アヒル神拳! 水面に浮かぶは死の鳥!

作者:天木一

「ヤッ! タァッ!」
 山の麓にある町。少し山に入った小川の流れる場所で、一人の少年が体操服を着てパシャパシャと足首程の浅瀬に入って手刀で水を切ったり、不格好に蹴りを放ったりしている。
「マンガで見た動物をイメージした拳法は強い! ボクも強くなるんだ!」
 少年は思い切り水を蹴ってバランスを崩し、川に尻餅をついてしまう。
「つめたっ、……沈んでも勝手に水の上に浮かんで、どんな叩いても押し潰してもびくともしないアヒルみたいな拳法なら強いはず!」
 お風呂で使う黄色いアヒルの玩具を思い浮かべ、少年は起き上がって水の上に立とうとする。そこへ幻武極が現れ対峙した。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 そう幻武極が告げると、操られたように少年は水を蹴って間合いを詰め手刀を放つ。何度も何度も叩き込むが、そのどれもがダメージを与える事は無かった。それでも少年は攻撃を繰り出して全身を叩く。それでも傷一つ付ける事は出来ず息切れした。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 もう見るべきものは見たと、幻武極は手にした鍵で少年を貫く。すると意識を失い川岸に崩れ落ちた。
 そしてその隣に、鳥の如き黄色の羽毛を持った少年のような姿の武闘家が現れる。
 武闘家は水面に立ち手刀を放つ。すると風の刃が水面が斬り裂き川を割り、その先にある木までが両断された。
「ヤァッ!」
 更に舞うように手刀を連続で放つと、その木が細切れとなってバラバラに落下した。
「我がアヒル神拳に斬れぬものなし……」
 構えを解き武道家は幻武極に視線を向ける。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 その様子を眺めていた幻武極が声をかけると、武道家は川の上を滑るように駆け出し、獲物を探しに町に向かった。

「宿敵たる幻武極が動き出しておるのじゃ!」
 付け髭を撫でながらウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が、己が敵である幻武極の動きを察知したとケルベロス達に告げる。
「武術に興味を持った少年が、自己流の特訓しているところに幻武極という名のドリームイーターが現れ、自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているようです」
 詳細な説明を資料を手にしたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が続ける。
「今回襲われた少年ではモザイクは晴れないようですが、代わりに武術家のドリームイーターを生み出し暴れさせようとしているようです」
 少年が目指す究極の武術家となったドリームイーターは、そのイメージ通りの技を使いこなし人々を襲う。
「今なら人が襲われる前にドリームイーターと接触できます。犠牲が出る前に敵を撃破してください」
 現れた川の少し下流で待ち構えれば敵と遭遇する事が出来る。
「敵のドリームイーターは羽毛を持つ少年武道家の姿をしています。その手刀は鋭い風を飛ばして相手を斬り裂き、その羽毛で覆われた体は弾力があり攻撃を跳ね返すといった特徴を持っているようです」
 見た目は子供だが、その戦闘力は馬鹿にできない。見た目に騙されれば痛い目に遭うだろう。
「場所は岡山県にある山の麓の町、その近くを流れる小川で待ち構えれば、敵を待ち伏せる事ができます」
 周辺には人気は全く無い。巻き込む心配なく全力で戦う事が出来る。
「生まれたドリームイーターはその武を示したいと考えているようです。戦う意思を見せれば喜んで挑戦を受けるでしょう。一般の人が襲われる前に、敵を撃破し眠った少年を助けてあげてください」
 よろしくお願いしますとセリカが一礼してヘリオンの準備に向かう。
「アヒルをモチーフにした拳法とはのう、これはまさにあたしへの挑戦状なのじゃ! ならば受けて立つしかないのじゃ! どちらのアヒルちゃんが上なのか思い知らせてやるのじゃ!」
 拳を握ったウィゼが付け髭を震わせながら力説し、ケルベロス達もその熱が伝わったように拳を上げ、作戦の準備を始めるのだった。


参加者
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)
アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ニンバス・ハインケル(天を砕くもの・e35216)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
簾森・夜江(残月・e37211)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)

■リプレイ

●その名はアヒル神拳
 秋に色づき始めたのどかな山道をケルベロス達は進む。
「20XX年、お風呂の遊具を起源に持つアヒル神拳と池のボートを起源に持つアヒル真拳の上半期末の覇者をめぐる戦いが始まろうとしていた……」
 付け髭を弄りながらウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)がモノローグを語る。
「というか、これはなんなのじゃ。アヒル神拳は敵が名乗っておるから知っておるが、アヒル真拳ってなんなのじゃ。まさか、アヒルちゃんミサイルお主のことなのかのう」
 疑問に首を傾げながら手にしたアヒル型ミサイルの愛くるしい顔をじーっと見つめた。
「どういった武術でも利用するドリームイーターは許せません。……それとアヒル神拳がどういう物なのかちょっと見てみたいです」
 アヒルの真似をして戦うのだろうかと、修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)は興味津々に可愛らしい拳法をイメージしてみた。
「アヒル拳、ねえ? 形意拳の亜種ってところだろうが……」
 敵の情報から戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)は凡その流派を予想する。
「いいぜ、ケルベロス相手にどこまで通じるか、俺が試してやろうじゃねーの!」
 そしてどんな相手であろうと負けはしないと、不敵な笑みを浮かべて闘志を燃やした。
 山道の先に進むと足首が浸かる程度の小さな川が見える。そこが敵を待つ場所。皆は早速戦いの準備を始めた。
「子供の遊びを武道として完成させてしまうとは恐ろしい敵です。必ずやここで止めませんと!」
 その武で被害を出させはしないと、アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)は敵を誘い出す為、川辺の岩に護符を放つ修行を始める。
「子供が考えた武術でもドリームイーターの力で強化されるとは……」
 こうなれば何でもありではないかと、簾森・夜江(残月・e37211)は額に手を当てる。
「しかし我流は己の動きに合わせたものの為、極めれば厄介なものです。是非、手合せ願いたいものですね」
 現れてしまったのなら前向きに捉えようと、我流の技を体験できる機会だと気持ちを切り替え、殺気を放って人払いを行った。
「少年の武を求める心意気や良し!」
 快活にラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)は強さを求める心を褒める。
「柔軟な発想から己が武術を模索する姿は大人でも中々真似できん。おじさんも礼を尽くし相対させて頂くぞ!」
 その純粋な心を汚さぬよう、全力をもって相手をしようと気合を入れる。
「デウスエクスにはろくでもないのが多いが今回ばかりは奴等に感謝せねばな。武道家と聞いて黙ってられるほど私は自制しないのでな、今回こそ私が望む闘争になりそうだ」
 武を競えるような敵ならば歓迎だと、竜の如き姿をしたニンバス・ハインケル(天を砕くもの・e35216)はその内に闘争本能を滾らせた。
「奴、いや彼とは真っ正面から堂々と死合を楽しみたいものだ」
 今から戦いが楽しみで仕方ないと、眼光鋭く敵を待ち構える。
「アヒル神拳は最強かもしれぬが、相手は生まれたての0歳。戦いの年季の違いというものを見せてやるわい!」
 若い者にはまだまだ負けぬと、ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)がサングラスをキラリと光らせた。

●真拳と神拳
「イィヤッハー!」
 川の上流から声がしたかと思うと、川の上を滑るように小学生くらいの少年が流れてきた。体操服から伸びる手足にはところどころ黄色い羽毛が生えている。それは人の姿をしたドリームイーターだった。
「現れましたね!」
 敵影を見た瞬間、アウラは御業から火炎を放って敵に浴びせた。
「何!?」
 スケートのように急ブレーキをかけて少年武道家は水面で静止した。
「僕達と戦って、その武を見せていただけないでしょうか?」
 その前に出て堂々と雫が勝負を申し込む。
「ほう? この我がアヒル神拳の餌食となりにきたか」
 少年がケルベロス達を値踏みするように見渡す。
「こちらのやる気は十分なのじゃ」
 ウィゼの頭の上でアヒルちゃんミサイルが仁王立ちで腕を組み、2匹のアヒルが睨み合うように対峙する。
「『戦う意思を見せれば喜んで挑戦を受ける』んだろ。さぁ、熱いバトルを始めよう。オープン・ザ・ゲート! フューチャライズ!」
 先手必勝と将が跳躍して飛び蹴りを浴びせた。それを羽毛に包まれた腕で受け流し敵は間合いを取る。
「まずは相手の手の内を探りましょうか」
 そちらに敵の注意が向いている間に、夜江は魔法の木の葉を纏って姿を隠し敵の死角に身を潜める。
「挑まれたなら逃げる事は無い。この勝負、アヒル神拳伝承者の健一が受けた!」
 ババッと鳥のように構えて貫手を放つ。その拳圧が刃となって飛んできた。
「まずはこのおじさんの相手をして貰おうか!」
 割り込んだラジュラムは純白の刀身を持つ刀を抜き打ち、迫る刃を払った。
「見た目が子供だが、その武は本物。心が踊る闘争が行えそうだ」
 それを見て口の端を上げたニンバスは、闘気を発して踏み込みその炎を帯びた拳を胸に打ち込んだ。それを咄嗟に肘で受けた健一は、舞うように首を狙って手刀を放つ。
「へいドリームイーター! そのアヒル神拳とやら……わしの若返り神拳(嘘)とどっちが強いか勝負じゃ!」
 呼び掛けたソルヴィンは一瞬だけ若返って、その身から天をも貫く気を放出する。それに呑み込まれた敵は雁字搦めになったように停止する。
「こっちも全力を出す、そっちも自慢のアヒル拳ってのをたっぷり披露してくれよな!」
 駆けて間合いを詰めた将は炎を纏って回し蹴りを放った。
「舐めるな!」
 健一の体を覆う黄色いゴムのように柔らかな羽毛で打撃は吸収され弾き返す。
「それがアヒル神拳ですか……、なかなか興味深い動きをしますね」
 その動きを観察しながら、雫は剣を地面に突き立て光で星座を描き仲間達を守護する。
「しなやかな羽毛も燃えれば失せ、凍れば砕けます」
 アウラは氷の騎士を召喚し、その手にした巨大なランスで敵を貫く。傷口から凍結され氷に包まれる。
「羽毛が衝撃を吸収するならば、ひとつ残らず毟ってやるわい!」
 ソルヴィンは腰を支えるスライムを棒状にして振り抜き、敵の露出した首を打ち据えた。
「ヤァッ!」
 首を赤くしながらも健一はすぐさま反発を利用して反撃し、ソルヴィンの腹を貫手で刺す。
「なかなかアヒルちゃんらしい動きをするものじゃ」
 ウィゼは小型ドローンを幾つも飛ばし、敵の攻撃の邪魔をして仲間を守る。
「トリッキーで読みづらい攻撃だな」
 ならば速度で押し切ると、ラジュラムは刀に雷を宿して閃光の如く胴に突き入れた。そして反撃が届く前に距離を取る。
「まずは一太刀」
 背後から忍び寄った夜江は刀に光を纏わせ斬りつけた。傷つけた背中に蒼い閃光が流れ体を麻痺させる。
「よく映画などから技術を飲み込んでいるな、特殊ではあるがよく鍛え上げた技を遣う」
 その隙を見逃さずにニンバスは鋭い蹴りを脇腹に叩き込んだ。
「アチャー!」
 怪鳥音を上げて健一は水面を蹴ってアヒルの如く跳躍した。そして手刀を振り回し斬撃を浴びせる。
「動きはコミカルですが威力は本物です。油断は出来ませんね」
 雫は御業を呼び出して自らの体に纏わせ攻撃を受け止める。
「拳ならそちらが上だが、足技なら俺の方が上だ!」
 水面に着地したところへ将はローキックで相手の足を止め、更に撥ね上げるような蹴りで顎を捉えた。敵は勢いのままくるりとバク転して衝撃を受け流す。
「水面での戦いが得意なようですね、では氷の上ならどうでしょうか」
 そこへ夜江は冷気の渦を放って敵を水面ごと凍りつかせる。すると敵は足を滑らせてバランスを崩した。
「ホントはわしは体を張るタイプではないのじゃがのう。魔法使いじゃよ? わし。その証拠に、ほうれ! ドラゴニックミラージュ!」
 懐に入ったソルヴィンはムキムキの体から零距離掌底を叩き込んだ。その熱量に羽が燃える。
「これだけの攻撃を受ければ、その自慢の防御も綻び始めたようですね」
 続けてアウラも炎を浴びせて燃やすと、黄色い羽毛が焦げ柔軟性を失い始めていた。
「我が拳は炎を切り裂き岩をも貫く!」
 手刀を振るって炎を吹き飛ばし、間合いを詰めて貫手を放つ。
「岩をも貫くか、だがこちらの貫手は鉄をも貫く。見せてやろう」
 ニンバスは貫手を放ち、その鋭い竜の爪を伸ばして敵の胸を斬り裂いた。だが同時に敵の貫手も脇腹に突き刺さり、互いに血を流す。
「少年の理想が詰まっているだけあって手強いな!」
 入れ替わるように間合いに入ったラジュラムは、その傷口を狙って刀を振るい刃が深く傷を抉った。
「アヒル真拳とアヒル神拳。どちらが強いか見せてやるのじゃ!」
「アヒル神拳は最強無敵の拳!」
 アヒルちゃんミサイルがふんぞり返ってやれっとばかりに嘴を向けると、大きく踏み込んだウィゼは大地を踏み砕くような蹴りを叩き込む。その一撃を胸に受けながら健一もまた貫手でウィゼの肩を抉っていた。

●覇者の拳
「ふーはーー」
 健一は呼吸を整えその身を新たな黄色い羽毛で覆う。
「他の人が安心して戦えるようにするのがメディックの努め。それを全うしてみせます!」
 こちらも態勢を整えようと、雫は星座の力で仲間を守り体を癒していく。
「その身を守るアヒルの羽、全て毟り取ってやるのじゃ!」
 助走をつけてウィゼは回転しながら飛び込み、正面からぶつかり敵の羽毛を巻き込んで舞散らした。
「アヒル神拳なんのその! 羽毛を毟って丸裸にし、焼いて北京ダックにしてくれる!」
 さらにソルヴィンは炎を己が身に纏い、突っ込んで敵を吹き飛ばした。
「チェァー!」
 健一はババッと腕を複雑に動かしながら、連続で貫手を放つ。
「形意拳の斬撃主体……予想通りだな。手の内を見透かされてる間は二流だ!」
 攻撃を待っていた将は炎を帯びた足を蹴り上げてその手を弾いた。
「そこです!」
 そこへアウラは弾丸を生み出し、敵の脚にぶつけて一瞬にして凍らせた。
「夜江さん、お願いします!」
 アウラが隙を作ったところへ、夜江が跳躍し頭上を取る。
「一気に押し切ります」
 夜江は星のオーラを纏わせた蹴りを見舞い、敵を川に薙ぎ倒した。
「ホゥワー!」
 飛び起きた健一は手刀を縦横無尽に振るう、それをニンバスが己が身を盾にして受け止めた。
「血が猛る……もっと力を見せてみるがいい!」
 全身から血を流しながらもニンバスは蹴りでその連撃を食い止め、そして拳を顔面に打ち込んで仰け反らせた。
「さて、ここからが本番だ」
 ラジュラムは紅葉の風景を生み出し、心癒すと共に花びらのように桜色した地獄の炎でニンバスの傷を消し去る。
「アヒル神拳に……敗北はない!」
 闘気を漲らせて健一はアヒルのように構える。そして幾重にも手刀を振るう。
「その技は2度目だ、見切ったぞ!」
 それに合わせてラジュラムは刀を斬り上げ、鋭い刃が左腕を中ほどまで切断した。
「子供の姿をしていようとも油断も手加減もしません。ここで倒させてもらいます!」
 雫は敵の頭上に雷雲を生み出し雷を落とした。衝撃に敵は体を麻痺させ動きが止まる。
「地獄よ。我、我が身を門として汝を引寄(ドロー)せん!」
 アウラは巫術の残滓を手の中でカードの形に凝縮し敵に投げつける。カードは地獄に崩壊しながら敵に吸い込まれ、その内部で力を解放し大爆発を起こした。
「我がアヒルの体は無敵、どんな攻撃も弾き返す!」
 傷つきながらも健一は羽毛を纏って立ち上がる。
「さァ、詰め手だ。フューチャーカード、ライズアップ! 今日のカードは『竜拳聖 バハ』! あらゆるものを砕く無敵の拳聖だ」
 カードを引いた将の体が光に包まれ、そのカードに載っているキャラクターの姿に変身する。
「くらいな! 秘技・雷光昇竜脚!」
 派手な演出で雷光を帯びた足が竜巻のように蹴り上げられ、受け止めた相手をそのまま持ち上げて宙へと飛ばす。
「……演出演出。バトルはいつでもカッコよくね?」
 軽口を叩きながら更に跳んで将は飛竜の如く下から蹴り上げた。
「わしの……俺の士魂天破衝を食らいやがれ!」
 若返ったソルヴィンは眩い程の気の奔流を放ち、周辺の岩を砕き川の流れを変えた。
「……ちと久々なもんで加減を間違えたわい! ふはは!」
 笑って誤魔化しながら濁流に流されるような圧力で敵を縛る。
「我が刃、雷の如く」
 跳躍した夜江は蒼き光を纏う刀を振り下ろし、落雷の如き一撃は袈裟斬りに真っ赤な傷を刻んだ。
「我が拳に宿りし降魔の力よ、己が前に立つ猛き者を屠り、喰らい潰せ」
 落下してくる敵に向かい、ニンバスは両手の掌打を放ち眉間と心臓を打ち抜き、同時に魂を引き千切るように奪い取る。
「アヒル神拳は覇者の拳なり!」
 よろめき気力だけで拳を構える健一の前にウィゼが立ち塞がる。
「これがアヒル真拳奥義なのじゃ!」
 ウィゼは頭のアヒル型ミサイルを発射し、真っ直ぐに飛翔した黄色いアヒルの嘴がドリルのように胸を穿ち、背中から飛び出て風穴を空けた。
 力を失った体は川に膝をつき、跡形もなく消滅してしまった。

●強さ
「アヒルをモチーフにした拳法か、なかなか面白い敵だったね」
 全力を出し切った将は満足そうに笑みを浮かべて山を登る。川に沿って上流へ向かうと川辺に眠る少年の姿があった。
「あれ? 確か修行中で……」
 介抱され目覚めた少年にケルベロス達は事情を説明する。
「あなたの生み出した武人は、手強い相手でしたよ」
「本当!?」
 夜江の言葉に嬉しそうに少年は跳ね起きる。
「君の思い描いた拳は重く、強かった」
 闘争を終えて傷ついたままのニンバスは、この傷がその証だと少年に伝える。
「それにしてもよくあの武術を思い付きましたね」
 感心したように雫が少年に声を掛ける。
「どんな武術をモチーフにしてるんだ?」
「えーっと、カンフー映画を真似て練習してたんだよ。それに玩具のアヒルの能力を混ぜてみたんだ!」
 ラジュラムが少年に尋ねると、快活に返事をした少年が動きをしてみせる。
「素晴らしい着眼点ですね……手強い使い手でした」
 安心させるように穏やかにアウラが声を掛ける。
「でも、それは武術の基礎を修めてからやるものですよ」
 アウラの言葉に少年は騒ぎになってごめんなさいと謝った。
「水鳥の如き美しいアヒル神拳じゃが……狡猾な猟師には勝てぬようじゃ。鞍替えするかの?」
 ニヤリとソルヴィンが笑うと、少年は興味深そうにどうすれば強くなれるかを尋ねる。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、これでアヒル真拳こそが上半期末の覇者と確定したのじゃ!」
 ウィゼの頭の上でこれでもかと胸を反ったアヒルちゃんミサイルは、全て自分の手柄のように偉そうにしていた。
 その様子に少年も仲間達も笑みを浮かべ、山中に楽しそうな笑い声が響いた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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