らず抹殺してくれる!」
「見るからに怪しい奴……さぁ来い! 胡散臭いトンガリ野郎! 我が嘴と刃を以て……その偽りの姿を破断する!」
 再び突っ込んで来るミサイルに対し、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が堂々の宣戦布告。耐えるだけの戦いは、ここで終わり。本当の勝負は、これからだ。

●見参、中の人!
 得体の知れない空間の中、縦横無尽に飛び回る漆黒のミサイル。裁一を救うべく馳せ参じた面々だったが、身の危険も顧みずに突進を繰り返すミサイル相手に戦うのは、なかなかどうして骨が折れる。
「まるで、リア充爆発の精神が形になったようだ」
 感心しているのか、呆れているのか。どちらとも取れる呟きと共に、数汰の手にしたライフルから冷凍光線が放たれるが、その直撃を受けてもミサイルは止まらない。むしろ、お返しとばかりに勢いを増し、そのまま数汰に突っ込んで来た……のだが。
「重騎士の本分は守りにあり!」
 間一髪、ジョルディが間に割って入り、ミサイルの突進を受け止めた。もっとも、身の丈に匹敵する弾頭を食い止めるのは容易ではなく、自慢のタワーシールドの表面が、回転するミサイルの先端に削られ始めた。
「ピロ! 押し返すのを手伝って!」
「ミコト、お前も行け!」
 ジャスティンが相棒のライドキャリバー、ピロを敵へ突撃させ、季由もミコトをジョルディのフォローへと回らせる。その上で、ジャスティンの杖先から放たれた稲妻がジョルディの肉体へ力を与えたことで、なんとか敵に押し切られず踏み留まった。
「凄まじい突進力だな。これも、ワイルドの力とやらなのか?」
 砂浜にめり込んだ足を引き抜き、ジョルディが空を見上げた。継ぎ接ぎ模様の異質な雲が浮かぶ場所には、軌道を逸らされたミサイルが、再びこちらを狙っている。
「そこです! 逃がしませんよ!」
 すかさず、紫睡がエクスカリバールを投げ付けたが、なぜか攻撃は敵ではなく裁一の方へ。ギリギリのところで彼の黒頭巾の先端を掠め、ミサイルの翼に当たって敵を墜落させたが。
「いや……俺は本物なんですけど……」
 紫睡が本気で殺そうとしてきたことで、裁一は思わずサバト服の奥で冷や汗をかいた。
 敵の姿は、頭だけなら自分そっくり。ただでさえ、カオスな空間で戦っているのだ。充満する変な毒気に当てられて、誤射でもされたら堪らない。
「ぴー。さばちー、イケメンの顔やってっ!」
 もうじき、南瓜の季節が近いからだろうか。降り注ぐ星の影からお化け南瓜を生み出しつつ、シアが裁一へお願いし。
「仕方ありませんね。社、敵は向こうです……」
 頭巾を取り、社に告げつつ裁一は敵へ拳銃を向ける。その言葉に無言で頷く社だったが、しかし紫睡は目の前の光景に却って混乱しているようで。
「さ、裁一さんが消えた……!?」
 いや、何をどう考えたら、そんな風に見えるんだよ。もしや、彼女の中ではサバト服=裁一であり、裁一=サバト服なのだろうか。
「こらぁっ! 私を無視するな……って、痛ぇぇぇっ!!」
 そんな中、完全に置いてきぼりを食らっているミサイルを、シアのテレビウムであるジルが、実に楽しげに凶器で解体していた。
「さて……この妙な空間を調べる前に、邪魔者には御退場願おうか!」
 未だ砂浜に突き刺さったまま動けない敵へ、社が流れるような動きで斬り掛かる。三日月を思わせる軌跡を描いて刃がミサイルの装甲を斬り裂けば、目にも止まらぬ早射ちで、裁一がそれに追い討ちを掛け。
「お、おのれぇっ! 貴様達に、この空間を調べさせてな……あががががっ!?」
「大丈夫大丈夫、俺の口は堅いので秘密にしときますって。SNSで『ワイルドスペースなう』って画像付きで呟くだけですから」
 思いっきり秘密を暴露する満々で、満面の笑みを浮かべながら、裁一は敵をハチの巣に!
「ぐぬぬぬ……し、しかし、この程度で私を止められると思うなよ! こうなれば、最大速度で貴様達を……」
 ようやく砂浜から頭を引っこ抜いたミサイルが、体勢を整えながら、再び炎を噴射してケルベロス達に迫る。だが、突進するしか脳のないミサイルでは、それだけ行動パターンも読み易い。
「悪いな。そっちは既に、網を張らせてもらったぜ」
「なっ……のわぁぁぁっ!?」
 季由の展開した霊力の網に引っ掛かり、再び海へと堕ちて行くサバトミサイル。その様は、まるで投網に引っ掛かった哀れな魚のようである。
 日夜、特訓を続ける警備員を舐めるなよ。裁一を筆頭としたSecurity Corpsの面々が、墜落するミサイルの姿に思わずにやりと笑っていた。

●爆発せよ!
 混沌とした空間の中を、ひたすら荒れ狂う暴走ミサイル。暴走した裁一の似姿をしたワイルドハントの力は凄まじかったが、しかし頭の方はどうにも弱いようだった。
「おのれぇっ! 奥に引っ込んでないで、正々堂々と勝負せんか!」
 後方に控える裁一に向けて、悔しそうに叫ぶワイルドハント。攻撃力も命中精度も凄まじく高いはずなのだが、いかんせん使える技が突撃だけでは、後衛を攻撃できないのだ。
「こうなれば、もうヤケクソだ! 近づく者は、全て粉砕してくれる!」
 怒りのままに、敵のミサイルはジョルディ目掛けて突っ込んできた。この間合いでは、避けられない。もっとも、最初から避けるつもりもない。
「させぬ! 貴様の攻撃など、大型ダモクレスの攻撃に比べれば豆鉄砲に過ぎん!」
 従えた無数のドローンで身を固め、ジョルディは敵の突進を真正面から受け止める。それでもミサイルは強引に突破して来たが、衝撃の大半はドローンに阻まれて減衰していた。
「まだまだ! そう簡単に、やらせないよ!」
 ジャスティンの指輪が光り輝き、ジョルディの障壁を更に強固な物へと変えて行く。敵が真正面から突撃して来るというのであれば、こちらは受けを用意した上で、狙いを一つに絞らせてしまえばいい。
「さて、そろそろ終わりにしよう。正直、いつまでも遊んでいる場合じゃない」
 間合いを離そうとするミサイルへ一気に距離を詰め、社は手にした刀を放り投げる。一瞬、その意外な動きに敵の挙動が止まったが、それが社の作戦だった。
「残念。切り札はこっちだ……ブチ抜く!」
「なっ……! ほごべぇぇぇぇ!?」
 神速の踏み込みから繰り出される強烈なストレートパンチ。彼の切り札、銃弾拳法の直撃を食らって、ミサイルの外装が大きく凹み。
「爆破されるのはリア充だけでいいのさ! 行くぞ、シア!」
「オッケー! ひっさつ、だぶるき~っく!!」
 オマケとばかりに季由とシアが、真横から敵を蹴り飛ばした。
「ぐぅぅ……。ば、馬鹿な……こんなはずでは……ハッ!?」
 その辺の岩塊に激しく突っ込んだ敵が視線を上げると、そこにいたのはミコトやピロ、そしてジルといったサーヴァント達。
「ぬぉっ! な、何をする! やめろ! 叩くな! 引っ掻くな……ぎゃぁぁぁっ!!」
 それぞれ、ご主人そっちのけで、ワイルドハントをフルボッコ! ミコトの爪が装甲を切り裂き、ジルの凶器が翼を斬り落とし、最後はピロが突進で吹っ飛ばし。
「いい球……ではなく、弾ですわね。打ち返しましょう」
「ああ、任せとけって! 我が手に宿るは断罪の雷霆――その身に刻め。裁きの鉄槌を!」
 棘だらけのエクスカリバールと、稲妻を受けて光り輝くライフルの銃身。それらを横薙ぎにスイングさせて、紫睡と数汰が飛んで来たミサイルを打ち上げた。
「ぬごぉぉぉっ! ま、またかぁぁぁっ!?」
 天高く、野球ボールのように飛んで行くサバトミサイル。残念ながら、ホームランではなく大フライといったところだが……この場合は、むしろ都合がいい。
「いやー、耐久はストレス溜まりますね。発散します!」
「地獄纏いて飛べよ我が腕! 我が拳! 受けよ怒りの鉄・拳・制・裁!」
 高めた嫉妬の力を纏って裁一が飛べば、ジョルディも己の腕を地獄の業火で包んで敵へと発射する。狙いは、あの落下して来るミサイル野郎。この距離と間合いであれば、外すことの方が難しい。
「Raging Fistォォォォォ!」
 まずは一撃。先行するジョルディの腕が敵の身体を文字通り貫き、地獄の業火を敵の体内へと送り込んで行く。臨界まで温度を上昇させられた敵の身体は、黒ではなく赤銅のような色に染まって行き。
「高まる嫉妬をこの一撃に! 爆発しろ! 特にリア充!!」
「ソウル……オーバー!」
 裁一が決死の特攻を仕掛けたところで、ジョルディが敵を内部から木端微塵に爆破した。
「うわぁ、すっごい花火!」
「さばちー、お星さまになっちゃったの?」
「裁一さん、あなたのことは、忘れません……」
 ジャスティンやシア、それに紫睡が、空中に広がる爆発を見て好き勝手なことを言っている。彼女達の見つめる空の先には、何故か爽やかなスマイルを浮かべた裁一の姿が映って見えていた。

●カオスに別れを
 戦いは終わった。しかし、ワイルドハントを名乗るドリームイーターが撃破されても、この空間が元に戻ることはなかった。
 ちなみに、自爆した裁一であるが、ちゃっかり無傷で生き延びていた。なんのことはない、そういう技を使ったのだ。自爆したように見せかけているだけで、実際は普通に攻撃していただけである。
「シア、何か解ったか?」
「……ぜ~んぜん。閉じ込められた人も見つからないし、お部屋も迷路みたいになってるし……」
 社の問い掛けに、シアは溜息を交えて首を横に振って答えた。
 あれから、色々とワイルドスペースの中を探索しようとしてみたが、そもそも空間自体が捻れた継ぎ接ぎモザイクのような場所である。
 扉を開ければ、その先にあるのは普通の壁。階段を登れば天井にぶつかったり、何もないと思って踏み出したところが、いきなり潮溜りに繋がっていたり。
 何のヒントもない中で、この空間の調査を続けるのは危険過ぎる。そもそも、あまりに常識外れな繋がり方をしているので、何が安全なのかも判断できない。
「そういえば……あの敵、やっぱりリア充の匂いを嗅ぎつけてここに来たのかな?」
「……この中にリア充、いないよね?」
 なにやら不穏なものを感じ、数汰にジャスティンが問い掛けた。
 未だ、気になることはあったが、とりあえずの目的は果たしたのだ。このまま留まり続けていれば、敵の増援が現れないという保証もない。
「ワイルドハント……もう一つの可能性、というやつなのか?」
「暴走後の姿を取る敵、か……。何処かに、全身地獄化した俺の偽者も居るのだろうか……?」
 去り際に、季由とジョルディが誰に尋ねるともなく呟いたが、その問いに答える者はいなかった。
 とりあえず、今は無事に裁一を救い出せただけでも良しとしよう。いくつかの謎を残しつつも、ケルベロス達はモザイクに包まれた奇妙な空間を脱出した。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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