「やはりー、ありましたかー」
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の眼下には、モザイクに包まれた山村が広がっていた。
ワイルドスペースの噂を知ったフラッタリーは、自らも何かに導かれるようにして、この地にたどりついたのだ。
モザイク内に進入したフラッタリーを迎えたのは、家や木々が分解され、デタラメに再構築されたような風景。
空間を満たす粘っこい液体を押しのけるように進んでいくと、不意に人影が立ちはだかった。
「このワイルドスペースを発見したのか……この姿に縁があるとでも……?」
フラッタリーの姿によく似た『そいつ』は、手元に大剣を出現させる。
「存在を知られた以上、生かしては帰さん……」
「死にに来たつもりはー、ありませんよぉー」
襲いくる『そいつ』に、フラッタリーは応戦する……!
このたびのセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の招集は、急を要する類のものであった。
「先ごろ存在が発覚した、ワイルドスペース。その調査に向かっていたフラッタリーさんが、ワイルドハントと接触したもようです」
ドリームイーター・ワイルドハントは、長野県の小さな山村をモザイクで覆っている。詳細こそ未だ不明だが、内部で何らかの作戦が行われている事は疑いない。
「このままでは、フラッタリーさんの身が危険です。幸い、ワイルドハントを調査する人達のフォロー準備は整えてあります。すぐにフラッタリーさんの救援に向かい、このワイルドハントを撃破してください」
戦闘が行われるのは、モザイク内部、ワイルドスペース。粘性の液体に満ちた特殊な空間ではあるが、呼吸を始め、ケルベロスの活動に支障をきたす事はない。
「今回のワイルドハントは、フラッタリーさんの暴走状態の姿をしています。ですが、あくまで外見を写し取っただけのようですので、戦闘能力に関してはフラッタリーさんとは異なるものです」
ワイルドハントの武器は、一振りの大剣。
殴り、潰すように剣を使うフラッタリーとは違い、鋭い斬撃を得意とする。また、額からほとばしる紅のオーラで、離れた相手をも狙い撃つ能力を有している。
「ワイルドハントは、ワイルドの力に関して発覚する事を恐れているようです。不明な点は多いですが、まずはフラッタリーさんの救出をお願いします」
頭を下げるセリカ。目指すは、モザイクに覆われし山村だ。
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045) |
セフィ・フロウセル(誘いの灰・e01220) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093) |
斑目・黒羽(時代遅れの風来坊・e14481) |
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168) |
●モザイクの村
「……ここが、噂の場所か……」
ヘリオンより山村へと降り立った斑目・黒羽(時代遅れの風来坊・e14481)の目の前に、モザイクによる結界が広がっていた。
だが、迷うことなく、内部へと突入する一同。この中に救うべき同朋がいるからだ。
「フラッタリーさんはどちらに……!?」
オラトリオの翼を羽ばたかせ、上空からフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の姿を探すアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)。
一方、ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)も、竜の翼にて空より村を見渡す。
飛空する2人を地上から追うのは、四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)だ。
「ワイルドハント、その存在に興味は沸きますが、今はフラッタリーさんを守ることが大事ですね」
「絶対にお助けしましょう、どうか無事でいて下さい!」
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)や土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)が、つきまとうような独特の空気を突っ切る。
前衛芸術めいた世界……もっとも、これがワイルドハントの芸術性が生んだものであるとは到底思えない。あるのだ。ケルベロスに隠しておきたい秘密が。
ワイルドハントとフラッタリー、二者が既に交戦状態にあるのならば、当然あるものが生じる。音や光……グラビティのぶつかり合いによる余波だ。
それらを頼りに、ねじれた景色の中を駆けるセフィ・フロウセル(誘いの灰・e01220)の内心は、焦りに満ちていた。危機に晒されているフラッタリーを、同じケルベロスとして放っておけはしない。
「あれは……皆さん、あちらです!」
やがて、上空のウォーグから声が飛んだ。そのスナイパースコープが、明らかに人為的に破壊された一角を発見したのだ。
痕跡は、村の奥へと続いている。ならばその先に、
「フラッタリーさんがいるはずです!」
●写し身と相対す
「野干ヨ吼エヨ、切リ刻メ。吾諸共デ在ラフトモ」
狂気の笑みをこぼしながら、フラッタリーが鉄塊剣を振り回す。
その挙動は、暴走姿のワイルドハントの剣筋がまっとうに感じられるほど、獣じみたものだ。
一方で、その戦技からはクレバーさもにじむ。己の攻撃は必中に導き、相手の刃は見据えてかわす。
「押しているのはこちらのはずだ……!」
姿だけとはいえ己自身相手、しかも一対一という状況すら楽しんでいるかのようなフラッタリーに、ワイルドハントが苦い表情をのぞかせる。
こんなモノに出会ったのも、盆に故郷の墓参りに行ったからか。もっとも、それを滅ぼした当人の写し見が出たのは皮肉な意趣返しだけど、偽物ではお供えにならないな……ぼんやり思うフラッタリー。
何度目かの打ち合いの後、地上で花火が炸裂した。花を咲かせたのは、ワイルドハントの体。フラッタリーの地獄の炎が火種だ。
だが、身を焦がす炎を、剣気で吹き飛ばすワイルドハント。
「これで終わりだ」
姿の主とは異なる構えを取ると、無数の斬撃がフラッタリーを刻んだ。
それでも、フラッタリーはまだ立っていた。だが、次に同等の技を喰らえば、変容した大地を寝床にすることになるやもしれぬ。かわせるか。
「お前を消せばこの地が知られる事はない……」
だがその時、ワイルドハントの足元が弾けた。
視線を向ければ、攻撃の主である黒羽がいた。
「よぉ、まがい物……」
「ケルベロス!? おのれ、既に外部に連絡を付けていたのか? それとも……」
剣で黒羽の攻撃を弾きながら、周囲を見回すワイルドハント。
竜翼を畳み、地上から戦場を目指していたウォーグや、リコリスが合流してくる。
「お2人のとこ悪いけど、お邪魔させてもらうよ。まがい物には、ご退場願わなきゃね……」
鞘で相手の剣を受け流し、幽梨が日本刀『黒鈴蘭』を振るう。間隙をぬい、仲間に送った視線で『今のうちにフラッタリーさんを』と訴える。
更に、灰焔の魔法剣士・セフィのドラゴニックハンマーが、ワイルドハントを牽制する。
「悪いが此処から先は通させない!!」
サキュバスの翼を雄々しく広げ、敵を阻むセフィ。そのかたわらでは、ボクスドラゴンのシルトも威嚇するように牙を剥いている。
「派手に周りの建物を壊してくださったおかげで、すぐに見つけることができました!」
望遠鏡を手に飛来したアリスが、フラッタリーの傷の具合を確かめる。
「フラッタリーさんの姿を模したようですが、関係あるのはその姿だけなのですか!?」
「ケルベロスに情報は渡せない。たとえ口を封じるとしてもな!」
リコリスの問いを一蹴するワイルドハント。だが、余裕のないその反応が、この地の重要さを物語っているともいえる。
黒羽らが注意を引き付ける間に、フラッタリーの応急処置に取り掛かる岳。緊急にして強引な処置ではあるが、ウィッチドクターによるものだ。効果に問題があろうはずもない。
「もう大丈夫です」
「ここまでおいでくださりー、感謝しますー」
束の間、普段の口調に戻るフラッタリー。
ここからは、共闘の時間だ。
●狩る者、狩られる者
態勢を立て直すフラッタリーへ、リコリスが魔導書を手に駆け寄った。リコリスの意志に従い、ひとりでにめくられたページが、癒しの術法を示す。それは、フラッタリーの脳 細胞を活性化させ、活動可能なレベルまで引き上げていく。
「やむをえん、全員を始末するしかないか」
自らを包囲するケルベロスを見て、物騒な言葉を口にするワイルドハント。
そこへ、ウォーグが突撃する。羽ばたく翼にまとわりつくような空気に違和を感じるものの、支障をきたすものではない。
「小竜ごときが!」
ボクスドラゴンのメルゥガを押し返そうとするワイルドハントに、ウォーグの聖槌が打ち付けられた。受け止めた敵ごと振り切ると、元は電柱だったとおぼしき物体へと叩きつけた。
「嫌なもんだねぇ、そっくりさんってのは」
そう告げる幽梨自身も、己の顔を持つ相手を葬った事がある。その時の心情を思い返しながら、刀でゆるやかな軌跡を描く。
機先を制して離脱したつもりのワイルドハントが、がくりと体を震わせる。幽梨に腱を断たれたのだ。
「失われた時の力を以てしても他者の姿を借りてしか現れることができないとは、お可哀想に」
岳が、仲間の回復を続けながら、告げる。
「モザイクを消すために他者のそれを求める事しかできないというドリームイーターさんの本質は変わりようがないのでしょうね。せめて倒す事で、その定めから解放しましょう」
「ワイルドハントさん……なぜ私達ケルベロスの暴走姿を模しているんですか……!?」
掌に炎を収束させながら、アリスが問う。
しかし、ワイルドハントの返答は、迅雷の刃。
金の髪を数本断たれながらも、アリスの反撃の準備は出来ていた。
剣を振り切った敵に炎塊を叩き込む。その火勢は強く、アリス自身にも熱風が吹き付ける。
ケルベロス達の猛攻を受けるワイルドハントが、次に狙いを定めたのは、回復役だった。
額よりほとばしる赤き地獄を収束させると、真紅の雷と為して、岳の身を打つ。
「回復などさせぬ」
だが、そんなワイルドハントの声は、竜のいななきに掻き消された。セフィの竜砲が、ワイルドハントの踏み込みを阻むように地を砕く。シルトが属性力を岳に注いでいる間に、セフィが狙いを定めていたのだ。
舞い散るがれきを振り払うワイルドハントへと、神経を集中させる黒羽。
「さあ、デスダンスを踊ってくれよ!」
他の仲間にワイルドハントの注意が向けられている隙に、遠隔より起爆すると、敵の体が無様に跳ねた。
●決着と謎
ワイルドハントの攻撃力は、脅威の一言に尽きた。
だが、攻めに特化した戦闘スタイルには、付けこむ隙も多い。
何より、ここまでの交戦でその体は、ケルベロス達から受けた炎や氷にさいなまれている。部分的に石化した脚も、十全に機能しているとは言い難い。
だが、ワイルドスペースを秘匿するという使命感でもあるのか。なおも、攻めの手を緩ませることはない。
その時、リコリスの足元を起点として、周囲の景色が書き換えられていく。インクとなるのは地獄の炎。
リコリスによって、束の間支配された空間は、遊戯盤を模したものとなる。その力は限定的ながら、盤上に立つ仲間達に加護を与える。
更にセフィの手から放射された魔力が、光盾を生む。衝撃を弾くと同時に、魔力が充填される。シルトもまた、傷ついた者の元に赴いては、逐一回復していく。
だが、傷に響くのもいとわず、ワイルドハントが地を強く踏みしめた。セフィをパートナーに選ぶと、一方的な剣舞を押し付ける。
そこへ、ウォーグが滑り込むように割って入った。肩代わりした攻勢は苛烈で、足場がひび割れ、空気さえもたわむ。
回復に赴こうとした岳だったが、仲間が首を左右に振るのを見て、術法を選び直した。
愛杖トポの狙いをワイルドハントに定めると、岳が紫電をほとばしらせた。先ほどのお返しとも言えよう。
紫電が動きを留める間に、態勢を整え直したフラッタリーが走る。既にその剣には華々しき豪火を載せ、吐息のような獄炎を敵へと送る。
熱により歪められたワイルドハントの視界の隅が、刹那、煌めく。その正体は、高速で飛来したウォーグの竜爪だった。敵の剣さえ弾き、爪はその腹部に深々と突き刺さる。
隙の大きな技も、仲間がいる今ならば。幽梨が技のモーションに移る。
髪に空色の花を咲かせたアリスの片翼が、敵の視界を覆ったかと思うと、もう一方の翼が焔風を巻き起こした。数々の傷が刻まれた夢喰いの肉体が、灼き尽くされていく。
ゆえに、幽梨の斬撃を避けるのは、不可能だった。なによりその斬撃は意志を持つように執拗で、ワイルドハントを逃がさない。
「まだ倒れはしない……」
損傷の少ない方の手へと剣を持ち替えるも、ワイルドハントは既に黒羽の術中にあった。
白と黒……もとより前衛芸術のようだった空間の景色が、水墨画を思わせるものへと様相を改める。
ただ、一刀。
黒羽の慈悲無き斬撃を受け、血に似た何かをしぶかせ、ワイルドハントが絶命した。
その亡骸を調べようとした黒羽だったが、間に合わなかった。いや、相手の消滅の方が早かった、というべきだろう。
「大地のゆりかごでどうか安らかに」
せめても、と、祈りを捧げる岳。
敵の消滅を見届けた幽梨は、フラッタリーを振り返る。
「お陰様で助かりましたー、改めて感謝申し上げますー」
その確かな口調に無事を悟ると、ふうっ、と息を吐く幽梨。
それから、負傷者の手当てを終えたセフィや岳が、ドリームイーターに関わりのありそうな物体を探しに動いた。
「何か情報が掴めるといいんですけど……」
アリスが、周囲を改めて見回した。先ほどは救出に急いでいたため、ゆっくりと観察するのは実質、これが初めてとなる。
ワイルドハントの脅威は去ったものの、ここが未知の空間である事に変わりはない。
黒羽が警戒を緩めぬまま、仲間達と探索を続ける。
リコリスが求めるのは、ワイルドスペース発現の元となる場所。
しかし、あるのは様々な構造物をこねくり回したような、奇妙なオブジェばかり。
「これは、私達には感知できない力が働いていると考えるべきでしょうか……」
フラッタリーと交戦していたワイルドハントには、何かを隠蔽する余裕などなかったようにも思われる。だとすれば……。
謎を抱えたまま、ケルベロス達は村を後にする。だがいずれ、真相へとたどり着く時が来るはずだ。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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