ド素人の劇はやるだけ無駄?

作者:質種剰


 町の公民館。
「……誰っ!?」
 暗い舞台の上、スポットライトの白い光を浴びて寝台の上に寝そべっていた女性が、緊張した声を出す。
「静かにして下さい、奥さん」
 ベッドの奥に設置されている大道具の窓が開き、男が縁を跨いで現れた。
「大家さん……」
 戸惑って掛け布団を胸まで引き上げる女性。
「こんな時間に家賃を取り立てに来た訳じゃないのは、分かりますよね?」
「いやっ、やめてください……じきに主人が帰ってきます!」
 緊迫感と背徳感の入り混じった遣り取りを、不意に鋭い声が破った。
「ストップ。奥さんはセリフに集中して抵抗がおろそかになってるわ。もっと全身でもがいて激しく抵抗して」
「はいっ」
「大家ももっと悪党っぽく全力で襲いかかって!」
「はい!」
 監督らしき女性が演技指導をする。公民館の入り口には、『町民文化祭の演劇練習中』とある為、全員素人なのだろう。
 すると、
「素人の演劇なぞ見るに耐えんッ!」
 大勢の配下を従えたビルシャナが、雪崩れ込むように公民館へ乱入、劇の練習をぶち壊した。


「……ある意味では、続きが気になる劇だな」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が、ニヤリと下卑た顔になって呟く。
 彼こそが、『ド素人の演劇絶許明王』の存在を突き止めた功労者である。
「京都府の公民館へ、ビルシャナが配下を連れて襲撃をかけると判明したでありますよ」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)も、楽しそうに頷いてから説明を始める。
「公民館へ乱入するビルシャナ、『ド素人の演劇絶許明王』が語る教義は、素人が舞台に立つ演劇を何が何でも認めない主義なのであります」
 つまり、大変個人的な主義主張を掲げるビルシャナが、個人的に許せない相手を力でねじ伏せるべく今回の凶行に及ぶという――全くもって迷惑極まりない。
「また、明王の主張に賛同している一般人16名が配下となってるであります。明王が教義の浸透よりも異端者狩りを優先しているせいか、彼らの洗脳を解ける可能性は、まだ充分にありますよ」
 それ故、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を元の一般人へと戻し、無力化する事ができる。
「明王の配下は明王が倒れるまでの間戦いに参加してきますが、明王さえ先に倒してしまえば正気に戻るので、救出できるであります」
 しかし、配下が多いまま戦闘に突入すれば、それだけ厳しい戦いとなるので注意が必要だ。
 明王より先に配下を倒してしまうと往々にして命を落としてしまう事も、決して忘れないで欲しい。
「ド素人の演劇絶許明王は、ビルシャナ閃光と浄罪の鐘で攻撃してくるであります」
 理力に満ちたビルシャナ閃光は、複数の相手にプレッシャーを与える可能性を持つ遠距離攻撃。
 敏捷性を活かした浄罪の鐘もまた、射程が長い上に複数人へダメージをもたらし、稀にトラウマをも具現化させる。どちらも魔法攻撃だ。
「16人の配下は、パイプ椅子を武器代わりに殴りかかってくるであります」
 もっとも、説得にさえ成功すれば配下は皆正気に戻るので、ビルシャナ1体と戦うだけで済むはずだ。
「配下達は、ド素人の演劇絶許明王の影響を強く受けているため、理屈だけでは説得できないであります」
 そこまで説明して、にっこり微笑むかけら。
「皆さん、『即興劇』に自信はおありでありますか? ここは、実際に『全員で1本のオリジナル劇を演じて』配下の皆さんを圧倒してしまいましょう♪」
 冒険活劇、サスペンス、コメディー、恋愛物——ジャンルは何でも良いが、配下を本気で感動させようと意気込むよりは、思わず噴き出すようなギャグタッチに徹底した方が、心から劇を楽しんで貰えるだろう。
 ド素人の演劇絶許明王は何より異端者を敵視しているため、ケルベロス達が『素人でも面白い演劇は出来る』とでも断言すれば、演劇を酷評する為に襲撃の手を止めるだろう。
 今回は、明王達が襲撃を行う公民館へ先回りして、彼らを待ち構えて説得及び戦闘を仕掛ける流れだ。
「それでは、明王の討伐と配下の方々の解放、宜しくお願い致します〜」
 深々と頭を下げるかけらだった。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
テオドール・クス(渡り風・e01835)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
オルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)
空舟・法華(回向・e25433)
エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)

■リプレイ


 公民館。明王と配下達が突撃してきたのを皮切りに、即興劇の幕が上がる。
「これより始まるは正義と悪の楽しい毎日。だけど本人たちは大真面目ッ!」
 ナレーションを務めるのはユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)。モブ役も兼ねている為、今は女子高生の風体だ。
「笑いあり涙あり昼ドラありバトルありの何でもあり! 決して損はさせないわッ!」
 自信に溢れた表情で啖呵を切り、明王達の足を止めるも、
(「人前で何かするの、苦手なのよね。人前で何かする人を見るのは、結構好きなんだけど」)
 元々生真面目な性質であるユスティーナは、これから始まるドタバタ劇へ自分もテンションを合わせなければ——といささか緊張気味だ。
 ドサッ!
 そんな彼女の背後へ空から墜ちてきたのは、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)。
「彼は天使だ。天界にて美少女天使へおっぱいダイブをかまして蹴落とされ、地上へ追放された堕天使——いいえ堕ちた天使なんて格好良いもんじゃない。駄目天使の駄天使だ」
 早速おっぱいなどと言わされるユスティーナが気の毒だが、現に蒼眞は役作りと称しヘリオン内で小檻の乳を散々揉み倒してきた。
「駄天使は地上でも女の体を求め暗躍を始めた。時を同じくして」
 蒼眞が上手へ捌けてすぐ、空舟・法華(回向・e25433)が下手から出てきた。
「私の名前は法華(のりか)。いわゆる普通の女子高生! 普通に恋もするし、普通に悩みだってあります」
 凛と声を張って自ら状況説明してから、法華は悩ましげにへたりこむ。
「かけらちゃんの言った通り、うちのお母さんはやっぱり大家さんと……」
 どろどろした昼メロ要素をぶっ込むのは、町民文化祭の出し物の劇の流れを汲んであげたいと思う優しさからだ。
 溜め息をつく法華の後ろ、即ち下手からもう1人、同じ制服の少女が現れた。
 エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)である。
「わたしは学園に通う女子高生のエマ。実は正義の味方だけどみんなにはナイショだよ!」
「いやいや大声で言っちゃってるじゃん! 通行人に丸聞こえだろ!」
 と、鋭いツッコミを入れるのは久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)。法華やエマと同じ制服だ。
「でもでも最近法華ちゃんの様子が変なの……これは事件の背後に悪がいるに違いない!」
「全然聞いてねぇし! しかも勝手に事件と決めつけてるし!」
 ぐっと拳を握るエマの頭を、航はどこからか取り出した巨大ハリセンでシパーンとシバいて。
「先行くぜ、遅刻するなよー」
 思う存分ツッコめて満足したのか、悩む法華をも追い越してスタスタ歩いた。
 すると、
「ほげ〜っ!?」
 突然、上手より走り込んできた蒼眞が法華を押し倒す。
 ガシャン!
 彼の背中に植木鉢が当たるのを見て、法華が目を見張った。
「ヤバっ」
 蒼眞は下から視線を向けられると、バツが悪そうに慌てて立ち去る。
「植木鉢が当たらないよう庇ってくれるなんて、何て良い人なの!」
 と、提げていた学生鞄の中から便箋を取り出し、手紙を書く法華。
「助けて頂きありがとうございました、と……いやぁん、どうしよう! 住所と名前聞いてない!」
 せいぜい女子高生らしく振る舞うも、さっきの間抜けな悲鳴だけは取り消せない。
「あ、学生証……きっとあの人のね!」
 法華はそれを拾うと、手紙と一緒に彼の自宅へ投函すべく歩き出し、袖へ消えた。
「それにしてもうちと同じマンションだったなんて偶然だわ♪」
 うきうきした声を追いかけるエマは、
「くっ、折角わたしが法華ちゃんを格好良く助けて、ついでに悩みを聞き出すチャンスだったのに!」
 航が落としたハリセンを膝で何度もへし折り悔しがった。
 エマが上手へ捌けるや、すぐにまた蒼眞が現れる。
「しまった、まさか女子高生のおっぱいを揉もうとしただけで、脅迫状が来るとは……」
 手にした法華の手紙におろおろ狼狽えるも、すっくと立ち上がり、
「一体幾ら払えば……そうだ」
 蒼眞が上手へ駆け込む。
 すかさずユスティーナとガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)が、今の道路のセットを撤収、銀行の店内に見えるよう大道具を設営した。
「金を出せ!」
 銀行へ入るなり叫ぶ蒼眞。当然店内の客——まだ出番の無い仲間達が役を兼ねている——が騒ついた。
 カウンターの内側で札束を手にしていたユスティーナへ、蒼眞が刃物を突きつけて迫れば、
「あわわわ、どうぞどうぞ……!」
 目を回しそうに懼じ怯えて、札束と大金入りのバッグを差し出してきた。
「待て!」
 意気揚々と出入り口へ向かう蒼眞の前に、立ちはだかるのはガイバーン。
「ちっ、警備員か!」
 蒼眞が一瞬の内にガイバーンを叩き伏せるや、何故か店内は拍手喝采。
「何だ?」
 不思議に思う間もなく、パトカーのサイレンが聞こえてきた。ユスティーナとガイバーンが演じている間の音響は、袖にいる仲間が交代で行う為に気が抜けない。
「マズいな……」
 またも慌ててその場から逃げ出す蒼眞。札束とバッグは仕方なく店内に放り出して。


 次の場面は教室。
「翌日」
 ユスティーナが自分も席へ着きながら、しっかり視線は第四の壁もとい明王と配下達に向けて言った。
「ふーん、近くの銀行で捕り物があったんだって」
 テオドール・クス(渡り風・e01835)と新聞を広げている。
「何々?」
 彼の前の席の航が身を乗り出した。
「『謎のヒーローが銀行強盗を退治してお礼も受け取らずに去っていった』って、勇気のある人もいるもんだよねー」
「へぇぇ。普通は怖くてできないよなぁ」
 2人が話していると、奥の廊下を歩いていた蒼眞が身を乗り出してきた。
「おはよう。銀行強盗がどうしたんだ?」
「おはよう蒼眞! 見て見てこれ、凄くね?」
 蒼眞へ見やすいように新聞を広げるテオドール。
「日柳さんおはー」
「ふむ……」
 蒼眞が新聞の記事にざっと目を通すや、礼を言って歩き始めた。
 すかさず背景に暗幕が張られ、彼に懐中電灯のスポットライトが当たる。舞台上ではない中での窮余の演出だ。
『謎のヒーローばかりに良い格好させてたまるか! 俺も悪の道を極める為に、もっと大胆な行動に出た方が良いかもしれんな……』
 蒼眞の心境を表すエコー付きの音声が流れるのへ続けて、ユスティーナが言う。
「彼は新聞に取り上げられた謎のヒーローが、まさか自分の事だとは知る由もなかった」
 スポットライトと共に蒼眞が下手へ去ると、次は上手にパッと光が。
「あやちゅめ、銀行強盗を仕掛けて人に感謝されりゅとはどういう了見じゃ」
 黒いレオタードの上に胸当てとマントを着けて、いかにも悪の女幹部風に着飾ったオルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)である。
「やれやれ、自分は天使だの何だの言う壊れっぷりを信用して雇ってみたものの、泳がしておいても役に立たにゅか……ならば、直接こきちゅかうまでじゃな」
 オルファリアは意味深に笑って袖へ入った。
 再び場面は教室内に戻る。
「悩みがあるって? オレがクラスメイトの為に一肌脱いじゃうぜ!」
 もじもじしている法華を前に、テオドールが自信満々に胸を張る。ユスティーナのナレーションも入った。
「この、誰とでも仲が良く明るい男子生徒はテオドール・クス。実は悪の秘密結社オリュンポスの下っ端にも拘らず、野望を忘れそうなほど高校生活をエンジョイしている」
「法華ちゃん、わたしたち友達じゃないの。この正義の味——じゃなくて、親友のエマが、あなたの悩みをたちどころに解決してみせるわ!」
 エマも親身になって法華へ言い募った。
「あ、まだ正義の味方って秘密を隠せてるつもりなんだ……」
 航が苦笑いしながらツッコむ。
「あの……あのね。実は、うちのお母さんとアパートの大家さんが不倫してるみたいなの……」
 法華は泣きそうな様子で説明した。
「不倫!?」
 聞いていた3人の声が重なる。
「何か証拠はあるのかい?」
「さあ……私は大家さんの顔を知らないから……でも友達が、お母さんを見る大家さんの目が怪しいって……不倫って何かな?」
 こてんと首を傾げる法華。
「意味解らないで言ってたの!?」
 これには航のみならず、テオドールやエマも声を合わせた。
「いや、かけらちゃんが色々例を交えて教えてはくれるんだけど、よくわからなくて」
 そう決まり悪そうに俯く法華はなかなかの演技力。
「さ〜て、一体どう説明したもんかねぇ」
 と、落ち着いた風情で思案する航も、以前から演劇に興味があった為か、実に自然な演技であり、声もよく出ていた。
 コロコロと表情を変えて喜怒哀楽を表現しているエマやテオドールは言わずもがな。皆が皆、十二分に舞台度胸を発揮していて、とても頼もしい。


 キーンコーンカーンコーン。
 本鈴を聞くや、弾かれたように全員が自分の席へ慌てて戻っていく。
 ガラッ!
 下手の奥からセットの裏に立ち、扉を開けて手前へ進み出たのは、大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)。
「フハハハ……我が名は世界征服を企む悪の―……違った……」
 教壇に立ち、いつものセリフを口走りそうになるも、慌ててゴホンと咳払いした。
「倒叙ものじゃないんだから、最初に正体を明かしてどうすんの」
 航がボソっとツッコむ。
「私は、遠く越後のちりめん問屋オリュンポスから赴任してきた正義の味方カッコ無職カッコ閉じ……大教師だ!! この乱れに乱れた学園の生徒の悩みや諸問題を見事に解決してくれようではないか!!」
 好きな時代劇要素を取り入れたカオスな自己紹介をぶちまけて、領は高らかに名乗りをあげる。
 何故に彼が教師役で登場したかと言うと、
(「ど、ど、どどどうしよう……私が正義役などと……それに、いい歳こいたオッサンが正義とか学園モノとか無理が……ハッ!? いや、アレならば……えぇい、ままよ!」)
 そんな内心の葛藤あっての苦肉の策であった。
 さて、ここでパッと法華へスポットライトが当たる。
『お、お父さん!? 今日もパチンコに行くって言ってたはずなのにどうしてここへ!!?』
 領を見るなり顔面蒼白になってブルブル震える法華の心の声だ。どうやら領が無職というのは本当らしい。
 そのせいで家計が逼迫して家賃滞納、法華の母——つまり領の妻が大家に付け込まれる隙を作った張本人、という事にもなる。
『というかお父さんが教師って本当なのかな。でもでも教師って自分の子どもの担任にはなれないんじゃなかったっけ!?』
 娘にとって父親が正義の味方であるかどうかはどうでも良いようだ。
『ああでも私さえ父子の名乗りを上げなければ、お父さんは無事に新しい職に就けて、家賃も払えてお母さんも助かるかもしれない……』
 百面相をして悩む法華を見て、エマは、
『法華ちゃん、さっきからあの新任の先生を見る目が怪しいわ……もしかして一目惚れしたのかしら』
 とんでもない誤解をしていた。
 2人が真剣に悩んでいる間にも授業は進み、
「大先生の好きなタイプはどんな人ですかーっ?」
 テオドールが新任教師に対する定番の質問を投げつけていた。
「ム、そ、そうだな。我を献身的に支えてくれる糟糠の妻……もといスーパーなメイド……いやいや」
 真面目に首を捻って答える領は演技抜きで本音を零しているふうにも見えたが、無職で遊び呆けて家賃滞納している自称正義の味方としても非常にしっくりくる返答であった。
 これも領のアドリブ力の高さの賜物であろうか。
『お父さん……お母さんのこと、そんな風に思っていたなんて』
『法華ちゃん可哀想……稀に見るスピード失恋だわ。わたしが慰めてあげないと』
 感動する娘と誤解を深める正義の味方。
 その時、劇を観ていた配下達の間を擦り抜けて、簡易舞台へ第四の壁側から飛び乗る2つの人影が。
「さて、者ども好きに暴れりゅがよい」
 悪の女幹部オルファリアとその尖兵蒼眞が、襲撃をかけてきたのだ。
「隣のクラスの日柳さんが悪の一味!?」
「ああっ、あなたは、昨日私を植木鉢から助けてくれた心優しい人……!」
「きっ、貴様は、我と同じアパートの大家ではないか!!」
 航と法華と領が同時に叫んで、互いに互いの顔を見合わせた。
「……あの素敵な方がまさか悪い人で、アパートの大家さんだったなんて!」
「法華よ。奴が昨日押し倒されたとかいう不届き者なのは本当か? 奴め、我が妻だけでなく娘にまで手を出そうとは許しておけん!!」
 困惑する娘と憤慨する父親を見てから、航は向き直って蒼眞へ言い放つ。
「つーか日柳さん属性盛り過ぎじゃね!!?」
 実に御尤もなツッコミであった。
「あーっ、オルファリアさん! どうしてここに!!」
 一拍遅れて、驚き立ち上がるのはテオドールだ。
「まさか悪の正体が同じ学園の生徒だったなんて!?」
 エマも最初こそふらふらよろめいてショックをうけていたが、
「でも、悪がのさばるのを黙って見過ごす訳にはいかないわ! へんしーんっ!」
 すぐにプリンセスモードで魔法少女っぽい格好へ変身、ステッキで蒼眞の刀をガキッと受け止めてみせた。
「俺は地上でハーレムを作るまでは断じて負けられない!」
 バキッ!
 鍔迫り合いの最中に足技を繰り出して、蒼眞はエマを蹴り倒すと、領へ向かって言い放つ。
「けれどその前に……毎日ギャンブルで金をスって妻を苦しめるような駄目親父には、一寸ばかり痛いお仕置きをしないとな……?」
 悪の手下の癖に正論で領を非難する蒼眞。
 それもそのはず、家賃滞納気味で生活の苦しい領の妻へ、蒼眞は確かに家賃を身体で払わせようとしたが。
「……毎度無理に想いを遂げようとはせず拒まれるままに撤退、それでいて、苦しい家計を見兼ねて何かと援助したりしていたのだ。もはやどちらが正義か悪か判らない」
 教室の隅で怯えつつ、しっかりナレーションもこなすユスティーナ。
「べっ、別に我は好きでギャンブルで負けてる訳じゃないぞ! 世界征服の為の資金稼ぎにたな……」
 領が本音丸出しで言い訳する最中、彼の背中にボスンと火球が当たった。
「熱ぃい!?」
「なんじゃ、味方じゃったのか。てっきり敵かと」
 魔法使いらしく杖を振るうフリでこっそり繰り出した、オルファリアの熾炎業炎砲である。
「ともあれ、まんまとおびき出されおったの。ここで始末してくれよう」
 味方へ誤射したのを気にも止めず、領と蒼眞の同士討ちは放っておいて、オルファリアはエマへ攻撃する。
「わたしは悪に負けたりなんかしない! 皆を必ず守ってみせるわ!」
 片や蒼眞と領の人目を憚らぬ罵り合いと殴り合い、片やエマとオルファリアによる可愛い美少女同士の魔法勝負。
「どうやらバレてしまったようだな? 正義の味方も世を忍ぶ仮の姿……その正体は……」
 ——世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!!
 更には、働かない父親からそんなカミングアウトを聞かされれば、
「うぅわぁぁ混沌としてきた……つーか、悪側の人間多過ぎじゃね?」
 娘の法華としては、他人事みたいにツッコミに徹する航のようにはいかない。
「こ、このままじゃ学級崩壊と家庭崩壊が同時に起こってしまう……!!」
 ただならぬストレスを溜めに溜めた法華はついに——キレた。
「あーはははははは!!!」
 ガリッとクルミの殻を歯で噛み砕き、特攻服の裾を靡かせ、意味無く舞台を駆け回るという奇行もとい非行っぷりを見せつけたのだ。
「よぉし、オレも蒼眞やオルファリアさんに負けてられな——ぶほォッ!?」
 悪の下っ端として組織の役に立つべく戦意を露わにするテオドールだが、走り出した法華とエマのライドキャリバーに真正面から轢かれて、地面に沈む。
「法華……イイ走りだったぜ」
 頭と口から血を流し、血色悪い笑顔でサムズアップするテオドール。
「まさか、マトモな戦闘シーンすらなく味方の娘にやられるとは、テオドールも思わなかっただろう」
 ユスティーナは冷静に説明しつつ、法華達の暴走へ合わせてテンポの速いハードロックを演奏している。
(「昔を思い出して、弾ける楽器があれば演奏してみようか、場面場面に合わせた曲とか」)
 そんな意気込みからBGMを密かに担当していた彼女なので、疾走感と喧しさを兼ね備えた曲も見事に弾きこなしていた。
「あぁっ、魔法少女は絶対にやらないって思っていたのに、いきなり魔法少女やってるーーー!」
 オルファリアを退却させたエマが、はっと我に返って頭を抱える。
「しかも法華ちゃんが暴走族に……こ、これはまさか悪の組織の陰謀なの!?」
 そして、突如すっくと立ち上がり、第四の壁の向こうにいる明王を指し示した。
「きっとそうに違いないわ! あいつが悪の親玉よ!」
「さぁ、であえであえ! 我が家庭の恥を知ってしまった怪人を口封じ……懲らしめてあげなさい!」
 領も自ら武器を構えて手下へ命じる。
 ケルベロス達は皆、知っていた。
 劇の後半、大家や悪の面々、正義の魔法少女に悲劇の女子高生を応援する真剣な眼差しや歓声の高まりから、配下達が明王の教義から全員解放されたと見定めていたのだ。
「そろそろ怪人がたおされりゅ時間じゃぞ」
 という訳で、悪も正義も入り乱れて明王を集中攻撃。
「ストレス解消って大事ですね!」
「フハハハ……これにて一件落着!!」
 親玉認定した明王をぶっ飛ばして、無事に劇を終えたのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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