●強い絆は肉繋ぐ糸
東京都狛江市にある、極々普通の一軒家。
最近では珍しくなった3世代7人家族の住む家の居間では、家族団らんの一時。
丸机を囲む様にして、3世代家族が一つの鍋をつつく……テレビの番組に笑ったり、突っ込んだり、時にはジェネレーションギャップで言い争いになったり……と言うこともあるが、それも又一つの団らん。
……と、そんな一家団欒の夕食時に、突如姿を現わすのは……傀儡使い・空蝉。
『な、なんだお前は!!』
と、一家の大黒柱の父親が声を荒げるも、空蝉の一閃になすすべ無く、崩れ墜ちる。
そして、その後も……子供を庇い、母親が、叔父を庇う、叔母が……などと、対峙する事無く、次々と死に行く。
……全てが死した後に空蝉は、その手に持った、気色悪い肉の塊を手にし、辺りの家族の死体を一つに手捏ねるが如く、混ぜ合わせる。
『……』
不敵に笑みを浮かべた空蝉……そして、彼の目の前には、大きさ3m程の、人の手足がツギハギの如く折り重なった屍隷兵が立つのであった。
「ケルベロスの皆さん、集まっていただけたッスね? では、説明させて貰うッスよ」
と、黒瀬・ダンテは軽く手を上げ挨拶すると、早速。
「神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)さんの危惧してた、螺旋忍軍が研究していたデータを元にして、屍隷兵を利用しようとする勢力が現れた様なんッスよ」
「その螺旋忍軍の傀儡使い・空蝉もその一体の様で、仲の良い家族を惨殺し、その家族の死体をつなぎ合わせる事で屍隷兵を強化しようとしている様なんッス」
「産み出された屍隷兵は、近隣の住民達を惨殺し、グラビティ・チェインを奪う事件を起こしてしまいかねないッスよ」
「空蝉の凶行を阻止する事は出来ないッスけど、家族の屍隷兵が近隣住民へ襲う前には、ケルベロスの皆さんが現場に駆けつける事は可能の様ッス。だから……彼らが近隣住民を虐殺する前に急ぎ現場へと向かい、事件を解決してきて欲しいッス!!」
そしてダンテは、詳しい屍隷兵を取り巻く状況について。
「この屍隷兵ッスけど、体長3m程で、人の手足身体がツギハギの様にくっついた姿形をしている様ッス。今回被害にあったのは、叔父、叔母、母、父と、長男、次男、長女の7人家族の様ッス」
「現れるのはこの屍隷兵のみで、他にその仲間のような者は居ない様ッスけど、このツギハギ屍隷兵は、他の屍隷兵に比べれば一回り強敵の様ッス。家族の絆が、そうさせてるんッスかね……」
「又、戦場になるのは家族の住んでいた家の近くになるッス。夜という事で、周りに帰宅する人達なども居ると思うッスから、人払いを忘れずに行って欲しいッス」
と、最後にダンテが。
「仲の良い家族を惨殺し、屍隷兵の材料にする空蝉……絶対、これを放置しておく事は出来ないッスよ。もう彼らを救うことは出来ないッスけど……ケルベロスの皆さんの手で、これ以上彼らを苦しめない様にして欲しいッス。宜しく頼むッス」
と、頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
レイ・ローレンス(空蝉絶対許さない少女・e35786) |
阿東・絡奈(蜘蛛の眷属・e37712) |
●夢途切れし糸に
狛江市にある、極々普通の一軒家。
そこに3世代七人家族という、最近は珍しい大家族の住む家がある。
そんな普通の家の団らんをぶち壊す、空蝉は……人の手足をツギハギの如く折り重ねた屍隷兵を作り出すという。
「……ままならねぇ、もんだな……」
と、ぽつり絞り出すように呟く水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)。
……もう助からない命、家族の絆。
かけがえのない物を奪い去る空蝉というモノの悪意に……唇を噛みしめるケルベロス達。
「利用された愛情……絆か……最早、呪いだな……それが時に枷となると……良く解っている……」
とディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)の呟きに、ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)とシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)、レイ・ローレンス(空蝉絶対許さない少女・e35786)らが。
「ほんと、何が目的でこんな事をしているのかはわからないけれど……これが私利私欲のためにやっているものならば、許せないわね……」
「そうよ。空蝉……どうして、こんな酷い事が出来るの……貴方だけは、絶対に許さない……!!」
「助けられないのが悔しいけど、せめて長く苦しめたくない。せめて……早く終わらせてあげないと……」
と、そんな仲間達の言葉に螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が。
「そうだ。他人の命を踏み躙り、弄ぶとは……空蝉、絶対に許さん……! 必ず討ち滅ぼす……俺の命に掛けても……!」
ぐっと拳を握りしめるセイヤ、そして八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が。
「……そうや。今から、助けるで……かなり痛くて苦しいやろうけど、堪忍してなぁ……」
固く握りしめた拳、そして強い怒りと哀しみを胸に抱く瀬理……と、そんな仲間達とは少々違う考えを持っている阿東・絡奈(蜘蛛の眷属・e37712)は。
「傀儡使い……同じ糸を使うものとしては、どんな技術体系かは気になりますわね。命を弄ぶ傀儡使い。自分は作るだけ作って様子見とは、これはいけません……ここで、確実にしとめましょう」
……そんな絡奈の言葉に、ノルンが。
「そうね……これから、彼らを更に酷い目に遭わせるわ。せめて、安らぎを届けるから……」
唇を噛みしめ、覚悟を決めるノルン。
そして、ケルベロス達は、夜半の狛江駅を降り、その家族の住処へと向かうのであった。
●安らげぬ糸を持ち
そしてケルベロス達は取りあえず屍隷兵の住処の近くへと到着。
その家は、家族団らんの声もせず、静けさが……。
「……ここか」
と静かに呟くと、鬼人はその手にキープアウトテープ。
「そうね……それじゃ、私はこっちの家の方に行くわ。鬼人はそっちを」
「解った」
と短く会話を交わし、件の家の四方の家へ。
……家の住人に対し。
「突然ですまないが、ここから避難して欲しい。デウスエクスがこの近くに出るようなんでな」
「家族団らんの所を邪魔してごめんね。でも……貴方達を危険に晒す訳にはいかないの。申し訳無いけれど、一端家から避難して、お願い」
と懇切丁寧な説明を行い、一般人達を、周囲の家から避難させる。
……そして、周囲の家の避難を終えた後、その家を取り囲むようにして、キープアウトテープを張り巡らせて、一般人の侵入を排除。
そしてキープアウトテープを張り巡らせた上で……。
「さぁ、始めましょうか」
と絡奈の言葉に頷き、ケルベロス達はその家の中へ。
『ウ……ゥウゥ……』
『イタイ……ヨォ……パパァ……』
と、唸り声と共に、苦しむ声が遠くの方から聞こえてくる。
その声の方向へ進んでいくと、その家の中の一番大きな部屋、ダイニングルームの中に、体長3m程の、手足がツギハギになった奇っ怪な姿の屍隷兵が……。
「……っ」
と、その姿をハッキリ見えない様に、その部屋の中へバイオガスを噴射するシルヴィア。
更にケルベロス達が中に次々と突入為、ドアを閉じた上で、己の退路も、そして屍隷兵の退路も閉鎖。
そして……武器を構える瀬理とディークス。
「……あんたらの手は汚させへん。汚すんは、うちらの仕事や」
「ああ……非業の死を遂げた魂よ……苦悶の終焉を……」
と……そんなケルベロス達の攻勢に対し、屍隷兵は。
『ウウゥ……イタァイ……』
『パパァ……ママァ……』
虚ろな呻き声を上げ続ける屍隷兵。
その呻き声を聞いていると、精神的に辛い。
が、そんな声に決して揺るがされる事はなく、先陣切って絡奈が。
「食らいつきなさい」
と、猟犬縛鎖を放ち、屍隷兵を雁字搦めにする。
締め付けられる痛み、苦しみ……呻く屍隷兵に、更に。
「with……”喰らえ”」
とディークスがレゾナンスグリードを放つと、それに連携を取ったノルンがスターゲイザーを空から降り注がせる。
と、そこまで続くと、一端レイが。
「カードイグニッション、メタリックバースト」
と短く、端的に言葉を紡ぎ、メタリックバーストを前衛に付与すると、連携しての鬼人が。
「……刀の極意。その名、無拍子」
と『無拍子』の一閃を放ち、セイヤも。
「おまえ達に罪は無い……だが、これ以上、犠牲を出すわけには行かない……せめて、安らかに眠れ……!」
と唇を噛みしめながらのスターゲイザー。
更に、セイヤに連携するシルヴィアは。
「遙かな命の果て……もう戦わなくて良いの、もう頑張らなくていいの……さぁ、新しい未来へ……」
と、仲間達を補助するように「紅瞳覚醒」で強化を付与。
そして、瀬理が。
「ごめんな。もうちょっと我慢して。もう、終わらせたるから……」
と謝罪の言葉を口にしつつ、『虎撃:雷哮畏凝』の咆哮を浴びせかけていく。
……そして、ノルンのテレビウム、ディアと、絡奈のボクスドラゴン、アトラクス、そしてレイのボクスドラゴンが次々と、ダモクレスへ牽制と共に攻撃を進めていく。
……そんなケルベロス達の攻撃が一巡し、対する屍隷兵の攻撃。
『ユルサナイ……ユルサナイィ……』
『オカアサン……イタイヨォ……』
様々な部位から、同時に別々の声を叫び、訴える。
痛みを訴える悲鳴の如き声や、恨みの声は確実にケルベロス達の精神を蝕むのだが……。
「……仲の良い、家族だったろうに。こんな無惨な最後を向かえる事になるなんて、思ってもいないだろう。一瞬でも早く、苦しみから、解放してやらなきゃな。それが、情けって、やつだろ?」
と言う鬼人の言葉に、シルヴィアとセイヤが。
「そうだね……助けられなくて……救ってあげられなくて、ごめんなさい……辛いよね? 苦しいよね……? 本当、ごめんね……」
「……痛いだろう。それを与えているのも、俺達だ。だが……お前達をこのまま放置しておく訳にもいかないんだ。おまえ達は……必ず、ここで止める……!」
と強い気合いと共に対峙するセイヤ。
そしてセイヤが月光斬で一閃を喰らわすと、シルヴィアも稲妻突き。
更に鬼人の月光斬に、瀬理のせんじんきゃく、ディークスのドラゴニックスマッシュに、ノルンが。
「駆け抜けるわよ。 ――――― 疾鳴鳥っ!!」
と『疾鳴鳥』の雷鳴を撃ち貫く事で……その身体の一部に風穴を開く。
『ウァアアアアア……!』
と、絶叫を上げる屍隷兵……その貫かれた長男の身体は、焼け焦げてしまう。
……でも、まだまだ六人の身体がつなぎ合わされた屍隷兵は、それぞれが蠢いている。
「頭がいくつもあるのは大変ですわね。見えているものに、身体の方が追いつかないのではないですか?」
と絡奈の言葉に、屍隷兵は。
『ウルサァァイ……!』
『ママァ……パパァ……!!』
と、呻き続ける。
……何度も何度も叫ぶ、屍隷兵の声。
幾度となく耳を塞ぎたくもなるが……その声をしっかりと聞き届けて、対抗するケルベロス。
勿論、その訴えである彼ら彼女らの言葉へ。
「そやね。でも構わへん。今は全部から解放されて、ゆっくり眠ったらええんや。家族皆、一緒やで」
という瀬理の言葉に乗せて、攻撃ターゲットを身体一つ一つに絞り、集中砲火。
一つ一つを確実に仕留め……そのツギハギだらけの身体を解いていく。
そして戦闘開始から十数分。
残るツギハギの身体は、後二つ……叔父と、次男の身体。
「……そろそろか……」
と、一端は瞑目したディークスが。
「……終わらせてやろう……せめてもの、弔いに……」
と言うと共に、『讐魄溘焉の勢』を詠唱……その詠唱の言葉に対し、しわがれた死霊の声が。
『<レギオン>……我等、多勢成ルガ故ニ……』
と言う言葉と共に、次々と屍隷兵に飛んで行く黒の刃。
……次々と刺さりし黒の刃が、ズタズタに屍隷兵を斬り裂いていくと……瀬理が。
「心配せんでもええ。もうじき、痛くなくなるわ。うちらが、そうしたる!」
と牙を剥き、至近距離からの『虎撃:雷哮畏凝』が屍隷兵を斬殺。
そして……セイヤが。
「……これで、終わりだ……静かに、眠れ……!」
と、『魔龍双牙・暴獄』の、渾身の一撃を放ち……屍隷兵を構成する身体は、全て崩れ墜ちて行くのであった。
●途絶えし糸に
「……良く覚えておきなさい。私の獲物になるかもしれませんもの……ね」
と、絡奈の屍隷兵への宣告。
屍隷兵を倒したケルベロス達だが……その心境は、全く晴れる事は無い。
いや、寧ろ……。
「くそっ……! 罪も無い家族一つ、守れないなんて……!」
「……空蝉……空蝉……許せないのぉ……幸せを壊すことは……やったらいけないのぉ……」
拳を握りしめ、床を叩くセイヤに対し、溢れる涙を堪えきれず、泣き始めてしまうレイ。
深く、声を上げて泣くレイの鳴き声は、締め切った部屋の中に木霊する。
勿論、他のケルベロス達も……唇を噛みしめ、そして……この様な屍隷兵を作った空蝉に対し、強い強い怒りを覚え。
「……絶対、許さへんで……」
と瀬理の口の端には、深い憎悪の殺意が滲む。
……とは言え、今ここに空蝉の姿は無い。目の前には、殆ど消え失せてしまった屍隷兵の痕跡と……壊れた家の構造物。
そんな屍隷兵の僅かながらの痕跡に跪き、テを合わせ、冥福の祈りを捧げるセイヤ。
……ただただ無言のセイヤの祈りに、シルヴィアは涙ながらに祈りと、鎮魂歌を捧げる。
「……安らかに眠れる様に……また家族が一緒の時を過ごせる様に……」
とシルヴィアの祈りに対し、ディークス、瀬理も。
「其の意思が……せめて……何かの……誰かの……糧となる事を……」
「……そやね。おやすみ。家族皆で、ゆっくり寝ぇや……」
と、絆で結ばれた屍隷兵に対しての、もはや戻れぬ絆に祈りを捧げ続ける。
……そして、その横では、鬼人とノルンの二人は、無言で周囲にヒールグラビティを掛けながら、壊れた構造物や、家族が仲良く暮らしていた証の品も、一つ一つ治していく。
祈りと、治癒の花が咲き誇る、家族の団らんの面影。
その面影に更に、ケルベロス達の哀しみは深まるばかり。
……そして、屍隷兵の痕跡もほぼ全て消え失せ、修復もほぼ全てが終わった後。
「……さ、次は警察に事情を話さんとね。前触れ泣く一家丸ごと消えた事になるし……あの人らの親族に、余計な心労掛けたないわ」
と瀬理の言葉に、鬼人が。
「そうだな……そこ、ちょっと頼んで良いか? 俺は、周りの人達に伝えてくる」
と言うと、ノルンが。
「そうね。キープアウトテープの回収もあるし……周りの人達位には、伝えておかなきゃならないわね。もう……彼らが戻ってくる事も無い事を……」
「……ああ。どんな形であれ、この家族を覚えていてくれる人は、多い方が良いからな」
そんな鬼人とノルンの言葉。
自分も、という仲間もいたが……大丈夫だ、俺に、私に任せてくれ、と仲間達を抑え、二人、家を出ていく。
……そして、残るケルベロス達は……涙を拭いながら、其の場を後にするのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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