ひとかげとかげ

作者:地斬理々亜

●彼女は語る
「ねぇ」
 唐突な、背後からの声。
 廊下を歩きながら雑談していた男子中学生達は、驚いて振り返った。
「あなた達、怪談話は好きかしら?」
 そこには、黒いフードを被った、オカルティックな雰囲気の少女が一人。
「あ……ああ」
 たじろいだ男子中学生達は、思わず頷く。
「じゃあ、いいこと教えてあげる」
 少女は語り出した。

「深夜の校庭でね、人影が、四つん這いの体勢で走り回っているの。遠くから見れば、トカゲのように見えるシルエットよ」
「トカゲみたいな人影?」
「ダジャレじゃあるまいし……」
 ここまでは、さほど怖がられない、というのは、少女にとって想定内だったようだ。彼女は暗い笑みを浮かべ、続ける。
「けれどね、近づいてよく目を凝らしたなら、二つのことに気づくはずよ。――まず、一つ目。走り回る、その四つん這いの人影の首は、180度ねじれて、上を向いているということ」
「えっ……」
「二つ目。尾のように見えていたものは、本当は尾なんかじゃないってこと。……なんだと思う?」
「い、いや……わからねぇ……」
 怯える男子中学生達に、少女は不気味に微笑んで、告げた。
「人の背骨よ。血管や神経が絡み付いたままの、長い背骨を口にくわえて、首がねじれたその人影は、四つん這いで走り回っているの――」

 男子中学生達は、ぎこちない動きで顔を見合わせる。
「……おい、それって、本当の話なのか?」
 少女の方に視線を戻せば、すでにその姿は消えていた。
「……」
 しばしの、沈黙の後。
「確かめてみたいやつ、挙手」
 彼らの一人が、言った。
 挙がる手が一つ。それにつられて、また一つ……。

●ヘリオライダーは語る
「ルビークさんのおかげで見つけられました。ドラグナー『ホラーメイカー』による事件が起きようとしています」
 白日・牡丹(自己肯定のヘリオライダー・en0151)の言葉を聞いて、ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)の銀色の瞳が鋭さを増した。
「本当ですか、牡丹さん」
「はい。ホラーメイカーが語ったのは、『人影にまつわる怪談』です」
 まず、作成した屍隷兵を学校に潜伏させて、その屍隷兵を元にした怪談を中高生に話し、興味を持った中高生が自ら屍隷兵の居所にやって来るように仕向ける、そんなトラップだ。
「すでに行方不明になった方もいます……どうか、早急な解決をお願いします」
 それから牡丹は、『深夜の校庭に現れるトカゲのような人影』の怪談話について、ケルベロス達に伝えた。
「この怪談話を探索しようとすると、屍隷兵に襲われてしまうようです。怪談話を聞いた一般人が現場に現れないよう対策を行いつつ、学校に潜伏する屍隷兵の撃破を。どうか、お願いします」
 屍隷兵が姿を現すのは、ある中学校の校庭だ。出現する時間帯は深夜のみで、朝から夕方にかけてはどこかに潜んでいると思われるが、潜伏場所については、特に手がかりがない。
「深夜に校庭に向かえば、確実に敵を発見できると思います。敵の数は3体で、ポジションはキャスターです。戦闘能力としては、口にくわえた背骨で薙ぎ払ってくる攻撃と、背骨を振って液体をかけてくる攻撃、それと肉体を再生するヒールの3種類があります」
 最後に牡丹は、こう締めくくった。
「どうか、この屍隷兵の早急な撃破を、お願いします」
「ええ。これは、解決せねばならない――許してはおけないものです」
 ルビークは、低い声音で明確に言い切った。


参加者
ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ベア・ベア(ハントユー・e38076)

■リプレイ

●用意
「これで良し、ってとこか」
 長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)は、中学校の裏門にキープアウトテープを貼り終えて、額にうっすら浮いた汗を拳で拭った。
「お疲れ様なの」
 ベア・ベア(ハントユー・e38076)が智十瀬にタオルと飲み物を渡す。
「お、助かるぜ」
 智十瀬はベアに礼を言い、それを受け取った。
「キープアウトテープは終わったか」
「みてぇだな」
 周囲を警戒していた、リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)と、デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)が、緊張を解く。
「これで、裏門は安心、ね。正門は、閉まってたから、他に出入りできるところは、ないはず、よ」
 手元の地図を灯りで照らしてチェックしながら、アウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)が言う。
 複数の足音が近づいてきたのは、その時。
「!」
 一同はとっさに身構える。
「そんな顔するなって。俺達だぜ」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)の声がした。足音の主は、敷地内の見回りに行っていた、アバンと、ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)、それに、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)であった。
「ワタシ達が確認しタ限りでハ、一般人はいなかっタ」
「そちらも、どうやら問題はなかったようだな。……よし、皆、校庭に向かうとしよう」
 眸が告げ、ルビークが促す。ケルベロス達は、移動を開始した。
「しかし、怪談話でおびき寄せる……ねぇ。考えたもんだ。罠を仕掛けて興味を煽るたァなかなかやるじゃねーか。……悪趣味にもほどがあるぜ」
 ホラーメイカーのやり口に、デフェールが悪態をつく。
「好奇心は猫を殺すってやつ?」
 灰色の猫尻尾を揺らして言ったのは智十瀬。ルビークの後ろをついて行く形で、ぴょこぴょこと歩きながら。
「俺は死なないけどな」
 そんな冗談を智十瀬は口にする。
「好奇心、それに恐怖を利用した、怪談話……正直、興味はある。とはいえ――」
 ルビークは呟く。『相手はデウスエクスだ』と。
「放ってはおけないな」
 ゆら、と闇に揺れるのは、橙の炎。ルビークの意志に呼応するかのように揺らめく、地獄化した左腕だ。
「今回、ルビークのおかげで見つけることができたんだよなァ。もしそれがなかったらどーなってたか、考えたくねぇなァ」
 デフェールが、自分の赤髪を手でくしゃりと乱して言う。
「出来る限りのことをやらねばね」
 珍しくそわそわ気味のベアは、傍らのテレビウムに語りかける。まだ名もなき相棒は、顔の液晶画面に、にっこり笑顔の動画を流した。
 こうして校庭に到着し、待つことしばし。
「そろそろ来そうだな」
 校舎時計に目をやり、ルビークが口にする。針が指し示す現在時刻は、深夜と呼んでいい時間帯に差し掛かっていた。
「ま、どんな奴が来ようと、オレの地獄の炎で焼き切ってやるんだがな」
 デフェールが口の端を吊り上げ言い切った。彼の右の目からは炎が上がる。
 その直後。
「上だ!」
 アバンが叫んだ。真っ先に気づいたのは、暗闇を見通す夜目を持つ彼だった。
 校舎の屋上から、四足歩行の人影が3つ、校庭へ飛び降りて来たのだ。
「……!」
 お化けが苦手な智十瀬は、恐れを押し殺す。仲間に格好悪いところを見せるまいと。
「グ……ギギィ……」
 着地した人影3つを灯りで照らせば、その姿が明らかになる。首がねじれて上下が逆の顔と、黄色く濁った眼球、それに、口にくわえられた人の背骨。彼らは――屍隷兵達は、うめくような声を漏らしながらケルベロス達を見つめる。
「話に聞いたが……これは」
 ルビークが息を呑む。
 屍隷兵達のその姿は、悪趣味で、不気味で……けれど、痛ましさや哀れみといった感情を刺激された者もいた。
「望んでその姿になったわけではないだろう」
「元の姿には戻してあげられないけど、せめて――」
 リューデが屍隷兵達を鋭く睨み言い、アウレリアが愛刀『花月姫』を抜き放つ。
 弄ばれた命に安息を与え、これ以上の犠牲を出さないようにするべく。

●交戦
 暗闇を裂くように、流れ星のような煌めきが3つ、屍隷兵の1体に向かって流れ落ちた。ルビークとリューデ、アウレリアによる、重力を宿す飛び蹴り、スターゲイザーである。
「ったく、トンだ連中だぜ!」
 デフェールが弾丸をばら撒き、制圧射撃を行う。ジャマーからのその行動は、素早い敵の動きを制限するのに大きく寄与するものである。
「本当に……嫌な敵だぜ」
 呟いたのはアバン。過去の記憶を思い起こし、沈んだ気持ちになりながらも、彼はオウガ粒子を装甲から放出して、前衛の仲間の超感覚を目覚めさせ、支援する。
「フィールド生成……これより命中率ノ向上に貢献すル」
 『Judgement/White-field(ジャッジメント・ホワイト・フィールド)』。眸は己の周りに光の回路を展開し、前衛に位置する仲間達の集中力をさらに高めた。
 眸のビハインド『キリノ』は、帽子を深く被ると、ポルターガイストを発動。校庭に置き忘れられたサッカーボールを浮かせ、屍隷兵に勢いよくぶつけた。
「――!」
 智十瀬が吠える。魔力を籠めた咆哮が、敵の動作を鈍らせた。
 集中攻撃を受けた屍隷兵の1体は、異音を上げながら肉体を再生させていく。
 2体目は、まるで硬い鞭のように、背骨を水平に振るい、前衛のケルベロス達を薙ぎ払う。しかし、前衛は全員がディフェンダーであり、加えて、防具が、斬撃に対し耐性を持つもので揃えられている。よって、被害はごく小さく抑えられた。
 3体目は、アウレリアに向かって髄液を飛ばす。だが、それは、眸が割り込み庇い、その身で受け止めた。
「ありがとう」
 眼前の、がっしりした眸の背中に向けて、そっとアウレリアは声を掛ける。
「礼には及ばなイ、アウレリア」
 振り向かず眸は応じた。
「んん、とってもすばしっこくて嫌になっちゃうわ」
 ベアは敵の動きを見ながら困ったように言い、縛霊手から紙兵を散布して前衛の護りにつかせる。彼女のテレビウムが地面を蹴って跳び、凶器による一撃を敵に与えた。
「此処がお前の終着だ」
 ルビークは精神を極限まで集中させる。サイコフォース――重い爆発音が鳴るのと同時に、弱りつつあった屍隷兵の肢体が、ばらばらに飛び散った。

●攻防
 デフェールが、淡い桜色をした巨大な扇のような炎を手に持ち、振るう。
「この桜焔から逃げてみせろ……! 逃がすつもりはねェがな!」
 『春風:桜(ブリズ・プランタニエール)』。花びらのような焔が舞い散り、襲い掛かり、残り2体になった屍隷兵の傷口を執拗に抉っていった。
 次なるアバンの一撃から逃れた敵の体を、リューデの轟竜砲が狙い撃つ。
 眸が再び白銀のフィールドを展開し支援に努める横を、アウレリアが駆け抜けた。古い銀十字のネックレスが彼女の胸元で揺れる。
(「……ねじれてしまったのは、たぶん……身体だけじゃ、ないの」)
 夜明け色の瞳に屍隷兵の姿を映して、アウレリアは、グラビティ『夕花(ウェスペル)』を発動する。
「――夢も視ずに、眠って」
 茜色に染まった花びらが、視界を覆い尽くしながら一斉に散った。花弁は、舞って、打ち砕く。屍隷兵に、眠りを――そんなアウレリアの願いを叶えんとするかのように、花が降る。
 続いて、素早い動きで敵の眼前に躍り出たのは、智十瀬だ。鞘に入ったままの斬霊刀に手をかける。
「こいつは簡単には避けられねぇぜ?」
 『抜刀術「白蛟」』。白刃の斬撃が蛇へと変じ、牙で屍隷兵の体に食らいついた。
「ギギ……」
 屍隷兵は肉体を再生する。
 直後、もう1体の屍隷兵が、くわえた背骨を思い切り振るって、智十瀬の体に液体をかけた。
「ぐ……っ」
 負傷もよしと受け止める、好戦的な彼だが、毒が染み込む苦痛に表情が歪む。
「あの優しい朝を、アナタに――」
 ベアの声と共に、温かな香りが智十瀬の鼻腔をくすぐった。それは幸福な一日を予感させる、ある爽やかな朝の記憶……その疑似体験。ベアのヒールグラビティ、『Chapter 1(アルヒ)』である。
 さらに、ベアと同様メディックに布陣したテレビウムが応援動画を流す。これらにより、智十瀬の受けた毒は消え、態勢は立て直された。
(「頼もしい」)
 ルビークは仲間達それぞれに、信頼を宿した瞳を向ける。知っている顔も、初めての顔も……だから、この背を預けられる、と。

●結末
 ルビークは、再び流星の煌めきを宿す蹴りを繰り出す。堅実なその攻撃は、素早さという敵の強みを削ぐことに、確実に役立っていた。
 無論、ルビークだけではない。クラッシャーではなくスナイパーをメインアタッカーとし、足止めを主体とした攻撃で弱らせていくというケルベロス全体の作戦が、見事に機能している。
 キャスターという敵のポジションへの対策としては、万全といって良かっただろう。
 窮地に陥るようなこともなく、順調に戦いを継続できているのは、丹念に練られた作戦の賜物であった。
「この調子で行こうぜ」
 デフェールは仲間に声をかけてから、眼光鋭く敵を見据える。
「……燃えろォ!」
 緑色の竜の翼を展開し、彼は炎の吐息を屍隷兵に吐き掛けた。
 火に巻かれる敵に向かって、アバンが、空の霊力を宿した武器を振るう。敵の傷口を斬り広げ、彼は振り向いた。
「リューデさん、とどめ頼むぜ」
「ああ」
 モノトーンの翼を広げて、赤いマフラーをなびかせ、リューデは前方へ駆ける。
 鼓動を乱すことのない、地獄化した彼の心臓が、極限の集中状態をもたらす。そこからリューデは、研ぎ澄まされた斬撃を放った――『静寂の獄』。屍隷兵の首が斬り落とされ、転がった。
「残り1体ダ」
 眸が言い、自分の胸部を変形展開させる。現れた発射口から放たれた光線が、屍隷兵を撃ち抜いた。キリノがポルターガイストで追い打ちをかける。
「あと、少し、だから、ね」
 アウレリアは屍隷兵へと囁きかける。言葉は穏やかに、温かく……されど、放つ一撃は凍結をもたらす。
「グゥ、ア」
 氷に苛まれた屍隷兵が、苦しげな声を上げ、上下逆さまの顔をぐらりと揺らす。
 濁ったその眼が、ベアを見た。
「ア――」
 助けて。
 そう言っているようにも、見えた。
 だが、ベアは。
「……ごめんなさいね」
 静かにそう言うのみ。
 ベアの、その言葉の直後だった。猫の身のこなしでもって飛び出した智十瀬が、獣化した拳で、屍隷兵の頭部を完全に叩き潰したのは。

●暗中
 こうして、屍隷兵は残さず倒された。ケルベロス側の負傷も軽微である。
「流石だな」
 仲間達の様子を見渡して、ふっ、と、リューデがわずかに笑みを浮かべた。
 皆と共に歩めること、それを誇りに思いながら。
「無事に終わったのは、皆のおかげよ。本当にありがとう」
 初めての依頼をこなしたベアは、フォローしてくれた仲間への感謝を言葉に乗せる。
「いいってことさァ。さーてと、後片付けしねーとな」
 デフェールは屍隷兵の亡骸に視線を移し、腕をまくった。
(「おやすみ、ね」)
 アウレリアは視線を落とし、彼らの眠りが安らかであるよう祈る。隣では、アバンも同じように屍隷兵達の冥福を祈っていた。
 それを見て、智十瀬は言おうとしていた言葉を呑み込んだ。
「……あとは、その辺のヒールか」
 智十瀬は、そっとアバン達の元から離れる。
「すでに行方不明になっタ者がいると、白日が言っていタ」
 眸が呟いた。
「……探してくル」
 たとえ亡骸になっていたとしても、見つけて家族の元へ返したいと、そう考えて。彼は校舎の方へ歩を進めた。
 ルビークは思う。心強い皆の活躍で、被害の拡大を食い止めることができた。だが、元凶たるホラーメイカーは未だ健在なのだ。
「まだ続きそうだな」
 呟いた彼の目には、先の見えない暗闇が映っていた。

作者:地斬理々亜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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