ハンマー！ハンマー！

■リプレイ

●騒音はご遠慮下さい
「ハ、ハ、ハンマー！！」
　深夜の住宅街に、近所迷惑な騒音が響き渡る。巨大な風船のハンマーに手足が生えたその姿は、第三の魔女・ケリュネイアが産み出したハンマー型ドリームイーターの物だった。少年の驚きから産み出されたドリームイーターは、更なる驚きを求め夜の住宅街を徘徊する。
　だが、ドリームイーターが住民と出会う事は無い。ケルベロス達が、殺界形成による人払いに加え、混乱を防ぐ為のキープアウトテープを併用し、上空からの見張りも行うという万全の体制により、無事に住民の避難を終えてドリームイーターを待ち構えていたのだ。

　月に照らされ静まりかえる道の向こうから、ドリームイーターが現れる。
「ハンマーー！！」
　そして予知通りドリームイーターは駆け寄ってくると、ケルベロス達を驚かせようと頭部のハンマーを地面に叩き付け、地震を引き起す。これへの対応次第で、ドリームイーターの行動は変ってくる。
「やるわね……！！」
　最初に驚きの声を上げたのはリリィエル・クロノワール（夜纏う刃・e00028）。月光に照らされるその姿は、まるでアラビアンナイトから抜け出してきたかのようである。
「わあっ」
　ぴょこんと跳ねて驚く振りをしたのは翡翠寺・ロビン（駒鳥・e00814）。物静かなお嬢様風の彼女は、どうやら演技は苦手のようだ。
「わっわっ、なに！？　地震！？」
「あややや！？　お、音も揺れも凄すぎなのです……」
　対して、天羽生・詩乃（夜明け色のリンクス・e26722）と癒伽・ゆゆこ（湯治杜の人形巫女・e00730）はなかなかの演技派のようだ。詩乃はライドキャリバー『ジゼルカ』が倒れないように抑え、ゆゆこに至っては驚きで転んでしまっている。凄い演技力……なのだろう。
　驚きを見せるメンバーと対照的な者達もいる。
「……地面が揺れるのは、少々、怖いな」
　地震に慣れていないメルカダンテ・ステンテレッロ（茨の王・e02283）だったが、少し目を見開く程度で、驚く様子はない。
「ハンマーを使って相手を驚かす、ですか……。よくないです、よくないですねっ！」
　白雪・まゆ（月のように太陽のように・e01987）は、親友から受け継いだFeldwebel des Stahlesを手に、全く動じずに雄々しく立ち向かう。
「日本人にとって地震程度、SNSへの集合合図にしかならんな！」
　地震を笑い飛ばすのは猫夜敷・千舞輝（地球人のウェアライダー・e25868）。勝手に動くハンマー星人（？）に興味津々で目を輝かせていると、ウイングキャット『火詩羽』にちょっと落ち着けという風に額をペシリと叩かれる。
「この戦い、シロにゃんと陽一殿が再び仲良く過ごせる為に必ず勝たせてもらうッ！　そして火詩羽にゃん可愛い！」
　そしてウイングキャットの『ヒメにゃん』を撫でつつ力強く宣言したのはギメリア・カミマミタ（俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671）。ぶれない彼にヒメにゃんからはジト目が送られてる。

「ハ！　ハンマー！！」
　驚かない人間がいた事に苛立ったのか、ドリームイーターは怒りの声を上げながら、巨大な頭を振り上げて、ケルベロス達に躍りかかって来た。

●ハンマー！ハンマー！
　驚かなかったメンバーは、前衛２人後衛２人。誰を狙うかは運次第になりそうだ。
「ハンマー使いとして、正々堂々勝負なのです！」
　そして、最初の標的になったのは真っ向から立ち向かったまゆだった。
「ハハハハハハハンマーーーー！！！」
　嵐のように叩き付けられるハンマーラッシュに、まゆのＨＰの大半が一気に削られる。その破壊力に流石のケルベロス達も色めき立つ。が、それでもまゆは一歩も引かない。
「ハンマーは正義の武器なのです。負けるわけにはいかないのですよっ！『一撃必砕！　全・力・全・開っ！』」
　そしてまゆは全力ダッシュから、回転で遠心力を乗せたCentrifugal Hammerを叩き込むと、その一撃は完璧にダモクレスを捕らえ、先ほど受けた攻撃に劣らぬ破壊力を見せつけた。
「ハンマーは叩くもの！　もっといえば、叩き潰すもの！　人を驚かす事に使うようなドリームイーターさんは、すり潰してあげるのです！」
「……そう言う怒り方なんや」
　不穏な台詞で見得を切るまゆにツッコミを入れつつ、千舞輝が火詩羽と共にブレイブマインと清浄の風で回復を施して行く。
「暴れてるハンマー怪人を倒さない限り、目覚めない子がいるんだもの。負けられないわよね！」
　まゆの一撃によろめくドリームイーターにすかさずリリィエルが追撃をかける。放たれた潮騒の唄は、潮の流れのように流麗な体躯の動きと剣閃で、ドリームイーターを確実に捕らえていく。
「わたしのハンマーも、つよい子なのよ」
　そしてロビンもアイスエイジインパクトでそれに続き、叩き付けた場所から進化可能性を奪い凍結させる。
「自分自身で敵を叩いて、痛くないのですか？……まあ、まさしく夢の産物、と言ったところなのでしょうね」
　その隙にメルカダンテは幻夢幻朧影でまゆの傷を癒していく。夢は嫌いじゃないとは言え、こんな夢の産物はお断りなのだろう。無表情だが少し嫌そうに呟きながら。
「ハンマーぶんぶんしちゃうドリームイーター。……いろんなものを壊しちゃう悪いハンマーは懲らしめないと、なのですっ！」
　大切なまゆを傷つけられたゆゆこは怒ったようにフロストレーザーを放つ。ジャマーのゆゆこのフロストレーザーの効果は凄まじく一気に凍結部分が広がっていった。
「今日はルカとの初陣だね、頼りにしてるよ、相棒！」
　詩乃がヒールドローンを展開しつつ、相棒のライドキャリバー「ジゼルカ」に声を掛けると、ジゼルカもダークレッドのボディを振るわせてそれに応え、デットヒートドライブで突撃しドリームイーターを炎に包む。
「ここで倒れる定めでは無いぞッ！」
　ギメリアは猫達から学んだ癒し術（自称）とヒメにゃんの清浄の風でまゆを癒していくが、いまだ傷は深く完全に治しきれてはいない。

　そこにドリームイーターが追撃をかける……かと思いきや、後衛にハンマークエイクを放つ。どうやらあまり頭はよろしくないようだ。頭のハンマーが叩き付けられた瞬間、中の鈴がチリンチリンと場違いに可愛い音を立てる。が、その威力は侮れない。叩き付けられた地面は揺れ動き引き裂かれて、衝撃が千舞輝とギメリアを襲う。だが、攻撃を引きつける事を想定し、防具を整えていた２人を一撃で倒すには至らない。
「自分の体をぶんぶんするとか、めっちゃ動きづらそうなんやけど」
　千舞輝は「ブラッドスター」で治癒を図りつつも、ハンマーの構造に好奇心を疼かせてまた火詩羽に突っ込まれている。
「おまえに手は要るのか？」
「……と言うかハンマーだからハンマーと鳴くのは安直じゃないか？」
　そしてメルカダンテはメタリックバーストで前衛を支援しつつ、ギメリアは火詩羽の姿に悶えつつヒメにゃんと回復を行いながら、２人で厳しいツッコミを入れると、ドリームイーターは怯んだように後ずさる。どうやら攻めるのは得意だが攻められるのは苦手のようだ。
『あなたの鼓動を、たべさせて』
　そこにロビンがひとかけらの硝子片を腹に宿したはらぺこ火の玉を拳に纏い、ドリームイーターをぶん殴ると、炎の獣は敵の橫腹を大きく喰らい、満足したように消えていく。
　悶えるドリームイーターに、リリィエルが敵の注目が自分に向かない事を少しつまらなそうにしながら雷刃突を放つと、まゆとゆゆこはアイスエイジインパクトとゼログラビトンで流れるような連携を叩き込み、詩乃もジゼルカと共にヒールドローンとキャリバースピンで味方を支援する。
　続く猛攻にドリームイーターは全身を氷と傷で軋ませる。が、その勢いは依然衰えない。

●乱打戦の果て
　ドリームイーターは、メルカダンテに頭部のハンマーを大きく振りかぶり、劣勢を跳ね返してしまいそうな勢いでハンマークラッシュを叩き込むと、その一撃はヒールドローンを打ち砕きながらメルカダンテを打ちつける。だが、強化軍服『剣乱』を纏うメルカダンテは揺るがない。
「気をつけてください、ロビン」
「ひえひえの氷漬けに、してあげる」
　メルカダンテがシャウトで自身を癒しつつ半歩下がると、全力で撃ち込んだドリームイーターの隙をロビンがアイスエイジインパクトで猛烈に突き、凍結を広げて行く。
「まゆさん！今がチャンスなのですー！」
「よっさこーい！」
　続いてゆゆことまゆが今度はライトニングボルトとサイコフォースのコンビネーションでバッドステータスを積み重ねると、詩乃がまゆに気力溜めで回復をし、ジゼルカがデットヒートドライブで突撃をかけてドリームイーターを更に炎で包む。そこに満を持してリリィエルが絶空斬を放ち、凍結部分と外皮？の損傷部分を広げて行った。
『ネコマドウの十七、「猫がなければ虹はない」。二次ちゃうでー虹やでー』
『小さき天使、その麗しき御声により我が同胞を救い給え！　Neco-Cuteッ！』
　千舞輝が依頼料の50円を空へ弾けば、虹色の猫がどこやらか現れ、周囲をくるくる回って虹を描く。続いてギメリアが頭上に可愛らしい子猫の幻影を創り出すと、子猫は『にゃ～ん♪』と甘えるように鳴いた。
　すると綺麗な景色と可愛らしい鳴き声に、治しきれなかった２人の傷が癒えていく。そして二匹の猫は仲良く何処かへと消えていった。ギメリアはその光景にご満悦である。しかし、この２人、使う魔法がよく似ている。

「ハーンーマーーーーーー！！」
　だが、そんな猫達と戯れる姿にむかついたのか、ドリームイーターがボロボロの体を振り回して地面に叩き付けると、周囲のブロック塀が余波で吹き飛び、先ほどの物とは比べものにならない程の衝撃が千舞輝とギメリアを襲う。
「今回はわたくしが守る役ですね、千舞輝」
「いつか見た空に届くために。こんなただの暴力には、絶対負けない！」
　だが、その一撃にメルカダンテは決意と読みで、詩乃は勇気で割り込みをかける。メルカダンテはかつての恩を返せた事にどこか満足げだ。
『背部内蔵兵装起動、エネルギー充填完了、周囲環境クリアー。……コード・クルシス・クラスター、展開！』
　そして詩乃の肩甲骨下からA.A.code:Jewel Boxが羽のように展開し、生体部分の治癒能力を賦活する特殊な光波を放射した。放たれた光波は大気と干渉して眩く輝き、仲間の傷をみるみる癒していく。
『誰かが傷ついて、辛くなるのは……私だって辛いから……！』
　そしてゆゆこも「防傷無害の護法」を神に祈り、傷の癒しと守りの加護を付与すると、庇われた千舞輝とギメリアもサーヴァントまで総動員してニャーニャーと仲間の傷を癒していく。
『奇跡を殺せ、ルクスリア』
　皆の癒やしを受けたメルカダンテが反撃に転じる。その指先がドリームイーターの膚に触れ、まるで肌理を数えるように、まるで毒を塗り込むように、撫でる。燻り出す熱は寒気を産み、痛みは身を捩らせる。高貴な指先がまるで貫く槍の用にドリームイーターの体を抉り蝕んでいく。その痛みにドリームイーターが悲鳴のような声を上げる。
『あなたの鼓動を、たべさせて』
『一撃必砕！　全・力・全・開っ！』
　今が好機とロビンとまゆが炎の獣とCentrifugal Hammerで追撃する。右手を食いちぎられ、電信柱に叩き付けられるドリームイーター。だが、まだその動きは止まらない。
『海賊っていうのは強欲なの。狙った獲物は逃がさない、ってね♪』
　しかし、そこにリリィエルが流水のように踏み込んで、潮騒の唄を舞い踊る。「海賊の流儀」の秘奥を宿す舞踏剣技は、月光の下にまるで舞台の１シーンの様な一瞬を産み出した。
　そしてその一瞬が過ぎ去ると、ドリームイーターは動きを止め、ゆっくりと崩れ落ち、夢の欠片の常として、霞んで消えていった……。

●少年の夢
「夜になると、けっこう冷えるねえ。わ、すごい……月、きれいよ」
　ロビンが言うように、秋の夜は徐々に寒さを増している。ケルベロス達は月光の下、陽一君が目覚めたか確認する為、陽一君の家に向かっていた。
　陽一君の家に着くと、冷え込む夜に窓が打ち破られても目覚めない陽一君を両親とシロが心配そうに看病していたが、ケルベロス達が説明すると大変感謝して、一緒に目覚めるのを待つ事になった。

「あ、起きた？大丈夫？」
　陽一君が目覚めると、リリィエルが声をかける。目が覚めたら突然綺麗なお姉さんに話しかけられた陽一君はドギマギしていたようだが、両親にケルベロス達に助けられた事を教えられると、怖がるどころか大喜びし始めた。特に名声の高いリリィエルとロビンは顔を知っていたらしく、陽一君は大興奮だ。
　その笑顔は、無辜の民が傷つけられなかった証拠でもある。メルカダンテは満足と共にその笑顔を見つめていた。
　そして、まゆが水を向けると、陽一君はケルベロス達の活躍をいつもＴＶで見ている事、そして自分もヒーローになりたい事を一生懸命語ってくれる。だが、まだまだ普通の子供で危なっかしい。まゆとゆゆこは、ケルベロスの活動は命懸けで真似をすべきでは無い事。せっかく両親が健在なのだから、心配させてはいけない事をキチンと言い含める。
「そうそう、今はまだ転がってくるタルを殴り壊すハンマーで十分や」
　少ししょんぼりしてしまった陽一君を千舞輝が冗談めかして慰めるが、陽一君にはネタが通じなかったようだ。ショックを受ける千舞輝を火詩羽が結構ガチで慰めている。
「それにしても、陽一殿が無事で良かった。シロにゃんも……シロにゃん可愛い！」
　ギメリアも慰めるが、あまり役に立っていない。ヒメにゃんのジト目もどこか厳しい。
「何があっても真っ直ぐ折れずに立ち向かえば、きっといつか届くんだよ！」
　そこに詩乃が声をかける。彼女の真っ直ぐな瞳に何かを感じたのか、陽一君は少し元気を取り戻して、ちゃんと危ない事はしない事と、両親に心配をかけない事、そしてもうシロちゃんを叩いたりしない事を約束してくれた。

　陽一君の家を辞去した後は、戦闘跡の片付けだ。
「ちまき、がんばって働いてちょうだいね」
「前も言ったけど、『明日やれる事は明日やる』がウチの持論なんやけどなぁ」
　サボろうとしていた千舞輝は、ロビンと火詩羽に突っ込まれて渋々片付けをする事になり、メルカダンテと詩乃もそれを手伝う。そしてリリィエルとギメリアは楽しそうに、まゆとゆゆこは仲良く、皆で街を治していく。

「サルーンにでも、寄っていこうか。……まだやってるかな。みんなも、どう？」
　そして片付けの後、ロビンの誘いに皆は頷いて、街のどこかへ賑やかに歩いて行った。

　一つの事件が終わり、少年の小さな夢は守られた。これはそんな物語。

作者：ルクス	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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