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ひと気のない山の麓。
「良いか。我は、どんなにガードの固い場所でも覗きを成功させてきた」
異形の翼を腰に当て、羽毛に覆われた鳥胸を反らせて、1人のビルシャナが威張っていた。
「女風呂、女子更衣室は勿論……学校の体育倉庫、会社の給湯室、昼下がりの団地まで、ありとあらゆる場所を覗き込んで、女のあられもない姿を目にしてきたのだ!」
「おぉ〜っ!」
碌でもない自慢に興奮を煽られてか、奴を取り囲んでいた信者達が歓声を上げる。
「良く聞け同志達よ! 覗き行為は決して悪では無い! 女は人に見られれば見られるほど垢抜けて綺麗になる。人目を憚る秘め事とて、心の奥底ではそれが露呈すれば身の破滅という状況に、より一層興奮する!!」
最低な説法はいよいよ熱を帯びて、ビルシャナは口角もとい嘴から泡を飛ばす勢いで捲したてる。
「即ち覗きとは、いわば女を美しくする為の手助けであり、秘め事を盛り上げる視線のエッセンスなのだッ!!」
覗きを正当化したいこのビルシャナ、名を『覗き伝道ビルシャナ』と言う。
●
「ヴィゾフニル明王という悪人を救うビルシャナの信者が悟りを開いて新たなビルシャナと化し、自分も信者を集めようと動き出したであります」
小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)は、集まったケルベロス達を前に説明を始める。
「その新たなビルシャナ——覗き伝道ビルシャナの提唱する教義は、『覗きは覗く側も覗かれる側も得するwin-winな行為だからもっとやるべし!』という揺るぎない主張なのであります」
そこまで言って、溜め息をつくかけら。
「教義自体も全く平和的じゃありませんが、そもそもビルシャナの悟りは教義の内容に関係なく危険なのであります」
ですから皆さんには、悟りを開いてビルシャナ化した当人と、その取り巻きの一般人達と戦い、ビルシャナを討伐して頂きたいのであります!
かけらは深々と頭を下げて頼み込んだ。
「ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は配下になってしまうのであります……」
しかし、ビルシャナ化した人間の主張を覆せるインパクトを持つ主張を行えば、周囲の人間が配下になる事を防げるという。
「ビルシャナの配下となった人間は、覗き伝道ビルシャナが撃破されるまでは皆さんを敵と見なし襲いかかってきますが、覗き伝道ビルシャナさえ倒せば元に戻るので、皆さんならきっと助けられると信じてるであります!」
但し、ビルシャナより先に配下を倒してしまうと、彼らが往々にして命を落とす事には注意して欲しい。
今回は、覗き伝道ビルシャナが女は如何に覗かれたがっているかを布教し、配下を増やさんとしている山の麓へ真っ直ぐ向かって、説得及び戦闘を仕掛ける流れとなる。
「覗き伝道ビルシャナは、ビルシャナ経文と八寒氷輪で攻撃してくるであります」
敏捷性を秘めた意味不明の言葉である経文は、1人にダメージをもたらすのへ加えて、催眠効果を及ぼす可能性を持った遠距離攻撃。
理力に満ちた八寒氷輪もまた、射程が長い上に複数人へダメージを与え、時に氷づけにしてくる。ちなみにどちらも魔法攻撃である。
「周囲の一般人信者は12人。彼らは望遠鏡用の三脚を振り上げ、殴りつけて攻撃してくるであります」
ただ、説得にさえ成功したなら一般人達は皆正気に戻る筈なので、ビルシャナ1体と戦うだけで済む。
「教義を聞いている一般人の方々は、ビルシャナの影響を強く受けていますので、理屈だけでは説得できませんでしょう……インパクトが重要でありますから、説得の際の演出をお考えになるのが宜しいかと」
かけらは続けた。
「ここは『覗きのデメリット』を説くのはいかがでありましょう。バレた時の恐ろしい制裁、社会的信用の失墜、ターゲットが定まっていない場合のギャンブル感——折角温泉を覗いても皺々のお婆さんばかりだった——などなど、色々あると思います。存分に語り尽くしてくださいませませ」
何より、覗き肯定派を全否定する気概で、覗きによって被る不利益をとことん推しまくるのが大事だ。
「……既に完全なビルシャナと化した本人は救えません。ですが、これ以上一般人へ被害を拡げないためにも、討伐宜しくお願い致します……!」
参加者 | |
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因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145) |
千歳緑・豊(喜懼・e09097) |
音無・凪(片端のキツツキ・e16182) |
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930) |
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710) |
ポン・ポシタ(月夜の白狼・e36615) |
月白・鈴菜(月見草・e37082) |
赤橙・千宙(瞬き・e40290) |
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山の麓。
「皆の者! 覗きをどんどんするのだ!!」
覗き伝道ビルシャナが信者達へ碌でもない慈悲を垂れている所へ、ケルベロス達はヘリオンより降り立った。
「……覗きしかしないなら、それ以上は出来ないの……? ……つまり根性無しのヘタレか、酷い女旱りなのかしら……?」
まずは月白・鈴菜(月見草・e37082)が、実に素直な物言いで信者を煽り立てる。
「だ、誰がヘタレだと!!」
鈴菜のぼんやりした顔つきと眠そうな声で言われると、言葉以上に馬鹿にされてる気がして、信者達は苛立った。
「……覗きをするのならそれなりの覚悟は本当にあるの……?」
彼らの神経を尚も逆撫でさせながら、鈴菜は思う。
(「大体……そんなにいけない事かしら……? 覗く方はばれたらどうなるか覚悟してそれでも見たいのでしょうし、覗かれる方も嫌なら覗かれないようにするか撃退すれば良いだけだと思うけど……?」)
すると、彼女の足元で横たわっていた蒼眞が、起き上がって鈴菜へカンペを差し出した。
「これは私の知り合いの話なのだけど……覗きの末路として全裸で逆さ吊りにされたらしいわ……しかも、他の覗きへの見せしめとして女湯で……」
蒼眞を地面に沈めた張本人の鈴菜は、ちらと一瞬カンペへ目を通しては心得顔になり、淡々と語り始めた。
「女湯で見せしめに全裸!?」
信者達は驚愕して言葉を失う。
蒼眞の演技指導の賜物か、敢えてインパクト抜群の末路を抑揚のない声でつらつら語る事によって、鈴菜自身、ひいては女性全体の恐ろしさをよく際立たせていた。
「後から来て、それを見た覗き達は死んだ目をして膝付いて項垂れていたそうよ……」
ぐるぐる巻きにされて吊られたのでは、頭に血が上っているのか怪しい状態になった時、自分では到底隠せない。
ただでさえ不特定多数の女性へ全裸を見られるだけでも恥ずかしいのに、場所は女湯、反応しないとは言い切れぬ哀しさ。奴らが項垂れるのも当然だろう。
「他にも、まだやってもいないのに疑われて崖から川に突き落とされたり、辿り着く前に岩や地面に激突したりしてボロボロになったりもしたみたいね……」
ちなみにこのエピソード、逆さ吊り含めて全て、カンペ作成者である蒼眞の体験談だったりする。妙な臨場感にも頷ける筈だ。
「ばれた時は……えっと……ナッツクラッカー……? 玉砕き……?」
鈴菜は懸命にカンペの聴きなれぬ単語を思い出して、
「……こう、かしら……?」
ゴスッ!
「……こんな感じで男の急所を蹴られて女には分からない痛みを感じたそうよ……」
あろう事か蒼眞で実践、相変わらず淡々とナレーションした。
「……私も覗かれるのは一寸……蒼眞から他の人には見せちゃ駄目って言われてるから……」
青褪める信者達と苦悶する蒼眞を前に、頬を染めて恥ずかしがる鈴菜だった。
その傍ら。
「同じ男としてまとめて吹き飛ばしてやりたいところだが……仕方ない」
憤る気持ちを堪えて説得に当たるのは、千歳緑・豊(喜懼・e09097)。
「見られていることに女性自身が気付かない時点で垢抜けの効果は発揮されないし、気づかれれば秘め事による興奮は得られない……」
豊特有の余裕を感じさせる語り口で、ビルシャナの教義の穴を丁寧に突いていくのは大層頼もしい。
「……どちらに転んでも片手落ちの意見を、勢いで押し通すなよ」
落ち着いた物腰だが、ビルシャナを糾弾する声音には迫力があった。
「君も一人で捕まるのが嫌だからと言って仲間を増やそうとするんじゃない。一人だけでも複数でも、身内へのインパクトは変わらないよ」
豊としては、ビルシャナが捕まった時の風当たりを分散させる為の盾として信者を犯罪者に仕立て上げたいのだ——と決めつけて、彼らに不信感を植えつけたかったが。
「教祖様がそんな卑劣な事をなさるものか!」
「教祖様は覗きの悦びを我々に分け与えて下さる慈悲深いお方なのだ!」
と、信者達の半分は猛反発。
「……教祖様、まさか、まさか」
「それが教祖様のお望みならば。いやでも女湯逆さ吊りは嫌だ……!」
残り半分は、豊の目論見通りビルシャナへ疑いの目を向ける者、ビルシャナと運命を共にする覚悟が決まらず苦悶する者に分かれた。
続いて。
「覗きってモノはね、誰の邪魔もせず、自由でなんというか救われてちゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)は、陶酔した表情で覗きの良さを意味不明に語るお約束を披露した。
白く幅の広いうさ耳とふわふわした尻尾が印象的な、人型ウェアライダーの少年だ。
だが、その可愛らしい見た目に反して中身は割と強か、本人は小物を自称するも容姿や種族の利点を最大限に活かして立ち回る策士である。
「覗きにいちいち言い訳するんじゃないよ」
そんな白兎だからか、信者達へ投げつける叱咤も実に切れ味鋭い。
「覗きってのはWin-Winなんかじゃない、一方的な搾取だよ」
白兎自身、依頼で何度も女湯などを覗いたり潜入しているからこそ、彼の悟りには含蓄が生まれる。
「覗かれてる側の尊厳を傷つける行為以外の何物でも無いのさ。その事実から目を背けるようなら覗きストなんてやめた方がいいよ」
覗かれる相手が得する訳がない——ばっさり言い切った白兎に、動揺を隠せない信者達。
「そんな……女性は内心悦んでる訳じゃなかったのか!?」
「覗き仲間から否定的意見を聞くなんてな……」
視線を泳がせて狼狽えたり落ち込んだりする様は、普通なら多少気の毒に見えようものだが、吐いたセリフの最低さが僅かな同情心をも吹っ飛ばす。
「そもそも、相手が裸を見られていいって言うなら、混浴温泉でいいじゃん」
更に、至極尤もな疑問と真理をぶつける白兎。裸を見せたくないから彼女らは混浴でなく女湯を選ぶのだと。
「それでも覗くっていうのなら、本当は気づいてるんじゃないの? 自分たちのはただの言い訳だって」
「言い訳……」
白兎の素直な口撃へ完膚なきまでに叩きのめされ、ぐうの音も出ない信者達だ。
●
「っは~~~~~ぁ……」
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)は、長〜い溜め息をついた。
「なんだろう、すっごい気が進まない……」
ビルシャナの教義への強い嫌悪感が、信者達の説得に対するやる気を根こそぎ奪っているようだ。女性なら当然の反応である。
だが、気が滅入ってばかりもいられないと、腹に力を入れるフィオ。
「見られると思ってないところを見られて! 嬉しいわけ! ないじゃないですかもー!!」
力の限り叫んで憤懣やる方ない想いをぶつければ、信者達がたじろいだ。
「ま、またまたぁ、覗かれて本当は嬉しんじゃないの?」
「女性の心と口先は別物だし」
それでも未だに寝言を抜かすが為に、フィオの頭はますます痛くなる。
「……はぁ。一応私も、芸能人やってますけど。見られるのが仕事ですけど」
片手で額を抑えるようにしながら、噛んで含めるように言い聞かせた。
「あれは見せるべきところを見てもらってるだけですから、覗き見とはまったく訳が違います」
人に見られる仕事をしている芸能人とただ単に女湯へ入りに来た一般女性とは、見せる部分も心の在りようも違うのだ——と。
「普段見せてもらえないのを見たいのかもしれないですけど、そういう卑怯なことする人なんかには見せたくないです。そう言う人嫌いですから」
くるくるとよく変わる表情が魅力的かつ、アイドルとして活動できる程の美少女であるフィオに、こうもはっきり嫌いと言われて、
「……卑怯……」
「可愛い娘に嫌われた……」
傍から見ても丸分かりな程落ち込む信者達。
「この人にだったら見せてもいい、とかそう思わせるような努力して出直してきてください」
がくりと膝をつく彼らを見下ろして、フィオはすげなく言い放った。
女性の立場から覗き魔へ対しての嫌悪感を語る——それによって相応のインパクトも見込める、危なげない正攻法であった。
一方。
「あー……あたしは性悪説を信じててね、人が悪いことをしちまうのは生来のモノだと思っててだね」
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)は、さっぱりした物言いで自身の価値観を語ってみせた。
「色々と言いたいことはあるけれど……すべて好意的に解釈して、その上で問おうか」
如何にも気風の良い姉御肌といった感じの凪だから、赤い瞳を眇めて信者達を睨む様には、何とも言えぬ威圧感がある。
「お前ら、たった一度の覗きとてめぇの人生、天秤掛けする覚悟があってのことなんだろうなぁ?」
「ひぃぃ!?」
そんな眼つきのままドスの利いた声で凄まれて、信者達が一気に震え上がった。
「究極的な事を言えば、世はやったもん勝ちさ。その理屈で言えば、お前らが覗き衝動を実行するのもお前らの自由だ」
けれども、凪が語調を緩めてそう続けた為に、言葉の表面だけを都合良く理解した信者は、ホッと胸を撫で下ろす。
「……だが、世は同時に法で縛られた社会。悪業には罰を、覗きと言う犯罪には社会的な制裁が与えられる」
凪は、どこまでもおめでたい信者達をもう一段階下の奈落へ突き落とすべく、しかつめらしく断言して。
「先に好き勝手やったお前らに社会がクソミソな評価を下すのも、当然、自由だよなぁ?」
ニヤァァと口の端を上げて、さもおかしそうに信者達がこのままだと社会的に死ぬ可能性について嘲った。
「……クソミソな評価……」
信者達は恐らく最悪な想像を思い巡らせたのか、顔面蒼白になっている。
彼らの脳裡には、フィオの『嫌いですから』と言った声が過ったに違いない。
「あたしが言いたいのはそれだけさ。刹那の欲望に生きるも、社会的に死ぬのも、好きにしな」
凪は信者達を一瞥すると、まるで突き放すかのような調子で、説得を終える。
(「みんな色んなモン我慢して生きてんだよ、誰かのためじゃなく、自分のためにさ」)
それでも、覗く権利ばかり主張して義務や対価の必要性を認めようとしないスタンスが気に入らないのもあってか、一言だけ付け加えた。
「……なぁ、誰かの秘密を知りたいなら、相手がソレをさらけ出してくれるための努力をしろよ」
一見信者達を完全に見放した風に思える凪の、最後のアドバイスだった。
信者達は神妙に黙して、何の口答えも出来ない様子である。
他方。
「ポンちゃんは女の子だけど、お風呂や着替えを覗かれたらすごく嫌、心の底から気持ち悪いのだー!!!」
最大限に信者達と距離を置いた後方から、声だけは届けと思い切り叫ぶのは、ポン・ポシタ(月夜の白狼・e36615)。
(「近づいたらスカートの中を覗かれるかもしれないし、服の下にズボンをはいて行こう……」)
ヘリオンに乗っている時から、覗き対策に余念のないポンである。
それ故、信者達へ近づきたくないと思う気持ちは人一倍強く、その態度自体が説得の大きなアドバンテージになっている。
「ビルシャナや信者たちはポンちゃんの半径3m……いや30m以内に近づかないでほしいのだ、きたないのだ」
この発言も決して説得成功の為オーバーに言っている訳では無く、ただただ心の底からビルシャナと信者の考えが不潔極まりないと感じているのだ。
「覗きをする人のことなんて大嫌いになるのだ」
ポンの本心の吐露は止まらない。
「生理的に無理だし、結婚とかもしたくない。お友だちにすらなりたくないな……」
「そこまで!!?」
「というか今、目の前にいることすら気色悪い……」
信者達が悲愴な顔になるも、決して絆されずに吐き気を堪えるべく口へ手を当てるポン。
「ゴキブリのほうがましなのだ……と、女の人はみんな思っているぞ」
敢えて女性全員の意見を代弁して、信者達の心を抉り抜いた。
「そもそもどんな理由をつけたところで、故意の覗きは犯罪で逮捕なのだ」
全くもってその通り——まさに世間の常識である。
「一生懸命育てた息子がゴキブリ以下になって嫌われて逮捕なんて……お父さんやお母さんもかわいそう」
ポンの強弁は留まる所を知らない。
「だから、止めたほうがいいのだ」
当然、信者達が受けたショックはひとかたではなく、
「……そんな……親を引き合いに出すなんて、ガチの犯罪者扱いされてる!?」
「サスペンスで刑事が犯人を説得する為によく使う手だよな……俺達、アレと同じレベルの犯罪者なのか……」
●
「……私も女ですから言いますけど…………ものすごく引いてます……」
赤橙・千宙(瞬き・e40290)は、もはや取りつく島もないぐらい冷たく言い放って、信者達を愕然とさせた。
「…………あなた達は覗かれてバレた時の事を考えてますか……?」
常々自信なさそうな態度で困り顔を崩さない千宙が、この時ばかりはキッと鋭い眼光で詰問するのだから、その真剣さが判るというもの。
「……まず覗きは立派な犯罪です、それを自覚してください……。それに……覗きがバレた時にあなた達はどんな扱いをされると思います……?」
千宙の、冷え冷えと醒めた声音でありながらゆっくり噛んで含めるように説明されて、信者達はバツが悪そうに目線を彷徨わせた。
「覗かれた人は勿論、家族やあなたの周りの知り合い……きっと世間一般の全員から変態扱いされるんでしょうね」
「世間から変態扱い……」
「い、いや、でもそれは見つかった時の話で!」
信者達は皆が身も世もなく取り乱しつつも、中には未だ悪足掻きを考える者もいて。
「…………バレなければ、とも思うかもしれませんけど、そもそも私達が来た時点であなた達がしようとすることはバレてるんです」
「ぐっ……」
千宙に一蹴されてしまった。
「…………だからもう、私にはバレてます…………そんな私の思ってる事なんだとおもいます……?」
信者達の往生際の悪さにほとほと呆れ果てた千宙は、
「……ハッキリいいます…………最低……気持ち悪い……」
彼らをそれこそゴミをみるような目つきで睨めつけて、主張の締めとしたのだった。
「……気持ち悪い……だと」
信者が茫然自失になるのも道理だろう。
さて。
「覗きの問題、2つありますわね」
と、至極冷静に分析してみせるのは、シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)。
今まで何度もビルシャナの信者を相手どってきただけに、この日も決して気を抜かず、手製の紙芝居を披露して説得に挑んだ。
「一つは万引きのように、依存してやめられなくなってしまうこと。二つ目は認知が歪むこと」
重々しいBGMを流しつつ、シフォルは覗きを続ける事のデメリットを素朴なイラストで説明。
「普通に考えれば誰だか分からない人に覗かれて喜ぶ女性なんていないと分かるのに、そのビルシャナのようになんの根拠もなく女性は覗かれて嬉しいと思い込んでしまう……」
彼女の解り易い話術へ信者達もすっかり引き込まれて、真面目に紙芝居を観賞している。
「普通に考えれば、の『普通』ができなくなってしまうのですわ」
「認知の歪み……怖い話だな」
「まさか自分が……って思うと、なんか落ち込む……」
認知の歪みの何たるかを知らされた信者達は——すぐに病識を持つには至らず半ば他人事ではあるが——素直に危惧していた。
「また、依存してやめられないから最終的には裁判で罰を受けることになり、仕事もクビ」
「クビ……!?」
「裁判沙汰は嫌だ!!」
流石にこちらは想像し易いのか、嫌な空想をした上で必死に反発していた。
「家族からも社会からも見放され、残るのは都合のいい思い込みに引きこもる孤独な覗き依存症……」
そんな信者達へ、シフォルは歌うようなテンポで追い討ちをかけた。
「宜しいですの? 覗きとはそこまで自分を歪めてしまうのですわ」
にっこり笑顔で現実を突きつけるのも忘れない。
「大体、そんなに裸が見たいなら、ちゃんと恋人になって交際してからお願いすればいいのにですわ」
相手の気持ちを考えないとモテないですわよ——シフォルの追撃が信者達の精神をゴリゴリ削っていく。
「恋人なんざ何年いないか……!」
「どうせモテねーよ畜生!」
血涙を流す彼らの様は、少し哀れにも感じた。
「ともあれ、いまのままだとあなたたちに待っているのはそんな未来ですけれど、それでも覗きをしたいですかしら?」
シフォルの上品な物言いが紡ぐ最悪な結末へ圧倒されて、信者達は最初こそ何も考えられずに呆けていたが。
「俺は覗きをやめる! 一時の悦楽で人生を棒に振るなんざ嫌だ!!」
「俺も女の子に嫌われるのはもう沢山だ。これからは真っ当に生きる事にする……」
ケルベロス達の思いの丈をぶつけた説得が効いたのだろう、次々と彼らは正気に戻っていき、そして。
「そうだな……変態だのゴキブリだの言われたくないしな」
「俺も……家族に心配かけたくないし」
無事に12人全員が教義を捨て去り、元の一般人に戻った。
すぐにガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)が彼らを追い立てて街へと逃がし、後は孤立したビルシャナをはっ倒すのみ。
「少しは反省してください! この変態!」
女達が怒り任せに攻撃する中、前衛へ異常耐性を与えていた千宙も、ビルシャナへ怒鳴っている。
「残念、自ら手放した鳥野郎に人権はねぇ」
最後は、凪が天華を覆う地獄の炎ごとビルシャナへ叩きつけて、トドメを刺した。
「来世は、真っ当に生きろ」
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年10月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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