緑炎より出づる輝き

作者:天枷由良

●選定
 美しい夜景を臨む部屋。
 いかにも高級そうなソファで寛いでいた男は、忽然と現れた緑髪の女を見て叫ぶ。
「な、なんだお前! 何処から入ってきた!」
「……そんなこと、どうだっていいじゃない」
 ふふ、と微笑みを返しながら近づいて、男の左腕を取る女。髪と同じく緑を基調とした、まるで中東の踊り子を思わせる艶やかな衣装に包まれた身体が魅力的だったか、男は悲鳴を上げたこともすっかり忘れてしまったように、暫し立ち尽くす。
「それよりも――これ、素敵な時計ね。きらきらと金色に輝いていて」
「ぅ……む……」
「あら、こっちの指輪も、首飾りも金色。凄い、こんなに綺麗な装飾品をつけて、こんなに素敵な家で暮らして。あなた、とっても裕福なのね」
 何だか分からないが、とにかく褒められている。
 男は頬を緩めた。そして――次の瞬間、女の髪と同じ色をした炎に、全身を包まれた。
 今度は叫ぶ暇もない。あっという間に燃え尽きて、しかし人影は崩れることなく、むしろ炎を纏うように膨れ上がっていく。
 およそ3メートル。天井には届かなくとも十二分な大きさの緑炎から、やがて現れたのは、剣も鎧も兜も何もかも、全て眩いばかりの黄金で揃えたエインヘリアル。
「……勇者の最たる魅力は財力。やっぱり豪華絢爛な武具が一番よね。それじゃ、後で迎えに来るから。適当に人でも殺して、その黄金剣を使いこなせるようにしておくのよ」
 女は満足気に言って、部屋を後にする。
 残された黄金の騎士は恭しい礼で見送ると、自らも窓を破って、夜闇に消えていった。

●ヘリポートにて
「『炎彩使い』と呼ばれる、五体のシャイターンたちが動き出したわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)が、手帳を捲りながら語る。
「彼女たちは各々、違う色の炎を操って――例えば、今回の事件を起こす『緑のカッパー』は緑の炎で勇者候補となる人間を燃やし尽くし、その遺体から、その場でエインヘリアルを生み出すことができるようなの」
 そうして現れたエインヘリアルは、変化の過程で消費したグラビティ・チェインを補給するため、一般人を殺そうとする。
 しかし残念ながら、今からではエインヘリアルの誕生を防ぐことはできず、またカッパーの行方も追うことはできない。
「けれど、このままでは無辜の人々が襲われてしまうわ。今すぐ現地に向かって、被害が出る前にエインヘリアルを撃破してくれるかしら」
 戦場となるのは、深夜の高級住宅街。大きなマンションなどが立ち並ぶ区画。
 エインヘリアルは住居としていたところから、大きな通りを真っ直ぐに進んでいる。ケルベロスたちは進路に先回りして待ち構え、敵を迎え撃つことになるだろう。
「接敵までに余裕がないこと、多くの人が住んでいる地域であること、そして就寝中の方が多い時間だということを考えると、下手な避難活動は返って混乱の元になるわ。むしろ戦闘に集中して、ささっと倒してしまうべきね」
 相手は豪奢な武具を装備して強烈な攻撃を見舞ってくるが、そこまで突出した力を持っているわけではない。
「主要武器と思しき剣での斬撃に備えて、皆で一丸となって臨めば、難しい戦いではないはずよ。それじゃ、急いでヘリオンに乗ってちょうだい」
 ミィルは搭乗を促しながら、手帳を閉じた。


参加者
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)
クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
ユーベル・クラルハイト(マルチレイヤストラクチャ・e07520)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)
葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)

■リプレイ

●輝きを待つ
「これはまた、面倒なことをする輩が現れたものです」
「全くですよ。燃やして一丁上がり! ……って、そんなインスタントでいいんですか? 選定って」
 アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)とクリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)が、愚痴めいた呟きをもらす。
 彼らを含めて八人のケルベロスたちは、シャイターンによって生み出されたエインヘリアルを迎撃すべく、住宅街を貫く大通りの片隅に潜んでいた。
「まさかこんな形で選定を成功させてくるとは、驚きましたね」
 機械剣と日本刀を手にしたまま語るのは、葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)。
「人選は相変わらずなようですけれど」
「勇者候補っていうより、ぶっちゃけ、ただの悪趣味な成金?」
「……シャイターンに目をつけられたあたり、決して褒められる人間性の持ち主ではなかったのだろうが……」
 身も蓋もないクリームヒルデの言い草に、グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)が逡巡しつつも言葉を返す。
「いくら好ましくない人物でも、このような形で利用されるべきではないな」
「ええ。せめて悪事を働かされる前に、私達の手で止めてあげなければ……」
 人の生命が一つ失われているという事実を受け止めて、伏目がちに呟くユーベル・クラルハイト(マルチレイヤストラクチャ・e07520)。その心中を知ってか知らずか、お供の黒いボクスドラゴン・ドラゴンさんは、ユーベルの脚を尻尾でぺちぺちと叩いて暇を潰している。
「炎彩使いとやらは既に去った後でありますが、脅威を放置するわけにはいかないでありますしな」
 可及的速やかに撃破するであります……と、ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)が堅苦しい口調で言ったところに。
「――おーっと、ド派手なおっさん発見!」
 ほんの少しだけくぐもった、ガラの悪い声が聞こえた。
 ケルベロスたちは不思議がり、辺りを軽く見回す。そして、それが寡黙な少女クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)の抱えている白兎のぬいぐるみ・クロから発されたのだと理解する。
 いわゆる腹話術のようだが、それはさておき。
「見事な黄金色でありますな。もはや見つけてくれと言わんばかりの輝きであります」
「金色……悪趣味……」
 大通りに視線を戻したヴェスパーの言に、今度はクロエ本来の声が返ってきた。
 その台詞が端的に示したものは、概ねケルベロスたちの共通認識と言えるものだろう。
「見た目も大事ってえのはわかるけどよ、金ピカゴテゴテなんざ悪趣味にも程があるぜ!」
「見事なまでに成金趣味丸出し、といったところでしょうか」
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が呆れた様子で言えば、アゼルも頷いて、さらに言葉を継ぐ。
「あれを眺めて不快な気分を溜め込んでもいいことなどないですから、とっとと終わらせてしまいましょう」
 それに各々了解を示して、ケルベロスたちは通りの影から飛び出した。
 がしゃり、がしゃりと音を立てて進む黄金の騎士も、すぐに気がついて足を止める。
「待ちな金ピカ野郎! 遊びたいなら相手になるぜ!」
 悠然と正面から言い放つランドルフ。
「ほう。近頃の犬は人の言葉を喋るのか。面白い」
 騎士は腕組み胸を張って、尊大な態度で返す。
「あぁ!? 誰が犬だ!」
 何処からどう見ても白銀の毛を持つ狼だろう。憤慨するランドルフを余所にケルベロスたちは敵を取り囲むが、騎士はピクリとも動かない。
 まるで歴戦の勇士のような態度だ。
(「……ふむ。しかし、成り立てということでありますし」)
 じっと真顔のまま敵を見つめて、ヴェスパーはおもむろに口を開く。
「いやはや素晴らしいでありますな。その『金メッキ』は」
 途端、騎士がピクリと肩を震わせたところを、ケルベロスたちは見逃さない。
「キラキラして綺麗には見えますが……趣味が悪いですね」
「豪奢な装備が強いとは限らないしな」
「むしろ弱いから派手に着飾ってんじゃねえか」
 ユーベル、グレッグ、そして兎のクロが、次々に嘲るような言葉を浴びせていく。
 それは騎士の態度からメッキを剥がすに十分だったらしい。
「ええい、目の曇った愚民どもめ! 我が黄金剣の前に跪かせてやろう!」
 たちまち激高して、大剣を構える騎士。
 これまた見事な黄金の刃に、ケルベロスたちは(眩しくて)眉をひそめる。
 そしてただ一人、ヴェスパーだけが。
「望むところであります」
 負けじと剣を抜いて八相に構え、やたら大仰な台詞を吐く。
「今宵も七ツ星が――煌めくであります」

●輝きと対す
「……なんだかブルーライトより目に悪そうなので、皆さんとっとと倒しちゃってくださいな」
「言われるまでもねぇ! 行くぜ金ピカ野郎!」
 だらりとしたクリームヒルデに言い返して、ランドルフが大地を蹴った。
 白銀の狼は夜空に舞い、やがて一つの星となって落ちてくる。対して騎士は剣を構えたまま、左手に持つ大盾を前に押し出して受けの構えを見せる。
 程なく二者は衝突し、凄まじい金属音が響いた。
「――ふん! 戯れ方がなっとらんぞ、犬!」
「だから狼だっつってんだろ金ピカ野郎ォ!」
 ぎりりと歯噛みして、ランドルフは脚をさらに押し込む。盾を破るまではいかないものの、押された騎士が僅かばかり路面に沈む。
 そうして足止めされているところに降る、新たな流星。
「後ろがガラ空きだぜえ、ぶちかませクロエ!」
「……頑張る」
 威勢良いクロの叫びを伴って、クロエが背後を突いた。精悍な肉体を持つランドルフより遥かに小柄な少女の身体が、特注スケートブーツに内蔵された小型ブースターの力を借りて光の如く飛び、鎧を打つ。
 強烈な蹴りで挟み込まれる形となり……しかし、騎士はその場でじっと耐え抜くと、不敵に笑った。
「フハハハハ! この程度で黄金の武具が破れるものか!」
「――ならば!」
 短い言葉と、地を疾走る音。
 ランドルフとクロエが同時に騎士を蹴りつけて飛び退いた瞬間、装備の各種スラスター全開で吶喊してきたのはアゼルだ。
 その勢いたるや凄まじく、敵が群れでも吹き飛ばしてしまいそうなほど。
 だが、単一の敵から見れば軌道も読みやすい突撃。騎士はまたしても大盾を向けて、闘牛士のように軽々といなす。
 十分に力をぶつけきれなかったアゼルの身体は、バランスを崩してその場に転がってしまった。
「庶民はそうして這い蹲っているのがお似合いだ!」
 これ見よがしに高笑いをして、騎士の大盾が下げられる。代わりに威光を示すのは、もちろん自慢の黄金剣。
「くたばれぃ!」
「させませんっ」
 間一髪。闘気を纏った身体で割り込むユーベル。完全に受け流せなかった刃が肌を斬るが、それを見越して防具を備えたユーベルは怯むことなく、敵を睨めつける。
「貴方は、ここで止めさせて頂きます」
「小娘が――ぬぉっ!」
 恨みがましく呟く間にタイミングよく、ドラゴンさんが金の眼を爛々と光らせながらブレスを吹きつけた。
「ナイスアシストであります」
 サーヴァントとのコンビネーションに感心しつつ、ヴェスパーもライフルの引き金を引く。撃ち出されたグラビティを中和する弾丸は、鎧を殴りつけんばかりに側面から引っ叩く。
 それから間髪入れずにユーベルが繰り出す、鋭い回し蹴り。竜の息吹と光の弾丸で体勢を崩していた騎士は横腹を蹴り抜かれて吹っ飛び、奇しくも自らが馬鹿にした庶民らしく、大地を舐める羽目となった。
「おのれ……」
「さすがに頑丈だな」
 休む暇も与えず、グレッグが黒地に金の武術棍を伸ばして追い打ちをかける。
「しかし万能でもないでしょう。打てば必ず壊れます」
 終いに風流が、軽やかな足捌きで敵を自らの敷地(間合い)に入れて、雷の霊力を付与した日本刀『不乱辺流寿』で突く。
「いいぞいいぞー。やっちまえー」
 クリームヒルデは少し離れたところから仲間の奮戦を見守りつつ、何やら空中に表示されたキーボードやタッチパネルを忙しなく叩いている。
 それは戦場にあって不思議な光景だったが、真価を発揮するまでに大した時間もかからなかった。

●輝きを討つ
「……! 皆さん伏せて!」
 乱戦の中で、にわかに真剣味を帯びた声が響く。
 瞬間、前衛を務めるケルベロスたちは肌を焼くような痛みに襲われ、慌てて身を守るように屈み込んだ。
「遊びは終わりだ! 我が輝きの前に平伏せよ!!」
 剣を突き上げ、盾をかざし、まるで世界の覇者と言わんばかりに腕を広げた騎士の全身から、全てを塗りつぶさんばかりに光が爆ぜていく。
 それはある程度の間合いを取り、難を逃れた中衛以降のケルベロスたちにも直視はできないほど。されるがままではいるまいとアゼルがアームドフォートの砲口を向けるも、吶喊攻撃と同じく敏捷性に頼った射撃は悉く躱されてしまった。
「フハハハハ! これぞ黄金の力よ! 思い知ったか愚民ども!!」
 光の中心で勝ち誇り、騎士は天を見上げる。
 そして――眼前に風流の姿を見て取ったとき、騎士はあれほど頼った大盾を構えることも忘れて、暫し呆然と佇んでしまった。
「派手なばかりで、大したこともなかったですね」
「……なっ」
「それでも乱発されては堪りません。ご自慢の鎧から輝きを奪って差し上げましょう」
 風流の手元で弩級機械剣『弩裂怒能屠』が唸りを上げ、一気に鎧の肩口を斬り落とす。
「光ると分かっていれば、如何様にでもなるであります」
 知らせてくれたのはクリームヒルデ殿でありますが。そう付け加えて、ヴェスパーも回転する腕を真横から叩き込み、大盾に穴を穿つ。
「ふ、ふざけた真似を……!」
「いやー。ふざけてませんよ。長物振り回すばかりが戦いじゃないですって」
 時代は情報戦です。クリームヒルデは胸を張りつつ、展開していた種々様々なパネルを一度消してさらに語る。
「それよりも。いかにも『これから光ります!』みたいなポーズ。アレはないでしょー。いくら即席エインヘリアルだからって、そんなところまでインスタントにしなくても」
「う……うるさい! これだから愚民は! おまえのような愚民が一番嫌いだ!」
「あー、おねーさんもあんたみたいのは趣味じゃないっていうか。お金持ちは好き好きだけど? 気さくなアラブの石油王の第13夫人位がいいの」
 だってお金には困らないし、後継者争いとかに巻き込まれそうもないし。
 そんなことを宣ってから、クリームヒルデは己にできる最大級の品を作って言った。
「だから、おとといきやがれ☆」
 合わせて爆発が起き、色とりどりの爆炎が戦場を彩る。
 その原因たる爆破スイッチを握りしめたままでユーベルが指示を送れば、爆風に乗ったドラゴンさんがすっぽりと封印箱に収まって、そのまま体当たりを仕掛けた。
 ごわん、といい感じに響く金属のたわむ音。
 それが聞こえる前に動ければ……と、戦場では思った通りの順番で動けないことを噛み締めつつ、クロエは取り出した護符に力を込めて放る。
 現れたのは、まるで敵を銀色に塗り替えたような騎兵のエネルギー体。何処となく冷ややかな雰囲気漂う銀の騎士は馬上で槍を携え、猛然と敵に向かっていく。
「斯様な子供騙しに!」
 漸く自らの調子を取り戻した黄金騎士も、剣を構えて迎え撃つ。幾度かの応酬を経て騎兵は槍を一撃入れたが、直後に黄金剣で薙ぎ払われて、霞のように消え失せる。
 しかし、その向こうから。
「コイツは鎧じゃ止まらねえぞ!」
 叫び、突き進む獣は幻でない。ランドルフは片手に螺旋を込めながら懐に入ると、腹のど真ん中に掌底を打ってなお哮る。
「中から爆ぜな!」
「なに――」
 騎士の言葉はそこで途切れて、代わりに聞こえるのはこもった爆発音。
 鎧の背が不自然に曲がり、捻れていく。ランドルフの言葉通り、螺旋の力が内部で暴れまわったのだろう。
「確かに、打てば壊れる……だったな」
 数分前の仲間の台詞を思い出しつつ、グレッグが続く。
 一歩ずつ敵へと近づくにつれて、その身を覆い、一つの兵器に変えるのは白銀に輝く流体金属。
 ともすれば、騎士には先程失せたばかりの騎兵が蘇ったように見えたかもしれない。
 だが、グレッグの武器は槍でなく、拳。振りかぶり、殴りつける。ただそれだけの単純な動きが、単純な破壊を騎士にもたらす。
「――っ!」
 砕ける鎧。苦しみ悶える声は、もはや言葉にならない。
 しかし負ければ、待つのは二度目の死。遮二無二剣を振り回して、騎士も必死の抵抗を見せる。
 その切っ先はやがて風流を捉えたが、彼女もまた、斬撃には十分な備えを有していた。そして大した傷も与えられぬうちに、足元から噴き上がった溶岩に煽られて、騎士は尻もちをつく。
 いよいよ、黄金の武具もまともに扱えなくなってきたらしい。ケルベロスたちは攻勢を強め、一気に敵を追い込んでいく。
「ちょいとばかり派手に行くぜ! ご近所サンへの安眠妨害は避けたいトコだが仕方あるめえ!」
 気炎を上げてリボルバー銃を抜き、ランドルフが撃ち出したのはグラビティ・チェインと気で練り上げた特殊弾。
 たった一発、しかも飛び道具の利点たる射程を犠牲にしたそれは、着弾するなり凄烈な爆発を引き起こして鎧を焼き焦がす。
 その炎が消える間もなく。グレッグの蒼炎纏う足から繰り出される蹴りが、鎧の脆くなった部分ばかりを捉えて崩す。
「そろそろ、貴殿の罪を裁くときでありますな」
 最初に構えたはいいものの、まだ振るっていなかった七星輝く剣を手に、ヴェスパーは逡巡した。
「虚飾……いや、愚民愚民と驕り高ぶって人を見下す、それは傲慢でありますか」
 ならば大罪。断ち斬られるべき。
 最上段からの剣筋に迷いはなく、騎士は剣も鎧も盾も、何もかもを一刀のもとに両断されて、塵と化していった。

●輝き失せて
 静けさの戻った大通りで、ケルベロスたちは戦いの痕跡を処理していく。
「これくらいで十分でありましょう。明日も学校があるので、帰るであります」
 ヴェスパーは言って踵を返し、ふと、クロエの姿に目を留めた。
 彼女は騎士の倒れたところに立って両手を組み、俯いている。
 つれてアゼルが、さらにはドラゴンさんを頭に乗せたままユーベルが、クロエと並ぶ形で黙祷を捧げた。
 祈ることは勿論、シャイターンに利用された男の冥福。
「哀れなモンだな。ま、ある意味自業自得か」
 三人の心持ちは察しつつ、ランドルフは厳しい意見を述べた。
 それをグレッグは、神妙な面持ちで聞く。
 シャイターンに付け入られる隙があった以上、やはり哀れむばかりとはいかないだろう。
「……炎彩使い、緑のカッパーでしたか」
 呟き、風流は夜空に目を向ける。
 未だ見ぬ敵に思いを巡らす彼女の胸には、何か予感めいたものが渦巻いていた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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