ミッション破壊作戦～スピードと抹殺

■リプレイ

●ＬＯＣＫ ＯＮ！
　埼玉県さいたま市大宮区某所にある複合施設。
　その一角――コンサートホールのある棟に向かって、落下していくものがある。
　八つの小さな光点だ。
　見えざるなにかに接触した瞬間、それらは大きな光球に変じ、轟音とともに爆発した。
　数秒後、鳴動する大地に八人のケルベロスが降り立った。先程の光点の正体は、彼らの手にあるグラディウス。力を放出したため、今は光を失っているが。
「……壊せなかったわねぇ」
　立ち込める爆煙に半ば隠された複合施設に目をやり、狐の獣人型ウェアライダーのユーシス・ボールドウィン（夜霧の竜語魔導士・e32288）が呟いた。
　そう、この地の強襲型魔空回廊は健在だった。『見えざるなにか』はあいかわらず見えないままだが、それが発している圧迫感は消えていない。
「でも、ダメージを与えることはできたはずだよね」
　仲間たちからグラディウスを回収して『アイテムポケット』に収めながら、オラトリオの一比古・アヤメ（信じる者の幸福・e36948）が言った。普段は『エイティーン』で外見年齢を変えることが多いのだが、今日は『アイテムポケット』を優先したので、十二歳の姿のままだ。
　ドラゴニアンの黒住・舞彩（鶏竜拳士・e04871）も防具特徴の使用を試みていた。特製の降魔革鎧に備えられた『隠密気流』。この後に控えているであろう戦闘で不意打ちをかけるため……なのだが、平時と言い難いこの状況で『隠密気流』の効果はなかった。
「さあ、行きましょうか」
　さして気落ちすることもなく（もとより期待はしていなかったのだ）、舞彩は仲間たちを促した。
　そして、チームの黒一点であるところのラズェ・ストラング（青の迫撃・e25336）の肩を叩き、付け加えた。
「無事に帰れたら、皆で餡蜜を食べましょう。ラズェの驕りでね」
　それを聞いたラズェは抗議の声をあげようとしたが――、
「やってくれたわね、ケルベロス！」
　――爆煙の奥から現れた者が先に声を発した。
　肋骨が露出した死神の少女。
　ブラックパールだ。
　餡蜜の件をとりあえず脇にやり、ラズェはニヤリと笑った。
「さぁて、こっからは懲らしめタイムだぁな」

●ＲＯＣＫ ＹＯＵ！
　オラトリオの神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）がブラックパール（以下、ＢＰ）を睨みつけた。
「コンサートホールを根城にするなんて……暗躍が常の死神にしては、随分と目立ちたがりなんですね」
「そうやって生意気な口をきいていられるのも今のうちよ」
　と、ＢＰがせせら笑った。
「あんたらはここでくたばって、あたしの親衛隊になる運命なんだからね。昨日の敵は今日のファンってやつぅ？」
「死によって隷属させただけのファンに価値があるとでも？　ふざけないでください！」
　鈴の怒声に呼応するかのように、オウガメタルの『天牙』が光の粒子群を放出した。
　それらを浴びた前衛の一人――ラズェが走り出す。
　今日、彼が鈴の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

　数分前、ケルベロスたちはグラディウスを握りしめ、回廊に向かって降下していた。
「音楽というものは素敵なもののはず」
　鈴の独白が空中を流れ、横を舞うラズェの耳に届く。
「でも、自分たちの理屈だけで他者の幸せを踏みにじる――そんな存在が奏でる音楽は素敵でもなんでもありません」
　そして、それは叫びに変わった。
「この戦いで死んでしまったら、サルベージされた挙句に親衛隊にされちゃうと聞きましたけど……それこそ死んでも願い下げです！　私たちは貴方の奴隷じゃない！　地球から出て行け、死神ぃぃぃ！」

　記憶に刻まれた鈴の叫びを不可視の翼に変えて、ラズェは跳躍した。
　落下と同時に放たれた技はスターゲイザー。『九十八式機動戦闘靴』の踵に仕込まれた刃がＢＰの華奢な体を抉る。
　少し遅れて、舞彩も宙を飛んでいた。同じくスターゲイザーを打ち込むために。
「懲らしめタイムの一番槍と来たもんだぁ！」
　眼下でラズェが声をあげた。
　今日、舞彩が彼の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……出て行け、死神ぃぃぃ！」
　鈴が発した魂の叫びの残響に混じって、ラズェの独白が舞彩の耳に届く。
「デウスエクスの襲撃で傷ついた皆々様にとって、コンサート会場っつーのは数少ない慰安の場所なんだ。放っとけねえよな。そういう場所を我が物顔で占拠してる輩はよぉ」
　そして、それは叫びに変わった。
「『ライブのチケット代は命』とかほざいてやがるが、まずは公演するテメーの命で実践してみやがれ！」

　記憶に刻まれたラズェの叫びを重力に添えて、舞彩は降下した。
　素早く離脱したラズェの残像ごとＢＰを脚で刺し貫く。足先の凶器は『レッグギロチン』。ラズェのそれと同様、踵に刃が仕込まれている。
「チケット代がお客の命なら、会場利用料は貴方の命かしらね！」
　挑発的な言葉をぶつける舞彩に続いて、シャドウエルフのズミネ・ヴィヴィ（ケルベロスブレイド・e02294）が動いた。
　今日、彼女が舞彩の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……テメーの命で実践してみやがれ！」
　ラズェが発した魂の叫びの残響に混じって、舞彩の独白がズミネの耳に届く。
「ここが解放されて、アイドルのケルベロスたちのライブが開催されたりしたら、それはとても楽しく、誇らしいことだと思わない？」
　そして、それは叫びに変わった。
「そんな本物のライブとは似ても似つかぬ『ライブ』と称した虐殺の企ても今日で終わりよ！」

　記憶に刻まれた舞彩の叫びを闘志に託し、ズミネは『傲慢の罪（ルシファー・シン）』を発動させた。敵の体感時間を狂わせるグラビティだ。
　それによって生じた一瞬の隙をつき、一撃を叩き込む。
　間髪を容れず、シャーマンズゴーストのルキノがＢＰに神霊撃を食らわせた。
　そして、ルキノの主である人派ドラゴニアンの巡命・癒乃（白皙の癒竜・e33829）が大きく息を吸い込んだ。『調停の声威（アームズリベリオン）』を聞かせるために。
　その声が戦場に流れるよりも早く、ズミノがＢＰに吠えた。
「私たちは負けない！」
　今日、癒乃が彼女の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……今日で終わりよ！」
　舞彩が発した魂の叫びの残響に混じって、ズミネの独白が癒乃の耳に届く。
「私はこの一撃に賭ける」
　そして、それは叫びに変わった。
「心が挫けない限り負けてない！　だから！」

　記憶に刻まれたズミネの叫びを声に込めて、癒乃は『調停の声威』を響かせた。
「竜の喉、御使いの光輪。いま再び、調停の時をはじめましょう！」
　調停者の威光を有した咆哮がＢＰを打ち据える。
　その力ある声に伴奏を加えるかのようにユーシスが風を切る音を生み出した。ケルベロスチェインを振り回して。
　今日、彼女が癒乃の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……だから！」
　ズミネが発した魂の叫びの残響に混じって、癒乃の独白がユーシスの耳に届く。
「音楽堂は、人々が心の安らぎと明日を生きる活力を得る場所。死を喰らう者たちがいて良い場所ではない」
　そして、それは叫びに変わった。
「死を享楽とする死神よ！　奏でるならば、死にゆく汝らに送る葬送曲が相応しい！」

　記憶に刻まれた癒乃の叫びを体現するかのごとく、ユーシスはケルベロスチェインを更に大きな音で唸らせた。
　もちろん、唸るだけでは終わらない。それはＢＰの足に絡みついた。猟犬縛鎖だ。
　瞬時に鎖を解いて飛び退ったＢＰであったが、ボクスドランのリュガがすかさずボクスブレスで追撃した。
　そのブレスの軌跡に沿うようにして走り出した者がいる。
　佐竹・勇華（は駆け出し勇者・e00771）だ。
「ナイスアシスト！」
　と、後方から流れてきたのは、リュガをねぎらうユーシスの声。
　今日、勇華が彼女の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……葬送曲が相応しい！」
　癒乃が発した魂の叫びの残響に混じって、ユーシスの独白が勇華の耳に届く。
「やれやれ。恋する乙女みたいな魂を震わす叫びをこのおばちゃんに期待するの？」
　そして、それは叫びに変わった。
「人々を死で支配せんとする偽りの歌姫から、今こそ、この地を取り戻す時！　命を弄ぶ死神を地獄へ追い落とさん！　進め、猟犬！」

　記憶に刻まれたユーシスの叫びに背中を押されるようにして、勇華はＢＰに肉薄した。
「えーい！」
　大音声で繰り出した一撃は破鎧衝。桜色のバトルガントレットに包まれた掌底がＢＰに命中し、ステージ衣装の破片が舞い散った。
「チョーシに乗ってんじゃないわよ！」
　ＢＰは負けじと怒鳴り返し、斧に似たギターを勇華めがけて振り下ろした。
　だが、その攻撃を受けたのは癒乃。両者の間に素早く割り込み、盾となったのだ。
「ありがと、癒乃ちゃん！」
　小さな体に大きなダメージを受けながらも（防具の耐性で半減していたが）呻き一つ発することのない癒乃に勇華がまたもや大声で礼を述べた。
　その少し後方ではアヤメがドラゴニックハンマーを砲撃形態に変えていた。
　今日、彼女が勇華の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……進め、猟犬！」
　ユーシスが発した魂の叫びの残響に混じって、勇華の独白がアヤメの耳に届く。
「この大宮の地には沢山の人が住んでるし、名所旧跡なんかを見に来る人たちも多い。デウスエクスからしたら、グラビティチェインを集めるのに絶好の場所だよね。でも、だからこそ――」
　そして、それは叫びに変わった。
「――ここの人たちも、なにもかも、おまえたちの好きにはさせない！　必ず取り返してやる！」

　記憶に刻まれた勇華の叫びを指先に宿して、アヤメは轟竜砲のトリガーを引いた。
　砲声が轟き、ＢＰの姿が爆煙に包まれる。
「大地に眠る祖霊の魂……今、ここに……」
　鈴が『天狼の眼光（シリウス・ヴィジョン）』の詠唱を始めた。
　その間に爆煙が晴れ、傷だらけのＢＰが皆の前にまた姿を現し、なにか言いかけたが――、
「チョーシに乗ってるのはそっちだよ！　音楽を冒涜するな！」
　――それより早く、アヤメが怒声をぶつけた。
　今日、鈴が彼女の叫びを聞くのはこれで二度目だ。

「……必ず取り返してやる！」
　勇華が発した魂の叫びの残響に混じって、アヤメの独白が鈴の耳に届く。
「こんな世の中だからこそ、人々の命だけじゃなくて、笑顔を守るために使うべきなんだよ。音楽っていうのは」
　そして、それは叫びに変わった。
「その音楽を汚すような奴には反吐が出る！　ケルベロスとして！　忍びとして！　なによりも歌を愛する者として！　くだらないライブもどきは私たちの手で仕舞いにしてくれる！」

　記憶に刻まれたアヤメの叫びを自分の想いと同化して、鈴は詠唱を終えた。
「千里を見通す大神の目を！」
　それに応じて狼型のエネルギー体が出現し、癒乃に憑依した。
　癒乃の傷がたちまちのうちに癒され……ただけでは終わらず、顔の両側面から狼の耳が生えてきた。
『天狼の眼光』の副作用だ。

●ＫＮＯＣＫ ＯＵＴ！
　強大な攻撃力でケルベロスを攻め立てたＢＰであったが（彼女はクラシャーのポジション効果を得ていた）、自身もまた猛攻に晒された。普段と違い、盾となってくれる親衛隊の深海魚たちがいないからだ。何度かヒールのグラビティも使ったが、ダメージを受けるスピードに追いつけるものでもない。
　一方、ケルベロス側は鈴とズミネがこまめに仲間たちをヒールしていた。
　それにユーシスも――、
「覇軍呑狼陣！」
　――九尾扇を掲げ、前衛陣に対して百戦百識陣を用いた。目的は傷を癒すことではなく、破剣の力を付与することだが。
『特別製の杖』なるライトニングロッドからエレキブーストを飛ばしながら、ズミネがユーシスに訊いた。
「陣形の名を叫ぶ必要ってあるの？」
「気分の問題よ。正直、おばちゃんもちょっと恥ずかしいんだけど、テンション上げていくのって大事でしょ」
　苦笑交じりに答えるユーシスの視線の先で癒乃がエレッキブーストを受けた。
「少女の体を取って、こちらの気をそぐつもりだったのかもしれませんが――」
　狼耳を生やした癒乃はＢＰに突進し、惨殺ナイフで斬りつけた。
「――相手が悪かったですね」
　幾度かヒールのグラビティを使うことでＢＰは破剣の力を得ていたが、ユーシスにもたらされた破剣の力がそれを奪い去った。逆に与えたものもある。複数の状態異常だ。癒乃が浴びせた斬撃はジグザグスラッシュだったのだから。
「このぉー！」
　苛立ちを声と力に込めて、ＢＰは斧を振り下ろした。標的は癒乃ではない。ジャマーのポジション効果で最も多くの異常耐性を発生させた舞彩だ。
　しかし、ラズェが身を挺して庇い――、
「うぉっ！？」
　――苦鳴を発して倒れかけたが、なんとか持ち堪えた。
「おい、黒住ィ！　これ、ちょっと厳しいぞ！　カレシには悪いけど、ホッペにチューでもされん限り割に合わん！」
「合わないわけないでしょ。私のキスはそんなに安くないのよ。なんてね」
　軽口で応じつつ、腕を突き出す舞彩。篭手と一体化したバスターライフルの銃口が袖から覗き、フロストビームが発射された。
「うぉっ！？」
　と、今度はＢＰのほうが体勢を崩した。
　そこに勇華が踏み込んだ。彼女も戦闘中に鈴の『天狼の眼光』を受けたため、耳が狼のそれに変わっている。しかも、尻尾まで生えていた。
「そうそう、安くないよねー。だいたい、餡蜜一千杯くらい？」
　舞彩のキスを帰還後のお楽しみに換算しながら、勇華は『桜花弐式・春一番（オウカニシキ・ハルイチバン』を決めた。バトルガントレットの拳を何度も叩きつける荒技だ。
「なんか、俺が餡蜜を奢るとかいう話が確定事項になってないか？」
　ぼやきながらも、ラズェも攻撃に加わった。仕掛けた技は『重粒子相転移・零式（ジュウリュウシソウテンイ・ゼロシキ）』。
「胸の大きさで女の子を差別するなんて野暮なことはしたくないけどよぉ。肋骨剥き出しっていうのはさすがにねーわ」
　彼の掌底がＢＰの胸部の骨に触れた瞬間、光が炸裂し、爆音が轟いた。
「――！？」
　声もなく倒れるＢＰ。
　立ち上がる隙は与えられなかった。
「終わりだ！　花と散れぇーっ！」
　アヤメが咆哮とともにドラゴニックハンマーを振り下ろした。
　今日、皆が彼女の叫びを聞くのはこれで三度目だ。
　渾身のドラゴニックスマッシュを受け、ＢＰは陶器のように砕け散った。
　それを見届けた後、アヤメは仲間たちを振り返った。その顔に浮かぶのは年相応の無邪気な笑み。
「じゃあ、帰ろっか。餡蜜、よろしくね！」
「餡蜜、餡蜜ぅ！」
　嬉しそうに尻尾（まだ生えたままだった）を揺らす勇華の横で、鈴がラズェに深々と頭をさげた。
「ありがとうございます」
　やはり、確定事項らしい。

作者：土師三良	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。